証券税制等についての意見

平成13年9月18日
税制調査会
金融小委員会

本年6月に閣議決定された、いわゆる「骨太の方針」においては、「証券市場の構造改革」として、「貯蓄優遇から投資優遇への金融のあり方の切り替えなどを踏まえ、税制を含めた関連する諸制度における対応について検討を行う」こととされている。

本小委員会は、株式譲渡益に係る源泉分離課税の廃止をはじめとする「税制面での構造改革」を着実に実行することが、市場の透明性・信頼性の向上を通じ、「証券市場の構造改革」に資すると考える。

これまで本小委員会は、今後のあるべき金融の姿を展望しつつ、税制全体と整合性のある証券税制のあり方を検討してきた。証券税制については、最近、各方面で様々な提案がなされており、当面の「株価対策」としての議論や、株式譲渡益に係る源泉分離課税廃止の再度の先送りを求める議論も見受けられる。

今般、こうした最近の諸情勢にかんがみ、証券市場の現状認識等を踏まえた上で、現時点での基本的な考え方を整理し、提示する。

I.証券市場の現状認識等

イ 「証券市場の構造改革」を進めるためには、預貯金中心の貯蓄優遇から株式投資などの投資優遇への金融のあり方の切り替えの観点を踏まえ、一部の限られた「個人投資家」が短期売買で利益を狙う場としてだけではなく、広く一般の国民が、長期・安定的な資産運用を図ることが可能な場として、証券市場の健全な形成を目指していくことに政策の重点を置く必要がある。

ロ 一般の国民の証券市場への参加が進まない理由としては、証券業界や市場自体への不信感の存在が大きな要因としてあげられる。まずは不信感の払拭に向けた業界自身の更なる努力が必要である。

ハ 同時に、発行会社においては、信頼できる経営情報開示の徹底が求められるとともに、株主資本利益率や配当性向の向上など株主重視の経営姿勢を確立することが求められている。
また、行政や自主規制団体を通じた市場監視・取締りの抜本的強化、不公正取引の防止や資産運用者の受託者責任の明確化など、各種の制度・施策の整備が必要である。

ニ 今般、時価会計の導入等を背景として、企業にとって株価変動が企業収益に直接影響する可能性が高まっており、金融機関のみならず、事業会社においても持合い株式売却の動きが進んでいる。これが現在の株価低迷の要因の一つとなっている。

ホ また、我が国家計には、証券投資よりも預貯金中心の貯蓄を重視する傾向がある。貯蓄重視指向の要因として、それを助長する我が国金融の制度・構造の存在が指摘できる。例えば、ペイオフ解禁の延期や民間金融機関への公的資金の導入、政府の信用力を背景とする郵便貯金の存在などであり、これらの結果、預貯金の持つ本来的なリスクが表面化していない。今般、「金融のあり方の切り替え」の観点から、家計の資産選択における変化を促すとすれば、貯蓄を優遇してきた制度・構造の是正も重要な課題となる。

ヘ 現在の証券市場をとりまく問題の解決のためには、以上のとおり、包括的な「インフラ」を早急に整備することが重要であり、関係者の積極的な対応を望みたい。

ト 本小委員会は、こうした本質的問題の解決抜きに、税制によって証券市場を活性化させることには限界があることを指摘するとともに、短期的な観点からでなく、むしろ「税制面での構造改革」を進めることにより、「証券市場の構造改革」に資することが重要であると考える。

II.証券税制のあり方

(1) 基本認識

イ 「証券市場の構造改革」に資する税制のあり方については、市場の透明性や信頼性の向上と整合的な方向を目指すとともに、「公平・中立・簡素」の原則に立って構築することが基本である。

ロ 同時に、「金融のあり方の切り替え」との方針に照らし、政策的配慮として、証券市場の裾野を拡大すべく、一般の国民による株式の長期・安定的な保有を促し、厚みのある市場形成に資することが重要である。
その際、一般の国民が個別に市場参加するのではなく、投資信託など、仲介機関を通じて株式を保有する仕組みの重要性も指摘できる。
また、現在、証券税制については、株式取引の「活性化」を求めて、株式譲渡益課税の議論がなされているが、上記のように、広く一般の国民の市場参加を図るという観点からは、「売買」ではなく、「保有」に着目した見直しを検討することがむしろ重要と考える。
こうした課題について、可及的速やかに検討を進めていくこととしたい。

