平成15年度における税制改革についての答申 -あるべき税制の構築に向けて-

平成14年11月
税制調査会

目次

税制調査会委員等名簿

本答申の審議に参加した委員、特別委員及び専門委員は、次のとおりである。

委員 特別委員 専門委員
石 弘光大宅 映子神野 直彦
猪瀬 直樹奥本 英一朗田近 栄治
今井 敬神田 秀樹宮島 洋
上野 博史菊池 哲郎 
奥野 正寛幸田 正孝
貝原 俊民河野 光雄
草野 忠義佐瀬 守良
神津 十月中里 実
今野 由梨中嶋 榮一
榊原 長一中地 宏
佐野 正人長野 幸彦
島田 晴雄牧野 力
竹内 佐和子三山 秀昭
田中 直毅村上 政敏
福原 義春室町 鐘緒
堀田 力和田 正江
本間 正明 
松浦 幸雄
松尾 好治
松永 真理
松本 和夫
水野 忠恒
水野 勝
森 金次郎
森下 洋一
諸井 虔
柳島 佑吉
吉永 みち子
津田 正

当調査会は、本年1月の内閣総理大臣の指示を受け、中長期的な視点からのわが国税制の抜本的な改革に向けた本格的な審議を始め、6月に「あるべき税制の構築に向けた基本方針」(以下、「基本方針」という。)をとりまとめた。3月から10月にかけては、幅広く国民の意見を聞く観点から、全国12か所で「税についての対話集会」(以下、「対話集会」という。)を開催した。

内閣総理大臣からは、当調査会に対し、平成15年度税制改正において検討すべき具体的事項が示され、これらの事項を中心に、「基本方針」で示した「あるべき税制」のうち平成15年度税制改正で実現すべき当面の課題について検討を行った。

検討過程においては、9月に「対話集会」の結果等を踏まえ議論の状況を整理した「「あるべき税制」の実現に向けた議論の中間整理」をとりまとめた。さらに、10月には「研究開発減税・投資減税の基本的枠組み」を当調査会会長談話として公表した。

本答申は、平成15年度税制改正に当たっての指針を示したものである。

第一 基本的考え方

一 「あるべき税制」の構築に向けて

国民の間で経済社会の先行きに対する不透明感が深まる中、持続的な経済社会の活性化の実現には、構造改革の断行が急務である。「基本方針」では、税制についても、構造改革の一環として、少子・高齢化、グローバル化などの急速な経済社会の構造変化に的確に対応し、中長期的な姿としての「あるべき税制」を着実に実現させ、持続的な経済社会の活性化を図っていく必要があるとの考えを示した。

さらに、21世紀のわが国を支える「あるべき税制」に求められる視点として、以下の5点を指摘した。つまり、(1)個人や企業の自由な選択を妨げず経済活動に中立で歪みのない税制を基本とすること、(2)経済社会の構造変化に対応しきれず、税負担の歪みや不公平感を生じさせている税制上の諸措置の適正化を図ること、(3)納税者にとり分かりやすい簡素な税制とすること、(4)安定的な歳入構造の構築に資すること、(5)地方分権の推進と地方税の充実確保を図ること。

また、「基本方針」では、極めて厳しい財政状況を踏まえ、将来的には租税負担水準の引上げが不可避であることとともに、現下の経済事情から引上げ自体が当面の課題になり得ない場合にも、改革がこの方向性に反しないことが最低限必要であることをあわせて指摘した。

平成15年度税制改正においては、個人所得課税、法人課税、消費税、相続税など広範にわたる各税目について、上記の視点に基づき、「基本方針」で示した「あるべき税制」の構築に向けて、第一歩としての改革を一体として進める必要がある。

具体的には、

(1)個人所得課税については、人的控除の簡素化・集約化を進めていく第一歩として、経済社会の構造変化に対応させるため、配偶者特別控除や特定扶養控除について、廃止を含め、制度をできる限り簡素化する。こうした取組みを通じ、個人所得課税の「空洞化」の状況を是正し、基幹税としての機能回復を図る

(2)法人税については、わが国企業の競争力強化と構造改革を促進する観点から、21世紀をリードする戦略分野の成長を支援する研究開発税制、設備投資税制を集中・重点的に講じる

