金融課税小委員会中間報告の概要

一 金融システム改革と金融関係税制

21世紀を目前に控え、既に高齢社会に突入している我が国において、国民経済を活力あるものとして保っていくためには、金融市場の改革を行うことにより、マーケット・メカニズムが最大限に活用され、資源の最適配分が実現される金融システムを構築していくことが不可欠。

国際的にも魅力ある市場は、商品、価格、業務、組織形態等の大胆な自由化を通じ、市場原理を十分に機能させることにより生まれる。市場機能の発揮のためには、公正で透明なルール、市場参加者の市場規律と自己責任原則の徹底が求められる。

金融関係税制については、従来より、公的サービスの財源としての基本的性格や公平、中立、簡素といった租税の基本的考え方に基づき、大量性、多様性、「足の速さ」といった金融資本取引の特徴に配慮した税制の構築に努めてきたが、フリー(市場原理が働く自由な市場に)、フェア(透明で信頼できる市場に)、グローバル(国際的で時代を先取りする市場に)の三原則の下で進められる金融システム改革を税制としても受け止め、時機を失することなく対応していく必要。

  • グローバルな資金シフトが容易となり、金融資本取引の「足の速さ」が増していることを受けて、金融関係税制の税制全体の中での位置付けを検討していく必要。
  • フリーの原則の下、新しい金融商品・取引が出現してくることに対応して、各種金融商品に対する課税の在り方を検討していく必要。
  • フェアの原則に関連し、税負担の公平確保、租税回避行為の把握、防止が重要。 当小委員会は、設置後、第一弾の対応として、今秋、来年4月からの外為法改正への緊急の対応策を講じたが、今後は、納税者番号制度を含め、資料情報制度の充実について積極的に検討していくことが強く要請される。
  • 第二弾として早急な検討が求められるのは、総合的な改革が進められている証券 市場に関する税制の分野であり、加えて、金融持株会社、特別目的会社(SPC)、会社型投資信託などに関しても金融システム改革の進展に伴い具体的な措置が講じられるのに合わせて、税制面でも適切に対応していくことが求められている。

税はいかなる税であれ、税引き後のリターンに何らかのマイナスの影響を与えることはその性格上避けられないが、なるべく資産選択を歪めたり、取引を阻害することがないような税制の在り方を追求していくことは重要であり、そのような意味の「中立性」は、税制を検討していく場合の基本。グローバル化の中で、国内と国外の「中立性」も視野に入れるべき。

具体的に、「中立性」が問題となる局面は、リスクが異なる商品間、期間が異なる商品間、金融機関間や個人間など様々であり、異なった性格の商品・取引間で、形式的に同じ扱いをすることが必ずしもその趣旨にかなうわけではない。

いわゆるグローバル・スタンダード論については、国際的に税制に単一のスタンダードがあり、それに我が国も合わせなければならない、という意味の議論であれば、当小委員会として採り得ない。

諸外国の税制は、基本的に各国の様々な事情を反映して多様なものである。グローバル化に伴い、少なくとも国際的な資金移動にかかわる税制について、一国だけの突出が許されなくなってきており、その意味で税制の国際的整合性について配慮する必要はあるとしても、我が国が目指す金融システムに合った税制は、我が国なりの事情を考慮しながら、構築していくべき。

二 金融関係税制の税制全体における位置付け

我が国金融関係税制の推移を顧みると、近年は、金融分野以外との間の課税の公平性や、金融商品間の中立性の確保、事務負担・執行可能性に配慮した簡素な税制への要請を踏まえ、分離課税による金融所得の課税ベースの拡大が図られてきている。

金融所得課税の検討に当たっては、公的サービスの財源としての税の基本的性格から、税制全体として税収を確保していかなければならない中で、「足の速い」所得である金融所得への課税と、移動可能性の低い労働所得や消費への課税との関係をどうするかという問題が存在。

税制調査会においては、総合課税論をベースに従来議論してきている。現実の税制では一定の金融所得について分離課税が導入されてきたが、その意義については、把握体制が十分でない下で実質的な公平を確保するための方策と考えられてきている。 他方、資源配分の効率性と所得分配の公平性の観点を考慮し、最も経済的に合理的な課税体系を求める最適課税論からは、貯蓄が課税によって影響を受けやすいとの仮定の下で、金融所得については、分離課税を導入することが適当であるとされる。

