平成13年度の税制改正に関する答申

平成12年12月13日
税制調査会

目次

(注)項目の記号は、一部PDF版と異なる場合があります。


当調査会は、本年9月14日の総会において、内閣総理大臣から「わが国税制の現状及び諸課題を踏まえ、今後の経済社会の構造変化等に対応した21世紀初頭における望ましい税制の構築に向けての審議を求める。」との諮問を受けました。

その後、法人課税小委員会において、会社分割等に係る税制について検討を深め、本年10月に「会社分割・合併等の企業組織再編成に係る税制の基本的考え方」を取りまとめ、総会での審議を経て公表したところです。また、同小委員会においては、連結納税制度の導入に向けた検討を再開しています。

総会においては、本年7月14日に取りまとめられた「わが国税制の現状と課題-21世紀に向けた国民の参加と選択-」(以下「中期答申」という。)に基づき、主として中長期的な観点から税制全般のあり方について幅広く審議を行い、11月下旬からは、当面の課題である平成13年度税制改正について検討を行いました。

この答申は、こうした審議を踏まえて、平成13年度税制改正に当たっての指針を示したものです。

一 平成13年度税制改正を取り巻く状況

1.最近の経済情勢

わが国経済は、平成9年秋以降の金融機関の相次ぐ破綻による金融システムへの信頼低下やアジアにおける通貨・経済危機などにより極めて厳しい状況に陥りましたが、その後の各般の政策効果もあって、昨年春頃を底に、緩やかながらも改善が続いています。

最近の経済情勢は、一昨年、昨年とは異なり、企業収益が大幅に改善するなど、企業部門を中心に景気の自律的回復に向けた動きが続き、明るい兆しが見えています。一方、家計部門の改善は遅れており、雇用情勢は依然として厳しく、個人消費も概ね横ばいの状態が続いています。

こうした経済情勢の下、公需から民需への円滑なバトンタッチに万全を尽くし、景気の自律的回復に向けた動きを本格的回復軌道に確実につなげるとともに、わが国経済の21世紀における新たな発展基盤を確立することが求められています。このため、本年10月には、「日本新生のための新発展政策」が取りまとめられ、11月22日にこの経済対策を具体化するための平成12年度補正予算が成立したところです。

2.財政の状況

わが国財政の現状を見ると、近年の景気回復に向けた諸施策に伴う歳出の増大や恒久的な減税の実施などもあって、公債依存度が依然として4割に近い水準(平成12年度補正後38.5%)にあり、国債残高は平成12年度末約365兆円に、国及び地方の長期債務残高は同約642兆円に、それぞれ達すると見込まれています。このように、わが国財政は危機的な状況が続いており、主要国との比較で見ても最悪です。国税収入(一般会計)の水準は50兆円程度(平成12年度補正後49.9兆円)であり、昭和63年度の水準(50.8兆円)をなお下回っています。

財政運営については、引き続き景気回復に軸足を置きながらも、先般の平成12年度補正予算編成においては財源面での工夫等により国債の追加発行は極力抑制されたところです。平成13年度予算編成についても、施策の大胆な見直しと効率化を進め、公債発行額をできる限り圧縮し、新世紀のスタートにふさわしい予算となるよう全力を尽くす必要があります。

既に累次の答申で指摘しているように、現在の歳出と歳入の大幅なギャップをいつまでも放置することができないことは明らかです。財政構造改革については、まず、財政の透明性の確保を図り、効率化と質的改善を進めながら、明るい兆しの見えてきたわが国の景気回復を一層確かなものとし、その上で、21世紀のわが国経済社会のあるべき姿を展望し、幅広い観点から必ずや取り組まなければならない課題です。また、行政改革についての一層の取組みが求められます。

地方財政については、平成12年度末における借入金残高が約184兆円に達する見込みであり、公債費負担比率が警戒ラインを超える団体が6割以上となるなど、極めて厳しい状況が続いています。地方公共団体の財政面における自己決定権と自己責任をより拡充することを基本とし、引き続き歳出削減などの行財政改革を積極的に推進することが求められます。また、地方における歳出規模と地方税収入との乖離をできるだけ縮小するとの観点に立って、課税自主権を尊重しつつ、地方税の充実確保を図るとともに、地方公共団体の安定的な財政基盤を確立するために、税源の偏在性が少なく、税収の安定性を備えた地方税体系を構築することが重要であると考えます。地方税財源の充実確保については、自主財源である地方税の充実を基本としつつ、国からの財源への依存度をできるだけ縮減し、地方公共団体がより自主的な財政運営を行えるようにすることが必要です。

二 平成13年度税制改正

1.基本的考え方

(1) わが国経済社会は、経済の国際化・情報化がますます進展する中、様々な構造改革を遂げようとしています。税制は、これまでも経済社会の構造変化に対応して各般の見直しを行ってきました。このような流れの中で、平成13年度税制改正においては、まず会社分割等の企業組織再編成に係る税制を整備することが重要な課題となっています。また、わが国経済の発展基盤を構築していく観点からIT革命が推進されていることなどにも配意することが適当です。

(2) 先に述べたように、景気には明るい兆しが見られます。一昨年の深刻な景気状況の下で講じられた税制上の臨時異例の措置については、改めて公平・中立・簡素という税制の基本原則に立ち返った見直しを検討していく必要があります。この場合、いまだ万全とは言えない景気情勢の下、税制面の配慮も必要と考えられます。

景気との関連では、平成11年度税制改正において実施された平年度6兆円を相当程度上回る個人所得課税及び法人課税の恒久的な減税が継続していることに留意することが必要です。

