河上消費者委員会委員長 記者会見

2017年8月29日
消費者委員会

日時

2017年8月29日(火)17:00~17:49

場所

消費者庁広報室

冒頭発言

(河上委員長) お待たせしました。

今日は、報告事項が3件ございます。

第1番目が、「消費者行政における執行力の充実に関する提言~地方における特商法の執行力の充実に向けて~」ということであります。今日の委員会で提言全体についての取りまとめができました。

近年、特定商取引法の規制対象であります取引類型に関する消費生活相談の総件数が、PI0-NETに登録されている消費生活相談の総件数の約半数を占めるという状態にあります。悪質な事業者への対応措置を盛り込んだ法改正が次々と行われてはいるのですけれども、その件数が大きく減少するには至っていないという事実がございます。また、ここ数年ですが、国、それから都道府県における行政処分の合計件数もかなり減少してきているということがありまして、その背景には、関係機関がさぼっているというよりも、それぞれの事業者の手口が大変複雑化し、巧妙化していて、執行業務が困難になっているということが言われているわけでございます。

特商法の執行権限というのは、国だけではなくて、都道府県にも付与されているわけですけれども、近年、特に都道府県による処分件数が減少しておりまして、その執行を支える消費者行政担当職員数も残念ながら減少傾向にあるということでして、都道府県の執行力充実の必要性というのは極めて高いと考えられます。

こうした状況を踏まえまして、当委員会としては、地方消費者行政における特商法の執行力を高めるための方策に着目して調査審議を行いまして、本日、提言を取りまとめたところでございます。

この提言におきましては、執行体制に係る課題への対応として、執行担当職員の専門性の向上や、調査・法律・処分の専門的知識やノウハウを有する専門人材の活用等に関する方策。

第2番目に、悪質事業者への対応として、悪質事業者に係る端緒情報を迅速かつ適切に把握し、行政処分につなげるための調査手法の充実に関する方策。

第3に、国と都道府県の連携や役割分担に関することについて述べております。

この提言を踏まえて、消費者庁におかれましては、適切な取組を進めていただきたいということでありますし、また、都道府県におきましても、執行力の充実に向けた取組を行うことが期待されます。また、都道府県のこうした取組に対して、消費者庁は必要な支援を行うべきであると考えます。消費者委員会は、都道府県に対して直接にものを言うという立場にございませんので、まずは消費者庁に向けて、こういう形でお願いしておりますけれども、名宛人は消費者庁と、実質的に都道府県ということになろうかと思います。

加えて、この提言では、今後に向けてということで、直ちに対応が求められるものではないけれども、地方消費者行政における執行力の充実という観点から、重要な論点になり得ると考えられることについても述べております。これらについては、消費者庁において、今後引き続いて着目して検討を深めていただきたいと考えているところであります。悪質事業者の一掃を目指す専門職員の配置等の取組によって、各都道府県の行政体制が強化されることについては、特に期待を寄せているところでございます。この点を含めて、都道府県において、今後、執行力の充実に取り組む上で、この報告書を大いに参考にしていただければ有り難いと思います。

第2番目の報告事項ですけれども、本日、第5次の委員会の委員名簿が公表されたかと思います。来月1日に辞令がおりて、この5次の消費者委員会が発足することになりますので、第4次の委員会のほうから、これからこういうことに留意して調査・審議をしていただきたいという留意事項をまとめて、次期消費者委員会への移行に当たっての留意事項というものを、本日の委員会で取りまとめさせていただきました。詳細については、また資料を御覧いただければと思います。

第3番目は、手元に何も原稿がありません。委員長退任に当たってという標題だけがございます。もう名前が出ましたので、次期は、私は戦力外になります。御承知の方も多いかと思いますが、私、第2次のときに委員に就任いたしまして、2次、3次、4次と3期6年間、委員長の職にありました。この間に、色々な形で皆さんにもお世話になったと思います。特に、マスコミの方々に支えられて、委員会からの建議を色々と実際に動かしていただいたことがたくさんありました。

私が、一番最初に個人的に問題だと思ったのが違法ドラッグ問題だったのです。あのときに、消費者庁の方も、それから消費者委員会の事務局長も、違法ドラッグは警察の問題ですから消費者委員会の問題ではありませんと言って、相手にしてくれなかった記憶があります。でも、私は市場の中で普通の商品のような顔をして違法ドラッグが売られているということ自体、これはもう消費者問題だということを何度も申し上げて、結局、消費者委員会としては違法ドラッグについて一定の意見を申し上げたことがございました。

