あるべき税制の構築に向けた基本方針

平成14年6月
税制調査会

目次

  • はじめに
  • 第一 基本的考え方
  • 第二 個別税目の改革
    • 一 個人所得課税
      • 1.個人所得課税の現状と課題 -基幹税としての機能の回復-
      • 2.今後の改革の方向
        • (1)基本的考え方 -広く公平に負担を分かち合う-
          • [1] 諸控除
          • [2] 税率構造
          • [3] 恒久的な減税
        • (2)諸控除の見直し
          • [1] 家族に関する控除
          • [2] 高齢者に関する控除
          • [3] 給与・退職金に関する控除
          • [4] 政策的措置としての控除
        • (3)個人住民税のあり方
          • [1] 基本的考え方
          • [2] 所得割
          • [3] 均等割
    • 二 法人課税
      • 1.法人税
        • (1)法人税の現状と課題 -財源調達機能と経済社会の活性化-
        • (2)今後の改革の方向
          • [1] 基本的考え方 -歪みの少ない中立的な税制の構築と政策税制の重点化-
          • [2] 政策税制の集中・重点化 -明確な国家戦略を前提とした重点的な措置-
          • [3] 経済社会の新しい動きへの対応
      • 2.法人事業税 -外形標準課税の導入-
    • 三 消費税
      • 1.消費税の現状と課題 -安定的な基幹税目とするために-
      • 2.今後の改革の方向
        • (1)基本的考え方 -国民の信頼性の向上を図り消費税の役割を高める必要性-
        • (2)信頼性、透明性の向上に向けた改革-中小事業者に対する特例措置の抜本的な改革等-
          • [1] 中小事業者に対する特例措置
          • [2] 申告納付制度
          • [3] 総額表示方式(消費者に対する価格表示のあり方)
          • [4] インボイス制度
        • (3)税率構造等
        • (4)地方消費税
    • 四 資産課税等
      • 1.相続税・贈与税
        • (1)改革の基本的考え方 -経済社会の構造変化への対応と負担の適正化-
        • (2)相続税の改革の方向性
          • [1] 課税ベース
          • [2] 税率構造
        • (3)贈与税の改革の方向性
          • [1] 相続税・贈与税の一体化
          • [2] 第三者に対する贈与の取扱い
      • 2.固定資産税
        • (1)固定資産税の現状と課題
        • (2)今後の改革の方向性
      • 3.土地税制・住宅税制のあり方
      • 4.金融税制のあり方
    • 五 その他
      • 1.酒税、たばこ税
        • (1)酒税
        • (2)たばこ税
      • 2.特定財源等とエネルギー関係諸税等
      • 3.環境問題への対応
      • 4.国際課税
      • 5.課税自主権の尊重
    • 六 納税者の信頼確保に向けた基盤整備
      • 1.納税者番号制度
      • 2.源泉徴収・年末調整
      • 3.公示制度
      • 4.その他
  • 補論

はじめに

21世紀に入った今日、現行税制の抜本改革は避けて通れない課題となっている。現在われわれのもつ税制の基本的理念、骨格は、昭和25年に導入されたシャウプ税制に大きく依存している。爾来半世紀が経過し、戦後形成された日本経済のシステムが大きく変化した。高齢化社会の到来などを見据え、消費税の導入、個人所得課税の累進緩和等の抜本的な税制改革が行われたが、その後、少子・高齢化やグローバル化の予想以上の進行など加速しつつある経済社会の構造変化に税制が十分に対応しきれていない。今後10年あるいは20年を視野に入れた税制の再構築が求められている。

当調査会は、平成12年9月の森内閣総理大臣からの諮問に基づき、昨年7月に基礎問題小委員会を設置し、中長期的な税制のあり方について検討を開始した。本年1月、小泉内閣総理大臣の指示を受け、中長期的な視点からのわが国税制の抜本改革に向け本格的な審議を始めた。それ以来、約6ヶ月間にわたり審議を進め、全国6ヶ所で開催した「税についての対話集会」での結果も踏まえ、あるべき税制の全体像について、基本的な方針を公表することとした。小泉内閣総理大臣の指示は、将来のわが国税制のあるべき姿を、中長期的な構造改革の視点から、「予断なく、予見なく」、また、「聖域なく」議論して欲しいというものであった。また、仮に、短期的な経済活性化のための税制見直しを行うとしても、あくまで中長期的な基本的方向との整合性を図るべきであるとの指示も受けた。この税制改革に対する取り組み方は、当調査会の目指す方向とまったく軌を同じくするものである。

かかる視点から、われわれは短期的な視点というより、21世紀前半をも視野に入れた中長期の時間軸の中でわが国税制のあるべき姿を検討することにした。今回示すものはあるべき税制の全体像についての基本的な方針であり、個別税目に関する見直しの具体的な内容や着手すべき時期については、これからの審議を待たねばならない。

戦後半世紀を経た税制の抜本的な改革という狙いから、改革の内容もかなり広範囲でかつ大規模なものとなる。構造上の歪みを改める狙いから、結果として負担増の方向になる見直しの部分もかなり生じてくる。しかしながら、われわれはこの改革案を本年度あるいは次年度から一度に実施に移そうと提案しているのではない。その実施に当たっては、段階を追って慎重に進めねばなるまい。勿論、実施に当たっては、まずは、徹底した歳出削減、行政改革の断行により国民の理解を得ることが不可欠である。社会保障、公共事業、地方財政などあらゆる分野にわたり、大胆な歳出削減に当たらねばならない。今後とも、納税者が税の使い途に信頼を置くことができるよう、目に見える形で無駄な歳出を徹底的に削減することが求められる。また、持続可能で効率的な社会保障制度のあり方について議論を深める必要もあろう。今後とも、少子・高齢化社会の下で財政赤字累増にあえぐ日本において、中長期的観点からどのような税制の姿とすべきなのかを示したつもりである。この提案を受け、「あるべき論」としての税制の再構築等に関し、広く建設的な議論が行われることを期待したい。

第一 基本的考え方

一 経済社会の活性化に向けたあるべき税制の構築

21世紀を迎え、少子・高齢化、ライフスタイルの多様化、グローバル化、情報化、経済のストック化、地球温暖化等の環境問題への意識の高まりなど、経済社会の構造は大きく変化している。とりわけ少子・高齢化は予想以上の速さで進行している。最新の人口推計によれば、出生率は一段と低下し、2006年をピークに人口が減少に転じる。生産年齢人口は今後継続して減少すると見込まれている。また、情報化の急速な進展、グローバル化のかつてない速さでの広がりの中で、世界規模での企業競争はますます激化している。

現在、国民の経済社会の先行きに対する閉塞感が深まっている。少子・高齢化が進展し、生産年齢人口が減少する中で、経済社会の様々な構造変化に的確に対応できなければ、わが国は活力を喪失し、長期的に低迷の道を歩みかねない。持続的な経済社会の活性化を実現するため、広範な制度改革を含む構造改革が急務である。税制についても、その一環として、中長期的視点に立って、あるべき改革の全体像を明確に示し、これを実行していくことで、国民の自信と意欲、国家への信頼を回復させ、経済社会の活性化を図る必要がある。

二 あるべき税制の構築に向けた視点

経済社会の活性化に向けたあるべき税制の検討に当たっては、引き続き「公平・中立・簡素」の原則(補論参照)を基本とすべきであるが、特に、上記のようなわが国を取り巻く状況を考慮すれば、以下の四つの視点を踏まえることが重要である。

1.自由な経済活動を妨げない税制 -効率的な資源配分と政策の集中-

わが国は高度経済成長の過程で画一化した経済社会が形成され、政策誘導型の施策が重視された。税制においても特定の政策目的実現のため租税特別措置が活用されてきた。しかしながら、21世紀の世界規模での市場経済化、価値観の多様化した経済社会においては、民主導による市場を通じた効率的な資源配分が従来にもまして徹底されねばならない。税制についても、経済社会の活力が発揮されるよう、個人や企業の自由な選択を妨げず、経済活動に中立で歪みのないことを基本とせねばならない。こうした観点から既存の政策誘導的な税制上の措置の整理・合理化を進めつつ、政策税制は真に有効な分野に集中すべきである。

2.課税の適正化・簡素化 -税制への信頼、社会への参画-

少子・高齢化など様々な構造変化に対応しきれず、結果的に税負担の歪みや不公平感を生じさせている税制上の諸措置を放置した場合には、国民の税制への信頼、社会参画への意欲を失わせ、社会の活力を低下させるおそれがある。社会共通の費用を国民皆が広く公平に分かち合うという観点から、こうした措置の適正化を図っていく必要がある。

さらに、納税者の税制への信頼確保の観点からは、制度面のみならず執行面での適正化に努めることも極めて重要である。この観点から、納税者にとって分かりやすい簡素な税制を構築する必要もある。簡素な税制は経済活動を行う際の予測可能性を高め、納税コストの低下を通じて、経済社会の活性化に寄与する。

3.安定的な歳入構造の構築 -持続可能な財政の確立と将来不安の払拭-

持続的な経済社会の活性化を考えるに当たっては、安定的な歳入構造の構築も重要な課題である。わが国の財政は、多額の長期債務残高を抱え(平成14年度末の国・地方の長期債務残高見込み約693兆円、対GDP比約140%)、債務の累増に歯止めがかかっていないなど国・地方を通じて極めて厳しい状況にある。これが将来世代への重荷となっている。さらに、社会保障制度の改革を行っても、少子・高齢化の進展に伴い、今後、年金・医療給付などの増大は避けがたいと見込まれる。他方、これを賄う租税の現状は、約81兆円の国の歳出額に対して約47兆円の税収(平成14年度予算ベース)に留まっており、租税負担率は主要国の中で最低水準である。社会共通の費用を賄うという租税の役割(財源調達機能)は十分に果たせていない。

このような状況は、財政の持続可能性に対する懸念を通じて国民の将来不安を招く一因ともなっている。経済社会の活力を回復していくためには、こうした不安を払拭することが重要である。このため、必要な公共サービスを支えるに足る安定的な歳入構造の構築が必要である。

