鹿野消費者委員会委員長・橋田専門調査会座長・星野委員・山本委員 記者会見

2024年12月20日
消費者委員会

日時

2024年12月20日(金)12:30~13:16

場所

消費者委員会会議室

冒頭発言

○鹿野委員長 本日は、お集まりいただきましてありがとうございます。

本日、私からの報告事項が2件ございます。

まず1件目ですが、これは、「消費者をエンパワーするデジタル技術に関する専門調査会」の報告書と、報告書を踏まえた意見についてでございます。

当委員会においては、令和6年3月に「消費者をエンパワーするデジタル技術に関する専門調査会」を下部組織として設置いたしました。デジタル化の進展に伴い、フィッシング、偽サイト、SNS広告をきっかけとする消費者問題等、消費者自身では、事前に防ぐことが難しい問題や、消費者と事業者に技術力の格差があることにより生ずると考えられる課題などがあり、こうした課題への対応として、デジタル技術を活用することの重要性を検討するべく、調査審議を実施してまいりました。

このたび、本年12月4日に専門調査会報告書が取りまとめられ、これを踏まえて、12月9日の消費者委員会本会議において、当委員会としての意見を取りまとめました。

最初に、報告書の概略について、専門調査会の座長を務めていただいた橋田先生から御報告をいただきたいと思います。よろしくお願いします。

○消費者をエンパワーするデジタル技術に関する専門調査会橋田座長 ただいま御紹介いただきました「消費者をエンパワーするデジタル技術に関する専門調査会」の座長の橋田です。

本報告書は3部構成でありまして、第1では消費者問題の現状と背景、それを踏まえた消費者をエンパワーするデジタル技術の利活用の観点から論点の整理を行いまして、従来行われてきたように消費者保護制度による規律、消費者教育、リテラシーによる対応に加えて、デジタル技術を更に利活用し対応することが重要であるという考え方を示しました。

その上で、第2では、消費者をエンパワーするデジタル技術の実例について、検討実験中のものを含めて紹介いたしました。

最後の第3では、消費者をエンパワーするデジタル技術の更なる利活用に向けた課題について検討を行いました。

今回の一連の議論、それから報告書では、技術を積極的に使っていこうということを明確に打ち出すことができたと思います。最近、AI技術等をはじめとして先端技術の進展は、目覚ましいものがありますが、例えば、教育の現場では幾つかの教育委員会は、教室でAIを使うことを禁止していたりするわけですけれども、いずれは使わないわけにはいかないという流れがありますので、消費者を守る、エンパワーするという観点からも、先端技術を積極的に使っていこうという考え方を、具体的な事例を交えて示せたということに、大きな意義があると考えております。

以上です。

○鹿野委員長 ありがとうございました。

ただいま御報告をいただきました専門調査会報告書を踏まえ、当委員会としての意見も取りまとめました。別紙として配付されていると思いますが、これについて、私から簡単に御報告したいと思います。

意見では、デジタル技術を利活用し、消費者をエンパワーしていくという観点が重要であるということを述べるとともに、他方で、消費者をエンパワーするデジタル技術の利活用に向けては、幾つかの課題があるということについても指摘しているところでございます。

その課題としましては、例えば、第1にデジタル技術を開発、提供する事業者の信頼性確保や、その技術の品質の担保。

第2に、デジタル技術が抱え得るリスクへの対応。

第3に、デジタル技術の開発、実装に向けたインセンティブの方策。

第4に、デジタル技術の利活用に係る法的責任の整備。

第5に、パーソナルデータの取扱いに関連して、同意やオプトアウトへの対応等。

そして、第6に、消費者によるデジタル技術の利活用に向けた支援等を掲げ、これらについて検討を深めていくべきであるとしているところでございます。

詳細については、お手元の資料を御覧いただきたいと思います。

関係行政機関において、この報告書を参考にして、消費者をエンパワーするデジタル技術の開発、実装の方策や、消費者によるデジタル技術の利活用に向けた支援等、本報告書で指摘されている課題について、検討を深められることを期待しているところでございます。

