平成14年度の税制改正に関する答申

平成13年12月14日
税制調査会

目次

  • 一 検討に当たっての視点
    • 1.これまでの税制改革の点検
      • (1) 税制の流れ
      • (2) 税負担の現状と今後の対応
    • 2.最近の経済・財政状況等
      • (1) 経済・財政状況
      • (2) 地方財政の状況と地方税
  • 二 平成14年度税制改正
    • 1.基本的考え方
    • 2.法人課税
      • (1) 連結納税制度
      • (2) 課税ベースの適正化
      • (3) 外形標準課税
      • (4) その他
    • 3.租税特別措置等の整理・合理化
    • 4.金融・証券関係税制
      • (1) 株式譲渡益課税
      • (2) 貯蓄優遇税制
      • (3) 株式投資信託に対する税制
      • (4) その他
    • 5.資産課税等
      • (1) 相続税
      • (2) 贈与税
      • (3) 固定資産税
      • (4) その他
    • 6.酒税
    • 7.その他
      • (1) 納税者番号制度
      • (2) 電子申告等
      • (3) エネルギー関係諸税と環境問題への対応
      • (4) 国際課税
      • (5) その他

当調査会は、昨年12月に「平成13年度の税制改正に関する答申」を取りまとめた。その後、本年5月に金融小委員会を設置し、今後のあるべき金融の姿を展望しつつ、証券税制のあり方について検討を行い、9月に「証券税制等についての意見」を取りまとめ、総会に報告した。

法人課税小委員会においては、昨年の会社分割・合併等の企業組織再編成に係る税制に引き続いて、連結納税制度の導入に向けた検討を深めた。10月に「連結納税制度の基本的考え方」を取りまとめ、総会における審議を経て公表した。

7月に設置した基礎問題小委員会においては、総会との連携を図りながら、租税特別措置等の見直しなど当面の課題について検討を行うとともに、現在、来るべき抜本的な税制改革に向けて、中長期的な税制のあり方について検討を進めている。

総会においては、こうした審議も踏まえ、11月下旬から、当面の課題である平成14年度税制改正について検討を行った。

この答申は、平成14年度税制改正に当たっての指針を示したものである。

一 検討に当たっての視点

1.これまでの税制改革の点検

(1) 税制の流れ

今後の望ましい税制の姿を展望しつつ、平成14年度税制改正を検討することに先立ち、まず近年の税制改革を振り返ることとする。

昭和62年から63年にかけて、高齢化社会の到来などを見据え、所得・消費・資産等の間でバランスのとれた税体系の構築を図るため、シャウプ勧告以来の抜本的な税制改革が行われた。具体的には、旧来の個別間接税が廃止され、消費税が創設された。その一方で、個人所得課税の税率構造について累進緩和・簡素化が図られた。同時に、利子課税の見直し等により資産性所得に対する課税が適正化された。

また、平成6年には、少子・高齢化の進展などに対応するため、個人所得課税の税率構造の一層の累進緩和などにより、主に中堅所得者層の負担軽減が行われた。他方、消費課税の充実を図るため消費税率を5%(新たに創設された地方消費税1%分を含む。)に引き上げるとともに、中小事業者に対する特例措置等の抜本的な見直しが行われた。その際、経済状況に配慮して、消費税率の引上げ等を平成9年4月実施と先に延ばしつつ、個人所得課税については、平成7年(度)以降に制度減税、平成6年(度)から8年(度)に特別減税が実施され、先行減税が行われた。

その後、平成9年秋以降、金融システム不安等が実体経済に深刻な影響を及ぼし、その結果、平成10年度には実質経済成長率がマイナスとなるなど、わが国経済は深刻な状況に陥り、景気回復を図る観点から税制面でも最大限配慮することが求められた。このため、平成10年(度)には個人所得課税について二度にわたる特別減税が実施され、他方、法人課税についても、企業活力や国際競争力を維持する観点から、課税ベースの適正化と併せて税率の引下げが行われた。

さらに、平成11年度税制改正においては、個人所得課税及び法人課税について平年度6兆円を相当程度上回る恒久的な減税が実施された。景気への配慮から、個人所得課税について定率減税が行われたほか、法人課税について課税ベースが見直されることなく一層の税率の引下げが行われるなど、負担軽減となる措置のみが実施された。現在も、こうした個人所得課税の定率減税などの措置が継続しており、諸控除の簡素化・合理化など、課税ベースの見直しを含む個人・法人の所得課税のあり方の抜本的な見直しが検討課題として残されている。

