平成10年度の税制改正に関する答申

平成9年12月
税制調査会

目次

  • 税制調査会委員等名簿
  • 一 検討に当たっての視点とその背景
    • 1 平成10年度税制改正をとりまく環境
      • (1) 経済社会の構造改革にどう対応するのか
      • (2) 現在の金融動向と経済情勢にどう対応するのか
      • (3) 財政構造改革との整合性
      • (4) 平成10年度税制改正と三つの要請
    • 2 地方分権の推進
    • 3 税の簡素化
  • 二 平成10年度税制改正の課題
    • 1 経済構造改革と法人税制改革
      • (1) 法人税制改革をなぜ実施するのか
      • (2) 税率の引下げ
      • (3) 課税ベースの適正化
      • (4) 課税ベースの適正化と税率の引下げ
      • (5) 地方法人課税
      • (6) 今後の改革の方向
      • (7) その他の検討課題
    • 2 金融システム改革と金融関係税制
      • (1) 金融システム改革を税制としてどう受け止めるのか
      • (2) 取引課税(有価証券取引税、取引所税)と株式等譲渡益課税
      • (3) 金融システム改革に伴う新しい措置などに関する税制
    • 3 新しい土地状況と土地税制
      • (1) 土地をめぐる状況
      • (2) 不動産の証券化等
      • (3) 現行の土地税制をどう考えるのか
    • 4 その他
      • (1) 課税自主権の尊重
      • (2) 帳簿書類の電子データ等による保存
      • (3) 揮発油税、軽油引取税等
      • (4) たばこについての税制上の措置
  • 三 引き続き検討していく事項
    • 1 納税者番号制度をめぐる新たな状況
    • 2 年金制度改革と年金課税
    • 3 国際的な税の引下げ競争

税制調査会委員等名簿

本答申の審議に参加した委員及び特別委員は、次のとおりである。

委員 特別委員
 今井 敬石 弘光
大澤 雄三 岩瀬 正
大田 弘子川岸 近衛
加藤 寛 神田 秀樹
 栗田 幸雄 幸田 正孝
 神津 カンナ河野 光雄
 後藤 森重 佐野 正人
 小長 啓一 高梨 昌芳
 今野 由梨 橋本 俊作
 堺屋 太一 松永 真理
島田 晴雄柳島 佑吉
竹内 佐和子 吉田 文一
 田中 直毅 
津田 正
 中西 真彦
 平田 公敏
本間 正明
 松浦 幸雄
松尾 好治
 松本 和夫
松本 作衞
水野 忠恒
水野 勝
 宮島 洋
 森下 洋一
森田 明彦
 諸井 虔
 吉永 みち子
 鷲尾 悦也
 和田 正江

なお、行平次雄が途中辞任し、岩瀬正がこれに代わり委員に委嘱された。

(〇印を付した委員及び特別委員は、臨時小委員会に所属した委員及び特別委員である。)


当税制調査会は、本年5月9日の総会において、内閣総理大臣から「21世紀へ向けて、わが国経済社会の構造変化や諸改革に対応した、望ましい税制のあり方について審議を求める」旨の諮問を受けました。その後、当面の検討課題として法人課税、金融関係税制、土地税制などについて、経済社会の構造変化などを念頭に置きつつ議論を行うと同時に、中期的視点から納税者番号制度について議論を深めるなど、15回にわたり幅広く審議を重ねてきました。

金融関係税制については、5月末に設置された金融課税小委員会(以下、「金融小委」という)において、15回にわたり議論が行われ、本年12月3日に「金融システム改革と金融関係税制──金融課税小委員会中間報告──」(以下、「金融小委報告」という)が総会に提 出されました。なお、法人課税については、平成7年10月に設置された法人課税小委員会(以下、「法人小委」という)により、平成8年11月に「法人課税小委員会報告」(以下、「法人小委報告」という)が提出されています。

11月末から、当面の課題である平成10年度の税制改正について検討を行いました。

この答申は、こうした審議を踏まえて平成10年度税制改正に当たっての指針を示したものです。また、可能な限り中長期的な課題に対する整理を行いました。

一 検討に当たっての視点とその背景

1 平成10年度税制改正をとりまく環境

(1) 経済社会の構造改革にどう対応するのか

わが国経済社会の潮流は、加速的に変化しつつあります。少子・高齢化は予想を上回る速度で進展しています。グローバル化・情報化が進む中で、産業構造の転換が求められており、金融システムは市場の競争原理の下で大きな変革が迫られています。

こうした中で、昨年来、橋本内閣においては、活力ある21世紀に向けて、行政改革、財政構造改革、社会保障構造改革、経済構造改革、金融システム改革及び教育改革の「6つの改革」が推進されています。当調査会は、本年1月に「これからの税制を考える」をとりまとめて、経済社会の構造変化に臨んでの税制の望ましい姿や選択肢を提示しました。戦後50年間、わが国を支えてきた経済社会システムが、今やわが国の活力ある発展を妨げる面もあるという認識の下、「6つの改革」が一体的に実現されることを政府に強く要請します。