(3) 平成13年度予算編成においては、公債発行額を極力抑制していくことが求められています。また、近い将来、税制全般にわたる抜本的な見直しが必要であることを念頭に置いておかなければなりません。

したがって、平成13年度税制改正に当たっては、今後のあるべき税制の姿を見据えるとともに、更なる減収につながることは極力避ける必要があります。

2.法人関係税制

(1) 会社分割・合併等の企業組織再編成に係る税制

ア 先に述べたように経済の国際化が進展するなど、わが国企業の経営環境が大きく変化する中で、企業の競争力を確保し、企業活力が十分発揮できるよう、柔軟な企業組織再編成を可能とするための法制の整備が進められてきています。その一環として、本年5月、商法が改正され、会社分割法制が創設されました。来年春以降、改正商法が施行されますが、会社分割法制に基づき企業が組織再編成を進めていくためには税制面での対応が不可欠であり、平成13年度税制改正において、税制全般にわたる新たな枠組みを早急に構築する必要があります。

このため、会社分割法制に係る税制のあり方について、当調査会は、()合併・現物出資などの資本等取引と整合性のある課税のあり方、()株主における株式譲渡益課税やみなし配当に対する適正な取扱い、()納税義務・各種引当金などの意義・趣旨などを踏まえた適正な税制措置のあり方、()租税回避の防止の4点を基本的な視点として検討を進め、本年10月、会社分割等に係る税制を構築するに当たっての基本的な考え方を示しました(末尾(参考)「会社分割・合併等の企業組織再編成に係る税制の基本的考え方」参照)。

イ 税制の基本的な原則によれば、企業組織再編成によるものであっても、移転する資産については、その譲渡益に課税することとなります。

企業組織再編成を円滑に進める観点からは、これに伴い形式的に資産が移転する場合には移転資産の譲渡損益を繰り延べることが要請されますが、単なる資産の売買や営業譲渡についてまで資産の譲渡損益を繰り延べることは適当ではありません。このため、企業組織再編成が行われる場合でも、譲渡損益が繰り延べられるものとそうでないものの区別をすることが必要になります。

また、既存の企業組織再編成の手法には合併や現物出資がありますが、これらは会社分割と同様の経済効果を持つ場合があります。租税回避を防止し、課税の公平を図る観点からは、同一の経済効果をもたらす行為には同一の課税上の取扱いが行われる必要があります。したがって、会社分割に係る税制の構築に当たっては、既存の合併や現物出資に係る税制を改めて見直し、全体として整合的な取扱いが確保されるようにする必要があります。

ウ 先に述べた企業組織再編成により移転する資産の譲渡損益の取扱いについては、移転資産に対する支配が企業組織再編成後も継続している場合には、移転資産の譲渡損益を繰り延べることが考えられます。また、分割型の会社分割に伴い、株式が交付される場合の譲渡損益の取扱いについては、株主が株式を企業組織再編成前後において継続保有していると認められるものについて、これを繰り延べることが考えられます。

諸外国での経験に照らしても、会社分割を含め企業組織再編成の形態や方法は、複雑かつ多様なものになることが予想され、租税回避の手段として濫用されるおそれがあります。このため、繰越欠損金等を利用した租税回避行為の防止規定に加え、企業組織再編成に係る包括的な租税回避防止規定を設けることが必要です。

エ いずれにしても、企業組織再編成に係る税制の構築については、当調査会が「会社分割・合併等の企業組織再編成に係る税制の基本的考え方」で示した方向に沿って、その具体化を図ることが適当であると考えます。

(2) 連結納税制度

先に述べたように、企業組織の柔軟な再編成を可能とするための商法等の見直しが進められています。当調査会は、企業の経営環境の変化に対応する観点や国際競争力の維持・向上に資する観点、企業の経営形態に対する税制の中立性の観点から、わが国においても連結納税制度の導入を目指すことが適当であるとしてきました。企業集団の一体性に着目して制度を構築するという理念の下、アメリカにおいて導入されているような本格的な連結納税制度の導入に向けた検討を進めています。

連結納税制度は、21世紀のわが国経済のインフラとなる制度であり、会社分割・合併等の企業組織再編成に係る法人税制に続いて速やかに整備すべき重要な課題です。当調査会は、既に多岐にわたる検討項目を示したところであり、国際的にも遜色のない制度を構築すべく、法人課税小委員会においてこれらの項目について具体的な検討を進めていくこととします。

(3) 外形標準課税

ア 法人事業税への外形標準課税の導入は、税負担の公平性の確保、応益課税としての税の性格の明確化、地方分権を支える基幹税の安定化、経済の活性化、経済構造改革の促進などの重要な意義を有する改革です。

中期答申においては、これまで望ましい外形基準として議論されてきた4つの類型(事業活動価値(仮称)、給与総額、物的基準と人的基準の組合せ及び資本等の金額)について検討を行った結果、「事業活動価値が理論的に最も優れている」とするとともに、改革に伴う諸課題として、中小法人の取扱い、ベンチャー企業の取扱い、雇用への配慮、経過的な措置等について指摘し、その導入の時期について、「景気の状況等を踏まえつつ、早期に導入を図ることが必要」としたところです。

イ 本年11月、外形標準課税に関する自治省の具体案が示されました。この自治省案は、所得基準と外形基準を2分の1ずつ併用するもので、所得に係る税率を現行の2分の1に引き下げるとともに、残りの部分について、法人の事業活動の規模を測る「事業規模額」による課税方式を導入するものです。「事業規模額」は、報酬給与額、純支払利子、純支払賃借料を合算した「収益配分額」に、欠損金の繰越控除がないものとして計算した法人事業税の所得である「単年度損益」を加減算して算出されるもので、当調査会が示した事業活動価値の考え方を基本とした課税標準です。

