平成12年度の税制改正に関する答申

平成11年12月16日
税制調査会

目次

当税制調査会は、一昨年5月9日の総会において、内閣総理大臣から「21世紀へ向けて、わが国経済社会の構造変化や諸改革に対応した、望ましい税制のあり方について審議を求める」旨の諮問を受け、これまでに「平成10年度の税制改正に関する答申」及び「平成11年度の税制改正に関する答申」をとりまとめました。

この間、昨年4月に設置した「地方法人課税小委員会」では、地方の法人課税について、事業税の外形標準課税の課題を中心に検討を行い、本年7月に、小委員会報告を総会に提出・公表しました。また、昨年5月に設置した「基本問題小委員会」では、個人所得課税をはじめ、消費課税や資産課税の分野も含めた税制全般のあり方について、総会と連携をとりつつ、総合的な検討を進めています。さらに、本年7月には、「法人課税小委員会」を再開し、連結納税制度をはじめとする法人課税の課題について検討を進めているところです。

こうした状況の下、当面の課題である平成12年度税制改正について検討を行いました。

一 平成12年度税制改正をとりまく状況

1 最近の経済情勢等

平成11年度税制改正においては、景気に最大限配慮して、個人所得課税及び法人課税の恒久的な減税や住宅ローン減税などの実施を含め、国・地方を合わせ、平年度9兆円を超える過去最大規模の減税を実施しました。

わが国経済は、各般の政策効果もあって、実質経済成長率が本年度上半期に前期比 1.2%のプラス成長となるなど、最悪期を脱し、緩やかながらも回復に向かっていると思われます。

ただ、依然として、個人消費や設備投資などの民需の回復力は弱く、経済が自律的な回復軌道に乗ったと言える状況には至っていません。公需から民需へのバトンタッチを円滑に行い、本格的な景気回復を目指すために、引き続き、景気に配慮した政策運営が求められています。また、わが国将来の発展基盤を確立するための構造改革についても一層の取組みが求められているところです。このような状況の下、本年11月には、経済新生対策がとりまとめられました。

2 財政の状況

わが国財政は、景気回復に向けた諸施策に伴う歳出の増大や大幅な減税の実施もあって、公債依存度が43.4%(平成11年度第2次補正後)にもなるなど、極めて厳しい状況となっています。平成11年度末の国債残高は 335兆円に、国及び地方の長期債務残高は 608兆円(平成11年度名目GDP見通し 496兆円の 1.2倍)に、それぞれ達すると見込まれるなど、わが国財政は危機的状況に至っており、主要国との比較で見ても最悪の状況にあります。

国税収入は、平成10年度決算において、景気の低迷や特別減税の実施などにより、昭和62年度以来、11年ぶりに50兆円を下回りました。平成11年度税収は、恒久的な減税の実施などにより、平成10年度をさらに下回り、一般会計の歳入に占める税収の比率は、51.3%と第二次大戦直後以来の極めて低い水準となっています。

現在の歳出と歳入の大幅なギャップをいつまでも放置することはできません。歳出の抑制に努めることはもちろん、歳出・歳入の両面にわたる財政構造改革は避けて通れない課題であり、景気が本格的な回復軌道に乗った段階において、21世紀のわが国経済社会のあるべき姿を展望し、根本的な視点に立って必要な措置を講じなければならないと考えます。

地方財政についても、平成11年度末における借入金残高は 179兆円に達する見込みであり、公債費負担比率が警戒ラインを超える団体が6割以上となるなど、極めて厳しい状況が続いています。地方財政上の諸課題についても幅広く確実な取組みが必要であり、地方公共団体自らも、引き続き歳出削減などの行財政改革を積極的に推進することが求められます。

3 将来の税制改革に向けての検討状況等

(1) 当調査会は、各年度の税制改正を通じ、少子・高齢化の進展や国際化などの経済社会の構造変化等に対応して、国税・地方税を通ずる税制全般にわたる見直しに取り組んできました。最近の約10年を振り返ると、消費税の創設をはじめ、個人所得課税、法人課税についても抜本的な改正が行われてきているなど、税制の姿は大きく変化してきています。