そうしましたら、これをマスコミの方が正面から受け止めて、違法ドラッグに関してキャンペーンを張るというところまでやってくださったということを、よく覚えております。その結果、今では違法ドラッグに対する様々な規制というものを消費者庁を挙げてやってくださっているということがございます。そういうことを考えると、マスコミの方の力は大きいなということを常々感じながらここまでやってまいりました。

消費者委員会は、どちらかというと国民に対して何かを言うという立場ではなくて、消費者庁とか関係省庁に対してものを言うということになる。消費者庁が司令塔になって、さまざまな関係省庁に対して消費者政策を実行に移していくという立場ですから、その意味では、消費者委員会から消費者庁に向かって色々お願いすることがたくさんあったということであります。

たまたま、今、川口次長がおいでになっていますけれども、色々文句を言われたり、目の上のこぶのような感じがしたのではないかと思います。上から目線で、おまえたちは現実の現場を知らずに好き勝手を言うなという気持ちを抑えながら、消費者庁の人たちが「はい、はい」と、色々とやってくださったということで、消費者庁にも心から感謝しているところであります。もちろん、消費者庁にもなかなか頑固な方もいらっしゃり、消費者委員会として何度申し上げても言うことを聞いてくれないことがありました。私は大体、気の長い人間なのですけれども、最後は腹を立てることもあって、言わずもがなのことを言って申し訳ないことをしたなと、今は反省の日々でございます。

二つ、一番怒ったことがありまして、一つは厚生労働省に対してでありまして、厚生労働省が美容医療への対応について、自主規制に任せる方針を堅持して、ホームページに関してもスタンダードを示して、それで自主的にやってくれるのを見守るということでやらせてほしいと言い、被害が一向に減らないのにも関わらず、消費者委員会が6回7回と呼び出して、色々文句を言ったときにも、まだ自主規制と言ったものだから、このときだけは私も我慢できぬと言って怒ってしまったことがございました。これには、消費者担当大臣も強力な援護をしてくださいました。

もう一つ怒ったのは、最近の消費者契約法改正問題でありました。消費者契約法の専門調査会というところで色々な議論をします。この議論について、専門調査会は専門調査会として一生懸命議論の取りまとめをしてくださったということは、私はちゃんと理解しているところであります。しかし、専門調査会の議論の大きな流れが、消費者のためにこれは必要だろうと言っているときに、幾つかのどちらかというと後ろ向きな意見、あるいは事業者が萎縮することは困るという意見が一つ二つ出ますと、次にはもう原案から落ちているという事態を何度も経験しました。

こういう形でコンセンサスを取りながら前に進むとすれば、消費者委員会の専門調査会ができることは本当に限られていると思いました。むしろ、公正な市場というものを考え、そして、現在の市場における高齢者や若年者消費者の保護のことを真剣に考えたときに、本当にこのまま放置しておいていいのかということを席上何度も申し上げた記憶があります。それでも、結局、コンセンサスというものが得られなかったということで、意見の対立があったから見送りということになってしまったわけです。

これは、専門調査会と親委員会との関係をどう考えるかという大きな問題とも関係しているのですが、専門調査会は衆知を集めて、それぞれの見解をまとめてより良い意見をまとめ上げることを目的としておりまして、大方のコンセンサスが得られたところで一つの報告書を作るというのが目的だったと考えれば、真っ当なというか、できる限りのことをやってくださったと考えております。しかし、それを100%是とするかどうかは親委員会の責任の問題だと思いました。そういう意味で、報告書に付け加えて三つの付言を行ったということは御承知のとおりであります。

この付言をどういうふうに扱っていただくかは、今度は消費者庁のお仕事になると考えているところでありますけれども、いずれにしても、少しでもいい市場ルールを立てるということは、これからも必要なことでありますから、今度の秋の国会で成年年齢の引下げが行われるとしたら、もう待ったなしで対応しておくことが求められると、個人的には思います。民法は、もう既に改正されました。ですから、定型約款の事前開示の要請も、これは絶対に必要だという考え方を持っていました。私は、もうこれで委員長を退任しますので、これは「遺言」だと思っていただいて、遺言は大事にしていただくということで、消費者庁にぜひ頑張っていただければと思っております。