(2) 税負担の現状と今後の対応

以上のような税制の流れを経て、わが国の租税負担率(対国民所得比)は22.6%(平成13年度見込み)と、主要先進国中、最も低い水準にあり、社会保障負担率を加えた国民負担率で見ても、諸外国に比べて低い水準にある。例えば個人所得課税については、恒久的な減税の継続や各種控除の累次の拡充等の結果、働く人のうち概ね4分の1程度が非納税者となっており、個々の納税者の負担水準も国際的に見て非常に低いものとなっている。今後、こうした租税の現状についての理解をより高めるよう努める必要がある。

公的サービスの水準が上昇傾向にある一方、租税負担を含む国民負担が低水準に留まっている結果、歳出と歳入のギャップが拡大傾向にある。現在、明らかに租税の果たすべき公的サービスの財源調達機能は極めて不十分な状態に置かれている。21世紀のあるべき経済社会を展望し、租税は公的サービスを賄うのに十分な財源を国民皆が広く公平に分かち合うものであることを改めて認識した上で、少子・高齢化、国際化・情報化、ライフスタイルの多様化など、経済社会の構造変化と調和のとれた望ましい税制の構築に向けて、税制全般にわたる抜本的な改革が必要となると考える。

こうした点を踏まえ、現在、基礎問題小委員会において、現行税制の歪みや不公平と指摘されている点について、理論的・基礎的検討を行っている。公正で活力ある社会を実現していくため、構造改革の一環として、公平・中立・簡素といった租税の基本原則に則った望ましい税制の構築に向けて、今後、速やかに議論を進めることとする。

2.最近の経済・財政状況等

(1) 経済・財政状況

世界経済が減速している中で、わが国経済は、輸出、生産、設備投資が減少し、雇用情勢も悪化するなど、厳しい状況にある。このような中、政府は、本年6月に経済財政諮問会議の審議を経て決定した「今後の経済財政運営及び経済社会の構造改革に関する基本方針」(以下「基本方針」という。)に基づき、わが国経済の基本的な成長力を高めるよう、構造改革を積極的に推進していくこととしている。

一方、わが国の財政は、バブル崩壊後、景気回復に向けた諸施策に伴う歳出の増大や恒久的な減税など税制面での措置の結果、歳出・歳入ギャップが拡大し、国及び地方の長期債務残高は平成13年度末約666兆円に達すると見込まれるなど、危機的な状況が続いている。平成14年度予算は、財政構造改革の第一歩として、国債発行額を30兆円以下とするとの目標の下、歳出の思い切った見直しと重点的な配分に取り組むこととされている。その後、持続可能な財政バランスを実現するため、「構造改革と経済財政の中期展望」(仮称)を策定しプライマリ-バランス黒字達成に向けた道筋を示すこととされている。

(2) 地方財政の状況と地方税

地方財政は、借入金残高が累増し、個々の団体においても公債費をはじめとする義務的経費が増加するなど、極めて厳しい状況が続いている。地方公共団体の財政面における自己決定権と自己責任をより拡充することを基本とし、引き続き徹底した行財政改革に取り組み、事業規模の抑制に努め財政の健全化を進めることが求められている。

地方行財政の効率化を前提に自主財源を中心とした歳入基盤を確立し、税源の偏在性が少なく、税収の安定性を備えた地方税体系を構築するために、地方税の充実確保を図ることが重要である。その一環として、国と地方の役割分担を踏まえ、国庫補助負担金の整理・合理化や地方交付税のあり方の見直しと併せて、税源移譲を含め国と地方の税源配分について根本から見直しそのあり方を検討すべきである。その際、国・地方それぞれの財政事情や個々の自治体に与える影響を考慮に入れる必要があろう。

二 平成14年度税制改正

1.基本的考え方

平成14年度税制改正については、以上のようなわが国の財政状況や租税負担の現状等を考慮すれば、「国債発行額30兆円以下」との目標の下、基本的に税制改正全体として減収とならないような方針で臨む必要がある。

また、中長期的な視点に立ち構造改革を積極的に推進することにより、経済を効率化し、わが国経済の基本的な成長力を高める観点から、税制面においても、経済社会の構造変化に適切に対応する必要がある。

さらに、近い将来、税制全般にわたる抜本的見直しが必要である。平成14年度税制改正において、その妨げとならないよう、今後のあるべき税制の姿を見据えた検討を行うことが重要である。