中期答申で指摘した諸課題への対応としては、中小法人について、大法人とは別に税率を計算することにより税率を軽減し、資本金1,000万円未満の法人について「簡易事業規模額」(税額にして年4.8万円)を選択できることとするとともに、雇用への配慮として、報酬給与額の割合が高い法人について、収益配分額から一定額を控除できる「雇用安定控除」の仕組みが設けられています。また、企業再建・ベンチャー企業への配慮として、新たな徴収猶予制度を創設するとともに、経過的な措置として、実施当初3年間は外形基準の導入割合を4分の1とする案になっています。

ウ 自治省案は、個別の法人で見れば、一定の税負担の変動を生じさせるものの、全体として見れば、増税を目的とするものではなく、税収中立の考え方の下、中立性の高い課税標準により、薄く・広く・公平な課税を図ろうとするものであり、現行の所得課税よりも望ましいものであると考えます。

この点に関し、受益と負担の関係が明確になり、地方公共団体により一層の情報公開と説明努力を必要とすることから、責任ある地方自治の確立にも資するのではないかとの意見がありました。また、地域の事業活動と税収規模との関係が明確になるため、事業活動を促す行政投資の最適化にも資するのではないかとの意見もありました。

一方、外形基準に報酬給与額が含まれることで、雇用への影響を懸念する意見がありました。また、都道府県の歳出削減等の行財政改革が先ではないかとの意見、欠損金の繰越控除の制限や法人住民税均等割の拡充のようなより簡素な仕組みで対応すべきではないかとの意見もありました。

今後、この自治省案に関する様々な議論を参考としつつ、引き続き各方面の意見を聞きながら、景気の状況等を踏まえ、外形標準課税の早期導入を図ることが適当と考えます。

エ 外形標準課税の導入は、国・地方を通ずる財政構造改革や税財政の抜本的改革と一体的に行うべきとの意見もありました。大法人を含め約3分の2にも及ぶ赤字法人が地方公共団体の行政サービスを受けていながら法人事業税を支払っていないという不公平を放置することはできず、抜本的改革への国民の理解を得るためにも、外形標準課税の導入は早急に対処すべき課題であると考えます。

なお、各都道府県が独自の課税標準で外形標準課税を導入した場合、複数の県で事業を展開している法人の納税事務負担の増大などの問題があることから、全国共通の課税標準による外形標準課税の導入が望ましいと考えます。

(4) NPO法人に係る税制

ア NPO法人については、非営利活動の担い手の一つとして、21世紀に向けて活力のある経済社会を構築していく上で今後ますますその役割を果たしていくことが期待されています。NPO法人には財政基盤が脆弱な法人が多いこともあり、活動に必要な資金を外部から受け入れやすくすることがその活動の支援に資するものと考えられます。このため、NPO法人に対する寄附金について、特定公益増進法人と同様の優遇措置を求める意見があります。

(注)

特定公益増進法人とは、公共法人、公益法人等のうち、公益の増進に著しく寄与するものとして主務官庁から法令の基準に基づいて認定を受け、寄附金について特別の優遇措置を受けるものです。

イ NPO法人制度は、公の関与からなるべく自由を確保するという枠組みとなっています。例えば、その設立について一定の要件を満たしている場合には、所轄庁はNPO法人として認証しなければならないこととされています。このため、これまで認証されたNPO法人の活動内容を見ると、高齢者への福祉サービスの無償提供を行うものから、会員相互の親睦を図るもの、趣味・娯楽の活動を行うものまで多岐にわたっています。

寄附金の優遇措置は、公的サービスの財源となる租税を減免するものですから、予算面で補助金を交付することと同様の性質を有しています。このため、優遇措置の対象となる法人は相当の公益性を有する事業を営むものである必要があります。

特定公益増進法人については、所轄庁が個々の認定を行うことにより公益性を担保する仕組みとなっていますが、NPO法人については、このような仕組みがないため、税制上の優遇措置を講じるに当たっては、寄附金の対象となり得る「公益性」について、恣意的ではない客観的な基準で判断することが必要となってきます。また、優遇措置の対象となる寄附金は公益目的に充てられる必要がありますが、特定公益増進法人については所轄庁が設立から運営に至るまで監督を行う制度であるのに対し、こうした指導監督の制度のないNPO法人についてはそのような担保をどのようにして図っていくかという問題があります。

ウ 以上の観点から、公益性を担保するための具体的な基準は、まず、公益性のある事業が継続的に実施されていることを前提として、法人の運営組織や経理が適正でなければならないことが求められることは言うまでもありません。

次に、国民一般の評価や監視を受ける体制の整備により、法人活動の適正性が保たれると考えられることから、活動内容や寄附金、役員等に関して十分な情報が幅広く公開されることが必要です。

さらに、多種多様な法人の中で政策支援の対象にふさわしいものを客観的に判別するためには、例えば、広く一般から寄附金を受け入れているなど国民から幅広く支援されていることや、法人の活動が特定の者を対象とせず受益の範囲が広範にわたっていることなどが必要と考えられます。

また、以上のような基準に基づいて優遇措置の対象となるNPO法人を認定する機関については、全国一律の基準で適用する必要があること、法人の活動実態のチェックが必要であること、諸外国の状況などを考慮すると、国税当局が有力な選択肢ではないかと考えます。

エ NPO法人に対する税制上の措置として、寄附金に対する優遇措置に加え、公益法人等に対する軽減税率(22%)を適用してはどうかという意見があります。これについては、公益法人等に対する軽減税率は、そもそも累次の答申で指摘してきているように、基本税率との格差を縮小する方向で検討していくことが課題となっていることや、NPO法人の実態に照らし真に有効な措置になり得るかという点に十分留意する必要があります。