また、近時、特に個人所得課税については、課税最低限のあり方など様々な問題点が指摘されています。税率構造や各種控除のあり方などをはじめとして個人所得課税全体についての抜本的な見直しが必要であり、これに適切に対応していく必要があります。今後、さらに経済社会の構造変化の進展に対応していくためには、個人所得課税のみならず、消費課税や資産課税をも含めた税制全般について検討していくことが必要です。

(2) このため、当調査会としては、基本問題小委員会を設置し、個人所得課税をはじめ、消費課税や資産課税をも含めた税制全般の今後のあるべき姿について検討を進めています。また、法人課税のあり方については、法人課税小委員会を再開し、連結納税制度等の諸課題について検討を行っています。

当調査会としては、こうした検討を進め、21世紀のわが国経済社会を展望しながら、今後の税制のあるべき姿についての考え方を国民に示していく必要があると考えています。シャウプ勧告から50年が経過した今、これからの少子・高齢化の進展やストック化、国際化・情報化などの経済社会の構造変化に税制がどのように対応していくか、租税の果たすべき機能をどのように考えるかといった幅広い観点をも踏まえつつ、さらに議論を深めていきたいと考えています。

(3) 少子・高齢化の進展に伴い、今後、急速に増加することが見込まれる社会保障給付の財源に充てるため、消費税を福祉目的税化すべきとの議論があります。

平成11年度予算においては、消費税収(地方交付税分を除く国分)を基礎年金、老人医療及び介護に充てることを予算総則に明記する、いわゆる「福祉目的化」が行われました。この結果、平成11年度当初予算では、一般会計税収のうち使途が特定されていない分が23.0兆円(所得税、法人税、酒税及びたばこ税の収入から地方交付税分を差し引いた分並びに相続税、印紙収入等)であるのに対して、これによって賄うべき歳出は2倍以上の54.1兆円であり、不足分は公債発行に頼っています。こうした財政の現状にかんがみると、消費税収(国分)の使途を福祉目的に限定していく場合、それ以外の歳出の規模と消費税以外の税収とをどのようにバランスさせていくのかということが大きな課題となります。

消費税を福祉目的税化するということは、予算総則による「福祉目的化」の場合と異なり、消費税の使途を制度的に福祉目的に特定することを意味していると考えられます。当調査会においては、消費税は、今後、わが国の税財政にとってますます重要な役割を果たすべき基幹税であること、目的税化は財政の硬直化を招くおそれがあること、さらには、諸外国においても消費税等を目的税としている例は見当たらないことなどから、消費税を福祉目的税とすることについては、慎重に検討すべきであるとの意見が多数ありました。

他方、将来の税財政のあり方を考える上で、消費税の充実が必要であるとすれば、福祉目的税化も検討に値する考え方であり、その是非について十分な議論を行うことが必要であるとの意見がありました。また、仮に、敢えて福祉目的税化を行う場合には、将来世代へ負担を先送りせずに社会保障給付の増加と消費税負担との対応関係を明確にしていくのでなければ、その意義は見出せないのではないかなどの指摘がありました。

いずれにしても、この問題は、税制、財政及び社会保障のあり方に深く関わるものであり、今後、社会保障制度のあり方等についての検討を踏まえつつ、国民的な議論が行われるべきものと考えます。

なお、最近の経済情勢等を背景として消費税の滞納発生が増加していますが、税制への信頼を確保するためにも、政府全体として取り組むことを求めます。

(4) 児童手当のあり方との関連で、個人所得課税の扶養控除を整理してはどうかという議論があります。当調査会は、これまで、控除制度について、経済社会情勢に応じ、その整理・合理化を検討していく必要があると指摘してきたところであり、基本的には個人所得課税の抜本的な見直しの中で、引き続き検討すべき課題です。

4 地方分権の推進と地方税財源

平成11年の通常国会において、「地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律」が成立し、従来の機関委任事務を廃止するなど新たな国と地方との関係が構築されることとなりました。同法においては、附則に、国と地方公共団体との役割分担に応じた地方税財源の充実確保について検討すべき旨の条項が追加されました。地方税財源の充実確保については、今後の課題として検討していくことが必要です。

