「地方法人課税小委員会報告」要旨

一 地方法人課税に係る改革の必要性

<地方法人課税の課題>

  • 個性豊かで活力に満ちた地域社会の実現を図るために、地方分権を推進することが重要な課題となっており、地方団体の自己決定権と自己責任を拡充し、受益と負担の対応関係をより明確化する観点から、地方税の充実確保が求められている。
  • 薄く広く税負担を分担する仕組みに改革することを通じて、経済の活性化を促し、活力ある社会を築いていくことが重要な課題となっている。
  • 法人事業税への外形標準課税の導入については、近年、これらの状況を踏まえて、その検討の必要性が特に高まっている。

<地方法人課税小委員会の位置づけ>

  • 企業課税としての地方の法人課税のあり方について、専門的、理論的な検討を進めた。
  • 法人事業税の仕組みの検討に当たっては、これまでの所得基準による課税の下での税収規模が大きく変化するようなことは前提としなかったが、法人事業税の税収規模は、今後の地方財政の状況や法人の税負担のあり方等を踏まえつつ、議論していくべきものと考える。

<諸外国の状況>

  • 諸外国における外形基準による地方法人課税の例をみると、地方団体の行政サービスに対する費用をサービスの受益者となる企業が分担するという点が、各国に共通した考え方となっている。
  • 諸外国における課税標準のあり方等は非常に多様であるが、これは、各国ごとの社会経済や歴史などを背景として作り上げられたものであり、我が国でも、これまでの経緯や地方団体の役割などを踏まえて、我が国の実情に相応しい外形標準課税のあり方を検討することが適当である。

二 外形標準課税の意義

<地方分権を支える安定的な地方税源の確保>

  • 地方の行政サービスは、安定的に供給されることが必要であり、地方団体がその責任を十分に果たすためには、自主財源の根幹をなす地方税は、できるだけ安定的で、変動の少ないものであることが望ましい。
  • 法人事業税への外形標準課税の導入は、税収の安定性を向上させるとともに、地方税としての自主性を高めることとなり、地方分権を支える地方税体系の構築に重要な役割を果たす。

<応益課税としての税の性格の明確化>

  • 法人事業税は、法人の事業活動と地方の行政サービスとの幅広い受益関係に着目して事業に対して課される税であることから、その課税標準は、法人の事業活動の規模をできるだけ適切に表すものであることが望ましい。
  • 所得を課税標準とする現行の法人事業税は、事業活動の規模との関係が適切に反映されず、本来の応益課税の性格から見て望ましいあり方になっていないことから、外形標準課税の導入は、税の性格の明確化を図る観点からも、大きな意義を有する改革となる。

<税負担の公平性の確保>

  • 全法人の6割を超える法人が欠損法人となっているが、課税標準に外形基準が導入されれば、欠損法人を含め、各法人が事業活動規模に応じて税を負担することとなり、応益原則による地方税の負担をより公平に分担する税制の構築につながる。

<経済構造改革の促進>

  • 外形標準課税の導入は、所得に係る税負担を相対的に緩和することとなり、より多くの利益をあげることを目指した事業活動を促し、企業経営の効率化や収益性の向上に資すると考えられ、経済構造改革に資することが期待できる。

三 望ましい外形基準のあり方

  • どのような外形基準を用いてどのような課税の仕組みを構築することが望ましいか、納税者の視点を十分踏まえながら検討した。

<基本的な考え方>

(1) 事業活動規模との関係、普遍性、中立性

  • 事業活動の規模をできるだけ適切に表すとともに、特定の地域や業種の法人に偏って存在する指標でなく、多様な法人に普遍的に見られる基準であること、さらには、企業の経済活動に対して中立的な基準であることが望ましく、また、課税標準の安定性も重要な条件である。

(2) 簡素な仕組み、納税事務負担

  • 税制として簡素でわかりやすく、また、法人の通常の会計処理や他の税の納税のために既に行っている作業の中で把握できることや既存資料が活用できることなど、納税者の事務負担が小さいといった点に十分配慮する必要がある。

<外形基準の四つの類型>

  • 法人事業税において導入を図ることとする場合に望ましいと考えられる外形基準として、下記の四つの類型について検討を行った。

(1) 事業活動によって生み出された価値

  • 法人の事業活動の規模は、その事業活動によって生み出された価値の大きさという形で把握することが可能と考えられる。
  • その算定は、生産要素である労働、資本財及び土地への対価として支払われたものが当該価値を構成すると考えられることから、法人の各事業年度における利潤に、給与総額、支払利子及び賃借料を加えることによって行うことができる。(以下「事業活動価値」(仮称)という。)
  • 事業活動価値は、法人の人的・物的活動量を客観的かつ公平に示し、各生産手段の選択に関して中立性が高い課税標準となると考えられる。
  • 事業活動価値を課税標準とする場合には、基本的には、法人事業税全体をこれによって課税する仕組みとすべきと考えるが、当面の経過的な措置として、所得基準による課税と併用することが考えられる。

(2) 給与総額

  • 給与総額は、事業活動価値の概ね7割を占めていることから、人的活動量のみでなく、事業活動の規模を相当程度反映していると評価でき、実務上の簡便性もあると考えられる。
  • 給与総額のみを法人事業税の課税標準とするよりも、所得基準による課税と併用することが適当と考える。
  • 給与総額による課税と所得基準による課税とを併用することとした場合には、事業活動価値による課税に近似する仕組みとして性格付けることができる。

