河上消費者委員会委員長 記者会見

2017年1月10日
消費者委員会

日時

2017年1月10日(火)18:30~19:03

場所

消費者委員会会議室

冒頭発言

(河上委員長) それでは、始めさせていただきます。

先ほど委員会本会議において、民法の成年年齢が引き下げられた場合、新たに成年となる者の消費者被害の防止・救済のための対応策についての委員会意見を取りまとめましたので、その点について、御報告いたします。

これは昨年9月に委員会本会議において、消費者庁長官からの意見聴取の求めに応じて成年年齢引下げ対応検討ワーキング・グループを設置いたしまして、これまで計14回の会合を開催して、有識者、関係団体、関係省庁からヒアリングを行うなど、詳細な検討を行ってまいりました。

横におられる樋口委員がその座長を務めてくださいました。

本日、ワーキング・グループでの報告書が取りまとめられまして、その直後の委員会本会議でワーキング・グループの報告を聴取した上、意見を取りまとめたというものです。

報告書は皆さんのお手元には渡っていますね。報告書の詳細な内容につきましては、お手元の資料を御覧いただければと思いますけれども、概要を簡単に御紹介いたします。

報告書では、まず「はじめに」ということで、民法の成年年齢が引き下げられた場合、新たに成年となる18歳、19歳の者に対する消費者被害の防止、救済のための対応策について述べております。これが全体の総括的な文章が1枚紙になっているものです。

引き続きまして、第1において、若者の実態や消費者被害の特徴、若年者保護のための具体的措置に関する制度の現状、消費者教育の現状と課題などがまとめられております。

これらの現状と課題を踏まえまして、第2において消費者被害の防止・救済の観点から、望ましい対応策について具体的に述べている部分が続きます。この対応策としては、制度の整備や執行の強化、消費者教育の充実、若年成人に向けた消費者被害対応の充実、事業者の自主的取組の促進を求める内容とになっています。

今日の報告書取りまとめに至るまで、ワーキング・グループでは、4か月ほどしかない非常に短期間に集中的に大変熱心な審議をしていただきました。委員の方々、あるいはオブザーバーの皆様には心から御礼を申し上げたいと思います。また、審議に協力してくださった消費者庁、あるいはヒアリングに御出席いただいた参考人の方々にも厚く御礼を申し上げたいと思います。

今後、本報告書を踏まえまして、消費者庁において具体的な取組が行われていくことになろうかと思いますけれども、充実した取組となるよう、更に検討が深められることを期待したいと思います。先ほどの委員会でも、まだまだ詰め切れていない部分があるので、各論的なところではしっかり検討しないといけないという話になりましたけれども、できましたら、意見をより充実した形で実現していただければと期待しているところであります。

これが成年年齢引下げの場合の対応策に関する委員会意見についての御報告でございます。

第2番目の御報告は、消費者安全専門調査会の再開についてであります。これは、昨年の12月6日の委員会本会議でお知らせをいたしましたとおり、消費者安全専門調査会を再開いたします。

消費者庁では、消費者安全法等に基づいて、消費者事故に関する情報を一元的に集約し、消費者に対して注意喚起をしたり、各省庁に対して意見等を発するなど、事故情報の活用について一定の取組を行っていることは、皆様御承知のとおりであります。

しかしながら、集約された事故情報をもとに、事故の未然防止等にうまくつなげていくという取組については、例えばテキストマイニング等の解析技術を活用することで更なる成果を期待できるのではないかと考えているところであります。

このため、この専門調査会におきましては、消費者庁における事故情報の収集、分析、活用に関して、消費者事故の未然防止や拡大防止に資するための事故情報の活用の在り方について専門家の方々に審議をいただいて、できれば夏頃をめどに一定の取りまとめをお願いしたいと考えているところであります。

なお、専門調査会の委員のメンバーは、資料としてお配りしているかと思いますので、御参照いただければと思います。

私からは以上です。

質疑応答

(問)  今日まとまった意見についてで、そもそものことで恐縮ですけれども、改めて若者の消費者問題の現状について委員長はどのように認識をされていて、そのまま成年年齢が引き下げられた場合にはどのようなことが一番懸念されるのか、改めてお話しいただけますでしょうか。

(答) 基本的には、未成年者の場合は、御承知かと思いますけれども、未成年者取消権というものがあります。ですから、仮に何か不都合な契約をしてしまった場合でも、これは一律に未成年者であるということだけで契約を取り消して原状に戻すことができる。その意味では、未成年者取消権は非常に大きな防波堤になっていたわけです。

