金融課税小委員会中間報告

目次


はじめに

1.当小委員会は、今般の金融システム改革という新しい流れの中で、これまで税制調査会において審議を行ってきた金融関係税制の在り方について、専門的・技術的な検討を行うことを目的として、平成9年5月に設置された。

2.当小委員会は、平成9年6月の初会合以来、15回にわたる審議を行った。審議に際しては、2回にわたり金融関係者からの意見を聴取し、また、アメリカ、イギリス、スイス、ベルギー(EU)において海外調査を実施した。

3.この報告は、当小委員会のこれまでの審議結果を中間的にとりまとめたものである。そこでは、まず、金融関係税制全体にわたる基本的問題として、一、金融システム改革と金融関係税制、二、金融関係税制の税制全体における位置付け、三、金融商品に対する所得課税の在り方、四、金融関係税制の適正な執行の確保、について記述した上、五、平成10年度税制改正において早急に検討すべき課題として、個別の税目等についての検討の指針を提示した。本報告において、現時点で問題提起にとどまらざるを得なかった部分も多いが、それらについては、今後さらに検討を進めていくこととしたい。

なお、金融課税小委員会の審議に参加した委員、特別委員、専門委員は、次のとおりである。

会長 加藤 寛
会長代理 松本 作衞
小委員長 本間 正明
小委員長代理 水野 忠恒
委員 今井 敬
大田 弘子
竹内 佐和子
田中 直毅
宮島 洋
特別委員 石 弘光
岩瀬 正
神田 秀樹
河野 光雄
橋本 俊作
専門委員 貝塚 啓明
島野 卓爾
中里 実
横山 禎徳
吉野 直行

なお、上記委員のほか、行平次雄が平成9年7月4日まで参加し、岩瀬正に交替した。

一 金融システム改革と金融関係税制

1 21世紀を目前に控え、我が国の金融システムは大きな変革期を迎えている。我が国金融市場を2001年にはニューヨーク、ロンドンと並ぶ3大国際市場として再生させることを目指して、金融システム改革が昨年11月に総理のイニシアティブにより開始された。

既に高齢社会に突入している我が国において、国民経済を活力あるものとして保っていくためには、現在 1,200兆円にも上る個人金融資産が有利に運用されるとともに、次世代を担う成長産業への資金供給が円滑に行われることが重要である。また、我が国が世界に相応の貢献を果たしていくためには、海外との間でも活発な資金フローが実現することも不可欠である。そのため、市場の透明性・信頼性を確保しつつ、大胆な規制の撤廃・緩和を始めとする金融市場の改革を行うことにより、マーケット・メカニズムが最大限に活用され、資源の最適配分が実現される金融システムを構築していかねばならない。

国際的にも魅力ある市場は、商品、価格、業務、組織形態等の大胆な自由化を通じ、市場原理を十分に機能させることによって生まれる。改革によって、幅広いニーズに応える商品・サービスが多様な価格で提供され、これまでの銀行・証券・保険等の垣根は取り払われることになる。組織形態の選択肢の拡大は、専門化・高度化した金融サービスの提供を可能とし、競争促進と経営の効率化を通じて、利用者の利便を向上させる。市場機能の発揮のためには公正で透明なルールが要請され、市場参加者には市場規律と自己責任原則の徹底が求められる。かつて護送船団方式と呼ばれた行政の態様は消えつつあり、事前的な商品・業務規制の行政からルールに基づく行政への変革が求められる。

現在、金融・資本市場においては、競争原理の下、各金融機関の経営の在り方が問われている。今後、金融システム改革の進展に伴い、金融機関間の競争がより一層活発となることが予想される。金融システム改革は様々な苦痛を伴うものではあるが、21世紀の日本経済に不可欠なものであることから、金融システムの安定に細心の注意を払いつつ、改革を推進していく必要がある。

このような今般の金融システム改革の理念は、フリー(市場原理が働く自由な市場に)、フェア(透明で信頼できる市場に)、グローバル(国際的で時代を先取りする市場に)の3原則に示されている。

2 税制も以上のような金融システム改革という新しい流れの中で、時機を失することなく対応していかなければならない。

金融関係税制については、従来より、税制調査会において、公的サービスの財源としての基本的性格や公平、中立、簡素といった租税の基本的考え方に基づき、大量性、多様性、「足の速さ」といった金融資本取引の特徴に配慮した税制の構築に努めてきたところであるが、フリー、フェア、グローバルの三原則の下で進められる金融システム改革を税制としても受け止めていくことが求められている。

(1) グローバルな資金シフトが容易となり、金融資本取引の「足の速さ」が増している新たな状況変化を受けて、今後の金融関係税制の税制全体の中での位置付けを検討していく必要がある。

(2) フリーの原則の下では、既存の法制度の枠組みにとらわれない様々な機能を持つ商品・取引が、行政の事前的な審査を経ることなく、市場からのイノベーションとして生じてくる。これに対応して、今後、各種金融商品に対する課税の在り方も検討していく必要がある。

(3) フェアの原則に関しては、税負担の公平確保が税制の原則として最も基本的なものであることは言うまでもない。また、租税回避行為を把握、防止する方策も、整備されるべき公正・透明なルールの重要な一部分である。金融関係税制については、従来から、金融資本取引の特徴に配慮して、適正な執行の確保、そのための資料情報制度の整備が重視されてきたが、グローバル化とフリーの原則の下での改革に伴い、その重要性はいよいよ高まっている。

当小委員会は、設置後、第一弾の対応として、「国外送金等に係る資料情報制度」や「民間国外債の利子非課税措置に係る本人確認制度」について精力的に審議を行い、今秋、措置を講じたが、これは来年4月からの改正外為法への緊急の対応であった。今後は、納税者番号制度を含め、適正な課税の確保のための資料情報制度の充実について積極的に検討していくことが強く要請される。

(4) このような観点から見た金融関係税制の課題は、所得課税を中心に多岐に及ぶが、第二弾として早急な検討が求められるのは、総合的な改革が進められている証券市場に関する税制の分野である。すなわち、金融システム改革の中で、資本市場を市場原理の働く効率的で活力あるものとし、個人を始めとする市場参加者のリスク管理能力の向上を通じて、資源の最適配分を実現していくことの意義は極めて大きい。そこでは証券税制の在り方も問われており、具体的には、有価証券取引税等について、フリー、グローバルの流れに対応した金融市場活性化の観点からその在り方を問う見解と、フェアの流れの中で所得課税を補完する簡素な税であること等を評価する見解とがある。また、株式等譲渡益課税についてはフェアの流れの中で適正化が求められており、これら全体について検討が必要となる。

このほか、金融持株会社、特別目的会社(SPC)、会社型投資信託などについて、金融システム改革の進展に伴い具体的な措置が講じられるのに合わせて、税制面でも適切に対応していくことが求められている。

3 なお、金融関係の各審議会の報告や金融関係者からのヒアリングにおいては、「中立的」な税制や、いわゆるグローバル・スタンダードに合致した税制を求める意見が多く出されている。これらについての当小委員会の受け止め方は、以下のとおりである。

(1) 「中立性」は租税の基本的考え方の一つであるが、論者により様々な意味で使われている。税はいかなる税であれ、税引き後のリターンに何らかのマイナスの影響を与えることはその性格上避けられないが、なるべく資産選択を歪めたり、取引を阻害することがないような税制の在り方を追求していくことは重要である。そのような意味の「中立性」については、公平性等の要請とともに税制を検討していく場合の基本として位置付けていく必要がある。特に、上記のようにグローバル化が新たな状況変化として生じており、開放経済を前提として国内と国外の「中立性」も視野に入れる必要がある。

なお、具体的に、「中立性」が問題となる局面は、リスクが異なる商品間、期間が異なる商品間、金融機関間や個人間など様々であり、異なった性格の商品・取引間で、形式的に同じ扱いをすることが必ずしもその趣旨にかなうわけではない。

(2) 他方、いわゆるグローバル・スタンダード論については、国際的に税制に単一のスタンダードがあり、それに我が国も合わせなければならない、という意味の議論であれば、当小委員会として採り得ない。(参考1)
諸外国の税制は、基本的に各国の様々な事情を反映して多様なものである。グローバル化に伴い、少なくとも国際的な資金移動にかかわる税制について、一国だけの突出が許されなくなってきており、その意味で税制の国際的整合性について配慮する必要はあるとしても、我が国が目指す金融システムに合った税制は、我が国なりの事情を考慮しながら、構築していくべきものである。

4 今回の中間報告は、多岐にわたる金融関係税制の諸課題の中で、基本的な問題から順次検討を加えつつ、特に、平成10年度税制改正において早急に検討すべき課題について、具体的方向を示すものである。

