第21回 消費者法制度のパラダイムシフトに関する専門調査会 議事録

日時

2025年4月9日(水)10:00~12:30

場所

消費者委員会会議室・テレビ会議

出席者

(委員)
【会議室】
沖野座長、山本隆司座長代理、加毛委員、小塚委員、二之宮委員、野村委員
【テレビ会議】
大屋委員、河島委員、室岡委員
(オブザーバー)
【テレビ会議】
大澤委員
(消費者庁)
黒木審議官、古川消費者制度課長、原田消費者制度課企画官、消費者制度課担当者
(事務局)
小林事務局長、後藤審議官、友行参事官

議事次第

  1. 開会
  2. 議事
    ①二之宮委員プレゼンテーション
    ②加毛委員プレゼンテーション
  3. 閉会

配布資料 (資料は全てPDF形式となります。)

《1. 開会》

○友行参事官 定刻になりましたので、消費者委員会第21回消費者法制度のパラダイムシフトに関する専門調査会を開催いたします。

本日は、沖野座長、山本隆司座長代理、加毛委員、小塚委員、二之宮委員、野村委員には会議室で、大屋委員、河島委員、室岡委員はテレビ会議システムにて御出席いただいております。

なお、所用により石井委員は本日御欠席との御連絡をいただいております。

消費者委員会からは、オブザーバーとして大澤委員にテレビ会議システムにて御出席いただいております。

配付資料は、議事次第に記載のとおりでございます。

一般傍聴者にはオンラインで傍聴いただき、報道関係者のみ会議室で傍聴いただいております。議事録については、後日公開いたします。

それでは、ここからは沖野座長に議事進行をよろしくお願いいたします。


《2.①二之宮委員プレゼンテーション
   ②加毛委員プレゼンテーション 》

○沖野座長 ありがとうございます。本日もどうかよろしくお願いいたします。

早速、議事に入らせていただきます。

前回に引き続き、専門調査会としての取りまとめに向けさらなる検討が必要と考えられる事項について、当該分野に御知見のある委員からプレゼンテーションをいただきながら議論を進めていければと思います。

まず、本日の前半では、二之宮委員にプレゼンテーションをお願いしております。

本専門調査会の後半の検討テーマには「実効性のある様々な規律のコーディネートの在り方」として「公私協働の仕組みや共同規制の活用可能性」等が、また「消費者法制度の担い手の在り方」として「消費者団体訴訟制度の活用可能性」等があります。

中間整理におきましても、従来から情報の収集・提供、意見の表明、消費者被害の予防・救済等を担ってきた消費者団体がさらなる役割を果たすことへの期待とともに、デジタル取引への対応に当たって新たな消費者団体の在り方も検討する必要があることなどについても言及していたところです。

そこで本日は、これらの検討に当たり、特定適格消費者団体、消費者支援機構関西で常任理事を務められている二之宮委員に「『ハードロー的手法とソフトロー的手法、民事・行政・刑事法規定など種々の手法をコーディネートした実効性の高い規律の在り方』を検討するにあたり特定適格消費者団体・適格消費者団体の関与の仕方の可能性について」というテーマで20分程度御発表いただきまして、質疑応答、意見交換をさせていただければと思います。

それでは、二之宮委員、よろしくお願いいたします。

○二之宮委員 二之宮です。よろしくお願いいたします。

タイトルは長々しいものをつけておりますけれども、要は、後半戦を検討するに当たって、特定適格消費者団体・適格消費者団体が既存の法制度の枠組みにとらわれずにどういう関与の仕方が考えられるのかについて御報告申し上げたいと思います。ただ、資料に書いてある中身そのものは、これまでのヒアリングに際して私が感想あるいは意見として既に何度か述べたことがあるものが記載されておりますので、委員の皆様にとっては新しいものではないという点は御容赦いただければと思います。

項目としましては、最初に包括条項が必須というところを書いています。これはこの専門調査会あるいはその前身の在り方懇談会の出発点となった消費者契約法の改正の壁ということを考えると、当然受皿規定、包括条項が必要ということになってくるのですが、それだけではなくて、細分化された規定ではなくて包括条項を設けることによっていろいろな主体がそこに関与することができるということも踏まえて、それが必要だろうと。細分化された規定では、必ずしもそれが主体の広がりを見せないというわけではありません。例えば特商法を考えると、民事ルールでもあるし、行政処分にも関わるし、差止め請求を含めた適格消費者団体の関与が考えられるわけですけれども、そこでの広がりはどうしても対象におのずと限界がある、限られているということになり、運用がどうしても硬直的になってしまうというところを踏まえると、その意味でも包括条項が必須ではないかというところを最初に記載しております。

それらを前提として、各主体が実効的にそれを活用していく、関わっていく、エンフォースメントをどう高めていくのかというところ、あるいはそれらを通じて公正・健全な市場をどう生み出していくのか、それを通じてさらに実効性を高めていくにはどういう関わりができるのかというところ、この辺りは一つのセットになっております。

4点目は、中間整理、前半戦でも検討してきましたケアの主体として特定適格消費者団体や適格消費者団体はどういう関与の仕方が考えられるのかについて、KC's、消費者支援機構関西の取組を紹介しつつ御報告したいと思います。

最後に、課題を少し述べたいと思います。

3ページを御覧ください。これは先ほど言いましたとおり細分化された規定ではなく包括的な規定が必要と記載していますが、ここでは民事ルールに限らず行政ルール、例えば独禁法のようなある一定程度の広がりを見せた規定、これは漏れをなくすというためには、細分化された民事効だけではなくて、いたちごっこ、後追いをなくすということからすると、行政ルールにも必要になってきます。これはこの後もお話ししたいと思いますけれども、適格消費者団体のやっている差止め請求、団体訴権は、特定適格消費者団体がやっている被害回復ではなくて、被害の未然防止、拡大防止ということでもありますが、何度もこの専門調査会でも出ていますけれども、実質的には行政行為そのものを民間が代替している側面があります。そうすると主体を複数設けて実効性を高めるといったときには、行政ルールも一定程度の包括性が要るのではないかと思います。

その下、包括条項、一般ルールを設けることによって、行為規範の違反の態様や程度でバリエーションを設けることが可能になってくるということが考えられると思います。ここで態様や程度によって違反の効果、刑事罰の対象や行政処分の対象というものとともに、ここでは民事効との接続と書いていますけれども、ここの広がり、バリエーションも組合せが増やせるのではないかと思います。受皿規定、包括条項というのは、言ってみれば要件を拡大する、受皿を増やすというところではありますけれども、その要件の広がりを見せることによって、それとどういう効果を結びつけるのかというのも様々な組合せが可能になってくるのではないかと思います。細かい要件を立ててしまうと、それの効果のバリエーションを増やせないのに対して、要件を幅広く受けると、そこでの態様や程度の違反の違いによって効果の違いに結びつけられるのではないかと考えております。

この後、損害賠償のことも少し述べますけれども、効果ということを考えたときに、原状回復的な損害賠償ということで調整を図るというのも一つですけれども、契約関係からの離脱の方法、クーリングオフ的な撤回権あるいは解除、その辺も効果として、どういう場合、どういう程度に、どういう違反の仕方をしたらというところと結びつけられるのではないかと思います。もう一つは、自主規制との接合の起点になると思います。この辺が包括条項が必須ではないかというところについて思うところでございます。

次のページをお願いします。次に書いてあるのは「健全層の事業者の積極的・自主的な努力や創意工夫に配慮」と小見出しはつけておりますが、前回の野村委員の御報告、経団連の御報告をお聞きして、健全層が本当に創意工夫して最低限のレベルの違法、合法というレベルを超えたところでいろいろ御努力されていることがわかります。このモチベーションを阻害するということではなく、むしろより積極的に一緒にやっていくことに配慮する必要があるし、尊重する必要があると思います。それによって公正で健全な市場を確保することができる。それによって、ひいては消費者の権利が侵害される状況を低減することになっていくと思います。

ただ、ここは我々消費者団体からすると、あるいは消費者被害の救済に携わっている実務家の立場からすると、完全に任せてしまうというところには不安が残ります。独善的な解釈で消費者のためにというところに陥られても困ってしまうことから、事業者団体の自主性に完全に委ねるのではなく、第三者のチェック機能、消費者目線でのチェック機能が必要になってくると思います。

次に、ソフトローとハードローの結合というところも同じ意味で書いています。ここでは次のページと連動します。補完型のソフトローが消費者法分野においては必要だろうと考えますが、先に次のページを御説明したいと思います。

