高消費者委員会委員長 記者会見

2018年12月27日
消費者委員会

日時

2018年12月27日(木)16:00~16:32

場所

消費者委員会会議室

冒頭発言

(高委員長) 私からは、報告事項は1件でございます。

公益通報者保護専門調査会につきましては、本年1月に内閣総理大臣から諮問がなされ、公益通報者保護法の施行状況を踏まえ、事業者におけるコンプライアンス経営、国民の安全・安心の確保に向けた取組の重要性の高まりを初めとした社会経済情勢の変化への対応などの観点から、公益通報者の保護及び国民の生命、身体、財産、その他の利益の保護に関わる法令の規定の遵守を図るため、規律の在り方や行政の果たすべき役割などに係る方策について検討するため、専門調査会の再開を決定し、調査審議を行ってまいりました。

計16回の専門調査会で議論を行っていただき、昨日26日の「第24回公益通報者保護専門調査会」において報告書が取りまとめられ、本日の消費者委員会本会議でその報告を受け、内容を踏まえて検討を行い、本会議として答申を決定いたしました。

これらの答申の内容はお手元の資料にあるとおりでございますが、提言された事項について、その実現に向けてできる限りの努力を行うよう期待するとともに、法改正が実現した場合には、現行法の内容及び改正法の内容について幅広く周知活動を行うこと、及び解釈の明確化が必要な点については逐条解説などにおいて明確化を図ることなど、必要な取組を進めることを求めております。

今回の答申に至るまでに、公益通報者保護専門調査会において、長期にわたって熱心に審議に取り組んでいただいた専門委員の方々、オブザーバーの皆様に心からお礼を申し上げたいと思います。また、審議に協力してくださった消費者庁、厚生労働省やヒアリングに御出席いただいた有識者・各団体にも厚く御礼を申し上げたく思います。

以上でございます。

質疑応答

(問) 細かいところなのですけれども、答申する日程というのは、本日付で答申するということになるのでしょうか。

(答) はい。本日やります。年内にやるということでしたので。

(問) 分かりました。

(答・事務局) 先ほどの本会議の答申をもって答申とさせていただきます。

(問) 山本座長に、昨日は御欠席されていたということで、改めて意見書がまとまったことについての御所見をお伺いできたらと思うのですけれども。

(答・公益通報者保護専門調査会山本座長) 先ほどの委員会の場でも申し上げたのですけれども、委員の方に大変熱心に議論をいただきまして、委員の皆様、それぞれ専門調査会において公益通報者保護法を良いものにしていこうという思いは共通していたと思います。

ただ、その中で意見の相違があったことも紛れもない事実でございまして、大きく言うと、推進をしよう、非常に大幅にこの公益通報者保護法の対象を広げる、あるいはそれを大変大幅にアクセスしやすいものにしていこうという立場の意見と、そこのところは、実務上の対応を考えると、ある程度慎重にならざるを得ないという立場から、それほど大幅な拡充までは避けるべきだという慎重な立場の意見とがありまして、それをどのように折り合わせていくかというところが課題でした。

一方では、積極的に推進をしよう、大幅に推進しようという意見の方に対しては、ある程度折り合っていただかざるを得なかった。それは、確実な一歩をまずは踏み出すことが大事である。更にその先の二歩目のところまでは、今回はなかなか合意するのは難しいという形で折り合っていただいた部分がかなりあります。例えば、よく取り上げられることですが、刑事罰の導入ですね。義務を課すと、それについて行政措置を入れるというところまでは、今回、ある程度報告書の中に入っていますけれども、更に刑事罰という、ある意味究極的な手段を使うというところの制度化までは、今回は少しとどまることで折り合っていただけないかという形で議論をまとめさせていただいています。

それがまずは一方にあり、他方で、慎重な立場の意見の方に対しては、どのような根拠から反対なのかということについて明確にこの場で議論をしていただきました。結局のところ、最後までそういった意見が残った、反対意見として残ったわけですけれども、ただ、その中には、非常に一般的といいますか、どこでも使える理由を挙げた箇所がかなりありました。つまり、公益通報者保護法の対象を広げてしまうと、それに対応する行政機関の容量を超えてしまうという理由でして、この理由は、公益通報者保護法の対象を広げようという議論に反対するときに、いわばいつでも使える論拠なのですね。それを言われてしまいますと、結局、それ以上の議論がなかなか成り立たないということがございまして、最終的には、最後までその意見はおろさないということではあったのですが、それでしたらそれは注の形にしてくれということにいたしまして、意見の本文ではなく、注の部分でそれは収めるという形で御納得をいただきました。