(3)消費税については、将来その役割を高めていくための前提として、消費税に対する国民の信頼性、制度の透明性の向上を図る観点から、事業者免税点制度を大幅に縮小し、簡易課税制度については原則廃止とする方向で抜本的な改革を行う

(4)相続税・贈与税については、高齢者の保有する資産の次世代への移転の円滑化に資する観点から、相続税・贈与税の一体化措置を導入する。これにあわせて、相続税について最高税率の引下げを含む税率構造の見直し及び課税ベースの拡大を図るとともに、贈与税について相続税に準じた見直しを図る

(5)法人事業税については、税負担の公平性の確保、地方分権を支える基幹税の安定化等の観点から、外形標準課税の導入を図る

(6)固定資産税については、連年の地価下落の状況にも留意して、その安定的確保と課税の公平の観点から、負担水準の均衡化・適正化を一層促進する

(7)土地税制については、都市再生等、土地の有効利用の促進に資する観点から、登録免許税・不動産取得税の軽減を図る

(8)金融・証券税制については、金融商品間の中立性を確保するとともに、簡素で分かりやすい税制を構築する

ことが必要である。

税源移譲を含めた国と地方の税源配分のあり方については、国庫補助負担金、地方交付税と三位一体で検討することが閣議決定されている。今後、当調査会においては、各関係機関の議論の状況に応じ検討を行うこととする。

二 平成15年度税制改正の実施に当たって

平成15年度税制改正を取り巻く経済情勢を見ると、景気は、持ち直しに向けた動きがみられるものの、デフレ傾向に改善がみられないことに加え、金融・経済情勢の不確実性が高まっている。かかる状況の下、政府は税制改革を含む構造改革の取組みを強化することが求められている。また、わが国の財政の現状を見ると、平成14年度予算では財政構造改革の第一歩として、歳出の思い切った見直しと重点的な配分に取り組んだ。しかし依然として歳出と歳入には大幅なギャップが生じており、政府は、平成15年度予算においても引き続き財政構造改革を推進することとしている。

このような状況の下、内閣総理大臣は第155回国会の冒頭で、「税制については、持続的な経済社会の活性化を実現するための「あるべき税制」の構築に向けて、抜本的な改革に取り組みます。現下の経済情勢を踏まえ、一兆円を超える、できる限りの規模を目指した減税を先行させます。公正かつ簡素で分かりやすい税制を目指し、多年度税収中立の枠組みの下で、全体を一括の法律案として次期通常国会に提出すべく検討を進めます。」との所信を表明した。

当調査会としては、先に述べた各税目の措置は、「あるべき税制」の構築の一環として、基本的には平成15年度において実施すべきであると考える。しかし、現下の経済情勢を踏まえ、その実施時期を調整することにより、全体として減税を先行させることも政策的判断としてやむを得ない。

これまでの累次にわたる減税の経験や「対話集会」の論議に鑑みれば、減税が投資や消費の活性化といった経済社会の活力回復に向けて本来期待される効果を発現させるには、財政の持続可能性について、安心できる将来展望を国民に示すことが不可欠である。したがって、減税を先行させるに当たっては、財政規律を維持することにより国民の将来不安を払拭し、改革を一体として進める必要がある。このため、内閣総理大臣の上記所信のように、一定期間での税収中立を図るとともに、全体を一括法とすべきである。このことは、言うまでもなく平成16年度以降において、更なる税制改革に取り組むことを妨げるものではない。

第二 平成15年度税制改正における個別税目の改革

一 個人所得課税

1.検討の方向

わが国の個人所得課税(国税:所得税、地方税:個人住民税)は、定率減税を含め累次の減税の結果、主要国と比較して税負担水準が極めて低く、基幹税として本来果たすべき財源調達や所得再分配などの機能を喪失しかねない状況にある。「基本方針」では、今後、こうした「空洞化」の状況を是正し、基幹税としての機能を回復させ、経済社会の構造変化への対応を図ることが課題であるとし、次のような「あるべき税制」の構築に向けた改革の方針を示した。

