「わが国税制の現状と課題 -21世紀に向けた国民の参加と選択-」要約

この要約は、答申本文に盛られた事項を主な項目に限って簡潔にまとめたものであり、詳細は答申本文を御覧いただきたいと考えます。なお、括弧内のページは答申本文のページを示しています。

はじめに(略)(P.1)

序説 - 税制のあり方の選択に当たって -(P.2)

  • 20世紀の最終年を迎え、わが国はあらゆる面で節目を迎える中、個人や企業の能力を最大限引き出しながら「公正で活力ある社会」を築いていくことが求められています。今後の経済社会を展望するとき、政府の役割や行政の手法を見直し、個人や企業の創意工夫をより尊重するための諸改革を進めるとともに、税制全般について抜本的な見直しを行い、税制全体を21世紀にふさわしいものに改革していくことが求められています。
  • わが国経済が民需中心の本格的な回復軌道に乗ることが確認される必要がありますが、財政構造改革は必ず実現しなければならない課題です。財政構造改革を検討する際には、社会保障のあり方、中央と地方との関係や経済社会のあり方まで視野に入れて取り組む必要がありますが、歳出のあり方についての徹底した見直し論議と併せて、税制についても国民的な議論を避けて通ることができないものと考えます。
  • 税制は国民生活、経済活動、そして社会のあり方と密接に関連するものです。税制のあり方を考えることは、国のあり方をどのように考えていくかということでもあります。このため、国民一人一人が今後の税制論議に参加し、その上で、あるべき税制について選択していくことが重要です。
    私たち国民は、今後のわが国税制のあり方について、どのような視点から議論を行い、そして、何を選択していかなければならないのでしょうか。
    この答申では、まず、改めて租税の意義と役割を考えた上で、次のような様々な課題について検討を行っていくこととしています。

(1) 税制を考える場合、「公平・中立・簡素」という原則を常に念頭に置かなければなりませんが、具体的にはどういうことなのでしょうか。

(2) 様々な経済社会の構造変化が進む中、税制はどのような課題を抱えているのでしょうか。

(3) 今後の国・地方を通じたわが国財政のあり方をどのように考えればよいのでしょうか。財政構造改革が課題とされていますが、どのように取り組むことが適当なのでしょうか。また、このことと租税負担を含む国民負担の水準や税制のあり方の論議はどのように関わってくるのでしょうか。

(4) 地方分権の推進に伴い、国と地方の役割分担の見直しや地方税財源の充実確保など自立的な財政運営の確立が課題とされていますが、どのように検討していくことが適当なのでしょうか。

(5) 近年、所得課税の抜本的な見直しをはじめ、消費課税、資産課税等を含めた税制全般についての見直しが検討課題とされてきています。租税を国民皆が広く公平に分かち合いつつ、21世紀の経済社会の構造変化や今後の財政状況に対応していくためには、具体的にどのような見直しが必要なのでしょうか。

第一 基本的考え方

一 租税の意義と役割

1.公的サービスと租税(P.5)

  • 公的サービスは、社会を形成し、その社会を安全で安心できるものとし、経済活動などを通じて豊かなものとしていく上で欠かすことのできないものです。
  • 租税の基本的な機能はこのような公的サービスの財源調達機能です。
  • 民主主義社会では、公的サービスの費用は、社会の構成員である国民が皆で広く公平に分かち合うことが必要です。

2.租税と民主主義(P.7)

  • 民主主義の歴史は、租税と密接に関係しています。
  • 税制は、議会制民主主義の下で、主権者である国民の意思を反映して議会で決められます。国民は有権者として代表者を選出することを通じてその議論に参加するほか、様々な場で議論に参加していくことが必要です。
  • 公的サービスが充実してきた現代社会では、公的サービスを賄う租税を国民皆が広く公平に分かち合うことが、それ以前の時代に比べて格段に重要なものと考えられます。
  • ともすれば、人は自らには多くの公的サービスを求めつつ、租税の負担はなるべく少なくしたいと考えがちですが、一定の公的サービスを賄う場合には、自らの租税の負担軽減は他の人々への負担の増加を意味することを忘れてはなりません。また、公的サービスや税制のあり方の選択は少なからず将来世代の受益と負担を決めてしまう面もあることから、税制について選択していく際には、現在投票権を行使できない将来世代のことも併せ考えておくことが必要です。
  • 21世紀の日本を担う子供たちにも、できるだけ早い時期から、租税について考える機会を持ってもらうことが重要です。今後、学校教育の中で租税教育がより重視され、子供たちが、租税を通じて公的サービスのあり方、社会や国のあり方を考える機会が充実されていくことを強く期待したいと思います。

3.公的サービスと国民負担

(1) 租税の十分性(P.10)
  • 国民が必要とする公的サービスを求めることと租税でその費用を賄うこととは、国民全体として受益と負担という表裏一体の関係にあり、租税は、公的サービスを賄うのに十分な量であることが求められます。
  • 租税の十分性を考える場合、公的サービスの供給が最も効率的なものとなっていることが前提となります。
(2) 政府の大きさと国民負担(P.10)
  • 租税負担に社会保障負担を加えた国民負担の大きさも、社会保障給付を含めた公的サービスの大きさに一致することが基本です。一方、租税や社会保険料は基本的には個人や企業の経済活動の中から分担していくものであり、過度に大きな負担は国民にとって自分の判断で自由に使える所得を小さくし、ひいては社会全体の活力を損なうおそれがあります。
  • 国民負担を伴ってもなお必要な公的サービスの大きさは、最終的には私たち国民がどのような公的サービスの水準とそれに対応する国民負担の水準を選択するかにかかっています。

4.税制と経済社会との関わり(P.11)

  • 税制が経済社会に何らかの影響を与えることは避けられませんが、その場合でも、税制は、公的サービスの財源調達機能を十分に果たした上で、社会の活力や経済の発展の妨げとならず、個人や企業の自由な経済活動にできるだけ影響を与えないものであることが望まれます。このようなことから、税制は制度として安定していることが求められると同時に、経済社会に大きな構造変化が生じる場合には、それに対応して見直していくことが必要となります。
  • 税制は国の様々な制度の中でも根幹的なものであり、個人や企業が経済活動を行う上で主要な「インフラ」とも言うべきものです。したがって、税制の安定性が大切であるとともに、皆に理解しやすい仕組みとしていくことも重要です。

ニ 税制と基本原則

1.租税の種類と税体系(P.13)

  • 税制は、単一の税目のみではなく、いくつかの税目から成り立っていますが、それぞれの税目には長所と短所があり、所得・消費・資産等に対する課税を適切に組み合わせることにより、全体として偏りのない税体系を選択していくことが必要です。

2.税制の基本原則(P.15)

  • 税制を組み立てていく上での基本原則となる「公平・中立・簡素」は、その意義や重点の置き方は別として、21世紀においても変わらない基本原則であると考えられます。
  • 「公平」の原則は、税制の基本原則の中でも最も大切なものです。水平的公平と垂直的公平とがあり、近年では世代間の公平が一層重要となっています。
    「中立」の原則とは、税制ができるだけ個人や企業の経済活動における選択を歪めないようにするということです。
    「簡素」の原則とは、税制の仕組みをできるだけ簡素なものとし、納税者が理解しやすいものとするということです。
  • 「公平・中立・簡素」は、常にすべてが同時に満たされるものではなく、一つの原則を重視すれば他の原則をある程度損なうことにならざるを得ないというトレード・オフの関係に立つ場合もあります。いずれにしても、税制を考えていく上では、税制全体として公平・中立・簡素の基本原則に則しているかどうかということが重要です。
  • 税収が一定の下では、課税ベースを広くすることによって、その分低い税率によって負担を求めていくことが、公平・中立・簡素という原則に整合的となります。
  • 今後とも、経済社会の活力を維持していくためには、税制全体として、国民皆が広く公平に負担を分かち合うとともに、公平・中立・簡素という基本原則に則し偏りのない税体系を選択していくことが重要です。
  • 税制の検討に際しては、国際的な整合性の観点にも留意する必要があります。一方、わが国の税制と各国の税制を比較する場合には、それぞれの財政状況や、税制がその国の歴史や文化、経済や社会の仕組みを反映して構築されていることも踏まえる必要があります。
  • 租税特別措置等については、公平・中立・簡素という基本原則に反して特定の人々の負担を軽減するものであるだけに、その政策目的自体にそもそも国民的合意があるのかどうか、政策手段として税制を用いることの適否、政策効果の有無などの様々な観点から、慎重な検討が求められます。また、既得権益化しがちであるといった問題もあり、今後、租税特別措置等のあり方を見直していく必要があります。

三 近年の税制改革の流れと現状

1.近年の税制改革の流れ(P.23)

  • 税制については、これまでも公平・中立・簡素の基本原則に則しつつ、少子・高齢化や国際化の進展などの経済社会の構造変化などに対応して、消費税の創設をはじめ、個人所得課税、法人課税についても抜本的な改革を行うなど、税制全般にわたる見直しを進めてきています。
  • 平成9年4月の消費税率引上げがその後の景気後退の主な原因ではないか、との見方がありますが、消費税率引上げは景気対策としての先行減税と一体として行われたものであること、平成9年秋以降の金融機関の相次ぐ破綻やアジア通貨・経済危機が実体経済に影響を及ぼしたことに留意する必要があります。

2.わが国の税負担の現状と国際比較(P.29)

  • 租税負担率は、主要先進国の中で最も低くなっており、特に、個人所得課税の負担率が諸外国に比べ低くなっています。また、地方消費税分を含む消費税率は、主要先進国中、最も低い水準となっています。租税負担率に社会保障負担率を加えた国民負担率で見ても、わが国は諸外国に比べて低い水準にあります。
  • 所得・消費・資産等の構成について、近年の推移を見ると、昭和63年前後の抜本的税制改革後は消費課税の比率が高まってきています。また、景気対策としての大幅な負担軽減などの結果として、所得課税の比率が低くなっています。

