第22回 消費者法制度のパラダイムシフトに関する専門調査会 議事録
日時
2025年4月25日(金)10:00~11:08
場所
消費者委員会会議室・テレビ会議
出席者
- (委員)
- 【会議室】
沖野座長、山本隆司座長代理、大屋委員、小塚委員、二之宮委員、野村委員 - 【テレビ会議】
加毛委員、河島委員、室岡委員 - (オブザーバー)
- 【テレビ会議】
鹿野委員長、山本(龍)委員 - (消費者庁)
- 黒木審議官、古川消費者制度課長、原田消費者制度課企画官、消費者制度課担当者
- (事務局)
- 小林事務局長、後藤審議官、友行参事官
議事次第
- 開会
- 議事
小塚委員プレゼンテーション - 閉会
配布資料 (資料は全てPDF形式となります。)
《1. 開会》
○友行参事官 定刻になりましたので、消費者委員会第22回消費者法制度のパラダイムシフトに関する専門調査会を開催いたします。本日は、沖野座長、山本隆司座長代理、大屋委員、小塚委員、二之宮委員、野村委員には会議室で、加毛委員、河島委員、室岡委員はテレビ会議システムにて御出席いただいております。なお、河島委員は少し遅れて御出席される予定でございます。
なお、所用により石井委員は本日御欠席との御連絡をいただいております。
配付資料は、議事次第に記載のとおりでございます。
一般傍聴者にはオンラインで傍聴いただき、報道関係者のみ会議室で傍聴いただいております。議事録については、後日公開いたします。
それでは、ここからは沖野座長に議事進行をよろしくお願いいたします。
《2.小塚委員プレゼンテーション 》
○沖野座長 ありがとうございました。では、本日もどうかよろしくお願いいたします。
早速、本日の議事に入らせていただきます。
前回、また、前々回と、専門調査会としての取りまとめに向け、さらなる検討が必要と考えられる事項について、当該分野に御知見のある委員からプレゼンテーションをいただきながら議論を進めてまいりました。
本日は、予定しておりました最後のプレゼンテーションということで、小塚委員に御報告をお願いしております。
中間整理において、デジタル化の中で、取引基盤提供者としてプラットフォーム提供事業者や決済機能提供事業者、情報・広告提供者が重要な役割を果たし、事業者が仮想的に関わることを踏まえた対応が課題となることなどについて言及していたところです。
取りまとめに向けて実効性の高い規律の在り方について検討を深めていく上では、これらの取引基盤提供者をはじめとする消費者取引に関わる多様な主体の役割を考えるという視点も重要であると考えられます。
そこで本日は、これらの検討に当たり、商法を御専門とされ、デジタル分野を含む様々な経済活動に関わる法律を御研究されている小塚委員に「プラットフォーム・エコノミーが消費者法の実効性に与える影響」というテーマで20分程度御発表いただきまして、その後、質疑応答・意見交換をさせていただければと思います。
それでは、小塚委員、よろしくお願いいたします。
○小塚委員 ありがとうございます。学習院大学の小塚です。
今、沖野座長から御案内がありましたように、本来であれば、プラットフォームだけではなくて、決済関係事業者など関係する主体の果たす役割といいますか機能についても分析しなければいけないところですが、なかなか問題が大きいということもありますし、また、ある種それらも広い意味でのプラットフォームであるとも言えますので、今日は典型的なプラットフォームを取り上げてお話しをさせていただきまして、この専門調査会の議論の御参考になりましたらということです。
プラットフォーム・エコノミーというのは、もちろんデジタルという側面もあるのですが、それはこの専門調査会の前半でいろいろ議論したところがあり、後半のテーマは実効性ということなので、これが実効性という観点でどのような影響を持つかということにフォーカスして本日は準備してまいりました。
それでは、スライドの2枚目に行っていただけますでしょうか。
先に、私が今考えていることは大したことではないので、これを1枚にまとめてまいりました。
今、私が考えているのはこういうことです。大小様々なプラットフォームが存在することが確かにデジタルエコノミー、さらに言えば社会全体を大きく変貌させたと言える。それはなぜかというと、取引主体を結びつけるという機能を果たしているからだと思われます。これは、要するにプラットフォームというものが持つ社会的に大きなプラスの側面であるわけです。
今まで自分の身近な、今までというのはいつを指すかという問題もありますが、例えば昭和の時代など考えていただきますと、自分の家の周りにあるお店とか飲食店とかが大体行動範囲であったのが、プラットフォームを使うことによって取引対象の範囲がかなり広がる。場合によっては、海外からも気軽に物を取り寄せられる。あるいはサービスを受けたり、ソフトウェアをダウンロードしたりできるというようなことも起こっているわけです。
ところが、それはいい面がある反面で、自分の日常の行動半径を大きく外れたところの相手と取引をしていることなので、何かひとたびトラブルが起きた場合に救済手段を行使していく。救済という言い方は法律的で恐縮ですけれども、救済手段を行使していくということになったときに、どうしたものかということが起きてくる。法律家的に言えば、そこには売買契約なりサービス提供契約なりがあり、当然、契約不履行の場合にはそれに対して契約不適合責任等の救済手段があるわけですけれども、それを実効的に行使できるのか。端的に言えば、例えば裁判を起こせるのかというようなことを考えたときに、消費者にとって現実的でないという状況が生じてしまう。
そこをプラットフォームは解決してくれるのですかというと、少なくとも取引を可能にする、結びつきをつくるほどには解決してくれていないのではないかということです。その結果、プラットフォーム・エコノミーはうまくいっているときにうまくいくけれども、救済という場面になると消費者から見て急に難しい問題が発生するということになっていないかということです。
これに対する対応の仕方として二つ方向があるのではないかと私は思っていまして、一つは遠くにいる主体、遠くというのは物理的に海外のような遠くというだけではなくて、例えばなかなかアクセスしにくいとか、飲食店などでリアルな店舗を持たないバーチャルな飲食店とか、いろいろなものが世の中にありますけれども、そういうものをひっくるめて比喩的に「遠く」と言っておきますと、遠くにいる主体に対して救済が実効的に行使できないのであれば、遠くでない近くにいる主体に救済の対象になってもらおう。その先は近くにいる主体と遠くにいる主体の間で、これはプロ同士、事業者同士で処理していただこうという考え方が一つの方向です。
もう一つは全く違う考え方で、むしろプラットフォームが遠くの主体と消費者を結びつけたという役割を果たすのであれば、救済についてもプラットフォームに遠くの主体に対する救済ができるような仕組みを用意していただこうという考え方、これがもう一つあり得るだろうと思われます。