税制は、公的サービスの財源調達手段であり、国民生活や企業活動の基盤をなすものとして安定性が重視される一方で、「公平・中立・簡素」の基本的考え方に基づきつつ、経済社会の構造変化に適切に対応していくことが求められています。これまでも、このような観点から、昭和63年前後の抜本改革や平成6年の税制改革などが実施されており、税制は時代の変化に応じて大きく変わってきています。平成10年度税制改正においても、更に法人税制や金融関係税制などについて、経済構造改革や金融システム改革などの諸改革に、時機を失することなく対応していくことが重要と考えています。

(2) 現在の金融動向と経済情勢にどう対応するのか

わが国の金融は、護送船団方式という言葉に象徴されるシステムが限界に来ています。また、いわゆるバブル経済の後遺症から依然として脱することができません。昨今、金融市場の国際的な競争が進展する中で、土地担保融資に起因する不良債権問題等を背景として、金融機関の経営問題が相次いで発生し、金融システムに対する不安感が国民の間にみられます。また、金融機関が財務体質の改善を図る一方で、そのことが実体経済に与える影響も懸念されています。わが国の経済については、バブル期の後、政府が累次の経済対策を実施してきたにもかかわらず、いまだ力強い景気回復の軌道には乗っていません。こうした中で、経済の先行きに対する不透明感が経済を足踏み状態に至らせています。今や、金融システムの安定と信頼確保に全力を尽くし、わが国経済を早急に順調な回復軌道に乗せることが、極めて重要な課題となっています。

このため政府は、預金者保護を目的として、公的支援を含めた施策の検討に踏みきったところです。税制面でも、こうした施策にあわせて適切な措置をとることが求められています。バブル経済の発生・崩壊が、実体経済と資産価格との不均衡によるものであることから考えると、「資産」への適切な対応が実体経済の活性化にも役立つのではないかと考えます。具体的には、土地の有効利用の促進や土地取引の活性化、証券市場の活性化などにつながるような税制面での措置を検討していく必要があると考えます。

(3) 財政構造改革との整合性

一方、わが国の財政は危機的な状況に立ち至っていることも事実です。現在の財政構造を放置すると、少子・高齢化などの経済社会の構造変化に対し、行政が的確に対応できなくなるおそれがあります。将来の世代へと負担を先送りすることは世代間の不公平を招くことになります。また、非効率的な財政支出がこのまま続くと、民間投資や経済成長の足かせとなりかねません。

当調査会は、国民の税制への信頼を確保するためには、まず、適正範囲・適正水準の政府であることが大前提であると考え、「これからの税制を考える」などのこれまでの答申において、徹底した行財政改革の必要性を繰り返し訴えてきました。先般、平成15年度までに国及び地方の財政赤字対GDP比を3%以下に抑え、赤字公債発行ゼロを達成することを内容とする財政構造改革法が制定されたことは、当調査会として評価します。平成10年度税制改正に関しては、財政構造改革との整合性を図ることが望まれています。

(4) 平成10年度税制改正と三つの要請

これまで述べたように、平成10年度税制改正は、経済社会の構造改革、金融動向・経済情勢への対応及び財政構造改革という三つの要請に適切に対応していかなければなりません。

当調査会としては、税制は経済社会構造の基盤であるとの認識の下、まず、構造改革に対応した税制の改革を続けることの必要性を強調したいと考えます。経済構造改革に対応した法人税制改革や金融システム改革に対応した証券税制の見直しなど、わが国の経済社会が抱える構造的な諸課題に対して、税制面からも積極的に取り組んでいくことが、消費者や企業の将来に対する不透明感を払拭し、21世紀に向けてわが国経済を自律的な安定成長へと導くものであると考えます。これが、ひいてはわが国の税収構造を安定化し、財政構造改革にも資することになるものと考えます。

現下の金融動向・経済情勢に対応するためには、財政構造改革を一時的に棚上げしてでも思いきった減税を行うことが望ましいとの意見や、土地税制などについて緊急の措置を講じる必要があるとの意見がありました。また、一方で、現在の短期的な痛みは覚悟しつつ諸改革を推進する必要があるとの意見もありました。当調査会はこれまでも財政構造改革の重要性を指摘してきましたが、これは税制が経済情勢に弾力的に対応していく余地を否定するという意味ではありません。現在、金融システム安定化や景気回復のための諸施策がとられる中で、平成10年度税制改正においては、税制面でも緊急の措置を講じていくことが必要であると考えます。

2 地方分権の推進

国と地方のあり方を見直し、住民に身近な行政は、住民に身近な地方公共団体が責任を持てる体制を作っていくために、地方分権の推進に取り組んでいく必要があります。

昨年12月以降、4次にわたって地方分権推進委員会から出された勧告は、国民がゆとりと豊かさを実感できる社会を実現するための地方分権を推進する具体的な指針です。

地方分権の推進に当たっては、地方の財政基盤を確立することが不可欠であり、地方における歳出規模と地方税収入の乖離を縮小するという観点に立って、課税自主権を尊重しつつ、地方税の充実確保を図っていくことが必要です。