これもこれまで何度か言及したことがあるのですが、補完型の案として景表法の公正競争規約というものが非常に参考になると考えています。ハードローとソフトローを接合した上で、適格消費者団体がそれに関与する。さらに、その仕組みそのものについて関与の仕方、在り方等も含めて行政の認証、チェックを受ける。公正規約的になると、それを遵守している限りは法令の違反が問題視されないけれどもというところまでは、公正競争規約と同じ仕組みだが考えられると思います。

そうすることによって、メリットは幾つか考えられると思うのですが、経団連あるいは事業者団体が頭を抱えているのが、そこに参加してくるところはいいけれども、やり得といいますか、事業者団体に属さない人たちに抜け駆けされるなどによって結局維持されない、遵守されない、加盟率が下がる、何をやっているのだろうということになって頭を抱えている現状があります。そうすると、自主規制を遵守しないのであればハードローが適用される、それに対しては適格消費者団体による差止め請求の対象になる、訴訟の場で判断される。そうでないときにはその運用、策定だけではなくて時代に合っているのか、新しいものに対応できているのか、あるいは消費者目線そのものの変化を反映しているだろうかというところ、策定・改廃・運用には適格消費者団体のチェックを受ける必要があります。

そこでのチェックというのは、差止め請求と同じように、それはまずいのではないのですかといったときには公の場できちんと是正されていくという仕組みによって、ソフトとハードを連動させることができるのではないかと思います。

ここは例として景表法の公正規約を挙げていますけれども、適格消費者団体が現にやっていることでもあります。いきなり訴訟をするのではなくその前に申入れをやって、そこで協議をして、規約等が改正されればそれでよしとなります。事業者からしてもここで対話、協議をしていると、気づかなかったという御意見もよくお聞きしますし、そうすると、むしろ改善されて両方ウィン・ウィンの関係になります。もっと言うと、これは問題ないだろうかと事実上相談してくる事業者も現れ始めています。これはまさに自主的に市場の中で適格消費者団体と事業者の対話によっていい効果、いい動きができてきています。これをハードローと結びつけることによって公式なものにしてしまえば、さらにその動きは広がるのではないかと一つ考えられると思います。

主体の複数性からすると、このハードローの執行に関して、適格消費者団体だけの差止めに委ねるというのではなく、これは行政も一緒にやる。現に特商法などを含めてそうなっていますので、複数の目線で見ていくと。お互いといいますか、どこもリソースは限られていますから、どこか一つがとなると、そこにしわ寄せが行って機能しなくなることも考えられますので、官民を挙げてという体制が実効性という意味からすると必要なのではないかと思います。

次のページをおめくりください。先ほどまでは補完型のソフトローの例として御説明させていただきましたが、準備型・代替型の例として動き始めているのが、ダークパターン対策協会の取組だと思います。これは本当に動き始めたところではありますし、ハードローが整備されているわけではない。ただ、この専門調査会でも前半戦でデジタルの分野をどうするのかは検討対象になりましたし、中間整理でも記載がされております。ですから、ハードローが要らないわけではないですけれども、動きが早いし、いろいろ整理しなくてはいけないことがあると。そうすると、ハードローを整備する前段階、準備型と言えるのかも分かりませんけれども、あるいは細かいところを代替すると言えるのかも分かりませんが、その例になるのだろうと思って私たちは注目しております。

注目しているだけではなくて、ここの運用には適格消費者団体の関与が求められております。このNDD、Non-Deceptive Designの認定ガイドラインと認定制度には、研修・試験を受ける必要があるのですが、認定審査機関として適格消費者団体に積極的に関わってほしいというアナウンスがされております。もちろん適格消費者団体だけではなくて、ほかの民間にも幅広く参加を促しているということですから、適格消費者団体だけではないと思いますけれども、ここで求められているのは、日々消費者から情報が入ってきて、差止め請求、その事前の申入れ活動によって対話によって協議してきたところから、消費者目線で事業者に対して意見を言っていく、協議をしていくという適格消費者団体の実務経験での消費者目線です。その視点をこの制度にもぜひ取り込みたいということが趣旨だとお聞きしております。消費者目線であるいは今はこういう被害が現に起こっている、こういうところのデザインで消費者は疑問、悩みを抱えているというところを、審査を通じてフィードバックしていく。それによって直ちにではなく、ガイドラインや審査基準の改定などに結び付けていく、反映させていくというところで、言わば、先ほどの適格団体が策定・運用・改廃に関与していくというものと同じ形を想定していると思います。

見方によっては適格団体がそこに関わるとなると、それに対して認証を与えたところに対しては差止めなどができなくなるのではないかと考えればそういう懸念もあるのかも分かりませんけれども、むしろデジタルの分野は適格消費者団体の取り組みとしてはこれからの分野ですし、適格団体がなかなか今まで手を出しづらかった、遅れているというところですから、むしろそこは一緒になってダークパターンを排除していくというところで動きをつくるほうが、市場全体としてはいいのではないかと私などは考えております。

もう一つは、これはダークパターン対策協会の意図とは違うのでしょうけれども、このお話をお聞きしたとき、適格団体、特にKC'sもそうなのですけれども、デジタル分野が遅れているというのは自覚しておりますが、どこから何をやったらいいのだと実は頭を抱えていたときに、ただ座学でやるというよりも、実際にやっていく中で取っかかりを見つけたほうがいいのではないか、これをデジタル分野の入り口にしたらどうかと考えております。

もう一つ言うと、消費者団体の高齢化が問題になっておりますけれども、このデジタル分野、ここの入り口を通じて若い人たちにも関わってもらう、参加してもらう。もっと言えば、デジタル分野はむしろ若い方々のほうがのみ込みが早いかも分かりませんから、デジタル分野を通じて入ってきてもらいつつも、その分野でどんどん適格消費者団体を後押しをしてもらう、向上させてもらうという形の機運にならないだろうかというか、なればいいと考えております。

ただ、全国には47都道府県のうち26団体しかなくて、空白地帯がありますので、これによってある程度の凸凹ができるのかも分からない。ただ、デジタル分野、特にこのダークパターンに関していうと、この地域の空白は関係がないというか、カバーできる。そうすると、デジタル分野、これに参加していくところが入り口になってテコ入れできることになるのかも分かりませんけれども、全体としての適格消費者団体の活動そのものに少し凸凹ができてくる、さらに差が広がる、格差が広がることにならないだろうかとも思います。これは要らない心配かも分かりませんけれども、そこをどう埋めていくのかを動かし始める前から悩んでいてもしようがないのでしょうけれども、考えておく必要があると思います。ただ、これはマイナス面でも何でもない話だとは思います。

官民の協働というところでございますが、これは先ほども少し言いましたように、行政と一緒になって主体を複数化した上でいろいろな効果を結びつけていくことができるということを書いていますが、その前に書いているのが被害回復に関してです。ここはなかなかソフトローでは難しいのではないかというところは、被害回復に携わっている者としては常々思っているところでございます。要は、被害回復となると損害賠償が一番考えやすいところではございますが、権利義務の存否の争いになってくるので、最終的には司法判断に持ち込まざるを得ないというか、持ち込まれるケースが多い。水かけ論になってしまう、平行線になってしまうと最終的にはそこへ行ってしまう。

ただ、ここもカバーの仕方はある程度考えられると思います。返金に関して一定の自主規制、自主ルールを設けると。それがある程度実効性を持って遵守されているというのであれば、何が何でも裁判の場で全額と考えている人ばかりではありませんので、一定程度持ち込む件数が減らせる、総体として被害回復額が増えることになれば好転するのではないかとは思います。

ただ、ここでもう一つ我々がふだん課題と考えているのが、行政処分の違反事実と民事効との連動が不十分だと常々感じているところでございます。現在の問題としては、情報共有が不十分だと感じております。行政処分の違反事実は民事法における例えば損害賠償を基礎づける事実関係と共通していることが多いと思います。にもかかわらず、行政処分の違反事実あるいはその関連資料は、必ずしも適格消費者団体に共有される仕組みにはなっていない。例えば消費者裁判特例法においては、96条において特商法や預託法に関する処分に関して作成した書類を特定適格団体に提供することができるという規定はあります。ただし、それもその限りであって、景表法などは情報提供が当然にできるという規定にはなっていない。