この二つの方向というのは考え方の問題でして、それぞれ一長一短があり得ると思いますが、どちらを取るかということとは別に、それを実現するために今度はどういう手段で行うべきかというこの専門調査会でここ何回か非常に議論になってきたソフトローというものをどう使っていくかというような話があります。そのことについても少し触れたいと思います。
以上が本日議論したいことです。
次のスライドに行っていただきますが、この先、実際にこれを準備するに当たって、私は幾つかのプラットフォーム関連サービスの規約、約款等を見ております。ですが、例えばかつての銀行取引約定書のような業界全体で同じような標準約款を使うという実務が存在する業種ではありませんので、事業者によってかなり差があります。特に率直に申し上げると、グローバルな事業者と国内事業者とは約款の書き方からして大きく異なるという実態にあります。
ですから、これから申し上げることは例えば一つの事業者にいろいろなこういう条項もこういう条項も持っているというようなことではありませんで、あちこちから消費者取引上問題になりうるものを拾い集めているという趣旨であることはお含みおきいただきたいと思います。
そのような前提で、最初に抽象的な話を少しだけ申し上げておきますが、これは私の趣味みたいな話なのですけれども、プラットフォームの私法上、民事法上の位置づけは何なのだろうということが私はずっと気になっているわけです。恐らく今の六法に載っている民法、商法で探すと、仲立ちというか媒介ですね。仲立人というのは仲立営業という形で商法典に規定されていて、行う行為は媒介ということなので、媒介に当たるのではないかということがまず一つ考えられます。
ところが、そこに引用しておりますように、実はプラットフォームあるいはシェアリングエコノミーに関わられる専門家の方々は、それは実態とはそぐわないと。媒介とか仲介に至るほどのことはしていないのだということをおっしゃる方が多いわけです。
他方で、金融関係でAPIなどを使っていろいろなサービス、オンライン、スマートフォン等を利用した一般利用者向けのサービスを提供する。それが解禁される都度、関係する業法には媒介という言葉が入って、それを手がかりにしてそういうサービスの提供を認めているという実態がありまして、業法上の媒介と商法上の媒介は同じ概念のはずなのですけれども、本当に一致しているかというようなことも気になります。
そんなことで、そこにもう一つ引用しておきましたが、大分古いのですが、経産省のある小委員会で各種媒介という概念を少し整理すべきではないかというようなことが言われたことがあります。これは実は私の発言なのですけれども、教科書的に言うと、媒介はここに取引相手がいますよということを示すだけでも媒介です。商法の仲立人という概念はもう少し狭いと思いますし、私もプラットフォームを仲立人にしたいわけではなくて、仲立人にして見本保管義務とかを適用してもあまりいいことはないだろうと思うので、そういう趣旨ではないのですけれども、そこを整理していく必要があるのではないかと。
他方で、これから申し上げるように、実はプラットフォームは媒介ほどのこともしていないとおっしゃる反面で、いろいろ付随的なサービスという形で実はマッチングをする以上のサービスを提供している場合もあります。そうすると、その辺りは実は先ほど申し上げた救済の実効性というところとの関係で何らか手がかりにならないかなと考えられるところではあります。
ということで、早速、次のスライドから三つ例を取り上げてお話をしたいと思います。
まず最初がフードデリバリーサービス、これも事業者が幾つかありますけれども、どの事業者も大体こういうふうに書いておりまして、当該事業者、プラットフォームが提供するサービスというのはシステム利用契約にすぎない。実際の料理を作るという契約、そのこと自体にはプラットフォームは関与しないということが書かれています。そうすると、そこの部分は実は規約自体にも書かれていないわけでありまして、それは各飲食店の問題ということで、飲食店がそういう規約、民法でいう定型約款を持っているかどうかは飲食店によるということになります。
他方で、このフードデリバリーはやはりデリバリーというところが大きな特徴なわけです。これはどうなっているのだろうということなのですが、サービスが導入された当時と現在とで構成が変わっているようにも見えますが、今の契約は大体こうなっているようですというのが図に書いたところなのですが、デリバリーサービスというのはプラットフォームがドライバーと契約をしていて、ただし、これは雇用契約ではないと注がついていて、それはそれで労働法上の問題がありうると思いますが、ドライバーと契約していて、そのドライバーが届けに行きますというようなことが書いてあります。
先ほどの料理を売っているのはプラットフォームではないということからしますと、ではそのサービスは何なのかということなのです。つまり、売買契約で、これは取立債務か持参債務かという問題はありますが、消費者側が店頭に取りに行くというピックアップを除けば持参債務という前提でしょう。そうすると、本来デリバリーをすべき主体は飲食店なわけです。そうすると、恐らくシステム利用契約とは別に、飲食店がプラットフォーム事業者あるいは関連会社との間でデリバリーを委託するという契約を結び、そして、そのプラットフォームあるいはその関連会社がその委託契約の再委託として具体的なドライバーと契約している。この具体的なドライバーを誰にするかということはシステム上でマッチングされます。こういうことではないかと思われるわけです。そのように考えると、一応契約的な整理はできたということになります。
それを前提に次のスライドを御覧いただきたいのですけれども、既に今申し上げたことが前半に書いてあるわけですが、後半はネットなどでよく指摘されるクレームですけれども、届けられた料理を見たら食べられる状態ではなかったというようなことがあった場合、法的にいうと恐らくそもそも不完全履行というか履行がまだできていない状態ですので、履行請求ができるのではないかと思うのです。飲食物の特定がいつされたかというところを民法の先生には突っ込まれるかもしれませんけれども、注文して飲食店が料理を作った段階で特定になっているかというと、そうではないような気がしていて、注文した人は単に例えばハンバーガーならハンバーガーを注文しているということなので、早くきちんとしたハンバーガーを持ってきてくださいと言えるのではないかと思うのです。