消費者委員会としても、関係行政機関等の取組を注視しつつ、必要に応じて、さらに調査審議等を行っていきたいと考えております。

1件目について、私からは以上でございます。

なお、消費者委員会から、担当委員としてこの専門調査会にオブザーバーという形で御参加いただいた星野委員、山本委員より、報告書及び意見書の取りまとめに際しての所感等を御発言いただきたいと思います。

それでは、まず、星野委員、お願いします。

○星野委員 今回、橋田座長と専門委員には、検討のものを含めまして、消費者をエンパワーメントする技術を幅広く取り上げられまして、また、技術面だけではなくて、社会的な受容性とか、法制度まで議論をいただきまして、非常に勉強になりました。ありがとうございました。

橋田座長は、研究をされていまして、パーソナルAIなども非常に面白い技術でございます。そういったものを含めまして、ぜひ各省庁で、この技術が活用されるための法整備、制度だとか、あとはインセンティブ、先ほど委員長がおっしゃいましたけれども、そういったものも御検討をいただければと思っておりまして、具体的に考えますと、インセンティブ設計ということでございますと、やはり消費者ですね、こういった技術自体は使えるのではないかと思っても、様々なものがございますので、このような一定の基準を満たしたような技術に関しては、それを認証するみたいなことが、国のほうができています。

例えば、他のもので、食品ですとトクホみたいなことがございますね。企業系ですと、例えば、ホワイト500みたいな、そのような認証制度みたいなものがございますので、そのような何か国のお墨つきをつけるような制度がございますと、消費者側としては選びやすくなりますので、そのような制度をぜひ、多分、これは消費者庁もそうだと思いますし、経産省、金融庁辺りですか、そちらのほうに、ぜひ御検討をいただきたいと思っております。

法制度に関しましても、同じようなことがございますが、今のところ技術が非常にあるという中で、やはり消費者自身のパーソナルデータに対する権利というのが、少し明確化されていないと私は理解しております。法の専門家ではないので、他の方々の先生方も御意見があろうかと思いますが、基本的にOECD諸国で様々なパーソナルデータに関する権利が、一応、一定程度確立されているところでございますが、日本ではそれがあまり明確化されていないところがございます。

このエンパワーメントする技術の実例といたしまして、デジタル決済も現状全ての決済の4割ほどにまで達しておりますけれども、例えば、不正検知をするとか、何か賢い決済をするとか、例えば、海外では禁止されだしたダークパターンとかもございますが、タイムプレッシャーとか、ドリッププライシングとかといったものを禁止するような法制度も出ているところでございますが、そのようなものをスラッジだとか、ダークパターンと言われておりますが、そういった介入を検知する、そして、それを遮断するというデジタル技術は、もう現時点でかなり実現性が高くなっていると思っております。

ただ、そこでの問題点として、データがどこにあるのかという、どこに権利があるのだというところは不明確なところがございますので、技術水準はできているのだけれども、消費者を保護するための実効的なところで言うと、そういった法制度がというところがございますので、そのようなデータに関する権利、そういったものを、ぜひ他のOECD諸国と同様に、消費者にあるということを明確にしていただければ、それこそコンファームとか、一部の金融機関等がデータを囲い込むということによって、こういった技術の発展も阻害されることがなくなってくると思いますので、ぜひ、そのようなものを関係省庁、消費者庁、経産省、金融庁辺りにぜひ御検討いただければと、この報告書の策定に絡んで、いろいろな意見として申し上げたいと思います。

○鹿野委員長 ありがとうございました。

それでは、山本委員、お願いします。

○山本委員 山本でございます。

近年のデジタル社会におきましては、パーソナルデータの網羅的な収集ですとか、AIを使った分析、こうした結果を踏まえたマイクロターゲティングなどが常態的に行われていて、取引環境が高度に個別化、パーソナライズド化されてきている状況だと思います。

これは、消費者にとって、より利便性が高まるということでメリットになるのはもちろんですけれども、高度なパーソナルデータの解析ですとかプロファイリングによって、消費者の脆弱性が具体的に予測され、この脆弱性を利用したアグレッシブなマーケティング、意思形成過程ですとか、認知過程への介入というものも起きてきているように思います。

こうなると、購買意欲のようなものが、あるいは潜在的な意識というものが不当に刺激されて、金銭的な損失が生じるだけではなくて、刺激によって動画コンテンツなどに過度に没入してしまうといったことで、私たちの有限な時間ですとか、アテンションが不当に奪われるという事態も広がっているように思います。