国と地方公共団体との役割分担を踏まえ、国と地方の税源配分のあり方についても検討しながら、税源の偏在が少なく、税収が安定した地方税体系を構築していくことが必要です。当面は、国庫補助負担金の廃止・縮減の状況や事務・権限の委譲の状況を踏まえて、地方税等の必要な地方一般財源を確保することが必要であると考えます。

地方分権の推進は地方公共団体の自己決定権と自己責任の拡大を伴うものです。また、財政構造改革という観点からも、各地方公共団体が自ら強い自覚をもって徹底した行財政改革を行うとともに、市町村合併や広域行政の推進にも取り組んでいくことが求められます。

3 税の簡素化

政府活動に必要な税収額を「誰が、どの程度、どのように負担していくか」について考えるために、「公平・中立・簡素」の原則があります。振り返ってみますと、個人所得課税から消費課税へのシフトを目指した先般の税制改革は、水平的公平の意義を重視し、「税の公平性」に着目したものであると整理できます。また、現在、取り組んでいる法人課税や金融関係税制の改革は、国際化の進展や市場重視の流れの中で、経済活動や金融資産に対する「税の中立性」に重点を置いているものとも考えられます。

今後は、「税の簡素化」という視点が一層重要になってくるように考えられます。制度・執行両面において税が簡素でわかりやすく、透明性が高いことは、納税者の税に対する理解や信頼を深めると同時に、国民が自由で予見可能性の高い経済活動を行う上で一層重要になってきています。先般とりまとめられた「行政改革会議最終報告」(平成9年12月)でも、簡素にして効率的かつ透明な政府を実現することが行政改革の要諦であるとしており、税制についても簡素化を進める必要がある旨、指摘しています。

二 平成10年度税制改正の課題

1 経済構造改革と法人税制改革

(1) 法人税制改革をなぜ実施するのか

わが国が経済構造改革を進めていくに当たっては、様々な分野での規制緩和を通じて新規産業の創出や企業活力の発揮を促していくことが重要です。法人課税についても、経済活動に対する税の中立性を高めることにより企業活力と国際競争力を維持する観点から、税率と課税ベースの両面にわたる検討を行ってきました。こうした視点に立った法人課税の見直しは、主要先進国においても、既に実施されてきたところです。

(2) 税率の引下げ

わが国では、法人課税の表面税率(調整後)を5割を下回る水準まで引き下げるため、昭和63年前後の抜本改革で法人税の基本税率を37.5%としました。この結果、先進諸外国の法人税率との格差はかなり縮小してきていますが、わが国の国税、地方税を通じた法人課税の表面税率(調整後)は、49.98%と他国と比べてなお高いものとなっています。そこで、この法人課税の表面税率(調整後)を更に引き下げることにより企業活力や産業の国際競争力に配意するため、平成10年度税制改正では国の法人税の基本税率をアメリカの水準程度に引き下げることが適当であると考えます。あわせて、中小法人に対する軽減税率や公益法人または協同組合等の税率についても引き下げることが適当であると考えます。また、地方税においても、課税ベースの適正化を勘案しつつ、法人事業税の税率を引き下げることが適当であると考えます。

(3) 課税ベースの適正化

他方、法人課税の課税ベースは、昭和40年に法人税法の全文改正が行われて以来、全般的な見直しは行われていません。その間、経済社会の変化や国際化の進展の中で、新しい経済取引の出現や、税制における公平・中立・透明性などの要請の一層の高まりがみられるようになってきました。法人課税の課税ベースについては、このような時代の変化や税制に対する要請に対応した見直しが必要となってきています。

具体的には、当調査会においては、保守的な会計処理の抑制、会計処理の選択制の抑制・統一化、経費概念の厳格化など「法人小委報告」に示された課税ベースの見直しの考え方を基本として検討を続けてきました。この結果、引当金の廃止・縮減を行うとともに、建物の減価償却方法や収益計上基準の選択制の抑制、上場有価証券の評価方法の見直し、役員報酬の損金算入の適正化、租税特別措置・非課税等特別措置の整理・合理化などを実施することが適当と考えます。

(4) 課税ベースの適正化と税率の引下げ

課税ベースの適正化により得られる財源は、税率の引下げにあてていくことができます。

なお、現在の厳しい経済状況にかんがみ、税負担を更に軽減していくべきではないかという強い意見があります。また、中小企業等に対して配慮する必要があるのではないかとの意見がありました。

今回見直される課税ベースの項目の中には、引当金の縮減など財源としては一時的なものがあります。これらの見直しについては、税負担や企業活動に大きな影響を及ぼすことから、激変緩和のためにある程度の期間を設けていくことが必要です。また、その際には、財政構造改革期間との整合性を念頭に置くことが適当です。その期間後の減収については、経済構造改革や財政構造改革の進展状況をみながら、総合的に検討していくことが適当であると考えます。

(5) 地方法人課税

今回の法人課税の見直しにおいては、地方の法人課税についても検討を加えました。地方公共団体にとって重要な財源となっている法人事業税については、その税の性格などから、従来から、外形標準課税の問題が議論されてきた経緯があります。

