野口英世アフリカ賞ニュースレター 創刊号平成20年 8月

ニュースレター第2号

創刊に寄せて

山本事務次官

野口英世アフリカ賞は、小泉元総理により構想が表明されてから2年の準備期間を経て、本年5月に第1回授賞式が開催されました。第1回受賞者には、アフリカで30年以上にわたりマラリアをはじめとする感染症の免疫病理学、疫学、人類学、行動学等に及ぶ多角的研究と実践対策に功績したグリーンウッド博士と、40年間、生涯をアフリカに住む人々特に女性と子どもの保健と福祉の向上と、コミュニティにおける基礎医療サービスの提供に尽力されたウェレ博士が選ばれました。両受賞者の業績は、この賞の使命であるアフリカの医学の進歩と保健の改善に寄せる私たちの期待に応えるものとして、たいへん意義深いものです。
またこの賞は、受賞者個々人の画期的な創造や勇気のみならず、その結果アフリカの人々の病の問題がどう解消され、改善されたかという社会のレベルでの影響も重視しています。グリーンウッド博士とウェレ博士の長年にわたる活動は、医学研究や医療活動が持つべき人間社会との深いつながりに目を向けさせてくれました。
今後は四半期に一回のペースで、両受賞者の活動やアフリカにおける医療や保健をめぐる動きなどを幅広く取材し、皆様に紹介していきたいと考えております。ニュースレターを通じて、皆様とアフリカとの間の新たな交流と協力の機会が生まれることになれば幸いです。

内閣府事務次官 山本 信一郎

 
黒川委員長

5月28日、TICAD 4の1日目の夜、天皇皇后両陛下のご臨席のもと、第1回野口英世アフリカ賞の授賞式が行われました。受賞されたグリーンウッド博士とウェレ博士ともとても謙虚で、気さく、しかも野口英世の精神をそのまま具現化するような方たちです。お二人とも夫婦共に支えあい、助け合い、40年も前から30年以上にわたって、アフリカでここまでの仕事をされたことは本当に畏敬の念を禁じられません。選考委員長として、世界に誇れるすばらしい選考結果となったことを、心の底からうれしく思います。アフリカから40ヵ国を超える元首と政府の長が参加され、本当にお二人のお人柄を表すような清清しく、気持ちのいいレセプションでした。小泉元総理はこの賞の創設者としての挨拶をされ、「今日、ここの会場の皆さんの上に野口博士の魂が降りてきているようだ。」といわれましたが、会場全体に、本当にそんな雰囲気がありました。
両受賞者の活動を広く紹介するニュースレターが刊行されるとのこと、大変うれしく思います。ニュースレターを通じて、野口英世アフリカ賞の応援団を広げていきたいと思います。

内閣特別顧問 (野口英世アフリカ賞委員会委員長) 黒川 清

第1回受賞者の紹介

【医学研究部門】

ブライアン・グリーンウッド博士
1938年英国生まれ
ロンドン衛生熱帯医学校教授

アフリカで30年以上にわたり現地に密着した先駆的なマラリア研究を行った。博士の基礎研究及び応用的臨床研究は、簡単で質の高い手法、新薬やワクチンの現場試行という形をとり、アフリカ国内あるいは国際レベルで重要な公衆衛生政策の科学的基礎を提供した。また、熱帯医学のフィールド研究のあり方を根本的に変えたことも重要な業績である。博士が研究を始められた1960年代頃までの熱帯医学は、衛生を主眼とする植民地経営や軍の付属的な活動と見られることが多かったが、博士は、アフリカ固有の複雑な生態系や現実生活の諸問題への深い理解に基づき、多くの学問分野を動員した総合的学問に変革した。さらに、一貫して若いアフリカ人の研究者の研修や支援に力を注いでこられた。こうした人材育成を通じた研究者や臨床医の活躍が、科学界におけるアフリカ医学研究の地位向上に繋がっている。

【医療活動部門】

ミリアム・ウェレ博士
1940年ケニア生まれ
ケニア国家エイズ対策委員会(NACC)
委員長

40年間にわたり地域レベルの医療サービスの提供の実践面に焦点を当てて、アフリカの人々の健康と福祉の増進に貢献した。コミュニティ・ベースの最も典型的な事例は、白人入植者が使用するものとして長年ケニア人が利用を忌避した公衆トイレを継続的に設置し、実際に使用させることにより衛生状況を改善させたこと、地域の診療所に子供たちを小グループに分けて予防接種に連れて行くことにより、乳幼児接種率を大幅に引き上げたことが上げられる。このような革新的な取組例は博士により体系化され、ケニアのみならず東アフリカ、ひいてはアフリカ大陸全体に影響を与えた。また、ケニアで深刻な保健・社会問題にもなっているHIV/AIDSの対策に関し、先駆的な取り組みを始め、ケニアのHIV感染率及びAIDSによる死亡率が一貫して減少した。さらに博士は、アフリカ最大の保健NGOであるAMREFを指揮して市民社会の力を活用した、農村部への医療サービス拡大にも貢献した。

第1回授賞式及び関連行事

5月28日、第1回野口英世アフリカ賞の授賞式及び記念晩餐会が、天皇皇后両陛下ご臨席の下、アフリカ各国首脳をはじめ第4回アフリカ開発会議(TICADⅣ)招待の賓客等335名の出席を得て盛大に行われました。これは、横浜で開催されたTICADⅣの初日をかざる重要な行事となりました。受賞者には、メダルと表彰状、賞金1億円の目録、寄附者の芳名録が贈られました。受賞者2名は、授賞式に併せて5月27日から6月1日まで来日し、授賞式に先立ち、28日午後に横浜市長主催昼食会、長浜公園の記念碑除幕式、記者会見に臨みました。また、授賞式後は、29日には国連大学において受賞記念講演会に出席した他、29日から30日にかけて、野口英世の生地である福島県を訪問し、知事以下地元の人々の熱烈な歓迎を受け、会津大学において講演会を行うほか、野口英世を偲ぶ諸行事にも参列しました。


