少子・高齢社会における税制のあり方

平成15年6月
税制調査会

目次

  • 税制調査会委員等名簿
  • はじめに
  • 第一 少子・高齢化と税制
    • 一 少子・高齢社会を支える税制
    • 二 個別税目の改革
      • 1.個人所得課税
        • (1)少子・高齢社会における個人所得課税の基本的考え方
        • (2)年金課税等の見直し
        • (3)給与課税等の見直し
        • (4)人的控除の基本構造の見直し
        • (5)個人住民税
      • 2.消費税
        • (1)少子・高齢社会における消費税の重要性
        • (2)今後の検討課題
      • 3.法人課税
        • (1)少子・高齢社会における法人課税の基本的考え方
        • (2)今後の対応の方向性
      • 4.相続税・贈与税
        • (1)基本的考え方と相続税・贈与税の一体化等
        • (2)今後の検討課題
      • 5.個別間接税
  • 第二 地方分権と税制
    • 一 基本的考え方
    • 二 今後の対応の方向性
  • 第三 その他の課題
    • 一 金融・証券税制
    • 二 納税環境整備
      • 1.納税者番号制度
        • (1)納税者番号制度の検討の必要性
        • (2)今後の検討の進め方
      • 2.公示制度・資料情報制度
    • 三 環境問題への対応
      • 1.基本的考え方
      • 2.税制面で対応を検討する場合の留意点
    • 四 国際課税
    • 五 不良債権処理と税制
  • 補論
    • 環境問題への対応
    • 不良債権処理に係る税制面の対応について

税制調査会委員等名簿

本答申の審議に参加した委員、特別委員及び専門委員は、次のとおりである。

委員 特別委員 専門委員
石 弘光大宅 映子神野 直彦
猪瀬 直樹奥本 英一朗田近 栄治
今井 敬神田 秀樹宮島 洋
上野 博史菊池 哲郎 
奥野 正寛幸田 正孝
貝原 俊民河野 光雄
草野 忠義佐瀬 守良
神津 十月中里 実
今野 由梨中嶋 榮一
榊原 長一中地 宏
佐野 正人長野 幸彦
島田 晴雄牧野 力
竹内 佐和子三山 秀昭
田中 直毅村上 政敏
津田 正室町 鐘緒
福原 義春和田 正江
堀田 力 
本間 正明
松浦 幸雄
松尾 好治
松永 真理
松本 和夫
水野 忠恒
水野 勝
森 金次郎
森下 洋一
諸井 虔
柳島 佑吉
吉永 みち子

はじめに

少子・高齢化やグローバル化が急速に進展する中、わが国経済社会の活性化を実現するには構造改革の推進が急務であり、税制も21世紀の新たな社会に相応しい姿に再構築していく必要がある。当調査会は、このような問題意識の下、昨年6月に「あるべき税制の構築に向けた基本方針」(以下、「基本方針」という。)をとりまとめ、中長期的視点から持続的な経済社会の活性化を実現するためのわが国税制のあるべき姿の全体像を示した。平成15年度税制改正では、この全体像に基づき、人的控除の簡素化・集約化の第一歩としての配偶者特別控除(上乗せ部分)の廃止、研究開発税制・設備投資税制の集中・重点化、消費税の信頼性・透明性の向上に向けた改革、相続税・贈与税の一体化措置の導入、法人事業税への外形標準課税の導入、金融・証券税制や土地税制の見直しなど広範な税目にわたる改革を実現した。

本年1月、小泉内閣総理大臣から当調査会に対し、平成15年度税制改正の成果を踏まえ、「基本方針」で示した考え方のうち少子・高齢社会を支える税制などの課題について、更に検討を深めるようにとの指示があった。

わが国は少子・高齢化の進展とともに人口がまもなく減少傾向に転じるなど経済社会構造の大きな転換局面に立っている。21世紀の展望を切り開き国民の自信を回復させるために、様々な分野における構造改革を推進し、活力にあふれる民間部門とそれを支える効率的で持続可能な公的部門を構築していく必要がある。また、わが国経済社会の高齢化・成熟化に伴いフローに比してのストックの重要性が高まるため、金融資産をはじめとする資産の効率的な活用が経済社会の活力の維持にとり重要な意味を持つ。

一方、財政については、国の歳出額の約半分しか税収で賄えていない。多額の長期債務残高を抱え、国・地方を通じて財政は危機的状況にある。持続可能な財政の確立に向けて、2010年代のできるだけ早い時期にプライマリーバランスの均衡化を達成することがまずもって重要であり、そのために着実な財政収支改善努力を行っていく必要がある。今後の高齢化の進展に伴う年金・医療・介護給付の増大も見込まれ、国民の負担増は避けられない。これからの負担増について国民の理解を得るためにも、国・地方を通じた徹底した行財政改革による公的部門の効率化を図ることが大前提となる。

さらに、わが国の構造改革の重要な柱として、地方の自己決定権と自己責任を拡充し、地方分権の推進を図っていくことが求められている。

税制もこのような構造改革の動きと軌を一にして改革していかねばならない。

当調査会は、このような認識に基づき、総理指示を踏まえ、「少子・高齢化と税制」、「地方分権と税制」、「金融・証券税制」などの課題に焦点を絞って審議を進めた。審議の過程では4月下旬から5月上旬にかけて北米・北欧において関連する動向について調査した。

本答申は「基本方針」の内容を更に深め、両者一体で中長期的視点に立ったわが国税制のあり方について提案を行うものであり、これらの提案をもとに今後とも税制の再構築に向けて国民の間で幅広く建設的な議論が行われることを期待している。