四 税制の検討の視点

1.経済社会の構造変化

(1) 少子・高齢化と人口減少(P.35)
  • わが国社会は少子・高齢化が急速に進展し、21世紀初頭(2007年(平成19年))には総人口が減少するという新たな局面を迎えますが、勤労世代だけに過度の負担を求めることは望ましくなく、あらゆる世代が広く公平に負担を分かち合うことが求められます。また、社会保障制度などの公的サービスを提供するためには、景気に左右されない安定的な歳入構造を確保することが必要です。
  • 税制面においては、消費課税の役割は今後ますます重要なものになっていくものと考えられます。個人所得課税は、少子・高齢化の進展の下、引き続き税体系の中心を担う税として重要です。高齢化の進展に伴い、相続税については、公的な社会保障が充実してきている中で、相続の持つ意味が近年変化しているのではないかという議論があります。
(2) 国際化・情報化と企業活動(P.37)
  • 経済の国際化はますます進展しており、国際競争力や経済の活力を維持していくことが重要です。
  • わが国企業の競争力を維持・確保する観点から、柔軟な組織再編を可能にする法制度の整備が進められており、税制としても、会社分割に係る税制や連結納税制度について、導入に向けて検討を進める必要があります。
(3) 金融取引の多様化・経済のストック化(P.38)
  • 金融の自由化・国際化が進展し、金融取引が多様化・複雑化している中で、制度面・執行面を通じて課税の公平性・中立性が損なわれないよう適切に対応することが求められています。
  • 経済のストック化の進展に伴い、資産性所得に対して適正・公平に課税を行うことが一層重要となっているほか、相続税の役割についても改めて検討していく必要があります。また、土地税制については、取得、保有、譲渡の各段階を通じた適正かつ安定的な課税のあり方を考えていくことが必要です。
(4) ライフスタイルの多様化(P.39)
  • 経済が発展し社会が成熟する中で、個人の価値観が多様化し、働き方、消費行動などの面で様々な生き方や生活様式が見られるようになってきており、個人の生涯を通じた生活設計のあり方も多様なものとなっていく可能性があります。
  • 税制は、このようなライフスタイルの変化に対して、中立性をより重視する必要があります。個人所得課税については、各種控除のあり方や退職金税制、フリンジベネフィット等に対する課税についての検討が課題となります。
    消費税等については、生涯の一時期に負担が大きく偏ることがなく、消費選択に対して中立的という特徴を今後も活かしていくことが必要です。
(5) 所得分布の動向(P.41)
  • 経済社会の活力を維持していく観点からは、自己責任原則を重視し、市場機能を一層発揮させることがこれまで以上に重要になってきています。税制の所得再分配機能のあるべき姿はその時々の「機会の平等」や「結果の平等」に対する国民の考え方によるものであり、最終的には国民的な議論の下に選択がなされる性格の問題です。
  • 近年、わが国において所得格差・資産格差が拡大する傾向にあるのではないかとの指摘がありますが、現段階では必ずしも明らかではありません。いずれにしても、近年の所得分布にはかつてのような平準化の動きは見られず、今後とも税制の所得再分配機能の重要性が減少することはないものと考えられます。

2.財政の現状と課題

(1) わが国財政の現状(P.44)
  • わが国財政は、特に最近の景気回復に向けた諸施策に伴う歳出の増大や恒久的な減税などの実施により、財政赤字が大幅に拡大し、フロー・ストックともに、財政状況は主要先進国中最悪であり、危機的な状況にあります。税収比率(一般会計税収の歳出総額に対する割合)は平成12年度において57.3%という低い水準となっています。
(2) 国民負担率のあり方(P.46)
  • わが国の国民負担率は、諸外国に比べ低い水準にあります。一方、潜在的国民負担率は、ヨーロッパ諸国に近い高い水準となっています。公的サービスと租税負担のギャップが大きな財政赤字となっており、将来世代の負担において、高い水準の公的サービスを享受しているのが実状です。
  • 今後、高齢化に伴う社会保障等の公的サービスに要する費用の増加が避けられない見通しであることなどを考慮すると、国民負担率は長期的にはある程度上昇していかざるを得ないと見込まれていますが、個人・企業の経済活力という観点からは、国民負担率の上昇を極力抑制していくことが必要です。
(3) 税収の状況と中長期的見通し(P.47)
  • 今後景気が回復すれば、税収は名目経済成長率を大きく上回って増加し、それによる自然増収によって歳入・歳出ギャップは大きく改善されるのではないか、との主張があります。
  • 将来の税収は、名目経済成長率がどの程度になるかということに大きく依存します。今後、経済構造改革により経済成長を目指していく一方で、人口減少などにより高い率の経済成長は期待しがたくなると考えざるを得ず、税収についても大幅な伸びは見込みがたくなります。また、税制の構造が変化し名目経済成長率に対する税収の伸びは相対的に鈍化していると考えられます。
  • 以上を考え合わせると、今後景気が回復すれば、中長期的に名目経済成長に応じてある程度の税収増を見込むことはできるとしても、名目経済成長率を大幅に上回る税収の伸びは期待しがたく、経済成長に伴う税収増のみでは現在の巨額の歳入・歳出ギャップを大きく改善させることは困難であると考えます。
(4) 財政構造改革の必要性(P.50)
  • 21世紀のわが国経済社会を健全で活力あるものとしていくためにも、財政構造改革の実現は避けて通れない課題です。わが国経済が民需中心の回復軌道に乗った段階においては、時機を逸することなく、国・地方ともに、財政構造改革について具体的な措置を講じていくことが必要です。
  • そのためには、公的サービスのあり方や内容を見直すことにより歳出を減らすか、租税負担の増加などにより歳入を増やすか、あるいはその組合せしかなく、国民がどのような選択を行っていくかにかかっています。当調査会は、まずは、歳出の抑制に取り組むことが必要と考えます。このため、既存の施策・制度の効率性、有効性等を徹底して見直し、国民的な議論の上での選択が行われることが不可欠です。
  • 行政改革は、行政のスリム化だけでなく行政の手法などを見直すことにより、個人や企業の創意工夫によって経済の規模を拡大していけば、財政構造改革にも資するものと考えられます。
  • 国有財産の売却について、近年、かつてない積極的取組みが行われていますが、引き続き、国有財産の売却に努めるとともに、民間における有効利用を含む国有財産の積極的活用を図ることも重要と考えられます。
  • 財政構造改革は、単なる財政面の問題にとどまらず、21世紀の経済社会に対応した社会保障のあり方や中央と地方の関係まで視野に入れて取り組むべき課題です。また、高齢化に伴う社会保障経費の増大や今後の金利上昇に伴う利払費の増加が予想されることなどからすれば、歳出の徹底した節減・合理化などを行ったとしても危機的な財政状況を脱することは容易ではなく、財政構造改革は国民にとって厳しい内容とならざるを得ません。いずれにしても、財政構造改革を実現するためには歳出・歳入両面にわたる国民の選択が求められます。このため、景気回復後に財政構造改革について具体的な検討を行う際には、財政の将来の見通しなど必要な論議の材料を国民に分かりやすく示し、開かれた議論が行われることが必要と考えられます。
  • 財政構造改革との関連で税制全体の姿を検討することが課題になると考えられますが、公的サービスの水準をどの程度とするのが適当か、その裏付けとしての国民負担のあり方はどうあるべきか、という点について将来世代のことをも併せ考えながら十分な議論が行われた上で、国民的な選択がなされるべきものと考えます。

3.税と社会保障(P.53)

  • 租税と社会保険料とは、法律に基づいて国民から負担を求める点で共通の性格を有しているため、税制を検討する際には、社会保険料の負担(社会保障負担)をも勘案するとともに、両者を併せた国民負担率を一つの政策的な目安としています。一方、社会保険料は、給付と負担が強く関連付けられている点で、租税とは異なる性格を有しています。
  • 高齢化の進展に伴い社会保障給付の大幅な増大が見込まれる中、社会保障の給付とこれに見合う負担の水準、財源としての社会保険料と租税の組合せなどの社会保障制度そのものに関わる国民的な議論と選択が必要になります。
  • 社会保障、特に基礎年金の財源として、社会保険料に代えて全額税を充ててはどうかとの議論(税方式化論)がありますが、単に財源の調達の仕方の問題ではなく、社会保障の理念や制度の基本設計といった根幹に関わる問題です。予防的性格を持ち、負担の見返りとして給付の権利性が強い社会保険方式か、結果としての救済の性格が強い税方式かについては、個人の自立を基本とする社会における自己責任のあり方についてどう考えるかといった問題であり、消費税を財源とする場合には事業主の保険料負担が個人の租税負担に置き替わることや、社会保険料を廃止する分の税負担増のあり方などを含む幅広い観点から国民的な議論が行われる必要があります。
  • 少子化対策の観点から、個人所得課税の児童に係る扶養控除を児童手当に代替させてはどうかという考え方があります。少子化対策としての効果や給付規模に見合う具体的な財源確保の方策などについて考える必要がありますし、特に、個人所得課税の基本に関わる問題があることに留意すべきです。

