僕らはアフリカ主役型・水野達男 住友化学株式会社 ベクターコントロール事業部長~ 日本+アフリカのハイブリットの新しい文化 ~

住友化学株式会社 ベクターコントロール事業部 水野達男事業部長には、昨年10月のアフリカ貿易・投資促進フォーラム(主催:外務省)での講演を拝聴した事がきっかけとなり、お話を伺うことになりました。

昨年夏の節電の期間に話題となった蚊帳ですが、日本発の蚊帳がアフリカで多くの人の命をマラリアから救っています。水野達男事業部長はその蚊帳、「オリセット(R)ネット」(※注)の開発、販売に取り組まれています。(※注:住友化学では、WHOからも高く評価されている長期残効型蚊帳を開発しています。ポリエチレン製の蚊帳の糸に防虫剤が練りこまれ、その効果は5年以上続き、マラリアを媒介する蚊を防ぎます。またアフリカでの現地生産という形で、現地の雇用を生み出しています。)

条件や文化が日本と異なるアフリカにおいて、アフリカ主役型のビジネスを展開している体験談、マラリアの脅威、マラリア予防に果たす蚊帳の役割、事業がおよぼすアフリカと日本への社会的影響についてお話を伺いました。

(インタビューは2012年3月2日都内で行いました。) 


 

 

 水野達男部長
水野 達男
住友化学株式会社
ベクターコントロール事業部長

1955年2月 兵庫県 西宮市生まれ。1978年 北海道大学農学部卒業後、21年間の米外資系企業での勤務経験を経て、1999年住友化学株式会社入社。同社グループ会社のレインボー薬品株式会社 常務取締役 開発部長を経て、2007年に住友化学株式会社 生活環境事業部 ベクターコントロール部長に就任。2008年10月より現職。  マラリア他感染症対策用の製品の研究・開発、製造、ならびに販売を統括するベクターコントロール(媒介害虫制御)事業全体を運営する。

インタビュー時の水野事業部長
インタビュー時の水野事業部長

 

今も世界で45秒に1人の人が亡くなる感染症、マラリア
1秒でも早く、マラリアで苦しむ現地へ蚊帳を届けたい

水野事業部長は「オリセット(R)ネット」関係のお仕事の前にはどのようなお仕事をされていましたか?

水野事業部長:2002年に住友化学へ入社したのですが、それまではアメリカ資本の会社に22年勤めていました。その後02年から07年までアグロ事業部という部署で肥料や農薬の販売をする仕事をして、07年の4月に「オリセット(R)ネット」を扱うベクターコントロール事業部に来ました。「ベクターコントロール」とは「媒介害虫駆除」という意味で、この事業部を作る時に部長として着任しました。「オリセット(R)ネット」の事業に携わって、今年の3月でちょうど丸5年になりました。

 「オリセット(R)ネット」を使用している様子
「オリセット(R)ネット」を使用している様子
(写真提供:住友化学株式会社) 

ベクターコントロール事業部の仕事とそれまでの仕事で大きく変わった事はありますか?

水野事業部長:大きく変わったのは、アフリ力とのお付き合いが始まったことですね。それまでも海外事業を担当していたのですが、担当地域は南米と北米でした。去年は24回海外出張をして、年間で約120日ほど海外にいましたが、その内の半分はアフリカです。だいたい月に1度はアフリカへ行っていますね。

マラリア対策の現場の第一線に立っていらっしゃいますが、マラリアのもたらす困難や脅威についてどのように感じていますか?

水野事業部長がセネガルで撮影した写真
水野事業部長がセネガルで撮影した写真。
生まれて間もない我が子をマラリアで失い、深い悲しみに暮れる。
(写真提供:住友化学株式会社)

水野事業部長:この写真を見てください。これは2010年にセネガルで撮影した写真で、彼女は19歳の女の子なのですが、ちょうど息子を失ったすぐ後で、絶望感に打ちひしがれています。現地へ行くと、このような悲しい現場に出会うことも少なくありません。

最初にこの事業が始まった頃は、年間100万人くらいの方がアフリカで亡くなっていました。その後、予防用の蚊帳・診断薬・治療薬の3点セットの対策が進められた結果、以前と比べ、マラリアで亡くなる子供の数は劇的に減りました。しかし、現在でも一年に約75万人もの命が奪われているのです。

