ご挨拶 野口英世アフリカ賞委員会 委員長 國井 修2024年6月記
野口英世アフリカ賞委員会 委員長 國井修です。日本学術会議会長、内閣特別顧問などを歴任された東京大学名誉教授、黒川清前委員長からこの大役を引き継ぎました。よろしくお願いいたします。
数々の伝記が日本人だけでなく外国人によっても書かれ、2004年に発行された千円札の肖像画にもなった野口英世博士。日本のアフリカにおける医学研究のパイオニアでノーベル生理学・医学賞の授賞候補に三度も名前が挙がりました。 野口英世アフリカ賞についての説明をする前に、まずこの賞の由来となった野口英世博士についてあらためてご紹介します。
野口英世博士の生涯と私たち
野口英世博士はわずか1歳の時、囲炉裏に落ち左手に大やけどを負いました。左手に障害を負ってしまった野口博士は15歳の時、恩師による手術を受けて成功したことに感動し、母シカや周りの人々の大いなる愛情と支援を受けて医師勉学に励みます。その後さらに多くの人々の支援を受けつつ国際的に活躍することになります。
1900年に渡米し最初にペンシルベニア大学に、その後デンマーク留学を経て創設間もないロックフェラー医学研究所に勤務し、細菌学の研究に没頭します。1911年に梅毒スピロヘータの純粋培養に成功し世界的な注目を集めた後、1918年から黄熱病の研究を始め、1927年、アフリカ西海岸で発生した黄熱病の研究のためガーナに渡りましたが、研究中に自らも黄熱病に感染し、1928年にわずか51歳にして現地で永眠されました。
しかし、貧しい家庭に生まれ逆境の中にあっても医学の可能性を信じ、すさまじい努力と情熱で世界に羽ばたいた野口博士がアフリカで行った献身的な医学研究活動とその成果は、今もなお我々に大きな励みと指針を与え続けています。
野口英世アフリカ賞の意義とその背景 日本のアフリカに対する貢献
世界中の数ある対アフリカ協力の中でも、野口英世アフリカ賞は、野口英世博士の遺志を受け継ぎ、今まで必ずしも関心が向けられていたとは言い難い、アフリカのための基礎医学研究、臨床研究、保健医療活動に光を当て、感染症への挑戦、アフリカの生活環境の向上など、人類共通の課題へ“現場主義”で挑戦し続ける人を支援、顕彰している点でユニークです。
なぜ日本がそうしたことをするのでしょう。日本政府はこれまでも政府開発援助(ODA)を通じ、アフリカ諸国を支援してきました。(※1)。また、国際的な保健分野での課題(その多くがアフリカが直面するもの)にも積極的に取り組んで来ました。アフリカに住む人々の命と生活、ひいては人類全体の保健と福祉の向上を図るという日本の理念と哲学のシンボルが野口英世アフリカ賞と言えます。アフリカにおいて野口博士と同じスピリットを持った人々を鼓舞して行きたい、野口博士と同じ情熱を持って活動している人たちにスポットライトを当てたいという日本政府の考えがこの賞を授与する動機となっているのです。
さらに、本賞は新たな意義や価値も持ち始めています。
持続可能な開発目標(SDGs)で「誰一人として取り残さない」世界を目指し、日本は、全ての人々が基礎的な保健医療サービスを、必要なときに、負担可能な費用で享受できる状態であるユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の達成に向けて一貫してリーダーシップを発揮する中、本賞は世界の中で取り残されている、忘れられている人々の命を救い、健康を取り戻すために献身する人々に光を当てています。
また、新型コロナが世界を席巻し、気候変動や地球環境の変化が生態系や人間社会に大きな影響を与える時代において、アフリカに現存する、また新興する病気は世界に広がり我々の生活をも脅かす可能性もあり、本賞はアフリカのみならずグローバルなインパクトを与える活動を後押しするものでもあります。
野口英世アフリカ賞の果たす役割
本賞は、2008年以来、四度の授賞式が実施されてきました。選ばれた受賞者は、いずれも素晴らしい方々であり、今日もなお精力的に活躍され、引き続き立派な業績を築いておられることを大変うれしく思っております。受賞者の中には賞金の一億円を活用して奨学基金を設立し医師の研修教育を行ったり、新たな公衆衛生プロジェクトを実施したりしている人もいます。本賞の授与は、過去、十分な注意が向けられなかったアフリカにおける保健と福祉に対する国際社会の関心を呼び起こし、アフリカにおける医学研究や医療活動を促進する役割を今後一層果たしていくと信じています。
今後の賞の実施予定
野口英世アフリカ賞は3年ごとに行われる東京アフリカ開発会議(TICAD)(※2)の開催時に授与しています。来年8月にはTICAD9が開催される予定であり、次の第5回野口英世アフリカ賞もそれに合わせて発表される予定です。次回も素晴らしい受賞者を選び、野口博士のスピリットを本賞を通じてますます世界へ広げるために皆様のご協力・ご支援をよろしくお願いいたします。
(※1)日本政府のアフリカに対する支援に関して詳しくは外務省のサイトをご覧ください。
外務省 国際協力 政府開発援助 ODAホームページ
外務省 持続可能な開発目標(SDGs)
(※2)アフリカ開発会議 TICADとは、日本国政府が3年ごとに主導して行う、アフリカの開発をテーマとする国際会議です。詳しくは外務省のTICADのサイトをご覧下さい。
外務省 アフリカ開発会議(TICAD)
略歴 野口英世アフリカ賞委員会 委員長 國井 修
國井 修(くにい おさむ) 野口英世アフリカ賞委員会 委員長 公益社団法人グローバルヘルス技術振興基金 (GHIT Fund)CEO兼 専務理事 長崎大学、東京医科歯科大学、千葉大学、昭和大学、京都大学 客員教授 元グローバルファンド戦略・投資・効果局長 国連児童基金にて勤務(本部にて保健戦略上級アドバイザー、ミャンマー国事務所で保健栄養事業部長、ソマリア支援センターで保健栄養水衛生事業部長) アフリカ20か国以上で活動し、3年間はケニア・ナイロビで生活した |
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