税制調査会「わが国税制の現状と課題」(平成12年7月)を読んで

九州大学教授 伊東 弘文

  1. 文字通り「わが国税制の現状と課題」を包括的に整理したもので、「税制白書」「税制百科」と呼ぶにふさわしい。
    「第一 基本的考え方」「第ニ 個別税目の現状と課題」とも、全体として説得的であり、教示を得るところが大きかった。
  2. 「第一 基本的考え方」として、租税の基本的な機能は「財源調達機能」にあり、政府支出が効率的であることを前提として、この租税の機能が「十分」である(租税の十分性)ことが必要である。この点からみて「わが国財政は、ーーー公共サービスの(租税による)財源調達機能がきわめて不十分な状況」にある、という認識がベースになっている。この認識には、誰もと同じく、まったく賛同する。景気が回復しても、自然増収のみでは巨額の財政赤字の改善は困難である。租税の基本的機能である財源調達機能の回復が必要である。
  3. 財源調達機能を回復させるとき、税源配分論(および、それに基づく租税体系論)が欠かせないように思われるが、明示的には論じられていない。租税による財源調達は、財政需要を充足するために必要な機能であろう。そうであるとすれば、財政需要はどの政府次元でどのように発生しているのであろうか。どの次元の政府にどれだけの財政需要が発生し、これを充足するにいかなる税源を割り当てるかという税源配分に関する明示的な議論が必要ではなかろうか。逆にいえば、暗黙のうちに現行の税源配分が前提されたのであろうか。
  4. 財政需要に基づく税源の再配分を行うことは、より困難なみちの選択かもしれない。なぜなら、基本問題として、厚く普遍的な地方税源を見い出し、これに広く薄く課税し、それでもさけられない税源遍在を是正し財政調整を図るような「抜本改革」が必要とされるからである。しかし、事業税の外形標準課税化の提案は、実質的にこの方向にそうものと言えるかもしれない。