この仕事が今までの仕事と一番違うことは、命に関わる仕事だという事です。日本にいると、人の死や途方に暮れる人に出会う事はあまりないですが、そうした場面にたびたび立ち会うと、子供の命の重さや母親の悲しみの深さを感じます。ですから私は、現地へいち早く蚊帳を届けることについて、強い使命を感じるのです。前職はデスクワーク中心でしたが、今は現地の病院や蚊帳を配るキャンペーンでの現場から、国際機関などのエアコンが効いたところまで、幅広い場所で仕事を行っています。

マラリア対策にも変遷があると恩いますが、マラリア対策の歴史の中での「オリセット(R)ネット」の位置付けや、「オリセット(R)ネット」の革新的な所を教えてください。

水野事業部長:もともと当社は蚊を対象にした殺虫剤を古くから扱っていて技術力がありますが、「オリセット(R)ネット」が注目されたのは、2001年にWHOがロール・バック・マラリア・キャンペーン(※注1)を開始した時でした。蚊帳は1つたった5ドルで、低価格でありながら予防効果が高いと評判になり、注目されることになりました。

当初WHOは蚊帳を殺虫剤に漬けて乾かすという方法を薦めていましたが、効き目が半年しか持たず、定期的に処理する事が難しいこともあり、普及が進みませんでした。また、蚊帳を漬ける殺虫液を作るためにタブレット型の殺虫剤を配ったところ、それも上手く行かず、こういった状況の中でWHOも危機を感じ、繰り返し殺虫剤に浸す必要のない蚊帳が求められました。

「オリセット(R)ネット」に用いられている技術は、もともとは当社が開発した工場用の虫除けの網戸に使われていたものです。これをマラリアに苦しむアフリカの人々のために役立てられないかと考え、研究開発を積み重ねた結果「オリセット(R)ネット」というマラリア対策用の蚊帳が生み出され、WHOからその使用を推奨されることになったのです。

オリセット(R)ネット
(写真提供:住友化学株式会社)


※注1 ロール・バック・マラリアについて(注釈:野口英世アフリカ賞担当室)

1998年、WHOが宣言したマラリア対策案。ユニセフ、UNDP(国連開発計画)、世界銀行も参加しています。
以前のマラリア対策とは異なり、2010年までにマラリアによる死亡率および有病率を半減させ、更に2015年までに両方の数値を半減させる事という、具体的な目標を掲げている点が特徴的です。
1992年に開催されたマラリアサミットで起草されたグローバル・コントロール・ストラテジーを基に、戦略として(1)マラリア患者の早期診断と迅速な治療 (2)突発性流行の検出と対策 (3)薬剤含浸蚊帳を用いた媒介蚊対策 (4)妊婦のマラリアの予防の4つの項目を基盤として展開しています。
国、国際機関、研究グループ、企業、NGO、財団等の枠を超え、500以上のパートナーシップを形成し、予防と治療に重点を置きつつ、マラリアの治療を必要としているすべての国と地域に、適切なサービスが提供されるよう世界レベルで行動を展開しています。

“By African, For Africa” (アフリカ人による、アフリカのための)
信頼関係が生み出す、アフリカ主役型のビジネス

「オリセット(R)ネット」はCSR(Corporate Social Responsibility・企業の社会的責任)やBOP(※注2)のビジネスモデルとしても注目を集めていますが、社内での「オリセット(R)ネット」への見方、ビジネスモデルとしての受け止められ方はいかがですか?最初と比べて、変化はありましたか?

水野事業部長:蚊帳の配布・普及によりマラリアの罹病者が少なくなるだけでなく、幸いなことに事業規模が拡大し、アフリカの工場の規模も大きくなったことで、7000人もの現地雇用を創出できるようになり、従来よりも社員から評価されるようになったのではないかと思います。一方、もちろん事業として取り組んでいる以上、継続的に事業を行うため、多少再投資が出来るくらいの利益は出さなければならないと考えています。

アフリカでのビジネスモデルの参考にしたいという引き合いは多いですか?

水野事業部長:最近、特に多くなってきましたね。BOPビジネス、社会課題解決型ビジネスに対する社会的な認知が増加する一方、日本国内には製造業でアフリカで事業を展開している企業がパナソニックさん、ヤマハさん、味の素さん、日本ポリグルさん等、あまり多くないので、当社にもお問合せをいただくことも多いのだと思いますね。


※注2  BOP(解説:野口英世アフリカ賞担当室)

BOPとはBase of the pyramidの略で、ピラミッドの底という意味です。低所得者階層(年間所得が3000ドル以下)は世界人口の約7割存在し、世界の人口をピラミッド型で表現した場合、その底辺を占めます。
BOPはピラミッドの最下層にあたる、低所得者層を対象にして、将来に渡り持続可能なビジネスを展開しつつも、現地における様々な社会的課題の解決も行うという新しいビジネスモデルです。

これからアフリカでのビジネスを行おうとしている企業には、どのようなお話をされていますか?