地方分権の進展に応じて、地方公共団体が自主的・自立的な行財政運営を行えるようにするためには、財政面における自己決定権と自己責任を確立することが重要であり、そのため、地方における歳出規模と地方税収の乖離を縮小する観点に立って、課税自主権を尊重しつつ、地方税の充実確保を図ることが必要です。今後、国庫補助負担金や地方交付税など他の財源のあり方と関連させながら、地方税の充実確保の方途について検討していくことが適当と考えます。

二 平成12年度税制改正

1 基本的考え方

(1) 平成12年度税制改正においては、以上のような状況を考慮すれば、まず、景気を本格的な回復軌道に乗せていく上での配慮が求められています。また、経済の国際化に伴う企業経営の環境変化など、わが国経済社会の変化に適切に対応することも求められているところです。

今後、税制全般にわたる抜本的な見直しが必要とされていることを考慮すれば、平成12年度税制改正に当たっても、その妨げとならないよう、今後のあるべき税制の姿を見据えた上での検討が行われなければなりません。加えて、わが国財政が深刻な状況にあることにも、特に留意する必要があります。

(2) 景気への配慮については、平成11年度税制改正において、個人所得課税及び法人課税について6兆円を相当程度上回る恒久的な減税を実施し、これが継続していることに留意する必要があります。また、本年11月に政府がとりまとめた経済新生対策においては、税制に関し、中小企業・ベンチャー企業支援に資する措置、民間投資の促進に資する措置等について検討することとされていますが、これらについては、政策税制として真に有効な措置について適切に対応することが適当です。

2 法人課税

(1) 法人課税の検討課題

法人課税の実効税率については、平成10年度に引き続き、平成11年度においても引下げが行われ、この2年間で 49.98%から 40.87%へと10%ポイント近く引き下げられました。平成10年度においては課税ベースの拡大が行われましたが、平成11年度の税率の引下げに際してはその検討が行われなかったこともあり、法人課税の課税ベースの問題については、引き続き、その適正化に向け、取り組んでいくことが必要です。

近年、わが国企業の経営環境が変化する中で、経済の国際化に対応し、企業活力が十分発揮できるよう、企業会計において大幅な見直しが行われるとともに、企業再編のための法制面の整備が行われ、会社分割法制の導入に向けた検討も進められています。このような状況の下、税制についても適切な対応が求められており、企業の経営形態・規模に対する税制の中立性にも配意しつつ、会社分割に係る税制や連結納税制度について、その導入に向けた検討を進める必要があります。

また、地方分権を支える安定的な地方税源の確保や応益原則による税負担の公平性の確保等の観点から、法人事業税への外形標準課税の導入を目指して、引き続き具体的な検討を進める必要があります。

(2) 時価法等

銀行、証券会社等の金融機関が行うトレーディング業務の対象となる有価証券やデリバティブ等については、銀行法等が改正されたことに併せて、税制上も時価評価が導入されました(平成9年度及び平成11年度税制改正)。さらに、平成12年4月には、企業会計において、金融商品に対する時価評価の導入が予定されています。

売買目的の有価証券やデリバティブ等については、その特質に照らせば、時価評価を行うことによって、法人の各事業年度の活動成果を的確に所得に反映させることができることになります。また、デリバティブの利用により、損益の発生時期を容易に選択し得るとの問題も指摘されてきたところです。したがって、所得を的確に捉える観点から、法人税においても、金融商品に対する時価評価を導入することが適当であると考えます。

なお、企業会計において、デリバティブがヘッジ手段として用いられている場合には、その評価損益等とヘッジ対象資産の損益とが相殺されるように対応させ、同時期にその損益を計上することになりますが(いわゆる「ヘッジ会計」)、税制の観点からも、同様の取扱いとすることが適当と考えます。

また、上場有価証券の評価については、現在、低価法が認められていますが、この取扱いは保守的に過ぎるのではないかと指摘されてきたところであり、評価益と評価損を同様に取り扱う時価法の導入を機に、低価法を廃止することが適当と考えます。

(3) 会社分割

現在、会社分割制度を導入するための商法改正が検討されています。会社分割に関する商法の規定が整備される場合には、これに対応して、会社分割に係る税制上の取扱いについて検討する必要があります。その際、株主及び会社債権者の利益の保護を目的とする商法と適正課税の実現を目的とする税法との違いにも留意しつつ、税制の観点から十分な検討が必要です。