今後、持続可能な財政の確立に向けて、21世紀初頭のできるだけ早い時期にプライマリーバランスの均衡化を達成することが求められる。このため、歳出面での徹底した改革を強力に進めることが不可欠であるが、租税負担水準の引上げは不可避である。

現下の経済事情から租税負担率の引上げ自体が当面の課題になり得ないにしても、税制改革の推進に当たってはこの方向性に反しないことが最低限必要である。仮に経済社会の活性化のために真に有効な措置として減税を行う場合であっても、そのことが財政の悪化を招くことのないように、具体的な増税と一体として措置すべきである。

4.地方分権と地方税の充実確保

地方税は、地域における行政サービスの経費を地域住民がその能力と受益に応じて負担し合うものである。このことから、応益性を有し、薄く広く負担を分かち合うものであること、さらに、税収が安定したものであることが望ましい。また、自主的な課税を行いやすい税体系であることも重要である。

一方、地方税の現状は、地方の歳出規模と地方税収入が乖離しているほか、個人、法人とも税負担をしない者の割合が大きく地方税の応益的性格が損なわれかねない状況になっており、また、特に都道府県の税収は極めて不安定である。

そのような中、わが国の構造改革の重要な柱として、地方分権を推進し、自立した国・地方関係を確立し、活力と個性のある地域社会を実現していくことが求められている。地方の自律性を高めるためには、市町村合併の推進や地方歳出に対する国の関与の廃止・縮減などによる地方行財政の効率化を前提に、地方公共団体が一層の情報開示を進め、受益と負担の対応関係を意識しつつ自らの責任と判断で地域のニーズに応じた行政サービスを実施できるよう自主財源を中心とした歳入基盤を確立することが必要である。

このためには、地方税の現状を望ましい姿に改革することを目指し、税源の偏在性が少なく、税収の安定性を備えた地方税体系を構築するとの観点から、地方税の充実確保を図ることが重要となる。

三 あるべき税制が目指す方向

これまで課税ベース拡大、税率引下げといった「広く薄く」の観点から、昭和62・63年の抜本的税制改革以降、消費税の創設・充実を図る一方で、個人所得課税の累進緩和、法人税率の引下げ等を実現してきた。こうした中、上記の視点から今後のあるべき税制を考えると、その改革の主な方向は以下のとおりである。

個人所得課税については、累次の減税の結果、税負担水準が極めて低いものとなっており、基幹税としての機能を回復する必要がある。同時に、経済社会の構造変化に対応するため、諸控除の見直しなどを図る必要がある。

法人課税については、経済のグローバル化が進展する中で、企業の自由な活動を妨げない中立的な税制の構築を基本とすべきである。同時に既存の租税特別措置の大幅な整理・合理化を進めつつ、経済社会の活性化の観点から真に有効な措置を集中的・重点的に措置する必要がある。

消費税については、世代間の公平の確保、経済社会の活力の発揮等の観点から、今後、その役割を高めていく必要がある。制度に対する国民の信頼感を高めるべく適正化を図り、税率水準の見直しを図ることが課題である。

相続税・贈与税については、富の再分配という機能、少子・高齢化や経済のストック化の進展を踏まえ、最高税率を引き下げつつより広い範囲に適切な負担を求めるべきである。また、生前贈与の円滑化の観点から、相続税・贈与税の調整について一体化を図る必要がある。

また、地方税の改革の方向については、地方税の充実確保の一環として、国と地方の役割分担の見直しを踏まえ、国庫補助負担金の整理・合理化や地方交付税の財源保障機能のあり方の見直しと併せて、税源移譲を含め国と地方の税源配分のあり方について根本から見直すべきである。その際、国・地方それぞれの財政事情や個々の自治体に与える影響を考慮に入れる必要があろう。国・地方を通じる税負担の水準について再検討することも必要である。

地方税の応益性の確保のために、個人住民税における所得割の諸控除や均等割の見直し、法人事業税への外形標準課税の導入、固定資産税の安定的確保、課税自主権の尊重などの対応が考えられる。

こうした措置を着実に実施に移していくことにより、所得・消費・資産等の間でバランスのとれた税体系に配意しつつ、21世紀初頭において国民皆が広く公平に負担を分かち合う観点からあるべき税制を構築し、持続的な経済社会の活性化を実現していくことが課題である。

第二 個別税目の改革

一 個人所得課税

1.個人所得課税の現状と課題 -基幹税としての機能の回復-

わが国の個人所得課税(国税:所得税、地方税:個人住民税)は、累次の減税の結果、主要国との比較において、税負担水準(税収の対国民所得比、個々人の税負担割合等)が極めて低く(「狭く薄い」)、基幹税として本来果たすべき財源調達や所得再分配などの機能を喪失しかねない状況にある。個人所得課税制度の検討においては、こうした「空洞化」の状況を是正し、その基幹税としての機能を回復する必要がある。同時に、少子・高齢化など経済社会の構造変化の中で、税負担に歪みが生じている面があればこれを是正するとともに、根強い「不公平感」にも対処していかなければならない。

あるべき個人所得課税制度を将来にわたり構築する過程においては、税負担の増加も課題にならざるを得ない。その場合、負担増が急激なものにならぬよう、段階的に実施していくことが考えられる。

2.今後の改革の方向

(1) 基本的考え方 -広く公平に負担を分かち合う-
[1] 諸控除

わが国の個人所得課税の「空洞化」を示すものとして、就業者総数に占める非納税者の割合や、課税最低限の高さが指摘できる。課税最低限は一定の基本的な控除の積上げであり、その水準は納税者と非納税者を分かつメルクマールとなるだけでなく、全ての納税者の課税所得金額を左右する。課税所得は、税率とともに税負担の最も基礎となる要素であり、諸控除のあり方の見直しは、「広く公平に負担を分かち合う」との理念の下、極めて重要な課題である。今後、その見直しを行っていくに際しては、次の3点が重要な視点となろう。

イ.所得税・個人住民税においては、婚姻、育児、老齢等の様々な生活の局面に応じ、各種の控除が措置されている。個々人の事情を斟酌し得ることは、この税目の重要な長所であるが、これまでに社会保障等の生活関連の「インフラ」整備等が進展してきたことも踏まえれば、税制としてはできる限り簡素化・集約化する方向を目指すことが適当である。

ロ.諸控除の見直しに当たっては、男女共同参画社会の進展や雇用慣行の変化等のライフスタイルの多様化、少子・高齢化の進展といった構造変化に対し、税負担に歪みが生じないような、また、経済社会の中で行われる個々人の自由な選択に介入しないような中立的な税制とすることも重要である。

ハ.高齢化の進展により、公的年金等控除などによる課税ベースの縮小がますます加速する。この「空洞化」を是正するためには、課税ベースを拡大する方向で諸控除のあり方を見直すことが必要である。

[2] 税率構造

税率については、その引下げや刻み数の簡素化により最低・最高税率ともに主要国に比して低い水準にある。さらに、最低税率が適用される所得金額の範囲(ブラケット)が拡大されてきた。所得税について見ると、現在、納税者(民間給与所得者)の約8割が最低税率(10%)の適用のみで済むという主要国の中でも特異な状況となっている。このように見ると、わが国の所得税制は、これまでの累進緩和(フラット化)等により、大多数の納税者に対し極めて低い水準で負担を求めるものとなっている。

個人住民税については、その負担分任の性格のため、所得税よりも緩やかな累進構造となっている。また、納税義務者の約6割が最低税率(5%)のみの適用となっている。

こうした税率構造の累進緩和は、昭和62・63年の抜本的税制改革の際、有価証券譲渡益を原則課税化するなど課税ベースを拡大するとともに、勤労意欲や事業意欲等に配慮する観点から実施され、更にその後も景気対策等の観点から減税が行われた結果である。

本来果たすべき財源調達機能や所得再分配機能の発揮の観点から考えれば、これ以上の税率の引下げは適当ではない。むしろ、現在の最低税率のブラケットの幅を縮小することが今後の選択肢として考えられる。(補論参照)

[3] 恒久的な減税

平成11年度に実施され、現在も継続しているいわゆる「恒久的な減税」は、所得税・個人住民税をあわせて約4.1兆円の規模にのぼる。この「恒久的な減税」、とりわけ定率減税(約3.5兆円)は、景気回復に最大限配慮した負担軽減を主眼とした措置であるので、経済情勢を見極めつつ、廃止していく必要があろう。

(2) 諸控除の見直し
[1] 家族に関する控除

イ.人的控除の簡素化・集約化

(イ) 所得税・個人住民税においては、家族構成など個々人の生活上の事情を納税者の担税力の減殺要因とみて、様々な人的控除等を設けている。これらについては、以下の点を考慮し、(1)[1]で述べた視点から検討されるべきである。

a 制度創設時と比べ社会保障や教育等の分野において各種の「インフラ」が整備されてきている一方、個々人の生活上の事情は様々であり、税制で個別に配慮することには自ずと限界があるほか、生活が豊かになり、配慮すべき事情についての国民の価値観も多様化していること

b 割増・加算措置が追加されてきた結果、本人に係る控除に比べ家族に係る控除の方が大きくなっており、また制度が複雑になっていること

(ロ) 具体的には、次のような適正化措置を講じることにより、基本的には、家族に関する控除を基礎控除、配偶者控除、扶養控除に簡素化・集約化すべきと考える。

a 特定扶養控除、老人扶養控除等の様々な割増・加算措置、勤労学生控除や寡婦(夫)控除等の特別な人的控除は、廃止を含め、制度をできるかぎり簡素化すべきと考える。なお、障害者控除のように真に配慮が必要な者についての控除については引き続き存置する。

b 配偶者特別控除については、配偶者の収入の増加に応じて世帯主本人の控除額が減少する仕組みがとられていることにより、パート労働者の就労調整の原因とされる世帯の税引後手取りの逆転現象は税制上解消されている。しかしながら、配偶者控除の上乗せという仕組みであるため、配偶者については世帯主本人に二つの控除が適用されることとなり、本人や、他の扶養親族に係る配慮とバランスを失することとなっている。また、男女共同参画社会の形成の観点からは、男女の社会における活動の選択に対し中立でないという指摘も多い。これらを踏まえれば、配偶者特別控除については、基本的に制度を廃止することが考えられる。なお、その際、税引後手取りの逆転現象について税制上何らかの配慮は必要であろう。