なお、現時点で問題提起にとどまらざるを得なかった部分も多いが、それらについては、今回示した全体の大きな方向の中で、今後さらに検討を進めていくこととしたい。

二 金融関係税制の税制全体における位置付け

1 戦後の我が国金融関係税制の推移を顧みると、シャウプ勧告後の一時期を経て、資本不足期には金融所得への非課税・軽課措置が採られたが、その後の所得水準の上昇・平準化等を背景として、金融分野以外との間の課税の公平性や、金融商品間の中立性の確保が重視され、適正化に向けた努力が続けられた。昭和62年以降の税制改革において、事務負担・執行可能性に配慮した簡素な税制への要請も踏まえ、分離課税による金融所得の課税ベースの拡大が図られ、今日に至っている。(参考2)

2 金融所得課税の検討に当たっては、公的サービスの財源としての税の基本的性格から、税制全体として税収を確保していかなければならない中で、「足の速い」所得である金融所得への課税と、移動可能性の低い労働所得や消費への課税との関係をどうするかという問題があり、金融所得課税の税制全体における位置付けをどのように考えるかといった視点が必要である。

3 税制調査会においては、所得課税について、基本的にはすべての所得を合算し、それに累進税率を適用する総合課税論をベースに従来議論してきている。現実の税制においては、一定の金融所得について分離課税が導入されてきたが、その意義については、把握体制が十分でない下で実質的な公平を確保するための方策であると考えられてきている。

これに対して、資源配分の効率性と所得分配の公平性の観点を考慮し、最も経済的に合理的な課税体系を求める最適課税論からは、貯蓄が課税によって影響を受けやすいとの仮定の下で、金融所得については、分離課税を導入することが適当であるとされる。(参考3)

4 金融・サービス等いわゆる「足の速い」経済活動について、各国の間で資本誘致のために行き過ぎた税の引下げ競争が行われると、貿易、資本取引の流れを歪め、各国の課税ベースを浸食するのみならず、労働、消費といった移動可能性の低い課税ベースへの相対的重課を通じ、各国税体系の公平、中立性に歪みを与えかねない。OECDでは、このような有害な税の競争に対抗するための方策としてガイドラインを策定し、それに該当するような優遇税制の導入制限・縮減等が検討されており、G7サミットにおいてもこうしたOECDの活動が支持されている。(参考4)

5 なお、金融資産残高の累増というストック化が進展しており、金融資産に対する課税が重要となってきている。当小委員会では、金融資産から生ずる所得への課税についても、資産課税として重視する必要があるとの意見があった。

一般に、資産課税は資産格差の是正、垂直的公平の確保を図るものとして意義があると考えられてきている。金融資産についても、勤労の成果として得られる場合や、相続等により得られる場合等多様であることから、資産課税により公平を確保することは重要である。税制調査会では、課税ベースの在り方について、所得、消費、資産等に対する課税のメリット・デメリットを勘案し、その適切な組合せを考えていくことが大切であると指摘されてきた。この点に関して、金融取引に対する取引課税についても、金融資産の移転に伴う課税の一つであることから、資産課税としての意義を認める意見があった。

三 金融商品に対する所得課税の在り方

今般の金融システム改革においては、フリーの原則の下、金融商品・取引に様々なイノベーションが期待されており、これに対応して、各種金融商品に対する課税の在り方を検討していく必要がある。特に、1,200兆円に上る個人金融資産が有利に運用されるとともに、望ましい資金フローの実現を図るとの要請に応えるためにも、公平、中立、簡素の税制の基本理念を踏まえ、金融商品間でのバランスのとれた課税を検討していくことが必要と考えられる。

1 総合課税と分離課税の問題

金融商品に対する所得課税については、そもそも総合課税、分離課税のいずれが適当かとの問題が基本となる。この問題は、

[1] 納税者番号制度の導入ないし資料情報制度の充実など所得把握のための執行体制の整備状況、

[2] 前提となる所得課税の税率の累進度との関係、具体的には、最高税率が国・地方を含め65%である現状の下で総合課税化すれば、

・垂直的公平は確保される一方、同じ金融商品について税引き後収益の納税者間の差異が生ずることによって中立性が損われないか、

・海外や不表現資産への資金シフトといった経済への影響が予想されるのではないか、

[3] 所得課税の税率構造をフラット化していけば、総合課税と分離課税との実質的な差異は縮小するのではないか、

[4] 新たに申告が必要となる納税者の事務負担等をどう考えるか、

などの点についての判断と関係してくるものであり、十分な検討が必要となる。

当小委員会においても、垂直的公平を重視する立場や、所得種類間で同一の扱いを行うことが望ましいとする立場から、利子、配当、株式等譲渡益に対し将来的には総合課税化を目指すことが適当であるとの意見があった一方、水平的公平を重視する立場や、最適課税論の立場から、むしろ分離課税を望ましい税制として評価する意見があった。

なお、総合課税を望ましいとする立場であっても、直ちに総合課税化することが難しい現状の下では、現行の分離課税の枠組みの中での適正化を図ることでその要請に応えようとする考えはあり得るところであり、例えば、株式等譲渡益の所得の性格や保有階層等に着目し、分離課税の枠組みの中で累進性を設けるといった選択肢は十分あり得よう。

いずれにしても、利子、配当、株式等譲渡益に対して総合課税を行うには、納税者番号制度の導入等の執行体制の格段の整備が前提となるので、今後、納税者番号制度の検討状況をも見ながら、金融関係税制の在り方にかかわる基本的問題として議論を続けていくことが適当である。

2 金融商品に対する所得課税の在り方

(1) 金融商品に対する所得課税を概観するに当たり、まず、預貯金、株式といった典型的な金融商品から発生する利子、配当、株式等譲渡益に対する具体的な課税方法を見ると、利子については一律源泉分離課税、配当については総合課税を基本としつつ源泉分離選択課税制度や少額配当の申告不要制度が設けられており、株式等譲渡益については分離課税を基本としつつ申告分離課税と源泉分離課税の選択課税方式が採用されている。

預貯金、株式等以外の金融商品からの所得は、所得課税の基本原則に則り、一時所得、本法上の譲渡所得、雑所得等に区分されて課税されるが、特に預貯金との競合関係の見られる金融商品からの所得については、利子所得でない場合でも個別に利子と同様の源泉分離課税が行われている(いわゆる金融類似商品課税)。

(2) 今後、新たな金融商品が出現してくることや、海外の多様な金融商品が利用されることが予想される中、このような商品個々の課税方法では所得分類をまたぐハイブリッド商品やデリバティブ(金融派生商品)に対応し切れなくなるとして、むしろ、例えば、「金融所得」といった形で包括的な税制の扱いを考える必要があるのではないかという意見があった。これに対し、金融と金融以外といった形で法制的に仕分けるのは難しいのではないか、金融商品は個々にリスクや必要経費の考え方が異なるので一括して課税をすることは難しいのではないか等の意見もあった。

今後の金融所得課税の在り方を考える上では、総合課税か分離課税かといった問題とあわせ、こうした問題提起も含めて検討していくべきであるが、今後どのような金融商品が出てくるかを現時点で見通すことは難しく、少なくとも当面、現実的、実務的に考えれば、租税法律主義の下で、現行制度の枠組みの中で個別商品ごとに時機を失せず検討していくことにならざるを得ないと考えられる。

(3) 現在の利子、配当、株式等譲渡益への課税方式についての従来の税制調査会における考え方は、所得の性格や把握体制等との関係で以下のように整理することができよう。

[1] 利子については、発生の大量性、その元本である金融商品の多様性・代替可能性といった利子所得の特異性を踏まえ、課税の費用面、手続面等からの諸制約をも考慮して一律源泉分離課税が採られている。

[2] 配当については、その基本的な性格は法人等からの事業収益の分配であり、利子等の金融収益とも性格を異にしている面があることや、所有者の所得階層分布もかなり異なっていること等から総合課税の考え方が採られつつ、少額の受取配当については税負担の軽減措置が講じられており、多くの場合はこの軽課措置の対象となっていると考えられる。

[3] 株式等譲渡益については、金融所得としての特異性はあるが、利子との比較で考えると、所得者数等発生の量的規模も相対的に小さく、また、必要経費の概念が認められているように、資金を調達した上で行う事業参加的な投資という事業性のある所得という性格がある。また、預貯金よりも株式の方が高所得者層により保有されており、一人当たり所得で見ても極めて多額に上る場合もある。このため、基本的に総合課税を目指すべきであるとしても、把握体制の現状や市場への影響等を考慮し、分離課税が採られている。