(1)諸控除

わが国の個人所得課税は、家族構成など個々人の生活上の事情を納税者の担税力の減殺要因とみて、様々な控除を設けている。このような控除のあり方について、「広く公平に負担を分かち合う」との理念の下、[1]社会保障等の生活関連の「インフラ」整備等の進展を考慮すれば、税制としては、できる限り簡素化・集約化する、[2]経済社会の中で行われる個々人の自由な選択に介入しないような中立的な税制にする、[3]「空洞化」を是正するため課税ベースを拡大する、との視点から見直す。このうち、基礎控除、配偶者控除、扶養控除からなる人的控除の基本構造については、更に検討を深める。

(2)税率構造

わが国の個人所得課税は、これまでの累進緩和(フラット化)や諸控除の拡充により、所得税でみると、納税者(民間給与所得者)の約8割が最低税率(10%)の適用のみで済むなど、大多数の納税者に対し極めて低い水準で負担を求めるものとなっている。個人所得課税が本来果たすべき財源調達機能や所得再分配機能の発揮の観点から考えれば、これ以上の税率の引下げは適当でなく、むしろ、最低税率のブラケット幅を縮小することが今後の選択肢として考えられる。

2.人的控除の簡素化・集約化

これまでの税制改正において、税負担の軽減のため、人的控除に係る各種の割増・加算措置の拡充等が講じられてきた。これらの措置については、経済社会の構造変化に即応して、個々人の自由なライフスタイルの選択に介入しないような中立的な税制にする観点から是正を図り、人的控除の簡素化・集約化を進める必要がある。

このような観点から、平成15年度税制改正においては、配偶者特別控除、特定扶養控除の廃止・縮減に取り組むべきである。

(1)配偶者特別控除が創設された際には、主に専業主婦世帯を中心に税負担を軽減することが念頭に置かれていた。その当時は、専業主婦世帯が最も典型的な家族類型であったが、その後の経済社会情勢の変化により、現在では、共働き世帯数が専業主婦世帯数を上回るようになってきた。女性の就業状況にも世帯主の補助的な就労から本格的な就労への移行傾向が見られるようになっている。こうした経済社会の構造変化も顧みれば、配偶者控除に上乗せして、言わば「二つ目」の特別控除を設けている現行制度は、納税者本人や他の扶養親族に対する配慮と比べ、配偶者に過度な配慮を行う結果となっている。したがって、当調査会としては、配偶者特別控除は廃止すべきであると考える。その際には、負担増に配慮して段階的な縮減も考えられる。また、パート労働者の就労を阻害しないよう、税引き後の手取りの逆転現象に対する所要の配慮措置を講じる必要がある。

(2)特定扶養控除などの人的控除に係る割増・加算措置等により、納税者の個別の諸事情に対して政策的な配慮を行うことにはおのずと限界がある。また、割増・加算措置等が追加されてきた結果、税制が複雑になっていることは否めない。したがって、これらの割増・加算措置等については、廃止を含め、制度をできる限り簡素化すべきである。

特に、特定扶養控除については、創設当時、中堅所得者層の負担感が強かったことへの配慮として、一定年齢(16歳以上23歳未満)の扶養親族を有する者に対し、扶養控除の割増措置を設けることとしたものである。しかしながら、一概に16歳以上23歳未満の扶養親族といっても、その就学状況等の実態は様々であるほか、特定扶養控除の創設当時と比べ、最低税率のブラケット幅の拡大等がなされた結果、中堅所得者層の税負担水準は大幅に低下している。以上のことを踏まえ、特定扶養控除は廃止・縮減することが適当である。

3.個人住民税

個人住民税の人的控除の見直しに当たっては、その負担分任の性格から、控除の水準が所得税より低くなるように見直すべきである。また、生計同一の妻に対する非課税措置をはじめ、均等割のあり方を見直すべきである。

4.引き続き検討すべき項目

(1)少子・高齢化が進展する中、高齢者と現役世代との間の公平確保を図ることが喫緊の課題である。かかる点を踏まえ、高齢者に対して適用されている老年者控除や種々の割増・加算措置のほか、公的年金等控除についても、平成16年度には年金制度改革が予定されていることも考慮し、その見直しを検討すべきである。その際、退職所得控除についても、雇用環境や慣行の変化を踏まえつつ、税負担の公平・中立を確保するよう見直すべきである。