ロ.人的控除の基本構造の更なる見直し
次に、これらの3控除(基礎控除、配偶者控除、扶養控除)からなる人的控除の基本構造の更なる見直しについては、論点を明確化するため、あえて次の三つの異なる考え方を示し、国民の議論に付したい。

この際、考え方2または考え方3のように、配偶者控除や扶養控除を廃止する場合には、基礎控除を拡充することをあわせ考慮に入れる。

(考え方1-基礎控除、配偶者控除、扶養控除の三つの人的控除で構成する)

扶養による担税力の減殺に配慮するという、現行の人的控除の趣旨を踏まえたもの。さらに、配偶者と扶養親族との区別をなくすことにより、「家族控除(仮称)」と基礎控除の二つに集約する案もある。ただし、男女共同参画社会の形成の立場からは、配偶者特別控除の廃止(前述)にとどまらず、配偶者控除そのものも廃止すべきとの意見もある。

(考え方2-配偶者控除を廃止するとともに、扶養控除については児童及び老齢の親族のみに対象を限定する)

基本的には本人の基礎控除のみとするとの考え方に基づくもの。成人は自ら就労して所得を稼得し、自らに基礎控除を適用する可能性を持つため、これを扶養する者について扶養控除の適用を認めない。しかし、児童及び老齢の親族については、就労する機会も乏しく、自らに基礎控除を適用する可能性が少ないことから、扶養控除として取り込むという趣旨。扶養に伴う担税力の減殺に配慮しないことに加え、親族が一定の年齢に達するだけで本人の税負担が急変してしまうなどの問題がある。

(考え方3-配偶者控除及び扶養控除を廃止する一方、児童の扶養について税額控除を設ける)

本人の基礎控除のみとするとの考え方を徹底しつつ、別途、児童の養育に対し、税額控除という形で配慮するもの。所得控除と異なり、所得の多寡にかかわらず同等の配慮が可能となる(ただし、非納税者には及ばない)。他方、扶養に伴う担税力の減殺を全く認めないといった考え方は個人所得課税制度になじみにくく、また、他の所得控除と税額控除が混在することとなるため制度として複雑になる。

[2] 高齢者に関する控除

現在、高齢者本人に対しては、老年者控除(適用所得要件1,000万円以下)や公的年金等控除の定額控除等の割増が適用されているなど、税負担面で様々な配慮が行われている。一方、高齢社会対策大綱(平成13年12月 閣議決定)においては、「年齢だけで高齢者を別扱いする制度の見直し」が課題とされている。

少子・高齢化が進行していく中、高齢者に関する控除を見直し、高齢者と社会保障制度等を支える現役世代との間の公平確保を図ることは喫緊の課題である。OECDの調査によれば、わが国は社会保障給付に対する課税額の割合が極端に低いと指摘されている。公的年金等収入を課税対象として取り込んだ上で、能力に応じた負担を求めることは、実質的な給付水準の調整を通じて世代間の公平のみならず、高齢者間の公平にも資することになろう。

公的年金等については、拠出段階で社会保険料控除により全額控除されているにもかかわらず、給付段階に公的年金等控除等が設けられ、拠出・給付両段階で実質的に非課税に近いものとなっている。また、年金以外に給与を得ている者にとっては、給与所得控除と公的年金等控除が各々適用されることとなっている。

こうした観点を踏まえ、老年者控除については、その適用所得要件を見直すなど、真に配慮すべき高齢者に対する控除としての位置づけを明確にすべきである。また、公的年金等控除については、社会保険料控除がある以上、本来不要とも考えられる。しかし、当面、少なくとも世代間の公平を図る観点から、定額控除の割増と老年者控除との関係を整理するなど、大幅に縮減する方向で検討する必要がある。なお、社会保険料控除等については、年金制度が多様化し、任意性の強い拠出も見られてきているので、その対象範囲を吟味していかなければならない。

[3] 給与・退職金に関する控除

イ.給与所得控除は、マクロ的に見るとその総額(平成14年度予算ベースで62.8兆円)は、給与総額(222.8兆円)の約3割の水準になっている。これは、給与所得者の必要経費に関する概算的な控除としては説明しきれない高い水準と言える。主要国における勤務費用の概算控除は定額であったり控除限度額が設定されており、これと比較してわが国では控除額の上限がない点も問題である。

当調査会は、従来、給与所得控除の性格について、「勤務費用の概算控除」のほか、被用者特有の事情に配慮した「他の所得との負担調整のための特別控除」という二つの要素を含むものと整理してきた。昨今、被用者は就業者の約8割を占めるようになっており、また、多様な就業形態を選択する者が増加している。このような中で、被用者特有の事情に特に配慮する必要性は低下してきていると考える。

上記のような事情を踏まえると、給与所得控除については、勤務費用の概算控除としての合理的な水準を見極めつつ、縮減を図る方向で検討する必要がある。

なお、一般の被用者の間では、事業経営者は法人形態を利用して税負担の軽減を図り得る、その所得捕捉が十分に行われていないのではないか、といった不公平感が根強い。このため、給与所得控除の縮減を図る上では、こうした不公平感をも念頭に置いて対処する必要がある。

また、勤務に直接必要な特定の支出を実額で控除する仕組みとして特定支出控除制度が設けられている。しかし、その適用例は未だ僅少である。今後、給与所得控除の水準を縮減すれば、特定支出控除の選択的適用が増加することになろう。また、同制度の対象となる特定の支出の範囲は主要国と比較して狭いものではないが、社会経済情勢の変化を踏まえ、その範囲についての検討も必要であろう。

ロ.退職金については、その支給実態が企業によって様々であるにもかかわらず、勤続年数に応じて一律に控除額が算出され、また、勤務年数が短期間でも所得の2分の1のみに課税されるなど制度的に必ずしも合理的とは言えない面がある。特に退職所得控除は、勤続年数20年を境に1年当たりの控除額が40万円から70万円に増える仕組みとなっている。

近年、中途退職や転職の増加、退職金の支給形態の変化、退職金を支給するかわりに給与を増額する企業の存在など、雇用環境や慣行が変化している。

退職金に対する課税のあり方については、就労や退職金支給の実態を踏まえつつ、税負担の公平・中立を確保するよう見直す必要がある。

[4] 政策的措置としての控除

生損保控除や住宅ローン控除など、特定の政策目的のために控除が設けられており、税制の歪みを助長し、更には空洞化の一要因となっている。

今般、人的控除などの税制の基本構造に関わる部分についても、課税ベース拡大という視点から廃止、縮減の方向を検討する以上、政策的措置としての控除については、より厳しくその妥当性を吟味の上、廃止を含め見直す必要がある。

(3) 個人住民税のあり方
[1] 基本的考え方

個人住民税は、地域社会の費用を住民がその能力に応じ広く負担を分任するという独自の性格(負担分任の性格)を有するとともに、地方公共団体が少子・高齢化に伴い提供する福祉等の対人サービスなどの受益に対する負担として、対応関係が明確に認識できるものであり、また、税収入の面で見れば、税源の偏在性が少なく、税収の安定性を備えていることなどを踏まえ、地方税の基幹税として充実確保を図る必要がある。

[2] 所得割

所得割の所得控除及び課税最低限については、個人住民税の負担分任の性格から所得税に比較してより広い範囲の納税義務者がその負担を分かち合うべきものであるため、所得税より低い水準で設定すべきである。

[3] 均等割

均等割の税率は、これまで数次にわたり改正が行われてきたが、国民所得等の推移と比較すると、なお低い水準にとどまっている。

均等割の税率について、人口段階区分に応じた税率の格差の縮小を含め、その水準の見直しを図る必要がある。

また、生計同一の妻に対する非課税措置については、男女共同参画社会の進展を踏まえ、個人単位課税の観点からそのあり方を見直す必要がある。

二 法人課税

1.法人税

(1) 法人税の現状と課題 -財源調達機能と経済社会の活性化-

累年にわたる法人税率の引下げと近年の企業収益の悪化等により、法人税収は著しく減少してきており、法人税収の国税収入に占める割合は20%台前半まで低下してきている。また、全法人の約7割が欠損法人となっている。

今後、企業活動のグローバル化が進展する中で、法人税の財源調達機能を確保しつつ、経済社会の活性化の視点から法人税をどのように改革するかが課題である。

(2) 今後の改革の方向
[1] 基本的考え方 -歪みの少ない中立的な税制の構築と政策税制の重点化-

法人税は、経済がグローバル化する中で、企業の創意工夫を尊重し、競争力を維持・強化するため、国際的に整合性がとれ、企業活動に対し歪みの少ない中立的な税制であることを基本とすべきである。

このような観点から、平成10年度以降、課税ベースを拡大しつつ、税率を国際水準並みに引き下げるとともに、連結納税制度の導入等の大きな改革を行ってきた。今後とも、経済社会の活性化のために、このような基本方針で法人税の改革を行っていく必要がある。

しかしながら、累次の税率引下げにより、国の法人税率は既に先進国並みの水準となっており、開発途上国の水準を念頭において、これ以上の税率引下げを行うことは適当ではない。

今後の法人税率の水準については、わが国の租税負担全体の水準や税体系全体のあり方との関連、更には先進国との税率のバランスを踏まえて検討していくべきである。

また、法人事業税に外形標準課税を導入すると、法人所得課税の実効税率は下がることとなる。

一方、税制の簡素化、課税ベースの拡大の観点から、既存の租税特別措置の整理・合理化を大胆に進めるとともに、経済社会の活性化と構造改革のために、真に有効な政策措置を集中・重点的に講じる必要がある。併せて、事業活動が多様な形態で行われている等の経済社会の新しい動きに対応して、法人税の諸課題に取り組むべきである。

[2] 政策税制の集中・重点化 -明確な国家戦略を前提とした重点的な措置-

わが国企業の競争力強化や産業構造の改革を進めるためには、21世紀をリードする産業・技術を見据えた明確な国家戦略を前提に、規制改革や歳出措置も含めた総合的な政策の重点分野への集中投入が必要である。その一環として税制についても既存の租税特別措置の整理・合理化を大胆に行いつつ、新産業や技術革新の創出等を目指し、政策税制を研究開発分野等真に有効な分野に重点化すべきである。