金融・サービス等いわゆる「足の速い」経済活動について、各国の間で資本誘致のために行き過ぎた税の引下げ競争が行われると、貿易、資本取引の流れを歪め、各国の課税ベースを浸食するのみならず、労働、消費といった移動可能性の低い課税ベースへの相対的重課を通じ、各国税体系の公平、中立性に歪みを与えかねない。OECDでは、有害な税の競争に対抗するための方策が検討されており、G7サミットにおいてもこうしたOECDの活動が支持されている。

金融資産残高の累増というストック化の進展から、金融資産に対する課税が重要となってきている。金融資産から生ずる所得への課税についても、資産課税として重視する必要があり、また、金融取引に対する取引課税についても、金融資産の移転に伴う課税の一つであることから、資産課税としての意義を認める意見があった。

三 金融商品に対する所得課税の在り方

今般の金融システム改革の下、金融商品・取引に様々なイノベーションが期待されており、各種金融商品に対する課税の在り方を検討していく必要。

<総合課税と分離課税の問題>

金融商品に対する所得課税については、総合課税、分離課税のいずれが適当かとの問題が基本となるが、この点は、納税者番号制度等執行体制の整備状況、所得課税の税率の累進度、納税者の事務負担等と関係してくるものであり十分な検討が必要。当小委員会においても両論があり、今後、納税者番号制度の検討状況をも見ながら、金融関係税制の在り方にかかわる基本的問題として議論を続けていくことが適当。

<金融商品に対する所得課税の在り方>

今後、新たな金融商品が出現してくることや、海外の多様な金融商品が利用されることが予想される。今後の金融所得課税の在り方を考える上では、総合課税か分離課税かといった問題とあわせ、例えば「金融所得」といった形で包括的な税制の扱いを考える必要があるのではないかという問題提起も含めて検討していくべき。少なくとも当面、現実的、実務的に考えれば、租税法律主義の下で、現行制度の枠組みの中で個別商品ごとに時機を失せず検討していく必要。

現在の利子、配当、株式等譲渡益への課税方式は、所得の性格、把握体制、保有階層等をも考慮すると相応のバランスが図られており、むしろ現実的な方策と考えられ、基本的には現行の枠組みの中で必要な適正化を行っていくことが適当。これ以外の金融商品からの所得についても、既存の商品とのバランスを図りながら適切な把握体制と組み合わせつつ課税方式を考えていくことが適当。その際、現行の金融類似商品の利子並み課税の対象を拡大してはどうかとの意見もあった。

株式等譲渡益や割引債の償還差益など個人住民税が非課税となっているものについては、地方税の課税の適正化を図る観点から、利子割方式も参考にしながら検討する必要。

四 金融関係税制の適正な執行の確保

<執行の現状と税制>

金融所得に関しては、源泉徴収制度や法定調書の提出制度が適正申告の担保として特に有効に機能しており、今後、新商品の出現や海外商品の利用が進む中では、必要に応じ、これら制度の対象拡大により対応することが必要。

特に、源泉徴収制度は金融所得把握のための大掛かりな仕組みを要せず実質的な税負担の公平を確保できる方法であり、諸外国の例や、OECDの議論からも、評価される。なお、公社債利子に関する源泉徴収について、非居住者の取扱いを含めた流通市場への影響が指摘されているが、納税者番号制度をめぐる議論を視野に入れつつ、流通市場の制度の在り方、取引把握の負担や実効性等を踏まえた幅広い検討が必要。

デリバティブ取引等の新しい金融取引が展開される中で、適正な課税が困難になることが予想される。これに対し、執行体制の強化を求める意見や、所得課税の枠内での方策では限界があり、これを補完する税制として、外形的に課税できる取引課税を評価する意見があった。

金融関係税制については、今後とも、取引形態の多様化、複雑化の中で、簡素な税制への要請を念頭に置いておく必要。

<改正外為法に対する税制面での緊急の対応>

来年4月から施行される改正外為法に対応し、今回、第141 回臨時国会において、「国外送金等に係る資料情報制度」と「民間国外債の利子非課税措置に係る本人確認制度」を緊急に整備したが、これらは、現行の金融取引実務や市場慣行の下で、適正課税の担保に不可欠な措置を講じたものであり、今後、これらの二制度が適切に機能しているかどうかを注視し、必要に応じ適切に見直していく必要。