第一 少子・高齢化と税制

一 少子・高齢社会を支える税制

少子・高齢化の進展により、21世紀のわが国は超高齢・人口減少社会を迎える。長寿化と少子化の進行により、わが国はこれまでも世界の主要国に例を見ない速さでの高齢化を経験してきた。今後もこの傾向は続き、いわゆる「団塊の世代」が高齢期を迎えた2015年頃には国民の4人に1人が高齢者となり、また、人口は2006年をピークに減少に転じると見込まれている。

人口構造の大幅な変化は、家族のあり方をはじめとして、わが国経済社会に多大な影響を及ぼす。少子・高齢化に伴う労働力人口の減少や貯蓄率の低下を要因とする経済成長率の低下、現役世代の社会保障の負担増などに対する懸念から、今後の少子・高齢社会を悲観的にとらえる見方もある。しかしながら、様々な分野における構造改革を推進することにより、経済規模が人口減少に伴い縮小しても一人当たりで見ればより豊かな社会を築くことも可能である。

技術革新を通じた生産性の向上、女性や高齢者の社会参画の推進、持続可能な社会保障制度の構築など取り組むべき課題は山積しており、少子・高齢社会に適合する姿に諸制度を再設計することが重要である。税制についても、以下の3つの視点に基づき改革に取り組んでいく必要がある。

[1] 将来にわたる安心をもたらす税制

今後の高齢化の進展に伴い社会保障などの公的サービスの増加は避けられないと見込まれる。財政が国・地方を通じて極めて厳しい状況にある中、国民は将来の税負担や社会保障負担の増加について先行き不透明感を抱いている。このため、本来国民に安心をもたらすはずの諸制度が逆に将来への不安を増幅させ経済の活力を削ぐ要因ともなっている。社会保障制度は少子・高齢社会を支える必要不可欠なセーフティネットであるが、国民の将来不安の払拭には、将来にわたり持続可能な社会保障制度と財政構造の構築が必要である。そのためには、社会保障を含む歳出面での徹底した改革とともに、税制面では、所得・消費・資産等の間でバランスのとれた税体系に配意しつつ、必要な公的サービスを安定的に支える歳入構造の構築が重要となる。

[2] 若者から高齢者までがともに支える税制

これからの負担増について国民の理解を得ていくには、税負担の公平を確保することが重要となる。

最近の高齢者は、積極的に社会活動に参画し経済的にも現役世代と遜色のない者がいる一方で、健康状態がすぐれず経済力が低下した者もいるなど極めて多様な姿となっている。今後の少子・高齢社会では、こうした高齢者の多様性を踏まえ、年齢だけを基準に画一的・固定的に高齢者を取り扱う発想からの転換が求められている。他方、現役世代は、右肩上がり経済の終焉とともに経済環境が激変し雇用不安や賃金の低迷などの困難に直面している。

わが国では高齢者と現役世代の比率が1:3.6(2000年)から1:1.9(2025年)へと急速に変化する。このような状況の下で、今後急増が見込まれる社会保障などの公的サービスにかかる費用の負担を大幅な賃金上昇が期待できない現役世代に求める構造を維持した場合、将来の現役世代の負担が過重となり社会の活力の発揮は期待しがたくなる。

こうした中、税制面では、低所得者層に配慮しながら、高齢者を年齢だけで一律に優遇する税制の歪みを見直し、年齢にかかわらず能力に応じて公平に負担を分かち合うことが重要となる。そうすることにより、世代間の公平とともに高齢者間の公平の確保にも資することとなる。

[3] 個人や企業の活力を引き出す税制

高齢化・成熟化するわが国経済社会を活力にあふれるものとするには、個人や企業が潜在力を十分に発揮できる社会を築く必要がある。このため、生涯現役社会や男女共同参画社会の構築に向けて、能力と意欲のある高齢者や女性の社会参画を妨げない制度づくりが重要な課題となっている。また、高齢者の役割が高まる今後の社会では、民間非営利活動には新たな活力の源泉として高い期待が寄せられている。さらに、人口減少社会で経済的な豊かさを実現する鍵となるのが生産性の向上であり、生産活動の主役である企業が今後ともグローバル化等の構造変化に対応し柔軟に活動できる環境を整備していくことが必要となる。税制面では、個人や企業の活力を引き出す観点から、個人の就労や企業の選択を歪めない中立的な税制、簡素で分かりやすい税制を基本としつつ、今後とも構造改革を促進し経済社会の活性化を図るために必要な対応を行うべきである。

これらの視点を踏まえれば、昨年6月の「基本方針」でも述べたとおり、将来の少子・高齢社会を支える税制の構築に当たっては、個人所得課税の基幹税としての機能を回復すること及び消費税の役割を高めていくことが基本となる。このような改革は、国民の負担増を伴うものであり、国民の理解を得るには、徹底した歳出削減、行政改革を断行するとともに、とりわけ税制上の歪みや不公平の是正といった観点に立って取り組むことが肝要である。以下、このような基本認識の下、各税目の課題について列記する。

二 個別税目の改革

1.個人所得課税

(1)少子・高齢社会における個人所得課税の基本的考え方

1わが国の個人所得課税の負担は、国民所得比でみると、主要国が二桁の水準であるのと比べ極めて低い水準となっている(平成15年度:6.1%)。特に税率構造について見れば、大多数の納税者が最低税率のみに分布しており、主要国の中でも特異な構造となっている。これらは累次の減税により、諸控除の拡充のほか、税率の引下げやブラケットの拡大による累進緩和がなされた結果である。当調査会は、既に「基本方針」において、諸控除や税率構造の改革の方向に加え、継続している定率減税についても、経済情勢を見極めつつ、廃止していく必要があることを示した。今後、このような考え方を踏まえ、財源調達機能や所得再分配機能が適切に発揮されるよう、基幹税としての機能の回復に取り組んでいく必要がある。かかる視点からあるべき個人所得課税を将来にわたり構築することは、国民の負担増を伴うものとならざるを得ず、経済情勢も見極めながら改革に取り組んでいかなければならない。