[3] 経済社会の新しい動きへの対応

経済活動のグローバル化や金融の自由化等に伴い、様々な投資形態が出現するとともに、企業の事業形態や事業規模も多様化している。また少子・高齢化社会において、NPO法人等の行う民間非営利活動は、活力ある経済社会を構築していく上で、大きな役割を果たしていくことが期待される。

こうした経済社会の新しい動きに対応して、法人の性格も踏まえつつ、次のような諸課題に取り組むべきである。(補論参照)

イ.適正な課税を確保しつつ円滑な企業活動に資する観点から、同族会社の留保金課税、パートナーシップ等の多様な事業体に対する課税について見直すこと。

ロ.これまで課題としてきた公益法人等の収益事業課税や公益法人等及び協同組合等に係る軽減税率などについては、公益法人改革の動向を踏まえつつ、NPO法人や中間法人等の新たな法人等に対する課税のあり方も含め、非営利法人課税全体のあり方の中で幅広く見直すこと。

ハ.寄附金税制についても、諸外国の制度や民間非営利活動の実態を踏まえ、認定NPO法人制度等の各制度間の整合性を図りつつ、新たな公益活動の担い手としてのNPO法人等の円滑な活動に資するよう見直すこと。

2.法人事業税 -外形標準課税の導入-

法人事業税への外形標準課税の導入は、税負担の公平性の確保、応益課税としての税の性格の明確化、地方分権を支える基幹税の安定化、経済の活性化・経済構造改革の促進などの重要な意義を有する改革である。外形基準の導入により、約7割の法人が法人事業税を負担していないという「税の空洞化」の是正を図り、努力した企業が報われる税制を確立する。外形標準課税は、受益と負担の関係を明確にして真の地方分権の実現に資するため、早急に導入すべきである。

三 消費税

1.消費税の現状と課題 -安定的な基幹税目とするために-

消費税は、昭和63年の制度創設以来、その税収は安定的に推移し、国税収入の約2割を占めるなどわが国税制の基幹的な税目の一つとして定着してきた。しかし、その一方で、国民の間には、現行制度に対する不信感が依然として根強く残っていることも事実である。今後、少子・高齢化、グローバル化の一層の進展に伴って、消費税の役割がますます重要となっていく中で、制度の信頼感を高めるとともに、その税率水準の見直しを図ることが大きな課題となっている。しばしば指摘される消費税の所得に対する逆進性の問題については、消費税だけでなく、税制全体、更には、歳出面を含めた財政全体で判断することが必要である。

2.今後の改革の方向

(1) 基本的考え方 -国民の信頼性の向上を図り消費税の役割を高める必要性-

消費税は、少子・高齢化社会において、勤労世代に過度の負担を求めず、経済活動に対し中立的である等の性格から、世代間の公平の確保、経済社会の活力の発揮、安定的な歳入構造の確保のため極めて重要な税である。

社会保障支出の増大や財政構造改革を展望すれば、今後、税率を引き上げ、消費税の役割を高めていく必要がある。このためには、徹底した行財政改革を進めるとともに、消費税制度に対する国民の信頼性、制度の透明性を向上させるための措置を講じる必要がある。

このような観点から、まずは、以下に述べるような中小事業者に対する特例制度や申告納付回数の見直しを行うとともに、消費税の滞納について、引き続きその未然防止、整理促進に取り組むべきである。また、消費者の便宜のため、価格の総額表示(含む税額明記)が促進されるよう関係機関において適切に対応していく必要がある。

(2) 信頼性、透明性の向上に向けた改革 -中小事業者に対する特例措置の抜本的な改革等-
[1] 中小事業者に対する特例措置

中小事業者に対する特例措置は、中小事業者の事務負担に配慮し、事務の簡素化を図るために設けられている措置であるが、制度創設から既に13年が経過しており、制度全体に対する国民の信頼性、制度の透明性を向上させる観点から、早急に抜本的な改革に取り組むべきである。

イ.事業者免税点制度

事業者免税点の水準(課税売上高が3,000万円以下)は、制度創設以来据え置かれ、依然として6割強の事業者が免税事業者となっている。このため、消費者の支払った消費税相当額が国庫に入っていないのではないかとの疑念を呼び、これが消費税に対する国民の不信の大きな背景になっていると考えられる。

したがって、個人事業者と法人の相対的な事務処理能力の差異も念頭におきつつ、現行の免税点制度を大幅に縮小すべきである。

現行の高い免税点水準の下では、事業者間取引を行う免税事業者が多数存在することを踏まえ、免税事業者からの仕入税額控除が認められている。その結果、消費税制度の透明性が低くなっているという問題については、後述するインボイス制度の検討に先立ち、事業者免税点の水準を大幅に縮減することで対応が可能である。

ロ.簡易課税制度

簡易課税制度は、これまでも見直しが行われてきており、その適用割合は低下してきている。しかしながら、消費税制度が定着し事業者が納税事務に習熟してきたと考えられること、また事務処理能力のある中小事業者が納税額の損得を計算した上で適用している実態が多数存在していると指摘されていることから、制度の廃止を含めた抜本的見直しを行うべきである。

[2] 申告納付制度

消費税の申告納付制度については、これまでも、消費税の預り金的性格に鑑み、いわゆる運用益問題の解消に資する観点から改正が行われてきた。このような消費税の性格を考慮すれば、更に申告納付の回数を増やす方向で検討すべきである。申告納付回数について検討を行う場合には、納税者の事務負担や税務行政コスト、更には消費税の滞納問題との関係にも留意しつつ、幅広い観点から検討を行う必要がある。

[3] 総額表示方式(消費者に対する価格表示のあり方)

消費者に対し消費税を含めた価格の総額を表示すること(総額表示方式)は、消費者の便宜を図る観点から積極的に検討されるべきである。ヨーロッパ諸国と同様、今後、消費者保護行政等の中で早急に具体化が図られるよう、関係機関において適切に対応していく必要がある。

[4] インボイス制度

消費税制度の信頼性を向上させるためには、仕入税額控除の際に税額を明記した請求書等の保存を求めるいわゆる「インボイス方式」の採用が検討課題となる。しかしながら、現行消費税制度における請求書等保存方式は、単一税率や狭い非課税範囲の下では、適切な仕入税額控除に特段の支障はない。将来、複数税率が採用される場合には、軽減税率の対象となる範囲なども踏まえ、その採用について具体的な検討を行うべきである。

(3) 税率構造等

消費税の税率構造は、制度の簡素化、経済活動に対する中立性確保の観点から極力単一税率が望ましい。仮に、将来、消費税率の水準がヨーロッパ諸国並みである二桁税率となった場合には、所得に対する逆進性を緩和する観点から、食料品等に対する軽減税率の採用が検討課題となる。その場合においても、事業者の事務負担をはじめとする社会経済的コスト等に配慮する観点から、その範囲は極力限定する必要がある。

また、非課税範囲の拡大やゼロ税率の採用については、消費一般に対して広く公平に負担を求めるという消費税の特徴を大きく損なうなどの問題があることから適当でない。

(4) 地方消費税

地方消費税は、平成6年の税制改革において、地方分権の推進、地域福祉の充実等のため創設され、平成9年度から実施されて以来、清算を行うことにより税収の偏在性が少なく、安定的な基幹税目の一つとして大きな役割を果たしている。少子・高齢化等の進展に伴い、今後、福祉・教育等の幅広い行政需要を賄う税として、地方消費税の充実確保を図っていく必要がある。

四 資産課税等

1.相続税・贈与税

(1) 改革の基本的考え方 -経済社会の構造変化への対応と負担の適正化-

相続課税を取り巻く環境は、次のように大きく変わってきている。

[1] 経済のストック化の進展により、今後、相続による資産移転の増加が見込まれること

[2] 社会保障の充実により老後扶養における公的な負担の役割が高まっていることから、相続時に残された個人資産については、その一部を社会へ還元する必要があると考えられること

[3] 高齢化の進展により、相続による財産取得が相続人のライフサイクルのより後半にシフトしていく結果、相続財産が相続人の経済的基盤を形成する意味合いが相対的に薄れつつあること

かかる状況を踏まえ、従来より広い範囲に適切な税負担を求める必要がある。

その際、負担の適正化の観点から最高税率については引き下げる一方、累進は現行程度の水準を維持することが適当である。

暦年で単一年の課税であるわが国の贈与税においては、相続税の課税回避を防止する観点から税負担は比較的高い水準に設定されている。高齢化の進展に伴って相続による次世代への資産移転の時期がより後半にシフトしていることから、資産移転の時期の選択に対する中立性を確保することが重要となってきている。高齢者の保有する資産(金融資産のみならず住宅等の実物資産も含む)が現在より早い時期に次世代に移転するようになれば、その有効活用を通じて経済社会の活性化に資するといった点も期待されよう。このような観点から、相続税・贈与税の調整のあり方(生前贈与の円滑化)を検討すべきである。

事業承継関連の特例措置については、中小企業の事業の円滑な承継に貢献している点は認められるが、相続後の事業継続に対する過大なインセンティブは、新規の創業や新たな事業展開とのバランスを失わせることを踏まえ、そのあり方を見直していく必要がある。

その際、高齢化の進展に伴い、相続人が被相続人と共に事業を行っていた場合の共に働いた期間も長期化していることから、生前における円滑な事業の移転を図ることや、相続までの財産形成への貢献に着目することが重要である。

(2) 相続税の改革の方向性
[1] 課税ベース

基礎控除については、「基本的考え方」及び地価の下落等を踏まえ、「広く薄く」の観点から引下げの方向で検討すべきである。なお贈与税の基礎控除については、相続税と贈与税の調整の検討において、相続税の基礎控除との関係を考慮し見直す必要がある。

死亡保険金・死亡退職金の非課税措置については、公的な社会保障制度の充実等を踏まえ、資産選択に対する中立性、簡素化などの観点から、廃止・縮減の方向で考えるべきである。