(3) 物的基準と人的基準の組合せ

  • 給与総額に物的基準を組み合わることにより、物的側面と人的側面の両面から、事業活動の規模をより適切にとらえられるのではないかとも考えられる。
  • 物的基準としては、事業所家屋床面積のほか、事業用資産(家屋及び償却資産)の価額や、各事業年度の事業活動に用いられた資産に相当するものとして、それらの資産の減価償却費を用いることも考えられる。
  • この場合にも、所得基準による課税と併用することが適当と考える。

(4) 資本等の金額

  • 資本等の金額(資本金と資本積立金の合計額)に着目した簡素な課税の仕組みとして、事務所数や従業者数を加味しながら、資本等の金額の大きさに応じた階層区分ごとに税額を定める方式が考えられる。
  • この仕組みについては、所得基準による課税や他の外形基準による課税と組み合わせて用いることを基本として考えることが適当である。

<その他>

(1) 外形標準課税の対象とすべき範囲(個人及び収入金額課税法人の取扱い)

  • 個人の事業については、事業税の性格に照らせば、基本的には、法人の事業と同様に扱うべきであるが、会計処理の面における個人と法人との格差、納税者の事務負担等に鑑み、外形標準課税は、当面、法人を対象とするのが適当と考える。
  • 電気供給業、ガス供給業、生命保険業及び損害保険業の4業種については、基本的には現行の収入金額に基づく課税の仕組みを維持することとするが、今後、具体的な外形標準課税の導入の状況等を踏まえて検討する必要があると考える。

(2) 税率

  • 外形標準課税に係る税率構造については、受益に応じた税負担という観点から、基本的に、累進税率ではなく、比例税率とするのが適当である。

(3) 地方団体の課税の自主性

  • 地方分権の時代においては、各都道府県が税率設定について自由度を有する仕組みとすることも重要である。

四 改革に伴う諸課題

<外形標準課税の導入に際しての課題>

(1) 外形標準課税の導入に伴う税負担の変動

  • 外形標準課税を導入すれば、基本的には一定の範囲で税負担の変動が生じるのは避けられず、欠損法人には新たな負担が生じるが、その負担は、各法人の事業活動の規模に見合ったものにとどまるものであることに留意する必要がある。
  • 税負担の変動に対しては、税負担能力に配慮する等の観点から、所得基準による課税と外形基準による課税とを併用すること等の方策が考えられる。

(2) 納税事務負担

  • 納税事務に関する負担をできるだけ小さくするという観点が重要である。
  • 課税の公平性や中立性の確保の観点との整合性も考えながら、課税標準の内容や納税手続等の工夫により、簡素化を図っていくことが可能と考える。

(3) 既存の地方税との関係

  • 導入する外形基準の内容に応じて、既存の地方税との関係で所要の調整を行う必要が生じる場合も考えられる。

<税負担等への配慮に関する課題>

(1) 中小法人の取扱い

  • 課税の中立性・公平性の確保の観点や、応益原則に基づいた薄く広い税負担の実現という観点を踏まえつつ、中小法人の担税力に配慮することが適当と考えられることから、中小法人に対する一定の配慮を行うことが必要ではないかと考える。
  • 所得基準による課税との併用によって欠損法人など収益性の低い法人の税負担増を緩和することとすれば、中小法人の税負担に配慮する措置にもなるのではないかと考えられる。

(2) 創業期の法人の取扱い

  • 創業期の法人は、多くの場合、中小法人に該当するものと考えられることから、中小法人の税負担に配慮する措置が講じられれば、基本的には、当該措置によって対応することが可能ではないかと考える。

(3) 雇用への配慮

  • 雇用への影響については留意することが必要であり、外形標準課税の導入に当たっては、具体的な外形基準の選択や課税標準の中に占める給与に関する基準の取扱い、経過的な措置の定め方等において、適切な対応をする必要があると考える。

(4) 経過的な措置

  • 外形標準課税を導入するに当たっては、税負担の激変の緩和を図る等の観点から、適切に経過的な措置を講じていくことも必要であろう。

五 結び

  • 法人事業税の外形標準課税は、重要な意義を有する改革であり、また、現下の都道府県の財政構造が不安定なものとなっていること等を踏まえれば、できるだけ早期に導入を図ることが望ましいと考える。なお、具体的な実施の時期については、景気の状況等を踏まえたうえで、判断する必要があると考える。
  • 今後は、具体的な導入に向けて、各種の課題についてより一層検討を深め、その際、納税側・課税側の双方において、できるだけ事務的負担の増加を招かないような仕組みとすることが必要であり、また、地方団体の行財政運営の一層の効率化、地方行政の透明性の向上、情報公開の推進等に積極的に取り組み、納税者の理解と協力を得るように努力していくことも重要である。
  • 今後、本報告の考え方を踏まえつつ、地方分権の時代に相応しい法人事業税の改革のあり方について、都道府県や経済界等をはじめとして、各界各層で幅広く活発な議論が行われ、国民的な合意の形成が図られることを期待する。