諸外国におきましては、御周知のとおり、ショート系動画のアルゴリズムを含むUXによって、子供たちが動画コンテンツへの依存性を強めて、彼らの子供時代が奪われているといったことで、法的な対応も進んできている、あるいは議論されてきていると認識しております。

この専門調査会におきましては、こういった状況を踏まえて、「消費者問題」を単に金銭的、経済的な損失被害として捉えるだけではなくて、パーソナルデータの不当な収集ですとか、データに関する侵害、被害、それから時間やアテンションを、これも今のタイムパフォーマンスの世界の中では有限な時間とかアテンションをどう振り分けるのかということが、その人が、その人らしく生きるために非常に重要になってくると思いますけれども、こういったアテンションや時間の振り分けというものを不当に操作されている、あるいは奪われているのではないかと、こういったところまでを「消費者問題」として捉えるような視点があったのではないかと思います。

消費者問題を、今のように拡大と申しますか、広げて捉えていくということは、デジタル社会においては必要なことで、大変重要な意義があったのではないかと思っております。

それから、テクノロジーというのは、消費者保護の議論においては、多くの場合、消費者の利益への介入という側面で捉えられてきたところもあると認識しておりますけれども、先ほど橋田座長からもあったように、この専門調査会におきましては、テクノロジーによる認知的な介入に対して、テクノロジーによって対抗し、消費者の自立的な決定を支援、エンパワーしていくという、そういうテクノロジーに対する積極的な利用、評価というものを行ったということも重要な意義があったのではないかと思います。

この調査会におきましては、まず、消費者をエンパワーするテクノロジーとして、どういったものがあるかということを棚卸しして、そのうえで今後期待されるテクノロジー、技術に関する検討というものも行いました。その中では、例えば、ダークパターン、先ほど星野委員からもありましたけれども、このダークパターンを検知するようなテクノロジーのようなことも議論をされました。

他方で、鹿野委員長からもありましたけれども、こういったテクノロジーには、プライバシーを侵害するような側面ですとか、リスクもあるわけで、こういったこともしっかりと議論をしていただいたと認識しております。

しかしながら、先ほど申したとおり、デジタル社会においては、もはやテクノロジーから逃れられない、付き合っていかなければいけないというわけですので、消費者も自らの身を守るためにただ怖がるだけではなくて、こういったものを使うということ。

それから、事業者のためのAI開発とか実装というものが、これまでは重視されてきたように思いますけれども、むしろ消費者のためのAI開発、あるいは実装というものをしっかりと進めていく必要があるのではないかと思っております。

今後は、先ほど鹿野委員長からあった課題の側面もしっかり議論しつつ、消費者委員会を含め、政府の関係機関におきましては、こういった課題を議論していただきつつも、消費者のためのテクノロジーというものを開発、実装していくための試みを進めていただきたいと思っています。

先ほど星野委員からもあったインセンティブですね。良いテクノロジーについては、それを認証したり、表彰したりするような仕組みですとか、そういった技術を評価するための消費者団体等の支援が、今後はより具体的に必要になってくるのではないかと思います。

ですから、今回の専門調査会が終わりではなくて、これがスタートということで、さらに継続して議論を深めて、実装にまでつながっていけばよいと思っております。

ありがとうございます。

○鹿野委員長 ありがとうございました。

それでは、1件目に関するこちらからの報告は以上にしまして、次に2件目に移りたいと思います。

2件目は、新たな専門調査会の設置についてでございます。

本日、午前中に開きました消費者委員会本会議において、消費者委員会の下に、新たに「支払手段の多様化と消費者問題に関する専門調査会」を設置するということを決定いたしました。

この専門調査会では、支払手段の多様化、キャッシュレス決済の進展等によって、消費者に利便性がもたらされているところではありますけれども、その一方で、決済の仕組みが複雑多様化し、消費者はその理解が不十分となっていると考えられること、決済方法によって、適用法令が異なるという現状があり、それが解決を困難にしている場面もあること、さらに、規制が及んでいないような決済方法も存在しているということ等が、消費者にどのような影響を与えているのかといったことについて、消費者の視点に立ち、横断的な調査審議を行うことを目的としたものでございます。

