答申に盛り込まれていない主な意見

今回の答申の審議過程において、以下のような主な意見が出た。

はじめに

イ 財政の持続可能性という観点では、潜在的国民負担率を50%程度に抑えることを目指すといった記述が必要なのではないか。

ロ 国及び地方の財政の現状は厳しく、現在の財政を立て直すには、税負担増、歳出削減、経済活性化による増収のいずれかしかないが、一番重要なのは経済の活性化である。

ハ 人口減少に伴い、今後とも大幅に地価が下落することが大問題。このような意味で、わが国は非常に重大な転換期を迎えている。

ニ 今後の負担増について国民の理解を得るには、国民が現に不安を抱いている高齢者ケア・子育て・住宅・社会人教育などの国民生活の基盤となるサービスは充実していくというメッセージを示す必要がある。

少子・高齢化と税制

(総論)

イ 全体として高齢者に関する税制のイメージが強く、むしろ税制による少子化への対応について強調すべきではないか。

ロ 世代間の公平の確保は重要だが、高齢者を狙い撃ちにすべきでない。

ハ 社会で支える高齢者の範囲を特定の年齢で一律に決めるのではなく、全人口の一定の比率を基準として決めることも考えられるのではないか。

ニ 国民は将来の負担増や社会保障制度の後退に不安を抱いているとしながら、社会保障給付の削減や税負担増が必要だといった財政の論理で説明することには矛盾があるのではないか。

ホ 高齢社会における税制は社会保障制度と一体で考える必要があり、これまで以上に税制と社会保障の関係を関連づけて考えるべきではないか。

ヘ 基礎年金の国庫負担割合2分の1への引上げは、財源を国債の発行により補填する可能性も考えれば、単に社会保険料負担が税負担に置き換わる以上に問題が大きい。

ト 年金が社会保険である以上、社会保険料により賄われるのが原則であり、その財源を国民全体の負担となる税に求めることは問題である。

(個人所得課税)

イ 給与所得者に対し、実額で必要経費を控除することと年末調整を行うこととの選択制度を導入すべきである。

ロ 現行の個人所得課税は、資産性所得が低率の分離課税であるため、高所得者優遇となっていることから、今後、総合課税を徹底するとともに、所得再分配機能とスタビライザー機能を発揮する観点からも、累進税率構造をより厳しくすべきである。

ハ 年金課税の見直しに当たっては、年金生活者の家計の実態を見極める必要があるとともに、年金制度改革自体の行方が現時点では不透明であることから、慎重に対応を行うべきである。

ニ 年金について、給付のレベルを下げるのか、課税の強化を行うのかは、国民負担率の水準や、政府の大きさにかかわる問題である。

ホ 少子・高齢社会における負担と給付のあり方として、所得控除等の廃止を検討する場合には、控除と給付のどちらで見直しを行うことが適当かといった点を検討すべきではないか。

ヘ 高齢者に対して応分の負担を求める場合には、その負担の中身の議論と併せて、その財源をどのように使うのかといった方向性や考え方についても併せて議論すべきではないか。

ト 課税ベースの拡大に当たっては、資産性所得に対しても広く課税すべきではないか。

チ 年金課税の見直しに当たっては、急激な負担の変化が生じないよう、具体的な設計に際しては激変緩和措置の導入も検討すべきである。

リ 給与所得者と事業所得者との間の所得捕捉率に関する不公平感が解消されないのであれば、給与所得控除の見直しは慎重に対処すべきである。

ヌ 個人住民税所得割の諸控除や非課税所得の縮減について、具体的に書くべきではないか。

ル 失業等給付に対する課税上の取扱いについては、給付の内容・性格が各々の手当の間で異なっていることや、これまで非課税の取扱いが続いてきたことなどから、慎重に対応すべきである。受給者が徒に不安を抱くことのなるような措置には反対である。

(消費税)

イ 二桁税率となった場合でも、制度の簡素化の観点から単一税率を維持すべき。所得に対する逆進性の緩和としては、軽減税率の採用ではなく、給付という方法も考えられるのではないか。

ロ 将来の消費税率の引上げに際しては、二桁税率となる場合でなくとも、軽減税率を検討すべきではないか。

ハ しばしば所得に対する逆進性の問題が指摘されるが、消費税は消費を租税負担能力の尺度とし、消費に比例的に負担を求める基幹税として位置付けられるのではないか。

ニ 最近、消費税率引上げに関する様々な提言が出されてきていることを見ても、国民の消費税に対する認識は変わってきているのではないか。

ホ 消費税は基幹税として重要であり、諸外国にも付加価値税を目的税としている例はないことから、消費税を「福祉目的税」とすることは適当ではない。

ヘ 将来のことであっても、消費税率の水準を二桁とすることには賛同しかねる。

ト 将来の消費税率引上げに際し、「年金目的税」とすべきである。

(法人課税)