もう一つ言うと、処分に関して作成された書類は処分時の情報ですけれども、被害回復を考えると、返金、返還がどうなっているのか情報が必要となりますがこの情報は全く入ってきません。課徴金の例を一つ考えますと、被害回復がされているということは課徴金の減免理由になって事実上はリンクしているはずなのです。では、自主的にどれぐらい返金されているのかなどということが分からない。そうすると、特定適格消費者団体からすると、どういう形で資料を集めて、どういう形でそれを案件として取り上げるのか、あるいは取り上げるべきなのかという判断がなかなかしづらい。そうすると、重たい手続である消費者裁判特例法に基づいた提訴に持ち込むのかというところには、どうしても二の足を踏む原因になりかねない。

この辺を考えると、この専門調査会の後半戦のテーマである実効性をどう持たせるのかと考えると、主体が複数、それがそれぞれの役割を担っていくとともに、関連情報は当然共有できるような仕組みにする必要がありますし、さらに言うと、関連する効果あるいはその前提となるものも連動するようにしておく仕組みが必要になると思います。

具体的にはどういう方法が考えられるのかというと、既存の枠を超えたというところですから、いろいろ考え方はあると思います。行政処分がされた場合に民事に推定規定を働かせる仕組みが考えられないだろうかとか、あるいはもう一つこういう形が考えられないかというのは、行為規範、何々してはいけないという禁止規範を共通のものを立てて、それに違反した場合、違反の程度や内容、態様によって行政処分や刑事罰、民事効などを結びつけるということになると、行政処分が行われたというのは、その禁止規定に違反する事実が認められたことになる。そうすると、それによって民事効を結びつけていくことができる。規範は同じものを使えばおのずと連動することになるのではないかとか、そこは考え方だと思います。詰めて考えているわけではないので、これからの検討課題かと思います。

次、8ページを御覧ください。ここは前回の野村委員の御報告と全くもって同意見であります。悪質事業者、特に極悪層は官民を挙げて市場から排除する。ここは一致して誰も反対しないところだと思います。ただ、我々が対応している極悪層は本当に詐欺的といいますか、詐欺行為を働いていますので、民間でこれを排除する、民間だけで排除するのは実際は難しい、不可能に近い。行政処分あるいは刑事罰、刑事処分、行政が主体となって排除していってもらうしかないと思います。ただ、そこでも行政だけではなくて官民を挙げて徹底的に排除する、撤退願うといったときに、事業者団体あるいは消費者団体はそれにどういう形で関与することができるだろうかというところは考えなくてもいいのではなくて、むしろ一緒になってどうすれば徹底的に排除できるだろうかということは考える必要があると思います。

ここで民間の立場からすると、まず警察や行政に詐欺的行為をする悪質業者、極悪層、悪質層の財産を速やかにまずは凍結、保全してもらう必要があります。やり得だとか、資産が残る形をなくす。全額被害回復に結びつけるのはなかなか至難の業だとは思いますけれども、少なくとも残っている部分は速やかに凍結してしまう。それをどう被害回復に結びつけていくのかはその後考えたらいい話だと思います。残っていないことも多々あると思いますけれども、少なくとも速やかに押さえられるものは極悪層や悪質層の手元には残さないという形で何とかできないか。その後の回収などは適格消費者団体などの役割なのかも分かりません。事業者団体も事業者も金融機関等も含めて、その辺はどういう形で関与できるのかなど、いろいろ連携の仕方はあるのだろうと思います。

もう一つは、海外事業者による国内での違法行為、これも前回の野村委員の御報告と全くもって同意見です。これについても反対する意見は国内ではないだろうと思います。問題はどうするかというところだと思いますけれども、ここでも行政のみならず事業者団体、消費者団体が連携して一体何ができるだろうかというところは、知恵の出し合いなのかと思います。ただ、どうしてもプラットフォームの積極的な協力は必ず必要になるだろうと思います。

もう一つは、ヒアリングの中で保険制度のお話がありましたけれども、海外、越境型の取引に関しては、補償型の保険の創設によってある程度回復する形を取らないと、行政、民間を挙げて何ができるかというところの限界がかなりどうしてもあると思いますので、ここは保険でカバーするしかないのかと思います。

次の9ページでちょっと違うお話をさせていただきますと、前半戦の中間整理でのこういう記載が14ページにあります。消費者利益の観点から活動する組織がモニタリングしていくことが必要だということ、それに関して適格消費者団体はどういう関与の仕方が考えられるのだろうかというところを少し考えてみました。

ケアの主体として適格消費者団体だけという形で考えるとなかなか難しいと思いますけれども、先ほど来申し上げているとおり、適格消費者団体は事業者と差止めの前の申入れや協議などというように、市場の中で事業者と対峙しているわけではなくて対話をしています。適格消費者団体に参画しているのは、消費者団体そのものも団体として参加していますし、事業者も参加しています。そうすると、適格消費者団体そのものが直接ケアの担い手になるというのはなかなか難しいのかも分かりませんけれども、その会員である消費者団体や事業者あるいは対話の相手の事業者等を通じてこのケアの中間を担うことができるのではないかと考えました。

ここで書いているのは、消費者目線でいろいろな申入れをしたりしている中で、消費者の観点からあるいは事業者が想定していないような消費者の物の使い方や想定していることなどを、事業者との対話を通じてもっとこうできないかなど試行錯誤、まさに模索していく場をつくることはできるのではないかと思います。ただ、それを模索して検討してで終わるのではなくて、先ほど述べた自主ルールに反映させていく、あるいは文字化したルールではないにしてもプリンシプルベースになるのかも分かりませんが、取組として先進的にそういう形での関与を事業者に提言していくことはできるのではないか、そう形で、適格消費者団体は一つ役割を担えるのではないだろうかと考えました。

次の10ページ、取組例として挙げているのが、KC'sは2010年来、双方向コミュニケーション研究会というものを継続しております。ここに書いてある発足時の問題意識を記載していますが、消費者市民社会の実現、そのためには消費者と事業者の信頼関係の構築が不可欠である、信頼関係を構築する手段として双方向コミュニケーションが重要であるとして始まりました。ずっと継続しているところですけれども、だんだん参加する事業者も増えてきていますし、中身も最初は本当にああだろうかこうだろうかという模索から始まって、いろいろやり方、テーマが変わってきています。どんどん続けていくうちに、コミュニケーションの中身も形を変えてきているところがあります。

そこにはいろいろな事業者の方と、消費者もいろいろな立場の方、主婦やお勤めされている方、あるいは学校で働いている方、あるいは障害を持った方、いろいろな方に参加してもらって、例えば一つの製品についてそれをどう使うかといったところを皆さんの話を聞くと、実に様々な使い方をするだとか、あるいは想定していないような使い方をする。そうすると、事業者の方からすると、そういう使われ方をする、そのように捉えていること自体が発見の連続だという声を聞きます。ここは前回野村委員からも御報告がありましたけれども、コロナを経てなかなか直接話を聞く機会が減ってきていることの表れなのだろうというところはありますけれども、機会がなくなった、減ったというだけではなくて、事業者の想定がどうしても事業者側の目線で見ているから、最初から一定の枠をはめているところがあるのだと思います。消費者からすると、そんな枠なんて初めから気にしていないので、自由気ままに自分の使いやすいように、使いたいようにというところ、ここが違うのだと思います。

他方で、参加した消費者の方の御意見としても、事業者がそういうところで苦労している、悩んでいるというのは知らなかっただとか、あるいは環境など様々なことをその商品をつくる過程、つくった後を含めて考えていることは知らなかったとか、消費者もその商品、製品、サービスを使うことだけに目がいきがちであって、その前後はなかなか直接は念頭に置いていない、考えていない。そうすると、お互い知らないもの同士がなるほど、そうだったのかということを通じると、では、もっとこうできないだろうかと、そこからアイデアの出し合いが始まる。そうなっていくと、それを自社に持ち帰ってあるいはふだんの日々の生活に戻ったときにどうするのかというところに、実は種がいっぱいまかれていく。これがずっと2010年から続けていって、そういう過程がどんどん形となって増えてきている、場が大きくなってきているところがあると感じております。

これをKC'sがやっているだけではなくて全国的に拡大できないだろうか、参加する消費者団体、事業者・事業者団体が拡大してもう少し大きな形にならないだろうか、公式なものにならないだろうかというところが、現在KC'sが捉えている課題でございます。そのときには、その下に書いてある公的要素を持たせることも一つの案ではないかと思います。消費者庁等がその場を設定したら全国的になるのかというと、直接そういうことを言っているわけではなくて、公的要素を持たせることでもう少し全国規模にならないか、あるいはそこで出た意見をいろいろな形、ソフトローのさらに準備型・代替型、そういうところに消費者団体と事業者団体が一緒になって自主的にフィードバックできないかなどが考えられるのではないかと思っております。