まずは、支払手段の多様化に関して、様々な観点から、消費者がどのようなことに困っているのか等の実態、現状の把握を行い、その原因や構造について、分析、整理することが重要だと考えておりますが、調査審議の具体的な進め方につきましては、今後、引き続き検討を進めてまいりたいと考えております。

以上でございます。

質疑応答

(問) 今日は、ありがとうございます。

1点目、エンパワーのほうからお尋ねしたいのですけれども、非常に面白い検討会であったと思うのですが、内容が非常に網羅的で、それが、かえってダークパターンやフィッシングの話からパーソナルデータまで織り込まれているので、そこがすごくかえって難解には感じられたのですけれども、それぞれの論点について、それぞれ違う課題とアプローチがあると思うのですが、その個別具体的な話まで今後議論したり、何か提言したりする御予定はあるのでしょうか。

(答・鹿野委員長) これは、消費者委員会としてということですね。

まず、網羅的というのは、一方で、デジタル化の進展に伴って、利便性は高まっているものの、一方で、どういう消費者トラブルが発生しているのかというところを、まず押さえていかなければいけないということがございましたし、それに対して、橋田座長及び星野委員、山本委員からも先ほど御説明がありましたけれども、技術を消費者の利益のために、消費者の保護という観点で活用する可能性ということを御検討いただいた、これが大きな柱でございます。

ただ、もう一方で、この意見というか報告書には、これを進めるに当たっての課題ということも記載されています。まず、技術により身を守る可能性があるのですよと言っても、事業者側にそのインセンティブがないと、この技術開発が行われないということになりますので、インセンティブ等も含めて、どのように技術開発自体を支援していくのかということを考える必要があるという方向での課題が指摘されています。

もう一つ、プライバシーの保護とか、それも含めてデータの取扱いということの法的整理が課題となります。データがある意味で集中するということにもなり得ますので、そのときに生じ得るいろいろな新たなトラブルということも、念頭に置いていかなければなりません。そこら辺の整理がないと、ただ技術開発をどんどん進めていきましょうということにはならないと思うのです。関係各主体としても、その点が不明確なままではちゅうちょすることにもなるかもしれません。そのような法的な面からの課題についても指摘されています。そういう意味では、非常にバランスが取れた報告書に仕上げていただいたと、そういう御検討をしていただいたと認識しているところでございます。

そのため、内容は盛りだくさんになっているかもしれませんけれども、趣旨としては、今、申しましたようなことでまとめられているということでございます。

それから、今後についても御質問ありました。消費者委員会として、今後、これをどうしていくのかということでしたが、まずは、この報告書を受けて、消費者委員会としては、関係行政機関に対して意見を発出したところでございます。先ほど申し上げました内容の意見を発出いたしました。

そして、その中で、先ほども御説明させていただきましたように、特に課題もあることを具体的に指摘していたところでございます。

そのため、関係行政機関において、このような課題について検討が深められるということを期待しているところでございまして、その状況を見ながら消費者委員会としても、さらに必要に応じて調査審議を行っていきたいと考えているところです。

(問) ありがとうございます。

先ほどの御報告いただいた中で、星野先生がおっしゃったようなインセンティブづくりの具体的な方策ですとか、山本先生がおっしゃったような、パーソナルデータの利活用に向けた課題とか、そういうことまで意見に載っていたら、すごく分かりやすかったなと個人的に思ったもので、今回、関係行政機関においてと、どこどこにこれを求めるみたいな書き方ではなくて、こういう包括的な書き方の意見になったことには、何か意図があるのでしょうか。

(答・鹿野委員長) 補足があれば、座長か、星野委員、山本委員に御発言いただきたいと思いますけれども、まず私から一言申し上げますと、これは例えば消費者庁などある特定の1つの行政機関だけに関わるというものではなく、総務省とかも含めて、広く複数の省庁に関連するところでございます。支援やインセンティブづくりということに関しては、経産省なども関連してくるのではないかと思います。関係省庁は1つではないということで、それをまとめて関係行政機関とここでは記載しているところでございます。