4.地方分権と地方税財源の充実確保

(1) 地方分権の意義と地方税の役割(略)(P.58)
(2) 地方分権推進の経緯(略)(P.59)
(3) 地方税財源の充実確保についての基本的な考え方
(地方財政における自主性の向上)(P.60)
  • 地方公共団体の財政面における自己決定権と自己責任を確立することが必要であり、その意味で、地方分権の進展に伴い、地方税の充実確保を図る重要性が高まる中で、国庫補助負担金、地方交付税などの地方財政制度も新たな局面を迎えていると言えます。
  • 地方の歳出規模と地方税収には乖離があります。基本的に、この乖離をできるだけ縮小するという観点に立って、課税自主権を尊重しつつ、地方税の充実確保を図る必要があります。
(地方税の充実確保と行財政改革の推進)(P.60)
  • 地方税の充実確保を図る場合には、地方公共団体が自立的な行財政運営を行えるよう、国と地方の役割分担を踏まえつつ、国庫補助負担金の整理合理化や地方交付税の見直しを図るとともに、国と地方の税源配分のあり方について検討することが必要です。
  • 地方税を充実し、国からの移転財源への依存度をできるだけ少なくすることに加えて、課税自主権を活用することにより、地方公共団体の財政面における自立度が高まり、受益と負担の対応関係のより一層の明確化が図られ、国・地方を通ずる行政改革や財政構造改革の推進にもつながるものと考えます。
  • 地方においても自ら汗をかき、行政改革、課税自主権の活用、市町村合併などへの取組み、行政評価、情報公開による住民の監視機能の活用が重要です。
(国・地方を通ずる行財政制度のあり方の検討)(P.61)
  • 国・地方を通ずる行財政制度のあり方は、国・地方の役割分担、国庫補助負担事業、地方に対する義務付け、公共投資・社会保障などの行政水準各々のあり方、国の財政政策そのものに関わり、幅広い観点から取り組むべき課題であると考えます。
  • 地方税財源の充実確保については、国の財政・税制と深く関わるものであり、国庫補助負担金や地方交付税を含めた国・地方を通ずる行財政制度のあり方を見直し、改革することが必要となります。しかし、現在の危機的な財政状況の下では、国と地方の税源配分のあり方について見直しを行うことは現実的でないことから、今後景気が本格的な回復軌道に乗った段階において、国・地方を通ずる財政構造改革の議論の一環として、取り組むのが適当であると考えます。当調査会としては、関係方面との連携を図りつつ、地方税の充実確保の方策について具体的な検討を進めていくこととします。
(4) 地方税財源の充実確保方策の方向(P.62)
  • 地方税の充実確保を図る際には、所得・消費・資産等の間における均衡がとれた国・地方を通ずる税体系のあり方等を踏まえつつ、税源の偏在性が少なく税収の安定性を備えた地方税体系の構築が重要です。
  • 地方税の基幹税目の中では、個人住民税はその充実が望ましいと考えられます。地方消費税は今後その役割がますます重要なものになっていくと考えられます。固定資産税は引き続きその安定的な確保に努める必要があります。
    法人事業税の外形標準課税は、景気の状況等を踏まえつつ、早期に導入を図ることが必要です。
(5) 課税自主権の活用(P.63)
  • 地方公共団体が、地域住民の意向を踏まえ、自らの判断と責任において、課税自主権を活用することにより財源確保を図ることは地方分権の観点から望ましいものです。その際、公平・中立などの税の原則に則ることが必要です。また、国においてもできるだけこれらの動きを支援する必要があると考えます。

五 わが国税制のあり方

1.税制の抜本的改革の必要性(P.64)

  • 税制について、21世紀のあるべき経済社会を展望し、租税が公的サービスを賄うのに十分な財源を社会の構成員である国民皆が広く公平に分かち合うものであることを改めて認識した上で、経済社会の構造変化と調和のとれた望ましい税制を構築するという大きな課題が残されています。所得課税をはじめ、消費課税、資産課税等を含めた税制全般についての抜本的な税制改革が必要であると考えられます。

2.抜本的改革の視点(P.65)

  • 税制の検討に当たっては、まず、租税が、社会の構成員である国民皆が広く公平に分かち合うものであることを改めて認識することが出発点となります。また、租税は国民の選択する公的サービスの水準に見合う財源を賄うのに十分でなければなりません。
  • 様々な経済社会の構造変化に対応し、21世紀において「公正で活力ある社会」を築いていくためには、「公平・中立・簡素」という税制の基本原則は、今後ますます重要です。
    特に、国民負担の増加が見込まれる中で、税制が「公平」であることが何よりも強く求められ、既存の税制を再度点検していくことが必要です。「中立」については、個人や企業の経済活動が多様化し、効率性が従来以上に求められていることから一層重要になってきます。「簡素」については、税制論議に国民が参加し選択していくためにも重要性が増してきます。「中立」の観点からも、「簡素」の観点からも、課税ベースが広く確保されることが求められます。
  • 公的サービスを賄う租税を国民皆が広く公平に分かち合い、全体として偏りのない税体系を築いていく観点から、所得・消費・資産等に対する課税をどのように組み合わせるかについても国民の選択が必要です。
  • いわゆる「直間比率の是正」という考え方については、所得課税の負担が低くなっていること、財政状況が極めて深刻になっていることなどから、これまでのような所得課税の減税を伴う改革は行い得ないと考えられます。
  • 個人所得課税は、大きな規模の課税対象を持ち、国民一人一人の負担能力に応じた分担を実現できる税であり、所得再分配機能を持ち、垂直的公平に適う税です。
    また、租税は「社会共通の費用を賄うための会費」の性格を有していますが、個人所得課税は、申告納税制度を基本とするものであり、社会の構成員としての意識を養うことにも役立つものです。今後、給与所得控除の見直しとの関連で、年末調整に代え、確定申告を行う途を広げることも、税制に関する国民の選択肢の一つです。
    個人所得課税の現状は、近年の税制改革や景気対策としての減税もあって、その負担水準は諸外国に比べても最も低くなっています。
    課税最低限は諸外国に比べて高くなっており、そのあり方について種々の議論がなされています。課税最低限は、各種の控除のあり方との関連で決まってくるものですが、公的サービスを賄うための負担は国民が皆で広く分かち合うことを基本にそのあり方を議論することも必要です。
    少子・高齢化の進展や国民のライフスタイルの多様化など経済社会の構造変化が進む中で、各種の控除のあり方等について、公平性・中立性といった観点から検討することが必要です。
    以上を踏まえ、今後、個人所得課税が本来持っている機能を十分に果たすことができるよう、その再構築に向けた議論が必要と考えられます。
  • 法人課税は、法人に公的サービスの費用の負担を求めるものであり、経済の発展と企業活動の進展に伴い、税体系において基幹的な税目の一つとなっています。
    近年、企業活動の国際化が進む中で、わが国の法人課税の実効税率は、わが国企業の競争力を確保する観点から、大幅に引き下げられ、その水準は既に国際的な水準になっています。
    経済活動において法人部門は大きな比重を占めており、法人課税のあり方は、企業活力の発揮や資源配分の変更を通じた経済全体の効率性の向上などに影響を与えるものであり、課税ベースの広い公正・中立な法人課税は、わが国経済社会の活力を維持していく上で重要です。
    今後も、税体系全体における適切な役割を果たしつつ、国際化や情報化といった経済社会の構造変化に対応するとともに、公正・中立で透明性の高い法人税制を構築することが求められます。
    特に、わが国企業を取り巻く環境が大きく変化してきていることに対応して、企業の柔軟な組織再編を可能にするための法制の整備が進められていますが、法人税制としても、企業の経営形態に対する中立性や税負担の公平等の観点から、会社分割に係る税制や連結納税制度の導入といった、抜本的な見直しが必要と考えます。
    また、最近における非営利活動の多様な展開を踏まえ、NPO法人(特定非営利活動法人)等の税制のあり方についても検討していくことが必要です。
  • 地方税において、当面する課題である法人事業税への外形標準課税の導入については、地方分権を支える安定的な地方税源の確保、応益課税としての税の性格の明確化、税負担の公平性の確保、経済の活性化、経済構造改革の促進等の重要な意義を有する改革であることから、景気の状況等を踏まえつつ、早期に実現を図ることが必要です。
  • 消費課税については、これまでの税制改革の流れの中で、少子・高齢化の進展に対応し、国民福祉の充実等に必要な歳入構造の安定化に資するなどの観点から消費一般に広く公平に負担を求める消費税を創設し、その後、その税率引上げ、中小事業者に対する特例措置等の抜本的な見直しを行うとともに、地方分権の推進、地域福祉の充実などの観点から地方消費税の創設を行うなど、重要な改革を行ってきました。
    消費課税は、勤労世代に偏らずあらゆる世代に公平に負担を求めることができ、また、ライフサイクルの一時期に負担が大きく偏ることがないという特徴があります。さらに、消費に充てられる資金がどのような形で得られたものであっても、消費に応じて一律に負担を求めることが可能であり、水平的公平の確保に資するものと言うことができます。
    今後、少子・高齢化が更に急速に進展し人口の減少が避けられない21世紀を展望し、経済社会の活力を維持していくためには、公的サービスの費用を広く公平に分担していく必要があるとともに、世代間の公平やライフサイクルを通じた負担の平準化という視点が重要です。また、安定的な税収構造を持った税体系を構築していく必要があります。これらを考えるとき、消費課税の役割はますます重要なものになっていくものと考えられます。その際、消費税の中小事業者に対する特例措置、仕入税額控除方式などのあり方について、制度の公平性、透明性及び信頼性の観点から、事業者の実務の実態なども踏まえながら、検討を行っていく必要があります。
  • 相続税や固定資産税をはじめとする資産課税等は、全体として偏りのない税体系を築いていく上で、あるいは、景気の動向に大きく左右されない安定的な税収を確保していく上で、重要な役割を担っています。また、相続税については、その累進構造を通じて富の再分配機能を有していますが、個人所得課税の抜本的見直しとの関連において税率構造や課税ベース等について幅広く検討していくことが必要となっています。
    今後の資産課税等のあり方については、個人所得課税や消費課税が適切な機能を発揮していく中で、少子・高齢化や経済のストック化の進展などの経済社会の構造変化に対応しつつ、その機能を十分に果たしていくことが求められます。

3.税制論議への国民の参加と選択(P.68)