こうした基本的考え方に基づき、平成14年度税制改正においては、経済・産業の構造改革に資するという観点から、連結納税制度の創設や租税特別措置等の聖域なき見直しについて、また、証券市場・金融システムの構造改革の一環として、金融・証券関係税制について検討を行った。加えて、最近の社会経済情勢等を背景とした税制に関する議論も踏まえ、検討を行った。

2.法人課税

(1) 連結納税制度

1) 制度の意義

経済の国際化や長引く景気低迷の下、わが国企業の経営環境が大きく変化している。近年、企業グループの一体的経営の傾向が強まってきていることから、当調査会は、わが国においても、21世紀のわが国経済のインフラとなる連結納税制度を構築することが適当であるとし、検討を行ってきた。

会社分割・合併等に係る税制に引き続いて連結納税制度を創設することは、企業の組織再編成や、わが国企業の国際競争力の維持、強化と経済構造改革に資することになると考える。

連結納税制度の創設は、これまでの法人税の体系を大きく変えるものであり、また、企業組織再編税制を踏まえた精緻な仕組みとならざるを得ないが、平成14年度当初からの適用が可能となるよう準備を進めていくべきである。

2) 基本的仕組み

連結納税制度の狙いは、一体経営がなされ実質的に一つの法人とみることができる企業グループについて、これを一つの納税単位として課税することにある。その結果、実態に即した適正な課税が実現されることになると考えられている。

こうした観点から、連結納税制度の対象となる企業グループは、その実質において単一の法人とみなしうる一体性を持ったもの、すなわち、親会社とその100%子会社を対象とすることが適当である。また連結納税制度は、個々の法人を前提としたわが国法人税の課税体系の中に、企業グループを一つの納税単位とする新たな課税体系を創設するものである。広範な論点について検討が求められていたが、特に、株式の取得・譲渡等を通じた企業グループへの加入や企業グループからの離脱が流動的に行われることから、租税回避行為に対して十分に対応できる仕組みを構築せねばならない。

3) 税収減への対応

連結納税制度は、企業グループの所得と欠損の通算等を行うことから、その創設により継続的な税収の減少が生じる。事務局が行ったアンケート調査に基づき、平成12年度の法人の所得・欠損金額に基づく機械的な試算を行った場合には、8,000億円程度の減収額が生じるとされている。

連結納税制度は単なる企業減税を企図するものではなく、現下のわが国の厳しい財政事情を考慮すれば、連結納税制度の創設により生じる税収の減少については、これを補填する必要がある。この対応としては、連結所得に対する法人税率の付加的な上乗せ(いわゆる連結付加税)に安易に依存すべきでないとの意見が出された。税収減への対応としては、まずは租税特別措置の見直しや課税ベースの拡大といった法人税制全般についての見直し、連結納税制度の適用開始前に生じた欠損金額の繰越控除の否認などが講じられるべきであり、その上で連結付加税の導入を図るべきである。

4) 地方税

法人事業税及び法人住民税については、地域における受益と負担との関係等に配慮し、単体法人を納税単位とすることが適当である。

(2) 課税ベースの適正化

主要先進国において、法人課税について、企業間・産業間の税の中立性の確保及び経済の活性化などの観点から、「課税ベースを拡大しつつ、税率を引き下げる」という法人税改革が1980年代半ばから行われてきた。公正・中立で透明性の高い法人税制を構築するとの観点から課税ベースを見直すことは、企業活力の発揮や新規企業・産業の創出、経済全体の効率性の向上など、経済社会の構造改革に資すると考えられる。

わが国においても、同様の観点から、平成10年度税制改正において、法人税の課税ベースの大幅な見直しと法人税の基本税率の引下げが併せ行われた。しかしながら、平成11年度税制改正においては、景気情勢に配慮し、課税ベースの見直しが行われないまま税率の引下げが行われ、現在でもこの一方的な減税措置が継続している。

課税ベースの一層の適正化への取組みは、わが国法人税における重要な課題であり、特に連結納税制度といった新しい制度の創設に当たっては、法人税制全体の見直しが不可欠である。こうした観点から、引当金や法人間配当に関する取扱いなど平成10年度税制改正において残された課税ベースの見直しを進めていく必要がある。

(3) 外形標準課税

法人事業税への外形標準課税の導入は、税負担の公平性の確保、応益課税としての税の性格の明確化、地方分権を支える基幹税の安定化、経済の活性化・経済構造改革の促進などの重要な意義を有する改革である。

平成12年11月に旧自治省が示した具体案は、所得基準と外形基準を併用することとし、所得に係る税率を現行の2分の1に引き下げ、残りの部分について、加算法による付加価値である「事業規模額」による課税方式を導入しようとするものである。この旧自治省案は、増税を目的としたものではなく、中立性の高い課税標準により、薄く・広く・公平な課税を図ろうとするもので、現行の所得課税よりも望ましいものである。