何か補足はありますか。

(答・消費者をエンパワーするデジタル技術に関する専門調査会橋田座長) 少し補足しますと、例えば、デジタル庁のほうで、今、AIに関する法律をつくるという動きもあるやに聞いておりますけれども、そういうことも含めて、関係省庁はかなり幅広いというか、様々な省庁が含まれるのではないかと考えられます。特に1つ、2つの省庁を挙げるというよりも一般的な形にしたほうが私もいいのだろうと思います。

それから、今回、様々な事例も取り上げて、割と包括的な議論をいたしましたけれども、この議論に基づいて、具体的にどのようにアプローチしていくかということに関しては、結構リサーチイシューも含まれておりますので、人によって立場が違うであろうと想像します。

ということで、このまとめに基づく何らかの一般化とか、具体的な方針を出すというところまでは、今回の報告書では踏み込んでおりません。

これは消費者委員会の意見でも何でもないのですけれども、私個人的には、特にパーソナルデータの取扱いが非常に重要だと考えています。記録を取ることが重要だという話は、この報告書の中でも触れておりますけれども、記録を本人のところで取ることによって、環境を見える化するというか、事業者と自分の関係が消費者にとってよく分かると、一体どういうやり取りをしてきたのかということが分かることで、様々なリスクが管理できるというのが、今回の報告書の非常に重要な1つの論点だったのではないかと思います。

私はパーソナルデータの取扱いに関して、もう15年以上いろいろ研究をしてきていますが、これまでそういう論点がなかった。データポータビリティーとか、様々な話がありますけれども、どちらかというと、データ源であるサービス提供者以外のサービス提供者にもデータを提供することによって、本人がより良いサービスを受けるみたいなことが、これまでは強調されてきたわけですけれども、それが消費者保護、消費者のエンパワーメントにつながるという論点は比較的新しいと思います。それも含めて、これまでのデータポータビリティーの議論をさらに強化して、我が国としてもそういう制度の整備に向かっていけるといいのではないかと考えています。

AIがだんだんコモディティ化してきていて、例えば、この間出た新しいスマートフォンには一種のラージランゲージモデルが入っていたりしますし、もう二、三年たったら、個人情報端末に、普通にAIが入っているという時代になるのだろうと思います。そういうAIをうまく活用して、原則として本人の手元から外部にデータを出すことなくフル活用しつつ、かつ、必要に応じて、ベネフィットとリスクのバランスを取りながら、他者に開示してサービスを受ける、こういう具体的な仕組みを構築していくというのが重要であろうと、私は考えているわけです。しかし、その辺りについては、いろいろな意見がありますので、今回そこまでは、報告書には含めておりませんけれども、そういったことをこれからさらに検討して、何とかコンセンサスをつくって、国全体としてよりよき方向に進めていただけるといいのではないかと考えています。

(問) ありがとうございます。

もう一個だけいいですか、2点目のほうで、実際に返金が困難になっているような決済方法とか、トラブルの解決が難しくなっている決済方法、いろいろ思い浮かぶものもあるのですけれども、具体的に、どんなトラブルを想定しているかが少し想像しづらいので、何かお考えのことがあれば伺いたいです。

○鹿野委員長 決済方法の多様化に関わっては、まず、非常に便利な世の中にはなっているのですけれども、それを悪用する事業者がいるということがあります。

ですから、巧みに手軽な決済に誘導して、それでお金をだまし取るというのが、一番簡単な説明かもしれませんけれども、そのようなことで悪用されているところが一つあるところです。

それから、もう一つは、先ほども言いましたように、トラブルという表現が適切かどうかは分かりませんけれども、決済代行業者その他、消費者から直接は見えにくいような事業者が間に多く介在しているということによって、解決が困難になっている場面があるのではないかという問題があります。例えば、単純な三者間クレジットのような場合には、割賦販売法において、利用者に一応の法的保護が設けられているわけなのですが、今日ではそういう形ではない決済方法が多く存在し、法的な規制が十分には及んでいないところがあるのではないかという問題もあります。