また、会社分割に係る税制の検討に当たっては、商法における会社分割法制の内容や会社の資産及び負債の分割の際の取扱いの詳細、さらには、企業会計における会計処理の詳細が明らかにされることが前提になると考えます。税制上の論点としては、合併・現物出資等の資本等取引と整合性のある課税のあり方をどのように確保するか、資産、負債や資本をどのように引き継ぐか、さらには所得税や法人税を通ずる株式譲渡益課税やみなし配当課税をどのように考えるかといった問題があります。

なお、会社分割の形態や方法は極めて多様となることが予想され、税制の信頼性を確保する観点からも、租税回避の手段として利用される制度とならないよう留意する必要があります。

会社分割に係る税制については、以上のような論点を含め、商法や企業会計の検討の動向などを見極めつつ、法人課税小委員会において、その具体的な対応を検討することとしています。

(4) 連結納税制度

連結納税制度については、後に述べるように、法人課税の体系全般に及ぶ検討が必要であることから、法人課税小委員会を再開し、検討を開始しました。先般、連結納税制度を検討するに際しての主要検討項目をとりまとめたところです。

最近の企業経営をみると、企業集団の一体的経営の傾向が強まっています。また、法制面でも、独占禁止法において持株会社の設立が原則として解禁されたこと、商法において会社分割法制の導入が検討されていることなどの動きが見られます。こうした中で、企業の経営環境の変化に対応する観点や国際競争力の維持・向上に資する観点、さらには企業の経営形態に対する税制の中立性を図る観点から、わが国においても、連結納税制度の導入を目指し、鋭意検討を進めることが適当と考えます。

諸外国で導入されている企業集団に着目した税制を見ると、いくつかの類型があります。わが国に連結納税制度を導入するための具体的な検討を行うに当たっては、まず導入すべき類型を検討する必要があります。その類型については、米国などのような連結納税型と、英国のような損益振替型に区分することができます。このうち、英国の損益振替型の制度は、連結対象や振替額を任意に調整することが可能であり、企業集団の一体性に着目した制度ではありません。わが国に、企業集団に着目した新たな税制を導入するに当たっては、個々の企業の自立を促しつつ、企業集団の経済的一体性に着目して制度を構築するという理念の下、企業の経営形態に対する税制の中立性の観点などを踏まえ、米国において導入されているような本格的な連結納税型の制度を導入することが適当と考えます。

そのような本格的な連結納税制度は、個々の法人を課税単位としているわが国の法人税体系に新しい法人税体系を導入するものであり、個々の法人を単位として課税する現行の法人税体系との整合性を確保するためには、次のような多岐にわたる項目についての検討が必要と考えます。

  • 納税義務、申告、納付等
    (納税義務者等、申告、納税額の分担方法、適用要件、事業年度、会計方法、青色申告要件、帳簿の作成・保存等、罰則の取扱い、解散・合併)
  • 連結課税所得の各種所得計算規定等
    (基本的仕組み、単体課税を前提とした各種計算規定の取扱い、内部取引に係る損益、繰越欠損金等、投資修正、連結税額の計算、加入・離脱の場合の課税関係の継続性)
  • 租税回避行為の問題
  • 税収減の問題
  • 他の税との関連
  • 地方税の問題

連結納税制度を導入するに当たっては、国際的にも遜色のない、21世紀のわが国の法人税制としてふさわしい制度を構築する必要があり、このため、法人課税小委員会において、検討を深めていくこととしています。

(5) 外形標準課税

昨年4月に、当調査会において、地方法人課税のあり方を本格的に検討するために、地方法人課税小委員会を設置し、企業課税としての地方の法人課税のあり方について、法人事業税への外形標準課税の導入の課題を中心に審議を重ねました。本年7月に、地方法人課税小委員会は、外形標準課税の意義、望ましい外形基準のあり方とその4つの類型、改革に伴う諸課題等を内容とする報告をまとめました。