ハ 一方、貯蓄優遇税制については、「金融のあり方の切り替え」との方針にかんがみれば、また、「租税特別措置の聖域なき見直し」との方針からも、根本的に再検討する必要がある。
こうした観点からは、少額貯蓄非課税制度等(老人マル優等)について、基本的には、その廃止に向け検討することが適当である。

ニ なお、金融証券税制の構築に際し、納税者番号制度が存在しないことが、一定の制約要因となっていることは否定できない。納税者番号制度の導入に向けて、具体的な検討を促進することが必要と考える。

(2) 株式譲渡益課税のあり方

株式譲渡益課税に関する主な論点について、本小委員会としては、以下のように考える。

(源泉分離課税の廃止)

イ 現行の源泉分離選択課税方式は、税制調査会がこれまで累次にわたり指摘してきたとおり、

  • 諸外国に例のない「みなし利益」へ課税するものであり、所得課税としてふさわしくない、
  • 損失発生時に申告分離課税を選択し、利益発生時には源泉分離課税の選択を行うことにより、意図的な税負担調整が可能となる、
  • これらと合わせて課税に対する匿名性がある、
  • 源泉分離課税を選択すると個人住民税が非課税であることから、適正化が必要である、

などといった問題点があり、これを廃止し、申告分離課税へ一本化すべきである。

ロ 11年度税制改正において、有価証券取引税の廃止と合わせて源泉分離課税の廃止が決定されたにもかかわらず、13年度税制改正において、その実施が更に2年先送りされている。
源泉分離課税の廃止は、以下に掲げる制度改正の前提である。先送りすることなく、むしろ、廃止時期を出来る限り繰り上げることが適当である。

(損失繰越)

イ 申告分離課税へ一本化され、源泉分離選択による税負担調整が不可能となった後は、リスク負担の緩和等に配慮し、株式譲渡損益間での損失繰越制度の創設を検討すべきである。

ロ その場合、特例として認められている現行の損失繰越制度(災害による損失繰越等)などとの整合性を踏まえた上で、繰越期間など、その具体的な仕組みを検討する必要がある。

ハ なお、現行の源泉分離選択課税方式の下で、損失繰越を認めることは、意図的な税負担調整が可能という現行制度の問題点を更に拡大するものであり、採り得ない。

ニ また、株式については、現行の申告分離課税を前提とする以上、更に、譲渡損益の性格にかんがみれば、給与等の他の所得との損益通算を認めることは不適当である。

(申告分離課税の税負担水準)

イ 現在の申告分離課税の税率(26%)は、総合累進課税を基本とする現行の枠組みの下で、利子、給与、他の譲渡益等に対する税負担水準とのバランスなどを考慮し設定されたものである。
また、株式投資への配慮としては、長期保有上場株式を対象に100万円特別控除制度が創設され、一般的な個人投資家の実質税負担は、ゼロないし利子並み以下の水準となることにも留意する必要がある。

ロ こうした中、申告分離課税への一本化後の税負担水準のあり方については、
i 100万円特別控除制度については、課税ベースを大きく縮減させるものであって、その下での税率の引下げは適当でなく、税率の引下げを行う場合には、廃止又は縮減することが適当である。
ii 税率については、他の金融収益に対する課税の中立性の観点や、また、一般の国民の長期・安定的な株式保有に対し一定の配慮を行うとの観点から、その引き下げ(20%)が適当であるとの意見が多かった。
一方、株式保有層の収入階級や垂直的公平の要請、収益の性格等を勘案すれば、現行水準(26%)を引き下げることは適当でないとの意見があった。

ハ 本小委員会は、以上の議論を踏まえ、申告分離課税への一本化後においては、100万円特別控除制度を廃止又は縮減した上で、長期保有上場株式の譲渡益に対しては、税率を原則として20%とすることが適当と考える。

(簡便な申告)

株式譲渡益については、本来、申告納税制度の下、投資家自ら売却価額と取得価額から算出される所得により申告を行うべきものである。

そうした中、申告分離課税への一本化に伴い、新たに申告を行うこととなる一般の投資家について、簡便に申告を行えるよう、各種の取り組みを講ずることも重要と考えられる。

平成13年分の所得に係る申告以降、納税者利便の向上のため、申告書様式の見直し等が行われるが、関係業界においても、例えば、年間の取引実績等を顧客に通知するなど、申告に係る利便向上のための積極的な取り組みを要請したい。