オ 公益法人等に対する既存の税制上の措置については、これまでも問題点が指摘されており、NPO法人に対する税制の優遇措置に関連して、今後、公益法人等を含めた非営利法人に関する税制全体について総合的に検討していくこととします。

3.金融・証券関係税制

(1) 株式等譲渡益課税

ア 株式等譲渡益課税については、平成元年度に、それまで原則非課税であった取扱いが原則課税とされましたが、その際、株式取引の把握体制の状況などを踏まえ、上場株式等については売却額の一定割合を利益とみなした上で源泉分離課税を選択できる制度が導入されました。

この源泉分離課税については、諸外国にも例の見られないみなし利益への課税であること、申告分離課税との使い分けにより税負担の意図的な軽減を図ることが可能であること、また、個人住民税において、源泉分離課税を選択すると非課税、申告分離課税を選択すると課税となる不公平が生じていること等から、当調査会はその適正化の必要性を指摘してきたところです。

このような指摘を踏まえ、平成11年度税制改正において、有価証券取引税等の廃止に併せ、株式等譲渡益課税の申告分離課税への一本化が法定されました。ただ、その実施に当たっては、株式市場に与える影響等も考慮して源泉分離課税を平成13年3月末までは適用できることとされています。

イ わが国はアメリカと比較しても直接金融の比重が低く、今後、個人投資家の育成を通じた直接金融の拡大が政策的にも求められていますが、来年の4月から申告分離課税の一本化を実施すれば、申告に伴う事務負担感等から個人投資家の株式市場離れを招くおそれがあるのではないかとの意見があります。

しかしながら、リスクを伴う株式に係る投資については、投資家自らによる取得価額等の管理が行われていると考えられ、投資家が所得を自ら計算して申告し、納税することが本来の所得税制のあり方と考えます。

また、申告分離課税への一本化を延期することは、わが国の証券市場を透明で効率的なものとする構造改革の努力を損なうとの意見、さらに、法定されている制度改革を延期することは、金融取引の国際化が進む中で、わが国の政策決定に対する国際的な信頼を損なうこととなるとの意見がありました。

ウ 株式等の譲渡益が26%の申告分離課税であることは預貯金や公社債の利子が20%の源泉分離課税であるのに対して取扱いの公平を欠くのではないか、全ての金融商品に対して総合課税が行われるまでは申告分離課税への一本化を延期すべきではないかという意見があります。

しかしながら、当調査会は、これまでも答申等で指摘してきているとおり、金融資産からの所得としての株式等譲渡益と利子の税率については、所得の性格、保有階層や規模といった点で両者は異なることから、税制上同一に取り扱うことは適当でないと考えます。

また、金融資産からの所得全般について総合課税を行うためには、各種の所得の性質の差異等に留意した上で、資料情報制度の充実、納税者番号制度の導入など体制の整備を行うことが不可欠であり、それまで申告分離課税への一本化を行わないことは、その間現行の株式等譲渡益課税について何ら適正化を行わないことにほかならず、単なる問題の先送りにすぎないという指摘がありました。

なお、累次の答申で指摘されているとおり、地方税における課税の適正化について利子割方式を参考としつつ、申告分離課税と同じ税負担を求めるよう引き続き検討すべきとの意見がありました。

エ 源泉分離課税の存続のみならず、申告分離課税についても諸外国の例を踏まえて優遇措置を設けるべきではないかとの意見が見られます。主要先進国における株式等譲渡益の取扱いは、それぞれの国において区々ですが、例えば、譲渡損失の翌年以降への繰越し、長期保有株に対する配慮などの特例が講じられている場合があります。

ただし、このような特例を講じている国は、いずれも納税者が自ら取得価額等を適正に管理し、これに基づいて申告することを前提としており、わが国のようなみなし利益に対する源泉分離課税の選択適用が認められる方式の下では同様の措置は検討し難いと考えます。

オ 以上のように、株式等譲渡益課税の申告分離課税への一本化は、これまで当調査会が指摘してきた源泉分離選択課税制度の下での様々な問題を是正し、課税の公平を確保していく上で重要な見直しであり、既定方針どおり確実に実施することが適当であると考えます。

この点について、景気動向は明るい兆しは見えるもののいまだ万全とは言えない状況にあり、法定されたとおりに申告分離課税への一本化を行うことは需給要因等を通じて低迷している株式市場に影響を与えかねないことから、申告分離課税への一本化については当面延期することが適当ではないかとする意見がありました。

(2) その他

金融税制については、累次の答申で指摘してきたように、課税繰延べ商品、非課税貯蓄、生損保控除といった課題について、引き続き適正化に向けて努力していくことが必要です。

また、金融取引は、金融技術の革新によって一層多様化・複雑化が進んでいます。金融資産からの所得については、各々の「所得」の性質、発生形態、計算の枠組みなどが異なっており、それぞれに応じた適切な「所得」の算出、それに対応する課税が必要とされます。今後とも公平・中立・簡素の租税原則を踏まえて、適切に対応していくことが必要です。

4.住宅・土地税制

(1) 住宅税制

ア 住宅ローン税額控除制度は、持家取得に伴う初期負担の軽減により住宅投資を促進し、もって景気浮揚にも資するとの観点から措置されてきたものですが、平成11年度税制改正において、極めて厳しい経済情勢を踏まえ、一両年中にわが国経済を回復軌道に乗せていくための措置の一環として、当初、2年間に限り、控除期間、控除率等について臨時異例の思い切った拡充がなされ、来年6月末にその期限が到来することとなっています。