  • 公的サービスは国や社会を支えるために欠かすことができないものです。租税はそのような公的サービスを賄うために必要な財源を調達するものです。少子・高齢化、国際化、ライフスタイルの多様化など、わが国経済社会はこれまでにない大きな変化に直面しています。21世紀に向けてわが国があらゆる面で節目を迎える中、明るい展望を拓くためにも、国民一人一人が、社会を支える一員として、税制を自らの問題として捉え、その現状や諸課題について理解を深め、将来世代のことも考えながら、税制論議に参加していくことが求められます。
    当調査会は、そのために必要となる判断材料を国民に幅広く提供することが重要と考えます。また、国や地方公共団体がそれぞれの行政についての情報をこれまで以上に分かりやすく提供していくことが必要なことは言うまでもありません。
  • 近年、財政赤字の累積が進行しつつあります。わが国財政の厳しい現状を踏まえ、さらに21世紀を展望するとき、現世代は自らが選択してきた公的サービスを賄うのに十分な負担を行ってきたと言えるでしょうか。将来世代が真に必要な公的サービスを享受できるような財政構造を築き上げていくことが必要ではないでしょうか。公的サービスを賄うための費用を将来世代に先送りすることは避けなければならないと考えます。財政構造改革は必ずや取り組まねばならない課題ですが、その際、私たち国民は、公的サービスによる便益とその費用の負担について、便益を見直すのか、負担を見直すのか、あるいはその両者を組み合わせていくのか、選択を行っていかなければなりません。
  • 経済社会の活力を維持していく観点から、税制は先に述べたような経済社会の構造変化に対し適切に対応していくことが必要です。まず、国民皆が広く公平に負担を分かち合うことが何よりも大切です。また、税制と経済社会との調和が保たれているのかどうかについて「公平・中立・簡素」という基本原則に照らして点検し、必要な改革に取り組んでいくことが求められます。わが国の税制は様々な課題を抱えていますが、こうした観点からどのような見直しを行っていくのか、私たち国民は選択していかなければなりません。
  • 以上のような税制論議への参加や今後の財政・税制についての選択を経て、所得課税・消費課税・資産課税等それぞれの機能や役割を活かしながら、社会共通の費用を広く公平に分かち合うという観点に立ち、21世紀の経済社会にふさわしい税体系のあり方について、私たち国民は責任ある選択をしていかなければなりません。

第二 個別税目の現状と課題

一 個人所得課税

1.個人所得課税の特徴(P.70)

  • 個人所得課税は、経済全体に広く関わり大きな規模を持った所得を課税対象とし、また、累進性により所得の大きさに応じた税負担を求めることから、税体系の中でも基幹的な税目となっており、所得再分配機能においても中心的な役割を担っています。

2.個人所得課税の現状(P.72)

  • わが国の個人所得課税の税負担水準は、累次の税制改革における負担軽減や景気対策としての減税を経て、低下しています。また、国際的にも主要国中、最低の水準にあり、特に中低所得者の負担が小さいものとなっています。さらに国民所得に対する負担率で見ても、主要国と比較して最も低い水準にあります。

3.個人所得課税の課題

(個人所得課税の基幹税としての役割と負担のあり方)(P.82)
  • 経済活動を通じて所得を得た国民が、所得に応じて公的サービスの財源を支え合っていくことは今後とも重要であり、個人所得課税は引き続き基幹税として税体系において中心的な役割を担うべきであると考えます。
  • 負担水準の現状や、厳しい財政状況を勘案すれば、個人所得課税の減税は既に限界に達しており、少なくともこれ以上の減税は行うべきではないと考えられます。
(課税ベースとしての所得のあり方)(P.82)
  • 何らかの所得を得ているのであれば、それに応じて公平に負担するという考え方からは、所得から適切な理由なく除かれたり、漏れたりするものがないように、課税ベースとしての「所得」をできる限り広く、包括的に捉えることが必要です。
  • 現行の制度においては、各種の控除等によって課税ベースとしての所得から除かれているものが少なくありません。これらの仕組みにはそれぞれ設けられた趣旨がありますが、経済社会の構造変化の中で、改めて、これらの控除等のあり方について見直しの余地がないか検討を加える必要があります。
(所得再分配機能のあり方)(P.83)
  • 近年の所得の分布状況を見ると、かつてのような明確な平準化の動きはみられません。むしろ、市場原理や自己責任を重視した経済活動の進展、国際化、情報化の下での個人や企業の経済活動の多様化により、所得格差の拡大の方向に働く可能性や、消費課税の割合が高まってきていることをも考慮すると、税制全体の所得再分配機能を維持していくことが必要であり、個人所得課税の果たす役割は引き続き重要と考えます。
(制度の簡素性)(P.84)
  • 個人所得課税は広範な経済取引や多数の納税者に関わる税目であるだけに、納税者に分かりやすい簡素な税制が求められます。
(個人住民税のあり方)(P.84)
  • 個人住民税は、基幹税として地方財政を支える税であるとともに、地域社会の費用を住民がその能力に応じ広く負担を分任するという独自の性格や受益と負担の対応関係を明確に認識できるという性格を有しており、地方自治を支える税と言えます。個人住民税については、地方分権の推進や少子・高齢化の進展に対応し得る税制として、このような性格などを踏まえつつ、そのあり方について検討する必要があります。

4.課税ベースとしての所得

(所得の捉え方)(P.84)
  • 累進税率が適用されることとなる課税ベースとしての「所得」の範囲に、個人の税負担能力(担税力)を増加させる価値を得ているものがあれば、漏れなく、すべてを含め、「所得」をできる限り広く包括的に捉えるという考え方が基本です。
  • 非課税所得については、それぞれに制度創設の趣旨がありますが、所得を包括的に捉えるとの考え方を踏まえ、経済社会の構造変化の中でその意義が薄れてきていると見られるものがある場合には、そのあり方について検討を加えることが必要です。
  • いわゆるフリンジベネフィットについては、個人の企業依存体質に変化が見られる中で、経済的利益の供与の仕方などの違いで税負担の公平を失することがないように、法人課税との関係にも留意しつつ、検討する必要があります。
(課税最低限)(P.88)
  • 課税最低限は、一般的に適用される基礎控除、配偶者控除、扶養控除等の基礎的な人的控除、社会保険料控除、給与所得控除の各控除額を積み上げた結果定まるものです。課税最低限は、納税者の大半を占める給与所得者について、その水準以下では課税されず、その水準を超えると課税が始まる給与収入の水準を示すものであり、個人所得課税の負担構造を示す重要な指標として使われています。
  • 個人所得課税は経済生活を通じて得る所得に応じて負担を求める税であり、社会の構成員である私たちにとって関わりの深い税です。このような個人所得課税の負担を累進性の下で広く分かち合うという観点からは、課税最低限があまり高いことは望ましくないものと考えます。
    また、課税最低限は、個人所得課税の基本的な仕組み、負担水準全般に関わることから、税体系全体の中における個人所得課税の位置付けや役割などをも踏まえて総合的な検討が必要であるとの意見がありました。
  • 課税最低限は各種の基本的な控除の積重ねであることから、そのあり方を考える際には、控除一つ一つのあり方を検討する必要があります。
(主要な控除)(P.91)
  • 基礎控除、配偶者控除・配偶者特別控除、扶養控除を基礎的な人的控除と呼び、これらは世帯構成などといった納税者の税負担能力を減殺させる基本的な事情を斟酌するため設けられています。
  • 基礎的な人的控除については、世帯構成の変化、女性の社会進出、高齢化の進展などの社会の変化を踏まえ、公平・中立の観点などから、簡素化、集約化の余地がないか検討を加えていく必要があります。
    なお、これらの人的控除は個々の納税者の税負担能力に関する諸事情を斟酌するための基本的な仕組みとして納税者に定着していることに留意すべきであるとの意見がありました。
  • 配偶者に係る控除について、世帯構成などに応じた税負担能力の調整の観点からは、配偶者控除と配偶者特別控除の二つの控除の適用を認めていることは、納税者本人や扶養親族に係る配慮と比較してかなり大きいものとなっています。配偶者に係る控除については、女性の社会進出、男女共同参画社会の進展などを踏まえ、税負担能力の減殺を調整するといった所得控除の趣旨や他の基礎的な人的控除とのバランス、制度の簡明性などの観点から、そのあり方について検討を加える必要があります。
    なお、配偶者控除等は現実に多数の世帯に適用され、定着していることからも、慎重な検討を要するのではないかとの意見もありました。
  • 扶養控除については、各種の割増、加算によって、扶養親族の様々な特徴を考慮して、きめ細かな配慮を行うことが可能となっていますが、その反面、制度はかなり複雑なものとなっています。年金、医療、介護などの社会保障制度の整備状況などをも勘案すれば、税制として、扶養親族について細かな区分を設け、控除制度を細分化することが適当かどうか、基礎控除、配偶者控除等の他の人的控除とのバランス、扶養親族間におけるバランスなども踏まえながら、検討を加える必要があります。
  • 扶養控除をめぐっては、少子化対策の観点から、児童手当に代替させてはどうかという考え方があります。基礎的な人的控除のうち児童に係る扶養控除の部分のみを縮減する場合には、世帯構成に応じた税負担能力の調整機能を損なう、また、他の扶養親族に係る扶養控除や、基礎控除、配偶者控除等の他の基礎的な人的控除とのバランスを失するといった個人所得課税の基本に関わる問題点があります。
  • 現行の給与所得控除の水準は、給与所得者の必要経費に関する概算的な控除としては相当手厚いものとなっています。給与所得控除の性格については、従来、「勤務費用の概算控除」のほか、「他の所得との負担調整のための特別控除」の要素が含まれるものと整理してきました。この点については、給与所得者が社会の典型的な就業形態となっていること、雇用形態の多様化などが進み、被用者としてのサラリーマン特有の事情にも変化が見られること、手厚い水準の給与所得控除は職業選択など就業に対する中立性を損なうおそれがあるとも考えられること、主要国の概算控除の水準はわが国に比較して低いことなどを踏まえると、給与所得者に対して「他の所得との負担調整」といった一定の配慮を加える必要性があるとしても、その必要性は薄れてきていると考えられます。したがって給与所得控除については、今後、勤務費用の概算控除としての性格をより重視する方向で、そのあり方について検討を行っていく必要があると考えます。
  • 仮に、選択肢として、現行の給与所得控除を勤務費用の概算控除としての性格をより重視する方向で見直しを行うこととすれば、特定支出控除の選択的適用が増加し、給与所得者が確定申告を通じて自らの所得及び税額を確定させる途を広げることにつながります。