小委員会報告にもあるように、外形標準課税の導入は、地方公共団体の税収の安定化を通じて地方分権の推進に資するものです。また、応益課税としての税の性格の明確化につながるとともに、地方団体の提供する行政サービスによって受益を得ている法人が薄く広く税を分担することを通じて、税負担の公平化につながることとなります。さらに、経営努力等により利益のあがっている企業の事業税負担が相対的に軽減され、法人全体で薄く広く税負担を分かち合うことにつながることから、より多くの利益をあげることを目指した事業活動を促し、経済の活性化、経済構造改革にも資するものと考えます。

このように、外形標準課税の導入は、地方税のあり方として望ましい方向の改革であり、景気の状況等を踏まえつつ、できるだけ早期にその導入を図ることが望ましいと考えます。

そのため、望ましい外形基準として、小委員会報告に示された4つの類型(事業活動価値(仮称)、給与総額、物的基準と人的基準の組合せ、資本等の金額)を中心に、具体的な課税の仕組みや外形標準課税の導入に伴う税負担の変動、中小法人の取扱い、雇用への配慮、適切な経過措置など導入に当たっての諸課題等について、当調査会として、引き続き、導入に向けた具体的な検討を進めていくこととします。

また、このような具体的な検討を進めることを通じ、外形標準課税の導入に関して、都道府県や納税者である法人など関係者における活発な議論が行われ、国民の理解が一層深まるよう努める必要があると考えます。

なお、関連して、個人事業税における課税対象事業のあり方等について、今後、検討すべきではないかとの意見がありました。

(6) その他

法人課税の議論の中で、同族会社の留保金課税制度について、個人所得課税の最高税率が引き下げられ法人課税の実効税率との較差が縮小したことから、これを廃止すべきではないかとの意見がありました。これに対しては、留保金課税は、事業の法人形態と個人形態のバランスの観点から設けられている制度であり、現在の個人所得課税、法人課税の制度を前提とする以上、今後とも必要な制度と考えます。留保金課税制度については、中小企業対策の面から何らかの配慮が必要ではないか、法人形態と個人形態のバランスの問題については、留保金課税だけでなく、幅広い見地から検討すべきではないかとの意見がありました。

3 相続税

(1) 相続税については、当調査会としては、平成11年度答申において、相続税には富の再配分機能のほか、所得税の補完税としての役割があり、今後、個人所得課税の抜本的見直しとの関連において、税率構造や課税ベース等について幅広く検討を行うことが適当であるとの考え方を示しました。こうした考え方は、基本的に維持すべきものと考えます。

(2) 相続税に関しては、中小企業の事業承継の問題が議論されました。この問題については、事業の次世代への円滑な承継が事業者の経営意欲を高め、中小企業の活性化につながるのではないかという意見がある一方、事業承継に配慮することは、自ら起業する者と事業を承継する者との機会の均等を欠き、効率性を損なうこととなるのではないかとの意見がありました。また、事業承継を困難にしている要因は、相続税の問題ではなく民法の相続制度等の問題にあるのではないかなどの指摘もありました。

個人事業主の事業用の土地については、平成11年度税制改正において小規模宅地等の特例が拡充されたため、現在、事業承継の主な障害になっているのは取引相場のない株式の評価が高すぎることではないかとの意見がありました。

取引相場のない株式の評価については、これまでもその適正化に努めてきたところですが、経済社会の変化に応じて、より実態に即した適正な評価を行うとの考え方に基づいて見直すことが適当であると考えます。

(3) 相続税の最高税率については、個人所得課税の最高税率の引下げが行われたことなどから、これを速やかに引き下げるべきではないかとの意見がありました。

現行の相続税の最高税率は、個人所得課税の最高税率との較差が大きく、諸外国の例に比しても相当高い水準にあることにかんがみれば、これを引き下げる方向で考えていくことは適当と考えます。

ただ、最高税率については課税ベース等とともに税率構造全体の見直しに際して検討することが適当であるとの考え方と、諸般の観点から最高税率に限っては当面の措置として引き下げることが適当であるとの考え方とがありました。なお、最高税率の引下げについては、消極的な意見もありました。

相続税については、国際化などの経済社会状況の変化への対応も求められており、税制の信頼を高める観点から、海外への資産移転による租税回避行為の防止などについても必要な措置を検討する必要があります。

(4) 今後、相続税についての全般的な見直しを行うに当たっては、ストック化の進展や同世代間の機会の平等といった観点を考慮すべきではないか、個人所得課税がフラット化する中で相続税の富の再配分機能を維持すべきではないかとの指摘がありました。