こうして見ると、利子、配当、株式等譲渡益への現行の課税方式は、それぞれの所得の性格を踏まえつつ現実の把握体制や保有階層等をも考慮すると、相応のバランスが図られており、むしろ現実的な方策と考えられる。当面、金融所得課税について現行の法制度の枠組みの下で個別商品ごとに検討していくということにならざるを得ない中では、利子、配当、株式等譲渡益課税についても基本的には現行の枠組みを維持しつつ、その中で必要な適正化を行っていくことが適当である。

(4) 利子、配当、株式等譲渡益以外の金融商品から生じる所得については、現行制度上は基本的には総合課税されることになるので、そのために必要な把握手段について適切に整備することが必要である。ただし、個々の金融商品の特質から総合課税が必ずしも適当でない場合には、所得発生の態様、性格、保有階層、把握手段等を総合的に勘案し、既存の商品とのバランスを図りながら、適切な把握体制と組み合わせつつ課税方式を考えていく必要がある。

その場合、例えば、現行の金融類似商品の利子並み課税の対象を拡大してはどうかとの意見もあるが、この方策は、利子と競合する商品、源泉徴収に適する商品に限られるほか、リストアップされる商品とされない商品とのバランスが問題となる可能性があるので、商品個々の特性を十分勘案すべきである。また、金融商品のスキームの法制化を待つのでは、金融商品の多様化に対応できないことも考えられ、行政的には、アドバンス・ルーリング(税法解釈の事前照会手続き)などの手続きにより課税の明確化が必要であるとの意見もあった。

(5) 金融課税における地方税の課題として、株式等譲渡益や割引債の償還差益など個 人住民税が非課税となっているものの取扱いがあるが、地方税の課税の適正化を図る観点から、利子割方式も参考にしながら検討する必要がある。

(6) 金融所得課税の在り方を考えると、所得課税の税率構造を始めとして税制の基本にかかわる問題に触れざるを得ない。したがって、今後、金融所得課税を議論する場合には、所得課税や税体系の在り方について総合的な見地からの議論が必要である。

四 金融関係税制の適正な執行の確保

1 執行の現状と税制

今般の金融システム改革によって、情報・通信技術の発展に伴う金融のグローバル化が進み、新たな金融商品が展開される中で、資料情報制度の整備を始めとする金融関係税制の適正な執行の確保が重要である。税制とその執行とは相互にフィードバックする関係にあり、税制の構築に当たっては、それが適正に運営されるよう、事務負担・費用をも勘案し、できるだけ簡素で実効性ある制度とすることが強く要請される。

(1) 我が国の申告納税制度においては、源泉徴収制度や法定調書の提出制度が適正申告の担保として機能している。大量性、多様性、「足の速さ」といった特徴を持つ金融所得に関しては、特にこの機能が有効に働いていると評価される。今後、新商品の出現や海外商品の利用が進む中では、現在いずれの制度の対象ともなっていない金融商品についても、必要に応じ、これら制度の対象の拡大により対応することが求められる。

特に、源泉徴収制度は膨大な取引情報の提出・名寄せ等金融所得把握のための大掛かりな仕組みを要せず実質的な税負担の公平を確保できる方法であり、納税者番号制度を有するアメリカ、カナダ等を除く多くの国々で採用されている。金融市場のグローバル化を背景として、OECDの議論においても、各国における利子への課税方式には、源泉徴収を重視する方法と、情報交換を重視する方法とそれぞれに得失があり、少なくともいずれかの方式で適切な課税を図っていくべきであるとされている。

なお、公社債利子に関する源泉徴収について、非居住者の取扱いを含めた流通市場への影響が指摘されているが、納税者番号制度をめぐる議論を視野に入れつつ、流通市場の制度の在り方、取引把握の負担や実効性等を踏まえた幅広い検討が必要である。

(2) 新しい金融取引であるデリバティブ取引については、課税の繰延べの問題は時価主義の採用によりある程度対応できるとしても、その実態把握の困難性、非居住者課税を含めた所得分類の変更や源泉地変更による国際課税上の問題が指摘されている。

さらに、デリバティブ取引のみならず証券化、仕組み債、投資信託の多様化、電子マネー・電子商取引等の新しい金融取引が展開される中で、適正な課税が困難になることが予想される。

(3) このような現状に対しては、後述の納税者番号制度の導入のほか、資料情報制度の整備、質問検査権の強化、立証責任の転換、さらには租税回避否認規定の制定などを行う必要があるとの意見がある。

(4) また、執行の問題の税制へのフィードバックとして、所得課税の枠内での方策では限界があり、これを補完する税制が必要であるとして、特に取引があれば外形的に課税できる流通税の重要性を指摘し、その観点から現行の有価証券取引税、取引所税を評価する意見もあった。

(5) なお、金融関係税制については、従来より、金融資本取引の特徴から、納税者等の事務負担の軽減にも配慮し、現行の税務執行の制度の下で、簡素な税制が要請されてきた。(参考2)

今後、仮に納税者番号制度の導入など税務執行の制度が整備されることを前提にすれば、所得税制として採り得る選択肢はかなり広がるものと考えられるが、取引形態の多様化、複雑化の中で、簡素な税制への要請は引き続き念頭に置いておく必要があろう。

2 改正外為法に対する税制面での緊急の対応

来年4月から施行される改正外為法は、一連の金融システム改革に先行して、国境を越える資金移動を抜本的に自由化することを内容とするものであり、これにより、内外の資金移動が飛躍的に自由化、活発化されることが予想される。

税制面では、これに対応し、租税回避行為の把握や防止に資するため、「国外送金等に係る資料情報制度」と「民間国外債の利子非課税措置に係る本人確認制度」を緊急に整備する必要があると判断した。

(1) 「国外送金等に係る資料情報制度」の整備

我が国の金融関係税制においては、利子や金融類似商品に対し、源泉分離課税が行われており、これらの金融所得に関し、金融機関から税務当局に対する支払調書が提出されていないため、税務当局は、預貯金口座の所在等に関する資料情報をほとんど有しない状況となっている。

これまでも外為管理は徐々に自由化され、内外の資本交流が活発化してきたが、依然として、為銀制度や、資本取引における許可制等により国境を資金が越える段階で送金内容等について一定のチェックが行われていたことから、外為管理のいわば反射的効果として、クロスボーダーの資金移動をめぐる租税回避行為に対する牽制効果と把握の端緒となり得ることが期待されていた。

今回、外為取引の抜本的自由化により、クロスボーダー取引をめぐる租税回避行為が横行するような事態となるならば、税制に対する国民の信頼を損うとともに、金融システム改革への国民の信頼をも失うこととなりかねない。このため、既に外為管理を撤廃した先進諸外国の経験をも学びながら、我が国の外為取引の実態を踏まえ、一定のルールの下で透明性・公正性、すなわち、フェアの観点から、税制として、適切な措置を講ずることが必要であると判断した。

具体的には、諸外国の状況や外為実務を踏まえ、改正外為法に対応して適正な課税の確保に資する最低限の措置として、一定金額を超える国外送金等について銀行等から税務当局に対し情報資料を提出すること等を内容とする制度を緊急に整備することが適当であるということで概ね合意が得られた。

(2) 「民間国外債の利子非課税措置に係る本人確認制度」の整備

我が国の税制上、非居住者・外国法人が内国法人の発行する債券の利子を受け取る場合には、国内源泉所得として課税することを原則としている。しかしながら、企業の資金調達手段の多様化を図る等の観点から、特例として、国外で発行された債券(民間国外債)の利子については非課税とする措置が従来より設けられている。

改正外為法に伴い、資金が自由に国境を越えて移動することが可能になるが、その結果、居住者・内国法人が直接国外で民間国外債の利子を受け取ることにより、この特例が濫用され、市場や税制における公平の観点が損われることのないよう、利子の受領者が非居住者等であることを確認する制度を新たに整備する必要がある。

米国等の先進諸外国においても、ユーロ債利子は非居住者に対しては非課税としているが、居住者に対しては当然課税としており、一定の本人確認手続きや罰則等による適正課税の担保措置を講じている。

本人確認制度の具体的な仕組みを検討するに当たっては、内国法人の民間国外債の発行に支障が生じないよう、市場の慣行に十分配意する必要があるとされた。

(3) 政府においては、当小委員会のこのような議論を踏まえ、「国外送金等に係る資料情報制度」に関しては、200万円を超える国外送金及び国外からの送金等の受領について銀行等から税務当局に対し、調書を提出すること等を内容とする法案を、また、「民間国外債の利子非課税措置に係る本人確認制度」に関しては、利子受領者の非居住者性の確認を利子の支払取扱者による利子受領者情報の通知を基に行うこと等を内容とする法案をとりまとめた。