(2)給与所得控除については、わが国の個人所得課税の「空洞化」の大きな要因となっており、引き続き、縮減を図る方向で検討すべきである。

(3)生損保控除や住宅ローン控除など、特定の政策目的のために設けられている控除については、税制の歪みを助長し、「空洞化」の一要因となっていることから、引き続き、厳しくその妥当性を吟味の上、廃止を含め見直しを行う。

二 法人課税

1.法人税

(1)検討の方向

法人税は、国際的に整合性がとれ、企業活動に対し歪みの少ない中立的な税制であることを基本とすべきであり、今後とも、経済社会の活性化のために、このような基本的考え方で法人税の改革を行っていくべきである。

国の法人税率については、累次の引下げにより既に先進国並みの水準となっており、開発途上国の水準を念頭に置いて、現在これ以上の税率引下げを行うことは適当ではない。所得税、消費税と並んで基幹税である法人税の負担水準の見直しについては、今後他の先進国との税率のバランスを踏まえ、所得税、消費税を含む税体系全体のあり方の見直しの中で、検討すべきである。

他方、わが国企業の競争力強化や産業構造の改革を進めるため、既存の租税特別措置等の統廃合を大胆に進め、真に有効な政策税制を集中・重点的に講じる必要がある。あわせて、活力ある中小企業の経営基盤を強化する中小企業税制の見直しを行うとともに、経済社会の変化に対応して、寄附に関する税制について見直しを検討する必要がある。

(2)政策税制の集中・重点化
[1] 研究開発税制

厳しい経済状況の下、研究開発の分野でも合理化・効率化が進められる中で、研究開発支出が「増加」した場合に税額控除を行う現行制度が有効に機能しなくなっている面がある。このため、研究開発支出の「総額」の一定割合を税額控除する制度を導入する。

その際、研究開発支出を増加させるインセンティブを高める観点から、基本的に売上高に占める研究開発支出の比率が高いほど、税額控除率を高く設定する。また、研究開発は21世紀のわが国を支える産業・技術の創出につながることから、制度の基幹的部分は期限を区切らない措置とする。

[2] 設備投資税制

一般的な投資促進税制は、企業が過剰な設備・債務を抱え、キャッシュフローを借入金の圧縮に充てている中で、設備投資の増加につながるか疑問である。また、競争力を失う産業にも優遇措置を与えるため、構造改革に逆行しかねない。したがって、真に有効な分野に集中・重点化した投資促進税制を創設する。

イ.IT投資の促進は、短期的な需要創出効果が見込めるだけでなく、広くわが国企業全体の事業効率化、付加価値向上につながることが期待できる。このようなIT投資に対し、集中的に政策効果を高める観点から、期限を区切り、重点的な政策税制を講じる。

ロ.研究開発を設備投資の面からもさらに支援するため、期限を区切り、研究開発用の機械、設備等の取得に対して支援措置を講じることにする。このような措置を採ることにより、特に、いわゆる重点4分野(バイオ、IT、環境、ナノテク)をはじめとする先端分野に係る設備投資が促進されるものと考えられる。

(3)連結付加税の取扱い

連結付加税については、連結納税制度の導入の目的、連結付加税創設の趣旨、税制の安定性、連結納税の選択の実態等を踏まえ、そのあり方を検討する必要がある。

(4)中小企業税制

中小企業を取り巻く環境が厳しさを増す中で、ベンチャー企業を含め活力ある中小企業の経営基盤を強化する必要がある。このため、特に研究開発税制において配慮し、同族会社の留保金課税を見直すなど、中小企業の税負担を軽減する措置を講じる。

(5)寄附に関する税制

広く企業や国民各層からの寄附活動を促し、NPO法人などによる公益活動の展開に資する観点から、必要な措置を講じる。その際、NPO法人の実態を踏まえつつ、認定NPO法人の認定要件を見直すべきである。

(6)その他

公益法人等に対する課税については、公益法人制度、中間法人制度、NPO法人制度の抜本的改革の動向を踏まえ、非営利法人課税全体のあり方の中で幅広く見直しを検討する。その際、公益法人等の収益事業課税や公益法人等及び協同組合等に係る軽減税率のあり方についても見直しを行う。また、新たな法人制度の姿に対応した寄附金税制のあり方についても、あわせて検討していく必要がある。

2.法人事業税(外形標準課税の導入)