4 年金税制

(1) 少子・高齢化の進展や将来の社会保障制度のあり方の議論を背景に、年金については様々な動きや議論があります。わが国の年金に係る税制については、基本的には、掛金の拠出は社会保険料控除により全額課税ベースから除外されており、その給付も公的年金等控除や老年者控除によって実質的に課税ベースから除かれています。年金税制や高齢者に対する税制については、拠出、運用、給付の各段階において、適正に、かつ、全体として整合的に課税が行われるよう見直しを行う必要があります。また、年金税制との関連で退職金に係る税制についても議論する必要があります。

(2) 企業年金及び個人年金に係る課税をめぐる検討においては、昨年に引き続き、確定拠出型年金に係る課税のあり方について議論が行われました。

確定拠出型年金制度については、老後のための資産形成、雇用形態の多様化・流動化への対応や企業年金をめぐる環境の変化への対応といった観点、あるいは資本市場の発展に資する等の見地から、税制上の優遇措置を講ずるべきとの意見があります。

しかしながら、同制度については、年金としての性格や年金制度全体の中での位置付けについての議論が熟していないのではないかとの意見や、高額所得者優遇になることや年金の資産運用に関するリスクを企業から従業員に移転させるという面があることから、これに税制上の優遇措置を講じて奨励することは適当ではないのではないかとの意見がありました。また、拠出が任意で、かつ、本人の意思により運用の選択が可能であることなどから貯蓄性の高い金融商品であり、そのような特定の金融商品について特別な優遇措置を講ずることは、これまでマル優の廃止等の貯蓄課税の適正化を行ってきたことに反するのではないか、個人消費の拡大といった当面の経済運営の考え方にも反するのではないかとの意見がありました。さらに、年金税制との関係では、そもそも現行の年金税制の見直しが必要とされている中で、さらに問題点を拡大することには慎重であるべきではないかとの意見がありました。

なお、企業拠出は給与の後払い、あるいは退職金の積立てとしての性格を有するのに対し、従業員拠出は所得の任意処分であり、すなわち貯蓄としての性格を有するという両者の違いに着目して対処すべきではないかとの指摘がありました。

また、現行の年金制度では老後の生活に十分に対応できない者に対して、自らの所得の一部を年金として積み立てる補完的な制度を導入することには意義があり、その場合には、税制上の対応を考えてもよいのではないかとの指摘がありました。

確定拠出型年金として導入が検討されている新たな制度について税制面での対応を行う場合には、現行の年金税制の現状と問題点、貯蓄課税の適正化の流れ等を踏まえつつ、適正・公平な課税の確保の観点から適切に対応していくことが必要です。

5 固定資産税

(1) 固定資産税は、税源の普遍性に富み、市町村税として最もふさわしい基幹税目であり、その安定的確保が必要です。また、固定資産税に対する納税者の理解を深めていくためにも、負担の公平に向けた努力を行っていく必要があります。

平成6年度の評価替えに際して導入された地価公示価格の7割を目途とする評価水準については、これによって全国的な評価の均衡が図られていることなどから、基本的にはこれを維持していくことが適当であると考えられます。

(2) 固定資産税については、地価の下落が続いている中で税負担が上昇している場合があることを問題視する意見がありました。これについては、現在、地価の水準に比べて著しく低かった評価を適正化したことにより表面化した税負担のばらつきを是正している過程にあり、税負担の動きと地価動向とが一致しない場合があることはやむを得ないので、当面は税負担の均衡化を進めていくことが重要であるとの意見がありました。

(3) 平成12年度以降の固定資産税の税負担については、これまでの負担の均衡化・適正化の方向を基本に、同年度の評価替えの動向及び負担水準の状況や厳しい市町村財政の状況等を十分踏まえ、適切に対応する必要があると考えます。

(4) 固定資産税の税率に関して、地方分権の趣旨から、市町村が自らの判断で税率を決定していくことが重要であるとの意見と、現在進められている負担の均衡化がある程度図られた段階で本格的に議論すべき課題であるとの意見がありました。