最後に、課題でございますが、今言ったような関与の仕方を案として述べるのは簡単ではございますが、これを継続的に現在の財政事情の下で適格消費者団体が行うのは、まず難しいというのではなく不可能だと思います。財政面をどうテコ入れするのかといったことを幾つか書いてございます。支援法人を通じた財政支援、支援法人という枠組みをつくったわけですから、そこに公的資金のみならず事業者からの資金供給も想定したいところではございます。これは公正で健全な市場の確保のためのコストだと考えることもできると思います。

もう一つは、特定適格消費者団体が事前交渉によって返金された場合、そこも仕組みとしたら対価が得られるようにすると。これは制度面の話だと思います。

もう一つ、最後、ここに書いているのが、特定適格消費者団体や適格消費者団体の取組には正当な対価が発生することを内外ともに明確にしていくところが不足しているのではないかと思います。不足しているというのは、適格消費者団体内部でもそうですけれども、事業者が価格に転嫁しづらいということと同じなのかも分かりませんけれども、なかなか適格消費者団体が対価を得る、取ることに対してはちゅうちょする、二の足を踏む。消費者からというのは難しい、そうではなくて、先ほど言ったソフトローの策定や改廃や運用チェックに携わっていくといったときには、それは当然適格消費者団体が消費者目線で反映させるということだからボランティアベースでということではなくて、それには正当な対価が発生する、フィーが発生するのだということを認識して、きちんと取るべきは取る、払うべきは払う、それは当たり前なのだというところを共通認識にする必要があるのではないかと思います。

ここにはお金のことばかり書いていますけれども、本日は実効性を持たせるために適格消費者団体がどういう役割を担えるのかという観点でお話をさせてもらっています。これは消費者法制度の中の適格消費者団体の役割の話ですので、当然制度の中にその担い手として位置づけられるのであれば、それに対してあとは任せたというのではなくて動くような形にしないと、制度の一環に組み込まれたことにはならないだろうと思います。その辺も最後の広報の問題と、出すほうの自覚と、もらうほうもちゃんときっちりそこは認識するのだというところ、全部が必要になってくるのだと思いますけれども、なかなかうまいこといっていないというところが私の捉え方でございます。

ざっとしゃべりましたけれども、取りあえず以上でございます。

○沖野座長 ありがとうございました。

ただいまの二之宮委員からの御発表内容を踏まえまして、質疑応答、意見交換をしていきたいと思います。

御発言のある方は会場では挙手にて、オンラインの方はチャットでお知らせいただければと思います。どの点からでもあるいはどなたからでも結構ですので、いかがでしょうか。

小塚委員、お願いします。

○小塚委員 学習院大学の小塚です。

二之宮委員、ありがとうございました。もう大賛成ですと申し上げるだけになるかもしれませんけれども、せっかくですので幾つかコメントをさしあげます。

第1に、適格消費者団体が大きな役割を担っていくべきだというのは私も前から思っていますし、とりわけ途中でおっしゃっていたデジタルの時代にどう適合していくかということは、適格でない消費者団体も含めて大きな課題であると思います。前回の委員会を私は欠席して、EUでインターネットガバナンスの会合に出ていたのですけれども、そこに幾つも団体が来ていて、デジタルチャンス、ドイツの団体なのでStiftung Digitale Chancenというのですけれども、バーチャル世界で子供の権利を守るということで活動している団体で、この方と名刺交換したのですが、会場には別の団体のカードも置いてあって、Children & AIという団体でコード・オブ・コンダクトをつくっているということなのですね。そういう専門団体がヨーロッパでは幾つもできていて、EUのマルチステークホルダーのプロセスに出てくるという段階になっているわけで、日本国内でメタバース原則に私も若干関わっていますが、パブリックコメントをしても消費者団体からコメントがないというのは寂しいと思っているところであります。ぜひそれはお願いをしたいということです。

それは感想なのですが、幾つか委員のお考えを具体的にお聞きしたいと思っているところがあるのですけれども、まず私はここの専門調査会でも何回かグローバルなという話を申し上げてきたのですけれども、グローバルな企業との間でどのように対話をしていくかが、消費者の側から見ても非常にやりにくいところになっているし、政策的に見てもおっしゃる健全層は日本国内の健全層であって、したがって、日本国内の健全層だけが一定の対応をすることが、ひいては日本の産業界の国際競争力の上でハンデになることすらあり得ると思うのです。だからといって海外企業が極悪層だとか、そういうことを申し上げるつもりはなくて、もちろんそうではなくて、海外の企業もそれなりの取組をする、あるいは取組をする部署はあるはずなのですけれども、そこと日本の消費者や消費者団体とがうまくつながっていない。ここをどうしていったらよいだろう。例えばそこに消費者庁などの行政が絡めば何かできるとお考えかどうかをまずお聞きしたいと思います。

二つ目ですけれども、被害回復のところで、被害回復はソフトローでは難しいだろうとおっしゃるのは、おっしゃったようなもちろん最終的にどちらが正しいかという話になる面もあると思いますが、企業の側からすると会計や税務の話が出てきて、理由もなく返金できないところもあるのではないかと思うのですね。ですから、この辺りを裁判で裁判所が判断したり和解したりするのではなくても簡易な形でオーソライズできて、事業者側もこれであれば税務上も例えば損金などの処理ができるということがあると、もう少しフレキシブルな対応ができるのではないかと思いますが、その辺りでアイデアをお持ちではないですかということをお聞きしたいと思います。

三つ目、委員のお考えをもう少し詳しくお聞きしたいのは、私も知らなかったのですが、適格消費者団体の会員としても事業者や事業者団体が入っている、実態としてそういう団体が多いということなのですかね。委員のKC'sはそうだということなのだと思うのですが、仮にそうだとすると、その中で対話をするのは一方では有益である反面、せっかくパブリックな場で事業者と消費者とマルチステークホルダーのコミュニケーションができる場がある世界をつくろうとしているときに、組織の中にそれを持ってきてしまうことになりはしないか。そうすると、別に対峙したり対決したりする必要は何もないのですけれども、ある程度それが外側で見えている世界というほうがよいのではないかと思うのですが、組織の中で行うコミュニケーションあるいは交渉と、もう少し大きなマーケットの中で行うコミュニケーションのようなこと、どういうことがどちらにあったほうがよいとお考えか、この辺りをお聞きできればと思った次第です。

以上です。

○二之宮委員 ありがとうございます。

1点目のグローバル企業との関係は、どこの適格消費者団体もそうだと思いますし、もっと言うと、消費者センターもそうだと思いますし、海外の事業者、国内に日本法人を置いていたとしても本国の指令を受けてというところは、まずなかなか話合いにならない、現実問題、話合いにならないというところで、全部水かけ論で終わってしまっている現状があります。ひどいところになると、未成年取消しすらも全然応じてくれない。そうなってくると、法律を持ち出しても駄目だということになると、協議などおよそ難しい。そうしたときに、日本の適格消費者団体がそういうグローバル企業と現状そういう状況で対話を続けていても、発展があるとは思えない。そうした中で行政も一緒になってということになったときに、行政が入ると聞く耳を持ってくれるのかどうかということになると、越境型の問題でずっとなかなかこれだけ物事が進んでいないとなると、劇的に変わるとは思えない。ただ、仕組みとしてそういうものを設けた上で続けていくことは必要だろうと思いますし、もっと言うと、その仕組みの中に日本の消費者団体もそうですけれども、海外の消費者団体との連携、そこと一緒になってというような形ももっと進めていく必要があるのだろうとは思います。ただ、そこは実際問題どうなっているのかというと、本当にまだまだ手つかずという状況なのかと思います。

2点目、ソフトローで企業の側からすると委員がおっしゃったように何の基準もないと財務の面で困ってしまうからと点はあると思います。そこは裁判をやっていても感じるところで、訴訟の中でなかなか和解に応じてもらえない理由はそこで、一審で判決が出ると控訴せずに払ってくれる。だから、時間がかかるし、判決まで行くのに苦労するというところがあります。そこの基準が例えば裁判所からの和解勧告が出たら応じるのかというと、なかなかそれでも応じてくれない。裁判官がそう言っているだけだからとなる。そういう意味でいうと、小塚委員が言われたように、何か基準があるとそれに乗っかるというところは、一つ前進する方法なのだと思います。そこを業界ごとに一定程度つくって本当にその基準を守ってくれるのかというところは、私どもは実効性がまだないのではないかと思います。ただ、そういう運用の仕方やルールなどが実務の中でまだ進んでいないからなのかも分かりません。基準をつくっても、それが公開されてオープンになって外から見てこういうケースだからこれに則ってこうなるということが消費者側にも分かれば、それで納得しようか、そこで収めようかということにはなると思います。そういうルールづくり、基準づくりを事業者団体と消費者団体が一緒になってつくっていくということになると、今とは違った形になるのかと思います。