期限到来後のこの制度のあり方については、住宅政策の観点から、その優遇度合をほぼ同水準としたまま新たな制度を恒久化すべきという意見があります。

しかしながら、現在の制度においては、その適用により所得税の額がゼロとなる給与収入の水準が通常の課税最低限に比べはるかに高いものとなっており、これを15年もの長期間にわたって適用することは、持家を取得した人のみを過度に優遇することとなり、公平性の面で大きな問題があるとの指摘があります。この15年という控除期間は、更正、決定等の期間制限等と比較して、はるかに長いものとなっていることに十分留意する必要があります。このような点を踏まえ、期限の到来とともに速やかにその優遇度合を現在の制度が講じられる以前の水準まで戻すべきではないかとの強い指摘がありました。

さらに、住宅ローン税額控除制度については、そもそも個人の資産形成の中で特に住宅のみを政策的に優遇することが税制としてどこまで考えられるかという問題があります。また、この制度による減収額は、現在、租税特別措置による減収額の中で最大規模のものであり、将来の財政を大きく圧迫するおそれがあります。加えて、現在でも、控除額を長期にわたり管理する必要があること、増改築がある場合には税額控除制度の中で複雑な調整計算を要することなどから、源泉徴収義務者や執行当局の事務負担を大きなものにしていることにも留意することが必要です。

住宅ローン税額控除制度のあり方については、以上を踏まえ、経済情勢等に必要な配慮を行いつつ、縮減の方向で検討することが適当と考えます。

イ なお、今後の少子・高齢化の進展や都市への人口移動の沈静化の中で、住宅取得に対する需要は減少すると見込まれており、税制による住宅取得促進効果にも自ずと限界があるのではないか、また、個人のライフサイクルに応じて住宅需要が多様化し、若い人々に賃貸住宅志向が高まっているということ等も踏まえれば、これまでのように持家を重視する住宅政策のあり方について十分吟味する必要があるのではないかとの強い指摘がありました。

(2) 土地税制

土地の公共性などを基本理念とする土地基本法が平成元年に制定され、平成3年度の土地税制改革以降、取得・保有・譲渡の各段階において適切な税負担を求める基本的枠組みが構築されました。一方、その後のバブル経済の崩壊等を背景に、累次の制度改正が行われ、現行の土地譲渡益課税制度は基本的にはバブル経済以前の姿に戻っています。

今後の土地税制のあり方を考えるに当たっては、土地基本法の基本理念、地価の推移、さらには課税ベースが各種特別控除等によりかなり狭められていること等幅広い観点を踏まえていくことが必要です。

5.相続税・贈与税

(1) 相続税

ア 相続税については、当調査会は累次の答申において、個人所得課税の抜本的見直しとの関連において、税率構造や課税ベースについて幅広く検討を行うことが適当であるとの考え方を示してきています。

相続税のあり方については、税制全体の再分配機能を弱める方向に働いている近年の税制改正の流れ、経済のストック化や少子・高齢化の進展、更には老後扶養の社会化の進展等相続税を取り巻く状況を総合的に踏まえれば、より広い範囲に課税していくという方向で検討していくことが必要と考えます。

相続税は個人所得課税の補完税としての役割を有していますが、相続税の最高税率と個人所得課税の最高税率との格差が大きくなっています。諸外国と比較してもその最高税率は相当高い水準にあります。このような観点から、これを引き下げる方向で考えていくことは適当と考えます。これに対し、必ずしも個人所得課税の最高税率の引下げとの関連で相続税の最高税率の引下げを行う必要はないのではないかとの意見もありました。

最高税率を含む税率構造を見直す場合には、課税ベース等の見直しと併せて検討を行うことが適当であるとの意見、個人所得課税の最高税率が既に引き下げられていることから当面の措置として速やかに相続税の最高税率の引下げを行うことが適当であるとの意見がありました。また、課税ベース等について検討を行う場合には、バブル期に講じられた措置についても縮減していくべきではないかとの意見がありました。

イ 中小事業者の事業承継への配慮については、近年の税制改正等により既に適切な対応を行ってきています。これに関し、事業承継について更なる配慮を行うべきではないかとの意見、既存の事業の承継に配慮することはこれから新たに起業しようとする若者の意欲を妨げかえって経済の活性化という要請に反するのではないかとの意見がありました。

なお、贈与税の基礎控除を引き上げることとなれば、事業の円滑な承継にも資するのではないかとの意見がありました。

(2) 贈与税

贈与税のあり方については、贈与税の有する相続税の補完税としての役割を踏まえれば、中期答申において示したとおり、相続税のあり方と密接に関連するものであり、相続税の抜本的見直しとの関連で検討を加えることが適当です。

贈与税の基礎控除のあり方については、昭和50年以来その水準が据え置かれてきていること、若年・中年世代への早期の財産移転の促進を通じ経済社会の活性化に資すると考えられることから、当面の措置として引き上げてもよいのではないかとの意見が多く出されました。これに対し、このような措置が経済社会の活性化に有効かどうかについては慎重に考えるべきではないかとの意見、機会の平等を確保する観点から基礎控除は引き上げるべきではないとの意見もありました。

基礎控除の引上げを検討する場合においても、相続税の課税回避防止という贈与税の機能を基本的に損なうことがないようにすべきであるとの意見、所得税の課税最低限の水準との関係にも配慮する必要があるとの意見がありました。