5.税率構造(P.103)

  • 税率構造については、これまで累進緩和が行われてきており、現在では、国際的に見ても、所得税の最低税率は主要国の中で最も低く、所得税、住民税を合わせた最高税率も遜色ない水準となっています。
  • 税率構造のあり方については、機会の平等か結果の平等かというような国民の平等に関する意識の状況、勤労意欲や事業意欲への配慮、個人所得課税の課税ベースのあり方や財政状況など、様々な観点から検討する必要があります。税制全体の所得再分配機能を維持していくことが必要であり、少なくとも今以上の累進緩和は適当ではなく、現行の税率構造は基本的に維持すべきであると考えます。

6.所得控除(P.106)

  • 老年者控除等の特別な人的控除については、各々の制度の趣旨などを踏まえつつ、経済社会の構造変化や社会保障制度の整備状況に照らし、制度創設時に比べて状況に変化が見られるのではないかとの観点などから、検討を加えていく必要があります。
  • 医療費控除等のその他の控除についても、経済社会の構造変化を考慮し、制度の趣旨を踏まえつつ、公平・中立・簡素の観点から、控除のあり方について検討を加えることが必要です。
  • 新規控除や既存の控除の上乗せなど、様々な国民の生活態様の中から特定の条件や家計支出(所得の処分)を抜き出して斟酌する種々の措置を講じることについては、制度がいたずらに複雑になりかねず、また、そもそも稼得された「所得」に負担を求める個人所得課税の性格から、基本的に適当でないと考えられます。

7.各種の所得

(退職所得)(P.110)
  • 勤務年数が長いほど厚く支給される退職金支給形態を反映した現行の退職所得課税の仕組みについては、退職金の支給形態の変化などを踏まえると、今後も長期勤続の場合を特に優遇していくことが適当かどうか検討する必要があると考えられます。
(事業所得)(P.110)
  • 事業所得を稼得する納税者が、適正に申告・納税するためには、正確な記帳が必要です。適正な記帳を奨励するため、シャウプ勧告を受けて、青色申告制度が設けられ、一般の記帳より水準の高い記帳を行う納税者に対して優遇措置が講じられています。青色申告が一層普及し、正確な記帳が行われることは今後とも重要です。
  • 事業所得と給与所得など各種の所得間の不均衡感の問題については、税務執行体制の充実を図りながら、納税環境の整備など、より一層の課税の公平の確保に努め、青色申告の一層の普及など、納税者の自覚と協力を得つつ、適正な申告水準の維持、向上を図ることが重要です。

8.課税単位と課税方式等

(個人所得課税の課税単位)(P.115)
  • 個人が一定の所得を稼得する場合、所得が帰属する個人に税負担を求めるのが適当です。また、二分二乗方式を採用した場合には、適用される累進税率が平均化されるために、独身者世帯に比べて夫婦者世帯が、また共稼ぎ世帯に比べて片稼ぎ世帯が有利になること、高額所得者に税制上大きな利益を与える結果となることなどの問題点が考えられます。このようなことから、課税単位については引き続き個人単位とすることが適当と考えます。
(個人所得課税の課税方式)(P.117)
  • 個人所得課税に垂直的公平を確保する機能を期待し、累進的な税率構造を採用する以上、その課税ベースとなる所得はできる限り包括的に捉える必要があり、広く公平に税を負担する個人所得課税の理念として、総合累進課税が基本であると考えられます。
  • 退職所得、山林所得のように所得の性質上、累進課税の適用に当たって配慮が必要なものもあります。また、納税者番号制度の整備など、所得捕捉の体制の整備が十分ではない現状においては、直ちにすべての所得について総合課税を行うことは実質的公平を損ないます。したがって、個人所得課税の基本的な枠組みとしては、総合課税を原則としつつも、所得の性質、把握体制の整備状況などを踏まえ、所得の種類によっては分離課税を組み合わせることが適切と考えます。

9.年金税制(P.120)

  • 公的年金に係る税制については、本人が拠出する保険料の全額に社会保険料控除が適用され、また、その受給する年金に公的年金等控除や老年者控除等が適用され、その課税ベースからほとんどが除かれています。その結果、年金生活者の課税最低限は給与所得者の場合より高い水準になっており、また、税負担は主要国と比べても極めて低いものとなっています。高齢化の進展の下で年金受給者が増加し年金所得も増大していることや、高齢者の所得水準の上昇に伴い生活実態が多様化していることを勘案しながら、世代間の公平をはじめ、公平・中立・簡素の観点から、拠出、運用、給付を通じた負担の適正化に向けて検討を行っていく必要があります。
  • 企業年金等に係る税制のあり方についても、少子・高齢化の進展、高齢者の生活実態を勘案して、貯蓄課税との均衡、世代間の公平などの観点を踏まえながら、拠出、運用、給付を通じた負担の適正化に向けて検討を行っていく必要があります。

10.土地譲渡益課税(P.125)

  • 土地譲渡益に対する課税については、土地が公共性を有し、その価値が主として外部的要因により増加するものであることに鑑み、その譲渡益に対して、給与や事業等を通じて稼得される所得との間の税負担の公平の確保に配慮しつつ、適正な負担を求めることが必要です。
  • 土地譲渡益課税に係る特別控除等については、これにより譲渡益のかなりの部分が課税ベースから除かれていることから、土地の譲渡益の性格などを踏まえ、他の所得の税負担との公平に配意しつつ、相応の税負担を求めるという観点、また、税制の簡素化の観点から検討を加える必要があります。

11.金融税制(P.128)

  • 個人所得課税の理念として総合累進課税が基本であると考えますが、金融資産からの所得全般について総合課税を行うためには、各種の所得の性質の差異などに留意した上で、資料情報制度の充実、納税者番号制度の導入など、所得捕捉の体制の整備が不可欠であることから、現状においては、利子等について分離課税を維持することが現実的と考えられます。
  • 金融商品は、国内外における資産の移動が容易で、転々流通に伴いその保有者、所得の帰属者が頻繁に代わり得ることから、取引把握や保有者の確認が難しいといった特徴、いわゆる「足の速さ」を有しています。金融取引の多様化、複雑化、さらに取引の国際化、電子化に伴い、このような金融商品の「足の速さ」が著しくなるものと考えられ、金融資産からの所得に対する適正な課税の確保を図っていくことがより一層重要となります。

12.租税特別措置等(P.137)

  • 住宅ローン税額控除、生損保控除、非課税貯蓄等の租税特別措置等については、それらが特定の政策目的のための措置として、公平・中立・簡素の税制の基本原則の例外として設けられているものであることから、今後とも、その政策目的、効果などを十分吟味しつつ、公平・中立などの観点から絶えず見直して、整理・合理化を図っていくことが必要です。

13.納税を支える制度(P.139)

  • 納税者の税制に対する信頼を確保するためには、納税者がどのような形で、どの程度、納税過程に関与するかという納税者の立場から見たタックス・コンプライアンスの観点、また、常に適正・公平な執行を確保していくという行政庁側の観点をともども踏まえて、公正・簡素な納税過程を確立していく必要があります。
  • 申告納税を行うには、納税者が所得額と税額を計算するために必要な記録を保存し、取引を記帳することが重要です。したがって一般的な記録保存制度と記帳制度が設けられています。また、一般の記帳より水準の高い記帳を促進する青色申告制度が設けられており、こうした制度を通じてなお一層の記帳、申告水準の向上が望まれます。
  • 給与所得者については、年末調整により源泉徴収税額の過不足が精算されるので、一般には確定申告を要しないことになっています。給与の源泉徴収は、適正な課税を担保し、納付の便宜、平準化などに資するために必要な制度であり、主要国でも、年末調整の有無にかかわらず、適正で確実な課税を担保する観点から、源泉徴収が広く行われています。
  • 年末調整と確定申告の関係については、年末調整は、納税者の手続を簡便化し、納税に係る社会的な費用をできる限り最小化する仕組みとして評価でき、これに代えて確定申告の途を広げていくとすれば、納税者の申告事務負担や税務行政の定員・経費の増加に留意しなければなりません。他方、サラリーマン自らが申告によって税額の精算、確定を行うことは、社会の構成員として社会共通の費用を分かち合っていく意識を高める観点から重要であると指摘されています。仮に、選択肢として、現行の給与所得控除を勤務費用の概算控除としての性格をより重視する方向で見直すこととなれば、特定支出控除の選択的適用が増加し、確定申告により自ら税額の確定を行う途を広げることとなります。
  • 金融取引をはじめとして取引形態が多様化、複雑化している中で、適正・公平な課税の確保、税制への信頼の維持、向上のためには、主要国の制度も参考としつつ、支払調書制度、官公署等の協力義務など、資料情報制度を充実させる観点からの検討が必要であると考えます。

14.個人住民税関係(P.144)