ところが、規約上は恐らくそうはなっていなくて、規約上はきちんとしたものが届きませんでしたということを入力するフォームがあって、入力すると返金はしますということが書いてあります。したがって、お金は返ってくるかもしれないけれども、空腹はどうしてくれるというような書き込みがネットになされるということなのですが、それというのはどういうことなのだろうと。消費者に本来あったはずの履行請求権というものを規約上排除している。しかし、プラットフォームは飲食店の提供契約には関与していないと言っているわけですから、それは何なのか。第三者のためにする契約条項なのかというようなことになるわけです。あるいは、プラットフォームの利用契約において、目的物の特定の時点というものを定めたのか。それにしても、料理提供契約の当事者でないプラットフォームの規約にそれが書かれているというと、かなり不思議な契約ではあるということになるわけであります。
これが私の申し上げる救済が実際にしにくくなるということの実情であるわけです。
次のスライドに行っていただきますと、また別の事例ですけれども、これも実際に起こっているようなのですが、配送ドライバーが最近どうも減っていて、そうすると、一旦は飲食店側は注文を受け付けたのだけれども、配送ドライバーがいないのでキャンセルしますということが起こっているようです。規約上、これは可能だということが書いてありまして、このキャンセルとは何なのかもよく分からなくて、解除権を飲食店に与えるという規約なのか、それともそもそもドライバーが見つかるまで正式には料理提供契約は成立しないということなのかよく分かりませんが、いずれにせよ、そういうことは規約上できるということになります。
ところで、配送ドライバーを提供、探すということをプラットフォームは保障してくれないのですかというと、それは保障してくれません。先ほどの構成でいうと確かにそうなのです。要するに消費者側に対しては何のコミットもしていなくて、飲食店側の履行補助者としてプラットフォーム、あるいは関連会社が入って、さらに履行補助者の再委託先としてドライバーがいるわけです。そうすると、飲食店との関係では問題があるかないか分かりませんけれども、消費者との関係ではプラットフォームは知りませんということになってしまうわけですが、消費者としてはそれは非常に不利益を感じる。
ここでも金銭的なことを言うと、この場合、料金がまた返金されますから、金銭的な損失はないではないかと言われればそうなのですが、この専門調査会でも何度も出てきた金銭の問題さえなければ消費者の損失はないのですかというと、時間とかアテンション、アテンションはやや意味が違うかもしれませんけれども、要するに次のフードをここから探さなくてはいけないわけで、それはどうしてくれるのかという消費者の利益というものはあるだろうと思います。
それから、配送ドライバーがさらに犯罪などに関わるというようなこともあり得ないわけではないということですが、不法行為にわたるのでここは省略しまして、最後に紛争解決条項のところを見ますと、フードデリバリーサービスも含めて、このプラットフォーム関係は、特にグローバルなプラットフォーム事業者はオランダ法人が非常に多いようです。これは言うまでもなく先進国、いわゆるタックスヘイブンと名指しされない国の中では法人税が非常に低いということが恐らく関係していると思われます。
その上で、紛争解決条項があるのですが、例えば消費者との専属管轄条項を東京地裁にしますと書いてあったりするのです。オランダでないからいいではないかと思われるかもしれませんが、日本全国、消費者というのは北海道から沖縄までいるわけでして、東京地裁を専属管轄とするというこの条項は大丈夫なのだろうかというのは気になるところではあります。そのような条項も見られるということです。
次に進んでいただきます。
次は物の通販のところです。構造は実は似ているのです。つまり、プラットフォームは売買契約には関与しません。売買をしているのはあくまでも出店者といいますか売主、海外の事業者であれば輸出者と輸入者ということです。
この関係でフルフィルメントサービスというものがあるということを時々言われることがありまして、フルフィルメントサービスとは何だと思われるというよりも、実は私もよく分かっていなかったのですが、物流論の教科書などに出てくる概念でして、オンライン取引に固有の概念ではないということのようです。そこに引用しておいたとおりなのですが、注文を受けてから商品を届けるまでの一連のプロセスを全てフルフィルメントと言うということなので、広く取ると代金請求からクレーム処理まで全部フルフィルメントと言うようです。
ただし、オンライン通販との関係で問題になるのはそこではなくて、その前の部分の在庫を管理、保持していて、そこをピッキングし、仕分けをした上で梱包し、流通に乗せるという部分がいわゆるプラットフォームとの関係でのフルフィルメント契約と言われるものでして、そして、プラットフォーム事業者はここを売主が行いますか、それともプラットフォーム、あるいは関連会社に委託しますかというオプションを売主側に提供しているのが一般的です。
売主の側としても、大企業はこれを自分で全部できる。それから、逆に非常に小規模な売り手であれば、まだ自分で全部できる。問題はいわゆる中小企業なのです。実務書的なものを見ていますと、取引が月100件を超えるようであれば外注したほうがよいというようなことが書いてあったりして、それぐらいの規模になってきますと、どこに外注してもよいのですけれども、プラットフォームの提供するところに依頼すると非常にやりやすいということです。
そのことを前提に、次のスライドですけれども、フルフィルメントというのもあくまでも売り手に対するサービスの提供であって、消費者との関係では何もコミットしているものではありません。消費者の正面に立つのはあくまでも売り手です。しかし、売り手というのはそれこそ距離が離れたところにいて、場合によっては海外かもしれないということです。
プラットフォームの規約を見ますと、とにかくやはり返品しなさいということを誘導していて、返品されて、逆に事業者との関係では、不当なクレームは排除するかもしれませんが、クレームの内容を基本的に受け入れるようにということに恐らくなっていて、その前提で消費者との関係では返品すれば返金されます。返金はプラットフォームが決済システムを通じて実行します。こういうことになっているわけです。
それで満足できるのかどうかというのはもちろん状況によるということです。法律上あるいは契約上あるはずの救済手段というのは、ここでも現実に行使することはかなり困難ではないか。特商法を守っている場合には、売主名が少なくともサイト上のどこかに出ていますので、ただ、購入した時点ではですね。トラブルが起こった時点までに消えているという可能性はありますけれども、そうすると、特定はできるかもしれませんが、具体的には追及できないのではないかというようなことが問題になるわけです。
そこで、このオンライン通販の契約責任の文脈ではありませんが、不法行為の製造物責任との関係で、ヨーロッパなどではフルフィルメント事業者にも補充的な、二次的というよりも三次的ぐらいの責任を負わせるという仕組みが製造物責任法ディレクティブの改正の中で成立したということで、それでフルフィルメントが注目されているということです。ただ、製造物責任というのは不法行為なので、契約責任で同じ考え方を取れるかという点はまた論点が一つあるだろうと思います。