ところが、今度成年年齢が引き下げられることになった場合は、この防波堤が、現行の20歳から、例えば18歳なら18歳のところまで引き下げられてしまうということで、18、19歳の若者が市場で完全に独立して有効な契約を締結できるとともに、丸腰でその責任を全面的に負うという形になります。従来も20歳になったばかりのときに悪質な業者に接近されて、必要もないような契約や不当な内容の契約をさせられていたという事例はたくさんあったわけで、それが今度は18、19歳のところまで下がってくるのではないかというおそれは、法制審などでも指摘されていました。

実際に、今の若い人たちというのはカードなどもよく使いますし、インターネットも盛んに利用しますので、財産的な取引関係の中に入り込みやすい環境にあります。そういうときに、未成年者取消権で守られていないとなりますと、かなりの被害が出てくる可能性が高いと思います。

報告書の中でも、若者の被害として、マルチの問題であったり、女性の場合には美容医療などの問題とか、幾つか典型的な問題が挙がっておりますけれども、今後はそういったものを中心にしてかなり高額な被害を受ける可能性が否定できない。若い人というのは思い込みますから、その意味では、被害を受けてしまったときに立ち直れなくなって、場合によっては、この間も過労自殺をされたつらい事件がありましたけれども、ああいう取り返しのつかないような被害にまで拡大してしまうおそれだってあるわけです。一方で、一人前になっていくときに、それを支援してあげることが大事ですし、場合によって何か不都合な、不当な勧誘行為によって望まぬ契約をしたときには、その契約からうまく救済する、撤退していくような方策を考えざるを得ないのではないかということを考えたわけです。

(問)  ありがとうございます。

今後、具体的には消費者庁が対応策を検討していくことになると思うのですけれども、改めて、消費者庁に望むことをお願いいたします。

(答)  消費者庁におかれては、この報告書の趣旨をしっかり読み取っていただき、できるだけ充実した実効ある形で実現してほしいと考えております。具体的な制度的な対応でありますとか、それ以外の、執行面とか、相談窓口とか、消費者教育といった多面的な対応を求めておりますので、それぞれについてしっかりと内容を実現していただくことを期待しているところです。

(問)  河上委員長が度々若葉マークの話をされていたと思うのですけれども、改めてお伺いできれば。

(答)  よく講義などで議論をするときに、成年になったときに完全な契約ができるようなるということは、ある意味では市場という公の道路に自動車で出ていくときの資格、つまり運転免許証をもらうようなものなのだと。つまり、行為能力という法的資格を手に入れることになります。その意味では、一人前に契約ができるということではあるのですが、これまで一人で有効な契約ができるような環境になかった人たちが市場に出ていくわけですから、車でいえば免許証はもらったが若葉マークのついたようなものであって、そういう市場を若葉マークで走っている車に対して、事業者やほかの運転手が見守ってあげるということが、これからの市場の中では必要なのではないか。

ちょうど高齢者の場合などですと、逆にもみじマークでも付けて、運転の判断が遅くなったり、反射神経が悪くなったという場合には、免許を返してもらったほうがいいかもしれないという話がありますけれども、それと同じで、市場に出たばかりの新成人に対しては、社会全体でこれを支援して、少しでも成熟したドライバーになってもらうために、これを支援していこうではないかと考えていただけるとありがたいということを申し上げてまいりました。

そんなところでよろしいでしょうか。

(問)  はい。

(問)  ちょっと基本的なことで恐縮なのですが、若年成人の定義を18から22歳として、21歳でも20歳でもなく22歳としたことの議論の経緯を教えてください。

(答)  後でまた樋口委員からも補充していただけるとありがたいのですが、このワーキング・グループでいろいろな方からヒアリングをいたしました。特に教育関係の方とか、社会学者の方などからもヒアリングをしていったときに、共通して皆さんが指摘されたことは、若者が成長していく過程には非常に個性がある。つまり、成熟していくプロセスというのは多様であって、しかもその若者が置かれた教育環境であったり社会環境によって、その若者の成熟度も異なってくるということで、例えば20歳とか、場合によっては18歳というような、一律の年齢で区切って、それ以上は一人前、それ以下はまだという区切り方というのは適切ではない。つまり、年齢によって画一的に判断するのではなくて、それぞれの若者の特性を踏まえた対応をしていくことが必要なのだということで、言ってみれば大人と子供の間には一定の幅を考えたほうがいいのだということを、指摘されたわけです。