こうした改革に当たっては、まず、近年の経済社会の構造変化に対応して、税制の様々な歪みや不公平を是正し、個人の経済・社会活動上の多様な選択を妨げないような負担構造を構築していく必要がある。この取組みは単純な増税論や年金制度改革のための財源論を論ずることではない。大切なことは、少子・高齢社会での個人所得課税のあり方として、どのような負担構造を目指すのかという問題である。

2個人所得課税が様々な税制上の歪みを抱えている要因としては、公的年金等控除のように特定の収入だけに適用される特別の控除や非課税措置が多く存在することがあげられる。その結果、多くの収入が課税ベースに含まれないこととなり、他の収入との間で負担にアンバランスが生じ、納税者に不公平感を抱かせ、ひいては自由な経済・社会活動を妨げる結果ともなっている。

例えば、公的年金等控除は、年金収入であれば高齢者の他の収入状況に関わりなく適用されるため、高所得者であっても課税ベースからの脱漏が生じ、現役世代との間はもちろん、高齢者間でも負担のアンバランスを引き起こしている。また、給与所得控除や退職所得控除については、就労形態の多様化などが進む中で、税制と経済社会の変化との間に乖離が生じている。

3今後の個人所得課税のあるべき負担構造としては、広く公平に負担を分かち合うため、様々な要因による収入をできるだけ課税ベースに取り込んだ上で、個々人の諸事情への配慮は、基礎控除や扶養控除といった人的控除にまとめて措置する方向が基本的に望ましい。

こうした負担構造の構築に当たっては、現役世代に負担が偏らないよう世代間の公平を確保するとともに、個人の経済・社会活動の選択に対し中立的な制度とする観点が重要である。また、少子化の進展に対し、社会保障制度との関連にも配意しながら、次世代の担い手である子供の扶養へ配慮することも考慮すべきである。

平成15年度税制改正において配偶者特別控除(上乗せ部分)が廃止された。これは課税ベースを拡大すると同時に、配偶者の就労に対して中立的な税制に近付けることを意図したものであり、経済社会の構造変化に即応した改革の第一歩と位置付けられる。

(2)年金課税等の見直し

わが国の年金課税の現状は、社会保険料拠出を全額所得控除する一方で、給付についても公的年金等控除などの適用によって実質的に非課税に近い状態となっている。これについては、次のような問題がある。

  • 少子・高齢化の進展に伴い、今後ますます増大する社会保険料拠出と年金給付がともに課税ベースから脱漏することとなり、個人所得課税の基幹税としての機能が更に減殺されていく。
  • 年金課税の整合性という観点からみて、拠出段階を非課税としたまま給付段階も実質非課税とする現行税制は一貫性を欠いている。
  • 高齢者の経済状況は様々であるにもかかわらず、高所得者に該当する高齢者まで一律に現役世代と比べて優遇しており、高齢者間だけでなく、世代間でも不公平が生じている。

このような問題に対し、次の点を念頭に年金課税の改革を行う必要がある。

1少子・高齢社会においては、現役世代の活力を維持する方向で改革を進めることが重要である。したがって、年金課税の見直しについては、年金収入のみで生計を立てる低所得者の取扱いについて十分配慮した上で、給付段階での優遇措置の適正化に取り組むべきである。公的年金収入を課税ベースに取り込み、担税力のある高齢者に現役世代と同じように、能力に応じた負担を適切に求めていくことは、高齢者間のみならず世代間の公平にも資することとなろう。

2公的年金等控除は、昭和62年改正時に、それまで年金給付を給与とみなして給与所得控除が適用されていたことを改めるとともに、負担調整を図るという趣旨で創設されたものである。しかし、高齢者の担税力に対する配慮としては、老年者控除と趣旨・機能が重複している。また、65歳以上の高齢者に対して適用される措置については、低所得者・高所得者に関係なく適用され、「年齢だけで高齢者を別扱いする制度」となっている。さらに、高齢の就業者の増加とともに給与収入を得ながら年金を受給する者が増加しており、これに給与所得控除と公的年金等控除が各々適用され、課税ベースの脱漏が生じている。したがって、これらの問題点を是正し、真の担税力に応じた適切な課税を行っていく必要がある。

3社会保険料控除については、公的年金に対する強制拠出に加え、自助努力による任意拠出についても控除対象となっている。今後、社会保険料の増大とともに、個人所得課税の課税ベースがますます浸食される懸念がある。今後の社会保険料控除のあり方については、年金制度改革全体の方向性とも関連付けて控除対象の範囲を検討していかなければならない。この場合、将来、公的年金に対する保険料控除に一定の限度額を設けるとともに、企業年金などの私的年金については、拠出時控除・給付時課税の枠組みを徹底する方向で基本的な改革を行うことにより、税制適格な私的年金を確立することが考えられる。

4課税ベースの拡大の観点からは、控除の見直しとともに、社会保障給付に対する課税上の取扱いについて、諸外国での事例も踏まえ、課税対象を拡げる方向で検討すべきである。特に、遺族年金給付や失業等給付のように、受給者の他の所得の有無や資産の保有状況と関係なく支給される非課税給付については、今後、見直しを進めていく必要があろう。その際、低所得者に対する担税力への配慮は人的控除等で行うべきである。

現下の年金制度改革に関しては、基礎年金の国庫負担割合の引上げとそれに伴う財源の問題がある。この国庫負担の問題については、給付水準をはじめとする年金制度のあり方を総合的に検討し、将来の年金制度体系における公費の位置付けと関連付けて検討すべきである。その際、現状でも公費の相当部分を公債に依存している財政状況にも十分留意する必要がある。