これらの法案は、第141回臨時国会において可決・成立したが、現行の金融取引実務や市場慣行の下で、適正課税の担保に不可欠な措置を講じたものである。これからのクロスボーダーの資金移動の推移、外為取引形態の多様化、外為実務の担い手の拡大・多様化等新たな事態の下で、今後、これらの二制度が適切に機能しているかどうかを注視し、税に対する国民の理解と信頼が損われることのないよう、必要に応じ適切に見直していく必要があろう。

3 納税者番号制度

(1) 納税者番号制度については、税制調査会の昭和54年度答申以降、昭和63年度及び平成4年度の2度にわたり納税者番号等検討小委員会で審議の上、報告を行う等、これまでに鋭意検討を重ねてきている。同制度は、かつては、主として利子・株式等譲渡益の総合課税化との関連で議論されてきたが、近年、税務行政の機械化・効率化による課税の一層の適正化の観点から、また、納税者の所得等の把握により所得・資産課税の適正化に資するということから、多角的な検討が進められてきた。

(2) 最近、納税者番号制度をめぐる環境には変化が見られる。高度情報化、電子化の進展は著しく、日常生活においても各種のカードが普及し、これに伴い番号の利用が身近なものとなっている。こうした中で、行政においても全国一連の番号の整備が図られてきている。基礎年金番号が本年1月から実施され、これまでに付番が完了するとともに、住民票コードについて住民基本台帳法の一部改正試案が本年6月に公表されている。これらの番号の整備が進展するのに伴い、納税者番号として利用し得る番号について、より具体的な検討が可能となっている。

また、金融システム改革に伴い、グローバルな資金シフトが容易となり、金融資本取引の「足の速さ」が増していくという新たな状況変化を受けて、税負担の公平を確保するとの観点から、資料情報制度の充実が求められている。OECDにおいても、海外資料情報制度や情報交換等を強化すべきであるとの方向で検討が行われている。今後、こうした資料情報の増大等を踏まえると、何らかの番号を利用した効率的な対応が求められる。

さらに、グローバル化、情報化の広がりの中で、電子商取引の進展も含む取引内容の複雑化・広域化等に対処し、今後とも適正・公平な課税を行う必要があり、そのため番号を利用した迅速かつ効果的な税務行政が要請されている。

納税者番号制度に関する国民の理解については、各種番号の普及等を背景に、最近のアンケート調査等によれば、従前に比較して理解が進んでいると見られる。

(3) このような状況変化を踏まえ、納税者番号制度について改めて検討を深めていくべきであり、同制度の目的についても議論を展開する必要がある。税務行政の機械化・効率化による課税の適正化に関連して、税務執行面から、資料情報の処理の現状を踏まえ、納税者番号制度が所得把握の向上、納税者の意識向上、税務行政の効率化の観点から、基本的に有効であると考えられる。また、納税者番号制度と言うと直ちにすべての所得の総合課税化をイメージする向きがあるが、同制度は分離課税あるいは源泉徴収制度と相容れないものではなく、適正・公平な課税の実現の観点から意味がある、さらに、金融システム改革に伴う金融資本取引の自由化、グ ローバル化の進展に対する適正・公平な課税の確保のため、何らかの番号を利用した資料情報制度の充実が不可欠である、との議論がなされた。これらを踏まえて、検討を進めていく必要がある。

また、納税者番号制度を導入した場合の資金シフト等の経済取引への影響、民間及び行政のコストと効果の比較等についても、引き続き具体的な検討を進めていく必要がある。

さらに、プライバシー保護については、国民の理解を深めるため、問題となる局面を整理して示すことが求められる。

納税者番号制度の是非については、国民の理解が更に深められ、より具体的で活発な議論が行われることが重要であり、政府において、パンフレットの作成・配付等が行われてきているが、さらに国民の理解を深めていく方策を考える必要がある。

(4) 納税者番号制度をめぐる環境は新しい局面を迎えており、税制調査会において、国民の受け止め方を十分に把握しつつ、より具体的かつ積極的な検討を行わなければならない時期に来ている。

五 平成10年度税制改正において早急に検討すべき課題

今回、当小委員会の中間報告に当たり、金融関係税制の諸課題の中から、来年度の税制改正で検討すべきものを特に取り上げ、検討の指針を提示することとする。

1 金融取引に係る取引課税(有価証券取引税、取引所税)への対応

(1) 市場原理の働く効率的な資本市場が我が国の経済社会のインフラとして重要性を増してきていることは、前述のとおりである。金融資本取引のグローバル化が進展する中で、金融システム改革を推し進め、金融・資本市場を活性化させ、国際的な 市場間競争での競争力を高めることは重要な政策課題の一つとなっている。

我が国の資本市場を発展させるためには、規制緩和等を通じて市場の構造自体を改革し、価格形成機能を高めていくことが重要である。商品の多様化、手数料等の取引コストの低減、情報分析能力の向上等の努力が強く求められる。大口の機関投資家にとっても使い勝手のよい市場をつくることも重要である。また、そもそも企業の配当政策の特殊性、株式の持合いや株主総会の在り方等が、株式市場の動向に影響を与えていることも否定できない。魅力ある市場を目指すためには、結局は日本企業の株式を魅力的なものにするような各企業の努力が不可欠となる。

金融取引に対する取引課税である有価証券取引税や取引所税についても、こうした流れの中で見直しを求める意見が出されている。また、株式等譲渡益課税については、適正化の必要性が従来から指摘されている。

平成8年度税制改正において、2年間の時限的措置として、有価証券取引税については株式等に係る税率(第2種)を 0.3%から0.21%に引き下げ、あわせて株式等譲渡益課税については適正化措置(源泉分離課税のみなし差益率の引上げ)が講じられている。

以上を踏まえ、平成10年度税制改正において証券税制全体として議論を行っていく必要がある。

(2) 金融のグローバル化が進む中で、市場取引は、取引コストに対してより敏感になってきており、委託手数料、取引課税を含めた全体的なコストが国際的に高い水準にあると、取引自体が海外にシフトしてしまう可能性がある。金融システム改革を推し進め、金融・資本市場を活性化させるという観点から、取引課税を廃止すべきであるという強い意見が出されている。

取引課税は、理論的には、取引コストの一部となり、利回りを低下させる。また、取引課税は税の累積を排除しない仕組みであることから、短期取引に対し相対的に重課となり、結果的に、資産選択に影響を与え、市場の効率性を低下させることとなる。これに関連して、取引課税には、過度なボラティリティ(価格変動)を抑制し、資源配分の効率化に資する面もあるのではないかとの意見があったが、これに対しては、ボラティリティ抑制のためには税以外の手段もあるのではないかとの意見があった。

このように取引課税は、理論的には一般に取引や市場の効率性にはマイナス、ボラティリティ抑制にはプラスと考えられるが、現行の有価証券取引税や取引所税程度の税負担が現実の取引にどこまで影響を与えているかは、実証的には明らかにはされていない。また、取引課税の影響は、同程度の税収を上げるためにほかの税を引き上げる場合との比較において評価する必要がある。

(3) 有価証券取引税や取引所税といった取引課税については、これまでの税制調査会やOECD等での議論を踏まえれば、以下のような意義が指摘できる。(参考5)

[1] 現在の執行体制の下では、簡素で納税・徴税コストが少ない税制として、実質的公平に資するものであり、税体系上、一定の役割を果たしていると考えられる。

[2] 有価証券取引や先物・オプション取引が法制度の下で安定的に行い得るメリットに対する対価と考えられる。

[3] 所得・消費・資産で捉え切れない担税力を取引自体に求めるものと考えられる。[4] 資産の移転に伴う税であり、資産課税の一つとも考えられる。

さらに、金融のグローバル化の中で適正な課税を確保するという観点から、外形的に課税する取引課税の重要性が見直されつつあるという意見もあった。

(4) 有価証券取引税は、利益の有無にかかわらず取引に対し一律に課税するものであることから、株式等譲渡益課税の代替税とは言えず、両者は理論的には別の税であると考えられる。ただ、税体系としては、所得課税を消費課税や資産課税が補完するように、税目が相互に補い合って全体として適切な課税が実現されるのが望ましい。所得課税については、所得の把握が難しいという特質があり、取引課税により補っていくという考え方がある。制度の経緯からしても、譲渡益課税と取引課税は同じ株式という金融資産の移転に伴う課税として、密接な関係にあることから、両者は証券税制全体の中で検討していくのが適当と考えられる。