事業税が外形基準によって課税されることとなれば、事業税の性格が明確になるとともに、税収の安定性を備えた地方税体系が構築されるなど、地方分権の推進に資するものと考えられます。また、これに伴い、法人課税の表面税率(調整後)の引下げや赤字法人に対する課税の適正化にもつながるものと考えます。この場合において、具体的な外形基準については、利潤、給与、利子及び地代等を加算した所得型付加価値など、引き続き幅広く検討することが必要と考えます。その際、中小法人の取扱いや税負担の変動、他の地方税との関係などの課題についても検討すべきです。

地方の法人課税については、平成10年度において、事業税の外形標準課税の課題を中心に総合的な検討を進めることが必要です。

(6) 今後の改革の方向

今回の改革は、法人税の基本税率を国際的な水準まで引き下げることを中心に検討が行われました。今後は、事業税における外形標準課税の検討が法人課税の表面税率(調整後)の議論にもつながることを念頭に置きながら、法人課税の表面税率(調整後)のあり方について検討を進めることが適当と考えます。さらに、他の税の引上げによって法人課税の表面税率(調整後)を引き下げていくことを検討する場合には、所得・消費・資産の税体系のバランスの中に占める法人課税の位置づけについて議論を深め、国民の合意を経て結論を得る必要があります。

(7) その他の検討課題

租税特別措置・非課税等特別措置については、当調査会において、それらが特定の政策目的を実現するための政策手段であり、税制の基本原則の例外措置であることから、その徹底した整理・合理化が適当であると提言してきました。例えば、これまでの答申で指摘してきている事業税の社会保険診療報酬に係る課税の特例措置の見直しについて、検討することが必要です。

連結納税制度については、企業の分社化を促進する視点などから、その導入を求める意見があります。それに対して、わが国の法人税制は、商法などの現行諸制度を基礎に、法人ごとに課税することを基本としているため、同制度はこのような基本的考え方の変更につながることから、慎重に検討を進める必要があるという意見もあります。したがって、連結納税制度については、今後、企業経営の実態や、商法等の関連諸制度のあり方、さらには、租税回避や税収減の問題といった諸点を踏まえつつ、引き続き検討を深めていく必要がある課題です。

なお、法人課税について課税ベースが適正化され、表面税率(調整後)の引下げが行われる状況の下で、個人所得課税の税率構造などについて、最高税率のあり方を含めて国民的な理解を得ながら、更に議論を進めていく必要があると考えます。

2 金融システム改革と金融関係税制

(1) 金融システム改革を税制としてどう受け止めるのか

21世紀を目前に控え、マーケット・メカニズムを最大限に活用し、資源の最適配分が実現される金融システムを構築していくため、金融システム改革の取組みがはじまっています。

金融関係税制については、従来から金融資本取引の特徴に配慮した税制の構築に努めてきましたが、今回、フリー(市場原理が働く自由な市場に)、フェア(透明で信頼できる市場に)、グローバル(国際的で時代を先取りする市場に)の三原則の下で進められる金融システム改革を税制としても受け止め、以下のような観点から時機を失することなく対応していくことが求められています。

[1] グローバルな資金シフトが容易となり、金融資本取引の「足の速さ」が増してい ることを受けて、金融関係税制の税制全体の中での位置づけを検討していく必要が あります。

[2] フリーの原則の下、新しい金融商品・取引が出現してくることに対応して、各種 金融商品に対する課税のあり方を検討していく必要があります。

[3] フェアの原則に関連し、税負担の公平確保、租税回避行為の把握・防止が重要と なります。

金融システム改革への税制面での対応として、まず、政府は、当調査会における審議を受けて、今秋、平成10年4月からの改正外為法への緊急の対応策を講じました。今回、当調査会は、総合的な改革がはじまっている金融・資本市場に関する税制等について検討を行いました。

(2) 取引課税(有価証券取引税、取引所税)と株式等譲渡益課税

イ 金融システム改革を推し進め、効率的な資本市場を整備していくことは重要な政策課題であり、その流れの中で証券税制のあり方を考えていく必要があります。有価証券取引税と株式等譲渡益課税は、理論的には別の税ですが、同じ株式の移転に伴う課税として密接な関係にあり、ともに平成8年度税制改正において2年間の時限的措置が講じられているため、今回、証券税制全体の中で検討を行いました。

金融のグローバル化が進む中で、市場取引は取引コストに対してより敏感になってきており、委託手数料、取引課税を含めた全体的なコストが国際的に高い水準にあると、取引自体が海外にシフトしてしまう可能性があります。金融システム改革を推進し、金融・資本市場を活性化させるという観点から、取引課税を廃止してはどうかという問題提起がなされています。

こうした問題提起を受けて、金融小委においては、取引課税が取引に与える影響、取引課税の意義、諸外国の制度等について全般的な検討を行いました。(注)

(注)金融小委報告(抄)