それから、もう一つは、先ほどの本会議でたしか黒木委員長代理からも御指摘もあったのですけれども、既存のクレジットカード取引でも、マンスリークリアの決済については、セキュリティ対策など一部の規律以外は割賦販売法の規制対象外となっており、かなりトラブルが多く見られるところでございます。これについて、マンスリークリアではないものと全く同じ一律のルールをかけるべきかどうかはともかくとして、そのような問題について、どのように取り組んでいくのかということも検討課題でございます。

このように、決済方法が多様化してきたところ、その新しく現れた決済方法について、トラブルや法的規律がどのようになっているのかということを整理する必要がございますし、それから既存の、比較的前からあるものでトラブルが増えているものについても、改めてその現状を把握し、その上で、今後の対応ないし対策を考え必要があるのではないかと思っている次第です。

(問) それが、例えば暗号資産のときに、送金が返ってこない話とか、いろいろ個別具体的な例があると思うのですけれども、法規制が及んでいない分野の決済というのは、どういうものを具体的に想定されているのか、それがあれば伺いたいなと。

(答・鹿野委員長) 分野というか、例えば割賦販売法や資金決済法の適用のない立替払い型の後払い決済サービス(BNPL)などのトラブルが増加しています。また、クレジットカードでも、決済代行業者等の介在が広がっているところ、決済代行業者等は登録義務がなく加盟店調査措置義務も負わないため、適切な苦情処理や不正利用被害の防止が十分に機能していないという場面があるのではないかと考えているところです。

消費者委員会では、次期消費者基本計画の策定に向けた意見の取りまとめに向け、いろいろなテーマについて検討してきたところでございますが、そこでも、決済についても取り上げ、決済をめぐるいろいろなトラブルについてもヒアリングを行い、そして、今日の資料にはないかもしれませんけれども、意見出しにおいても、その点を記載しているところでございます。

ただ、そこでは限られた時間でのヒアリングということでしたから、必ずしも現状が全て明らかになっているというわけではございません。

ですから、この専門調査会を立ち上げるということによって、より詳しく、まず、現状把握をしていただき、今、おっしゃったトラブルという点についても、私が、今、述べたようなことだけではないと思いますので、そこまで含めて、現状を整理していただきたいと思っています。それから、もう一方で規律が及んでいないところとか、あるいは不整合なところ、あるいは統一的でないところとか、そういう凸凹とか穴とかがあると思っておりますので、それについても、より詳しく、この点がやはり問題なのではないかというところまで含めて、正確に整理をしていただくことが必要だと思っております。

まず、専門調査会の第一歩はそこにあります。なお、この専門調査会の今後の予定を申し上げますと、設置については本日決定したのですが、まだメンバー等が正式に決まっているという段階ではございません。ですが、年明けのできるだけ早い段階で、メンバーについても手続を進めて、具体的に専門調査会の会合を開いていただきたいと思っております。今期の消費者委員会は、御存じのとおり、8月末までとなっておりますので、8月末までの間に、一通りの取りまとめを行っていただくことになろうかと思っております。

以上のとおり、複雑な問題ですから、まずは現状把握をし、それから、規律についてもきちんと整理をしていただくところを第1の目標として、ひとまず、8月までの間に整理をしていただき、できれば、その次の期の消費者委員会において、それを踏まえて検討を続けていただければと思っております。これは私たちが決めることができることではありませんけれども、次期の消費者委員会への申し送りという形で、その検討を続けていただくということをお願いしたいと、私個人としては考えているところでございます。

(問) ありがとうございます。

(問) エンパワーのほうなのですけれども、アテンションエコノミーとかダークパターンとか、そういった課題というのは、早く解決してほしいなとは思うのですけれども、今回AI技術を用いるというのと同時に、現状がどうなっているのかとか、あと、EUとかに比べて規制が遅れているとか、いろいろ同時に幾つかの問題があると思うのですけれども、何を優先してどの順序で進めていくべきなのかという、その点について教えてください。

(答・鹿野委員長) 誰がお答えするのが適切か分からないのですが、まずは、私から一言。今回の専門調査会の検討は、今までにはあまりなかったアプローチだと思うのです。今まで消費者委員会では法制度の改正に向けていろいろな意見を発出したり、あるいは場合によっては建議を行ったりということがありましたが、今、進んでいるデジタル化の時代において、デジタル技術を使って、消費者の利益を守っていくという方向での、言わば画期的な御検討を今回の専門調査会で行っていただいたと考えているところです。