  • 個人住民税については、地域社会の費用を住民がその能力に応じ広く負担を分任するという独自の性格(負担分任の性格)を有していることから、課税最低限は所得税よりも低く、税率も緩やかな累進構造となっています。
  • 地方分権の推進や少子・高齢化の進展に伴う個人住民税の充実確保については、地方分権推進計画に基づき地方税財源の充実確保について検討を行う中で、負担分任の性格や福祉等の対人行政サービスなどの受益に対する負担として対応関係が明確に認識できるという性格、税収入面での普遍性、安定性などを踏まえつつ、検討する必要があります。
  • 所得割の所得控除及び課税最低限のあり方については、個人住民税の負担分任の性格から所得税に比較してより広い範囲の納税義務者がその負担を分かち合うべきものであるため、所得税と一致させる必要はないと考えられます。
  • 現在個人住民税が非課税となっている割引債の償還差益や所得税で確定申告不要制度が採られている一定の少額配当については、適正化を図る必要があります。
  • 均等割については、地域社会の費用の一部を等しく分担するものであり、負担分任の性格を有する個人住民税の基礎的な部分として位置付けられるものです。
    均等割の税率については、均等割税収の個人住民税収全体に占める割合や均等割の1人当たりの国民所得などに対する負担水準が大きく低下してきていることから、その負担水準の見直しを図る必要があると考えられます。
    人口規模に応じて3段階に区分して設定されている市町村民税均等割の税率の格差縮小や均等割の納税義務を負う夫と生計を一にする妻に対する均等割の非課税措置のあり方の見直しが必要であると考えられます。

ニ 法人課税

1.法人税

(税率と課税ベースの適正化)(P.165)
  • わが国の法人課税の実効税率は、累次の引下げの結果、国際水準並みとなっており、わが国の厳しい財政状況を考えると、法人税率の更なる引下げの余地はないと言えます。
  • 今後は、公正・中立で透明性の高い税制を構築する観点から、経費概念の厳格化、租税特別措置の整理・合理化をはじめ、課税ベースの一層の適正化に向けて取り組んでいくことが重要です。
(会社分割に係る税制)(P.171)
  • 会社分割法制の創設を踏まえ、当調査会は、法人課税小委員会において、平成13年度税制改正における会社分割に係る税制の整備に向けて検討を進めています。
  • 諸外国の例を見ると、会社分割により移転する資産については譲渡益課税を原則としつつ、分割の前後で経済実態に実質的な変更がない場合には、税制上も中立的な取扱いとするとの考え方から、特例として課税繰延べを行うものとされています。
  • 会社分割に係る税制について検討する際の主な論点としては、合併・現物出資などの資本等取引と整合性のある課税のあり方、株主における株式譲渡益課税やみなし配当課税に対する適正な取扱い、納税義務・各種引当金などの意義・趣旨を踏まえた適正な税制措置のあり方、租税回避の防止があります。各種の資本等取引と整合性のある課税のあり方を検討する際には、合併などに係る現行税制についても併せて広範な検討を行う必要があります。
(連結納税制度)(P.176)
  • 企業集団の一体的経営の傾向が強まり、企業組織の柔軟な再編成を可能とするための法整備が進められる中で、企業の経営形態に対する税制の中立性の観点から、21世紀のわが国経済のインフラとなる本格的な連結納税制度を構築する必要があり、法人課税小委員会においてその導入に向けた検討を進めています。
  • 連結納税制度については、納税義務者・連結対象子会社の範囲などの連結納税制度固有の問題のみならず、個々の法人に対する課税体系と企業集団に対する課税体系との間の整合性など、法人課税の全般にわたる広範な検討が必要です。また、租税回避行為や税収減などの問題への対応について検討しなければなりません。
(公益法人等・NPO法人)(P.186・P.188)
  • 公益法人等に対する課税については、これまでも課税の公平・中立の観点から見直しが行われてきていますが、収益事業の範囲を含め、その課税のあり方について検討が必要です。
  • NPO法人は、非営利活動の担い手の新たな類型として設けられたものです。NPO法人の税制については、その実態を見極めた上で、相当の公益性を担保するための基準や仕組みをどのようにするかを含め、広範な観点から検討していく必要があります。
(その他の課題)(P.189)
  • 法人税の課税対象は基本的に法人格の有無により決定されています。金融の自由化や経済活動の国際化に伴い、投資や事業の主体が多様化する中で、これらの事業体に対する課税のあり方について、その事業や投資活動の内容、経済的意義、法的性格などを踏まえ、適切な課税を確保する観点から、検討する必要があります。
  • 赤字法人の割合が恒常的に高いということについて、所得課税である法人税としてどう考えていくか、という問題があります。この問題については、まずは執行面での対応が重要ですが、税制面においても、赤字法人となっている実態を十分見極めた上で、幅広い観点から検討を行っていくことが必要です。

2.法人事業税

(法人事業税への外形標準課税の導入意義)(P.204)
  • 外形標準課税の導入は、地方分権を支える安定的な地方税源の確保、応益課税としての税の性格の明確化、税負担の公平性の確保、経済の活性化・経済構造改革の促進等の重要な意義が認められる地方税のあり方として望ましい方向の改革です。
(望ましい外形基準のあり方)(P.206)
  • 事業活動価値は、法人の人的・物的活動量を客観的かつ公平に示し、各生産手段の選択に関して中立性が高いことから、外形基準としては理論的に最も優れていると考えられます。なお、当面の経過的な措置等として、所得基準による課税と併用することが適当と考えます。
  • 給与総額は、法人の人的活動量を示すとともに、事業活動価値のおおむね7割を占め事業活動の規模を相当程度反映しており、また、実務上の簡便性に優れています。事業活動価値における利潤のウェイトと同じように所得基準を併用すれば、事業活動価値の簡便な方式とも観念できます。
  • 給与総額に、事業活動価値の構成要素である支払利子や賃借料と一定程度相関性のある物的基準を組み合わせたもの(物的基準と人的基準の組合せ)は、事業活動規模を相当程度総合的に表す仕組みとなると考えられます。この場合、両基準の比重を事業活動価値に近似させるように検討し、事業活動価値における利潤のウェイトと同じように所得基準を併用すれば、事業活動価値の簡便な方式とも観念できます。
  • 資本等の金額(資本金と資本積立金の合計額)も、事業活動の規模をある程度表す簡素な課税の仕組みですが、法人の事業活動規模を適切に反映させるという観点からは、所得基準による課税や他の外形基準による課税と組み合わせて用いるよう検討すべきであると考えます。
  • 当調査会としては、事業活動価値が理論的に最も優れているとの考え方に留意しつつ、さらに事業活動価値を含めた各外形基準案について、納税・課税事務負担の観点から検討を進めていくことが適当であると考えます。
  • 各都道府県が税率設定について自由度を有する仕組みとすることが重要ですが、課税標準は全国共通のものとすることが適当です。
(改革に伴う諸課題)(P.213)
  • 外形標準課税の導入に伴う税負担の変動については、税負担能力に配慮するなどの観点から、所得基準による課税を併用して、負担の変動幅を縮小することが適当です。
  • 納税事務負担については、検討した四つの外形基準は、財務諸表や各種法定資料などを活用した簡素な納税手続の仕組みを整えることが可能と考えます。
  • 既存の地方税との関係については、外形基準の採用の仕方によって所要の調整を行う必要が生じる場合も考えられますが、そのような場合、個人・法人を通じた地方税全体の税体系について十分留意することが必要と考えられます。
  • 中小法人の取扱いについては、その担税力に配慮するため一定の配慮が必要ではないかと考えます。考えられる配慮方策としては、軽減税率方式、基礎控除方式、免税点方式、導入率変更方式などがありますが、外形標準課税の導入意義や各配慮方策の本来の趣旨などを踏まえ、薄く広く税負担を求めるという観点から検討することが適当と考えます。
  • ベンチャー企業の取扱いについては、中小法人の税負担に配慮する措置によって対応することが可能ではないかと考えられますが、更なる政策的配慮が必要かどうか、今後具体的に検討する必要があります。
  • 雇用への配慮については、外形標準課税の導入に当たって、雇用への影響を極力少なくするよう十分留意し、具体的な課税の仕組みを検討することが必要と考えます。
(導入の時期)(P.216)
  • 外形標準課税の導入は重要な意義を有する改革であり、景気の状況等を踏まえつつ、早期に導入を図ることが必要です。

三 消費課税

1.消費課税の意義(P.226)

  • 消費課税には、あらゆる世代に広く公平に負担を求めることができるとともに、ライフサイクルの一時期に負担が大きく偏らないという特徴があり、急速に少子・高齢化が進展している中で、その役割は、引き続き重要です。
  • 消費課税は、水平的公平の確保に資するものと言うことができるほか、その税収が他の税と比べて景気変動による影響を受けにくいという特徴があります。
  • 消費課税については、その負担が所得に対して逆進的であるという指摘がありますが、負担が所得に対して逆進的かどうかということは、個人所得課税、相続税などを含めた税制全体、ひいては、社会保障制度を含めた税財政全体を見て議論し、判断すべき問題です。
  • 消費税の創設から現在に至る税制改革の流れの中においては、所得課税を税制の中心に据えつつも、消費課税のウェイトを高めるための努力が行われてきました。現在、消費課税は税体系の中で重要な役割を果たしています。

2.消費課税の現状(略)(P.228)

3.消費課税の課題(P.231)

  • 更に少子・高齢化が進展する21世紀を展望すると、勤労世代に偏らず、より多くの人々が社会を支えていくことが必要であり、消費課税の役割はますます重要なものになっていくと考えられます。
  • その際、消費税の中小事業者に対する特例措置、仕入税額控除方式などのあり方について、制度の公平性、透明性及び信頼性の観点から、事業者の実務の実態なども踏まえながら、検討を行っていかなければなりません。