本年11月、旧自治省案に対して各方面から寄せられた意見を踏まえ、外形標準課税に関する総務省の新たな具体案が示された。この総務省案は、旧自治省案で2分の1導入することとした外形基準の部分について、付加価値額を基本としつつ、資本等の金額による課税方式を補完的に併用するものである。資本等の金額は、中期答申において望ましい外形基準とされた4類型の1つであり、法人の事業活動の規模をある程度示すとともに、担税力を示す面も有するものである。これにより、法人事業税全体に占める報酬給与額に係る部分の割合が大幅に下がることとなった。また、大法人と中小法人との税負担割合を変えずに税率が一本化され、「雇用安定控除」も不要となるなど、担税力に配慮しつつ、課税の仕組みが簡素化されており、「薄く・広く・公平な課税」という考え方を堅持しつつ、各方面から寄せられた意見を取り入れて、工夫された案となっている。

外形標準課税の導入は、景気の状況が厳しいこともあり、国・地方を通じる税制の抜本的改革と一体的に行うことが適当との意見もあった。しかしながら、課税の不公平の是正、税収の安定化を図るとともに、努力した企業が報われる税制の確立、真の地方分権の実現に資するため、早期に導入すべきである。

(4) その他

法人課税に関しては、最近の社会経済情勢を背景に以下の議論があるが、これらについては、以下のとおり考える。

同族会社の留保金課税制度については、昨今の中小企業の厳しい経営環境の下、内部留保の充実を図る観点から、制度を廃止すべきではないかといった意見がある。本制度は、同族会社に対して通常の法人税のほか、一定額を超える内部留保に対して追加的な課税を行うものである。それは、間接的に配当支出の誘引としての機能を果たしつつ、法人形態と個人形態における税負担の差を調整しようとする狙いを有している。現行の法人税と個人所得課税の基本的仕組みを前提とする以上、今後とも必要な制度である。

交際費課税制度については、景気情勢に配慮し、課税の緩和を図るべきではないかといった議論がある。交際費は企業の経済活動において必要な側面も有しているといった意見もあるが、平成8年度の法人課税小委員会報告においては、現行制度は、交際費を税制上経費として容認した場合には不要不急の支出を助長する面もあり、また、交際費の支出は公正・透明な取引を阻害する可能性がある点を考慮したものとされている。税制がこのような諸問題を助長することは、経済構造改革の観点からも問題が多く、少なくとも現行の制度を維持すべきである。

私立大学等に関する税制上の措置については、大学教育の重要性や民間資金の導入を図る観点から減税措置を検討すべきではないかとの意見がある。私立大学等は、法人税法上、学校法人である公益法人等として扱われており、公益法人等の中でも、以下に述べるように特に優遇措置を受けている。寄附金については、現行制度上、指定寄附金制度や特定公益増進法人制度により特別の配慮を行っており、現在の寄附金の支出状況を踏まえれば、現行制度の一層の活用の余地がある。また、受託研究については、民間との競合性のある収益事業として課税されているが、寄附金とみなされる収益事業部門から非収益事業部門への支出(いわゆる「みなし寄附金制度」)も含めた寄付金の損金算入限度額について、他の公益法人等に比べ優遇されている。こうした点を踏まえて検討すべきである。

公益法人等やNPO法人に関する税制上の措置については、特殊法人、公益法人等の見直しの議論や認定NPO法人の実態等を踏まえ、非営利法人に関する税制全体のあり方の中で検討する必要がある。

3.租税特別措置等の整理・合理化

租税特別措置等は、特定の個人・企業の税負担を軽減することにより、経済政策、社会政策等の特定の政策目的を実現するための政策手段である。このため、「公平・中立・簡素」という租税原則に反する例外措置として設けられている。

上記の租税原則の観点から、租税特別措置等を常に見直し、課税ベースを拡大していく必要があると言えよう。その際、全法人の約7割が欠損法人であるほか、個人所得課税において個々の納税者の負担水準が低下し、働く人のうち概ね4分の1程度が非納税者となっている状況の下では、租税特別措置等の政策効果が限定的となっていることに留意せねばならない。

また、経済社会が急速に変化し多様化する状況においては、個人・企業の自由な活動を通じて、効率的な資源配分が可能となる環境を整備することがより重要であり、これが経済社会の活性化に資すると考える。これまで税制を政策的に活用してきた結果、現行の税制に歪みが生じており、効率的な資源配分が妨げられている。したがって、租税特別措置等の見直しを通じて、税制を個人・企業の経済活動に対して中立的なものとすることが極めて重要である。