また、税負担の調整措置をできるだけ簡素なものにすべきであるとの指摘や、固定資産税の土地の評価についてさらに透明性を高めるべきであるとの指摘などがありました。

6 金融税制

(1) 平成13年4月1日をもって、上場株式等に係る譲渡所得等の源泉分離選択課税制度が廃止され、申告分離課税に一本化されることとなっています。これは、平成11年度税制改正において、有価証券取引税等の廃止に併せ、源泉分離課税を廃止することにより、国・地方を通じた課税の適正化を図ったものです。

申告分離課税への一本化に当たっては、これまで源泉分離選択課税制度の下で申告納税になじみのなかった投資家も、売却価額から取得価額等を差し引いた所得金額を自ら計算し申告しなければならないことになります。納税者自らが所得を計算して申告を行うことは申告納税制度の本旨に則したものでありますが、投資家の一部には、申告についての不安が見受けられるとの指摘があり、制度の円滑な定着のためには、こうした投資家の不安を取り除くことが重要です。特に、取得価額については、投資家自らがその把握に努めることが必要ですが、その方法としては、取引報告書の保存があればそれによることはもとより、そうした書類がない場合にも、様々な資料や方法により合理的に把握することができればそれによることも可能です。制度の円滑な移行に向けて、政府に対し、取得価額の把握方法や申告納税の手続等について十分な広報を行うことを求めます。

なお、株式等譲渡益課税については、税率や課税方式を他の金融商品等との関係も含め議論すべきではないかとの意見がありました。

株式等譲渡益課税に関連して、中小企業・ベンチャー企業支援措置の一環として、いわゆるエンジェル税制の拡充が議論され、株式の譲渡損失を他の所得と通算できるようにすべきとの意見などがありました。中小企業・ベンチャー企業支援のために税制としても適切に対応していくことが要請されていますが、株式の譲渡益に対しては分離課税により一律の税率が適用されていることから、株式の譲渡損失について総合課税により累進税率が適用される他の所得との損益通算を認めることは、譲渡益と譲渡損失との取扱いにバランスを欠くことになり、現行のわが国の個人所得課税の基本的な考え方になじまないと考えられます。なお、損益通算の問題は、課税方式等の問題と併せ、個人所得課税の抜本的見直しにおける検討課題と考えます。また、わが国の個人金融資産の多くを高齢者層が保有していることに着目し、これを資金ニーズの高いベンチャー企業への資金供給につなげるという見地から税制を検討することも必要ではないかという意見がありました。

(2) 現在、不動産の一層の流動化等を図り、より多様な金融商品の組成を可能とするため、対象資産の範囲の拡大や信託型の導入などにより、SPC(特定目的会社)や証券投資法人を含め、金融商品の組成に関する横断的な集団投資スキームを整備することが検討されています。これらの集団投資スキームは、法人(SPC及び証券投資法人)、信託、組合等の様々な形態を利用して組成することができますが、その事業や投資活動の内容、法的性格、投資家とスキームとの関係などを踏まえ、スキームの整備に併せて、適切な課税が行われることが必要と考えます。

(3) 金融税制については、累次の答申で指摘してきているように、非課税貯蓄、課税繰延べ、生損保控除といった課題についても、引き続き適正化に向けて努力する必要があります。

7 租税特別措置等の整理・合理化

(1) 租税特別措置・非課税等特別措置については、累次の答申で指摘してきたように、特定の政策目的を実現するための政策手段であって、税負担の公平・中立・簡素という税制の基本理念の例外です。租税特別措置については、課税の適正化の観点から、政策目的が合理的か、政策手段として妥当か、利用の実態が低調となっていたり、一部の者に偏っていないかなどの点について十分吟味を行い、引き続き整理・合理化を行うことが適当です。

(2) 事業税における社会保険診療報酬に係る課税の特例措置についても、税負担の公平を図る観点から、その見直しを検討することが必要です。

8 その他

個人住民税については、最近における国民生活水準の動向等との関連を踏まえて、低所得者層の税負担に配慮するため、現行の所得割及び均等割の非課税限度額を見直すことが適当です。

三 その他

1 環境問題への対応

地球温暖化問題をはじめ、環境問題への関心が年々高まってきており、これに対する総合的な取組みの一環として、税制面からの対応についても検討を行うことが求められています。