水野事業部長:出遅れないようにとにかく早く進出した方がいい、と言っています。ナイロビ(ケニア)やダルエスサラーム(タンザニア)へ行くと、すでに沢山ビルが建っていますし、アフリカの都市部はあっという間に経済発展すると思います。アフリカ進出はまだまだ早い、とおっしゃる方も多いですが、発展してから行っても遅いので、まず、しんどくても今行くことが大切です。ファースト・ムーバー・アドバンテージを得るためには、リスクはあるけど現地へ行って、そこで現地人と苦労を共にして、信用を得なければなりません。土着化というか、現地を知ることが最も大切だと思います。当社は住友の事業精神を継承しており、信用を非常に重んじる会社ですが、BOPで大切なのはまさにこの信用です。また、日本の文化の押しつけではなく、現地の文化と融合させることも重要ですね。あくまで現地企業、現地のパートナーが主役という事を忘れてはいけません。僕らはタンザニアでの事業も現地主役型でやっています。

新興国進出は、人創り!

現地主役型について、現地の人は感じていると思いますか?

水野事業部長:最初はあまり感じていなかったかもしれませんね。しかし、事業を発展させていく過程で、徐々に理解してくれていったと思います。今では現地の従業員、幹部社員や工場長も言っていますが、あくまで彼らが主役で、住友化学が前に出ることはありません。しかし、ただ任せるだけではきちんと継続的に利益をあげていくのが難しいので、現地の方たちと協力しながら、事業を継続的に発展させられるように一生懸命頑張っています。

タンザニアにある「オリセット(R)ネット」の工場で働く従業員たち
タンザニアにある、「オリセット(R)ネット」の工場で働く従業員たち
(写真提供:住友化学株式会社)

現地に任せることで問題が発生する場合もありますが、それについてはある程度我慢も必要です。いわゆる“TIA”の考え方ですね。これは、“This is Africa”の略なのですが、「アフリカでは、約束した日に、約束した通りに物ごとが起こらないことが普通」という意味です。このような特殊な環境で事業を行っていく事は本当に難しいですが、会社の経営層もこの状況や課題を理解してくれていると感じています。

工場の開所式をアフリカで行った時も、ホテルの水が出なくて困ったということがありましたが、我々のトップは怒りませんでした。怒っても仕方がないですからね。文化もスピード感も違う相手同士がうまくやっていくためには、我慢したり、お互いを理解したりすることが必須で、そのためにものすごいエネルギーを使う必要があると思います。Be patientです。実際、腹が立ったり、我慢ができないことも数多くありますし、アフリカでは、まずお互いは誤解からはじまると思っていたほうが良いと思うくらいです。でも、それが信頼を築くために必要なプロセスなんです。

“By African, For Africa”を掲げていらっしゃいますが、これからも現地に近いところで事業を進めていくのですか?

水野事業部長:今後は、小売などの流通とローカルなNGOの活用にも力を入れていきたいと考えており、去年からケニアのスーパーマーケットで「オリセット(R)ネット」を売り始めています。「オリセット(R)クラシック」という自社のブランド名で販売しておりますが、日本の会社がアフリカで自社ブランド製品を自社のマーケテイングで販売するのはおそらく珍しい事でしょう、欧米の会社では当然珍しくない事だと思いますが。パンフレットを見ていただくと分かると思いますが、きれいなデザインで、合計で23もの種類とサイズがあります。ドルに換算すると8ドルから13ドルくらいの値段で販売していますが、ベッドごとのサイズで、四角いものと傘型の丸いものを最初に市場導入しました。

ケニアのスーパーマーケットで販売されている「オリセット(R)ネット」
ケニアのスーパーマーケットで発売されている「オリセット(R)ネット」
(写真提供:住友化学株式会社)

アフリカでの試行錯誤の中、社内で生まれつつある失敗を許す文化
苦労をしてでも、誰よりも早くアフリカへ行く

その他にもアフリカでビジネスを成功させるコツはありますか?