これについては、ワーキング・グループの間でも随分議論しましたけれども、確かに幅を考えて問題を捉えるということが必要であるということで、若者が成熟した成人として社会に参画することができるようになるためには、その幅の中で支援の在り方を考えるのが適当ではないかと考えました。

このことは、逆に言うと、20歳でぴしっと切るとか、18歳でぴしっと切るということができないわけですから、今まで20歳だった子でも更に21、22歳といった学生の期間は含まれてくる可能性が高いわけですね。私は個人的には17歳ぐらいから始まって23歳ぐらいまでいくのではないかと思いましたけれども、そんなにルーズに考えることもできませんので、あえて18から22歳ぐらいを念頭に置いて若年成人という言葉でこれをくくって、若年成人に対する支援の在り方がどうあるべきかという観点から問題を検討するということにしたわけです。

これについては、随分誤解されてしまいまして、消費者庁の長官から諮問されたのは、18、19歳の新成人に対する消費者保護の手当をどうするかということだったのに、あなたたちは度を越えているというか、聞かれていないことまで議論して答えようとしていると言われてしまいました。けれども、そんなつもりではなくて、問題を捉えるときのある種の考え方というか、哲学として若年成人というのが考えられるということですので、具体的な制度として何かを考えるという場合には、あるいは、消費者教育の対象としてどの範囲を考えるかということになった場合など、それぞれの目的にふさわしい一定の年齢というもの考えていただくということで構わないわけで、実態に応じた若年成人の年齢や属性というものを検討して、各々に即した対応をお願いしたいという趣旨でございました。

意見書の答申の中核にあるのは新成人であります。18、19歳という辺りを想定はしているわけですが、その問題の出口に至るまでの思考の過程では、一定の若年成人というものについての認識をベースにしたということであります。

もし樋口委員のほうで何か補足があれば、お願いします。

(答・樋口委員)  今、河上委員長がおっしゃったとおりですけれども、若年成人についてはこの報告書の中でも、7ページのところですが「18歳から20代初めにかけての若者」という書き方をしておりまして、物事の状況によって若年成人の捉え方は委員長もおっしゃったようにいろいろあるのではないかと思います。

ただ、報告書は具体的な措置を後ろのほうにいろいろ、法制度をはじめ様々な措置が並べられておりますので、一応18歳から22歳を念頭に若年成人として、この報告書では取り扱うということでありますから、実際には状況に応じて23歳の方、24歳の方も対象になってくる。

なぜそういう概念が出てきたかというと、消費者被害を救済するという観点で今回はこの問題を考えたわけで、そうなりますと、18、19歳だけの問題ではないということは被害実態から見てもかなり明確ではないかということでありまして、18、19歳だけについて制度的な保護を与えるとか、対応策を考えるということは、むしろ頂いた課題に関して答えたことにならないのではないかというお立場の委員も多かったということです。ただ、その報告書にもありますように、そこは必ずしも22歳と限定をしたとか、そういう趣旨ではありませんので、具体的な制度整備とか、消費者教育の局面において、それぞれ実態とか属性等を踏まえて、対応策を考えていただきたいという問題提起の意味もあって、今回は思い切ってこういう形で報告書をまとめたということでございます。

(答)  よろしいですか。

(問)  わかりました。

ただ、22歳という数字を一旦ここで置いたということは、例えば4年制大学を卒業するのが22歳であるとか、そういうことを参考に、とりあえずは22歳を。

(答)  これは意見のほうに第1の「1 若者の実態と課題」という部分がありまして、子供から大人へと移行するプロセスが長期化しているということを、個別化・多様化・流動化しているという書き方をした上で、若者の置かれている環境、その者の知識・経験・判断能力によって必要な対策は様々だという書き方をしていますけれども、実際に今回問題になるような若者の多くは、高校、大学を卒業するまでの段階にある者が約7割いるという現実があるわけです。もちろん中学を卒業してもう社会でばりばり働いている方もいらっしゃるのですが、かなりの若者は22歳ぐらいまでは実社会での社会人としての経験はないわけですから、そういう意味では、22歳というのは大学卒業程度ということで考えましたけれども、もちろんこれだって絶対的な線引きにはならないことは、今、樋口委員がおっしゃったとおりであります。

(問)  先ほど閉会後に聞いたのですけれども、未成年者の取消権を当面の間しばらくは維持すべきだという意見もワーキング・グループであったと思うのですけれども、それが報告書に盛り込まれなかった理由とか。