法人事業税への外形標準課税の導入は、税負担の公平性の確保、応益課税としての税の性格の明確化、地方分権を支える基幹税の安定化、経済の活性化・経済構造改革の促進などの重要な意義を有する改革である。

外形標準課税については、厳しい景気の状況を踏まえ慎重に対処すべきとの意見もあったが、受益と負担の関係を明確にして真の地方分権の実現に資するため、早急に導入すべきである。

3.租税特別措置等の統廃合

租税特別措置等は、特定の政策目的を実現するための政策手段の一つであるが、「公平・中立・簡素」という租税原則に反する例外措置である。政策税制の集中・重点化を図るに当たっては、既存の租税特別措置等について、本格的な統廃合を行う。

このため、政策目的に国民的合意があるか、政策手段として税制を用いることが適当かどうかなどについて、十分に吟味していく必要がある。加えて、創設後長期間にわたっていないか、利用実態が低調になっていないか、特定の者、地域に偏った利益を与えていないか等の視点から、大胆に統廃合を進めていく必要がある。

また、事業税における社会保険診療報酬に係る課税の特例措置の見直しについては、長年、当調査会の答申において指摘してきた。これについては、税負担の公平を図る観点から、速やかに撤廃すべきであり、少なくとも段階的な見直しを図ることが必要である。

4.金融機関の不良債権処理と税制

わが国金融・産業の再生を図る観点から、金融機関の不良債権処理の加速は重要な課題である。このため繰延税金資産の取扱いをはじめとする諸課題に対し、金融行政、企業会計を含め全体として相互の関連を考慮しつつ検討しなければならない。その対応策の一環として、税制面の対応についても検討する必要がある。その際、課税の適正・公平の原則をはじめ、税務執行、企業全体に及ぼす影響等を踏まえねばならない。

三 消費税

1.検討の方向

消費税は、世代間の公平の確保、経済社会の活力の発揮、安定的な歳入構造の確保の観点から、今後、その役割を高めていかざるを得ない。そのためには、消費税に対する国民の信頼性、制度の透明性を向上させるための措置を講じる必要があり、中小事業者に対する特例措置等について、以下の方向で抜本的な改革を行う。また、消費者の便宜のため、価格の総額表示(含む税額明記)が促進されるよう配慮していく必要がある。

2.中小特例制度等の抜本的改革

(1)事業者免税点制度

事業者免税点の水準(課税売上高が3,000万円以下)は、消費税の創設当初から長期間にわたって据え置かれ、依然として6割強の事業者が免税事業者となっている。このため、消費者の支払った消費税相当額が国庫に入っていないのではないかとの疑念を呼び、これが消費税に対する国民の不信の大きな背景となっている。また、わが国の免税点水準は諸外国と比べても極めて高くなっている。

こうしたことを踏まえ、免税事業者の割合を現在の6割強から相当程度縮小させるべく、現行の免税点制度を大幅に縮小する。その際、法人については、既に法人税法に基づき申告・記帳の事務を行っていることから、免税事業者から除外すべきであろう。

(2)簡易課税制度

簡易課税制度については、これまで二度にわたり適用上限の引下げやみなし仕入率の改正が行われてきた。しかしながら、基本的にはすべての事業者に対して本則の計算方法による対応を求めるべきである。また、中小事業者の多くが納税額の損得を計算した上で適用している実態が認められる。こうしたことから、免税点制度の改正に伴い新たに課税事業者となる者の事務負担に配慮しつつ、簡易課税制度を原則廃止することが適当である。

(3)申告納付制度

申告納付制度については、これまでも消費税の預り金的性格に鑑み、いわゆる運用益問題の解消に資する観点から改正が行われてきた。このような消費税の性格を考慮し、納税者の事務負担や税務行政コスト等にも留意しつつ、申告納付回数の増加を図ることとする。

四 資産課税等

1.相続税・贈与税

(1)相続税・贈与税の一体化措置

高齢化の進展に伴って、相続による次世代への資産移転の時期が従来より大幅に遅れてきている。また、高齢者の保有する資産(住宅等の実物資産も含む)の有効活用を通じて経済社会の活性化にも資するといった社会的要請もある。かかる状況の下、相続税・贈与税の改革については、生前贈与の円滑化に資するため、生前贈与と相続との間で資産移転の時期の選択に対して税制の中立性を確保することが重要となってきている。こうした状況を踏まえ、相続税・贈与税の一体化措置を平成15年度税制改正において新たに導入する。この一体化措置は、従来の相続税と贈与税との関係を大きく見直すものであり、両税の抜本的改革として位置付けられるものである。