(5) なお、国際的には、有価証券取引税類似の税制は、イギリス、フランス、スイスのほか、香港、シンガポール等に存在するが、アメリカ、ドイツ等には無い。また、イギリスでは公社債やマーケットメーカー等の取引を非課税としているなど、非課税の範囲については各国ごとに異なっている。

いずれにせよ、株式に係る課税について、取得・保有・譲渡の各段階を通した税負担の求め方を見ると、その姿は各国で様々であると言える。

取引所税については、主要国には同様の税制は見られないが、国際的にも新しい分野であるデリバティブに対する課税の一環として検討していく必要があるのではないかとの意見があった。(参考5)

(6) 以上見てきたとおり、取引課税には税制として一定の意義が認められるものであり、現実の取引への影響や国際的整合性といった観点のみから、その存廃を結論付けることは難しい。

取引課税の今後の在り方については、以上のような検討を踏まえ、次のような意見があった。

取引課税の廃止は、他の金融・証券市場改革とあいまてば中長期的には市場にプラスの効果をもたらし得るところであり、金融のグローバル化が進む中で市場取引が取引コストに対してより敏感になってきていることや、現下の市場の動向にかんがみれば、金融システム改革を強力に推進していく政府の意思を明らかにするためにも、政策的な見地から、その具体的なスケジュールはともかく、思い切って廃止の方向を示すべきであるとの意見があった。これに関連して、株式等譲渡益課税について申告分離一本化といった適正化が実現されない中で取引課税のみを廃止することは適当でないとの意見があった。

これに対して、金融のグローバル化に伴い所得の捕捉が困難になっていく中では、取引課税にはむしろ税体系及び税収面から一定の意義が認められるところであり、税率水準次第では現実の取引への影響も少ないことから、取引課税を廃止するのは適当ではないという意見があった。また、金融グローバル化の進展等を踏まえて、取引課税の税負担の軽減を検討する場合にも、金融システム改革全体の動向を見極め、税収面からの費用対効果を検証し、株式等譲渡益課税の適正化状況を踏まえていく必要があるとの意見があった。

(7) 当小委員会においては、取引課税の今後の在り方について、以上のとおり議論の整理を行った。総会における平成10年度税制改正に関する審議においては、現下の経済・財政事情、税制改正全体の中での位置付け等を総合的に勘案した上で、成案がまとめられることを期待する。

2 株式等譲渡益課税への対応

(1) 株式等譲渡益課税の経緯

株式等譲渡益課税については、昭和63年の税制の抜本改革において原則課税化されたが、その際、取引把握体制や証券市場への影響等にかんがみ当面の措置として源泉分離選択課税方式が採用された。その後、源泉分離選択課税方式については「利子・株式等譲渡益課税小委員会」において見直しが行われたが、把握体制、取得価額の計算の難しさ等を考慮し引き続き現実的な対応として維持され、今日に至っている。

(2) 今回、株式等譲渡益課税について原則課税化から約10年を経て本制度を見直し、今後の方向を示すと以下のとおりである。

[1] 株式等譲渡益を総合課税とすべきであるか分離課税とすべきであるかについては両様の考え方があるが、株式等譲渡益を幅広く総合課税とする場合には利子等も含める必要があり、そのためには納税者番号制度といった把握体制が必要である。当面、そのような把握体制が整わない下では、分離課税の枠組みの中での適正化を図ることが適当である。なお、資金の海外等へのシフトのおそれや、累進税率の下では各金融資産の税引き後収益が納税者ごとに異なること等から、むしろ分離課税にメリットを見い出し積極的に評価する意見もある。

[2] いずれにしても、現行の源泉分離課税方式については、現に個人株式取引のうちかなりの部分がこの方式を選択している実情に配慮すべきであるとの意見もあったが、

イ.譲渡益のうちみなし差益率を超える部分は課税対象となっておらず、所得課税の趣旨とは外れたものとなっている、

ロ.申告分離課税との選択が認められていることから、譲渡益の大小(譲渡益と譲渡損)に応じて意図的な税負担軽減が図れる、

ハ.フリー、フェア、グローバルの3原則による金融システム改革の理念からすると、税の公平性や市場の透明性を高めることが重要であるが、アメリカ、イギリスにも無い源泉分離課税制度を維持することは、この方向に反するものである、

ニ.地方税が非課税となっている、

といった点において問題があることは否定できない。

他方、把握体制の整備や取得価額の計算、証券市場への影響といった問題については、

イ.選択によるとはいえ申告分離課税の実績も積み重ねられてきており、株式等譲渡益には利子等に比して把握のための大掛かりな仕組みは必ずしも必要でなく、取引情報が集まる仕組みがあれば、申告分離課税へ一本化したとしても適正な申告を期待できる状況になっていると考えられること、

ロ.実額により所得計算をして申告することは申告納税制度の基本であり、原則課税化してから相当な期間を経過した現在においてみなし課税を維持すべきで はないこと、まして、相当程度の資金の移動が伴う株式の取引についてこのような配慮は適当でないこと、

ハ.昭和63年に原則非課税から原則課税に移行した際と、原則課税化してから相当期間を経て分離課税の枠組みの中で変更する場合とでは、証券市場への影響についてもおのずと差異があること、

から、当小委員会としては、源泉分離選択課税方式は廃止し、申告分離課税に一 本化することが適正化の方向と考える。

しかしながら、源泉分離課税方式の廃止は、個人の株式取引に対しかなりの影響を与えかねないため、現在の低迷している証券市場の状況や金融システム改革の進展状況に政策的に配慮する必要があることからすれば、これを直ちに廃止することは適当でないとの強い意見があった。この場合、当面、源泉分離選択課税を維持することとなるが、課税の適正化の観点から、少なくとも源泉分離課税の税率等を見直すことが適当である。また、課税の公平性、中立性を確保する観点から、地方税における課税の適正化も図る必要がある。

なお、申告分離課税に一本化されれば、対象取引について本人確認及び課税資料の提出が必要となることは言うまでもない。

[3] なお、利子と株式等譲渡益については、所得の性質、保有階層、所得の計算方法(取得価額の控除等)等が異なるものであり、また、納税者番号制度が導入されていない状況においては、両者に異なる課税方法が採られることは現実的な選択と考えられる。これに対し、株式等譲渡益課税を申告分離課税に一本化することは、一律源泉分離課税となっている利子課税との均衡を欠くのではないか、利子も含めた総合課税を指向すべきではないかとの意見があった。

また、株式等譲渡益課税について納税者の事務負担等から源泉分離課税の意義を主張する意見があるが、このような見解を採るのであれば、株式の譲渡については所得課税より取引課税が適当との見解を採らなければ一貫しないとの意見があった。

[4] 税率構造

株式は、預貯金に比べ高所得階層が保有しており、譲渡益も相当多額になる場合もあることから、垂直的公平の観点にも配慮する必要があり、このため、従来は大口の株式取引等について総合課税とすべきであるという意見があったが、分離課税を前提としつつ、譲渡益の中で高額の部分についての税率の引上げを行うことを検討すべきであるとの意見があった。

[5] 譲渡損失の取扱い

イ.源泉分離課税と申告分離課税が取引ごとに選択できる現行制度の下では、申告分離において譲渡損失ばかりを申告すること等による調整ができるため、次年度以降への繰越しや他の種類の所得との通算を行うことは適当でない。

ロ.申告分離課税に一本化された場合には譲渡損失への配慮も必要であり、例えば、同じ株式等譲渡益との間であれば、次年度以降への繰越しを検討してはどうかとする意見があった。

ハ.他の所得との通算について、納税者番号制度の下で総合課税を行っているアメリカにおいては一定額に制限されており、ほかの主要国では認められていない。これらの取扱いは、譲渡損失の他の所得との性格の違いや損失の発生に任意性があること等によるとされており、こうした考え方をも踏まえると、我が国においても他の所得との通算は認めないことが適当である。いずれにしても、申告分離課税の枠組みの中では、所得が生じた場合には他の所得と分離して課税する一方損失のみを通算することには問題がある。

3 ストックオプション税制

(1) 今春の第140回通常国会において、役員・従業員に対する新株の有利発行の緩和等を内容とする商法改正が成立し施行され、アメリカ並みに自由にストックオプションが活用できる基盤が整備された。

ストックオプションの付与を受けた役員・従業員に係る現行所得税制上の取扱いは、概ね以下のとおりである。

イ.ストックオプションの付与を受けた時点では、原則的に課税関係は生じない。 付与を受けたストックオプションを行使した時点で、取得した株式の市場価格と払込み金額等との差額相当額の経済的利益があったものとして、ストックオプションの付与の原因、会社との関係等に応じ、給与所得、退職所得などとして総合課税が行われる。