ひとまず、これだけでよろしいですか。あとは、適宜、御質問がございましたら、できる範囲でお答えします。まだ現職ですので、言ってはいけないこともありますけれども、できる範囲で申し上げます。

質疑応答

(問) 今まで、2次から3期、本当にお疲れ様でした。

これまで振り返られて、今までのお話とかぶるところもあるのかもしれませんけれども、一番の成果と感じられている部分と、あと、これは消費者委員会の委員長として課題があったなというか、悔いが残る部分。これについては、次に引き継いで、是非やって欲しいと思われることを、また改めてお伺いできればと思います。

(答) 悔いが残るところはありません。もう、精いっぱいやったということでして、よく事務局がここまで支えてくれたなということで、感謝の気持ちでいっぱいでございます。

ただ、この2次、3次、4次の間で記憶に残るというか、これは大変だったなと思うことが幾つかございました。一つは、景表法に課徴金を導入するかどうかという話です。消費者担当大臣がかなり一生懸命だったということがあって、親委員会と専門調査会が合同調査会を作って、非常に短期間でしたけれども、あれは実は、独禁法で昔やった準備があったからできたということもあるのですが、小早川先生を中心に、相当短い期間に課徴金制度を導入する報告書をまとめることができた。思いどおりというわけにはいきませんでしたけれども、それができて、しかも今、幾つか大きな会社を相手にして消費者庁が頑張っておられるということがありまして、課徴金制度に関しては消費者庁との連携が大変うまくいったなという気がしております。

もう一つは、消費者契約法のことで、これは実は私は第2期の最初の記者会見のときに、どんなことをやりたいですかと聞かれたときに、消費者契約法のことを言っているのを確認しました。私は、6年を終わるという段階で、実は1冊の本を作ろうと考えて、宣伝になりますけれども「消費者委員会の挑戦」という本を作りました。この6年間に消費者委員会から出た様々な経緯とか、委員会の考え方みたいなものを、私なりに6年間書きためたものを本にまとめたのですけれども、その中の一番最初に、やはり消費者契約法のことを書いているのですね。

消費者契約法の実体法部分を何とかしなければということで、消費者庁に対しても色々申し上げたのですが、消費者庁は集団的訴訟手続で忙しいということで、なかなかやってもらえないということだったので、消費者委員会のほうでワーキングチームを作って論点整理をやりました。論点整理まではやったのですが、まだまだできなくて、私は最後の6年目で、やっと消費者契約法専門調査会で議論することができました。確かに、多くの論点でコンセンサスには至らなかったけれども、何とか「付言」を付けた答申を出せたということで、これは自分なりに精いっぱいやったという感じのテーマであったと思います。

それ以外にも、その都度、問題のあるものはたくさんあって、特に私自身がこれまで余り考えたことがなかったのは、食品表示の問題でありました。食品表示の問題は、ほとんど阿久澤委員にお任せしている部分だったのですが、実際問題として、機能性表示食品の制度が入ってくるときには、委員会の中で意見がかなり割れたのです。しかし、もう閣議決定しているという食品表示制度を、委員会がこんなものは駄目だと言ったところで、それは無視されるに決まっているわけです。

ですから、無視されるぐらいであれば、むしろきちんと条件を付けて、この制度良い形で、特保と並んで、消費者にとっていい食品の選択のための道具になるようにしたいということで、委員の方々、一人一人と随分話をすることになりました。結局、9項目でしたか、異例の条件を付けた形で苦心して答申を作った記憶があります。

あのときに思いましたことは、消費者委員会委員の人たちの見識の豊かさでありました。私自身は、食べ物のことだから、ちょっといい加減に思ったこともあったのですけれども、あれだけ熱心に議論したということで、機能性表示食品に関しては思い出のある制度になりました。

言い始めれば色々あるのですけれども、三つというと、そんなことでしょうか。

(問) 今日も最後の委員会の中でお話しをしてくださったのですが、ワーキングチームを作ってからの消費者契約法に対する消費者委員会のこれまでの積み重ねからすると、最後に15年ぶりの見直しの消費者契約法に対して、遺言を大事にして欲しいというところにはかなりの思いがこもっているのではないかと思ったのですが、もう一度、その辺りの思いをお教えいただけると。