(答)  それは恐らく誤解かと思います。今度の成年年齢引下げが施行されるまでは現行民法がそのまま生きているわけです。ですから、施行されるまでの間は20歳になるまでの人間はみんな未成年者として未成年者取消権を使うことができる状態になっています。その未成年者取消権が使えない状態になった段階で、どういう法的な救済策を考えないといけないかというのが次の問題でして、我々の意見書はその部分を問題にしています。

ですから、救済策がうまく動くまでの間は、できれば民法上の未成年者取消権があったほうがいいということで、施行期間みたいな話を最初にしております。ただ、法務省の考え方では、施行の時期について二重三重のとりでを作るというのは余り好ましいとは考えていないということを途中で発言されていましたから、その意味では施行期間は一律に考えるのが適当だろうと思います。それまでの間は現行民法典の未成年者取消権があるということになると思います。

(問)  ということは、消費者契約法のつけ込み型取消権がどのぐらいで実現できるかということが非常に問題になってくるかと思うのですが、今回、少なくとも5年は周知期間を設定すべきという意見が多く寄せられているという表現にとどまっているのですが、この辺はどのようにお考えになっているのでしょうか。

(答)  そういう意見が多いということは報告書の中でも書いておりまして、特に消費者教育にとっての準備期間として十分な期間が持たれるべきだという形で報告書では書いています。

ただ、実際の数値がどのぐらいになるのが適当かということは、もう少し具体的に法務省のほうで考えていただく必要がありそうです。5年でいいのか、10年必要なのか、その辺も含めて考えていただく。

いずれにしても、圧倒的に多数の御意見が準備には5年ぐらいはかかるということをおっしゃっているという事実がありますので、そこは考慮に入れて施行期間を考えていただけるのではないかと期待しております。消費者契約法上の整備は、別に考えねばなりません。

(問)  消費者契約法の取消権に関しては、大体どのぐらいで法案を国会に出すような方向なのでしょうか。

(答)  消費者契約法のほうは、成年年齢の引下げがあるかないかとは一応別にして、一定の内容の実体法部分の改正が必要だという議論で、今、作業をしているわけです。ですから、そういう意味では、可及的速やかに消費者契約法の部分の見直しをしていただくのがいいと思います。

私は個人的にはですが、民法の改正と時期を同じくして、その問題が解決するのがベストだと思っております。

(答・樋口委員)  委員長から御指示があって、9月から12月までにこのワーキングの取りまとめをしました。その間に今日を入れて14回の会合、多くの方に御協力いただいて、三十数名参考人の方も、あるいは関係省庁の方等も含めていろいろな方から、有識者の方からもお話を聞きました。

その趣旨を御理解いただければというか、私はそのように理解しているのですが、諮問いただいたことは一応年内若しくは年明け早々に回答するということでございます。少なくとも基本的な大きな方向性について、ワーキングで報告を作り、委員会に御報告したので、是非お願いですが、ここまでやって、やはりその先も、きちっと速やかに議論が進んでいただくことを私たちとしては強く願っておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。

(問)  消費者契約法の情報提供努力義務のところですが、現在も努力義務なのですけれども、ここに配慮義務を求めることに対して、かなり事業者のほうから抵抗のようなものもあったという御意見もあったということなのですが、これはどの辺まで考えていらっしゃるのでしょうか。

例えば条文も何か変えるとか、そういうことを想定されているのでしょうか。

(答)  それは専門調査会で具体的にお考えいただくことかもしれません。ただ、意見書を読んでいただくとわかるのですが、例えばという形で、こんなルールを考えてはどうですかという御提案はさせていただいています。

消費者契約法の専門調査会でやるときには、若年成人という言葉でルールができることはちょっと考えにくいことですから、場合によっては年齢等に対する配慮義務という形で、例えば消契法の3条の頭ぐらいに努力義務が入るというようなことが、一つの考えとしてはあり得るかと思います。

ただ、その辺も含めて、つまり、成年年齢、若年者に限らず消費者一般においてそういうぜい弱な消費者、高齢者とか障害者とか、あるいは外国人などもそうかもしれませんが、そういう判断とか情報アクセスが非常に難しい方に対する情報提供の仕方で、事業者の方に一定の配慮をお願いするということが、消費者契約法の中で明らかにできるとすれば、これは大変素晴らしいことだと思います。

(以上)