ということでございまして、最後まで全体的には非常に苦労をいたしましたが、バランスの取り方として、何とか一貫性を持った形で、しかし、最終的に意見の異なる委員の方々のうちで合意をいただける形でまとめるとなると、こういう形しかなかったのではないかと思います。

細かいところを見ていただきますと、一つ一つの論点がばらばらに書かれているようでもつながっている部分がございまして、例えば、資料の持ち出しについてそれを許容するような規定を特には今回設けないという形の提案になっております。ただ、これには条件が付いていまして、多くの委員の方は、確かに、資料の持ち出しを正面から認める規定まで設けることは、現時点ではそこまでやることは難しいという御意見の方の多数は、しかし、それであれば通報の要件をより緩和をするべきであると。つまり、資料を持ち出さなくても通報ができるというような状態にすることが条件であるということで、例えば、2号通報の要件を緩和する、これを条件にして、しかし、資料の持ち出しを特に認めるような規定は作らないというような形で合意をいただいたということでございまして、そういうふうにそれぞれの論点の相互のつながりの問題もありまして、その意味では非常に複雑な作業を強いられたというところがございます。

いろいろこれでは不十分だという御意見があろうということは重々承知しておりますけれども、ただ、正直なところ、私の感じでは、これでも実現できるかどうかそれほど楽観視はできないというところがございまして、消費者委員会としてもこれが今後どのような形で実現をされていくかということをよく注視していかなくてはいけないと思っております。

(問) 改めてなのですけれども、報告書の中に「おおむね合意」という言葉がたくさん出てくるかと思うのですが、ここの考え方について、改めてどういうふうに考えればいいのかというのを教えていただければと思うのですけれども。

(答・公益通報者保護専門調査会山本座長) 「おおむね合意」という部分については、反対意見が一部にあったということでございます。そして、その反対意見の多くは先ほど申しましたような性質のものであったということでございます。つまり、非常に一般的な反対。これは、私の個人的な意見として受け止めていただければと思います。これは委員全体のコンセンサスを得ているわけではありませんので、個人的な意見として申し上げると、中には説得力に疑問符が付くような反対意見も含まれていると思います。

いずれにいたしましても、「おおむね合意」という部分に関しましては、注において反対意見が付されているものであると御理解いただければと思います。

(問) ありがとうございます。

そうすると、この部分は合意の方向性としては示したものと捉えていいということになるのですか。

(答・公益通報者保護専門調査会山本座長) 本文においては「おおむね合意」をしたということでございまして、注に反対意見が付されているということですので、私としては、方向性は示されていると。逆に言いますと、ここで方向性が示されていないと言ってしまいますと、反対側の意見をある程度譲歩して、そこのところは譲っていただいた方に対して、おおむねの方向性も示されていないと言ってしまいますと、非常にアンフェアなことになってしまうということがございます。

一方、反対意見はむしろ推進をするのに反対という方向の意見なのですけれども、逆に抑えるということについて反対であるという意見もかなりあったのですけれども、例えば、守秘義務のところとかについては、むしろ導入すべきだという意見もあったのですが、今回は見送るといいますか、今回は積極的に提案をしないで今後の検討課題という形にしております。それとのバランスからいっても、おおむね方向性は示されていると言うべきではないかと私としては思っております。ただ、反対意見があったということですね。

(答・事務局) 今の御説明に補足でございますけれども、「おおむね合意」といったところにつきましては、注の形で反対意見が示されているものと、中には本文中の説明のところなどに反対意見が示されているものもございます。

(答・公益通報者保護専門調査会山本座長) 一部、確かに本文中に示されている部分もございますね。済みません。その点は訂正をいたします。

(問) 二つあるのですけれども、一つは、今日の答申文の中で、「できる限りの努力」を「期待する」という表現を用いているのは、特に何らかの意図があってのことなのでしょうか。「できる限り」という言葉とか、「期待する」という言葉は、少し表現としては弱々しい表現にも読めたものですから、お尋ねしたいと思いました。