なお、相続税や贈与税を検討するに当たっては、親から子供への無償の財産移転は子供の自立を損ないかねないという点に十分留意すべきであるとの指摘がありました。

6.酒税

(1) わが国の酒税制度においては、酒類を10種に分類し、個々の酒類ごとに異なる税率が設定されています。かつては、高級酒には税率を高く、大衆酒には税率を低く定めるという考え方が採られてきましたが、所得水準の上昇・平準化を背景として酒類消費の多様化が進んできたことなどから、昭和59年度以降の税制改正では、酒類間の税負担格差の縮小が図られてきました。また、焼酎やウィスキー等の蒸留酒の税率については、平成8年のWTO(世界貿易機関)勧告を受けて平成9年度以降一連の改正が行われ、本年10月1日以降、基本的に格差がなくなっています。

(2) 酒税などの消費課税については、中期答申でも指摘しているとおり、税制の中立性や公平性の観点から、同種・同等のものには同様の負担を求めることが要請されます。一方、近年の酒類の生産・消費の動向には、発泡酒や果実酒(ワイン)などの醸造酒を中心にかなりの変化が見られ、これらに対する課税のあり方がこのような要請に適っているかどうか、改めて検討することが必要です。

わが国の酒税収入の大宗はビールが占めています。近年、ビールより税負担が低く、ビールと製法が共通し、品質も極めて近似している発泡酒の課税数量が著しく増加してきています。

消費課税の基本的考え方に照らせば、ビールと発泡酒の間に現在のような分類上の区分や税負担格差を設けるほどの違いはなく、ビールとの負担の均衡を図るべきであるとの意見が多くありました。これに対し、商品開発のために払われた努力等にも配慮すべきではないかとの意見がありました。

また、果実酒は、その消費量が着実に増大してきていますが、その税負担は他の酒類に比べ相当低い水準にあることから、同じ醸造酒である清酒との負担の均衡を図る方向で検討することが適当です。甘味果実酒、合成清酒、清酒のうちアルコール添加の多いものについても、製法、品質などを勘案し、リキュール類との負担の均衡を図る方向で検討することが適当です。

なお、焼酎類似のみりんのような税率格差に着目した商品については、税負担の公平性の確保のため、早急に適切な措置を講じることが必要です。

他方、醸造酒をはじめとする酒税の負担のあり方の見直しが必要としても、国民の受け止め方や理解といった観点からすれば、来年度税制改正に向けて検討することは時期尚早ではないかとの意見がありました。

7.租税特別措置等の整理・合理化

(1) 租税特別措置・非課税等特別措置については、基本的に特定の者の税負担を軽減することにより、特定の政策目的を実現するための政策手段の一つですが、累次の答申で指摘しているように、公平・中立・簡素という原則に対する例外措置です。

このため、そもそもその特定の政策目的自体に国民的合意があるのか、政策手段として税制を用いることが適当かなどについて、十分に吟味していくことが必要です。加えて、創設後長期間にわたっていないか、利用の実態が低調になっていないかといった観点から不断の見直しも必要です。特に、景気対策として講じられた措置については、経済情勢の変化に応じた見直しが肝要です。

以上のような観点を踏まえ、租税特別措置等については、引き続き徹底した整理・合理化を進めていくことが必要と考えます。

(2) 事業税における社会保険診療報酬に係る課税の特例措置についても、税負担の公平を図る観点から、その見直しを検討することが必要です。

8.その他

(1) 税理士制度

税理士制度は、申告納税制度の定着と発展、納税義務の適正な実現等に寄与してきており、今後も、税務執行面で重要な役割を果たしていくことが期待されています。

最近の税理士制度を取り巻く状況を見ると、経済取引の急速な国際化、電子化・情報化の進展に伴い、税理士に対する納税者等の要請も複雑化・多様化してきています。したがって、規制緩和の要請も踏まえつつ、納税者利便の向上に資する信頼される税理士制度の確立を目指す観点から、税理士法人制度の導入や受験資格の緩和など試験制度の見直し等について、所要の検討を行う必要があります。

(2) 軽油引取税

特約業者及び元売業者以外の者が輸入する軽油について、申告納付期限までの間を利用し、意図的な軽油の転売を行ったり、無資産にするという悪質な滞納事案が発生していますが、課税の適正化及び徴収の確保を図るため、このような場合の軽油の輸入については、保税地域から引き取る時までに課税すること等の所要の措置を講じることが必要です。

(3) 市町村合併関連税制

合併市町村相互間で個人住民税均等割の税率が異なることや、新たに都市計画税や事業所税が課税される地域があることが合併の障害となる場合があると指摘されています。このため、市町村合併推進の見地から、市町村合併特例法における不均一課税の期間の延長など地方税の特例の拡充を図ることが必要と考えます。

(参考)会社分割・合併等の企業組織再編成に係る税制の基本的考え方

はじめに

本年5月、企業の組織再編成を容易にするために会社分割法制を創設する商法改正法が成立した。税制においても、この法整備に則した適切な対応が求められている。法人課税小委員会においては、このような状況を背景に、平成13年度税制改正における整備に向けて、会社分割をはじめとする企業組織再編成に係る税制について法人課税のあり方を中心に検討を重ねてきた。この間、ドイツ・フランス・アメリカにおいて、各国における会社分割税制について調査を行った。

また、税制調査会の本年7月の答申「わが国税制の現状と課題-21世紀に向けた国民の参加と選択-」においては、当小委員会における検討を踏まえ、会社分割法制に係る税制上の対応を検討する際の基本的な視点として、次の点が示された。