もう一つ急いでお話をさせていただきたいと思いますが、宿泊予約サイトの問題であります。これは前の二つと大きく違うところがあります。それはフルフィルメントとかあるいはデリバリーのようなサービスが存在しないということです。なぜかというのは明らかです。物、有体物を提供するサービスではないからです。消費者が宿泊施設に行くというサービスなので、プラットフォームは決済の機能は持っていますけれども、そういう履行を補助するようなサービスはない。しかし、そのことがまさに問題でして、これもネット上で時々話題になる、行ってみたらそこは野原の中の空き家でした、ホテルではありませんでしたといったことが実際に起こっているわけです。
ついでに申し上げると、プラットフォームは自分は旅行業者ではないということで旅行業の登録をしていない。旅行業の登録をしていないということがどういうインプリケーションを持つかというと、日本で旅行業の登録をしていると、営業保証金を供託していて、いざというときの消費者の損失の填補に充てられますが、その仕組みが適用されないということです。
そこで、次のスライドですけれども、これも規約を見ていますと、宿泊施設に対しては、例えばオーバーブッキングなどの場合には、解決策を見いだすようにということを書いてありまして、必要があればプラットフォームはサポートするというようなことも書いてあるようです。他方で、消費者との関係では、掲載する情報の内容について注意はします。注意はしますけれども、正確性の保証はできませんということが書いてあるわけです。
しかし、注意とはどの程度の注意をしているのだろうかとか、実際にどういう形で実在性確認をしているのだろうというようなことはブラックボックスになっているわけでして、これもEU的に言うと一種のコンテンツ・モデレーションの責任ということはありはしないかということです。また、ここでも紛争解決条項は気になるところです。
その次のスライドですが、時間が超過してしまっていますので、そろそろまとめに入りますが、最初のスライドで申し上げましたように、マッチングによって非常に便利になった反面で、いざトラブルが起こったときに困る。そこで、一つの方向感は、補充的な責任主体というものをつくるということで、例えばフルフィルメントサービス事業者というのは一つの候補にはなるかもしれないということです。
それから、もう一つは、プラットフォームの側にコンテンツ・モデレーション責任を課すとか、あるいはODRなどの仕組みを導入させるというようなことが考えられるのではないかと思われるわけです。オークションサイトなどではそういうODR的な仕組みなどを持っているところもあろうかと思います。
最後ですが、そういうことをハードローで行うか、ソフトローで実施していくかということなのですけれども、純粋なソフトローは難しいのではないかと私は思っています。それは二つの理由がありまして、一つは、プラットフォーム事業者というのは非常に新しい業態ですので、伝統的な例えば先ほどの旅行業というようなくくりに入ってこない。そうすると、業界団体を通じたソフトローという日本で従来よく使ってきた手法が使えないということがあります。もう一つの理由は、特にグローバルなプラットフォームは、当然のことながら、彼らから見れば当然なのですが、グローバルにビジネスをするので、なるべくどこの国でも同じような対応をしたい。そうすると、日本だけソフトローに入ってくださいと言われても、それはなかなかという話になるわけです。
他方で、ヨーロッパなどは、特に例えば旅行関係などは宿泊とかレンタカーとかいろいろ細かく具体的なハードローがありまして、そうするとプラットフォーム企業の側もこの国のこういうサービスについては特例としてこうなるということを書いていくわけでして、やはりそこは制定法があるということは強力なのだなということです。したがって、ソフトローで細かいことを書くとしても、根拠規定は制定法にないといけないのではないかというようなことです。
最後に書きましたのは、少なくとも法律家の皆さんはよく御存じのヤフーオークションの事件で、これは信義則が根拠ですけれども、信義則もハードローと言えばハードローなわけで、それを根拠に具体的ないろいろな義務を導いて検討したという例でして、イメージ的には例えばこういうこともあり得るかなというようなことでます。
時間を超過しまして大変失礼いたしました。
○沖野座長 小塚委員、ありがとうございました。
ただいまの小塚委員からの御発表内容を踏まえまして、質疑応答・意見交換をしていきたいと思います。常と同じように、御発言のある方は挙手で、オンラインの方はチャットでお知らせいただきたいと思います。
どの点でもどの方からでも結構ですので、お願いいたします。いかがでしょうか。
二之宮委員、お願いします。
○二之宮委員 二之宮です。
御説明ありがとうございました。
最初のところの既存の概念の媒介なのか仲介なのかというのに当てはめていくというのは、そもそも違うのではないかと。プラットフォームというのが現にあって、新しい仕組みとして根づいていて、しかも日本だけではなくてといったときに、これまでの概念で捉え切れるのか。もちろん法的性質を考えるに当たって何が近いのかということを考えること自体は有益だと思いますけれども、そうではなくて、現にこういうものがある。そこでこういうトラブルが起こっている。それに対してどういうルール、仕組みが必要なのかと考えていったときに、既存の枠にとらわれずに、それこそどう対処していくのかと考えるほうが適切だろうと私は考えております。
小塚委員の御報告の最後にありましたソフトローで難しいだろうというところも、前回私も少しお話しさせていただきましたけれども、紛争解決ということに関してはソフトローだけではやはり難しいと思います。ハードの程度というのはいろいろ考えられると思います。ハードといっても本当にきっちり詰めるものではなくて、一番ゆるいというわけではないですけれども、基本法みたいなものがあったりとか、それだけでもあるかないかでは全然違うと思います。
こういう形でソフトロー、民間がつくったソフトロー、自主規制とのハードローとの関係で何か参考例はないかと思って、小塚委員の資料を頂いた後いろいろ見ていたときに面白いなと思ったのが、預金者保護法と全銀協がつくった自主ルールというものの組合せです。預金者保護法というのは閣法ではなくて議員立法でできた法律ではありますけれども、偽造盗難カードでATMから下ろされたときには預金者が保護されるよう、要はリスクをどう分散するのかといったときに、そういう問題が多発していたということから議員立法でできた。そうすると、全銀協のほうは、盗難、偽造のカードだけではなくて、通帳が盗難に遭っただとかネットバンキングで不正な払い戻しが行われたというときにもさらにどうするかというのを自主規制で上乗せしていった。何かハードがあると、預金者保護というのは被害者救済ですから、そういう仕組みが動き始める。だけれども、ソフトだけだとなかなか統一的な解決法というのは難しいだろうし、実効性も難しいだろうなと思います。これは感想です。