水野事業部長:私は継続的な成功のためには5つの要素が必要だと考えています(図参照)。1つ目はトップのコミットメント。2つ目は人手のかかる加工(ローテク)型の事業であること。7000人もの人を雇えるのは蚊帳の縫製という多くの人手が必要な事業だからです。3つ目は現地の方々が主役だということです。4つ目はユニークさ。これは、事業自体、ビジネスモデルについてもいえることですし、事業に携わる人達についてもユニークさは必要です。このような事業では、工夫とまじめさや愚直さが必要になると思います。最後の5つ目は飽くなきコストダウンです。

住友化学の成功要因

これは僕が人生をかけているアルーシャの工場です。従業員の内、85%が女性です。この工場は、本当に大きいですよ。トラックも大・中・小合わせて180台くらいあって、7000箇所もあるそれぞれの村まで蚊帳を運んでいます。また、アフリカは電力が不安定なので、工場では自家発電もしています。最初は「制服」という概念は無かったのですが、従業員がおしゃべりをして仕事をしない時があったので、業務役割、部署によって色分けされたTシャツを与えて「制服」にしました。役目を越えて移動し、話を始めると、色がごちゃ混ぜになってくるので、観ていて一目でわかります、だから、注意して持ち場へ戻ってもらうようにしたのです。

今は、みんなすごく真面目に、素早く仕事をやっていて、ISO9001も取得しています。先ほど「現地主役型」という話をしましたが、この工場には常時日本人はいません。普段は任せていて、1、2ヶ月に1度出張で行くだけです。もちろん、特別な課題、技術移転する際は集中して人材・資源を投入しますが、常に見ていないといけないようでは駄目で、現地が自立していけなければいけません。だから、ローテクが良かったと申し上げました。蚊帳の製造なら、アフリカ人の現在の教育程度でも十分やれるし、競争力も醸成できたと考えています。

アルーシャ(タンザニア)にある「オリセット(R)ネット」の工場
アルーシャ(タンザニア)にある「オリセット(R)ネット」の工場

工場の制服。仕事の持ち場によりTシャツの色が異なる
工場の制服。仕事の持ち場によりTシャツの色が異なる
(写真提供:住友化学株式会社)

最初はお互いの文化も違うし、住友化学のアフリカでの知名度はほとんどありませんでした。しかし、会社、経営陣は、我々事業担当の者達に、トライ・アンド・エラーを許してくれましたし、今も比較的寛容だと感じています。これが大きいですね。社内全体に広がっている、とはまだ言い難いかもしれませんが、少しの失敗であれば許してくれる文化が「オリセット(R)ネット」の事業から生まれているかもしれません。

それから、マラリア予防の蚊帳に対するWHOの方針転換にいち早く適応させることができたという点、つまりスピード感をもって対応できたことはとても運が良かったと考えています。また、担当スタッフにもすごく恵まれています。どんな時も黙々とアフリカの現地へ出向き、働き、事業を大きくし続けてきてくれました。特に、生産規模拡大に携わってくれた人たちには心からありがとうと言いたい、感謝しています。

この事業を振り返ると、今まで3つのフェーズがあったのではないかと思います。ロール・バック・マラリア・キャンペーンは2001年からですが、実はこの製品は1994年頃には出来ていました。奥野と伊藤の二人が開発者ですが、開発後は苦節10年でした。

つまりフェーズ1 は、90年代初めです。「オリセット(R)ネット」は繊維と殺虫剤を合わせることにより生み出された製品です。当社が現在コーポレートスローガンで掲げている、異なる技術を融合してより付加価値の高い製品を生み出すという意味の「創造的ハイブリッド・ケミストリー」の創成期の製品だと思うのですが、当時は鳴かず飛ばずでした。

フェーズ2は、技術移転期です。WHOで「オリセット(R)ネット」の使用が推奨されることになり量産が必要となったのですが、このとき、2003年、アフリカの会社に「オリセット(R)ネット」の技術を無償で移転・提供しました。この時のトップの決断とコミットメントはとても重要な要素でした。

フェーズ3は我々事業部が担当してからの時代で、本格事業拡大期です。本社の事業担当資源はそれほど変わらず、現地の規模が拡大していた時期です。アフリカの例ですと、最初は年間30万張を生産していて工場の従業員は100人くらいでしたが、現在は年間3000万張を生産して、7000人くらいが働いています。

これからはフェーズ4へ入って、コマーシャルマーケットへも入って行かなければなりません。そのためには、二つの方向性、つまり、より性能を高めた製品ラインの拡張、さらにコストを低くすることでボリュームゾーンに、リーズナブルな価格で製品を提供する必要もあります。そうすることで、この事業がこれからも成功し続けることが可能だと思っています。