さらに、歳出面で補助金などの思い切った見直しが行われている中で、実質的に補助金の裏返しである租税特別措置等は、ゼロベースからの見直しを含め、従来にない大幅な整理・合理化を行わねばならない。

個々の措置について具体的に見直す際には、以下のような視点からの明確な基準が必要である。

(1) 政策目的・効果

租税特別措置等は、あくまで政策手段であり、その政策目的や効果を常に検証していく必要がある。

(2) 政策手段としての適正性

他の政策手段との比較において、特定の政策目的を達成するために最適な手段かどうかについて検討する必要がある。

(3) 利用実態

一定期間利用実態の低調な、いわば形骸化した措置については廃止すべきであると考えられる。

中小企業やベンチャー企業に関する政策税制については、これまでもこれらを支援する観点から各種の特例措置が講じられてきたが、更なる支援が必要ではないかとの意見がある。これらについても、上記の視点から既存の措置を徹底的に見直した上で、真に有効な措置についてのみ存置する必要がある。

事業税における社会保険診療報酬に係る課税の特例措置については、過去の当調査会の答申において指摘してきたとおり、税負担の公平を図る観点から、速やかにこれを撤廃すべきであり、少なくとも段階的な見直しを図ることが必要である。

4.金融・証券関係税制

(1) 株式譲渡益課税

株式譲渡益課税のあり方については、当調査会はこれまで累次にわたり、現行の源泉分離選択課税方式について、次のような問題点を指摘してきた。

1) 諸外国に例のない「みなし利益」へ課税するものであり、所得課税としてふさわしくないこと

2) 意図的な税負担調整が可能となること

3) 課税に対する匿名性があること

4) 個人住民税が非課税であることから適正化が必要であること

金融小委員会においては、本年9月に取りまとめた「証券税制等についての意見」において、株式譲渡益課税について、源泉分離課税の廃止と申告分離課税への一本化、更に、税率の引下げ及び損失繰越制度創設の検討を提言した。また、その中で、一般の国民が短期売買ではなく、長期・安定的な資産運用を図ることが可能な場として、証券市場の健全な形成を目指していくことの必要性を強調したほか、証券会社の営業姿勢の改善や市場監視・取締りの抜本的強化などの「インフラ」整備の重要性を指摘した。

その後、国会での審議を経て可決・成立した株式譲渡益課税に係る改正法は、基本的に上記意見に沿った内容となっており、評価し得るものである。

しかしながら、「緊急投資優遇措置」の創設や100万円特別控除の適用期限の延長、暫定税率(10%)の設定は、必ずしも小委員会の「意見」に沿ったものとは言い難い側面がある。特別の政策税制として位置付ける意味でも、適用期限を限定することが適当である。

申告納税制度の下では、本来、申告は投資家本人の自己責任の下できちんと行われる必要がある。今般の法改正により取得価額が不明な場合の取得費の特例が創設されたが、そのほかにも申告が簡便にできるよう、関係業界も含めた取組みが期待される。

(2) 貯蓄優遇税制

わが国の家計には、証券投資より預貯金中心の貯蓄を重視する傾向がある。貯蓄重視指向の要因としては、これを優遇してきた各種制度の存在が指摘されている。貯蓄優遇税制についても、「租税特別措置の聖域なき見直し」の観点や「貯蓄優遇から投資優遇への金融のあり方の切り替え」(「基本方針」)の観点から、根本的に再検討する必要がある。

少額貯蓄非課税制度(老人マル優)等の見直しについては、高齢者世帯(世帯主が65歳以上の世帯)の所得分布は二極化しているため、その実態を踏まえて慎重に検討すべきであるとの意見や、高齢者等の生活資金の備えとしての意義に配慮が必要であるとの意見も出された。しかしながら、高齢者世帯の平均貯蓄残高は勤労者世帯と比べて高水準にあり、また、生活に与える影響という観点でみると、高齢者世帯の所得に占める利子所得の平均割合は総じて1%前後である。高齢者相互間・世代間の税負担の公平確保の観点や課税ベースの拡大を図る観点から、本制度は基本的に廃止に向け検討を進めるべきである。