もう一つは、同じように12ページのところで、これはヤフオク事件で信義則に基づいて欠陥のないシステムを構築して本体サービスを提供する義務があるという判断がされています。これはもちろん信義則に基づいてというところですけれども、同じようなシステムの問題で言うと、先ほどの不正な払い戻しのことに対して、これも銀行の例ですけれども、要はどういう場合に免責されるのかと。民法の例でいくと、債権の準占有者に対して善意無過失の場合ということになります。では、その善意無過失をどう判断するのか。ATMで機械を使ったときにどう判断するのかとなったら、正しい暗証番号が入力されたときには過失があったのかなかったのかという判断をする仕組み、それを機械を使ってやっているのだったら、機械を構築している銀行のほうがちゃんとしたシステムをつくる、運用するだけではなくて、暗証番号の重要性について周知させるというところまでやって、そういう運用をしていて初めて無過失と言えるのだという判断を最高裁でされています。
そうすると、システムだとか機械を使った場合に、それを提供しているというだけではなくてというのはおのずと判断の仕方、仕組みというのは既にあって、それは新しいルールに乗せるときにも参考になるのではないかなと。そうしたときにも、やはりソフトではなくてハードが一つ何か要るのだろうと思います。
質問ではなくて感想です。
○沖野座長 ありがとうございました。
感想ということですけれども、小塚委員から何かコメントはおありですか。
○小塚委員 全くおっしゃるとおりだと思いますけれども、実は終わりのほうでおっしゃったヤフーオークション事件の考え方あるいは銀行のATMの考え方の話と媒介かどうかという議論をするかという話はつながっていまして、私は性質決定にそんなにこだわっているわけではないですし、どちらかというとそういうことはあまり好きではないほうなのですが、ただ、媒介ではない、仲介をしていないという考え方に立つと、事業者側からすると、プラットフォームというのは要するにシステムを提供していて、それだけなのですと。だから、端的に言うとソフトウェア利用契約なのですというスタンスなのです。プラットフォーム事業者の基本的な立場というのはそうなのだと思います。
確かにそこに信義則上、あるいは利用者の免責条件の解釈等の形で事業者の責任とか注意義務を読み込んでいくことはできる。できるのだけれども、そもそもそういうレベルの話なのかというのは私はやや引っかかるのです。もう少しは取引に関与しているのではないか。仲立人でいわゆる媒介とは違うかもしれないけれども、もう少し取引の中身に関与しているのではないかというところで、現に飲食店のときには結局関連会社をデリバリーのドライバーを通じて提供していたり、あるいはオンライン通販の場合のフルフィルメントサービスもオプションとしてではあるけれども提供していたりしているわけで、単なるシステムの提供だけではないというところが気になっているというのが私の問題意識ということで、概念決定にそんなにこだわっているわけでありません。
○沖野座長 ありがとうございます。
それでは、そのほかの方からいかがでしょうか。
大屋委員、お願いします。
○大屋委員 ありがとうございました。
結果的には二之宮委員と似たようなことを申し上げていることになると思うのですけれども、やはりプラットフォームに注目するときの大きなポイントは、関与の深さよりも広さというか量の問題なのだろうと思います。
例えば宿泊予約サイトにしても、関与の深さのレベルとしては、新聞に旅館の広告を載せているのと何が違うのだというような議論があると思うのです。しかし、問題はそれが単独で新聞に載っているだけではなくて、まさにプラットフォームとして様々な情報が横並びで並んでいて、我々の選択を構成する大きな要素になっているというところにあるのだと思う。
逆のほうから申し上げると、働く側ですね。プラットフォームで働くギグワーカーの労働者性ということは国際的にもいろいろな国で問題になってきたわけですけれども、典型例はカリフォルニア州法の失敗だと思っていまして、あれは要するに労働の質に注目して、ギグワークというのも労働者であるという方向で立法することを試みたわけです。ところが、頼まれて何かやっているよねという深さのレベルで見る。しかも、そこに指揮命令が十分にないとか、そういうレベルで見ると、要するにわしらもギグワーカーだという話になってしまったのです。つまり、出版社に頼まれて指揮命令がなく、成果物としての論文を納品しておるだろうと。それでお金を稼いでいるよねと。要するに、我々のような、この局面においてはいわゆるフリーランスになるわけですけれども、交渉力であるとか契約拒否の自由があるフリーランスと、そうではない事実上の管理下に置かれてしまっている、従属とか依存が生じているギグワーカーという区別ができなくなってしまったわけです。そこで、いろいろな抵抗を受けて、労働の規定のほうに除外条項を増やしていったら、今度はギグワークがほとんど取れなくなったという問題がある。
何を言っているかというと、やはりここでも仕事の質に注目したのが間違いであって、要するに依存の話が問題なのであるから、それが結局先ほど言ったように契約拒否の自由が現実的に構成できるかといった量的依存の問題、量的なカバレッジの問題に注目するほうが本来はよかったのではないかと思っていると。そうすると、ビジネスの側から見ても同じことが恐らく言えるのであって、要するに物を販売しているプラットフォーマーの何が問題かというと、そのカバー領域が非常に巨大であることによって、我々の経験する消費生活であるとか商品取引の相当数に対する影響力を及ぼしていること、そこからの離脱が我々消費者にとって極めて難しいということだろうと。だから、そこに注目してプラットフォーマーというものを定義して、そこに対するハードローを構成していくというのが一つの方向性なのかなと伺って思いましたということです。
以上です。
○沖野座長 ありがとうございました。
これも小塚委員から何かございますか。今、室岡委員からお手が挙がっておりますので、そちらを伺ってからでよろしいでしょうか。
では、室岡委員、よろしくお願いいたします。
○室岡委員 小塚委員、ありがとうございました。
私からは3ページに関連して一つ質問がございます。これは議論が散逸するためにあえて挙げなかった点かと存じますが、プラットフォームの重要な点として、消費者の個人情報をプラットフォーム自身が取得するという点が挙げられます。その個人情報はただ取引の機会を知らせる以上に通常使われており、消費者の特性にターゲットした広告を出したり、あるいは通常消費者にコンセントフォームを取っているとは思いますが、全く別のサービスにその個人情報を用いたりするプラットフォームがあります。個人情報という点からは、取引の機会を知らせるだけだということを主張するのは私見では極めて難しいかと思いますが、この個人情報という点に絞った上で御教示いただけましたら幸いです。