『取引課税の廃止は、他の金融・証券市場改革とあいまてば中長期的には市場にプラスの効果をもたらし得るところであり、金融のグローバル化が進む中で市場取引が取引コストに対してより敏感になってきていることや、現下の市場の動向にかんがみれば、金融システム改革を強力に推進していく政府の意思を明らかにするためにも、政策的な見地から、その具体的なスケジュールはともかく、思い切って廃止の方向を示すべきであるとの意見があった。これに関連して、株式等譲渡益課税について申告分離一本化といった適正化が実現されない中で取引課税のみを廃止することは適当でないとの意見があった。

これに対して、金融のグローバル化に伴い所得の捕捉が困難になっていく中では、取引課税にはむしろ税体系及び税収面から一定の意義が認められるところであり、税率水準次第では現実の取引への影響も少ないことから、取引課税を廃止するのは適当ではないという意見があった。また、金融グローバル化の進展等を踏まえて、取引課税の税負担の軽減を検討する場合にも、金融システム改革全体の動向を見極め、税収面からの費用対効果を検証し、株式等譲渡益課税の適正化状況を踏まえていく必要があるとの意見があった。』

当調査会では、金融小委での議論をもとに、現在の金融動向・経済情勢、財政構造改革との整合性、税制改正全体の中での位置づけなどを考えながら、更に検討を加えました。

ロ 取引課税については、それが株式等譲渡益課税を含めた証券税制全体の中で果してきている役割を考慮に入れながら、金融システム改革を推進し、市場の活性化を図るという政策的な観点や、金融グローバル化に伴い金融取引の移動可能性が高まっていることを加味していく必要があります。こうしたことから、平成10年度税制改正では、取引コストの一部を構成する有価証券取引税や取引所税の税負担を軽減することが適当です。

ハ また、取引課税の今後のあり方については、株式委託手数料の自由化をはじめとする金融システム改革の進展や資本市場の活性化の状況、取引態様の変化、株式等譲渡益課税の適正化の状況、財政状況などを総合的に勘案しながら検討を行い、廃止を含めた見直しを行っていくことが適当であると考えます。取引課税を廃止する場合には、株式等譲渡益課税について申告分離一本化といった適正化を行う必要があると考えます。

ニ 株式等譲渡益課税については、現在、源泉分離課税方式と申告分離課税方式の選択制となっています。この点についても、金融小委報告をもとに検討しましたが、当調査会としては、源泉分離課税方式は廃止し、申告分離課税方式に一本化することが適正化の方向であると考えます。ただ、現在の証券市場の状況等に政策的に配慮すれば、直ちに源泉分離課税方式を廃止し申告分離方式に一本化するのは適当でないという意見がありました。この場合でも、当調査会は、課税の適正化に向けて、少なくとも源泉分離課税の税率等の見直しに努める必要があると考えます。また、地方税における課税の適正化に努める必要があります。

(3) 金融システム改革に伴う新しい措置などに関する税制

このほか、当調査会は、金融小委報告をもとに、ストック・オプション、金融持株会社、特別目的会社、会社型投資信託に関する税制について検討しました。

ストック・オプションの一般化に伴い、所要の要件を満たしたストック・オプションについては、適正な課税の確保の視点に立って、その一般化の趣旨がいかされるよう、課税繰延べ等適切な課税方法を検討する必要があると考えます。

金融持株会社に関する税制については、いわゆる「三角合併方式」による銀行持株会社の創設に伴い、銀行の株主が銀行持株会社に対して行う現物出資に係る譲渡益に対する課税等が発生します。これについては、「三角合併方式」の設立形態を考慮しつつ、銀行以外の法人が持株会社を創設する場合などとの課税の公平等の考え方に基づきながら、適切な対応を図ることが望ましいと考えます。

特別目的会社(SPC)や会社型投資信託に関する税制については、法人段階で課税をどうするか、投資家への課税をどうするかなどを検討しなければなりません。それぞれの制度が具体化されていく中で、税負担の公平等の観点を考慮に入れて、その趣旨がいかされるよう適切な対応を図ることが望ましいと考えます。

また、生命保険料控除・損害保険料控除、課税繰延べ、老人マル優など、従来から当調査会で見直しについて指摘してきている項目についても、金融システム改革の下では、金融商品間、各業態間の課税の公平性・中立性の要請からの見直しについて早急に議論を進めていく段階に来ています。

なお、個人住民税が非課税となっている株式等譲渡益や割引債の償還差益などの課税の適正化を図るため、利子割方式も参考にしながら検討する必要があると考えます。

3 新しい土地状況と土地税制

(1) 土地をめぐる状況

バブル崩壊以来、土地をめぐる状況は大きく変貌してきています。バブル期に急騰した地価は、平成3年以降下落に転じ、平成8年度税制改正における土地税制の総合的見直しの後も、下落を続けています。特に大都市圏の商業地では、地価の大幅な下落により、バブルの部分は解消されつつあります。

こうした地価下落を背景に、投機的な土地取引は鎮静化しつつあります。また、最近、都心部の商業地では、好条件の土地とそうでない土地との間で価格動向に二極化の傾向がみられ、収益価値を反映して地価が形成されつつあることが伺えます。以上のような最近の動きは、従来の土地本位的な経済システムにも変化が生じてきていることを示唆しているように考えられます。