イ 今後とも法人税を基幹税と位置づけるのであれば、利益課税では限界があり、赤字法人に負担を求める方策も検討すべきではないか。

ロ わが国の法人の税負担の諸外国との比較について、法定税率のみを用いるのではなく、業種別の実質税負担などもう一度検証する必要があるのではないか。

ハ 多様な形態による事業・投資活動に対する適正な課税のあり方については、タックス・プランニング等によって法人税が形骸化することも十分に認識した上で検討すべきではないか。

ニ 法人税率の検討にあたって踏まえるべき税率のバランスというのは、比較対象を先進国に限ってよいのか。アジアとの関係は無視できないのではないか。

ホ わが国の法人税率は既に欧米並みの水準であり、財政状況からみても、これ以上の税率引下げを検討する必要はない。

(相続税・贈与税)

イ 高齢者の資産の保有状況については、多面的な見方をしないと生活の実態が見えてこない点に留意が必要。

ロ 相続税の資産再分配機能の重要性に鑑みると、最高税率を引き下げることは適当ではない。

ハ 相続税はあまり勤労意欲に影響を与えないので、相続税減税が活性化に資するという考え方には違和感がある。

(個別間接税)

イ 新しい産業を育ててそれに課税するという発想も大事であり、こうした観点からカジノに対する課税も考えられるのではないか。

地方分権と税制

イ 三位一体改革に止まることなく、歳入と歳出のギャップをどう埋めるかという観点から、国税と地方税それぞれの充実確保を優先して議論すべきではないか。

ロ 歳入と歳出のギャップの解消の問題と構造的な税源配分の問題は、次元の異なる別の問題ではないか。

ハ 三位一体改革の目的は、歳出・行政改革にあり、先ずは国庫補助負担金の改革を優先することが望ましいのではないか。

ニ 交付税の財源保障機能については、モラルハザードを生み、受益と負担の乖離をもたらしていることから廃止すべきではないか。

ホ 現行の枠組みにおいて、課税自主権の活用による地方税源の充実に限界があるのならば、地方税における法定税目のあり方を検討すればよいのではないか。

ヘ 国と地方の歳出純計に占める地方の歳出の割合(63%)と租税総額に占める地方税の割合(42%)を取り上げるのであれば、交付税を考慮したり、税目別の税収比に言及したりしないと意味がないのではないか。

ト 三位一体の改革、税源移譲、地方税のあり方について、もっと議論をする機会を持つべきではないか。

その他

(金融・証券税制)

イ 配当課税については、トータルな税負担だけでなく、当期課税か受取時課税かという課税のタイミングも考慮に入れるべきではないか。

ロ 日本人は株式など危険資産に対する投資比率が低いが、リターンに比べリスクが高かった日本の株式市場の実状に則して考えれば、そのような投資行動は正しかったと言えるのではないか。

ハ 資産性所得に低率の比例税率を課した場合、所得再分配において問題が生ずる可能性があるのではないか。

ニ 住宅ローン控除等による課税ベースの浸食を防ぐ方策として、フラットタックスのように資本所得課税を抜本的に改革するやり方も考えられるのではないか。

ホ 分離課税の良さを残すべきではないか。

ヘ 生損保控除等の見直しに当たっては、他の貯蓄商品との間の公平性等の問題だけでなく、これらが自助努力促進の効果をも有する点に着目すべきではないか。

(納税環境整備)

イ 情報技術の進歩により、番号がなくても情報申告書のマッチングが不可能というわけではないのではないか。

ロ 名前や住所、生年月日を使った情報申告書のマッチングではコストも時間もかかる。番号によりマッチングする方が迅速であり、税務行政の効率化の観点からも番号のない情報申告処理は考えられない。

ハ 番号を付与するだけでは不十分であり、番号に付随して金融機関が保有する税務データを税務当局が閲覧できるようにすることが重要。従って、納税者番号のみならず、併せて質問検査権の内容を充実させることも重要。

ニ 納税者番号制度の導入に当たっては、金融機関の負担に配慮するとともに、導入までのスケジュールを予め示し、十分な時間的余裕を持たせるべきではないか。

ホ 租税回避や金融機関の事務負担を踏まえれば、納税者番号制度は納税者の選択制ではなく、やはり一律の導入とするのが好ましいのではないか。

ヘ 納税者番号制度の導入に当たっては、対象となる取引の範囲を極力広く設定すべきではないか。

ト 納税者番号制度の検討に当たっては、基礎年金番号等の現在ある全国一連の番号の普及やその汎用性を考慮する必要がある。

(環境問題への対応)

イ 地球温暖化問題に対する関心が高まっている中で、税制調査会としても、いわゆる環境税の導入に向けて積極的に検討を進めるべきではないか。

ロ 京都議定書の発効も定かでない現状では、第1ステップ(2002年から2004年まで)の地球温暖化対策の状況を見極めるべきであり、いわゆる環境税の導入については慎重に対応すべき。

(不良債権処理と税制)

イ 産業金融の再生という構造改革の側面から、一般的な繰越期間の延長を考えてほしい。