○沖野座長 よろしいでしょうか。
小塚委員、お願いします。
○小塚委員 ありがとうございます。室岡委員の御質問のほうから先にお答えすると、個人情報の問題はもちろん個人情報の問題としてあるのですけれども、恐らくそこは個人情報を管理するとか、あるいはそれが漏えいするとか、そういう話とまた違った問題が恐らくそこにはあって、それは先ほど大屋委員が言われた例えば依存を生む仕掛けとしての消費者に関する情報なのだと思うのです。それをプラットフォームが持っているということがプラットフォームの存在意義になっていて、そういう意味で、消費者の側から言えば脆弱性というか、規制の根拠のようなところは確かにあるのだろうと思います。
もう一つは、そこで個人の情報を集めることによって、それがプロファイルされ、ターゲティングが行われていくと、同じプラットフォームのサービスでも相手によって違うものになってくるということが、逆に従来の消費者契約法などが要するに不当な契約条項というものがあって、これは誰に対して使われても不当であり、事業者と消費者の力の格差を利用しているという前提と非常にかみ合わせが悪い世界をつくっているような気がするのです。そのような意味において、プラットフォームがもたらす問題の新しさというか、新しいアプローチを必要とする理由になっているのではないかなと思っているということです。
非常に抽象的な言い方で申し訳ないのですが、個人情報に関する義務とか、そういうことはそういうこととしてあると思いますけれども、恐らく室岡委員はそれ以上のことをおっしゃっていたのではないかと思いまして、今のように私の考えを整理させていただきました。
その上で、先ほど大屋委員がおっしゃったことで私もなるほどと思ったのですが、仮に関与の程度よりも広さのほうが問題であるとすると、二つの対処の方向の中ではどちらかというとやはりプラットフォーム自身の中に実効的な救済措置をビルトインしていくという方向になっていくのではないかなと。つまり、関与している程度に着目して、頭を出しているところ、近いところに責任を負わせるという方向性は、ある種ここまでは関与しているではないかという議論にやや親和的ではないかという気もしますので、そういう意味で言うと、二つの方向性の中ではやはり私が挙げた2番目のほうがむしろ適合的なのではないかなと感じました。
以上です。
○沖野座長 ありがとうございます。
室岡委員、よろしいですか。
○室岡委員 大変勉強になりました。ありがとうございました。
○沖野座長 ありがとうございました。
では、加毛委員からお手が挙がっておりますので、お願いいたします。
○加毛委員 ありがとうございます。
本日の御報告は、様々プラットフォーマーの約款等の分析に基づくものであり、大変勉強になりました。大屋委員のお話とも関わるかもしれないのですが、11ページの内容について、2点ほど質問をさせてください。
一つ目は、損害賠償責任をフルフィルメントサービス事業者に負わせるというご提案についてです。これは、法人格としてプラットフォーマーとは別の事業者に責任を負わせるのが望ましいという考え方を前提とするものなのでしょうか。契約の履行に関する様々なサービスを提供することが損害賠償責任を基礎づける根拠として果たして十分なのだろうか、損害を発生させた原因によってはフルフィルメントサービス事業者に賠償責任を負わせるのが難しい場合もあるのではないかと思いましたので、もう少し御説明いただきたいと思った次第です。
二つ目は、プラットフォーマーの責任についてです。コンテンツ・モデレーション責任が御紹介されているのですが、日本においてよく議論の対象となる規制として加盟店管理体制があるように思います。本日の御報告は、消費者被害が発生した場合にいかなる救済を与えるかという観点から問題を整理されたので、消費者被害が発生しないようにする事前の対応については主たる検討対象から外されたのかもしれません。他方、プラットフォーマーに加盟店管理体制を課すと負担が重くなるので、プラットフォーマーの実態を踏まえると加盟店管理の責任を負わせるべきではないと小塚委員はお考えなのかもしれません。加盟店管理体制のような消費者被害の発生を回避するための規制について、小塚委員のお考えを教えていただければと思います。よろしくお願いいたします。
○小塚委員 ありがとうございます。
まず前半のほうなのですけれども、私はフルフィルメント事業者にオンライン通販の責任を取らせるべきだという主張をしているというわけでは必ずしもなくて、これは最初に挙げた解決の方向の中で現にこういう立法例があるということで出しているにすぎません。これがベストの解決だと私が思っているということでは全くありません。
ということをまず申し上げておいて、ただ、EUの製造物責任法改正の中では明らかにこういう条文は入ったわけです。それは恐らく不法行為責任であるということ、さらに言うと、やはり製造物責任であるということがあるのだと思うのです。製造物責任の場合に、EUとか日本の立法は基本的には製造業者に責任を負わせるのであって、アメリカ的な流通に関わる主体全てに責任を負わせるという法制ではないわけですけれども、そうだとしても、従来から製造業者に対して請求がしにくいような場合、例えば輸入品の場合には輸入業者に製造物責任の主体を負わせる。日本で言うと製造業者とみなすという立法テクニックですけれども、そういうような制度がもともとあるわけで、その拡大という形で入ってきているのです。
なので、加毛委員の御指摘のとおり、契約紛争の救済の主体としてフルフィルメント事業者が直ちに出てくるかというと、そこはやはりハードルはあるだろうなというのは私も準備しながら思っていたところではあります。
なお、これが別法人になっているかどうかというのは全くプラットフォーム側の事情でして、有名な大手プラットフォームでも別法人にしていないところもあると思いますし、逆にフードデリバリーサービスのデリバリーのドライバーの調達なども同一法人であったり、別法人であったり、そこはプラットフォーム事業者の側でいろいろな戦略を選択しているところもありまして、それによって消費者の側から見て救済が受けられたり受けられなかったりするというのも、それはそれでいいのかなという感覚を持つところではあります。この辺りは、民事法の理論でここまでいけるのかという話と、逆にそれを利用してしまうと、簡単に責任追及を難しくすることができてしまうということのバランスがあるような気が私はしております。