3点目、KC'sに正会員というよりは賛助会員として参加している事業者はいっぱいいます。事業者との対話をクローズの場ではやっていなくて、団体内で先ほどの双方向コミュニケーションも全部フルオープンの場でやっています。そこで何をやっているのかというところ、参加はもちろんいろいろなところに声をかけるしというところでやっております。これをクローズでやってしまうと、さすがにそれは自分たちの身内で何かやっているのではないのということにもなりかねないから、ちょっと違うのかと思います。ただ、クローズとオープンといったところで、先ほど公的な要素と言ったのは、さらにそれを公明正大にという仕組みがあるともっと拡大しやすいのだろうというところからの意見でございます。KC'sはそういう考えですが、適格消費者団体もこれだけ26団体もあるといろいろでして、事業者が賛助会員といえども関わるとデメリットもあるのではないか、事業者に対して差止めや申入れなどいろいろ考えざるを得ないのではないかと考えて、それに対しては消極的という団体も中にはもちろんございます。そこは団体のカラー、考え方なのかと思います。必ずしもこうだからこうと何となく決まっている話でもなく、本当に自主性だと思います。

以上です。

○沖野座長 ありがとうございます。

では、室岡委員から御発言の希望が挙がっておりますので、よろしくお願いいたします。

○室岡委員 二之宮委員、ありがとうございました。

どちらかというと感想になってしまいますが、8ページの点について質問させていただければと思います。悪徳事業者は官民総力を挙げて市場から排除しなければならない、迅速な行政処分が必要で、そのためにはプラットフォーム事業者の協力が不可欠であること、私も心から賛成するものであります。この迅速な行政処分及びプラットフォーム事業者の協力を得るためには、恐らく法律間の調整、例えば消費者契約法だけではなく独占禁止法などとどういった絡みがあるのか、二之宮委員はまさにそこを挙げて包括規定とおっしゃっているのかと思います。また、省庁間の協働、例えば迅速な行政処分を行うために消費者庁だけでなく総務省や公正取引委員会などとの迅速な協働も必要になってくると思います。これらについてもし具体的なアイデアなどがありましたら御教示いただければ幸いです。

○二之宮委員 御質問ありがとうございます。

具体的なアイデアといいますか、委員がおっしゃったとおり省庁間の協力が決定的に必要だと思います。法律間の競合というところも、今は消費者法制度全体を捉えていますけれども、消費者法全体を捉えるとおのずと関連する分野は絡んできますので、特に競争法との乗り入れというところ、そういうところも含めて法律間の調整は省庁間の連携だけではなくて必要になってくるのだと思います。そこから先に具体的にという話になると、さてどうしたものかというところに関しては、申し訳ございません。現時点で具体的なアイデアを持ち合わせているわけではございませんので、これから考えていきたいと思います。

○室岡委員 ありがとうございました。

○沖野座長 それでは、加毛委員、お願いします。

○加毛委員 二之宮委員、本日はとても有益なお話をいただき、また具体的な制度化に向けた御提案をいただいて、大変勉強になりました。

3点質問させてください。

第1に、8ページで、直前に室岡委員から御指摘のあったところですが、悪質な事業者への迅速な対応の必要性に関して、「極悪層の資産の速やかな凍結(保持させない)」と書かれています。悪質な事業者が何らかの活動しているときに、資産を速やかに凍結させることは有効な手段であると思います。その具体例として、金融機関の預金口座の凍結が想定されるように思われ、金融機関も確たる情報に基づいて要請があれば口座凍結を行うのだろうと思うのですが、確たる情報に基づく要請をどのような手続で行うのかが問題になるのではないかと思いました。そのような手続の一つとして、かねてから指摘されてきたところですが、消費者安全法38条2項に基づく消費者庁による情報提供という制度が存在します。これは、行政機関の長や地方公共団体の長に限らず、民間事業者に対しても行うことができるものなので、消費者庁が金融機関に対して情報提供を行い、それに基づいて金融機関が口座凍結を行うことが考えられるのではないかと思います。このような消費者安全法の情報提供制度の利用やその実効性などについて、二之宮委員にお考えがあればお教えいただきたいと思います。

第2に、同じく8ページの一番下のところで、国際的な取引などを視野に入れて、被害救済のために、補償型保険制度の創設が御提案されています。本専門調査会の中出教授の御報告でも、海外の事例などが紹介されていたかと思いますけれども、このような保険制度については、民間の保険商品を想定すると、保険会社がそのような保険商品をつくるインセンティブをどのように確保するのかが問題となるように思います。また、保険料を誰が支払う設計とするのかも重要な問題であり、仮に消費者が保険料を支払うという形で制度を設計する場合には、はたして消費者が自分は危険な取引をしているので保険に入ろうという意識を持つことを期待できるのかについて疑問もあるところです。保険制度による補償は、それが実現すれば有効であると思うのですが、それを実現するためにクリアすべき課題があるのではないかと思いまして、その点に関する二之宮委員のお考えを伺えればと思いました。

最後に、11ページの一番下のところで「消費者団体の取組みには正当な対価が発生することを明確にする」という御指摘があり、的確なものであると思いました。ただ、ここでも、対価を支払う主体として想定されるのは、事業者なのでしょうか、それとも消費者なのでしょうか。仮に消費者に対価の支払いを求めるとした場合に、既に発生している消費者被害について、消費者団体に被害回復をしてもらうことの対価を支払うことはイメージしやすいところなのですが、通常の業務において消費者団体が消費者から対価を徴収することは難しいように思われます。本専門調査会においても、例えば、金融機関と顧客を仲介する事業者に関して、金融庁からの御説明の中で議論になったかと思いますけれども、消費者が仲介業者に対価を支払う仕組みを採用することの難しさもあるところであり、この点に関しても、さらに二之宮委員のお考えをお聞かせいただければと思います。よろしくお願いいたします。

○二之宮委員 御質問ありがとうございます。

最後の3点目から、まず消費者からというのは考えていなくて、事業者との関係をいろいろ書いている中で、適格消費者団体が入っていってチェックをかけるだとか、それを一緒に事業者との間でやるときに、それはチェックしてあげるとかしてもらうとかいうのではなくて必要なこととしてやるので、事業者からというところを考えています。ここで認識することが重要だと言ったのが、適格消費者団体の制度をつくったときに、公的な活動を民間でというところはありますけれども、必ずしも安易なアウトソーシングとして制度設計されているわけではないし、認識もしていないのでしょうけれども、安易なアウトソーシングのような形で、言葉が悪いですけれども、安く使うというのは違うだろうと思います。だから、事業者がその辺も含めてきちんと対価を払う。もっと言うと、委託事業を委託する場合にも、それは行政が出すものですから限度があるでしょうけれども、きちんと払う。

ともすればいいよと言ってしまいがちなところもあるのは、どうしても消費者団体がそのようにお金を取るとたたかれるわけではないのでしょうけれども、無意識のうちにそのように認識しているところも感じるところがありますので、そうではないと認識する必要があるのではないかと思います。これは背景があって、特定適格消費者団体の特例法をつくったときに、報酬をどうするか国会で大分議論されたところで、取り過ぎてはいけないと。ちょっとでも取ると取り過ぎだとか、どれぐらいがいいのだとか、その辺が背景としてあるのだろうと。でも、そうではなくて、きちんとやっている業務に対してはきちんと対価をもらうことを認識すると。ただ、それは消費者に対してというところではまた違うのだろうと思います。