(答) これは私のほうから答えるべきでしょうね。

弱々しいと言われるかもしれませんけれども、消費者委員会としては、この後の庁の動きは厳格に注視していこうと思っています。

というのは、「すべきである」と明確にしたところについては進めていくことになると思いますが、今、言いましたように、「おおむね合意」とか、検討を要する課題というものについては、先送りされる可能性もある。そういう意味で、努力してほしい。我々としては、会議の場でも言いましたけれども、必要があれば庁に来ていただいて、我々から、今、どうなっているんだ、それについてはどういう対応をするんだというようなことを、キャッチボールしながら進めさせていただこうという意味で、こういう表現になっています。

(問) 分かりました。

もう一点なのですが、委員長は、この公益通報者保護法が立案されるといいますか、制定されるまでの議論にも、当時、15年前ぐらい、関わられておられたかと思うのですけれども、施行後12年余り、13年弱、この法律・制度についてどういうふうに評価しておられるのか、その辺り、ちょっと広い観点からの御意見のコメントをいただければと思います。

(答) ありがとうございます。

多分マスコミの方は皆さんそうですけれども、不十分だというところで、いろいろ御指摘されていますが、例えば、今日の概要ですけれども、1ページ目を見ますと、ただ、これをまた余り大々的に書かれると事業者側が警戒される可能性もあるので慎重に書いていただきたいのですけれども、例えば、この資料1、退職者を範囲に入れるというのは、これは大きな一歩だと思います。皆さん方はそんなふうにお考えにならないかもしれませんけれども、大体辞めた後に、問題を告発される方が多いということ。役員だって、特に大きな会社であれば、辞めた後に告発される方が多いと感じています。そういう点を踏まえて、今回、これを「すべき事項」としたことは大変大きな一歩だと私は思っています。

あと、刑事罰の担保による限定という「通報対象事実の範囲」というところで、今までは刑事罰の対象となるものだけに限定されたものが、行政罰とか行政処分の対象となるものまで含まれることになった。これも、簡単に考えるとほとんど全てが対象になるということですよ。だから、ここが足りないということを御指摘いただくのは分かりますけれども、現行法から比べれば、大きな前進ではないかと思っております。

(問) 最後、1点なのですが、施行後13年弱で、改正がまだ一度も行われていない。制定当時の議論では小さく生んで大きく育てると政府のほうでも言っておりましたので、あるいは施行後5年の時点で見直すという規定も附則に入っているわけですけれども、それで10年を超えているということについては、いかがでしょうか。

(答) もっと早い時期にこういう議論があっても良かったのではないかということですね。私は、全ての会社の状況を見ているわけではないけれども、各社の取組は相当進んできたと思っています。実態として進んできたから、それほど改正の必要性を感じなかったというのが、まず経済界の考え方だったのではないかなと思います。このため、法改正の議論が先送りになったと思っています。

ただ、これは個人的な意見として申し上げますけれども、公益通報者保護法という全ての業界を対象とする法律では、内容を厳しくするのはかなり難しいと感じました。アメリカの内部告発者保護法制のように、ある特定の分野や問題事項(政府に損害を与える行為)に限定していけば、また特定の業界を対象とする規制法であれば、社会が負うリスクとの関係で、比較的厳しい通報制度を作ることができると思います。今後は、そういったアプローチも、公益通報者保護法と余り矛盾しない形でとっていってもよいのではないと感じています。

(問) 委員長にお伺いします。

今回、こういった形で消費者委員会として答申するわけなのですけれども、いろいろ調査会で消費者庁のこれからの立案に向けての動きを見ていますと、実態に即して関係者の調整が今後有り得るという形で、この内容のまま後退するようなイメージで私は聞いておりました。

消費者委員会として、これだけ時間を掛けて議論をされて、識者の方々がまとめた内容が、今後どうなっていくのかというところに、山本座長も実現できるかどうかそれほど楽観視していないとおっしゃっていましたけれども、消費者委員会として、今後、立案に向けて、消費者庁に、この報告書の内容をどういうふうに生かしてもらいたいのか、あるいはどんな形で具現化してほしいのか、今のこの段階で、一言、おっしゃりたいこと、指摘したいことを改めてお願いしたいのですが。