小規模宅地等の課税の特例をはじめとした事業承継関連の特例措置については、長期にわたる地価の低下等を踏まえ、将来的には事業用資産全体に適用される特例措置への改組も含め、そのあり方について検討する必要がある。

[2] 税率構造

最高税率については、個人所得課税の最高税率(50%)との較差が大きく、諸外国の例に比しても相当高いことに鑑み、引き下げることが適当である。

累進構造については、「基本的考え方」や、最高税率の引下げで高資産家の税負担は相当程度軽減され得ること等を勘案し、現行程度の累進を維持すべきである。

税率の刻み数に関しては、相続税は臨時・偶発的に発生するものであるため、遺産額により税負担を大きく変動させるのは適当でなく、遺産額に応じたある程度滑らかな負担の変化を確保することが望ましい。

(3) 贈与税の改革の方向性
[1] 相続税・贈与税の一体化

高齢化社会の到来につれ、生前贈与の社会的要請も根強い。かかる観点から、相続税・贈与税の累積課税化も含め、両者を一体化する方向で検討する。(補論参照)

累積課税化の方法は、一生累積課税方式と一定期間累積課税方式の二つに大別されるが、いずれの方式も、納税者、執行当局の双方に財産の長期管理を要求する仕組みである。したがって適正な執行を確保する上では、その導入に当たり執行当局のより一層の機械化の推進、立証責任の転換や除斥期間・時効の延長等の検討、納税者番号制度の導入など、長期にわたる財産移転の記録、確認、名寄せ・突合等が可能となる環境整備が必要不可欠となる。

それまでは、二つの累積課税方式のいずれについても完全な形で実施することはできない。生前贈与の必要性の程度、国民の財産保有のあり方等を踏まえ、今後、累積課税のための仕組みをどのように整備していくのかを検討すべきであろう。これにあわせ、次世代への資産移転の時期の選択に対して中立性を重視する観点等から贈与税を見直すことの必要性を踏まえれば、暫定的な措置の導入を検討すべきである。

なお、相続税・贈与税の一体化や暫定的な措置の検討に当たっては、贈与を管理する期間が長期にわたること等により、一部の資産家を中心に計画的な租税回避行為を誘発するおそれや、執行の困難性に伴う課税の脱漏のおそれがあることを踏まえ、十分な方策を講じる必要がある。

[2] 第三者に対する贈与の取扱い

最終的に相続関係のない第三者に対する贈与の課税のあり方が問題となっている。これに関しては、贈与の実態を見極めた上、相続税の課税回避防止という機能をも踏まえ、所得課税へ移行させることも考え得る。

2.固定資産税

(1) 固定資産税の現状と課題

固定資産税は、どの市町村にも広く存在する固定資産を課税客体としており、税源の偏りも小さく市町村税としてふさわしい基幹税目であり、今後も本税の安定的な確保が重要である。

(2) 今後の改革の方向性

地価公示価格の7割を目途とした評価水準については、全国的な評価の均衡化、適正化の観点からこれを維持することが適当である。

負担水準の均衡化については平成9年度以降ある程度進展しつつあるが、依然として地域や土地によって相当のばらつきが残っており、今後、評価替えの動向、負担水準の状況や市町村財政の状況等を踏まえ、負担の均衡化・適正化を更に一層促進する措置を採る必要がある。

3.土地税制・住宅税制のあり方

土地税制については、地価の変動にあわせ見直しが図られてきた。バブル期の対応として課税強化された部分は、既に廃止されるなどそれ以前の水準まで戻っている。

現在、地価については、二極化・個別化が進展し、バブル崩壊に伴う調整過程という見方のみならず、地域経済の動向や産業構造の変化の観点からの分析が必要となっている。こうした構造的な変化を踏まえ、土地基本法の基本理念の位置付けも含め、土地政策のあり方全般の見直しが求められている。

土地税制については、土地政策の見直しとあわせ、地価の推移、土地の譲渡益に対する課税ベースが大きく浸食されている現状をも踏まえ、検討すべきである。

住宅に関しては、政策的な見地から、特に持家の取得・保有・譲渡の各段階で税制上種々の軽減措置がとられてきた。しかしながら、持家比率が一定の水準に達した上、少子・高齢化の進展とともに住宅需要が量的に減少していかざるを得ない。その一方で、内容面でも借家や住替え等需要が多様化する中で、持家取得促進を中心とした住宅政策のあり方が問われている。住宅に関する税制については、住宅をめぐるこうした環境の変化を踏まえ、住宅ローン控除等従来の軽減措置のあり方を検討すべきである。

4.金融税制のあり方

金融資産からの所得に対する課税については、経済のストック化(金融資産の累増)が進展する一方、少子・高齢化に伴い勤労性所得の相対的減少が見込まれており、今後より重要性を高めることとなる。また、わが国金融をめぐっては、現在、そのあり方として「貯蓄から投資への切り替え」が指向されている。

こうした中、金融商品の多様化・複雑化、市場の国際化・電子化、「足の速さ」といった取引の特徴及び事業体(集団投資スキーム)レベルにおける課税との関連に配慮しつつ、金融商品間の中立性や金融分野以外の所得との公平性の確保、更に、制度の簡素化等、現行制度の見直しを検討していく必要がある。なお、その際、納税者番号制度をはじめとする所得捕捉体制の整備があわせて検討されるべきである。

また、「二元的所得税」の考え方や金融税制の「一元化」の是非については、総合課税への移行を目指すこととの関係、資産性所得と勤労性所得に対する課税のバランス等について検討を要する。(補論参照)

五 その他

1.酒税、たばこ税

酒類、たばこについては、特殊なし好品として、諸外国と同様、従来から他の物品に比べ高い税負担を求めてきており、わが国の税体系において重要な役割を果たしてきている。わが国の厳しい財政事情を踏まえれば、今後とも、酒類、たばこの生産・消費の動向等を勘案しつつ、適切な税負担水準の確保に努めていく必要がある。

(1) 酒税

酒税については、税制の中立性、公平性を確保する観点から、現行の酒類の区分(10種類)の簡素化を図り、酒類間の税負担格差を縮小する方向で見直していく。とりわけ「同種・同等のものには同様の負担」という消費課税の基本的考え方に適合していないものについては、早急に負担の均衡を図るべきである。

(2) たばこ税

欧米主要国においては、近年、たばこの税負担が引き上げられてきている。

たばこの税負担のあり方については、小売価格に占める税負担割合の状況、消費動向、諸外国の動向、財政状況などを総合的に勘案し、今後、税率引上げの是非を検討していく。

2.特定財源等とエネルギー関係諸税等

揮発油税、石油税等は使途を特定されている。特定の公的サービスからの受益と負担との間に密接な対応関係が認められ、そのサービスの財源を制度的に確保する必要がある場合には、特定財源等が用いられてきている。特定財源等は、このような財源確保に有効な仕組みではあるが、一方では資源の適正な配分を歪め、財政の硬直化を招くおそれもあり、常にその妥当性を吟味していく必要がある。

道路特定財源等については、制度創設の経緯を踏まえ、現在においても特定財源という形で道路事業のための財源を引き続き確保していく必要があるのか、財政を硬直化させる要因となっていないか疑問視されており、歳出面を含めた基本的なあり方について検討を行う必要がある。当調査会では、依然として道路整備の必要性のためこれを維持すべきとの意見もあったが、一般財源化を含め、そのあり方の見直しを行うべきと考える。

いずれにしても、道路特定財源等を含むエネルギー関係諸税等については、わが国の自動車に係る税負担全体が国際的にみても高くない水準にあり、自動車の社会的コストや環境の保全の観点に鑑みれば、その税負担水準を引き下げることは適当ではない。また、現行の自動車関係諸税は税目が多く複雑であるとの指摘もあり、自動車に係る税体系のあり方は今後の検討課題である。

3.環境問題への対応

京都議定書の目標達成に向けて、この3月に見直しが行われた地球温暖化対策推進大綱においては、「税・課徴金等の経済的手法については、他の手法との比較を行いながら、様々な場で引き続き総合的に検討する」こととされている。環境問題に対する税制面での対応については、国民に広く負担を求めることになる問題だけに、国民の理解と協力を得て、今後、積極的に検討を進めていくことが望ましい。この際、国・地方の環境施策全体の中での税制の具体的な位置付けを踏まえ、汚染者負担の原則(PPP)に立って幅広い観点から検討していく必要がある。また、既存のエネルギー関係諸税等との関係についても検討すべきであろう。

4.国際課税

グローバル化、情報化・電子化の進展に伴い、複雑多様化した企業活動の実態把握は一層困難となっている。また各国の税制の相違や間隙を利用する租税裁定取引により意図的に課税所得の縮減を図る動きも顕在化している。国際課税では、所得の国外流出は実質的に課税権の喪失を意味することから、今後は国境を越える活動についてわが国の課税権を十分に確保していくために、制度の見直しを進めるべきである。国際課税の適正化は、内外の経済活動に対する課税の中立性・公平性を確保する観点からも実行せねばならない。

具体的には、国外からの進出形態の多様化に対応し、多様な事業体や外国法人の支店に対する課税のあり方を見直すべきである。一方、わが国企業の国外活動の拡大を見据えると、今後外国子会社合算税制や外国税額控除制度の適正化を検討していく必要がある。また、グローバル化に対応し適正な執行を確保する観点からは、租税条約等に基づく外国当局との情報交換を活用し国外情報へのアクセスの充実を図ることが重要である。その前提として、条約相手国の要請に基づき執行当局が情報を収集し相手国に提供できるように、法制面を含む制度整備を行うべきである。(補論参照)
さらに、グローバルな性格を有する電子商取引については、一国で対応することは困難である。かかる点、OECD等における議論を通じて国際的に調和のとれた対応を検討し、事業者の予測可能性を高めるとともに、適正な課税を確保していく必要がある。

5.課税自主権の尊重

課税自主権を活用し、地方自ら財源確保を図ることは、地方分権の観点から望ましい。

ただし、その場合には、公平・中立などの税の原則により納税義務者や課税標準などについて十分な検討が行われることが望ましく、住民に正面から向き合い自らの責任と負担で施策を進める姿勢が求められる。

