ジャン=ジャック・ムエンベ=タムフム博士からの近況報告(第3回野口英世アフリカ賞医学研究分野受賞者)2022年

2019年受賞時の発表はこちら第3回野口英世アフリカ賞受賞者

受賞業績

ジャン=ジャック・ムエンべ=タムフム博士国立生物医学研究所(INRB)所長、キンシャサ大学医学部医学微生物学/ウイルス学教授
エボラウイルス等の研究及び疾病対策の人材育成において多大な貢献を行いました。

受賞後の活動

チセケディ大統領(コンゴ民主共和国)より、同国東部でのエボラウイルス感染症(2018-2020)及び新型コロナウイルス感染症(Covid-19)(2020-2022)への国家対応の調整役に任命されました。

エボラウイルス病の集団発生

コンゴ民主共和国におけるエボラウイルス病の10度目の集団発生が、北キヴ州、南キヴ州及びイトゥリ州で発生しました。これらの3地域は人口が多いうえに、国内及び外国の反乱勢力により25年以上も続く武力紛争に苦しんでいます。この10度目の集団発生はコンゴ共和国において最大(感染数3091例、死者2074名)かつ最長(2018年から2020年)のものとなりました。地域の情勢が不安定であったにもかかわらず、INRBの研究者は米国立アレルギー感染症研究所(NIAID)の同僚たち、WHOから支援を受ける他のパートナーと共に、3種類の薬品(Regeneron、mAB114、Redemsivir)とZMappとの有効性を比較するためのランダム化比較臨床試験を行いました。我々の治療薬(mAb114)は、1995年にキクウィットでエボラ集団感染が発生した際の現地人生存者の細胞から開発したもので、未治療エボラ患者の致死率が67%であったのに対し、mAb114による治療では致死率が35%まで低下するなど、高い有効性を示しました。この研究は、PALM(スワヒリ語でPamoja Tulinde Maisha(ともに命を救う)の意味)という研究コンソーシアムが実施し、ニュー・イングランド医学誌に掲載されました。
PALMによるこの臨床研究は、2019年のデービット・サケット・トライアル・オブ・ザ・イヤーを受賞しました。


mAb114治療によるエボラ患者生存率の上昇

また、2020年12月には、mAb114はアフリカの薬品名「Ebanga」で成人及び未成年に対するザイール・エボラの治療薬として米国の食品・薬品局(FDA)から認可を受けました。
この研究の共同主任研究者として、仕事で最高の業績をあげるという夢を実現できたことを誇りに思っています。


マンジーナ(北キブ州)でmAb114接種後にエボラから回復した最初の2例(少女たち)

しかし、この疫病には解明すべき謎がまだ残っています。エボラウイルスのリザーバー(病原巣)とベクター(媒介者)の発見です。INRBでは、このリザーバーを自然界に見出すことができると考え、生態系の調査を行っています。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するコンゴ民主共和国の対応

INRBがCOVID-19の最初の感染者を発見したのは2020年3月10日のことで、欧州からの旅行者でした。パンデミックの発生地は首都キンサシャで、主に国の機関が所在する市の西部でした。
近隣の貧困地域への拡大は比較的抑えられましたが、その後地方、特に西部、東部、南部の国境地域の州に拡がりました。
コンゴ民主共和国におけるパンデミックは、異なる波の連続により進行しています。第2波及び第3波ではデルタ株が優勢したが、第4派の主な原因は感染力が高くて致死率の低いオミクロン株でした。
COVID-19の罹患率と致死率に関しては、アフリカの深刻度は欧州と比べて依然として低い状態にありました。
パンデミックの開始以降、コンゴ民主共和国の感染者数は8万5839人、死者は1335人で、致死率は1.5%です。しかしこの国のワクチン接種率は0.3%と、依然としてアフリカで最も低い水準となっています。

2019年以降の国内及び国際的な表彰

  • 名誉博士号:ルブンバシ大学(コンゴ(民)、2019年)、ブカブ・カトリック大学(コンゴ(民)、2021年)、アントワープ大学(ベルギー、2020年)、ハーバード大学(米、2022年5月)
  • 英NATURE誌「科学分野の重要人物10人」の一人に選出(2019年)
  • 米TIME誌「最も影響力のある人物100人」の一人に選出(2020年)
  • コンゴ(民)科学アカデミー議長に就任(2021年)
  • アフリカ連合及びアフリカCDCにより、「2021年アフリカ公衆衛生国際会議(CPHIA 21)公衆衛生特別功労賞」を受賞(2021年)

おわりに

  • エボラウイルス病は、メルク社のrVSV-Zebov-GPワクチンや、Ebanga(mAb114)をはじめとするモノクローナル抗体療法が承認されたことにより、今日では予防や治療が可能になっています。
  • 私の生涯の夢であったEbangaは、コンゴ人研究者たちの献身と粘り強さ、米国立衛生研究所(NIH)の協力、コンゴ人の患者及び生存者の貢献により、今や現実のものとなっています。
  • COVID-19は世界的な脅威です。しかし、コンゴ民主共和国は、ワクチン接種に対する人民の強い抵抗に直面しています。
  • JICAにより建設され、2020年2月に竣工した国立生物医学研究所(INRB)のバイオセーフティレベル3(BSL3)検査室は、エボラ及び新型コロナウイルス感染拡大への国家対応に成功を収める上で極めて重要な存在です。


国立生物医学研究所(INRB:キンシャサ)の新施設(BSL2検査室 及びBSL3検査室)