ロ.新規事業法又は通信・放送開発法上の認定会社について、一定の要件を満たしたストックオプションについては、権利行使時の経済的利益を株式の譲渡時点まで課税を繰り延べた上で、株式等譲渡益課税(26%の税率による申告分離課税)が行われる。

(2) 今回のストックオプション制度の一般化のための商法改正は、アメリカの制度を範としているが、アメリカのストックオプション税制は、ストックオプション付与時、権利行使時、株式譲渡時のそれぞれにおいて総合課税を行うことを原則としつつ、所要の要件を満たした特定のストックオプション(「適格ストックオプション」)について、権利付与時及び権利行使時の経済的利益について株式譲渡時点まで課税の繰延べを認め、総合課税を行うこととしている。その際、アメリカでは、納税者番号制度の下、株式キャピタルゲインについても総合課税が行われるが、我が国とは株式等譲渡益課税の在り方が異なることにも留意が必要である。

(3) ストックオプションの一般化に伴い、現行法上特定の会社のみに認められている課税の繰延べ等を、一定の条件の下に、一般のストックオプションにも適用し得るかが問題となる。具体的な取扱いを検討するに当たっては、ストックオプションの一般化の趣旨と適正な課税の確保の観点とを踏まえつつ、課税繰延べ等の措置が適当であるかどうか、また、適当であるとしてもどのような要件等を満たすものを対象とすべきであるかについて、その趣旨がいかされるよう適切な課税方法を検討すべきである。

4 金融持株会社、特別目的会社、会社型投資信託に関する税制

(1) 第141回臨時国会に金融持株会社の設立を可能とする法案が提出されているが、これによる金融機関の組織形態の選択肢の拡大は、金融機関の競争促進と経営の効率化につながり、利用者の利便の向上のほか、複合経営の場合の相互のリスクの遮断や合併代替・業務提携の強化を通じた金融システムの安定化にも資すると期待されている。

この法案において提案されている「三角合併方式」(注)による銀行持株会社の創設に伴い、銀行の株主が銀行持株会社に対して行う現物出資に係る譲渡益に対する課税等が発生するが、これについては「三角合併方式」という設立形態を考慮しつつ、銀行以外の法人が持株会社を創設する場合等との課税の公平等の観点も踏まえながら、適切な対応が図られることが望ましい。

(注)上記の「三角合併方式」とは、[1]金銭出資により既存銀行が銀行持株会社を、さらに銀行持株会社が新銀行をそれぞれ設立し、[2]新銀行が既存銀行を合併吸収し、[3]株主が新銀行株式を銀行持株会社に現物出資して持株会社化を図るというものである。

(2) 企業の資金調達手段の多様化、魅力ある投資商品の提供を通じ、全体として効率的な金融サービスを実現するとともに、担保不動産等を含めた資産の流動化を図るため、「特別目的会社(SPC)」の発行する資産担保証券(ABS)(注)を活用する新たなスキームが構想されている。こうしたスキームの構想に当たっては、債権譲渡に関する第三者対抗要件の具備の簡素化、投資家保護措置、SPCの設立手続の簡素化といった各般の問題についての検討が行われている。

SPCに関する税制については、新たな形態で導入される予定のSPCに対して法人段階での課税をどうするか、SPCの発行するABSについての課税をどうするか等について検討する必要がある。これらの点については、法制度の整備の状況を見ながら、制度創設の趣旨がいかされるよう適切な対応が図られることが望ましい。

(注)資産担保証券とは、資産を原債権者から切り離して媒体(特別目的会社等)に譲渡し、その媒体が資産の信用力を背景として発行する証券のことである。

(3) 投資家の資産運用に当たっての選択肢を広げる観点から、諸外国において行われている会社形態での投資信託の仕組みである「会社型投資信託」の導入が検討されている。

会社型投資信託に関する税制については、会社という形態を備え、投資家が株主権を行使するという側面を持ちながら、投資信託としての機能を果たすという特殊な性格に配意しつつ、法人段階での課税をどうするか、投資家への課税をどうするか等について検討する必要があり、制度の具体化の状況を見ながら、適切に対応すべきものと考えられる。

5 生命保険料控除・損害保険料控除

生命保険料控除・損害保険料控除については、税制調査会においては、(イ)制度創設の目的は既に達成されており、制度の縮小・合理化を図る必要がある、(ロ)個人の商品選択の裁量性を重視しつつ業態別・商品別の現行制度を改組・一本化すべきである、(ハ)民間の年金・保険商品の活用による老後に備えた自助努力を支援する制度として改めて位置付けるべきである等を指摘してきている。

新たに金融システム改革の実施により、各業態間の垣根が取り払われ、金融の自由化・国際化が大胆に進んでいくといった状況の下では、金融商品間、各業態間の課税の公平性・中立性の要請は強まるものと考えられ、生命保険料控除・損害保険料控除の具体的な見直しについて早急に議論を進めていく段階に来ているものと考える。なお、保険も貯蓄としての機能面に着目すればほかの金融商品とは差がない、保険にも貯蓄性、投資性の高いものもあり、保険を一律に税制上特別扱いすることは適当でない、不時の出費への備え・老後への備えといった面での国民の認識には貯蓄、保険に差はないといった意見が多かったが、保険商品の特殊性等への配慮を求める意見や、両控除の見直しは広く国民に影響することに留意する必要があるとの意見もあった。

これとあわせて、個人年金保険に係る生命保険料控除の在り方についても、個人年金保険とそれ以外の年金商品や金融商品との課税上のバランスをいかに図るかという問題がある。この点は、老後生活における自助努力の位置付け、世代間・高齢者間の税負担の公平確保の観点などともかかわる問題であるが、金融商品間の中立性、公平性の観点も含めた総合的な検討が必要である。

6 課税繰延べ、非課税貯蓄制度

(1) 課税繰延べ商品(利払いが長期間経過後に一括して行われ、その期間中は利子課税が先送りされる金融商品)については、元来、毎期利払いが行われる金融商品に比べ実質的な税負担が軽減されるといった問題があり、預金の預入期間制限の撤廃を契機に、税制調査会でもその適正化が必要であるとの観点から議論が行われてきており、金融・経済情勢、預金者や投資家の受け止め方等を見極めつつ、早急に適正化の検討を進める必要があるとされている。

今後、金融システム改革が進められ、業態間の分離、長短分離が急速に無くなっていくことを踏まえ、具体的な課税の適正化の方法、その対象となる金融商品の範囲といった点について早急に検討を進めていくことが必要である。

(2) 非課税貯蓄制度

高齢者等の有する預貯金等の利子を非課税とする非課税貯蓄制度(いわゆる老人マル優)、勤労者の老後の年金貯蓄・住宅取得のための貯蓄の利子等を非課税とする制度(いわゆる年金財形・住宅財形)は、一定の政策目的のために設けられている制度であるが、政策的意義から制度の在り方を慎重に考えていくべきであるとの意見がある一方、課税ベースの拡大の観点や公平性の観点のほか、金融自由化が進む中での課税の中立性の観点も含めた見直しも必要であるとの意見があった。

(参考1)諸外国の税制との比較

1 各国の税制は、それぞれの国における様々な事情を背景として成り立っている。したがって、我が国の金融関係税制を諸外国と比較するに当たっては、[1] 金融システムや税制の成り立ち、経緯、[2] 金融改革と税制の関係、[3] 金融市場の性格、金融分野の経済の中での位置付け、税制以外の諸制度の特徴、[4] 金融関係税制の税制全体の中での位置付け、[5] 納税システム、執行体制等を含めたトータルな金融関係税制の実態、といった多面的な視点からの検討が不可欠と考えられる。

2 海外調査の成果も踏まえ、主としてニューヨーク、ロンドン市場を抱えるアメリカ、イギリスや、イギリス以外のヨーロッパ諸国について、これらの各視点から検討すると、以下のとおりである。

(1) まず、利子、株式についての税制やその執行体制、金融システム改革との関係等について、アメリカ、イギリスを中心に概観すると、

イ.アメリカにおいては、納税者番号制度及び広範な資料情報制度を基礎として、従来から利子、株式等譲渡益のいずれについても総合課税が原則となっている。 また、利子については、納税者番号を告知しない場合の源泉徴収制度があり、長期の株式譲渡益については、軽減措置が存在している。なお、株式等の取引にかかる連邦印紙税は、個別消費税減税の一環として、1975年の委託手数料完全自由化(「メーデー」)以前の1966年に廃止されている。