生命保険料控除制度・損害保険料控除制度の見直しについては、老後に備えた自助努力の支援や相互扶助、更には不慮の事故による損害に対して共同で備えるという観点に留意が必要であるとの意見もあった。しかしながら、制度創設後長期間が経過し、保険加入率は相当の水準に達しているほか、大半の納税者に対し適用されており、これ以上の誘因効果も期待し難い。また、保険の貯蓄としての側面に着目すれば、様々な貯蓄手段のうち、特に保険に限って税制上優遇する本制度は、金融商品間の税負担の公平性及び中立性等に照らし問題があると言える。このような実態を踏まえれば、本制度は廃止に向け検討すべきである。

さらに、少額貯蓄非課税制度等及び生命保険料控除制度・損害保険料控除制度については、長年、当調査会において、その廃止・縮減に向けて見直しを行うべきとの考え方を度々示してきた。しかしながら、制度創設以降、実際にそうした見直しは行われてこなかった。こうした過去の経緯を踏まえ、少なくとも時限措置へ移行するなど、経過的な手当てを考慮しつつ、廃止・縮減に向けて具体的な措置を講じるべきである。

(3) 株式投資信託に対する税制

株式投資信託は、資産運用を職業とする専門家が金融サービスを提供する商品である。その運用状況が必ずしも期待に沿っていないとの指摘はあるものの、ファンド内で分散投資されるなどの点において、一般の個人投資家にとっては、株式へ直接投資するより本来はなじみやすい側面を有している。

株式投資信託(公募型)に対する課税のあり方については、金融小委員会で幅広く検討された。その中では、収益分配金の性格を配当所得として捉える以上、収益に配当課税を行い、譲渡時には譲渡益課税を行うといった株式に対する課税と同様の方式へ変えていくべきといった観点、一方、これまで「貯蓄類似商品」として広く普及してきた経緯等を踏まえれば、従来どおり、利子に対する課税と同様の方式を採ることが合理的であるといった観点が提示されている。

いずれにせよ、株式投資信託に対する課税のあり方については、収益分配時の課税は利子と同様の方式を採る一方、譲渡時には株式と同じ譲渡益課税を行うといった取扱いは、整合的でなく採るべきではない。

さらに、集団投資スキームの各類型を通じて課税の整合性を図る観点から、証券投資信託以外の「集団投資スキーム」に講じられているように、ファンド段階での法人税課税を行った上で、収益の分配については課税所得の計算上、損金算入の手当てを講じるなどの措置について、今後検討することが求められる。

証券投資信託に関する税制を検討していく上では、金融税制のみならず、所得税制全体のあり方にも関連する多岐にわたった論点が存在しており、今後、検討が一層進められるべきである。

(4) その他

配当課税については、証券市場の裾野を拡大し、広く一般の国民の市場参加を促進する観点から、その見直しを検討すべきではないかとの意見があった。しかしながら、少額配当の特例か配当控除の選択ができることから、大半の個人株主が利子と同様あるいは利子以下の税負担水準となっている。したがって、まずは株主重視の経営姿勢の確立など、株式保有の魅力を高める発行会社等の努力が重要である。

所得税で確定申告不要制度が採られている一定の少額配当については、現在、個人住民税が非課税となっているため、その適正化を図る必要がある。

5.資産課税等

(1) 相続税

当調査会がこれまで累次の答申で指摘してきたように、相続税については、個人所得課税の抜本的見直しとの関連において、税率構造や課税ベースなどについて幅広く検討を行う必要がある。その際には、近年、一貫して拡充されてきた基礎控除や各種の特例措置を見直すことに加え、公的な社会保障制度が充実してきていることなどを踏まえ、死亡保険金、死亡退職金の非課税制度などについても、見直しを行うべきである。

特定の資産の保有を誘導するインセンティブとして相続税を活用することについては問題が多い。相続税は、すべての財産を平等に扱うことが課税の公平上強く求められること、課税時期が人の死亡(相続の開始)という偶発的な事象により決定されること、一生涯において課税される機会がごく限られていること等から、時々の政策手段として用いることにはなじまず、その政策的な活用は適当でない。

中小企業の事業承継について更なる配慮が必要ではないかとの意見があるが、これについては、相続税の税率構造や課税ベースなど、幅広い見直しとの関連で検討していかねばならない。既存の優遇措置は、事業の円滑な承継を通じて中小企業の活性化につながる点は認められるが、次のような問題点も存在する。