相続時点でなければ各相続人別の正確な相続税額は確定しないというわが国の相続税制度の特徴(遺産取得課税方式と遺産課税方式のいわゆる併用方式)を踏まえ、この一体化措置は、相続時の累積課税方式とすることが適当であり、相続時精算課税制度(仮称)として具体化を図ることとする(参照別紙)。

一体化措置の具体化に当たっては、住宅投資の促進にも資するとの観点にも留意すべきである。その際、現行の相続税・贈与税を前提とする住宅取得資金に係る贈与税の特例については、民法上の遺留分侵害を助長するおそれもあり、この一体化措置との間で整理が必要である。

(2)相続税の課税ベース及び税率構造
[1] 課税ベース

「基本方針」で指摘したように、相続税については、経済のストック化、社会保障の充実、高齢化の進展を踏まえ、従来より広い範囲に適切な負担を求める必要があり、基礎控除の引下げ等課税ベースの拡大を図る。

[2] 税率構造

相続税の最高税率については、個人所得課税の最高税率(50%)との較差が大きく、諸外国の例に比しても相当高いことに鑑み、現行の70%から引き下げることが適当である。

累進構造については、個人所得課税を補完し、富の再配分を図るとの相続税の役割を踏まえれば、最高税率を引き下げるものの、全体として現行程度の累進が適切なものと考えられる。

税率の刻み数については、簡素化の観点及び遺産額に応じたある程度滑らかな負担の変化を確保する観点を踏まえて見直す必要がある。

(3)贈与税(暦年課税)

一体化措置の対象とならない暦年課税の贈与税については存続することとなる。この場合、生前贈与による相続税の回避防止という性格は変わらないこと及び第三者に対する贈与についても課税対象となっていることを踏まえ、その累進構造については、相続税に比べて累進度の強い現状を維持すべきである。税率構造については、相続税に準じて見直すことが適当である。

2.固定資産税

(1)固定資産税は、どの市町村にも広く存在する固定資産に課税しており、税源の偏りも小さく市町村税としてふさわしい基幹税目であり、今後も本税の安定的な確保が重要である。また、土地・家屋・償却資産を通じた適切な評価に引き続き取り組む必要がある。情報開示については、制度改正を踏まえて積極的に推進すべきである。

(2)土地については、全国的な評価の均衡化・適正化の観点から、地価公示価格の7割を目途とした評価水準を維持することとする。また、連年の地価下落の下で、平成9年度以降主として都市部の商業地等の税負担感に配慮した負担調整措置を講じてきた。その結果、負担水準の均衡化についてはある程度進展しつつあるが、依然として地域や土地によって相当のばらつきが残っている。平成15年度以降の固定資産税の税負担については、評価替えの動向等を踏まえ、これまでの負担調整措置を基本に、負担の均衡化・適正化を一層促進する必要がある。

3.土地税制

土地税制については、土地の公共性や資産としての特性を踏まえ、税負担の公平を確保する観点から、土地という資産の取得・保有・譲渡の各段階において適切な税負担を求めていくことが重要である。

個人・法人を通じた土地譲渡益課税については、バブル期の対応として課税強化された部分は既に廃止・停止され、バブル以前の制度に戻っている。

登録免許税・不動産取得税については、土地に関し、課税標準である固定資産税の評価が、平成6年度評価替えにより地価公示価格の7割を目途に引き上げられたことから、それ以降、累次の負担調整措置が採られてきた。しかしながら、今日、土地市場が個々の土地の利便性、収益性を重視する方向へと構造的に変化している中、都市再生等土地の有効利用の促進に資する観点から、登録免許税・不動産取得税の軽減が求められている。

登録免許税については、上記の要請に応えるとともに、各種登記間の負担のバランスの是正を図る方向で、不動産に係る同税全般の見直しを検討する。

また、不動産取得税については、住宅及び住宅用地について既に大幅な軽減措置が講じられていること、都道府県財政を支える主要税目であることに配慮し、必要な軽減策を検討する。