こうした流れの中で、政府は本年2月に「新総合土地政策推進要綱」を閣議決定し、土地政策の目標の重点をこれまでの地価抑制から土地の有効利用の促進へと移してきています。

近年の地価下落は、国民経済的にはプラスの効果も生み出してはいるものの、その下落が急激かつ継続的であることから、「バブル崩壊の清算」の長期化による問題が 生じてきています。バブル期の過剰投資の後遺症として悪化した企業や金融機関のバランスシートの改善は思うように進まず、企業経営を圧迫し、不良債権問題を長期化・深刻化させ、金融システムへの不安を生じさせています。

(2) 不動産の証券化等

こうした不良債権問題に対処するためには、不動産の流動化を促進することが重要な政策課題となってきています。その際、新たなスキームを創設し、不動産の証券化といった直接的な方法で対応するのが有効ではないかと考えます。こうした考えから、現在、特別目的会社(SPC)を活用して不良債権の担保資産を含む不動産を流通させる新たな仕組みが検討されています。不動産が不良債権の担保となっている場合に は、それを証券化することで不動産の現保有者にキャッシュフロー(売却代金)が発生し、これにより債務を返済することが可能となり、不良債権の処理、バランス・シートの改善に資すると期待されます。こうした新しい枠組みに税制も適切に対応していくことが求められています。

アメリカでも、不動産の証券化による流動化スキームを活用することにより、広く一般投資家による不動産投資がなされる環境が整備され、不動産市場が活性化しています。わが国においても、不良債権の処理を進める上で、こうしたスキームが大きな役割を果たすことを期待します。

(3) 現行の土地税制をどう考えるのか

イ 現行の土地税制は、土地の公共性など土地基本法の基本理念に基づき、長期的・構 造的な視点から作られました。「土地税制のあり方についての基本答申」(平成2年10月)においては、次の2点を土地税制の考え方の基本に据えています。

1 「土地に関する税負担の適正・公平の確保」により、資産格差の拡大に対処し、勤労所得等に対する税負担とのバランスを図る。

2 「土地政策の一環としての税制」という観点から、土地の資産としての有利性の 縮減、投機的土地取引の抑制、土地の有効利用の促進を図る。

この考え方の底流にあるのは、所得・消費・資産等のバランスのとれた税体系の構築、わが国経済の土地本位的な体質の改善、高コスト構造の是正という視点です。わが国の地価水準は主要諸外国と比較すればなお高く、国民意識の中には「土地神話」が残っているのではないかとの指摘もあります。

このように現行の土地税制は土地基本法の制定を受けて設計されたものであり、その基本的枠組みの変更に当たっては、十分な検討が必要です。ただ、前述したような現在の土地をめぐる動向が金融システムや経済全体へ与える影響の大きさなどにかんがみれば、緊急の措置として、思い切った対応策を検討すべきであるとの意見が出されました。

上記のような視点に立ち、土地税制についての平成10年度税制改正における取組みについて検討しました。

ロ 地価税については、地価抑制という目的を達したので廃止すべきではないかとの意見がありました。これに対し、地価税を廃止することは、土地の低未利用を温存することとなり、土地の有効利用という政策目的に逆行することから適当ではないとの意見がありました。

また、地価税には、1経済のストック化が進む中で資産に適正な負担を求めていく必要があること、2現在の固定資産税の負担水準は地域ごとにバラツキがあり、土地の資産価値に応じた負担を求めるものになっていないことなどを考えると、資産課税として一定の意義があるものと考えられます。

地価税の負担については、最近の経済情勢にかんがみ、当面の緊急措置として税負担の水準に一定の調整を加える余地があるのではないかとの意見がありました。また、前述したようなバブル崩壊の後遺症として生じている現下の状況に対処するため、当面の緊急措置として、地価税の適用を一定期間停止(いわゆる凍結)してはどうかとの意見がありました。

今後、地価税をどう考えていくかについては、土地政策の方向を踏まえ、土地税制全体の中での位置づけを明らかにしながら、検討を進めていくことが適当ですが、現在の土地基本法を前提とする限り、少なくとも廃止は適当ではないと考えます。 ハ 土地譲渡益課税については、土地税制改革以降も、年々の土地をめぐる状況を考慮し、累次の見直しを続けてきました。しかしながら、ここに至ってもバブル経済の後遺症は依然として続いており、この際、土地の有効利用の促進や土地取引の活性化のために、以下のような緊急の措置をとってはどうかとの意見がありました。

1 個人や法人の土地譲渡益に対する課税を思い切って軽減するとともに、資産の買 換え特例についての要件緩和を図る。

2 投機的な土地取引を抑制するために、バブル経済期において特例的に導入された 諸措置については、もはや土地投機の動きは鎮静化していることから、これを見直す。

ただし、こうした措置をとるとしても、税負担の公平の観点から、勤労性所得との均衡に配慮すべきであるとの意見がありました。また、譲渡益課税の中で課税ベースからはずれる特別控除や軽減税率についてもあわせて検討する必要があるとの意見がありました。