(3)給与課税等の見直し

1給与所得控除については、勤務に伴う経費の概算控除として明確化すべきである。あわせて、特定支出控除の範囲についても検討し、給与所得者にも確定申告して経費を実額控除する機会を増加させることが適当である。こうした方向は、給与所得者が自らの経費に対し説明責任を果たすことにつながり、自立した勤労者像の位置付けにも資すると考えられる。その際、負担水準を調整する観点から、基礎控除をはじめ人的控除の水準の引上げを検討していく必要がある。

また、給与所得者の間には、事業所得者と比較して所得捕捉に関する不公平感が依然として根強く、適正課税の実現に向け、より一層の執行面での努力が求められている。

2退職所得控除については、雇用の流動化が進展する中で、多様な就労選択に対し中立的な制度とする必要がある。従来と比べ個人所得課税の累進構造が緩和されていることや、最近の企業年金の普及等の状況を踏まえ、過度な優遇を是正するとともに、給与、退職一時金、年金の間で課税の中立性を確保していくべきである。

(4)人的控除の基本構造の見直し

1少子・高齢社会においては、社会保障など公費の負担をできる限り多くの者が広く公平に分かち合う負担構造とし、老若男女を問わず働く能力と意思のある者が、経済社会の支え手として積極的に活躍できる社会を構築する必要がある。こうした観点からは、人的控除の基本構造のあり方について、今後、家族の就労に対して中立的な仕組みとしていくことが重要である。

2人的控除のあり方については、従来から、主に標準世帯(片稼ぎの夫婦子二人世帯)の課税最低限を念頭に、世帯としての負担調整を行う観点から検討される側面が強かった。しかしながら、今後は世帯構成の多様化も踏まえ、個人を中心とした考えを重視する必要がある。

3配偶者に対する配慮のあり方としては、家事や子育て等の負担はどのような世帯形態でも生じる上、今後、共稼ぎの増加が見込まれるため、税制面で片稼ぎを一方的に優遇する措置を講じることは適当でない。また、扶養に対する配慮については、少子・高齢社会における子育ての重要性を考え、今後、児童など真に社会として支えるべき者に対して扶養控除を集中することが考えられる。その際、控除の仕組みを所得控除制度ではなく税額控除制度とすることも検討課題となる。これらについては、社会保障制度との関連や諸外国での事例等も踏まえ、検討を深める必要がある。

(5)個人住民税

個人住民税は、地域社会の費用を住民がその能力に応じ広く負担を分任するという性格を有する。同時に、地方公共団体が少子・高齢化に伴い提供する福祉等の対人サービスなどの受益に対する負担として、対応関係が明確に認識できるものである。また、税収入の面で見れば、税源の偏在性が少なく、税収の安定性を備えているものである。このような性格を踏まえ、地方税の基幹税として充実確保を図る必要がある。

[1] 所得割

所得割については、地方税固有の性格も踏まえ、諸控除や非課税所得の縮減などを行う必要がある。

[2] 均等割

均等割の税率は低い水準にとどまっており、人口段階に応じた税率区分の解消を含め、その水準の引上げを図る必要がある。また、生計同一の妻に対する非課税措置については、課税の公平の観点から廃止する必要がある。

2.消費税

(1)少子・高齢社会における消費税の重要性

消費税は、制度創設以降、社会保障をはじめとする公的サービスの費用をあらゆる世代が広く公平に分かち合う上で大きな役割を果たしている。同時に、その税収は安定的に推移し現在では国税収入の約2割を占めるなど、わが国税制における基幹税の一つとして国民の間に定着してきた。

少子・高齢化が進展する中で国民の将来不安を払拭するためには、社会保障制度をはじめとする公的サービスを安定的に支える歳入構造の構築が不可欠であることから、消費税は極めて重要な税である。したがって、将来は、歳出全体の大胆な改革を踏まえつつ、国民の理解を得て、二桁の税率に引き上げる必要もあろう。これが今後の税体系全体の見直しの基本となると考えられる。これに関連し、所得に対する逆進性の問題については、消費税という一税目のみを取り上げて議論すべきものではなく、税制全体、さらには社会保障制度等の歳出面を含めた財政全体で判断していくことが必要である。

少子・高齢社会における消費税の重要性に鑑み、消費税に対する信頼性・制度の透明性の向上を図る観点から、平成15年度税制改正において中小事業者に対する特例措置の見直し等抜本的な改革を講じたところである。

(2)今後の検討課題

このように消費税に対する信頼性・透明性は相当程度向上したと考えるが、今後、消費税率の引上げについて検討していくに際して、以下のような課題についても検討を深める必要がある。

[1] 税率構造

消費税の税率構造は、制度の簡素化、経済活動に対する中立性の確保の観点から極力単一税率が望ましい。しかし将来、消費税率の水準が欧州諸国並みである二桁税率となった場合には、所得に対する逆進性を緩和する観点から、食料品等に対する軽減税率の採用の是非が検討課題となる。

[2] 仕入税額控除

現行消費税制度において仕入税額控除を行うためには、課税仕入れ等の事実を納税者自身が記載した帳簿の保存に加え、取引の相手方が発行した請求書等の取引の事実を証する書類の保存が必要とされている(「請求書等保存方式」)。このような請求書等保存方式は、単一税率の下では適切な仕入税額控除に特段の支障がないが、将来、複数税率が採用される場合には、適正かつ円滑な施行に資する観点から、免税事業者からの仕入税額控除を排除し、税額を明記した請求書等の保存を求める「インボイス方式」を採用する必要がある。

[3] 消費税の使途

消費税はわが国の財政にとって重要な役割を果たすべき基幹税である。平成11年度予算以降、国の消費税収(地方交付税分を除く国分)を基礎年金、老人医療及び介護に充てることを毎年度の予算総則に明記する、いわゆる「消費税の福祉目的化」が行われている。税率の引上げに際しては、国民の理解を得るために社会保障支出や社会保障負担との関係を明確に説明することが必要となろう。