逆からばかり行きますけれども、保険料のところは、中出教授のお話を聞いていたときに、まさにどう設計するのか、デザインするのかなので、ここは保険会社を通じて本当にいろいろ考えられるのだろうと思います。あのときにお話を聞いていて思ったのが、保険とはという定義がなくて、要件、要素が決まっているだけで、その要素を満たせばどうデザインするかだけの話なのだと。そうすると、いろいろ考えられるということでしたので、あのとき私がコメントしたのは、特にデジタル分野を先行してというところであれば、デジタルの中でそこの広告が入り口になってしまっていますから、広告料を払うところが同じようにそこに転嫁してデジタルの中でフィーとしてと簡単に言っていましたのですけれども、本当はもっと詰めなくてはいけない話だとは思います。それが最終的には消費者の価格に転嫁されるのかも分かりませんけれども、最終的にはどうかは別として、直接消費者がそれを負担するとなるとまたそれも違うのかと思います。どのようにデザインしていくのかはもう少しいろいろ専門的なほかの先生や保険会社からもお話を聞かなくてはいけないでしょうし、具体的にどういうものが考えられるのかは検討する必要があるだろうと思います。すみません。それぐらいのことしか考えておりません。

1点目の情報をというところについては、情報があれば、あとは警察や行政機関に入ってくれば押さえてというところは実効性があると思います。我々が今やっているのは、消費者が振り込んだ先の口座ですね。そこは分かっているので、どこに振り込んだからここの口座があるのは間違いないからということを通報すると、今は比較的簡単に警察は凍結してくれる。分かっているところはそうなのですけれども、大体その振り込んだ先はすぐに抜かれてしまうので残っていない。では、そのお金がどこへ行っているのだということはもう分からない。だから、そこら辺をほかの資金の流れを把握できてという情報が入って、どこに入っているということが分かれば、実効性はかなり高いのではないかと思います。ただ、それを我々は知りようがない、消費者からすると知りようがなくて、あるいは裁判の手続などいろいろやれば可能なのかも分かりませんけれども、その間にというところがあるので、迅速にというのはいかにそこのタイムラグをなくすかということ。実効性は事実上そこの話なのかと思います。雑駁ですが。

○沖野座長 ありがとうございます。

では、大屋委員、お願いします。

○大屋委員 大屋でございます。

二之宮委員の御報告については、全く同感であるという感じでお聞きしておりました。その上で、先ほどの加毛委員の御発言を受けて若干議論をするときに気をつけたほうがいいかと思うことを感じましたので、その点についてのみ発言させていただきます。

まず、全体のコスト構造の話として、消費者団体が追加的な機能を果たす以上、それに相当する収入がないとやっていけないよというお話と、それは最終的にはコストとして恐らく消費者に転嫁されるわけですね。その転嫁されるコストが例えば防止可能なトラブルやリスクの全体的なコストと比較して安いか高いか。つまり、制度設計として全体として合理性があるかというお話と消費者団体ならば消費者団体への収入を誰がどういう形で直接的に支払うかは別のお話ですねということであります。

例えば保険にしたって、全体的なシステムとしては合理的かもしれないのだけれども、個々の消費者が事前にそれを予期して購入することはないかもしれないねというのはごもっともな御指摘だと思うのですけれども、まさにこの専門調査会の対象となる話、消費者のあり得る不合理性というお話であるので、これにいかにシステム的に対応するかという議論として整理すればよろしい。例えば強制保険、自賠責保険みたいなものですね。それは一つの解決かもしれないし、それを保険という言葉で我々が言うのが慣れているかということはともかく、保険付の商品を販売するよう事業者に義務づけるみたいなこともスキームとしてあり得るだろうと。

したがって、繰り返すと、システム全体としてのトータルなコストはどのようにやったら最適化できるのかというお話と最適なシステムを実現する直接的な支出入をどこからどのように設計していけるかという話を区別して議論すると建設的なのではないかと思います。そういうことでございます。

以上です。特に二之宮委員からのリプライは必要ないかと思います。

○沖野座長 ありがとうございます。

御指摘をいただいたということで、加毛委員もよろしいですね。

○加毛委員 結構です。

○沖野座長 ありがとうございます。

そのほか、いかがでしょうか。

野村委員、お願いします。

○野村委員 二之宮委員、ありがとうございました。

包括的な規定になってくると、本当に幅が広くていろいろな省庁がまたがってくることも想定される中で、5ページの最後の適格消費者団体の差止め請求の対象というお話の中で、訴訟だけでなく申入れもできるようにしていったらいいのではないかという御意見がありました。ソフトローは解釈がなかなか難しくて、幅が広くて、そして技術はどんどん進歩している中で、事業者側からすると、新しいことをしよう、何かをしようと思ったときに、相談をしたいという思いはすごく強いと思うのです。それは法律を守る中でやりたいという思いになりますので、相談をしたいということが出てくると思います。そして、事業ですのでクイックにそれに対応していただかないと困る状況の中で、こういった相談に関しては、行政の役割なのか適格消費者団体としていくのかというあたりが私の中では混乱しましたので、御意見を伺いたいと思います。

○二之宮委員 ありがとうございます。

今の御質問は、適格消費者団体の中でまだ検討や実践をしているところは少ない、私の知る限りはないのではないかと。これから新しいビジネスを始めようとするときに、ビジネスそのものではないにしても新たな商品をといったときに、事前に相談を受けてコメントするということは聞いたことがないことではありますけれども、行政がそれをというのはもっと難しいと思います。そうではなくて、私が前にコメントをしたときに、何が健全で何が不健全か分からないと。これは過去のルールに照らしても時代が変わってくるとそこの不健全が相対化してくるので、その場その場で考えていかなくてはいけない、分からない、そうすると消費者団体との対話が必要になってくるということを述べたことがあります。

これは理屈としては新しいことを始めるときにも全く同じだろうと思います。そうであれば、本当に絶対的にそれがいい、悪い、駄目というのではなくて、消費者からするとこういうところが気になる、こういうところに不安があるなどを事前に聞いて、それを想定して事が起こったときには対応できるだとか、あるいはそういう目線では検討していなかったから新たに検討してみようという場はあっていいと思いますし、過去の物差しに照らし合わせて不安定になっているのは物差しがない状態と一緒ですから、同じことがあってもいいのだろうと思います。そこで何か消費者団体がコメントしたから、それに基づいてあのときにこう言ったではないかということにもならない。対話というのはそういうものですから、本当に模索していく中で事前相談はこれからあってもいいのではないかと。むしろそういうことによって、市場の中で何かが起こったときにも同じようにもう一度対話をして一緒に解決していくところの一環ではないかと思いました。ですから、十分あってしかるべきではないかと思います。

○沖野座長 野村委員、よろしいですか。

○野村委員 ありがとうございます。

○沖野座長 ありがとうございます。

行政の役割や行政法規の広範さなどの指摘がありますが、山本座長代理からご指摘をいただけますでしょうか。

○山本隆司座長代理 今の御指摘の点ですけれども、包括規定を設けるだけでは機能しないだろうと思いますし、包括的な規定を設けてよいのかという話にもなります。野村委員が言われたことに関しては、例えば、行政側ではノーアクションレターという制度がございますね。これは回答に拘束力があるわけではないのですけれども、一つはそういう制度があります。政省令はがっちりしたルールになってしまうのですけれども、指針などの形式で目安は示す、しかし決め切るわけではないという性質のルールを定めることも考えられます。そういった工夫を併せてしていく必要があると思います。

特に包括規定を設ける際に、安全の分野ですと割と設けやすいという気はします。つまり、どういう利益を侵害してはいけないということが割とはっきりしているので、それを示せば包括規定を設けることができます。取引の分野はそれに比べると侵害される利益を示すだけで十分かという問題が出てくるので、申し上げたようなある程度中間的な仕組みを設けていかないと難しいという気はいたします。

○沖野座長 ありがとうございました。

そのほか、よろしいでしょうか。

それでは、時間のことも考えまして、二之宮委員の御報告の部分は一旦ここで終了させていただきたいと思います。

二之宮委員におかれましては、貴重な報告をいただきまして、ありがとうございました。

それでは、本日の後半ということで、加毛委員から御報告いただきたいのですけれども、本専門調査会の後半の検討テーマには「実効性のある様々な規律のコーディネートの在り方」や「既存の枠組みにとらわれず消費者取引を幅広く捉える規律の在り方」があり、より具体的には、消費者の脆弱性や客観的価値実現との関係での規律の在り方や既存の消費者法制度の体系や構造といった枠組みにとらわれない規律の在り方等があります。

これまでに、行政法や刑事法、不法行為法、ソフトロー等の様々な分野についてヒアリングを行い、議論を重ねてきたところ、改めて民事ルールの活用可能性という観点で検討を深めていければと思います。