1) 自ら起業する者と事業を承継する者との機会の均等

2) 次世代の経営能力の如何を問わず事業資産が移転され、資源配分の効率性を損なうこと

3) 事業用資産を持たない給与所得者の相続税負担とのバランス

したがって、公平性や構造改革の観点、「すべての財産を公平に課税する」という基本原則に照らし、吟味していく必要がある。

このことに関連し、農地の納税猶予制度と同様の措置を事業承継一般にも拡大すべきとの意見があるが、これについては、次のような問題点を指摘したい。

1) 納税猶予制度は農地に係る財産権が法律上厳しく規制されていることなどを踏まえた異例の措置であり、そのあり方について検討が必要であること

2) 事業の「承継」、「継続」を客観的に把握することは困難であるなど、税制として仕組みにくいこと

3) 事業の承継を要件とすると自由な事業転換の妨げとなり、産業構造の改革を阻害するおそれがあること

(2) 贈与税

贈与税については、昭和50年以来据え置かれていた基礎控除の水準(60万円)を、贈与税の機能や、所得税の課税最低限の水準との関係等にも配慮し、当面の措置として、平成13年度税制改正において大きく引き上げた (110万円)。

現在、高齢者の保有する多額の個人金融資産を若年・中年世代へ早期に移転させて消費拡大等を図る視点から、贈与税の軽減を求める意見がある。しかしながら、現行制度の下で、既に相当の金額の贈与を毎年非課税で行うことが可能となっている。また、贈与税は相続税の課税回避を防止するという基本的な機能を有しており、相続税の課税対象者がごく一部の資産家に限られていることから、贈与税の軽減が世代間の財産移転を促進する効果も非常に限定的と考えられる。こうしたことから、贈与税については、相続税の幅広い見直しの一環として検討することが適当である。

(3) 固定資産税

固定資産税については、引き続き地価公示価格の7割を目途とした全国的な評価の均衡を図ることが適当である。平成15年度以降の税負担については、評価替えの動向、負担水準の状況や市町村財政の状況等を踏まえ、負担の均衡化・適正化を更に一層促進する措置を採る必要がある。

また、納税者の理解と信頼を確保するため、固定資産課税台帳縦覧制度の拡充等、情報開示を一層進めるべきである。

(4) その他

1) 土地税制のあり方

土地税制のあり方については、現在、土地の保有・流通に係る税目などについて様々な意見がある。この点については、譲渡益課税を含め、幅広い観点を踏まえ、適正化も視野に入れて考えていく必要がある。とりわけ、土地基本法の基本理念、地価の推移、課税ベースが各種の特例措置等により大きく侵食されていることなどに留意すべきである。また、公的サービスの費用を広く公平に分かち合うために、限られた基幹税目のみならず各種の税目を組み合わせるという観点も重要である。

2) 登録免許税

土地の流通を阻害するといった観点から、登録免許税の負担の大幅な軽減や手数料化すべきとの意見が出された。しかしながら、地価が大幅に下落しているにもかかわらず、土地の需要が低迷している現状において、登録免許税の現行1%程度の負担を軽減しても、土地に対する需要を十分に喚起するとは考えられない。

また、登録免許税は、基本的に登記などによって生じる利益に着目するとともに、高額の土地取引等の登記・登録などの背後にある経済取引に担税力を見出して、それに応じて課税するものであり、手数料とは性質が異なると考える。

現下の厳しい財政状況の下、貴重な財源である登録免許税は引き続き不可欠な存在である。

3) 不動産取得税

不動産取得税については、住宅用地や商業地等の取得について、既に大幅な軽減措置が講じられており、これ以上その負担を軽減しても、土地の需要を十分に喚起するとは考えられない。また、都道府県財政を支える主要税目であることから、不動産取得税の役割は引き続き重要である。

4) 特別土地保有税

特別土地保有税については、その果たしている役割などに照らして、必要な見直しは行いつつ、今後ともその基本的な仕組みは維持していくべきである。

5) 事業所税

事業所税は、今日、緊要な課題となっている都市再生や都市環境整備事業の貴重な財源であり、今後ともその基本的な仕組みは維持していくべきである。

6.酒税

酒税の課税制度については、各酒類の生産・消費の態様の変化に応じ適切に対応する必要があるが、現行の課税制度は、近年の発泡酒や果実酒などの醸造酒を中心とした生産・消費の動向の変化に必ずしも適合していない。

こうしたことから、当調査会はかねてより、「同種・同等のものには同様の負担」という消費課税の基本的考え方を踏まえ、税制の中立性や公平性の確保の観点から、酒税の課税のあり方について検討する必要があると指摘してきた。

発泡酒の課税のあり方については、現下の経済状況や商品開発のために払われた努力等にも配慮すべきではないかとの意見も出された。しかしながら、ビールと発泡酒との間に現在のような税負担格差を設けるほどの違いは存在しなくなっている。したがって、税制の中立性・公平性の確保のため、ビールとの負担の均衡を図っていく必要がある。