式辞を述べる福田総理

祝辞を述べる小泉元総理

両受賞者のその後の動き

ミリアム・ウェレ ケニア国家エイズ対策委員会委員長
(医療活動部門)

6月2日早朝、第1回授賞式・関連行事を終えて凱旋したウェレ博士を、ケニア国際空港にて200名に及ぶケニア政府関係者、NGO代表が温かく迎えました。引き続き行われました歓迎朝食会には、アリ・モハメッド大統領府次官などの政府高官、日本からは岩谷在ケニア大使、世界銀行ケニア事務所代表などが出席して、ウェレ博士の偉業を称えました。
その後、ナイロビ中心街の集会場に移して、コミュニティによる暖かい歓迎式が行われました。出席したウジマ財団やAMREFの若者等500名からは、野口英世アフリカ賞を主催した日本に対する謝意、ウェレ博士への称賛を表明されました。ウェレ博士の授賞を通じて、ケニアの一般市民の日本文化や日本人、特に野口英世に対する関心が高まったとのことです。
また、ウェレ博士は第1回受賞を機に、野口英世の精神をアフリカに広めていきたいとの希望を持っており、その第一歩として野口英世アフリカ賞のTシャツを作成され、若者に配布されました。

ブライアン・グリーンウッド ロンドン衛生熱帯医学校教授
(医学研究部門)

7月8日、グリーンウッド博士の第1回野口英世アフリカ賞授賞を記念して、海老原在イギリス大使主催によりレセプションが開催されました。このレセプションには、イギリスの学術界、研究支援団体、イギリス政府関係者、日英交流関係者、日英プレス関係者など幅広い分野の方々88名が出席しました。
好天にも恵まれて、出席者全員が大使公邸の庭で爽やかな初夏を存分に満喫しつつ、和やかな雰囲気の中で開催されました。レセプション会場には、グリーンウッド博士が持参された野口英世アフリカ賞の記念メダル等が展示され、出席者が鑑賞しました。多様なバックグラウンドからの参加者が集まり、今回のグリーンウッド博士の受賞、今後のアフリカ支援、最新の研究動向、日英関係のあり方など多岐にわたる話題で歓談が繰り広げられ、分野を超えた有意な人的ネットワークが構築されました。
また、海老原大使から、野口英世アフリカ賞の意義、野口英世の生涯、グリーンウッド博士の功績等を紹介し、引き続きグリーンウッド博士から、レセプション開催に対する謝辞、野口英世の功績、日本での授賞式の感想等が述べられました。

日本の科学者技術者展シリーズ Dr.NOGUCHI
-世界を勇気づけた科学者・野口英世-

平成16年から始まった科学・技術の発展に寄与した江戸時代以降の科学者・技術者を広く紹介する「日本の科学者技術者展シリーズ」の第6弾として、「Dr.NOGUCHI-世界を勇気づけた科学者・野口英世-」と題して野口英世を紹介する展示が国立科学博物館において行われました。
挫折と成功を繰り返す野口の波乱の生涯、病原菌へのあくなき挑戦、そして努力の末に得た研究成果を、彼を支えた多くの人々との交流をまじえて今日的な視点から紹介されました。また、5月29日からは、第1回授賞式に併せて野口英世アフリカ賞の紹介も行われ、受賞者に対して贈呈された賞牌(レプリカ)が展示されました。


Dr.Noguchi展の入口

レプリカを鑑賞する来場者

野口英世アフリカ賞基金への寄附実績(6月末日現在)

278,573,972円  [個人:1,440、法人:234(計1,674件)]
これまでご寄附を寄せられた方々に厚く御礼申し上げます。

今後の予定

本賞の第2回授賞は、5年後の2013年を予定しています。選考は2011年4月から始め、親委員会、2つの推薦委員会において選考基準、対象分野等を決定した上で、2012年初頭を目処に国内外の主要国際機関、大学・研究所、著名な学者等に推薦依頼を行う予定です。2012年の1年をかけて、各委員会において選考を行い、受賞者を決定します。
また、第2回授賞式までの間には、第1回授賞を通じて表明しました野口英世アフリカ賞の理念(アフリカの保健向上のための研究や保健システムの重要性、アフリカの研究者の育成、熱帯医学や医学研究におけるアフリカの主流化など)を引き続き広め、理解を得ていくため、国内外において積極的に広報活動やシンポジウムの開催などを検討しています。

編集後記

2006年8月1日付で担当室長を拝命して以来丸2年がたちました。このたび異動となり、後任の冨永室長に任務を引き継ぐこととなりました。当初は、あたかも耶馬溪の青の洞門に向き合う僧の心境でありました。しかし、2年後の授賞式という目標を頼りに、少しずつ、トンネルを掘り進めて参りました。開通に至るまでには、多くの支援者からの掘削資金と石工の手助けを頂きました。この場をお借りし、皆様より賜りましたご厚誼、ご指導に厚く御礼申し上げます。アフリカ医学・医療という難所が、本賞開通により少しでも近づきやすくなることを祈っております。(塚田玉樹)

 

ニュースレター第2号