ア 合併・現物出資などの資本等取引と整合性のある課税のあり方

イ 株主における株式譲渡益課税やみなし配当に対する適正な取扱い

ウ 納税義務・各種引当金などの意義・趣旨などを踏まえた適正な税制措置のあり方

エ 租税回避の防止

企業組織再編成に係る税制については、その内容が今後における企業の組織再編成のあり方に大きな影響を与えること、法令改正に向けて更に実務的な検討を加えていくべき点が多岐にわたることを考慮し、当小委員会として、できるだけ早くその基本的考え方を示すこととした。

第一 基本的な考え方

(1) 近年、わが国企業の経営環境が急速に変化する中で、企業の競争力を確保し、企業活力が十分発揮できるよう、商法等において柔軟な企業組織再編成を可能とするための法制等の整備が進められてきている。税制としても、企業組織再編成により資産の移転を行った場合にその取引の実態に合った課税を行うなど、適切な対応を行う必要がある。

(2) 企業組織再編成に係る法人課税のあり方を検討するに当たっては、以下の点から、現行の現物出資、合併等に係る税制を改めて見直し、全体として整合的な考え方に基づいて整備する必要がある。

第一に、会社分割には、現物出資、合併等と共通する部分があり、例えば分割型の吸収分割と合併では法的な仕組みが異なるものの実質的に同一の効果を発生させることができる。同じ効果を発生させる取引に対して異なる課税を行うこととすれば、租税回避の温床を作りかねないなどの問題がある。

第二に、現行の税制においては、営業譲渡により企業買収を行う場合には、資産の時価取引として譲渡益課税が行われるが、他方、合併により企業買収を行う場合には、課税が繰り延べられるなどの問題がある。

(3) 会社分割・合併等の組織再編成に係る法人税制の検討の中心となるのは、組織再編成により移転する資産の譲渡損益の取扱いと考えられるが、法人がその有する資産を他に移転する場合には、移転資産の時価取引として譲渡損益を計上するのが原則であり、この点については、組織再編成により資産を移転する場合も例外ではない。

ただし、組織再編成により資産を移転する前後で経済実態に実質的な変更が無いと考えられる場合には、課税関係を継続させるのが適当と考えられる。したがって、組織再編成において、移転資産に対する支配が再編成後も継続していると認められるものについては、移転資産の譲渡損益の計上を繰り延べることが考えられる。

また、分割型の会社分割や合併における分割法人や被合併法人の株主の旧株(分割法人や被合併法人の株式)の譲渡損益についても、原則として、その計上を行うこととなるが、株主の投資が継続していると認められるものについては、上記と同様の考え方に基づきその計上を繰り延べることが考えられる。

(1) 分割型の会社分割や合併における分割法人や被合併法人の株主については、その取得した新株等の交付が分割法人や被合併法人の利益を原資として行われたと認められる場合には、配当が支払われたものとみなして課税するのが原則である。ただし、移転資産の譲渡損益の計上を繰り延べる場合には、従前の課税関係を継続させるという観点から、利益積立金額は新設・吸収法人や合併法人に引き継ぐのが適当であり、したがって、配当とみなされる部分は無いものと考えられる。

第二 資産等を移転した法人の課税

一 移転資産の譲渡損益の取扱い

法人が組織再編成によりその有する資産を他に移転した場合には、その移転資産の譲渡損益の計上を行うのが原則であるが、組織再編成の実態や移転資産に対する支配の継続という点に着目すれば、企業グループ内の組織再編成により資産を企業グループ内で移転した場合には、一定の要件の下、移転資産をその帳簿価額のまま引き継ぎ、譲渡損益の計上を繰り延べることが考えられる。

また、共同で事業を行うために組織再編成により資産を移転した場合にも、移転の対価として取得した株式の継続保有等の要件を満たす限り、移転資産に対する支配が継続していると考え、譲渡損益の計上を繰り延べることを考えることができる。

なお、いずれの場合にも、移転資産の対価として金銭等の株式以外の資産が交付される場合には、その経済実態は通常の売買取引と異なるところがなく、移転資産の譲渡損益の計上を繰り延べることは適当でないと考えられる。

1 企業グループ内の組織再編成

組織再編成により移転した資産の譲渡損益の計上が繰り延べられる企業グループ内の組織再編成は、現行の分割税制(現物出資の課税の特例制度)の考え方において採られているように、基本的には、完全に一体と考えられる持分割合の極めて高い法人間で行う組織再編成とすべきである。ただし、企業グループとして一体的な経営が行われている単位という点を考慮すれば、商法上の親子会社のような関係にある法人間で行う組織再編成についてもこの企業グループ内で行う組織再編成とみることが考えられる。

さらに、組織再編成による資産の移転を個別の資産の売買取引と区別する観点から、資産の移転が独立した事業単位で行われること、組織再編成後も移転した事業が継続することを要件とすることが必要である。ただし、完全に一体と考えられる持分割合の極めて高い法人間で行う組織再編成については、これらの要件を緩和することも考えられる。

2 共同事業を行うための組織再編成

移転資産の譲渡損益の計上が繰り延べられる共同で事業を行うための組織再編成に該当するか否かは、組織再編成により一つの法人組織で行うこととした事業が相互に関連性を有するものであること、それぞれの事業の規模が著しく異ならないこと、それぞれの事業に従事していた従業員の相当数が引き継がれることなどにより判定するのが適当である。

また、先に述べたとおり、移転資産の譲渡損益の計上を繰り延べるためには、事業の移転の対価として取得した株式を継続保有するとの要件が必要である。さらに、共同で事業を行うための組織再編成についても、組織再編成による資産の移転を個別の資産の売買取引と区別する観点から、資産の移転が独立した事業単位で行われること、組織再編成後も移転した事業が継続することを要件とすることが必要である。