マラリアの患者は100万人から75万人へ減っていますが、まだまだ多くの課題があり、ワクチンが出来ても、薬が良くなっても、やはり安価に予防が出来るのは蚊帳のみです。約5ドルで5年間効果がもつ、こんなリーズナブルなものはありません。今、開発が進んでいるワクチンはとてもお金がかかるし、18ヶ月しか効かないので、1年半ごとに打ち直しが必要ですし、100%の効果は期待できません。また、ワクチンは冷温・安定保存する必要があるので、外国で製造して現地に届けるのが難しいという問題もあります。上手く技術改善・業務提携できれば、その点でも、当社が今パートナーと現地で進めている現地での生産機能、トラックでのLogistics機能は将来ニーズ、課題に適応ができます。 

最後にこのホームページを見る方にメッセージをお願いします。

水野事業部長:先ほども言いましたが、アフリカで事業を行うことを検討しているのであれば出来るだけ早く行動したほうがいいと思います。現地に行くのをためらっていてはいけません。大切なのは「土着化」です。当社の若い社員は、アフリカに行くことにあまり抵抗感がないようで、むしろ社会貢献という使命感を持って現地へ行ってくれています。私は「ガチではまる」という言葉が好きなのですが、彼ら若い社員も実は深いところではまるものを探していて、この保健、マラリア事業にはガチではまれる要素が間違いなくあると考えています。我々の事業部にそういう人がこれからも増えてくれることを希望しています。

オリセットネットを使用する親子
(写真提供:住友化学株式会社)

マラリアについて

 ハマダラカ

マラリア原虫を媒介する
ハマダラカ

(出典:WHO/Stammers)


マラリアはハマダラカがマラリア原虫を媒介し、ヒトに感染します。

ヒトに感染するマラリア原虫は4種類(熱帯熱、三日熱、卵形、四日熱)存在し、もっとも危険と言われているのが、熱帯熱マラリア原虫です。世界のマラリア感染例の約半数、マラリアの死亡の約95%を引き起こし、脳症の原因となるのがこのタイプです。

症状は主に発熱を伴う悪寒です。発熱にとどまらず、脳症、急性腎不全、出血傾向、肝障害などの合併症が起き、死に至るケースが多発しています。妊産婦やHIV感染者は、免疫力の低下からマラリアに感染すると重症化しやすく、ワクチンも18ヶ月間しか効果が無いため、蚊帳や、殺虫剤などの予防法が重要視されています。

またマラリアは「貧困の病」と呼ばれ、アフリカの経済成長を1.3%遅らせていると言われています。貧困家庭は、年収の25%をマラリアの予防・治療に費やし、政府の公衆衛生支出の40%を占めているとの統計もあります。マラリアの感染は深刻な社会への悪循環を招いています。

深刻な症状をヒト・社会へもたらすマラリアですが、予防・治療共に可能な疾患であり、今後も継続的な研究が期待されています。

サハラ砂漠以南のアフリカ(サブサハラアフリカ)の状況
(ミリアム・ウェレ博士 第1回野口英世アフリカ賞受賞者 講演(2011年10月3日STSフォーラム)より抜粋

世界では多くの人が貧困の中、先進的な医療を受けられない環境で生活をしています。

マラリアの死者の9割以上は、サハラ砂漠以南のアフリカで亡くなっています。その人口はおよそ100万人と言われ、そのほとんどが5歳以下の子供達です。これは30秒に1人のアフリカの子供がマラリアで亡くなっている、とユニセフのレポートで報告される程の数です。

マラリアの他にも結核、HIV/エイズ、熱帯地域特有の感染症が、アフリカの人々の健康を害している状況です。しかしながら多くの人が、清潔な飲料水や、住環境が手に入れにくい環境の中、生活をしています。特に子供達やその母親である女性達が、不衛生な環境で生活をしている事が、感染症の問題に対して大きな脅威となっているのです。

編集後記

野口英世アフリカ賞ホームページのインタビューは今まで、受賞者、医療関係者、野口英世博士関係者など色々な方々にお話を伺ってきましたが、ビジネスの側面からアフリカの実情や社会貢献についてのインタビューを行った事は今回が初めてです。

日本の中でも色々な方面から次世代のアフリカへ向けて、従来の形にとらわれる事の無い、新たなパートナーシップの形が生まれつつあるようです。日本国内にとどまらず、野口博士のように世界で失敗を恐れず勇気ある活動をして、異文化に触れることにより新たに生まれる文化が、未来の日本を支えてくれる、そんな予感がしました。