六 納税者の信頼確保に向けた基盤整備

あるべき税制を構築する観点から、税制全般にわたる改革に取り組んでいくに当たっては、税制及び税務行政に対する納税者の信頼を確保していくことが不可欠である。このため、納税者が円滑に申告・納税できるような環境を積極的に整備するとともに、適正・公平な課税を実現できるような税務執行体制を整備していく必要がある。こうした考え方に立って、制度、執行の両面において、以下のような取組みを推進していくことが重要である。

1.納税者番号制度

近年における経済取引の国際化や情報化・電子化の急速な進展に見られるように、納税者番号制度を取り巻く環境は大きく変化しており、こうした状況を受けて、国民の意識についても変化の兆しがうかがわれる。

納税者番号制度については、制度の意義やその具体的活用の仕方、プライバシー保護の問題など様々な論点が残されているが、その導入に向け、具体的な成案を得るべく早急に検討を開始する。

2.源泉徴収・年末調整

所得税は、納税者自らが税額を確定して自主的に申告・納付する申告納税制度を基本としている。給与等に係る税額の納付については、源泉徴収及び年末調整が実施されている。年末調整では政策的な控除をも含めて税額の精算が行われるため、一般の給与所得者は基本的に確定申告を要しない。

源泉徴収及び年末調整は、適正かつ確実な課税の担保、納税者の手続きの簡便化等の観点から今後とも基本的に存置させるべきである。しかし、給与所得者が自ら確定申告を行うことは、社会共通の費用を分かち合っていく意識を高める観点から見れば重要である。電子申告をはじめとする申告手続簡便化の環境整備など、税務執行面にも配慮しつつ、これを拡充する方策について引き続き検討する必要がある。

3.公示制度

現在、所得税、法人税、相続税等について設けられている公示制度は、主として第三者による監視という牽制的効果を狙うものとして、昭和25年に導入された。所得税については昭和58年に高額納税者への顕彰の趣旨も兼ねて所得公示方式から税額公示方式に変更されている。同制度については、所期の目的外に利用されている面があるなど個人のプライバシーへの配慮の観点からは問題なしとしない。その一方、制度変更により、国民一般から見て申告納税制度の信頼度が低下することは好ましくない。公示制度の存廃については、高額納税者が社会的に評価されることの重要性を踏まえつつ、これに代わる制度を含め、今日的視点から検討する必要があろう。

4.その他

(1) 情報化・電子化を活用して納税者利便の向上等を図る観点から、現在の書面による手続に加え、インターネットを通じて自宅等に居ながら税務手続を可能とする電子申告や電子納税について、セキュリティの確保等に留意しつつ、円滑な導入を図ることが必要である。

(2) 適正・公平な課税を実現する環境整備の一環として、国際化、情報化など経済社会の構造変化に対応し、国民の理解と協力を得て、資料情報制度の拡充を図っていくことが重要である。

(3) 納税者の信頼確保のため、税務の執行面においても、分かりやすい広報の推進、事前相談を含む納税相談への迅速・的確な対応、調査・指導の的確な実施など、納税環境の整備及び適正・公平な税務行政の推進に取り組んでいくことが重要である。

補論

総論関係

「公平・中立・簡素」の原則について

「公平・中立・簡素」の原則については、当調査会がこれまで税制の構築に際して規範的な基準として用いてきたものである。経済社会の構造が変化しようとその重要性は変わらず、引き続き税制の基本とすべきである。

1.公平

「公平」の原則とは、様々な状況にある人々が、それぞれの負担能力(担税力)に応じて負担を分かち合うものであり、水平的公平と垂直的公平がある。前者は、等しい負担能力のある人には等しい負担を求めるというものであり、いかなる経済社会状況においても変わることのない最も基本的な要請である。後者は、負担能力の大きい人にはより多くの負担をしてもらうというものであり、個人所得課税などの累進構造などによる所得や富の再分配がその役割を担っているが、その程度については、平等感や勤労意欲といった観点から、「機会の平等」や「結果の平等」に対する国民の考え方により選択されるべきものである。

公的部門が担う所得再分配については、歳出面における国の関与が限られた時代においては、個人所得課税の累進構造等を通じて歳入面を中心に行われていた。しかしながら現代社会において、社会保障・社会福祉制度が充実される中で、歳出面の役割が高まってきている。他方、歳入面について見ると、昭和62・63年の抜本的税制改革や平成6年の税制改革等を通じて、個人所得課税の税率構造の累進緩和等が図られ、負担水準が極めて低いものとなった結果、個人所得課税の所得再分配機能は限られたものとなっている。今後、市場機能が発揮される中で就業・雇用形態の多様化などが所得格差を拡大する方向に働く可能性も考慮すれば、これ以上の所得再分配機能を弱める方向での個人所得課税の見直しには慎重であるべきである。

2.中立

「中立」の原則とは、税制が、その負担を通じて経済社会に対して何らかの影響を与えることは避けられないが、個人や企業の経済活動における自由な選択をできるだけ阻害しないようにすることである。

わが国が高度成長期を経て経済大国となる過程において、規格化された商品を大量に生産・消費する経済社会が形成されてきた。その中で、資本蓄積、貯蓄増強、特定の産業育成などのため、税制が政策誘導的に用いられてきた。いわゆる「護送船団方式」に代表されるような政府主導・公的介入による事前規制型の政策が各分野で有効とされ、税制においても、個人や企業の行動を特定の政策目的へ誘導するため、租税特別措置等といった例外的な優遇措置が活用されてきた。その結果、経済活動に対しできるだけ中立であるべき税制に、数多く歪みが存在するようになった。

21世紀に入り、グローバル化・情報化等が進展し、個人や企業のニーズが一層多様化していく中で、市場を通じた資源配分が従来以上に重要となりつつある。そうした状況の下、政策発動のあり方も、個人や企業が創意工夫を最大限発揮できるよう事後チェック型の手段が求められるようになってきている。税制についても、民主導による市場重視の経済社会を実現するため、個人や企業の自由な選択を最大限尊重し、経済活動に対して歪みのない中立なものとすることが必要である。その結果として、経済の活性化は民間の経済活動により幅広く実現するはずである。

3.簡素

「簡素」の原則とは、個人や企業が経済活動を行うに当たって税制はその前提条件として常に考慮される要素であることから、税制の仕組みをできるだけ簡素なものとし、納税者が理解しやすいものとすることである。21世紀のあるべき税制の構築に当たっては、前述のように個人や企業の自由な選択を妨げない観点から、税制を経済活動に対して中立なものとするとともに、できるだけ簡素で分かりやすいものとすることが求められる。もとより、グローバル化、情報化・電子化等の進展に伴い、経済取引が複雑化・多様化する中で、租税回避を防ぐためには、税制がある程度複雑なものとなることはやむを得ない。しかし、不断の見直しを行い、極力簡素なものとすべきである。また、簡素な税制の構築により、執行面での対応を含め、納税者の税制に対する信頼を確保することも重要な課題である。

個人所得課税関係

個人所得課税の税率構造

1.わが国の所得税の税負担水準(平成14年度国民所得比4.3%)が極めて低いことの要因として、諸控除の拡充のほか、税率の引下げや税率が適用される所得金額の範囲(ブラケット)の拡大による累進緩和(フラット化)があげられる。

特に最低税率の適用範囲が累次拡大されてきた(その結果、現在、夫婦子2人の給与所得者の場合、所得税の最低税率が適用される給与収入の最大値をみると、日本では831万円である。これに対しアメリカは389万円、イギリスは170万円、フランスは509万円となっている。なお、ドイツは方程式方式のため、ブラケットの概念がなく、最低税率は20%である)。

さらに、ブラケット別の適用者数を見ると、納税者(民間給与所得者)の約8割に対して、最低税率である10%のみが適用される状況となっている。しかも、この最低税率のブラケットの広さは、給与所得者の1%に満たない最高税率(37%)適用者も含めて全ての納税者がこれを享受しており、その結果、各所得者層とも主要国に比して低い税負担水準にとどまっている。

2.このような現在の税率構造については、次のような問題点がある。

(1) 大多数の納税者が最低税率(10%)のみに分布するという現在の税率構造は、主要国の中でも特異であり、税負担の「空洞化」をもたらす要因となっていること

(2) 経済の基調変化により、今後、物価や実質賃金の大きな上昇が想定しにくくなっている中、緩和された累進構造の下では、財源調達機能の改善が予想し難いこと

(3) 近年のわが国の所得分布の状況は、かつてのような平準化の動きは見られず、今後、就業・雇用形態の多様化などが所得等の格差を拡大する方向に働く可能性を考慮すれば、引き続き、税体系における所得税の所得再分配機能の重要性は軽視し得ないこと

したがって、わが国所得税については、最低税率のブラケットの幅を縮小することが今後の選択肢として考えられる。

3.税率の水準についても、上述の問題点を踏まえれば、これ以上の引下げは適当でない。これに関連して次の点に留意する必要がある。

(1) 「諸控除の見直しによる課税ベースの拡大にあわせ、税率を引き下げる」との議論があるが、次の理由により、実現は困難である。

[1] わが国所得税は、累次の減税により、税率の引下げが先行し、既に最低・最高税率ともに主要国に比して低い水準となっている。その一方、課税ベースの拡大が課題として残されていること

[2] 財源調達や所得再分配など、基幹税として本来果たすべき機能の回復が求められていること

[3] 諸控除の見直しに伴う税負担の変化は、いわば適正化の結果であり、かつ、個々人への影響は様々であることから、税率の変更でこれを相殺することは適切でなく、かつ、不可能であること

(2) 特に最高税率の引下げについては、諸控除の見直しにより、所得の多寡を問わず多くの者が税負担増を分かち合うこととなる中で、限られた高所得者層のみに税負担軽減を図ることとなるので、「広く公平に負担を分かち合う」との理念に照らし、国民的な理解が得られるかという問題がある。