二 資本の部の金額の取扱い

商法上、分割型の会社分割や合併においては、分割法人や被合併法人の資本の部の利益準備金その他の留保利益を新設・吸収法人や合併法人に引き継ぐことが認められているが、分社型の会社分割や現物出資においては、それらを引き継ぐことは認められていない。

分割型の会社分割や合併における利益積立金額の引継ぎについての税制の考え方としては、移転資産の譲渡損益の計上の繰延べが認められず、資産の移転が原則どおり時価により処理される場合には、時価による通常の資産の現物出資の場合と同様に、利益積立金額の引継ぎは行わないこととすべきである。他方、移転資産の譲渡損益の計上の繰延べが認められ、資産の移転が帳簿価額により処理される場合には、従前の課税関係を継続させるのが適当であると考えられることから、利益積立金額についても引継ぎを行うのが適当である。なお、分割型の会社分割や合併の場合には、利益積立金額の引継ぎがありうるため、その金額を計算するためにいわゆるみなし事業年度を設けることが必要となる。

分社型の会社分割や現物出資は、資産を移転し、その対価として株式を取得するものであり、これらにおいては、利益積立金額は引き継がないこととするのが適当である。

第三 株主の課税

一 株式の譲渡損益の取扱い

分割型の会社分割や合併により、分割法人や被合併法人の株主は、新設・吸収法人や合併法人の新株等の交付を受けることになる。この場合には、先に述べたとおり、原則として旧株の譲渡損益の計上を行うことになるが、株主の投資が継続していると認められるときには、譲渡損益の計上を繰り延べることが考えられる。

この投資の継続性は、株式を実質的に継続保有しているとみることができる場合に認められるものであり、基本的には、株主が金銭などの株式以外の資産の交付を受けるか否かにより判定することが適当である。

二 みなし配当の取扱い

分割型の会社分割や合併により、新設・吸収法人や合併法人の新株等の交付を受けた分割法人や被合併法人の株主においては、旧株の譲渡損益の取扱いとともに、分割法人や被合併法人の利益を原資として新株等の交付が行われたと認められる部分、すなわち配当とみなすべき金額の有無等についても検討が必要となる。

この点については、分割法人や被合併法人において、移転資産の譲渡損益の計上の繰延べが認められず、資産の移転が原則どおり時価により処理される場合には、法人が時価による資産の現物出資を行って株式を取得し、その株式を減資の対価として株主に交付した場合と同様に考えて、その法人の利益を原資とする部分があると認められるときは、その部分についてはみなし配当とすべきである。他方、移転資産の譲渡損益の計上の繰延べが認められ、資産の移転が帳簿価額により処理される場合には、利益積立金額が新設・吸収法人や合併法人に引き継がれることから、先に述べたとおり、配当とみなされる部分は無いものと考えるのが適当である。

第四 各種引当金の引継ぎ等

会社分割・合併等により移転する資産の譲渡損益の計上が繰り延べられる場合には、その資産に関して適用される諸制度や引当金等の引継ぎについても、基本的に従前の課税関係を継続させるとの観点から、組織再編成の形態に応じて必要な措置を考えるべきである。

法人税における諸制度の取扱い等については、別紙によることが適当である。

第五 租税回避の防止

組織再編成の形態や方法は、複雑かつ多様であり、資産の売買取引を組織再編成による資産の移転とするなど、租税回避の手段として濫用されるおそれがあるため、組織再編成に係る包括的な租税回避防止規定を設ける必要がある。

第六 その他

(1) 法人が分割型の会社分割をした場合には、新設・吸収法人は、その分割法人の分割前に納税義務が成立した租税について、その分割法人から承継した財産の価額を限度として、連帯納付の責任を負うこととすることが適当である。なお、営業の全部を承継させる分割型の会社分割にあっては、その租税の納付義務の新設・吸収法人への承継について、実務的に検討する必要がある。

(2) 改正商法による会社分割の法律上の効果は、合併の場合と同様とされており、会社分割による資産の移転に係る消費税の課税関係については、合併の場合と同様に取り扱うことが適当である。

また、消費税の納税義務の判定等に関する特例を設ける必要があるほか、新設・吸収法人が承継した資産について対価の返還等や貸倒れが生じた場合の消費税額の調整等に関し、合併に準じて所要の整備を図る必要がある。

(3) 以上のほか、企業組織再編成に係る税制の整備について所要の措置を講ずる必要がある。

(4) 組織再編成に係る法人税制は、株式交換及び株式移転を合わせて検討する必要があるが、これらの制度は導入後間もないこともあり、今後、その実態等を見極めながら見直しを行うのが適当である。

税制調査会委員等名簿

本答申の審議に参加した委員及び特別委員は、次のとおりである。

委員 特別委員
石 弘光大宅 映子
 猪瀬 直樹 奥本 英一朗
 今井 敬 神田 秀樹
上野 博史菊池 哲郎
大田 弘子 幸田 正孝
 榎本 庸夫河野 光雄
奥野 正寛佐瀬 守良
 貝原 俊民 中里 実
 神津 十月 中嶋 榮一
 今野 由梨 中地 宏
 笹森 清 長野 幸彦
佐野 正人 牧野 力
島田 晴雄松田 英三
竹内 佐和子村上 政敏
 田中 直毅 室町 鐘緒
津田 正 和田 正江
 福原 義春 
 堀田 力
本間 正明
 松浦 幸雄
松尾 好治
 松永 真理
 松本 和夫
水野 忠恒
水野 勝
 森 金次郎
 森下 洋一
 諸井 虔
柳島 佑吉
 吉永 みち子

(〇印を付した委員及び特別委員は、臨時小委員会に所属した委員及び特別委員である。)