4.消費税

(課税対象)(P.239)
  • 消費税は、消費一般に広く公平に負担を求めることができ、消費選択などの経済活動に対して中立的であるという優れた特長を有しています。
  • 今後とも、このような消費税の特長を維持することが必要であり、非課税範囲の拡大を行うことは適当でないと考えます。
(税率)(P.243)
  • 消費税(付加価値税)の税率は、それぞれの国における租税負担や税体系全体のあり方についての議論などを背景として設定されているものであり、単純な比較を行うことは適当ではありませんが、国・地方合わせて5%というわが国の税率水準は、先進諸国の中で最も低い水準にあります。
  • 消費税率を含めた今後のわが国の税制のあり方については、少子・高齢化がますます進展する中で、公的サービスの費用負担を将来世代に先送りするのではなく、現在の世代が広く公平に分かち合っていく必要があることを考慮しながら、国民的な議論によって検討されるべき課題であると考えます。
  • 軽減税率を設けるべきか否かという問題は、その時点における消費税率の水準の下で、税財政全体を通じて見てもなお、何らかの政策的配慮が必要かどうかという観点から検討し、その上で、政策的配慮の必要性と制度の中立性・簡素性との間の比較考量により判断すべき問題ですが、極力、単一税率の長所が維持されることが望ましいと考えます。
(中小事業者に対する特例措置)(P.246)
  • 今後、消費税制度全体の見直しを行う際には、中小事業者に対する特例措置のあり方について、制度の公平性及び透明性と簡素性との間でどのように均衡を図るかという観点から、必要に応じ、見直しを検討することが適当です。
  • 事業者免税点制度については、相対的に規模が大きな免税事業者に対しては、課税事業者としての対応を求める方向で検討を行うことが重要と考えます。他方、免税事業者の事務処理能力は依然として低いことから、免税点の見直しについては慎重に議論する必要があるという意見がありました。
    事業者免税点制度のあり方については、事業者の事務処理能力の実態を踏まえ、引き続き検討していくことが適当です。
  • 簡易課税制度については、事業者の実務の実態も踏まえながら、制度の公平性、透明性を高める観点から、適用上限の引下げなど、制度の縮小の方向で検討を行う必要があります。
(仕入税額控除)(P.252)
  • 今後、消費税制度全体の見直しを行う際には、仕入税額控除方式のあり方について、税率構造や中小事業者に対する特例措置などとの関係を踏まえ、事業者間における取引の実態にも留意しつつ、制度の信頼性・透明性の観点から、検討を行うことが重要です。
  • その際、ヨーロッパ諸国のようなインボイス方式については、制度の信頼性・透明性に資する面がある一方で、免税事業者からの仕入れについては仕入税額控除が認められず、免税事業者が、課税事業者となることを選択しない限り、事業者間取引から排除されかねないことについてどう考えるかという問題があります。
(消費税と価格との関係)(P.259)
  • 値札などに消費税等の額を含めた支払総額が表示されていないと、支払いの際に、所持金の不足、予期していた額を超える支払いといったことが生じ得ます。また、税込みと税抜きの価格表示が混在していると、価格の比較を行う上で不都合が生じかねません。
    消費者の便宜を図る観点から、ヨーロッパ諸国の例を参考にしつつ、個々の財貨・サービスごとに、値札などにおいて消費税等の額を含めた支払総額が表示される「総額表示方式」の普及を図ることが適当と考えます。
(消費税と社会保障)(P.263)
  • 平成11年度及び12年度予算においては、消費税収のうち地方交付税分を除く国分を基礎年金、老人医療及び介護に充てることを予算総則に明記する「消費税の福祉目的化」が行われました。仮に、今後とも、消費税収(国分)の使途を福祉目的に特定していく場合、それ以外の歳出の規模と消費税以外の税収とをどのようにバランスさせていくのか、ということが大きな課題となります。
  • 消費税を「福祉目的税化」し、その使途を制度的に福祉目的に特定すべきとの議論については、消費税は、今後、わが国の税財政にとってますます重要な役割を果たすべき基幹税であることなどから、慎重に検討すべきとの意見が多数ありました。
    他方、将来、社会保障給付の増大への対応が重要な課題であり、消費税の充実が不可避であるとすれば、福祉目的税化も検討に値するとの意見がありました。
    この問題は、税制、財政及び社会保障のあり方に深く関わる問題であり、今後、財政構造改革や社会保障制度のあり方などについての検討を踏まえつつ、国民的な議論が行われるべきものと考えます。
  • 基礎年金等の社会保障を「税方式化」し、すべて消費税で賄うべきとの主張については、給付の性格を含めた社会保障制度の基本的な設計に関わる問題であることから、幅広い観点から国民的な議論が行われる必要があります。

5.地方消費税(P.266)

  • 地方消費税は、清算を行うことにより税収の偏在性が少なく、また、安定性にも富んでおり、地方分権の推進や少子・高齢化の進展等に伴う幅広い行政需要を賄う税として、重要な役割を果たしています。
  • 地方消費税の使途については、消費税創設時に地方間接税の廃止等に伴い創設された消費譲与税の廃止や住民税減税の財源として創設されたものであり、これらがもともと一般財源であったことも踏まえると、今後とも地方の幅広い行政サービスに充てるための財源として位置付けていくことが必要と考えます。
  • 地方消費税は、地方分権の推進、地域福祉の充実等のために創設されたものであり、福祉・教育など幅広い行政需要を賄う税として、今後、その役割がますます重要なものになっていくと考えられます。

6.し好品課税

(酒税)(P.269)
  • 酒税については、今後とも、各酒類の生産・消費の状況などを考慮しつつ、厳しい財政事情や社会経済情勢などの変化に応じ、税負担のあり方を検討することが適当です。また、酒類の分類や定義については、公平性・中立性の観点から、各酒類の生産・消費の態様の変化や税率構造の変化などを踏まえ、簡素・合理化を図る方向で検討することが必要と考えます。
(たばこ税)(P.274)
  • たばこに対する税負担のあり方については、今後とも、たばこの小売価格に占める税負担割合の状況やたばこの消費動向、さらには財政状況などを総合的に勘案して検討していく必要があります。

7.特定財源等(P.278)

  • 特定財源等については、厳しい財政事情、最近における道路整備の状況などを踏まえれば、基本的には一般財源化の方向で検討すべきではないかといった多くの意見がありました。これに対し、受益者負担の観点、道路整備の必要性などを踏まえると、なお特定財源等による道路整備の意義が認められることから、これを維持する必要があるとの意見がありました。
  • 一般に、ある税の税収を特定の公的サービスに要する費用の財源に充てることは、その公的サービスの受益と負担の間にかなり密接な対応関係が認められる場合には、一定の合理性を持ち得ますが、他方、資源の適正な配分を歪め、財政の硬直化を招く傾向があることから、その妥当性については常に吟味していく必要があると考えます。

8.その他の地方税(略)(P.285)

四 資産課税等

1.資産課税等の意義(略)(P.288)

2.相続税

(意義)(P.290)
  • 相続課税は、基本的には、遺産の取得(無償の財産取得)に担税力を見出して課税するもので、個人所得課税を補完するものです。その際、累進税率を適用することにより、富の再分配を図るという役割を果たしています。
(課題)(P.298)
  • 当調査会は、最近における税制改正に関する答申の中で、相続課税に関しては、個人所得課税の抜本的見直しとの関連において、税率構造や課税ベースなどについて幅広く検討を行うことが適当であるとの考え方を示しています。今後、そのような抜本的な見直しを具体化していくに当たっては、税制改正の流れや経済社会の構造変化を踏まえる必要があります。
  • 個人所得課税の累進構造がフラット化の方向に緩和され、消費税が税体系で重要な役割を果たすようになってきたことにより、税制全体の再分配機能が弱まってきているとの指摘があります。
  • 経済のストック化の進展により、資産家層が広がってきており、また、今後相続を事由とする資産移転が増加していくことを踏まえると、相続課税の重要性が高まっていくものと考えられます。
  • 高齢化の進展により、相続による財産の取得時期が相続人のライフサイクルのより後半にシフトしていくため、相続財産が相続人の経済的基盤を形成するという意味合いは相対的に薄れつつあります。
  • 以上を踏まえると、相続税の累進性のあり方については様々な考え方があるものの、課税対象者の範囲に関しては、ごく一部の資産家層を対象に課税するという従来の位置付けから、より広い範囲に課税していくという方向でそのあり方を検討していくことが必要と考えます。
(課税ベース)(P.303)
  • 相続税については、バブル期の地価の異常な高騰などを受けて、昭和63年以降、累次にわたり減税が行われてきましたが、その後の地価の大幅な低下によって、その負担は大きく緩和されています。一時の地価水準の高さなどに配慮した現在の課税最低限の水準は見直していく余地があります。
  • 相続税における事業承継への配慮の必要性については、賛否両論があります。ただ、小規模宅地の課税価格の特例については、小規模であっても宅地を過度に優遇すれば、相続税の有する富の再分配機能を大きく損なうこととなりかねません。事業承継に配慮することが事業者の経営意欲を高め、中小企業の活性化につながるとの意見があることにも留意しながら、相続税の基本にも関わりかねない問題の一つとして、特例のあり方を検討していく必要があります。
(税率構造)(P.306)
  • 現行の最高税率は、個人所得課税の最高税率との較差が大きく、諸外国の例に比しても相当高い水準にあることなどに鑑みれば、これを引き下げる方向で考えていくことが適当です。その場合、相続税の性格を踏まえると、個人所得課税の最高税率と同じ水準にまで引き下げるのが適当かどうかについては、慎重に検討する必要があります。
    いずれにしても、最高税率を含む税率構造を見直す場合には、課税ベースなどの見直しを併せて検討することが適当です。
(贈与税)(P.306)
  • 贈与税については、高齢化の進展や高齢者層への資産集中を背景に、若年・中年世代への早期の財産移転の必要性などに着目した様々な議論があります。贈与税のあり方は、相続税のあり方と密接に関連するものであり、相続税の抜本的な見直しと関連して検討を加えることが適当ですが、仮に、贈与税の引下げを検討する場合には、贈与税が担っている相続税の課税回避を防止するという基本的な機能を損なわないようにすることが肝要です。