(3) いずれにせよ、諸控除の見直しに当たっては、真に必要な配慮は引き続き行わなければならない。また、急激な変化を避け、段階的に行っていくことは重要である。

4.個人住民税については、地域社会の費用を住民がその能力に応じて広く負担を分任するという独自の性格(負担分任の性格)から、所得税よりも緩やかな累進構造となっている。また、納税義務者の約6割が最低税率(5%)のみの適用となっている。

個人住民税についても、地方税の基幹税としての財源調達機能等の発揮の観点から考えれば、税率の引下げは適当ではなく、また、最低税率のブラケットの幅を縮小することが今後の選択肢として考えられる。

なお、3で述べた諸点は、基本的には個人住民税においても留意すべきである。

「二元的所得税」と金融税制の「一元化」

「"貯蓄から投資へ"という金融のあり方の切り替え」をも踏まえ、株式譲渡益課税について、利子との均衡にも配慮しつつ税率を引き下げる等(平成15年1月)のほか、当面の優遇措置が講じられている。また、老人等マル優制度が段階的に縮減されることとなっている。

こうした中、金融資産からの所得に対する課税に関し、北欧諸国で採用されている「二元的所得税」の考え方や金融税制の「一元化」の是非について議論がある。

1.「二元的所得税」について

(1) 「二元的所得税」の考え方は、資本は労働よりも流動的であることを前提として、「勤労所得」に対して累進税率を適用する一方、「資本所得」に対しては「勤労所得」に適用する最低税率、更には法人税率と等しい比例税率で分離課税するものである。これにより、資本取引への課税の効率性、中立性や、生涯を通じた税負担の水平的公平性の確保等が図られる点で望ましいとする。

北欧諸国でこの考え方が採用された背景としては、[1]民間貯蓄が低水準であった、[2]インフレ率が高かった、[3]小規模開放経済の下において、高水準の社会保障を支えるべく、金融資産などの流動的な源泉からも歳入を確保する必要に直面していた、[4]負債利子が控除され課税ベースが大きく浸食されていた、などがあげられている。

(2) 一方、この考え方に対しては、[1]「資本所得」を「勤労所得」より軽課することは垂直的公平の観点から問題があること、[2]個人事業主や小規模法人の事業収益を「勤労部分」と「資本部分」に分割することに伴う技術的な問題があること、[3]「勤労所得」と「資本所得」とは本質的に異なるものではなく、また、取引形態を操作し、所得分類を変更する可能性もあること等が指摘されている。また、わが国と比較すると、[4]当時の北欧諸国の経済情勢は、貯蓄率等の面で、現在のわが国と異なること、[5]北欧諸国においては、「資本所得」、「勤労所得の最低税率」、「法人税率」がほぼ同じ30%前後で構成されており、わが国とは著しく異なること等に留意する必要がある。

(3) 当調査会は、わが国所得課税のあり方について、包括的所得税論の立場に立脚しつつ、総合課税への移行を目標としてきた。同時に、金融関連では、所得捕捉体制の問題から、現状では総合課税を基本に一部は分離課税を認めることが現実的としてきている。「二元的所得税」の考え方については、総合課税の前段階と捉え得るのか、また、今後これが北欧諸国に止まらない流れとなるか等について、これから検討を要するものと考える。

2.金融税制の「一元化」について

わが国の金融税制について、「一元化」して課税すべきという意見がある。「二元的所得税」の考え方がこうした意見に援用される場合もある。金融税制の中立性や簡素性の確保は引き続き重要な課題であるが、「金融所得」といった所得分類を新設し、「金融所得」内での損益通算を可能とすることについては、以下の問題点がある。

(1) 「金融所得」の新設については、

[1] その具体的な範囲、他の「資本所得」と区別することの論拠、商品ごとの所得の性質等の差異、事業体レベルにおける課税との関連をどう考えるか等の問題がある。なお、「二元的所得税」は、あらゆる所得を「勤労所得」と「資本所得」に2分して課税するという考え方であり、北欧諸国における「資本所得」には、金融収益のみならず、土地譲渡益、不動産収益、事業所得(投資収益部分)などが含まれる。

[2] 現行の所得分類は、所得の法的性格のほか、所得金額の計算方法が異なることを前提に構成されている。利子がそのまま「利子所得」となる一方、株式等の「譲渡所得」は譲渡価額から取得費等を控除する必要があるなど、所得金額の計算方法は金融商品毎に異なっており、現行法上の「所得分類」として、これらを一括した新たな分類(「金融所得」)を設けること自体に特段の意義は見出せない(「二元的所得税」を採用している北欧諸国でも、「資本所得」の中で金融商品毎に所得金額の計算方法が異なっている)。

(2) 「金融所得」内での損益通算については、

[1] 株式取引に伴うリスクの軽減に資する反面、株式譲渡損益は発生時点に裁量性・操作性があるなどの点で、利子や配当とは異なるほか、税負担を意図的に軽減し得るとの側面もあり、他の所得との損益通算を可能とすることは必ずしも適当でない。総合課税を採用している主要国においても、他の所得との損益通算は基本的には認めておらず(注)、「二元的所得税」を採用する北欧諸国でも、利子や配当などとの損益通算の取扱いは区々となっている。

[2] 株式譲渡損と利子との通算を認めるためには、現在、源泉分離課税の対象とされている利子所得を申告課税に変更する必要がある。これについては、利子課税の基本的な問題として、国民経済的な観点からの検討や、適正な所得捕捉を行うための納税者番号制度や新たな調書制度の導入が課題となる。

(注)株式の譲渡損失と他の所得との損益通算については、イギリス、ドイツ、フランスでは認められていない。アメリカでは土地の譲渡損失と合わせて3000ドル(約37万円)に限定されている。

3.制度の簡素化等

金融税制については、金融取引の高度化等を反映して複雑化せざるを得ない面もあるが、広く一般国民に関係するものであるため、課税の公平・中立と並んで、制度の簡素性に配慮すべきである。「二元的所得税」や「一元化」の議論も、税制の簡素化の必要性と基本的な方向を同じくするものとも考えられる。

また、度重なる税制改正により課税関係が頻繁に変更されることは、投資や商品開発の前提を不安定にする可能性があるほか、租税回避行為の誘因となりかねない。今後の金融税制の見直しに当たっては、課税の公平・中立・簡素の基本原則に加え、制度の安定性も重視すべきである。

さらに、金融商品が多様化・複雑化する中で、金融税制のあり方を考えるに当たっては、納税者番号制度が存在しないことが一定の制約要因となっていることは否定できない。資料情報制度の充実とあわせ、金融資産からの所得に係る執行体制の整備について、具体的な検討を促進することが必要と考える。

法人税関係

法人の性格と法人税のあり方

1.法人税のあり方については、従来、法人の性格を巡る法人擬制説(法人は個人(株主)の集合体であると見る考え方)と法人実在説(法人を株主と独立した存在であると見る考え方)を対立させて演繹的に議論されることがあった。特に、配当に対する所得税と法人税の負担調整に関して、法人実在説の立場からは、法人税は法人独自の負担であり負担調整は不要であるとされ、法人擬制説の立場からは、法人税は所得税の前取りであり、負担調整を行うべきであるとされる。しかしながら、法人企業の経済活動の実態や法人税等の転嫁等についての検討を踏まえると、法人税について法人実在説あるいは法人擬制説という形で一面的に割り切ることは困難である。

2.他方、近年急速に進展する企業活動のグローバル化や金融・投資活動の多様化を踏まえると、法人の性格や法人税のあり方に関しては、新しい問題が生じている。すなわち私法上の「法人」に加えて、多様な事業体の設立目的や法的位置付け、更にはその規模、存続期間等の経済実態をどのように捉え、個人段階の課税との関連に配慮しつつ法人税の課税対象や課税方式を考えるかという新たな課題に取り組む必要がある。

具体的な検討課題は以下の通り。

(1) 外国のパートナーシップ等、私法上の「法人」ではないが実態的には「法人」と同じような事業や投資を行う多様な事業体がわが国で活動するようになっている。また、このような事業体の中には、特定の投資や事業が終了すれば清算するといった、これまで「継続企業」(ゴーイング・コンサーン)として想定された典型的な法人企業と異なる「法人」や事業体が出現してきている。現行の法人税は、基本的に私法上の「法人」を課税対象としているが、このような新たな状況を踏まえ、「法人」と同様にグローバルな活動を行っている多様な事業体に対し適正な課税を確保する観点から、法人税の課税対象や課税方式を検討していく必要がある。

(2) 一方で、私法上の「法人」ではあっても、実態として個人事業者と変わらない「法人」について、法人税の課税対象とするかどうかという問題もある。諸外国の例を見ると、ドイツでは、合名会社、合資会社に対して法人課税ではなく個人課税であり、アメリカでも、一定の小規模法人については、個人課税を選択できる制度となっている。また、わが国の場合、特に中小法人の中で多年にわたって赤字のまま存続している法人が少なくなく、恒常的に赤字法人割合も高いため、税制上何らかの対応が必要ではないかと考えられる。このため、諸外国の制度も踏まえて、法人税の課税対象や課税方式を検討していく必要がある。

相続税・贈与税関係

相続税・贈与税

1.課税根拠

相続を契機とした財産移転に対する相続課税の課税根拠は、基本的には、遺産の取得(無償の財産取得)に担税力を見出して課税するもので、所得の稼得に対して課される個人所得課税を補完するものと考えられる。その際、累進税率の適用により、富の再分配をより効果的に図る役割を果たしている。

個人から贈与により財産を取得した者に対しては、取得財産の価額を課税価格として、贈与税が課される。贈与税は、相続課税の存在を前提に生前贈与による相続課税の回避を防止する意味で、相続課税を補完する役割を果たしている。また、相続課税と同様、贈与という無償の財産取得に担税力を見出して課税する位置付けもある。

2.課税方式(遺産課税方式、遺産取得課税方式及び併用方式)

わが国の相続税は、明治38年に遺産課税方式によって創設され、シャウプ勧告に基づく昭和25年の改正で課税方式が遺産取得課税方式に変更された。その後、昭和33年に、税制特別調査会における幅広い議論を踏まえ、遺産取得課税方式を採りつつも、税負担総額は各相続人の実際の取得にかかわらず法定相続人の数と法定相続分によって一律に算出するというわが国独特の制度(法定相続分課税方式)が創設され、現在に至っている。