先ほども言いましたように、今後検討すべき課題もいろいろとあるのですが、まず最初には、やはり社会に対して、そういうデジタル技術を用いた武器を備えるということの重要性、必要性などを知っていただくことが第一歩なのではないかと思っているところです。

その上で、先ほども言いましたように、一方で、開発者、事業者の方々に、その技術開発を進めていただかなくてはいけない。そのためには、やはりインセンティブを与えるような仕組みないし工夫が必要だろうと考えておりますし、他方で、どっちが優先順位が上というわけではないのですけれども、法的な課題というのもありますので、それも両方同時に進めないといけない。事業者が技術を商品化するときは、法的なルールがこのようになっているということも前提に、それを踏まえて進めるということになってこようかと思います。ですから、その両者は、どっちかが先で、どっちかが後というわけにはいかないのではないかと、私自身は感じているところでございます。

法的な整備が遅れると、事業者としても、技術はせっかく開発して商品化しようとしたのに、法的に後でストップをかけられるということになると困るのではないでしょうか。私は、法律をやっているものですから、法的な整備も重要だと認識している次第です。

何かございますか。

(答・消費者をエンパワーするデジタル技術に関する専門調査会橋田座長) 日本政府としての取組というわけではないのですけれども、私は、例のヨーロッパのAI法の整合標準の策定に関わっておりまして、御存じのように、整合標準というのは、ほぼ法律と同じ拘束力を持つ標準ということなのですが、その中で、まさに今回の報告書に書いた記録を取るということが取り上げられています。つまり、ある種のハイリスクAIにおいては、内部でその記録をちゃんと残さないといけないということが既にAI法には書いてあるわけですが、それを具体的にどうやるかということを、この整合標準で決めようという話です。私が提案しているのは、ハイリスクAIであって、かつ、人間のユーザーがついている、かつ、その人に関するデータをAIシステムが取り扱う場合には、ちゃんとAIシステムの内部にログを取る仕組みをつくって、そのログをシステムの管理運用にフル活用しなさいという内容です。

これは要するに、各消費者つまりエンドユーザーが、他の様々な関係者とのやり取りに関するログを自動的に取って、それをリスク管理にも使えるし、あるいはサービスのクオリティの向上にも使えるという話なのですが、それがヨーロッパで通れば、ヨーロッパで商売をする様々な企業は、それに従わないといけないし、かつ、そのルールそのものが世界中に広がる、つまりGDPRで起こったようなことが再び起きる可能性が高いと考えているのですが、これはAI法の整合標準の策定が、結構、他の地域や国に開かれていて、ISO、ICという国際標準化機関の立場として、我々はそれに参画できる状況にありますので、この機会をうまく利用して、外圧ではないですけれども、インターナショナルな場面で、今回の検討が生かされるようにしたいということです。

(問) ありがとうございます。

座長がおっしゃるとおり、今のダークパターンとかを見ていても、EUとか海外と取引のあるグローバル企業のほうは、かなりやっているかなと思うのですけれども、そうすると、なかなか日本の法整備が遅れていて、むしろグローバル企業がリードして、その他の企業が、格差が開いていっているという感じがしているのですけれども、その辺はいかがでしょうか。

(答・消費者をエンパワーするデジタル技術に関する専門調査会橋田座長) パーソナルデータの取扱い等に関しては、既にそうなっているという御指摘は様々な方からなされていて、おっしゃるとおりだと思います。

そこで、やはり企業を動かすためには、今日インセンティブが必要だという話が出ましたけれども、もちろん認定制度とか表彰制度とかというのは必要だと思いますが、それに加えて、こうすれば企業ももうかるというビジネスモデルが必要でしょう。先ほど私が申し上げた、ログを全てユーザーの手元に集めればプライバシーリスクなしにフル活用できるでしょうという話は、実は事業者にとってもメリットがあるはずです。つまり、データをフル活用することによって、そのAIシステムの付加価値が高まって収益が増えますね。そういうわけで、企業を押さえ付けるだけではないような規制をうまくつくるということも考えていまして、例えば、そういう方向で、日本企業にも対応してもらえるようにしたいなと考えています。

(以上)