3.地価税(略)(P.309)

4.固定資産税

(意義)(P.310)
  • 固定資産税は、土地、家屋及び償却資産という3種類の固定資産を課税客体とし、その所有者を納税義務者として、当該固定資産の所在する市町村が、当該固定資産の価値に応じて毎年経常的に課税する財産税です。
(負担の状況)(P.313)
  • 平成10年度における固定資産税の割合は、租税総額に対して10.4%、地方税総額に対して25.2%、市町村税総額に対して43.8%となっています。
(負担水準の均衡化)(P.315)
  • 平成6年度の評価替えにおいて、宅地の評価水準を全国一律に地価公示価格の7割を目途とすることとされましたが、それまでの評価水準のばらつきを反映して、負担水準(評価額に対する課税標準額の割合)が土地ごとに異なるという状況になりました。
  • これを是正するため、平成9年度の評価替えに伴い、負担水準の高い土地の税負担を引き下げる一方、低い土地はなだらかに引き上げていく措置が講じられ、負担水準の均衡化に向けた抜本的な取組みが始められました。
  • さらに、平成12年度の評価替えに伴い、特に最近の地価の下落傾向に伴う都市部の商業地等の税負担感に配慮し、負担水準の高い土地の税負担を更に引き下げつつ、負担水準の均衡化を一層促進する措置を講じることとされました。
(今後のあり方)(P.320)
  • 固定資産税は、どの市町村にも広く存在する固定資産を課税客体としており、また税源の偏りも小さく、地方分権の観点からも市町村税としてふさわしい基幹税目であり、その安定的確保が必要です。また、固定資産税に対する納税者の理解を深めていくためにも、負担の公平に向けた努力を行っていく必要があります。
  • 地価公示価格の7割を目途とする評価水準については、これによって全国的な評価の均衡が図られていることなどから、基本的にはこれを維持していくことが適当であると考えられます。
  • 平成15年度以降の固定資産税の税負担については、これまでの負担の均衡化・適正化の方向を基本に、同年度の評価替えの動向及び負担水準の状況や市町村財政の状況などを十分踏まえ、適切に対応する必要があります。

5.特別土地保有税(略)(P.320)

6.都市計画税(略)(P.323)

7.登録免許税(略)(P.326)

8.不動産取得税(略)(P.329)

9.印紙税(略)(P.331)

10.事業所税(略)(P.333)

五 国際課税

(国際課税の意義)(P.336)

  • 国境を越える経済活動に対する課税、すなわち国際課税の問題の中心は、他国の課税権との競合を調整(国際的な二重課税を排除)しつつ、一方で課税の空白を防止することにより、自国の課税権を確保することにあります。近年の経済活動の国際化等を背景に国際課税の問題がますます重要な課題となってきています。

(外国法人課税)(P.343)

  • 企業の事業形態の多様化を踏まえ、外国の多様な事業体の取扱いを含めた法人課税の対象について活動の内容などの実質的な基準により判断する税法上の認識ルールを作ることなどについて検討することが必要と考えます。

(二重課税の排除)(P.346)

  • 企業の外国での活動の多様化を踏まえ、外国税額控除の対象となる外国の税について明確化することが求められています。また、開発途上国との間の租税条約で認められることがある「みなし外国税額控除」については、課税の公平性といった基本原則などの観点から縮減・廃止に努めていかなければなりません。

(課税ベースの国家間調整)(P.349)

  • 企業の組織形態が多様化している中で、企業グループの国際的取引に係る各国の課税権の調整がますます重要になってきています。この点については、国内法上、移転価格税制などの仕組みが設けられ、租税条約に基づく相互協議やOECDにおける国際的なルール作りも行われています。移転価格税制については、サービスや無体財産に係る取引の急速な増加などに伴い、独立企業間価格の算定のあり方などの課題が生じており、適切かつ機敏に対応していくことが重要です。

(租税回避への対応)(P.352)

  • 国際化や情報化の進展は租税回避が行われる可能性を飛躍的に増加させていると考えられ、タックス・ヘイブン税制等の活用や執行当局による資料情報に対するアクセスの確保が一層重要になってきています。

(有害な税の競争への対応)(P.353)

  • 金融やサービスなどのいわゆる「足の速い」経済活動を外国から誘致するために税制上の優遇措置を設けることが、先進国も含めて国際的に広く行われることになれば、世界的な規模で課税ベースが浸食されるとともに、「足の遅い」労働や消費の税負担が相対的に重くなり税の公平性・中立性が著しく損なわれるおそれがあります。このような「有害な税の競争」への対応については、OECD等による国際的な取組みが重要です。

(国際的協調の必要性)(P.354)

  • 国際課税の問題への対処に当たっては、執行面も含めてOECD等を通じた国際的な協調の必要性が一層強く認識されるようになってきており、わが国としてもこれまでどおり国際的な議論に積極的に参加すべきです。

六 その他の諸課題

1.納税者番号制度(P.355)

  • 納税者番号制度は、適正・公平な課税の実現、税務行政の効率化・高度化、さらには、納税者の税制への信頼の向上にも資するものです。
  • 近年、番号利用の一般化、行政における全国一連の番号の整備、国際化・電子化の進展など、納税者番号制度をめぐる諸状況の変化が見られます。
  • 課税方式の議論との関連において、納税者番号制度の導入は、利子所得などを含めた総合課税化の前提条件となり、個人所得課税の課税方式の選択の幅を広げます。
  • タックス・コンプライアンス(税制への信頼と納税過程における法令遵守)の向上に寄与することが、納税者番号制度の重要なメリットであり、資料情報制度などの納税を支える他の諸制度のあり方とも併せて検討を行っていくことが必要です。
  • 納税者番号制度の導入時のコストは、民間・行政の双方で相当な規模となり、特に、民間において相当程度のコストが新たに生じることが避けられません。また、資金シフトなどの経済取引への影響を踏まえると、制度の対象範囲はできる限り広くすることが求められ、その分、コストは大きなものになります。
  • プライバシー保護の問題に関しては、民間における個人情報の不正売買などの危険性があり、今後の個人情報保護の基本法制の検討などの推移を見守っていく必要があります。不正アクセス防止の技術的方策などの検討も重要です。
  • 納税者番号制度は、国民生活全般に大きな影響を及ぼすものであり、その導入については、国民の理解と協力が不可欠です。したがって、制度の意義、様々な論点について、今後、国民の間で更に議論が深まることを期待するとともに、全国一連の番号の整備をはじめとした諸状況の進展を踏まえながら、その導入について検討を進めていく必要があります。

2.電子商取引と税制(P.367)

  • 公平・中立・簡素の租税原則が電子商取引にも適用されます。
  • 電子商取引には、一般の商取引とは異なる様々な特徴があり、課税上必要な取引把握の問題や、クロスボーダー取引(国境を越える取引)に係る所得課税・消費課税に関する問題について、OECDにおいて専門的・技術的見地から検討が行われています。
  • 今後とも、電子商取引の発展状況や実態の把握に努め、OECDにおける議論に積極的に参加していくとともに、国際的な議論の方向や成果を注視しつつ、公平・中立・簡素の租税原則を踏まえ、電子商取引をめぐる課税上の問題について検討していく必要があります。

3.環境問題への対応(P.370)

  • 様々な環境問題への対策としては、汚染者負担原則(PPP)を基本としつつ、それぞれの問題の性格に応じて、規制的手法、自主的取組み、経済的手法といった各種手法の特徴を踏まえた適切な組合せを考えていくことが必要です。地球温暖化問題など、排出源が多数存在し排出削減に向けた継続的なインセンティブが必要な問題については、税を含む経済的手法の有効性が指摘されています。
  • 検討に当たっては、まず環境施策全体の中での税制の位置付けが明確にされる必要があります。地球温暖化対策全体の具体的内容が検討される中で、税制以外の各種手法の活用に加えて、税制の活用の必要性について十分な議論が求められます。
  • 地球温暖化対策として化石燃料への課税について検討する場合、既存のエネルギー関係諸税との関係についてどう考えるかという議論があります。
  • 税収を特定財源等として活用することについては、税の基本的な考え方からすれば好ましくないと考えられます。一方、環境施策の財源調達手段として検討すべきとの意見がありました。
  • 国民に広く負担を求めることになる問題だけに、国民の理解と協力が得られることが不可欠です。当調査会としては、国・地方の環境施策全体の中での税制の具体的な位置付けを踏まえながら、国内外における議論の進展を注視しつつ、PPPの原則に立って、引き続き幅広い観点から検討を行っていきたいと考えます。

4.税務行政(P.377)

  • 適正・公平な課税を実現し、税制全体に対する国民の信頼を確保していくためには、執行面における適切な対応も重要です。
  • 今後の税務行政については、税務当局として申告水準の維持向上に取り組み、納税道義を高めていくことが引き続き重要です。税務行政の運営に当たっては、従来から国と地方公共団体との間での協力が行われていますが、今後ともこうした取組みを推進することが必要です。
  • 経済取引の国際化、複雑化などの環境変化に対応して、国民の信頼をより確かなものとしていくため、執行体制の整備を含め、税務行政における適切な取組みが必要です。
  • 電子申告制度については、コストを上回る効果を得られること、情報管理の安全性の確保によって納税者の信頼を保つこと、現在の申告水準を低下させないことという基本的な考え方に基づいて、導入に向けた検討を進めていくことが適当です。
  • 税務訴訟における立証責任については、諸外国の例や裁判例の今後の展開をも見ながら、そのあり方について検討していくことが適当です。
  • 官公署等の協力制度については、現行の制度が必ずしも実効性があがっていないとの指摘や行政情報公開への対応の進展を踏まえ、今後、制度を強化していくことが適当と考えます。また、その他の資料情報制度については、国際化や高度情報化という新たな状況においても必要な資料情報の収集が可能となるよう、不断の見直しが必要です。