そこで本日は、これらの検討に当たり、民法を御専門とされている加毛委員に「消費者法制度における民事法の位置づけ-消費者契約法を対象として-」というテーマで20分程度御発表いただいて、その後に質疑応答、意見交換をさせていただければと思います。

それでは、加毛委員、よろしくお願いいたします。

○加毛委員 ありがとうございます。よろしくお願いいたします。

本日は「消費者法制度における民事法の位置づけ-消費者契約法を対象として-」というタイトルで御報告をさしあげますけれども、初めにお断りしておかなければならないのが、私自身は民事法の研究者であるものの、消費者法の専門家であるわけではないことです。消費者法制度や消費者実務に関する知識は、消費者法を専門とする他の委員には遠く及びません。本日の御報告は、消費者法の専門家でない民事法研究者が、近時の消費者法学における議論状況や本専門調査会におけるこれまでの審議内容を踏まえて、外的な視点から消費者法制度を評価するものであることをお断りしておきたいと思います。

さて、資料の2ページに移りますが、ここに本日申し上げる内容の一覧をまとめておきました。

次に、3ページに移りまして、本報告では、消費者法制度における民事法として、消費者契約法を取り上げたいと思います。当然のことながら、消費者契約法以外にも民事規定を有する法律はたくさん存在しますが、消費者契約法は消費者契約に適用される一般民事法という性格を有するので、消費者法制度における民事法の中核として、消費者契約法を取り上げることにいたしたいと思います。

もっとも、消費者契約法には、よく知られている通り、その制定経緯から消費者契約に関する一般民事法という性格を超えて幾つかの特徴があります。大村教授は、次のように説明されます。「このように、①規制緩和を前提に、②市場取引における自己責任を原則とするが、③情報・交渉力の格差に着目し、④契約締結過程と契約条項を規制対象とすることが示されたわけである。ここで注意すべきは、1990年代の消費者保護は、規制緩和のカウンター・バランスとして導入されたということである。こうした位置づけが⑤予見可能性、⑥体系的整合性の名の下での消極立法を方向づけた。……。換言すると、特定商取引法のような『火消し立法』と異なり、広い射程を持つ消費者契約法に対しては、事業者側から強い警戒心が示されていたと言うこともできるだろう」。ここに示されるように、規制緩和・市場メカニズムの重視という思想的背景の下で、まず消費者との関係では、事業者との「情報の質及び量並びに交渉力の格差」を是正することにより、消費者の地位を改善し、消費者の契約締結に関する自己責任を基礎づけるという考え方が消費者契約法の基底をなすことになります。また、規制緩和・市場メカニズムの重視という発想を、事業者の側から見れば、消費者契約法が過剰規制とならず、市場における事業活動の予見可能性を確保するという観点から、消費者契約法の規定は明確かつ具体的であることが求められることになります。

また、もう一つ重要な点として、消費者契約法は、その制定以前に我が国で深刻な問題と認識されていた消費者被害によって、その規定内容が制約を受けているということがあります。不当勧誘による悪質商法への対処として、契約締結過程の規制(意思表示の取消し)に関する規定が、また、約款における不当条項への対処として、契約条項の規制(契約条項の無効)に関する規定が、それぞれ設けられ、それらが消費者契約法の規定の中核をなしているわけです。

消費者契約法は、その制定後、累次の改正を経ており、現在では、以上と異なる性格を併有するものとなっています。しかし、以上に述べた消費者契約法の特徴は、現在でもなお消費者契約法の基底をなしていると考えられます。

4ページに移りますけれども、消費者契約法の民事実体規定につきましては、平成28年、平成30年、そして令和4年の3度にわたって改正が行われました。しかし、それらの改正に対しては、十分なものではなかったとの評価も向けられています。消費者契約法の改正には「限界」があるのだとされます。例えば、山本敬三教授は、「2014年から8年近く続けられた消費者契約法の改正作業が何らかの『壁』に行き当たっている」と指摘されています。この点にも関連して、令和4年の消費者契約法改正の過程では、衆参両院の特別委員会においては「既存の枠組みに捉われない抜本的かつ網羅的なルール設定の在り方について検討を開始すること」という附帯決議がなされています。

そこで、5ページに移りますが、「既存の枠組み」の下で消費者契約法改正にいかなる「限界」が存在するのかについて、令和4年改正において意思表示の取消しに関する一連の立法提案が実現しなかったことに関する山本敬三教授の分析を見ておきたいと思います。これら立法提案のうち、困惑類型の脱法防止規定(受皿規定)と消費者の心理状態(消費者の浅慮など)に着目した規定につきましては、事業者の予見可能性(要件の明確性)の欠如が法制化見送りの理由とされます。過剰規制の回避及び事業活動に関する予見可能性の確保のために法律の規定の明確性・具体性が求められるという、先ほど述べた消費者契約法の特徴が表れています。

また、消費者の判断力に着目した規定につきましては、事業者の予見可能性(要件の明確性)の欠如に加えて、「従来の取消権を超える側面」があること、すなわち消費者の判断力の低下は事業者の行為によるものではないことが指摘されています。消費者契約法は、消費者・事業者間の情報・交渉力の格差の存在を前提とするのであり、消費者側の事情である判断能力の低下のみでは意思表示の取消しを認める根拠として十分ではないということなのだろうと思います。そして、この点は、先ほどご紹介した大村教授の指摘される「体系的整合性」という消費者契約法の特徴にも関連するかもしれません。民法において、意思表示や法律行為の取消原因としては、意思表示の過程に対する相手方の不当な働きかけを理由とする詐欺・強迫の制度と、表意者の判断能力の制限を理由とする制限行為能力制度が存在します。消費者契約法は、詐欺・強迫に対応する意思表示の取消しに関する規定を設けるのであって、消費者の判断能力の低下を根拠とする(行為能力制度に対応する)取消しについては、その射程外であるとも考えられるわけです。

このように、消費者契約法改正の「限界」の原因は、先ほど見た消費者契約法の特徴と密接に結びついているように思われます。それゆえ、仮にその「限界」を超えようとするのであれば、消費者契約法の基底をなすところを見直す必要があると考えられます。

続いて、6ページに移りますけれども、消費者を取り巻く取引環境の変化との関係でも、「既存の枠組み」としての消費者契約法による対応には「限界」があるとの評価があります。本専門調査会設置の基礎となった諮問書では、消費者を取り巻く取引環境の変化として、「超高齢化やデジタル化の進展」が例示されていますけれども、「情報の質及び量並びに交渉力の格差」の是正という消費者契約法の基本発想に基づいて、これらの問題に対処することができるのかについて、消費者問題の専門家から疑問が提起されています。高齢者である消費者の判断能力の低下という問題については、今し方述べた問題があります。また、デジタル化の進展につきましても、例えばAIを利用したターゲティング広告やダークパターンの問題について、消費者の「情報の量及び質並びに交渉力」を向上させることが十分な対応となるのかについて、そこでいう「情報の量及び質」や「交渉力」の意義次第ではありますけれども、やはり疑問が表明されているわけです。

以上を前提としまして、7ページに移りますが、これら消費者契約法が直面する課題への対応について考えてみると、二つの方向性があるように思われます。この二つの方向性は相互に対立するものではなく、併存し得るものです。

第1に、消費者契約法(民事法)以外の手段によって課題に対応することが考えられます。事業者との関係では、本専門調査会でも繰り返し議論されてきた、ソフトローの活用が考えられます。業界団体による自主規制の策定、消費者庁によるガイドラインや顕彰制度などが考えられるほか、本専門調査会における水口学長の御報告ではサステナビリティ情報の開示制度の活用の可能性も指摘されました。これらは、とりわけ優良な事業者との関係で有効であるように思います。ただ、ソフトローの活用については、事業者がそれに従うインセンティブを適切に確保することが前提となるのであり、その点に特に配慮する必要があることになります。

他方、悪質な事業者については、本日の二之宮委員の御報告にもございましたが、公法的規制(行政処分や刑事罰)を強化することが重要であると考えられます。この点については、例えば、多数消費者財産被害事態に関する事業者への勧告・命令制度(消費者安全法の40条4項)などを、消費者庁が積極的に運用することによる対応なども考えられるところであるように思います。

以上に対して、消費者との関係では、これも本専門調査会で繰り返し議論されてきた、消費者の意思決定に対する支援の方策が検討されなければならないと思います。消費者団体による支援やデジタル技術の利用などが考えられるところです。そして、そこでは、消費者契約法が目的とする「情報の質及び量並びに交渉力の格差」の是正を超えた支援が目指されるべきことになるものと思われます。