<納税者番号制度>

納税者番号制度については、かつて、主として利子・株式等譲渡益の総合課税化との関連で議論されてきたが、近年、税務行政の機械化・効率化による課税の一層の適正化の観点や、納税者の所得等の把握により所得・資産課税の適正化に資する観点から、多角的な検討が進められてきた。

最近、日常生活におけるカードの普及に伴う番号利用の一般化、基礎年金番号の実施、住民票コードに係る法改正試案公表など行政による全国一連の番号の整備の進展、グローバルな資金シフトが容易となる中での資料情報制度の充実の要請など、納税者番号制度をめぐる環境には、変化が見られる。

納税者番号制度をめぐる環境は新しい局面を迎えており、税制調査会において、国民の受け止め方を十分に把握しつつ、より具体的かつ積極的な検討を行わなければならない時期に来ている。

五 平成10年度税制改正において早急に検討すべき課題

<金融取引に係る取引課税(有価証券取引税、取引所税)への対応>

金融システム改革を推し進め、効率的な資本市場を整備していくことは重要な政策課題となっており、そのような流れを踏まえて、証券税制の在り方を考えていくべき。有価証券取引税と株式等譲渡益課税については、平成8年度税制改正において2年間の時限的措置が講じられており、10年度税制改正において証券税制全体として検討することが必要。

金融のグローバル化が進む中で、市場取引は取引コストに対してより敏感になってきている。金融システム改革を推し進め、金融・資本市場を活性化するという観点から、取引課税を廃止すべきであるとの強い意見が出されている。

以上を踏まえて、小委員会では、取引課税について、取引に与える影響、課税の意義、諸外国の制度を検討。なお、有価証券取引税と株式等譲渡益課税は理論的には別の税であるが、制度の経緯からしても、同じ株式の移転に伴う課税として密接な関係にあること等から、両者は証券税制全体の中で検討していくのが適当。

取引課税には税制として一定の意義が認められ、現実の取引への影響や国際的整合性といった観点のみから、その存廃を結論付けることは難しいが、取引課税の今後の在り方については、次の意見があった。

取引課税の廃止は中長期的には市場にプラスの効果をもたらし得るところであり、金融のグローバル化や現下の市場の動向にかんがみれば、金融システム改革を強力に推進していく政府の意思を明らかにするためにも、政策的な見地から、その具体的なスケジュールはともかく、思い切って廃止の方向を示すべきであるとの意見。これに関連して、株式等譲渡益課税について申告分離一本化といった適正化が実現されない中で取引課税のみを廃止することは適当でないとの意見。

これに対して、取引課税には税体系及び税収面から一定の意義が認められ、現実の取引への影響も少ないことから、廃止するのは適当ではないという意見。また、金融グローバル化等を踏まえて、取引課税の税負担の軽減を検討する場合にも、金融システム改革全体の動向を見極め、税収面からの費用対効果を検証し、株式等譲渡益課税の適正化状況を踏まえていく必要があるとの意見。

当小委員会としては、総会における平成10年度税制改正の審議において、以上の議論を踏まえ、現下の経済・財政事情、税制改正全体の中での位置付け等を総合的に勘案した上で、成案がまとめられることを期待。

<株式等譲渡益課税への対応>

今回、株式等譲渡益課税について原則課税化から約10年を経て本制度を見直し、今後の方向を示す。

株式等譲渡益について総合課税とすべきであるとの意見もあるが、現実の把握体制の下では、分離課税の枠組みの中での適正化を図ることが適当。

いずれにしても、現行の源泉分離課税方式については、譲渡益のうちみなし差益率を超える部分が課税対象となっていない、譲渡益の大小に応じて意図的な税負担軽減が図れる、税の公平性や市場の透明性を高める方向に反する、地方税が非課税となっている、といった問題がある。

申告分離課税の実績も積み重ねられてきており、取引情報が集まる仕組みがあれば申告分離課税へ一本化したとしても適正な申告を期待できる状況になっていると考えられること、実額により所得計算をして申告することは申告納税制度の基本であること、昭和63年に原則非課税から原則課税に移行した際とは、証券市場への影響についてもおのずと差異があることから、当小委員会としては、源泉分離選択課税方式は廃止し、申告分離課税に一本化することが適正化の方向と考える。