ロ.イギリスにおいては、利子について、従来から源泉徴収制度を基礎として、総合課税が行われているほか、株式等譲渡益についても、所得税率のフラット化の中で、従来の一律分離課税から総合課税に転換が行われた。なお、1986年の証券 市場改革(いわゆる「ビッグバン」)と同時期に株式等の取引に係る印紙税の改正が行われたが、これは印紙税率を1%から 0.5%に引き下げると同時に、ペーパーレス取引に対する印紙税補完税の創設等課税ベースを拡大した歳入中立の改正であった。

ハ.そのほか、ドイツ、フランス、スイスといった主要国を見ると、利子については、ドイツ、フランス、スイスにはいずれも源泉徴収制度があり、フランスは総合課税と源泉分離課税の選択、ドイツ、スイスは総合課税となっている。株式については、譲渡益課税について、フランスが分離課税、ドイツは短期所有等に課税、スイスは事業に係るもの以外は非課税である一方、フランス、スイスには取引課税があり、ドイツ、フランスには保有課税も存在する。

(2) 各国の金融改革と税制の関係(上記(1)[2])については、特に「ビッグバン」の本家と言われている英国では、金融改革に合わせて税制改正が行われたとの認識は、一般に希薄であるとの印象を受けた。

・各国の金融システムや税制の成り立ち(上記(1)[1])、金融市場の性格(上記(1)[3])等に関しては、

イ.イギリスは、従来から、世界の金融センターとして、その繁栄を通じて国内の雇用創出を図るとの観点から他国からの資金流入を重視しているところである。税制についても、こうした観点を踏まえ、所得税や法人税の税率を引き下げる一方、付加価値税の税率を引き上げ、さらに取引課税を含めて各種税制を適切に組み合わせることにより、所要の税収を確保している。

ロ.アメリカは、自国産業全般の成長に自信を持っており、金融分野についても、このうちの一つとして位置付けられているように考えられる。税制は、その中で、専ら所得課税を中心に所要の税収を確保している。

ハ.イギリス以外のEU諸国は、それぞれの税制の成り立ちや自国金融市場の競争力等により個々にはまちまちであるものの、EU域内を中心とした各国間で資金移動の可能性が高まる中で、税の引下げ競争に悩んでいる印象を受けた。

(3) 金融関係税制の税制全体の中における位置付け(上記(1)[4])についても、各国の税制の成り立ちや考え方の相違から一概には言えないが、国内の労働や消費に対する課税とのバランスをとる必要があり、国際的な税の引下げ競争は避ける必要があることについては、各国共通の認識となっている。他方、国際的な資金移動が容易になっている中では、金融関係税制の仕組みや負担水準が一国だけ他国から突出していることが許されなくなっているとの一般的な認識も存在している。

(4) 執行体制等を含めたトータルな各国の金融関係税制の実態(上記(1)[5])については、スイス、ドイツ等の例外を除きアメリカ、ヨーロッパ諸国ともに総じて我が国に比べ資料情報の把握体制が充実していることが注目される。

(5) 全体を総括すると、各国間で単一のスタンダードを見い出すことは困難である。EU諸国においてさえ税制を国際的に統一する方向は必ずしも明確ではない。なお、一般的に言って、税収確保の観点と資本流入促進の観点との間にはトレードオフの関係があり、各国が他国との競争上、独自の税制を構築することもあり得るため、グローバル化により必然的に各国の税制が均一化していくとは限らない。

(参考2)戦後の我が国金融所得課税の推移

(1) 戦後、我が国では資本不足の時期が続いたことから、金融システムには、産業への安定的かつ効率的な資金供給が求められた。金融所得課税についても、シャウプ勧告を受けて利子、配当、株式等譲渡益の総合課税が実施された戦後の一時期はあったものの、利子非課税貯蓄制度が存在していたことや、株式等譲渡益が原則として非課税となっていたことなど、多くの金融所得が課税ベースから外れた状態が続いていた。戦後の日本経済の発展に即して顧みれば、このことは産業界への安定的な資金供給のための資本蓄積に資したものであったと考えられる。

(2) 高度成長の終焉で企業の設備資金需要の伸びが鈍化し、個人・企業の資金運用ニーズが高まってくると、これに応える新たな金融商品が求められるようになる。昭和50年の特例公債の発行が開始されてから、大量国債発行時代を迎えて債券市場の厚みも増すとともに、直接金融の分野も広がり、金融取引が市場を中心に行われるようになることで、自由化・国際化が進展する。個人の所得格差の縮小等により垂直的公平から水平的公平への価値観のシフトが生じるとともに、株式等の取引市場の成長や個人の保有する金融資産の著しい増加等を踏まえて、資産課税の観点から金融関係税制を考えることの重要性も強く認識されるようになってきた。このような中で、金融所得課税については、金融分野以外との間の課税の公平性や、金融商品間の中立性の確保が重視されるようになる。

(3) 他方、グリーンカードが未実現に終わるなどの種々の経緯や、納税者番号制度が無いといった税務執行の制度の現状を背景に、金融関係税制については、事務負担や執行可能性への考慮から簡素な税制がこれまで常に要請されてきている。現在の我が国の金融関係税制において多く採用されている分離課税制度や源泉徴収制度は、簡素で実質的公平の確保に資する制度として評価されている。

(4) 昭和62年及び63年の抜本改革時に行われた、少額貯蓄非課税制度の原則廃止、利子への一律源泉分離課税の採用と金融類似商品への同様の課税、源泉分離選択制による株式等譲渡益の原則課税化等の改正も、中立の観点のほか、上記の公平・簡素といった租税原則を踏まえたものであったと言える。

(参考3)金融関係税制に関する理論的な考え方

金融関係税制に関する理論的な考え方は次のとおりである。

(1) すべての所得を合算し、それに累進税率を適用することが所得課税の前提であり、これにより課税の公平性が最大限確保できるといういわゆる包括的所得課税論からは、金融所得を勤労所得等と合算して累進税率を適用する総合課税が本来、最も望ましい課税方法とされる。

ただし、総合課税を適正・公平に執行するには所得の把握体制が十分に整備されることが前提であり、我が国の現実の制度の沿革を見ても、この考え方に完全に即した税制となっていたことはごく一時期を除いてはほとんど無い。

(2) 上記の包括的所得課税論に対して、支出税論は変動する各年の所得ではなく、長期間に見て平均化された経済力に近似している消費支出を課税ベースとし、その上で、適切な資産課税を組み合わせるべきであるとの考え方であるが、この考え方を徹底すれば、金融所得については課税せず、それが消費(支出)された段階で課税すべきであることになる。

ただし、金融所得について課税しないとの考え方は、現行制度との乖離が大き過ぎ、また、収入から貯蓄を差し引くこと自体も執行上困難な点が指摘されており、現実的にも、この考え方にのっとった税制は諸外国にも見られない。

(3) 最適課税論は、課税による負の誘因効果(ディストーション)、所得分配効果、徴税コスト、リスクの存在といった点での所得の異質性に着目し、社会的厚生を最大化するような形で、異なる種類の所得に対する課税方法を求めようとする考え方である。この考え方に立てば、所得を利子、配当、株式等譲渡益の金融所得と勤労所得とに大別した場合に、所得の特性を踏まえ、時々の経済状況の下で税制に求められる種々の要請のどの観点を重視するかによって、両者をいかに課税するかは変わり得ることになり、両者を分離して課税することを積極的に評価する結論となる場合もあり得る。例えば、資源配分の効率性の観点を重視した場合、仮に貯蓄が課税によって影響を受けやすいとすれば、勤労所得への課税よりも金融所得への課税を軽くすることが適当となる。他方、所得分配の公平性の観点を重視した場合、金融所得の格差が勤労所得の格差よりも大きいとすれば、勤労所得に対して金融所得より軽く課税することが適当となる。

最適課税論は、納税者の効用関数や社会厚生関数の置き方によって得られる結果が異なってくることから、現実の政策決定に用いるには難しい面があるが、適切な税制の在り方は様々な与件の下で変わり得るものであることを示唆している。

(4) 勤労所得と資本所得に大別する最近の考え方として、近年、二元的所得税論が提起されている。これは、勤労所得に対して累進税率を適用する一方、資本所得には勤労所得よりも低い均一税率で課税し、グローバル化された今日、国際間の資本移動の中立性を確保するために、実質的な税負担を一定水準に収めようとする考え方である。この考え方は、勤労所得、資本所得それぞれの中では総合課税を目指す一方、勤労所得と資本所得との間ではその性格に応じて税率に差を設ける、先述の1)と3)を折衷する考え方を踏まえたものと言える。(注)