ニ 固定資産税については、平成9年度より、負担水準の均衡化を図るための措置が講じられています。平成12年度以降の税負担については、同年度の評価替えの動向及び負担水準の状況や市町村財政の状況等を踏まえた上、さらに負担の均衡化・適正化を進める措置を講ずることとされており、そのための検討を進めることが必要です。

また、納税者の理解と信頼を確保するため、評価に関する情報を開示するための路線価の公開、納税者自身が課税内容を確認することができるようにするための課税明細書の送付等、納税者に対する情報の開示を更に進める必要があります。

4 その他

(1) 課税自主権の尊重

地方分権を推進する観点から、地方公共団体の課税自主権を尊重し、各地方公共団体が、住民の意向を踏まえつつ、自らの判断と責任において地方税の運用を行い得るための制度を拡充していくことが必要です。このため、平成10年度においては、法定外普通税の許可制度を廃止して、国との合意(同意)を必要とする事前協議制に改め、新たに法定外目的税を創設するとともに、個人の市町村民税の制限税率や固定資産税等において標準税率を超える税率で課税する場合の国の関与を廃止するなど所要の措置を講じることが適当です。

(2) 帳簿書類の電子データ等による保存

適正公平な課税を実現するためには、帳簿書類(法人税などの会計帳簿や決算関係書類等)の記録の確実性や永続性が確保される必要があります。そのため、これまでは、納税者がコンピュータで会計処理を行い、会計記録を電子データで保存している場合であっても、紙の形で保存しなければならないこととしていました。

しかし、情報化が進展し、コンピュータで会計処理を行う納税者が増加するとともに、取引のペーパーレス化も急速に普及しつつある中で、いつまでも帳簿書類について紙の形で保存することを求めることは、現実的でないばかりでなく、納税者に過度の負担を強いることにもなりかねません。

こうした新しい時代の流れに対応し、納税者の帳簿書類の保存の負担軽減を図るために、記録段階からコンピュータ処理によっている帳簿書類については、電子データ等により保存することを認めることが必要であると考えます。

その際には、コンピュータ処理は、痕跡を残さず記録の遡及訂正をすることが容易である、肉眼でみるためには出力装置が必要であるなどの特性を有することから、適正公平な課税の確保に必要な条件整備を行うことが不可欠です。

また、電子データ等による保存を容認するための環境整備として、EDI取引(取引情報のやり取りを電子データの交換により行う取引)に係る電子データの保存を義務づけることが望ましいと考えます。

(3) 揮発油税、軽油引取税等

揮発油税、軽油引取税等の現行暫定税率については、国道・地方道の整備状況、新たな道路整備五箇年計画の策定状況、財政構造改革の推進等を踏まえた取扱いが必要です。

道路特定財源制度については、自動車重量税に係る従来からの歳出面での取扱いを含め、限られた財政資金を有効に活用するため、その制度の是非に踏み込んで検討する必要があるとの意見が多く出されました。これに対し、受益者負担の観点と道路整備の必要性等から、なおその制度を維持する必要があるとの意見がありました。

一般に、特定財源制度は、特定される公共サービスの受益と負担との間にかなり密接な対応関係が確認される場合には、一定の合理性を持ちますが、他方、それが資源の適正な配分を歪め、財政の硬直化を招くものであることから、その妥当性については常に吟味していくことが重要であります。したがって、この問題については、今後、これらの意見や諸外国の例を参考にして、財政需要の優先度や財政の資源配分機能のあり方を考えながら、引き続き幅広く検討していく必要があります。

(4) たばこについての税制上の措置

政府・与党の財政構造改革会議から国鉄長期債務及び国有林野累積債務の処理方策のスキームが提案されています。これに対する当調査会の考え方を示せば以下のとおりです。

本処理方策の是非については、当調査会において、なお一層の歳出削減努力を図るべきではないか、自動車重量税の使途の見直しで対応すべきではないか、政府保有株式の活用により賄えないかなど、様々な意見が出されました。また、仮に税負担を求めざるを得ない場合でも、一般会計の歳入歳出全体の中で議論すべきであり、特定の事項の処理に特定の税目をあてることは好ましくないとの意見も多く出されました。 他方、国鉄及び国有林野の債務の処理は先送りの許されない問題であり、何らかの対応をせざるを得ないとの指摘もありました。特殊なし好品であるたばこに係るたばこ税については、当調査会はかねてより、その課税方式が従量税によっており、価格の上昇とともに税負担割合が低下する傾向にあること等から、随時負担の見直しを行い、適正な税負担水準の確保に努める必要性があることを指摘しています。このため、可能な限りの財源確保を行った上で、なお新たな歳入確保が必要な事態であれば、この考え方に基づき負担の適正化の範囲内で税負担増を求めることは、財政構造改革を推進すべき観点からはやむを得ないものであることは理解できるとの意見がありました。

これに対し、たばこに対する税負担増については、2年連続の価格引上げの要因となり消費減を招くことになるが、それほど税負担の適正化を図らねばならない緊要性がないのではないかとの意見や、特定の物資を対象とした税負担増は税制全体のあり方として望ましくないのではないかとの意見がみられました。