7.その他

(1) 納税者番号制度

納税者番号制度は、適正・公平な課税の実現、税務行政の効率化・高度化、更には納税者の税制への信頼の向上にも資するものである。現在、金融・証券関係税制の構築に際して、納税者番号が存在しないことは明らかに一定の制約要因となっている。加えて、近年における国際化・電子化の進展という視点を踏まえた検討も引き続き不可欠である。

納税者番号制度については、制度の意義や、付番方式のあり方、導入に伴うコストと効果、プライバシー保護の問題などの様々な論点がある。これらについての国民の受け止め方や考え方を念頭に入れて、資料情報制度など納税を支える他の諸制度のあり方や金融・証券関係税制のあり方も踏まえ、その導入について、今後、積極的に検討を進めていく必要がある。

(2) 電子申告等

情報化・デジタル化の進展や普及を背景に、e-Japan重点計画等に基づき、行政全体として申請・届出等手続の電子化に向けた取組みが行われている。このような取組みの中で、税務行政の分野における申告、申請、納付等の手続についても、納税者の信頼を得られるセキュリティの確保に配慮しつつ、電子化を図っていく必要がある。

(3) エネルギー関係諸税と環境問題への対応

1) エネルギー関係諸税と特定財源

既存のエネルギー関係諸税等のうち特定財源等については、特定の公的サービスからの受益と負担との間に密接な対応関係が認められる場合には一定の合理性を持ち得る。他方、資源の適正な配分を歪め、財政の硬直性を招く傾向があることから、常にその妥当性を吟味していく必要があるとこれまで当調査会でも指摘してきている。

また、道路特定財源等については、依然として道路整備の必要性はあり、これを維持すべきであるとの意見もあった。しかしながら、厳しい財政事情や最近の道路整備の改善状況等を考慮すれば、一般財源化を含め、その見直しを検討すべきではないかといった意見が多数であった。わが国の燃料課税の税負担水準は、国際的に見ても高くない水準にあること、また、地球温暖化問題の観点からも、これを引き下げることは適当でない。

今後、特定財源等を含むエネルギー関係諸税等については、こうした点を踏まえ、幅広い観点から、そのあり方の検討を行っていく必要がある。

2) 環境問題への対応

環境問題に対する税制面での対応については、国民に広く負担を求めることになる問題だけに、国民の理解と協力が得られることが不可欠である。国・地方の環境施策全体の中での税制の具体的な位置付けを踏まえ、汚染者負担の原則(PPP)に立って幅広い観点から検討していく必要がある。特に、地球温暖化問題については、京都議定書の締結に向けた国内制度の整備・構築の準備が本格化しており、このような中で、規制的手法、自主的取組み、経済的手法といった各種手法の適切な組み合わせが検討されている。当調査会としても、こうした状況を踏まえ、税制面での対応について具体的な検討を進めていくこととする。その際、既存のエネルギー関係諸税等との関係についても検討する必要がある。

(4) 国際課税

国際化の進展に伴い、外国企業のわが国への進出形態は、子会社や支店の開設といった方法に加え、外国のパートナーシップやSPC(特定目的会社)等の集団投資スキームを利用した方法が採られるなど、多様化する傾向にある。こうした事業体を利用してわが国で得た所得に対して適正な課税を行うには、事業体の活動や構成員たる企業・個人に関する情報を把握することが重要になる。今後、企業活動の実態の変化に対応する形で、外国企業等に関する課税のあり方を検討していかねばならない。

また、国境を越える取引の拡大により、各国の税制の差異等を活用した租税回避の可能性が増加している。こうした動きに対しては、個別に制度・執行の両面で対応していくとともに、包括的な租税回避防止策のあり方についても検討を深めていく必要がある。さらに、いわゆる「有害な税の競争」をはじめ、様々な国際課税の問題について、今後ともわが国がOECD等の場での国際ルール作りの議論に積極的に参加していくことも重要である。

(5) その他

地方税の法定外税について、各地で様々な取組みが進められている。このように、課税自主権を活用し、財源確保を図ろうとしていることは、地方分権の観点から望ましい。ただし、極めて限られた特定の者や区域外の者だけを対象にするような問題のある事例が一部に見受けられる。法定外税の導入に当たっては、地方税法に従い、公平・中立などの税の原則によることが必要である。また、地方公共団体は、住民に正面から向き合って、自らの責任と負担で施策を進める姿勢が求められる。