それは1ポツの話でございまして、2ポツとの関係で、加盟店管理責任というのはこれまた議論しだすと非常に長くなるような気がしますけれども、割販法に基づくクレジットカード会社などの加盟店管理責任というのは、私の理解では、もともと加盟店管理という実態があった。ただし、それは消費者被害を防ぐための加盟店管理ではなく、要するにクレジット会社からの与信管理としての加盟店管理という実態があったので、そこで、自分たちの与信管理を行うのであれば、最低限例えば違法商品を取り扱っていないかとか、そういうようなことぐらいはしてくださいということで消費者との関係での加盟店管理責任という概念が入ってきて、それをどこまで広げるかというような議論はあり得るところで、違法製品の取扱い、この専門調査会の言葉で言うと極悪層的なものを排除するということだけでいいのか、それとも広い意味で消費者が例えば抗弁の接続などの主張を頻繁に起こしてくるような加盟店かどうかというところまで見るべきなのかどうかとか、その辺りは議論がいろいろあり得るところだと私は理解しています。
それとの対比で言いますと、プラットフォームの側は、やはり基本はコンテンツとして出してもらったものを載せるだけですというスタンスなのです。なので、日本にもプロ責法がありますけれども、プロバイダー責任制限法の元になったアメリカの通信品位法何条だったか、今条文が出てきませんが、あの条文はとにかくプロバイダーというのは土管なのですと。どういう情報が通るかというのは表現の自由の問題で、プロバイダーというのは土管にすぎませんというような概念。そこが彼らの出発点なのですね。それがプロバイダーがプラットフォームになり、だんだん本当に土管ですかという話にはなってきていると私は思うのですけれども、出発点がそこなので、管理責任というところまでとても行き着かない。そこでヨーロッパが出してきた概念がコンテンツ・モデレーションということで、出している情報が真正かどうか。少なくとも明らかにおかしいものは排除するという責任ぐらいは負ってくださいという考え方なのだと思います。
ということなので、私は日本的にも信義則に基づく注意義務と言うか何かは別として、そこはいけるのではないか。ただ、どの程度というところが非常に重要な議論だと思いますし、そういう意味で言うと、ある程度の制定法に基づく法的枠組みというのはあるといいのではないかと。何となくそんなニュアンスで今日はお話をしております。
○加毛委員 ありがとうございました。
加盟店管理体制については、様々なところで議論にはなるのですが、その導入にはハードルがあると認識しています。もっとも、例えば、前払式支払手段のうち第三者型については、発行者に加盟店管理体制に関する規制が存在するところでもあり、加盟店管理体制を与信管理の観点から理解すべきかについては、検討の余地があるのではないかと思います。
他方、プラットフォーマーが土管であるのかも問題となります。表現の自由との関係では、表現内容を検閲しないことに重要な価値が見出されるのは理解できるのですが、プラットフォーマーがエコシステム・経済圏を創出することを目的とする場合には、一種の市場を創り出し、管理する主体であることを根拠として、プラットフォーマーにいかなる責任を負わせるべきなのかを議論すべきように思われます。
そのことが直ちに加盟店管理体制に結びつくものではないというのは、小塚委員がおっしゃるとおりでして、それぞれのプラットフォームの実態との関係でどこまでの責任を負わせるのが望ましいのかという議論が必要であると思いました。大変ありがとうございました。
○沖野座長 ありがとうございました。
よろしいでしょうか。
加毛委員の御質問の中には、加盟店管理責任に類似のものを課すということが果たしてよいのかという御質問もあったかと思います。小塚委員からは、まさにクレジットですとか信販との歴史の違いや、そもそも土壌があるかということと、実効性の問題について難があるということが言われましたし、かつどの程度どこまでいけるかということだったのですが、そもそもそれは望ましくないというようなお考えは必ずしもなくて、つまり、そこまで課してしまうと全体のよさも縮減してしまうとか、そういうことでは必ずしもないということでよろしいですか。
○小塚委員 結局、管理とか、モデレーションのときも同じなのですけれども、どの程度のものを求めるかなのだと思うのです。金融のほうの割販法が典型的にそうだと思いますし、前払式支払手段はニュアンスが少し違うかもしれませんが、やはり基本的には「きちんとした」事業者に支払い手段を使わせなさいというところがあるように思うわけです。そのレベルのことまでをしてしまうと、確かに今日お話ししたようなサービスはいずれもかなりスケールが縮小する。それは、まさに距離を縮めることによって社会的厚生をもたらすというプラットフォームのよさ自体を大きく減殺してしまうのではないかと私は思います。ただ、基本的に我々は何も見ません。問題を指摘されたらそれは消しますと。これが逆にプロバイダー責任制限法の基本の考え方なわけで、その考え方でいいのかというと、社会的実態はそれで済まない状況になっているのではないかと私は見ておりまして、そういう意味で言うと、管理をどこまでするかというところに議論は収れんするかもしれませんが、管理しないことがプラットフォームのよさだと一般論、抽象論として言ってしまうことには抵抗があります。
○沖野座長 ありがとうございました。
そのほかにはいかがでしょうか。
大屋委員はいかがですか。
○大屋委員 今の点について、結論的には全く同じになると思うのですが、やはりプロバイダー等、要するに情報流通に関わる事業者の場合には、憲法上の検閲の禁止が電気通信事業法でもかかっている。それが負わされている以上、見るべきではない。流通過程で見ざるを得ないものはあるのですけれども、それも最低限の理由にとどめるべきであるという規制がかかっているから土管理論が提唱されてきたのであって、プラットフォーマーはやはりそれとは違うであろうと。
あと言うと、プロバイダーですらトレーサビリティーは保障している。要するに、どこからやってきてどこに流れた情報かということは、情報を流す以上見ざるを得ない、記録せざるを得ないし、情報開示請求があった場合には答えられるようにしているわけであって、一方の極にきちんとした事業者であるというか健全性保障みたいなものがあるとすると、反対側の極に何もしないというのがあり、プロバイダーですらその手前の追跡可能性確保ということはしているのだろうと。そうすると、プラットフォーマーと言ってももちろんいろいろあるわけなので、その営業の形態にもよるけれども、追跡可能性確保から健全性確保のどこを業態に合わせて負わせるかという議論をしていくとよいのではないかと思うということと、特にフードデリバリーなどの場合は、フードの健全性というのはまさに生命に直結するわけであって、それ自体を保障するのは保健所の役割かもしれないけれども、保健所がちゃんと見ているということは見たのかというようなことはやはり問うべきなのではないか。あるいは、ホテルで言えば実在性というのは見るべきではないかと。転入届、転出届ですらその住所が実在するかは見ているのだぞという話があるわけであって、そのぐらいは営業としてやってくれてもいいのではないかみたいな議論をしていくといいのかなと思いました。○沖野座長 ありがとうございました。