(答) それは、今、申し上げたことに尽きていまして、やるべきことをやっていただくということで、消費者目線で必要な改正法の実現に向けてを消費者庁には頑張ってやっていただきたいということに尽きます。やってくれると信じております。確かに、消費者契約法は情報・交渉力等の不均衡を前提に、事業者と消費者との間での公正な市場ルールを考えるものですけれども、少なくとも提案していたものは、決して事業者の不利になるような形のものではないのです。ですから、その意味では、事業者の方々にも、消費者庁の方々にもよくよく理解していただいて、むしろそこで提案されたものをしっかり条文に反映させていただきたいと思います。

消費者契約法という法律の性格が、特商法とは違って、これはむしろそこにおられる次長のほうがよく御存じですけれども、民法と特商法のちょうど中間ぐらいにある法律として、包括的な民事立法として誕生したものです。ですから、今までだったらすき間に落ちてしまいそうなものをすくい上げるという実体的な包括民事ルールとして消費者契約法は誕生したのです。そのときにも、事業者にとってみると予見可能性があるほうがいいとか、色々なことを言われて、必要最小限の内容でスタートしたことは確かですけれども、現時点での立法事実があるかないかというところで足踏みしているようなものだとすれば、それは消費者契約としては意味がないということで、あり得る危険性・蓋然性が高い問題に関しては、きちんと手当てするということが求められてしかるべき法律であると思います。

確かに取消事由の中には、今度、4つぐらいのタイプのもの追加されて、これは良かったと思いますけれども、4つ追加されたものを見ると、あれは特商法並みのルールですよ。昨年の消契法専門調査会が特商法改正の専門調査会と並行して走ったのが災いしたのかも知れません。具体的に細かく要件を定めて、こんなことをしたときに初めて取り消せます。それ以外のところは取り消せませんと言っているようなものです。それではおかしいので、不公正な勧誘方法をとったときは、これは許せませんということをはっきり言うのが消費者契約法の役目だろうと思います。そこはまた皆さんからもきちんと指摘していただいて、いい立法になるように消費者庁を応援してあげていただければと思います。

(問) 合理的な判断ができない状況とは、どういう状況かと。こういう議論を一つ一つ詰めていくような議論の在り方を、何か違う方法に変えられるような、いいアイデアとか考え方というのがあるのかなとずっと思いながら、長い、何回もの調査会を拝聴させていただいていたのですが、一つ一つ詰めて、著しくとは何かとか。

(答) ある程度の抽象性というのは、消契法のような包括的な規範を考えるときは必要なことで、そのときに一つずつ詰めていって、この場合はどうかと言い始めれば、いつまでたっても終わりません。民法などもそうなのですけれども、ある一定の幅を持った準則を立てることによって、それを実務の中で具体化していく。それは、むしろ実務の中で少しずつ具体化して、解釈と運用によって精密化していくという性質を持った規範が消費者契約法だろうと思います。ですから、特商法のように政令でがちっと固めて、これだけの要件があれば行政指導ができます、取り消せますと言っているのとは性格が違うということを事業者の方にもきちんと理解してもらわないと、話は進まないのではないかと思います。

約款の事前開示だって、どこまでのことをやったらいいかわかりませんという。それはあるべき事業者の態度ではないですね。自分が作った条件を相手に知らせる努力をする必要がないと考えている事業者は、悪徳事業者以外にはいません。ですから、そう考えれば、どうやって事前に開示するかということの具体的で合理的なな方法は、消費者庁が一々教えてあげなくても自分で考える。それが事業者の姿だと思うのです。

消費者志向経営を言う以上は、事業者の方にもやるべきことをきちんとやっていただく必要がありそうです。これからは、消費者に支持される事業者でないと、市場の中で成長していかないのだということを私は言いたいと思います。30年、40年前の自由市場万能主義で全てが片付くと思っているとすれば、それは間違いなのではないでしょうか。

(問) 消費者庁の集約の仕方に関しても疑問を感じていらっしゃったということでしょうか。

(答) 今は、それは余り言いたくありません。もちろん、色々な意見が出て、最終的に次の原案を出す段階で、本当にそこまで出てきた議論の全体をうまく集約していたのかどうかという点については、若干の不満はございましたが、それは一生懸命されたのだと思います。消費者庁の方は、原案を出す前に、事業者の方とか、法制局などの色々なところと相談して、これだったら受け入れてもらえるだろうかというのを一つ一つ詰めながら前に進めようとしているわけです。だから、法案を作ればいいという話ではなくて、その意味では、通る法案にしたいという気持ちがもちろんあるわけで、そこは理解してあげないといけないと思います。ただ、消費者庁には、もっと消費者のために闘う姿勢というのも必要だろうなとも思います。