個人の消費活動や企業の生産活動は、二酸化炭素等の排出など様々な面で環境に対して好ましくない影響を及ぼしていますが、そのために生ずる社会的費用は汚染者が負担するという原則が国際的にも広く確立しています。これは、環境への負荷により生ずる社会的費用を、製品やサービスの価格等に反映させることなどにより、環境負荷の原因者に対して負担を求めるという考え方です。税制面での対応を検討する場合にも、この原則を基本とすべきと考えます。

当調査会としては、今後の税制のあり方の検討の中で、環境関連税制についても、国内外における議論の進展を注視しつつ、国・地方の環境施策全体を視野に入れた幅広い観点から検討を行っていきたいと考えます。

2 NPO法人に対する税制

市民によるボランティア活動をはじめとする自由な社会貢献活動を行う団体(いわゆるNPO)に法人格を付与して支援する「特定非営利活動促進法」(NPO法)が平成10年12月1日に施行されました。NPO法人制度については、同法附則等において早期に見直すこととされており、税制面での配慮も求められています。

現在、NPOによる法人格の取得が進んでおり、どのような団体がNPO法人としての資格を取得するのか、どのような活動が展開されるのかが、今後明らかになっていくと考えられますので、まずはその実態を見極める必要があります。

NPO法人制度は、そもそも公の関与からなるべく自由を確保するという制度となっていますが、一方、寄付に対して優遇措置を設けることについては、それにふさわしい公益性を判断する基準が必要とされ、また、その公益性が確保される仕組みが必要とされます。なお、諸外国においてもそのような基準や仕組みが備わっているところです。

また、NPO法人に対する税制の問題は、寄付金控除制度や公益法人税制のあり方、さらには補助金制度のあり方などにも関連する問題であることに留意する必要があります。

NPO法人に対する税制上の措置については、その実態を見極めた上で、公益性の基準やそれを確保するための仕組みをどのようにするかを含め、広範な観点から検討していくことが必要です。

3 納税者番号制度

納税者番号制度については、当調査会において現在議論されている総合課税・分離課税等の課税方式のあり方や、利子・配当、株式等譲渡益をはじめとした金融課税全体の議論と関連した検討を続けていく必要があります。加えて、国際的な資金移動の活発化やマネー・ローンダリングへの取組みの進展にも留意が必要です。また、納税者番号制度に関して従来より指摘されてきた経済取引への影響、民間及び行政のコストと効果、プライバシーの保護等の問題に加えて、タックス・コンプライアンス(税制への信頼と納税過程における法令遵守)という納税者の立場に着目した観点からの検討も重要です。こうした視点から、資料情報制度等、納税環境の整備に関わる様々な制度のあり方と併せ、議論を深めていくことが必要です。

なお、「住民基本台帳法の一部を改正する法律」が本年8月に成立し、住民票コードという番号を用いた住民基本台帳ネットワークシステムが今後3年以内に導入される運びとなりました。国民を広くカバーする一連の番号としては、現在基礎年金番号がありますが、新しく住民票コードも加わることとなります。こうした状況も踏まえ、必要とされる付番のあり方等について、引き続き、検討を進めていく必要があります。

税制調査会委員等名簿

本答申の審議に参加した委員及び特別委員は、次のとおりである。

委員 特別委員
 榎本 庸夫石 弘光
大澤 雄三 岩瀬 正
大田 弘子 神田 秀樹
加藤 寛 幸田 正孝
 栗田 幸雄河野 光雄
 神津 カンナ佐野 正人
 小長 啓一 高梨 昌芳
 今野 由梨 橋本 俊作
 笹森 清松田 英三
島田 晴雄 松永 真理
竹内 佐和子柳島 佑吉
 田中 直毅 吉田 文一
津田 正 
 中西 真彦
 塙 義一
 平田 公敏
本間 正明
 松浦 幸雄
松尾 好治
 松本 和夫
松本 作衞
水野 忠恒
水野 勝
 宮島 洋
 森下 洋一
森田 明彦
 諸井 虔
 吉永 みち子
 和田 正江

なお、中村仁が途中辞任し、松田英三がこれに代わり委員に委嘱された。

(〇印を付した委員及び特別委員は、臨時小委員会に所属した委員及び特別委員である。)