よろしいでしょうか。
それでは、そのほかにはよろしいでしょうか。
山本龍彦委員、お願いします。
○山本龍彦委員 山本です。
お時間がない中で抽象的なことを申し上げることになるのですが、今の御議論を伺っていて、私も以前からやはり土管理論というのはかなり難しくなってきているのではないかなという印象を持っています。今日の議論とは違うかもしれませんけれども、平成29年のGoogleの忘れられる権利訴訟、いわゆる削除請求の事件の判決で、最高裁は、検索結果を提供するというプラットフォームの行為については、結局、検索事業者の方針に沿った結果を得ることができるように作成されたものであるからと言っています。ニュートラルなわけではなくて、検索事業者の方針というものが言わば組み込まれているもので、それは検索事業者自身による表現行為であると言っているわけです。そうなると、土管というのではなく、情報流通にやはり一定程度関与しているということになるのだろうという気がしていましたので、今日の御議論はそのとおりだと思っていました。
そうなりますと、神の見えざる手ではなくて、結局、プラットフォームのある種の見えざる手によってマーケットというものが構築されているというところがある。それは見えざるものではあるけれども、アルゴリズムによってある種構成されているというところは、我々としてやはり注意しておかなければいけないところかなと感じた次第です。そういう意味で、環境を整備するというようなある種の義務というものが課されるということもそのとおりだろうと感じた次第です。
1点小塚委員に伺いたいのは、これは非常にポリティカルな要素も含むのですが、結局、ハードローの制定というものの必要性について最後に示唆されていると思うのですけれども、これが現実的にどういうふうに議論していくとハードローがつくられるとかというところです。ロビイングの問題などがあって、政治過程というものがプラットフォーム事業者によって一定程度影響を受けるような現状というのもよく指摘されるところだと思っています。そうなりますと、こういう判例みたいなものをどういうふうに立法にぶつけていくのかとか、法学としてというか、どういうふうにハードローの制定に促していくようなことができるのかというところについて、御知見があればぜひ伺いたいなと感じた次第です。
雑駁ですけれども、以上です。
○小塚委員 小塚でございます。
それは非常に難しい御質問なのですけれども、まず一つ、これは私の素朴な感覚として、プラットフォームの規約のようなものをまず読んでみようと。読んでみると、とにかく契約の書き方が、特にグローバル事業者の場合、そもそも日本的な契約書の作り方でないということもありますけれども、そこに書かれていることを事業者が提供する債務の内容、逆に言えば消費者が受け取れるもの、目的となる商品・サービスは何なのかというような観点から整理していったときに非常に分かりづらかったり、あるいはこれはあまりに一方的ではないかと思うようなところというのはやはり出てくる。あるいはそれがそもそも分かりにくいというような実態があったりする。その辺りがまず一つ入り口なのではないかと思うのです。
そして、非常に当たり前のことを言っているようですけれども、そういうことについて消費者あるいは消費者の利益を代表する消費者団体にきちんと指摘をしていただく、声を上げていただく。それはグローバルにも恐らく同じような状況というのはあり得るわけで、そういう中からどのような点についてはやはり規律が必要だということが出てき得るのではないかと私自身は思っています。
もちろんそれは民事法あるいは消費者法の体系の中できちんと位置づけられなければ、そこはロビイングの過程で論破されるということはあるかもしれませんけれども、基本的な解釈論でシステム提供に基づくと信義則上こういう注意義務があるのではないかということだけでは、個別事件の解釈として裁判所はできると思いますけれども、それだけで立法までたどり着けるかというと、そこはやはり道のりはかなり遠いので、もう少し丁寧に規約等を見て分析をして問題を指摘していくという作業をなされたほうが立法には近づくのではないかと感じております。
○山本龍彦委員 大変勉強になりました。本当にありがとうございます。
○沖野座長 ありがとうございました。
そのほかにはいかがでしょうか。よろしいでしょうか。
それでは、今回の議論についてはここで一旦切り上げとさせていただきたいと思います。
小塚委員におかれましては、貴重な御報告、また、その後の意見交換についても示唆的な御指摘をいただきまして、ありがとうございました。委員の皆様におかれましても、活発な御議論をありがとうございます。
本日でございますけれども、配付資料といたしまして資料2がございます。野村委員から御提出いただいたものでございます。これは第20回パラダイムシフト専門調査会での委員の皆様からの御質問への回答ということで、その補足ということでございますが、これにつきまして野村委員から何かございますでしょうか。
○野村委員 特にありません。資料に書いてあるとおりでございます。
○沖野座長 ありがとうございました。
野村委員と経団連様におかれましては、回答について補足いただき、御対応いただきまして誠にありがとうございました。
これで、本日までで予定していましたプレゼンテーションを一通り終えることができました。
後半に進んで以降は、これまでに幅広い分野についてヒアリング、プレゼンテーションとそれらに基づく意見交換を実施いたしまして、様々な知見を得ながらこの検討テーマについて議論を深めることができたのではないかと思います。
全体のスケジュールとの関係で、本専門調査会としましては、本年夏頃を目途に取りまとめを行うという予定としておりましたので、そろそろそれに向けた具体的な検討の段階に入っていくのがよいのではないかということもございます。
そこで、次回以降なのですけれども、委員間で具体的な取りまとめに向けての議論を進めていければと考えておりますけれども、いかがでしょうか。特段御異論はないと考えてよろしいですか。
(委員首肯)
○沖野座長 ありがとうございます。
それでは、次回以降につきましては、今申し上げましたような具体的な取りまとめに向けて、委員の皆様からの御議論をいただくということで進めていきたいと思います。
それでは、最後に事務局から御連絡をお願いいたします。
《3.閉会》
○友行参事官 本日も誠にありがとうございました。
次回の会合につきましては、確定次第、御連絡させていただきます。
以上です。
○沖野座長 ありがとうございます。
それでは、本日はこれで閉会とさせていただきます。
お忙しいところ、お集まりくださいましてありがとうございました。
(以上)