(問) 経済産業省が消費生活用製品安全法で義務を入れたときに、事業者を説得してあれを持ってきたときから比べると、消費者庁の事業者を説得する力というのはどうなのかなという印象を持たないわけではないなと、私は拝見していました。

(答) それは消費者庁に向かって言ってあげてください。消費者庁頑張れという、消費者庁に対する応援団は見えないところにたくさんいるのです。ですから、応援に応えていただく。私は、消費者庁のことを随分色々言いましたけれども、最大の応援団なのです。ですから、頑張っていただきたいと思っております。

(問) お疲れさまでした。6年、このビルの中で、職員も含めて、そんなにいらっしゃる方はいないのではないかと思います。

最初にお聞きしたかったのは、委員長が最初、6年前に、消費者委員会の役割として、消費者行政の監視、消費者行政の推進、あとパイプ役。監視についてですけれども、先ほどお怒りになることがあった例として二つ挙げられましたが、我々は勧告がいつ出るのかということを考えていました。建議だけではなくて。

委員長の場合、本会議が終わった後に一言コメントがあって、色々な行政に対して、それが監視になっていると私は思っていました。要するに、次の第5次の消費者委員会の在り方として、監視機能ということについて、委員長が6年間やられた経験上、建議とかはあると思いますけれども、何かこういうものが必要だということがありますでしょうか。今までのようなやり方であると、多分、委員長のコメントというのはみんな見ていますし、行政も事業者もとても注目していました。という、委員長本人の性格ではなくて、消費者委員会の組織としての在り方について、何かありますでしょうか。

(答) 難しいですけれども、一定の提言をしたり、一定の監視機能を果たすときに、相手に受け入れてもらえるためには、少なくともその提言を言う人間が相手の立場をどのぐらい理解しているかということが決め手になるのではないかと思います。ですから、今、厚生労働省にしても、経済産業省にしても、それぞれの立場で考えていること、あるいはそれぞれの立場でやらなければいけないと思っていることをちゃんと理解してあげる。その上で、なおかつ消費者目線で考えたときに、ここだけだったらやってもらえないかと説明していかないといけないと思います。評論家のように上から、消費者のためにはこういうことが必要ですということを幾ら言っても、それは余り聞いてもらえないのではないかということです。

ですから、私はヒアリングなどのときに、相手がこれで一体何を大事にしているのだろうということをいつも考えるようにしておりました。その大事にしているものを生かしながら、なおかつ消費者の利益を守るにはどうすればいいかということで話を立てるというように努めておりました。ですから、これは今後も考えていただかないといけないことで、そのためには、事務局がそれぞれの制度の持っている役割と保護しようとしている利益をきちんと評価して、そして消費者委員会として言うべきことを、そのバランスの上で組み立てるという努力をしないといけないだろうという気がします。

ちょっと見たら、見た目は余りよくないというか、はっきりしない態度のように見えるかもしれないけれども、相手を動かすには、それだけの理解というものを持っていないとだめなのではないかというのが個人的な考えです。

(問) 次期の消費者委員会委員のメンバーの話ですが、新しく変わる方は、6年続けられた委員長と阿久澤先生と中原先生ということで、ほとんどのメンバーがそのまま残られるということですが、消費者委員会の継続性のようなものに関して、何か思いがあるのでしょうか。

(答) それは、私にはわかりません。人事には一切タッチしていません。

(問) それは大臣に聞くということですね。

(答) そうですね。ただ、私は前から消費者委員会メンバーの半舷上陸というのを主張していたのです。継続性を考えるためには、半数ぐらいずつが交代して入っていくほうがいいのではないかということは申し上げていたので、今回、半数以上の方が残ってくださったということについては、継続性を考える上で良かったのではないかと、後からは考えています。

(問) 代わりの方が食の専門の方ではないというところが、一人もいなくなってしまうなということを心配しているのです。今日、阿久澤委員がかなりはっきりおっしゃったので、感銘を受けて。