[4] 地方消費税

地方分権の推進、地域福祉の充実等のために創設された地方消費税は、消費に関連した基準により都道府県間で清算を行うことにより税収の偏在性が少なく、安定的な基幹税目の一つとして定着し、大きな役割を果たしている。少子・高齢化等の進展に伴い、今後、福祉・教育等の幅広い行政需要を賄う税として、地方消費税の充実確保を図っていく必要がある。

3.法人課税

(1)少子・高齢社会における法人課税の基本的考え方

少子・高齢化、経済のグローバル化が進む中で、経済社会の活力を維持していくためには、企業が創意工夫を発揮することにより、競争力の強化や産業構造の改革を進めていく必要がある。また、多様な形態による事業・投資活動に対する環境整備を図ることも重要である。こうした観点から、今後の法人税の位置付けとしては、国際的に整合性がとれ、企業活動に対し歪みの少ない中立的な税制とすることを基本としつつ、今後とも構造改革を促進し、経済社会の活性化を図るために必要な対応を行っていくべきである。

平成15年度税制改正においては、企業部門が全体として資金余剰状態にあり、過剰な設備・負債を抱えている状況の中で、21世紀のわが国を支える産業・技術の創出に不可欠な研究開発、IT投資に直接つながる政策税制を集中・重点的に講じた。また、活力ある中小企業の経営基盤を強化する中小企業税制の見直しを行った。

(2)今後の対応の方向性

1「基本方針」で述べたとおり、法人税率の引下げについては、経済状況、わが国の税負担の水準や税体系全体のあり方との関連、さらには先進国との税率のバランスを踏まえて、今後検討すべき課題である。

2経済活動のグローバル化、金融自由化等に伴い、国際的なものを含め様々な形態による事業・投資活動が出現している。これらは企業や個人の柔軟かつ積極的な事業・投資活動を引き出し、新たな活力の源泉となることが期待される。他方、企業活動が複雑化・多様化する中で、各国の税制の相違を利用した租税回避の動きが顕在化している。こうした中で、多様な形態による事業・投資活動が円滑に行われるよう、適正な課税のあり方を検討していく必要がある。

3高齢者が増加する今後の社会では、NPO法人等の民間非営利活動が活発化していくと考えられる。こうした活動は、今後ますます多様化する国民のニーズに行政に代わって効果的、機動的に応えることができるものであり、大きな役割が期待される。このため、透明性を確保しつつ民間非営利活動が円滑に行われるよう、寄附金税制も含め適正な課税のあり方を検討していく。

4公益法人に対する課税のあり方については、現在行われている公益法人制度改革の検討を踏まえ、適切な情報公開の下、適正な課税を確保する必要がある。

5法人事業税への外形標準課税の導入については、平成15年度税制改正において、資本金1億円超の法人を対象として、外形基準の割合を4分の1とする外形標準課税制度を創設し、平成16年度から適用することとしたところである。今後、納税義務者となる法人への周知徹底を図るなど、この制度の定着に努めていくことが必要である。

4.相続税・贈与税

(1)基本的考え方と相続税・贈与税の一体化等

相続税は、相続を契機とした世代間の財産移転に着目し、資産の再分配を図るという他では代替できない固有の機能を有している。

相続課税を取り巻く環境を見ると、経済のストック化の進展や高齢化の進展に伴う相続による次世代への資産移転の時期の大幅な遅れなどの経済社会の構造変化への対応が求められている。

このような状況を踏まえ、平成15年度税制改正において、生前贈与による資産移転の円滑化に資する観点から、相続税・贈与税の一体化措置を相続時精算の簡素な仕組みの下で実現した。あわせて、個人所得課税の最高税率や諸外国の例との格差を是正するため、相続税の最高税率の引下げを含む税率構造を見直した。

(2)今後の検討課題

これまで相続税は、累次にわたる減税や各種の特例の拡充により、その負担は大幅に緩和されてきたが、負担の適正化に必要な課税ベースの拡大は実施されてこなかった。

個人所得課税の累進構造のフラット化の進展、将来の消費税率の引上げを考慮に入れると、相続税の持つ資産移転の段階での再分配機能が一層重要となる。

また、高齢者を取り巻く状況を見ると、近年、現役世代の負担を伴う社会保障給付が充実し、個々人が主に家族で老後扶養の負担を担う形態から、より社会全体で老後扶養の負担を支えるようになってきている。このような老後扶養の社会化の進展に伴い、相続時に残された個人資産に負担を求める必要性が高まっていると考えられる。

こうした点を踏まえ、今後、少子・高齢化の下では、相続税について、従来より広い範囲に適切な税負担を求めるねらいから、課税ベースの拡大に引き続き取り組む必要がある。

5.個別間接税

個別間接税については、消費税が導入された際に整理・簡素化された経緯がある。しかしながら、ライフスタイルの多様化、経済のサービス化等社会情勢の変化を踏まえれば、地方の課税自主権の活用も含め、新たな課税の可能性を検討していくことも必要である。

第二 地方分権と税制

一 基本的考え方

地方税は、地域における行政サービスの経費を地域住民がその能力と受益に応じて負担し合うことが基本である。このことから、応益性を有し、薄く広く負担を分かち合うものであること、さらに、地域的な偏在性が少なく、税収が安定したものであることが望ましい。一方、地方税の現状を見ると、国と地方の歳出純計に占める地方の歳出の割合は約63%であるのに対し、租税総額に占める地方税の割合は約42%であり、地方の歳出規模と地方税収入が乖離している。