(答)厳しいね。

山本座長が楽観視していないとおっしゃったのは、裏を返せば、委員会のメンバーが注視していくということですよ。我々としては、このまま傍観するというつもりは全くありません。これを出したところから先に進めていこうと思っています。

消費者庁そのものというのは、御存じのとおり、政府全体の中では非常に弱い立場にあります。予算もないし人もいないという状況です。このため、消費者庁側ともいろいろキャッチボールしながら、もっと消費者委員会をある意味では活用・利用してくださいと持っていこうと思っています。つまり、消費者庁は、こういう制度を導入していくことになると、大きな政府を作ることになります。政府を大きくしていくあるいは庁を大きくしていくのは、財政上の問題もあり、今、非常に難しい。そこで悩んでおられるのが正直なところなのかなと思います。しかし、こういう答申を出しました。これを踏まえ、委員会は、定期的にウオッチし、モニターし、これがどうなっているかを確認し、進捗を追うことになります。こうしたプロセスを通じて、法制化に向かっていくと私は思っています。

今日、池本委員長代理からもありましたけれども、秋ぐらいまでには何とかしたいという気持ちです。座長はもっと早いほうがいいとお考えかもしれませんけれども。

(答・公益通報者保護専門調査会山本座長) この公益通報者保護法というのは非常にいろいろな分野にわたっていまして、行政法もそうですけれども、民事法、労働法、様々な法分野にまたがった形でございまして、関係する省庁も極めて多数と申しますか、結局、通報を受けるのは全ての省庁ということになりますので、ほぼ全省庁に関わってくるという観点から申しますと、それから、もちろん事業者等も重要なステークホルダーですので、そういう多方面にわたるもろもろの調整が必要になるということは私も認識しております。ですから、それなりに時間が掛かるということは、私も承知しております。

ただ、こういう問題は、逆に申しますと、タイミングを逃しますと実現されない可能性があると思いますので、タイミングを見て、一気にやるときはやらないと、永遠に実現されないということになりかねないと思います。

ですから、そこのところはよく状況を見ながら、しかし、ずるずる延ばすのは避けていただきたいという気持ちでおります。

先ほど高委員長が言われた時期辺りでうまくいけば、非常に良いなと思っています。

(問) 細かいところを1点確認したいのですけれども、通報後に解雇された際に、立証責任を事業者側に課すという議論があったかと思うのですけれども、中間論点以降の議論ですと、解雇後1年なのか、期間を設けないのかみたいな議論だったかと思っていたのですけれども、最終報告書を見ると、それについてはいわゆる見送りという形になったかと思うのですけれども、この間の議論がどうであったのかというのが、私としてもすとんと理解できるところではなくて、実際、委員の中にも、そういう意見だったのに最終的にこういう結論になったことについて理解が及んでいないということをおっしゃる方もいるのですけれども、ここについて説明をいただけますでしょうか。

(答・公益通報者保護専門調査会山本座長) 解雇の問題でございますが、ここのところは意見がかなり分かれたところでございまして、つまり、一方ではおよそその立証責任の緩和の規定を設けるべきではないという意見から、期間制限を設けないで規定を設けるべきだという意見、中間的に1年という意見があった。要するに、三つの意見があった。全面導入なのか、全面的に導入しないのか、それとも期間を区切って導入するかというところで意見が大きく対立をしてしまったということがございまして、最終的にこれを1本にまとめるのが極めて難しかったということがございます。

ただ、他方で、これは報告書の36ページの頭のところにも書いておいたのですけれども、実務上は、日本の法制においては解雇の事由が非常に限定されていて、そのために実際上はほとんど事業主側が解雇の事由を証明しなくてはいけないと。つまり、実際上は、既に一般的に事業者側に証明責任が転換されているといった事情があります。そうだといたしますと、ここの意見の対立の中でどこかに決めるということをして議論がまとまらなくなるということをむしろ避けたほうが賢明なのではないかという判断がございました。

したがって、今回の報告書の中でも、36ページのところに、不当に解雇された場合には立証責任が事実上使用者側のほうに大幅に転換をされていると、こういった実務上の運用について周知を進めることが有益であるという形でまとめております。

この辺りがこの論点に関する落としどころであり、解雇に関しては、実際上、これで通報者がかなりの程度保護されるのではないかと考えて、このようにしたということでございます。

(以上)