特別土地保有税については、バブル期の対応として課税強化された部分は既に廃止されるなどそれ以前の水準まで戻っていることに留意し、申告手続など納税者負担の軽減策を検討する。

4.金融・証券税制

少子・高齢化と経済のストック化が進展する中、金融資産に対する課税は、今後、より重要性を高めることとなる。その際、広く公平に負担を分かち合い、簡素で分かりやすい税制を構築することを基本とすべきである。また、度重なる税制改正により課税関係が頻繁に変更されることは、決して望ましいことではない。今後の見直しに当たっては、制度の安定性にも配意すべきである。

また、簡素で安定した金融税制を構築することにより、「貯蓄から投資へ」といった、わが国金融のあり方をめぐる現下の政策要請にも応えられると考える。

こうした観点から、金融・証券税制については、今後、利子・配当・株式譲渡益に対する課税について、金融商品間の中立性を確保するとともに、できる限り一体化する方向を目指すべきである。この場合、将来の改革の方向として、金融所得の一元化、二元的所得税についても、総合課税とあわせ検討すべきである。

平成15年度税制改正では、こうした方向性を視野に入れて、配当課税や株式投資信託に対する課税について、簡素化・合理化を図る。また、既存の株式譲渡益に係る優遇措置は複雑で分かりにくく、できる限り簡素化する方向で改善していく。同時に、特定口座制度についても、投資家利便の向上に資する観点での見直しを行う。

五 その他の税目

1.酒税

酒税法上の酒類の分類は、消費者の商品選択や商品分類の基準となっている。酒類の区分(10種類)については、こうした点も踏まえつつ、税負担のあり方の検討とあわせ、酒類の原料、製法、性質などに着目して簡素・合理化を図ることが適当である。

酒税の負担については、税制の中立性や公平性の観点から、「同種・同等のものには同様の負担」という消費課税の基本的考え方に則って、厳しい財政事情等も踏まえ、酒類間の税負担格差の縮小を図ることが適当である。

2.たばこ税

欧米主要国においては、近年、たばこの税負担が引き上げられてきている。

たばこの税負担のあり方については、小売価格に占める税負担割合の状況、消費動向、諸外国の動向、財政状況などを総合的に勘案し、税率引上げの是非を検討していく。

3.特定財源とエネルギー関係諸税等

特定財源は、特定の公的サービスからの受益と負担との間に密接な対応関係が認められ、そのサービスの財源を制度的に確保する必要がある場合、その財源確保に有効な仕組みではある。しかし、一方では資源の適正な配分を歪め、財政の硬直化を招く傾向もあり、常にその妥当性を吟味していかねばならない。

このような観点を踏まえれば、揮発油税等の道路特定財源等については、依然として道路整備の必要性のためこれを維持すべきとの意見もあったが、当調査会としては、一般財源化を含め、そのあり方の見直しを行うべきと考える。当面、適用期限を迎える揮発油税等の暫定税率については、自動車の社会的コストや環境の保全を考慮し、現行の水準を維持することとする。

また、エネルギー対策に充てられる石油税等の特定財源については、使途の妥当性を吟味した上で、そのあり方を検討すべきである。

4.環境問題への対応

京都議定書の目標達成に向けて、この3月に見直しが行われた地球温暖化対策推進大綱においては、「税・課徴金等の経済的手法については、他の手法との比較を行いながら、様々な場で引き続き総合的に検討する」こととされている。いわゆる「環境税」の導入も含めた環境問題に対する税制面での対応については、国民に広く負担を求めることになる問題だけに、国民の理解と協力を得て、今後、積極的に検討を進めていくことが望ましい。この際、国・地方の環境施策全体の中での税制の具体的な位置付けを踏まえ、汚染者負担の原則(PPP)に立って幅広い観点から検討していく必要がある。また、既存のエネルギー関係諸税等との関係についても検討すべきであろう。

5.国際課税

国境を越える取引の多様化・複雑化が急速に進展する一方、課税に関する税務当局の権限が及ぶ範囲には限界がある。かかる状況において、わが国において適正な課税を確保するためには、こうした取引に関する情報を税務当局が的確に把握することがますます重要となっている。例えば国境を越える関連者間の取引について、納税者の有する資料情報を、取引内容の正当性を検証するため税務当局がより一層把握できるようにすることが必要である。