そのような中、少子・高齢社会を迎えたわが国の構造改革の重要な柱として、地方分権を推進し、自立した国・地方関係を確立し、活力と個性のある地域社会を実現していくことが求められている。地方の自律性を高めるためには、市町村合併の推進や地方歳出に対する国の関与の廃止・縮減などによる地方行財政の効率化が不可欠である。このことを前提に、地方公共団体が一層の情報開示を進め、受益と負担の対応関係を意識しつつ自らの責任と判断で地域のニーズに応じた行政サービスを実施できるよう地方税等の自主財源を中心とした歳入基盤を確立することが必要である。

二 今後の対応の方向性

いわゆる三位一体の改革については、国と地方の役割分担を見直し、国庫補助負担金の整理・合理化や地方交付税の財源保障機能のあり方を検討し、税源移譲を含め国と地方の税源配分のあり方について根本的に見直すべきである。その際、国・地方それぞれの財政事情や個々の自治体に与える影響を考慮に入れる必要があろう。

また、地方分権一括法による課税自主権の拡大を契機として、法定外税や超過課税の活用の動きが活発化している。主要な税源は国・地方の法定税目とされていることなどから、現行の枠組みでの課税自主権の活用による地方税源の充実には限界がある。

課税自主権の活用は、地域における受益と負担の関係の明確化につながるものであり、これを更に活用しやすくなるよう検討を進める必要がある。課税自主権の活用に当たっては、公平・中立などの税の原則に照らし十分な検討が行われることが望ましく、住民と正面から向き合い、自らの責任と負担で施策を進める姿勢が求められる。

第三 その他の課題

一 金融・証券税制

金融資産性所得に対する課税に関しては、「貯蓄から投資へ」という政策要請を受け、貯蓄優遇税制や株式等譲渡益課税の見直しが相次いで進められてきた。平成15年度税制改正では、上場株式等の配当及び譲渡益、公募株式投資信託の収益分配金に対して、利子と同じ20%の税率で課税を行うことを基本としつつ、従来の優遇措置を整理の上、今後5年間については上記税率を10%に軽減する措置が講じられた。また、申告不要制度の導入など投資家利便にも配慮された。こうした改正を踏まえ、今後は中長期的に安定した税制の構築を目指し、幅広い観点から検討を続けていく必要がある。また、生損保控除や財形貯蓄といった残された貯蓄優遇税制についても、他の様々な貯蓄手段との税負担の公平性確保の要請等を踏まえ、見直しを行うべきである。

近年における情報化・グローバル化の進展、金融技術の高度化の中で、多様な金融商品が出現している。また、取引形態の操作等によって所得分類を変更したり、収益の発生時点を操作することなどを通じて、租税負担を回避することが容易となってきている。資本市場からの資金調達が重要性を増す中で、各種事業体やファンドの設立など投資形態も多様化しており、国際的な租税競争の下、各国税制や国際的な資本取引の動向も勘案する必要が生じている。

わが国の金融資産性所得に対する課税は、収益の性質・発生態様や所得捕捉体制の問題等から、総合課税を基本としつつも分離課税を多く導入しており、課税方式も個々の収益ごとに異なるものとなっている。こうした中、今後の課税のあり方については、簡素かつ公平で安定的な制度の構築を念頭に、金融商品間の中立性を確保し、金融資産性所得をできる限り一体化する方向を目指すべきである。

このような方向に関しては、金融資産性所得の範囲や税率、損益通算など多岐にわたる課題について、様々な観点からの理論的・実務的な検討が必要である。その際、貯蓄・投資や企業活動への中立性の確保、課税ベースの拡大、所得再分配への影響、納税者利便と国内外にわたる適正執行の実現などに関する配慮を欠かせない。このためには、納税者番号制度など納税環境の整備を進めていくことも重要となろう。また、諸外国の状況を見ると、二元的所得税など新たな租税論の展開が見られる一方で、勤労所得との間の課税バランスや租税回避行動の抑制等の観点から、実際的な対応が行われている。今後、金融資産性所得に対する課税の一体化の検討に当たっては、わが国においても、これらについて十分な検討が必要となろう。

二 納税環境整備

納税環境整備は、課税の公平・中立・簡素の実現のために極めて重要である。また、従来から指摘されている各種所得の捕捉率をめぐる不公平感の問題への対処ともなる。今後、引き続き制度・執行の両面における取組みを着実に推進し、次のような課題について更に検討を深め、税制及び税務行政に対する納税者の信頼を確保していかねばならない。

1.納税者番号制度

(1)納税者番号制度の検討の必要性

納税者番号制度は、適正・公平な課税の実現に資することに加え、税務行政の効率化・高度化にも寄与することから、かねてより当調査会においても検討を重ねてきた。具体的には諸外国の経験も踏まえ、総合課税化や適正な資産課税のために、納税者番号制度の必要性を指摘してきた。近年においては、金融資産性所得を一体的に課税する新たな金融・証券税制を構築するためには、納税者番号制度が不可欠となっている。また、税務行政の効率化・高度化や納税協力(税制への信頼と納税過程における法令遵守)の向上といった観点、さらには経済取引の電子化・グローバル化を背景とした国際的な資金シフトに対応するためにも、改めて検討を行うべき時期にきている。

(2)今後の検討の進め方

納税者番号制度については、近年、特に金融資産性所得に対する課税一体化の検討を含めた金融・証券税制の構築のため、その導入に向けた具体的な諸方策を検討する必要性が高まっている。他方、諸外国においても、制度導入当初においては番号の利用が義務づけられる取引等の種類が限定されているのが通例である。わが国において納税者番号制度を導入する場合には、こうした諸外国の例が参考となる。