法定相続分課税方式が昭和33年度改正において導入された背景としては、それ以前の純粋な遺産取得課税方式において、

(1) 税務執行上仮装分割などを防止することが困難であること

(2) 分割容易な遺産と困難な遺産との税負担が不均衡となること

(3) 農業の零細化を促進する(農業政策等と不整合となる)おそれがあること

等の問題点があった。現在においては、相続人の人数の減少傾向、農地に係る納税猶予制度の存在等、制度導入当時とは状況の変化が見られる。財産取得者の個人的担税力に即した合理的な課税を行うことはできないという遺産課税方式の問題点や、遺産の総額が同じであれば、分割方法にかかわらず税額の総額は一定であるという現行の方式のメリットは、依然認められ、法定相続分を基調とする取得課税による現行の体系については維持すべきである。

3.一生累積課税方式と一定期間累積課税方式

「生前贈与を相続と一体として捉え、両者を相続時点まで完全に累積し、課税についてもその時点で清算を行う」という考え方を貫徹すれば、一生にわたる贈与を累積し、相続と合わせて課税(各年ごとに累積贈与額に対する税額を納付、過年分納付額は税額控除、相続においては納付贈与税額を控除)する一生累積課税方式を採用すべきこととなる(その際、相続関係のない者については別途の課税を行う)。

他方、「贈与と相続との完全な累積・清算」という考えには必ずしもとらわれず、現実的なレベルで贈与・相続を通じた税負担を平準化する考え方からは、一定期間にわたる贈与を累積して課税(各年ごとに過去一定期間内の累積贈与額に対する税額を納付し、過年分納付額は税額控除、相続前一定期間内の贈与は相続と合わせて課税)する一定期間累積課税方式が導かれる。

一生累積課税方式は、基本的には、生前贈与を行ったとしても、又はすべてを相続したとしても合計税負担額は変わらず、親子間の財産移転のタイミングの選択に対し中立的という利点があるが、執行が困難であるという問題点がある。

一定期間累積課税方式は、相続前一定期間外の生前贈与が多いほど相続時の負担は減少し、生前贈与を促進する働きがある。生前贈与と相続との間の中立性はある程度確保されるものの、一生累積課税方式には劣っている。一方、税務執行については、一生累積課税方式ほど困難でない。

4.民法との関連(被相続人による財産の処分・相続人の貢献と相続法)
(1) 生前贈与が円滑化された場合の民法上の論点

生前贈与の円滑化により特定の者に贈与が集中した場合、民法との関連では、他の推定相続人である親族からの遺留分減殺請求によって贈与が覆る事態が生じ得る。

遺留分減殺請求は原則として相続開始前1年間の遺贈・贈与に及ぶが、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をした場合、それ以前の贈与も対象となし得る。続柄に関しては、法定相続人の遺留分を「害する」意思が比較的認められやすい親族の方が、第三者に対するよりも贈与が覆る可能性は高く、特に、法定相続人のみが受ける特別受益に対しては、判例により、ほぼ無条件に遺留分減殺が認められている。

推定相続人に対する生前贈与が促進された場合、贈与が遺留分減殺請求により覆る可能性は拡大していく。しかし、民法の相続に関する規定は、被相続人の財産に関する決定権を尊重しつつ、相続分や遺留分によって相続人間の公平性の調整を図っており、贈与が覆る事態は、相続法の原理からは避けられないものとして想定されていると考えられる。

したがって、贈与が覆る可能性が高まることをもって、生前贈与を円滑化する税制上の措置に制限を加える必要はないが、制度の設計に当たっては、贈与が覆る可能性があることを念頭に置いて検討を行う必要がある。

なお、親族以外の第三者に対する贈与は、遺留分との関係で覆る可能性が低いが、このことが悪用される可能性を踏まえれば、法定相続人とそれ以外の者とで生前贈与の税負担を異なる水準とし、第三者に対する贈与に係る税負担を重く設定することも考えられる。

(2) 家族の被相続人に対する貢献とそれに対する求償、救済

高齢化社会の到来を受け、親の扶養(生計費の補助)や介護(以下、これらをまとめて「面倒見」という。)を行った者について、親からの相続や生前贈与において配慮が払われるべきではないかとの論点がある。

民法においては、「扶養」は本来対価性がなく、生活の資力がないなど要扶養状態になった者に対し、その生計を補助する一方的な義務が発生する。親に財産がある限り民法上の「扶養」の義務は生じない。他方、相続は財産の存在を前提とするため、厳密には民法上「扶養」と相続とは連動しないが、親の「面倒見」を行った相続人の貢献については、寄与分や「面倒見」を行わなかった他の相続人に対する対価の求償などによる相続における救済が、判例においては認められている。

こうした「面倒見」と相続とを巡る民法の分野における論点は、更なる高齢化の進展の中で、より大きな問題となっていくと考えられるが、現行民法の規定を改めるに足るような意見の収斂は未だなされていない。ただし、

[1] 民法上の相続は身分(続柄)で一義的に決定されるものであること

[2] 「面倒見」を行ったり事業を補助した相続人による他の相続人に対する求償について、寄与分などを用いて調整を図ることには限界があること

等を踏まえれば、あらかじめ、契約等の財産法において具体的な解決を図ることが適当とする意見が有力である。

(注)法定相続人の配偶者(典型的には「息子の妻」)など、そもそも相続権がない家族の貢献については、遺留分(配偶者や子供は法定相続分の2分の1)を害さない範囲で贈与・遺贈が可能であり、基本的には、家族・親族の話し合いで円満な解決を図ることが望ましいとする意見が有力である。

以上を踏まえれば、「面倒見」や事業の補助等の相続人の貢献を相続と関連づけ、更には、その延長線上で、相続課税において「面倒見」について配慮した措置を講じることは、民法における「相続」の基本的考え方と抵触することから、限界があると考えられる。

その他

国際課税

1.国内における活動への対応

国外からの投資・事業活動に利用される事業形態の多様化が進む中、特にパートナーシップ、匿名組合や信託など法人格を持たない事業体に対する課税に困難が生じている。多様な事業体については、今後、法人課税の対象となる範囲も含め、課税のあり方を見直し、税制上の取扱いの明確化と適正な課税の実現を図る必要がある。また、外国法人の支店に対する課税については、子会社に対する課税とのバランスを図る観点から、諸外国やOECDの場で見直しが進んでいる。支店が実質的な租税回避に利用されていることも考えられるので、その課税のあり方も見直していくべきである。

2.国外における活動への対応

企業の国外活動が拡大していく状況の下、その成果についてわが国の適正な課税権を確保していくことがより一層重要となる。外国子会社合算税制(いわゆるタックス・ヘイブン税制)は、所得の国外留保による課税繰延を防ぐことによりわが国の課税ベースを確保する機能を有しており、今後は企業の国外活動の実態等を踏まえた上で、その適正化を検討していく必要がある。外国税額控除制度については、控除限度額の流用などによる課税ベースの浸食を防止する観点から、制度を不断に見直していくべきである。

3.執行面での対応

グローバル化に対応して適切な執行を確保するには、国外に所在する課税情報への執行当局のアクセスを充実していくことが重要となる。国際的には、最近多くのタックス・ヘイブンがOECDに対して実効的な情報交換の実現を約束するなど、執行当局間の情報交換を強化する動きが顕著である。わが国も、今後租税条約に基づく情報交換の拡充を図るほか、タックス・ヘイブン等との間では情報交換協定の締結を検討していかねばならない。情報交換制度が相互主義の原則に基づく以上、その前提として、わが国も国際的なスタンダードに従い、条約相手国から情報の提供を求められた場合には、わが国の課税上の利益の有無にかかわらず執行当局が迅速に情報を収集し相手国に提供できるように、法制面を含む制度整備を行うべきである。

「基本方針に盛り込まれていない意見」

基本方針の審議の過程においては、以下のような意見があった。

  • 社会保障の大胆な歳出削減が必要という点については、慎重に対応すべきとの意見があった。
  • 人的控除や給与所得控除の見直しについては、低所得者層や給与所得者にとって負担増をもたらす可能性があり、安易な縮減は適切でないとの意見があった。
  • いわゆる「恒久的な減税」のうち、とりわけ定率減税については、景気回復策としての効果も定かでなく、国民の認知度も低いことから直ちに廃止すべきとの意見があった一方、単に廃止するのではなく、あるべき個人所得課税制度の中に融合させていくべきとの意見があった。
  • 退職所得控除のあり方については、雇用情勢の悪化や退職金の使用実態も考慮すべきとの意見のほか、現行制度を維持すべきとの意見があった。
  • 法人事業税への外形標準課税の導入については、その理念と意義は理解できるものの、地方における中小企業の厳しい状況を踏まえ、その導入時期については慎重に検討をすべきではないかとの意見があった。また、制度が複雑となるとの意見もあった。
  • 将来、消費税の税率水準が見直される場合には、真に手を差し伸べるべき方々に対して、社会保障制度などの歳出面を含め、きめ細かな配慮を行う必要があるとの意見があった。
  • 社会保障に係る公的な負担が増加していくことを踏まえれば、相続時に移転する個人資産に対してはむしろより多くの負担を求めるべきであり、現行の最高税率は引き下げるべきではないとの意見があった。
  • 税制によって、金融資産や住宅等の贈与に誘因を与えようとすることには限界があり、さらに、生前贈与を円滑化する措置は、結果として高齢者の意思に反した贈与を強制したり、悪用されるおそれもあるのではないかとの意見があった。
  • 発泡酒については、ビールと同様の商品であり、発泡酒の税率をビール並みとすべきであるとの意見があった。他方、企業努力等への配慮やビールの負担水準を含めた検討が必要ではないか等の意見もあった。
  • たばこに関しては、健康指向の高まりや財政状況を踏まえれば税負担を引き上げるべきとの意見があった。他方、税負担のあり方と健康の関連づけに反対する意見や、度重なる税負担の引上げは慎重に行うべきとの意見もあった。
  • 道路特定財源等については、受益と負担の関係が明確な合理的な制度で、その存在意義を疑問視することは適当でないとの意見があった。