しかしながら、現在の低迷している証券市場の状況等に政策的に配慮する必要から、源泉分離課税方式を直ちに廃止することは適当でないとの強い意見があった。この場合、少なくとも源泉分離課税の税率等を見直すことが適当。また、地方税における課税の適正化も図る必要。

利子と株式等譲渡益に異なる課税方法が採られることは現実的な選択と考えられるが、株式等譲渡益課税を申告分離課税に一本化することは、一律源泉分離課税となっている利子課税との均衡を欠くのではないか、利子も含めた総合課税を指向すべきではないかとの意見があった。

税率構造については、垂直的公平の観点にも配慮する必要から、分離課税を前提としつつ譲渡益の中で高額の部分についての税率の引上げを行うことを検討すべきであるとの意見があった。

譲渡損失については、現行制度の下では、申告分離において譲渡損失ばかりを申告すること等による調整ができるため、次年度以降への繰越しや他の種類の所得との通算を行うことは適当でないが、申告分離課税に一本化された場合には、例えば、同じ株式等譲渡益との間であれば、次年度以降への繰越しを検討してはどうかとする意見があった。他の所得との通算については、諸外国における考え方をも踏まえると、認めないことが適当。

<ストックオプション税制>

今春の第140回通常国会において、役員・従業員に対する新株の有利発行の緩和等を内容とする商法改正が成立し施行され、アメリカ並みに自由にストックオプションが活用できる基盤が整備された。

ストックオプションの一般化に伴い、現行法上特定の会社のみに認められている課税の繰延べ等を、一定の条件の下に、一般のストックオプションにも適用し得るかが問題となるが、ストックオプションの一般化の趣旨と適正な課税の確保の観点とを踏まえつつ、課税繰延べ等の措置が適当であるかどうか、また、適当であるとしてもどのような要件等を満たすものを対象とすべきであるかについて、その趣旨がいかされるよう適切な課税方法を検討すべき。

<金融持株会社、特別目的会社、会社型投資信託に関する税制>

いわゆる「三角合併方式」による銀行持株会社の創設に伴い、銀行の株主が銀行持株会社に対して行う現物出資に係る譲渡益に対する課税等が発生するが、これについては、設立形態を考慮しつつ、銀行以外の法人が持株会社を創設する場合等との課税の公平等の観点も踏まえながら、適切な対応が図られることが望ましい。

特別目的会社(SPC)や会社型投資信託に関する税制については、法人段階での課税をどうするか、投資家への課税をどうするか等を検討する必要。それぞれの制度が具体化されていく中で、税負担の公平等の観点を踏まえ、その趣旨がいかされるよう適切な対応が図られることが望ましい。

<生命保険料控除・損害保険料控除>

生命保険料控除・損害保険料控除については、税制調査会において、従来より問題点を指摘してきているが、金融システム改革の実施により、各業態間の垣根が取り払われていくといった状況の下では、金融商品間、各業態間の課税の公平性・中立性の要請は強まるものと考えられ、具体的な見直しについて早急に議論を進めていく段階に来ている。

個人年金保険に係る生命保険料控除の在り方についても、世代間・高齢者間の税負担の公平確保の観点などともかかわる問題であるが、金融商品間の中立性、公平性の観点も含めた総合的な検討が必要。

<課税繰延べ、老人マル優等>

課税繰延べ商品(利払いが長期間経過後に一括して行われ、その期間中は利子課税が先送りされる金融商品)に対しては、税制調査会でもその適正化が必要であるとの観点からの議論が行われてきており、今後、金融システム改革が進められ、業態間の分離、長短分離が急速に無くなっていくことを踏まえ、具体的な課税の適正化の方法、その対象となる金融商品の範囲といった点について早急に検討を進めていくことが必要。

いわゆる老人マル優、年金財形・住宅財形については、政策的意義から制度の在り方を慎重に考えていくべきであるとの意見がある一方、課税ベースの拡大の観点や公平性の観点のほか、金融自由化が進む中での課税の中立性の観点も含めた見直しも必要であるとの意見があった。