今後は、全国一連の番号の利用や個人情報保護のあり方の状況を踏まえ、導入に向けた具体的な諸方策について更に検討を進めるべきである。この際、民間及び行政のコスト負担が小さく、プライバシー保護を含めたシステムにおけるセキュリティが十分に確保されるよう適正な制度設計を行い、納税者番号制度に対する国民の理解を深めていくことが必要不可欠である。また、例えば簡素な申告手続を可能とすることを含め、番号を利用する納税者の利便性が高まるよう、制度のあり方や利用方法、あるいはその利用者や対象となる取引の範囲について検討することが必要である。

2.公示制度・資料情報制度

公示制度については、個人のプライバシーへの配慮の観点から問題点が指摘され、制度の廃止を含めた検討が必要である。

また、グローバル化、情報化などの経済社会の構造変化に対応した資料情報制度の拡充その他の制度整備も重要となる。こうした観点から、平成15年度税制改正においては、わが国の租税条約相手国の要請に基づき執行当局が情報を収集するための質問検査権を創設する措置が講じられた。

今後とも、申告納税制度に対する納税者の信頼確保の観点及びグローバル化や情報化・電子化などの経済社会の構造変化に対応した適正・公平な課税の確保の観点から、これらの問題について具体的な検討を深めていく必要がある。

さらに、平成15年度より、納税者利便の向上等を図る観点から、電子申告や電子納税の導入が予定されており、引き続き電子化の活用を図っていくことが適当である。

三 環境問題への対応

1.基本的考え方

京都議定書の発効に向けて、地球温暖化問題をはじめとした環境問題への関心が年々高まっている。当調査会においても、環境問題に対する総合的な取組みの一環として、税制面での対応について、幅広い観点から検討していく必要がある。特に、地球温暖化問題については、規制的手法、自主的取組、税制以外の経済的手法の活用に加えて、税制を活用することの必要性について広く議論が求められる。(補論1参照)

2.税制面で対応を検討する場合の留意点

環境問題に対する税制面での対応の検討に際しては、いくつか検討すべき点がある。

まず、公的サービスの財源調達という租税の基本的な機能に照らして考えた場合、特定の政策目的に税制を活用することや政策目的が実現されるにつれて税収が逓減していくという性質について問題となる。また、そもそもこのような性質を有するものは「課徴金」ではないかという意見もあり、こうした基本的な点について、今後、十分な議論をしていく必要がある。

さらに、環境負荷の原因者に追加的な負担を求めることによって生じる税収を地球温暖化対策などの環境対策のために用いるべきか否かの問題がある。一般財源にするか、目的税又は特定財源にするかについては、当調査会が繰り返し指摘してきたとおり、税の基本的な考え方に沿って検討する必要がある。

いずれにせよ、いわゆる環境税の導入を検討する際には、国民に広く負担を求めることになるので、国民の理解と協力が得られることが不可欠である。今後、国・地方の環境施策全体の中での税制の具体的な位置付けを踏まえながら、国内外における議論の進展を注視しつつ、汚染者負担の原則(PPP)に立って、引き続き幅広い観点から検討する。

地球温暖化問題に対する税制面での対応を検討する場合には、揮発油税、軽油引取税、石油石炭税など既存のエネルギー関係諸税等との関係についても検討すべきである。

四 国際課税

企業活動のグローバル化が進む中、国家間の課税権の調整を図る租税条約の果たす役割は一層重要となっている。投資交流をより一層促進し、あわせて租税回避の防止のための措置を整備するべく、今後、租税条約の新規締結及び改正を積極的に進めるべきである。また、国際的な事業・投資活動が複雑化・多様化し、わが国から税源が不適当に流出するなどの租税回避の動きも顕在化している。このような動きに対し、国際課税制度全般にわたり、国境を越えた経済活動についてわが国の課税権を十分確保し、適正な課税が図られるよう、今後、一層の見直しを進めるべきである。

五 不良債権処理と税制

わが国金融・産業の再生を図る観点から、金融機関の不良債権処理の加速は重要な課題である。繰延税金資産をはじめとする諸課題に対する金融行政、企業会計を含めた全体の対応策の一環として、税制面での対応も検討すべきである。その基本的な考え方は補論2にまとめている。その検討に当たっては、まず、政策目的を明確にした上で、税制上の措置がそれを実現するために有効かつ相応しい手段であるか、また課税の公平確保の観点から慎重に判断せねばならない。

補論

環境問題への対応

1.環境施策の諸類型と税制

環境問題には、地球温暖化問題をはじめ、大気汚染、廃棄物問題などの身近な環境問題など様々なものがある。これらの問題に対する対策の手法としては、各種の規制的手法や自主的取組、経済的手法があるが、それぞれの環境問題の性格に応じて、各種手法の特徴を踏まえた適切な組合せを考えていくことが必要である。近年では、例えばCO2排出削減対策や自動車排気ガス対策などのように、排出源が多数存在しており、排出削減に向けた継続的なインセンティブが必要な問題に対応するためには、従来の規制的手法、自主的取組に加え、市場メカニズムを通じて外部費用の内部化を図る経済的手法が有効と考えられている。

経済的手法については、一般に、「税・課徴金」、「助成措置」、「排出権取引」、「デポジット制」に区分できる。このうち「税・課徴金」は、汚染行為に対し金銭的負担を求めるものであり、PPPの趣旨に適合している。同時に、市場メカニズムを通じて各主体がそれぞれに最も効率的な対策を選択するため、多数の排出源があっても社会全体として最も少ないコストで済むという長所がある。また、汚染削減に向けた継続的なインセンティブがあり、技術開発にも長期的にプラスの影響を与えるといった特徴もある。

税制面での対応を検討する場合、経済的手法のなじむ分野(例えば、排出源が多く、排出削減に向けた継続的なインセンティブが必要な分野)において、上記のような「税・課徴金」の長所・特徴が適切に発揮されるような仕組みを検討しなければならない。