(5) なお、上記の課税に関する理論的な考え方とは別に、法制度の執行を重視する立場からは、理論的に優れた税制でも適正な執行が困難であれば現実の制度としては機能しないため、税制の構築に当たっては、運用面を重視し、事務負担・費用にも勘案し、できるだけ簡素で実効性ある制度とすることが求められる。

(注)金融所得と資本所得

金融所得とは、金融資産から生じる所得のことを指す。金融所得のほか実物資産から生じる所得等を合わせたものが資本所得と定義されており、一般的には、勤労所得(労働所得)と対比されて使われている。

(参考4)OECDにおける金融関係税制をめぐる議論

OECD租税委員会においても金融課税について種々議論があり、その主なものは次のとおりである。全体として、各国の課税方法等の統一は容易でない一方、各国間の税の引下げ競争については歯止めを設けるべく、共同の努力が進行している状況と言える。

(1) 租税委員会・資本市場委員会合同部会での検討

同部会は、各国の租税専門家と資本市場の専門家の合同会合として1993年11月に設置され、1995年6月にかけて、国際化した金融・資本市場と税の関係について整理するとともに、国境を越えた利子に対する課税の在り方について検討を行った。その結果、各国における利子に対する課税の方式には、大別して、源泉徴収を重視する方法と、情報交換による居住地国課税を重視する方法があるが、それぞれには得失があり、少なくともいずれかの方式で適切な課税を図っていくべきであることとされた。

そのほか、金融取引課税についての検討も行われた。(参考5)

(2) 新金融取引特別部会での検討

同部会は、デリバティブ等の新しい金融取引に対する基本的な課税原則について議論することを目的として、1994年6月に設置された。アメリカ、イギリス等による自国の課税経験に基づき、デリバティブに対して課税する際の政策オプション(財務会計原則に依拠した課税、金融商品の分解、ヘッジ会計・統合、時価会計、濫用防止規定の活用)がまとめられたが、それぞれに得失があり、今後さらに各国の経験を踏まえながら検討を続けることとされている。

(3) 租税競争特別部会での検討

同部会は、経済がグローバル化する中で各国が資本誘致のために行き過ぎた税の引下げ競争を行うことの問題点を分析し、これに対抗する措置を検討するために、OECD閣僚理事会の指示を受け、1996年6月に設置された。有害な税の競争は、貿易、資本取引の流れを歪め、各国の課税ベースを浸食するのみならず、労働、消費といった移動可能性の低い課税ベースへの相対的重課を通じて各国税体系の公平、中立性に反することが問題として指摘されている。有害な税の競争の判定要素としては、無税又は低率課税、不透明な税制、情報交換の不備等が挙げられている。また、このような有害な税の競争に対抗するための方策としては、海外資料情報制度の整備等の国内法上の措置、租税条約に基づく情報交換の強化等の条約上の措置に加えて、ガイドラインを策定して有害な税の競争に該当するような優遇税制の導入制限・縮減を行うこと等の国際的協調を強化する措置が検討されている。これらの検討をとりまとめて1998年4月に報告書が閣僚理事会に提出される予定である。なお、G7サミットにおいてもこうしたOECDの活動が支持されている。

(参考5)有価証券取引税、取引所税についての考え方

1 有価証券取引税については、これまで、「一種の流通税的なものとして、有価証券の取引の背後に相当の担税力を認めて課税する税である」と説明されてきている(国会答弁、税制調査会答申)。

また、有価証券取引税と株式等譲渡益課税との関係については、昭和63年の(有価証券取引税の軽減と株式等譲渡益の原則課税化を行った)抜本改革時の国会答弁においては、両税とも「有価証券の取引に伴う負担であることは間違いなく、仮に税体系を異にしていても、両者には密接な関係がある」と位置付けられている。また、平成8年度の答申においては、有価証券取引税の在り方については「株式等譲渡益課税を含め有価証券の取得・保有・譲渡の各段階を通じ全体として適正な負担を求める観点から、引き続き証券税制全体の中で議論していくことが適当」とされている。 さらに、過去の答申においては、資産課税という観点からも、有価証券取引税を検討する必要があるとされている。

(注)有価証券取引税の沿革

有価証券の取引については、昭和12年以来、有価証券の取得者に対して「有価証券移転税」という形で課税が行われてきたが、昭和25年に、シャウプ勧告に基づき同税は廃止された。一方、有価証券の譲渡による所得については、昭和22年以降、一般の譲渡所得と同様に課税が行われてきたが、昭和28年に、株式市場の民主化等の観点から、個人の譲渡所得は原則非課税とされた。その際、有価証券取引の背後に想定される担税力に対して一定の負担を求めるのが適当であるとの観点から、有価証券の譲渡者に対して課する「有価証券取引税」が創設された。

以後、株式等の取引市場の成長拡大、個人の保有する金融資産の著しい増加、さらに諸外国の動向等を踏まえて、昭和48年、53年、56年と、株式等に係る税率は引き上げられた。その後、金融のグローバル化の進展等を踏まえ、各種有価証券間の課税の均衡を図る等の見地から、昭和62年以降、株式等に係る税率の引下げや、転換社債等に係る税率の引上げ等が行われてきている。この間、譲渡益については昭和63年12月改正により、原則課税化の措置が採られている。

最近では、平成8年に、株式等に係る税率(第2種)が時限的に 0.3%から0.21%に引き下げられているが、この際には、株式等譲渡益課税について適正化措置(分離課税のみなし差益率の引上げ)が講じられている。

2 取引所税については、現行の商品・証券・金融の先物・オプション取引に原則一律に課税する姿となった平成2年度の全部改正時に、「特定の法律に基づいて公の場として開設された取引所を利用して先物取引を約定する行為に担税力を認める一種の流通税であり、取引所利用税的要素がある」との趣旨が、国会答弁において明らかにされている。

(注)取引所税の沿革

取引所税の歴史は明治時代の初頭にさかのぼるが、その後、幾多の改正が行われ、平成2年には全部改正が行われた。全部改正前の取引所税法(旧取引所税法)では、会員組織以外の取引所に対して課税する「取引所特別税」と、取引所における先物取引に対して取引所の会員に課税する「取引税」に区分され、取引税については、投機性の強い取引に高い税率を適用するという考え方が採られていた。

戦後の我が国における先物取引は長く商品先物取引だけであったが、昭和60年10月に開始された国債先物取引を契機に、様々な証券や金融の先物取引・オプション取引が開始されるに至り、平成2年には旧取引所税法について全面的な見直しが行われた。全部改正後の取引所税法では、取引所における先物取引及びオプション取引の全てを課税対象とし、税率については取引の国際性等にも配慮し一律の低率(先物取引については、いわゆる約定金額の 0.001%、オプション取引については、いわゆるオプション料の0.01%)にとどめるほか、通貨や金利の先物取引には非課税措置ないし軽減措置が講じられている。

3 OECDにおいては、金融取引課税について、以下のような議論が行われている。

(1995年6月のOECD租税委員会・資本市場委員会合同部会)

(1) 金融取引課税は金融市場の自由化に伴い、ヨーロッパ諸国を中心に軽減する傾向が見られるが、他方、主要な金融市場では維持されている。

(2) 金融取引課税は、創設時には、応益的課税として位置付けられていたと思われるが、その後、歳入源としての意味付けや、キャピタルゲイン課税が不十分な場合の税負担の公平確保の手段としての認識も出てきている。

(3) 金融取引課税が軽減されてきた背景には、取引高や価格の水準・変動率に影響を与えると思われること(ただし、市場規制や手数料の存在も併せ考慮する必要がある)、取引の場所が移ること、課税対象とならない代替的な金融商品等を生むこと、金融商品の満期の違いや商品性によって効果が違ってくること、といった認識が存在する。

(4) いずれにせよ、すべての税は何らかの形で経済活動に影響を与えるものであり、取引課税の影響も同程度の税収を上げるためのほかの税の引上げの場合との比較において評価する必要がある。信用できる帳簿や記録のない個人投資家に関する場合などに、資本取引に対する公平な税負担の確保のために金融取引課税を課している国もあり、その場合、証券投資家に対する課税の全体的なデザインの中で、評価する必要がある。

4 なお、ヨーロッパにおいては、情報化社会に向けての経済構造変化の中で、情報化から生ずる利益を適正に分配する手段として、情報量や記憶容量の単位であるビット数又はバイト数を課税標準とした一種の取引課税である「ビット税」の構想が、学者により提唱されている例がある。