また同様の観点から、租税条約に基づく情報交換など国際協力の枠組みを積極的に活用する必要性も高まっている。わが国においては現在、条約相手国からの情報提供要請に応じるための税務当局の情報収集権限は認められていない。このため、租税条約が相互主義を前提としている結果、わが国が条約相手国から得られる情報の範囲が制約されている。条約相手国からわが国の必要とする情報の提供を受けることができるよう、わが国としても条約相手国からの情報提供要請に応じて情報を収集するための制度を早急に整備すべきである。

条約相手国において減免された税額について納付されたものとみなしてわが国の税額から控除するみなし外国税額控除については、開発途上国からの強い要請を受け、これらの国々の経済状況等も踏まえ、租税条約において特例的な取扱いとして認めているものである。しかしながら、課税の公平性や中立性の観点から、近年締結・改正した条約においては適用期限を付するなどできる限り見直し・縮減を図ってきている。一部の租税条約にある、適用期限の付されていないみなし外国税額控除についても、今後、条約改正の機会を捉えて廃止・縮減に努めるべきである。

六 納税環境整備

1.電子申告

情報化・電子化を活用して納税者利便の向上等を図る観点から、電子申告や電子納税の導入を目指し準備が進められている。申告や納税は国民生活に密着したものであることから、システムの安定的な稼動やセキュリティの確保等に留意しつつ、円滑な導入を図ることが必要である。

2.公示制度

昭和25年に導入された公示制度は、主として第三者による監視という牽制的効果により、適正な申告の確保を図ることを目的としている。しかしながら、同制度については、所期の目的外に利用されている面があることや、犯罪や嫌がらせの誘発の要因となり、個人のプライバシーへの配慮の観点からは問題が多いと考える。また、第三者による監視という制度本来の意義に疑問が呈されており、今後、制度の廃止を含めて検討する必要があろう。その際、国民一般から見て申告納税制度の信頼度が低下することは好ましくないため、公示制度の廃止の代替という観点からも、グローバル化や情報化・電子化の進展と対応して、資料情報制度の充実等納税環境整備についてあわせて検討する必要がある。他方、高額納税者が社会的に評価されることの重要性についても何らかの方法で配慮する必要があろう。

(別紙) 相続時精算課税制度(仮称)の概要

[適用対象者]

本制度の趣旨から、その適用対象者として、贈与者は一定の高齢者とし、受贈者は「次世代」であって贈与者と将来相続関係に入る者で、贈与を受けた資産を管理処分できる者とすることが考えられる。具体的には、贈与者は65歳以上の親、受贈者は20歳以上の子である推定相続人(代襲相続人を含む。)とする。

[適用手続]

本制度は選択制とし、受贈者である兄弟姉妹が別々に、贈与者である父、母ごとに選択できる。

[適用対象となる贈与財産等]

本制度の適用対象となる贈与財産の種類、金額、贈与回数には制限を設けない。

[税額の計算]

本制度を選択した受贈者(子)は、本制度に係る贈与者(親)から受けた贈与財産について、贈与時に他の贈与財産と区別して、贈与税(相続時精算課税制度に係るもの。以下、「贈与税」という。)を支払う。

本制度を選択した受贈者(子)は、その後の相続時に、それまでの贈与財産と相続財産とを合算して計算した相続税額から、既に支払った「贈与税」相当額を控除する。その際、相続財産と合算する贈与財産の価額は贈与時の時価とし、相続税額から控除しきれない「贈与税」相当額は還付する。

[贈与時の課税の仕組み]

贈与段階で支払う「贈与税」の課税の仕組みについては、最終的に相続時に精算されることを前提にした各年での概算払いという性格を有することから、簡素なものとする。

<控除>

受贈者(子)の申告を前提に、一定金額に達するまでの贈与については、「贈与税」の非課税措置(特別控除等)を講じる。その水準については、定額部分と法定相続人比例部分からなる相続税の基礎控除の水準との関連を踏まえて設定する。この非課税措置(特別控除等)は、その限度額を使い切るまで多年分にわたり利用できることとする。

<税率>

税率については、一律又は2段階程度の極力簡素な税率構造とし、具体的な税率水準は、上記の非課税措置(特別控除等)の水準との適切な組み合わせの中で設定する。