2.地球温暖化問題の現状

環境問題の中でも、特に、地球温暖化問題については、京都議定書の発効に向けて、国民の関心が高まっている。1997年12月に開催された「気候変動枠組条約」の第3回締約国会議(COP3、いわゆる京都会議)において、先進国全体で、CO2等の温室効果ガスの排出量を2008年から2012年まで(第1約束期間)の間に1990年比で5%(日本6%、アメリカ7%、EU8%)以上削減する旨の京都議定書が採択された。わが国においては、2002年6月にこれを締結したところであり、今後、ロシアが締結すれば発効することになる。

一方、現在のわが国のCO2等の温室効果ガスの排出量は、2000年度においては、1990年度比で8%上回っている。このような状況を踏まえ、内閣総理大臣を本部長とする地球温暖化対策推進本部においては、国、地方公共団体、事業者、国民の総力を挙げた取組みを強力に推し進めるため、2002年(平成14年)3月に、京都議定書締結に先立ち、京都議定書に定められた温室効果ガスの6%削減約束の達成に向けて、地球温暖化対策推進大綱を見直したところである。

地球温暖化対策推進大綱においては、京都議定書の目標達成に向けて各種施策を段階的に進めていくこととされている。大綱においては、2002年から第1約束期間終了までの間を、2002年から2004年までの「第1ステップ」、2005年から2007年までの「第2ステップ」、第1約束期間(2008年から2012年まで)の「第3ステップ」の3ステップに区分している。第1ステップから講じていく対策・施策によって第1約束期間における京都議定書の6%削減約束を確実に達成することを定量的に明らかにするとともに、第2ステップ及び第3ステップの前に対策・施策の進捗状況・排出状況等を評価し、必要な追加的対策・施策を講じていくステップ・バイ・ステップのアプローチを採用している。

(参考)地球温暖化対策推進大綱においては、「税、課徴金等の経済的手法については、他の手法との比較を行いながら、環境保全上の効果、マクロ経済・産業競争力など国民経済に与える影響、諸外国における取組の現状等の論点について、地球環境保全上の効果が適切に確保されるよう国際的な連携に配慮しつつ、様々な場で引き続き総合的に検討する。」こととされている。

不良債権処理に係る税制面の対応について

繰延税金資産の取扱い等に係る金融行政の対応については、金融審議会において検討の途上であり、その方向性が明らかにされるには至っていない。したがって、税制面の対応については、今後、金融行政及び企業会計における検討が進められるのを待って更に検討を深めていく必要がある。その検討に当たっての基本的考え方を現段階で整理すれば、以下のとおりである。

1.無税償却については、昨年金融庁から、金融機関が行う企業会計上の債権償却について全額損金算入を認めるとの要望が出された。しかしながら、税務会計は課税の公平の観点から全ての納税者に平等に適用すべきものであり、無税償却基準の見直しも、金融機関に対する特例措置としてではなく、全ての企業に平等に適用することを前提に検討する必要がある。

企業会計における債権償却には、企業全般を対象とした実務指針のほか、金融機関向けの実務指針と金融検査マニュアルが存在し、これらにおいて、債権の回収可能性について、一般的には保守性の原則に基づきつつ、特に金融機関には経営の健全性確保を重視した見積もり方法が定められている。他方、税務会計は、金銭債権の「損失」及び「損失見込額」に対し貸倒損失及び貸倒引当金の計上を認めているが、その具体的な基準は、適正・公平な課税を確保する観点から、債権回収の客観性・確実性を重視して定められている。

この結果、債権の償却が認められる範囲について、例えば破綻懸念先債権等において税務基準が企業会計の取扱いに比べて厳しくなっている。債権の回収可能性の見方に税務会計と企業会計の間で上記のような考え方の違いがあることはその趣旨・目的からやむを得ないが、不良債権処理の実態を踏まえ、税務会計の基本を維持しつつ税務基準と企業会計の取扱いの差異が小さくなるよう必要な見直しを図っていくべきである。こうした見直しは、金融当局による不良債権処理の促進を図る政策と整合性をとることにもつながるものである。

ただし、多くの金融機関が赤字である現下の状況において、無税償却の範囲を拡大しても繰延税金資産の総額は変わらず、その内容が有税償却によるものから繰越欠損金によるものに振り替るだけで、かえって悪影響を及ぼしかねないとも考えられる。このため、無税償却基準の見直しは、金融機関に与える影響及び繰延税金資産の取扱いをはじめとする金融機関の自己資本のあり方の検討状況を勘案しつつ、具体化を図る必要がある。

2.欠損金の繰戻還付については、昨年金融庁から、金融機関について現行の凍結措置の解除・期間延長(1年→15年)の要望が出された。しかしながら、こうした措置は実質的には公的資金の供与と変わりはない。また、多額の税収減が生じるほか、金融機関に限った特例措置は他の納税者との公平性を著しく欠くなど税制上も極めて問題が大きい。そもそもその政策目的が金融機関の自己資本充実ということにあるのであれば、税金の還付という方法ではなく、公的資金の投入の是非やその条件について正面から議論して結論を出すべき課題である。

3.欠損金の繰越控除については、昨年金融庁から、金融機関について繰越期間を延長する(5年→10年)との要望が出された。

しかしながら、金融機関に限りこのような特例措置を認めることには公平性の問題がある。また、現下の極めて厳しい財政状況の下で、一般的な欠損金の繰越期間の延長が産業構造の改革や不良債権処理の加速という政策課題に真に有効な措置となるかどうか、慎重に検討すべきである。

いずれにしても、立証責任が課税庁側にあるわが国においては、課税庁が繰越期間内の欠損金額が正しいかどうかを確認し、誤りがある場合には更正できる仕組みとしておく必要があるため、繰越期間は帳簿保存期間及び除斥期間と整合性がとれた制度とする必要がある。