いずれにせよ、仮にこれを行う場合には、臨時・異例の措置であり、これまでの国と地方のたばこ税の関係を基本的に変更するものではないことから、特別税の形式を採らざるを得ません。なお、この場合、たばこに対する全体的な税財源配分が国に偏った形のものとなることから、今後、このことを十分念頭に置いて、地方税源の充実確保に努めることが必要であるとの強い意見がありました。

三 引き続き検討していく事項

1 納税者番号制度をめぐる新たな状況

納税者番号制度については、かつては主に利子・株式等譲渡益の総合課税化との関連で議論されていましたが、近年は、税務行政の機械化・効率化や所得・資産課税の適正化を同制度の目的として多角的な検討が進められてきています。今年度は金融小委でも検討を行いました。

最近、納税者番号制度をめぐる環境には変化がみられます。日常生活において各種カードの普及に伴い、番号の利用が一般化しており、基礎年金番号の実施、住民票コードに関する法改正試案公表といった行政による全国一連の番号の整備が進んでいます。番号利用の普及等を背景に、アンケート調査等によれば、納税者番号制度に関する国民の理解も広がっているとみられます。また、金融システム改革に伴いクロスボーダーの資金シフトが容易となる中で、資料情報制度の充実が要請されています。さらに、グローバル化、情報化の下、電子商取引など取引内容は複雑化、広域化しており、これに対応した適正、公平な課税が要請されています。これらの要請に応えるためには、番号の利用による効率化が有効と考えられます。

このように状況が変化していることから、納税者番号制度についてあらためて議論を深めていくことが必要となってきています。同制度の目的についても議論の展開が求められており、その際、同制度が行政の効率化等の点で基本的に有効であることとともに、納税者にとっては課税の公平性が確保され、課税への信頼が高まることなどをあわせて考えていくことが必要です。プライバシー保護について、個人情報の取扱いを含め問題となる局面を整理して、引き続き検討するとともに、経済取引への影響、コストと効果等についても更に具体的に考えていかなければなりません。政府においても、国民の間で納税者番号制度の理解が更に深まるよう適切な情報の提供等に努めることが要請されています。

納税者番号制度をめぐる環境は新しい局面を迎えており、当調査会で、国民の受け止め方を十分に把握しつつ、より具体的かつ積極的な検討を行わなければならない時期に来ています。

2 年金制度改革と年金課税

少子・高齢化の進展、経済社会の成熟化等を背景に、現在、社会保障構造改革が進められています。公的年金制度については、平成11年の財政再計算の際に将来の給付と負担の適正化、公私の年金の適切な組合せが図られるよう年金制度改革を行うための検討が開始されています。

年金課税や高齢者に対する課税についても、公平とりわけ世代間の公平の観点、中立、簡素の観点から、拠出、運用、給付の各段階における課税について検討する必要があります。この検討においては、年金などに対する税制上の措置も一つの公的負担であることを考慮して、老後の生活を支えるため全体として効率的なシステムを構築することが重要です。高齢者にはきめ細かな配慮が必要であるとしても、高齢者を一律に経済的弱者と捉える従来の考え方の見直しが求められているのではないでしょうか。

公的年金については、拠出段階が非課税であるとともに給付段階が実質的に非課税となっていますが、年金受給者の増加や年金所得の増大等、年金制度が成熟化していることを考えると、社会保険料控除及び公的年金等控除について検討する必要があります。 企業年金及び個人年金については、老後生活における自助努力や公的関与等からみて、年金制度全体の中でどのように位置づけるかについて検討することが不可欠です。なお、企業年金について、適格退職年金に係る特別法人税の取扱いについては早急に検討する必要があるとの意見がありました。また、現行の制度が確定給付型であるのに対して、ポータビリティのある確定拠出型年金の取扱いなどに関する議論が求められているとの指摘がありました。個人年金については、その他の金融商品との間で課税の中立性、負担の公平性の確保を図る必要があると考えます。

これらの課題を含めて、年金課税や高齢者に対する課税については、年金制度改革の検討状況にあわせ、今後、幅広い見地からの基本的な見直しを進めていく必要があります。

3 国際的な税の引下げ競争

経済のグローバル化、国際的な資本移動の自由化等を背景に、「税のダンピング」、すなわち外国からの資本を誘致するために優遇税制等を導入する政策を意識的に採用する国が目立ってきています。金融・サービスのようないわゆる「足の速い」経済活動について、このような税の引下げ競争が行き過ぎると、[1]労働、消費といった可動性の低い経済活動に対する相対的重課につながり、税体系全体の公平性・中立性が損なわれる、[2]各国課税ベースが浸食される、[3]貿易・資本取引が歪曲される、という問題が生じるおそれがあります。

こうした「税のダンピング」には、各国の税当局が国際的に協調して行動することが不可欠と考えます。昨年来OECDにおいて、有害な税の競争を牽制するため、ガイドラインを策定し、それに該当するような優遇税制の導入制限・縮減等が検討されており、来年春に報告書がとりまとめられることになっています。

このように、税について国際的協調を図っていくことの重要性はますます高まりつつあります。当調査会としては、今後も、政府がこうした検討に積極的に参加していくことを期待します。