(答) 信頼できる方だと聞いております。

(問) もう一つ、いいですか。今日の法執行に関しての提言です。これに、私、今週号で、消費者庁の法執行が今年度は1社、昨年度は5社で、こんなので役割を果たされているとは言えないのではないかという記事を書いています。この中に、消費者庁も含めて、もう少し何か言っていただきたかったという思いがあるのですが、消費者庁に関して何か。

(答) これは、これからの様子を温かく見守ってあげてください。岡村長官自身、執行に対しては大変な熱意を持っておられて、これから執行をきちんとやっていかなければいけないということを考えておられる方ですから、恐らく頑張ってくださるのではないかと思います。

(問) 常々感じていたことですけれども、消費者契約法の専門調査会とか、途中から入って、非常に難解で、わからないな、難しいなという専門用語がたくさんあってと思っているときに、時々委員長が話されるコメントがすごくわかりやすくて。先ほど、各省庁の担当者に対しては、相手の立場になって、何を相手が考えて、施策の上で大事にしてやっているかというのを考えた上で、ものを言うようにしているとおっしゃいましたけれども、ああいう専門調査会とか本会議で、委員長がいつもすごくわかりやすい言葉で語られることについては、委員長は何か思いがあって、そういう語られ方をしていらっしゃるのでしょうか。

(答) 今、褒めてもらったのですね。ありがとうございます。

私は大学で法律を教えている人間で、今のお言葉は大変嬉しく思います。そういう意味では、相手を見ながら物事を説明するというのはプロであるわけですけれども、ほかの場面でもそうありたいと思っています。けれども、自分がわかっていないことは話せないのです。わかっていないことや中途半端にしか分からないことを話そうとすると、どうしても難しくなります。マスコミの方もそうですけれども、自分が理解して腑に落ちたことを自分の言葉で国民に伝えるとしないと、こういう記者会見で言った人の言葉やブリーフィングをそのままなぞって記事にしても、それは読者に伝わらないと思います。その意味では、自分がまず理解する努力を惜しまないことが大前提ですね。自分のきちんとした理解のもとで、自分の言葉でしゃべるということは、私も気を付けるようにしているのですけれども、マスコミの方にも、大いに頑張っていただければと思います。

(問) 今、大変いい指摘をしていただいたと思うのですが、本当に議論が難しいと思います。だから、消費者にはあのまま書いても伝わらないと思います。だけれども、本当はわかりやすく説明していただけると、誰にでも関係がある、こんなときに取り消せるのは本当は当たり前ですねみたいな話なのだけれども、全ての用語が余りに専門用語で、何のことを言っているか。本当は平たく言っていただければわかるのに、わからない。本当に専門的な先生たちばかりの議論になっているところは、最初のときにも私はちょっと書かせていただいたのですけれども、それが変わることなく最後まで行ってしまったととても思うのです。

先生に話を聞くとすごくわかりやすく、契約法の問題や民法の話なども話してくださるのですけれども、それがあそこの文言になってくると、全てが専門用語で書かれてしまってくる。それは、本当は消費者委員会の検討の仕方としていいのかなというのをとても思いながら来たのですが。

(答) 難しいところですけれども、基本的な大方針に関しては、これはある程度柔らかい言葉でしゃべっても伝わるのではないかと思いますけれども、具体的なルールになってしまったときは、これは最終的に法律にまで持っていかないといけないと考えてしまいます。そうすると、法律の議論というのは、その概念に当てはまるのか、当てはまらないのかというところで勝負する世界になります。裁判官がその言葉を使って、一体どこまでを射程に入れて適用するのだろうかということを考える世界なので、その意味では、概念に対しては相当厳しい感覚を持つことになります。

専門調査会には、民法だけでも専門家が6人ほどいらっしゃいました。皆さん、あの消費者契約法についての理解については、日本で第1級の方ばかりでして、最後の詰めのところで一体どっちに倒れるだろうかということを真剣に考えながら議論して下さったとということがあります。それは必要なことでもあるのです。、とはいえ、最後に出来上がったものについては、国民にわかりやすく説明するということが必要なので、そこまでの過程で細かい議論が出たとしても、なるほどねと思いながら聞いていただくほかないと思います。

細かい議論が特商法ほかの法律でもいっぱい出ますけれども、それを法律家のように理解しようと思うと難しいので、これはこういう解釈論上の難しい問題があるのだなという程度で構わないと思いますので、頑張ってください。

(問) 委員長、これから9月以降はどうされるのですか。

(答) 学者に戻ります。

(以上)