以上は、消費者法の分野で近時有力な「ベストミックス論」の主張ということになります。この点については、鹿野委員長が指摘されているように、「自主規制や公法的規制を含めたルールの最適な組合せ(ルールのベストミックス)と、多様な主体間の連携と役割分担(担い手のベストミックス)という視点」、すなわち、二つの「ベストミックス」の探求という視点が重要と考えられます。本日の二之宮委員の御報告や、次回の小塚委員の御報告は、この点にも関わるものと思います。

8ページに移ります。以上に対して、課題への対応のもう一つの方向性として、消費者契約法(民事法)の在り方を見直すことが考えられます。こちらが本報告の主たる検討対象ということになります。

消費者契約法(民事法)の見直しに当たっては、二つの視点があるように思います。第1の視点は、一般民事法への指向です。これは、消費者契約法が現状よりも消費者取引の一般民事法としての性格を強めることを目指すということであり、制定経緯に基づく消費者契約法の特徴を見直すことを意味します。第2の視点は、新たな民事法の在り方の模索です。消費者契約法は制定後、数次の改正を経て、現在では民事法の枠を超えた複合的な性格を有するに至っています。そのような消費者契約法の特徴を深化・拡充することによって、消費者契約法の課題に対処することが考えられます。そして、このことは、消費者契約法という法律を、大村教授が指摘される新たな「立法範型」(立法のモデル)として提示することにもつながるのではないかと思います。

9ページ以下におきましては、これら二つの視点から、消費者契約法の在り方の見直しについて検討することにしたいと思います。

第1の一般民事法への指向という視点からは、まず、消費者の捉え方を広げていくことが考えられます。現在の消費者契約法は、事業者と消費者の対比を前提としています。消費者契約とは、消費者と事業者との間で締結される契約であり、両者の間に情報・交渉力の格差があることが前提となっています。しかし、消費者取引に関する民事一般法を指向するのであれば、そのような消費者の捉え方が必然的であるわけではないように思います。事業者との対比を前提とすることなく、消費者の保護されるべき属性、例えば、本専門調査会で繰り返し登場する消費者の脆弱性という属性に焦点を当てて、消費者を把握することも考えられます。資料には沖野座長の論文を挙げておきましたけれども、西内教授の専門調査会における御報告も、この方向を示すものであったのではないかと思います。そして、このような考え方は、民法の行為能力制度との関係において、「制限行為能力制度の縮退に伴って、消費者の脆弱性に着目する規律がこれを補うという傾向が見られる」(山城教授)ことが指摘されていることとも、親和的であるように思われます。

そして、このように考える場合、消費者契約法に設けるべき規定としては、まず、消費者の保護されるべき属性を不当に利用した相手方との契約関係に関する規定が考えられます。令和4年の消費者契約法改正で実現しなかった意思表示の取消権などが、その具体例であるということになります。

他方、相手方の行為の悪性を前提とせずに、消費者の属性への配慮を目的とした規定を消費者契約法の中に設けることも考えられるかもしれません。契約の勧誘に際して消費者の属性に配慮した行為をすることや、消費者の属性に配慮して契約の過程を通じて契約に関する十分な情報提供を行うことに関する規定が考えられようかと思います。ただ、この点については、民事一般法という性格を超えるところを含むこともあるように思われ、後に見る第2の視点から検討すべき事柄と言えるかもしれません。

続いて、10ページに進みます。消費者契約法が一般民事法であるためには、規定内容の一般性と包括性が要求されます。まず、一般性につきましては、既に見たとおり、現在の消費者契約法は、事業者の予見可能性を確保するため、規定の明確性・具体性を重視しています。このような消費者契約法の在り方に対しては、消費者法の研究者から批判が向けられています。「かつていわれた『火消し立法』という批判があたるともいえる特商法なみの細かな立法」(大村教授)ですとか、「消費者契約法の特定商取引法化〔断片法規化〕」(河上教授)といった批判です。

そして、学説上は、一般民事法である消費者契約法の役割として、プリンシプルあるいは紛争解決規範の提示に、その特質を求めるべきことが主張されています。このような考え方によれば、近時の消費者契約法改正で実現しなかったところであるわけですけれども、一般性を有する規定、「一般的受皿規定」が要請されることになります。

11ページに移りまして、規定内容の包括性についてですが、消費者契約法は、その制定経緯から、契約締結過程と契約条項に関する規定がその中核を占めています。これに対して、消費者契約に関する一般民事法を指向するのであれば、契約の履行や終了に関する規定を消費者契約法の中に設けることも考えられます。この点で、令和4年の消費者契約法改正では、解除権の行使に関する情報提供の努力義務に関する規定(消費者契約法3条1項4号)や、損害賠償の予定・違約金の算定根拠の概要に関する説明の努力義務に関する規定(消費者契約法9条2項)が新設されました。これらの規定は、消費者契約の履行段階において、契約を終了させるか否かを消費者が検討する局面に関連するものであることになります。そこで、沖野座長の御論文では、「消費者契約の他の段階、あるいは、およそ全段階を対象とした規律や権利義務、特に事業者の(努力)義務へと一歩を踏み出すもの」であると評価されています。

12ページに移りまして、そのことを前提として、消費者契約法に設けることが考えられる契約の履行や終了に関する規定について見ていきますと、まず消費者の保護すべき属性への着目という観点から、クーリングオフに類似した契約解消制度が提案されています。また、原状回復的損害賠償請求に関する規定を消費者契約法に新設することも提案されています。こちらについては、既に金融サービスの提供及び利用環境の整備等に関する法律において、金融商品販売業者等の説明義務違反または断定的判断の提供等による損害賠償責任が、損害額の推定を伴う形で定められています。これをモデルとして、消費者契約についても、「消費者が当該消費者契約によって負担した債務の額を損害額として推定する」(山本教授)原状回復的損害賠償請求の立法化が提案されています。

続いて、13ページに移りまして、消費者契約法の在り方の見直しに関する第2の視点である新たな民事法の在り方の模索についても見ておきたいと思います。この視点からは、第1に、民事規定と公法的規制やソフトローを組み合わせることが考えられます。

まず、公法的規制やソフトローを利用して民事規定の内容を具体化することがあり得ます。この点については、令和4年の消費者契約法改正において、意思表示の取消しに関する困惑類型として追加された、契約締結の相談を行うための連絡を威迫する言動を交えて妨害すること(消費者契約法4条3項4号)に関して、消費者による連絡の方法が「電話その他の内閣府令で定める方法」とされていることが注目されます。この規定は、「消費者契約に関する実体的な規律の形成において消費者契約法が唯一の場でないことを示す意味を持ちうる」(沖野座長)ものであると指摘がされているところです。

14ページに移りまして、公法的規制やソフトローを利用して民事規定の内容を具体化することは、これまでの消費者契約法改正において重視されてきた規定の明確性・具体性(予見可能性の確保)を実現する手段となり得ます。最初に引用した大澤委員の論文では、「消費者契約法が消費者契約に関する規律の展開の方向性を示し、その具体的な内容は、消費者契約法外で法令(例えば特定商取引法や内閣府令)やソフトローとして実現するというメカニズム」が提案されています。

また、特にソフトローを利用した民事規定の具体化につきましては、ソフトローの形成に事業者が関与することによって、自主的な規範遵守への期待が高まると言えるかもしれません。本日の二之宮委員の御報告では、消費者と事業者の対話の重要性が強調されていましたが、その議論がここでも妥当するのではないかと思います。

15ページに移りまして、他方、民事規定と公法規制あるいはソフトローの組合せについては、公法的規制やソフトローの実効性を高めるために民事規定を利用することも考えられてよいように思われます。この点は、二之宮委員の御報告における7ページの御指摘と関連するかもしれません。

ここでは、参考として、EUの第2次決済サービス指令74条2項を挙げておきました。この規定は、決済サービスに関して、事業者が強力な顧客認証手段(Strong Customer Authentication)という高いセキュリティー水準を伴った顧客認証手段を採用していなかった場合に、無権限取引によって生じた金銭的損失に関して、決済サービスの利用者の責任を免除したり、決済サービス事業者の責任を加重したりすることを定めています。決済サービスに関する民事責任の規律を通じて、強力な顧客認証手段の導入が後押しする規律であるということができます。以上の規定は、2026年から施行が予定されています決済サービス規則において、より詳細な形で規定されるに至っています。

16ページに移りますけれども、新たな民事法の在り方として、もう一つ検討すべきと思われるのが、法的効果を定めない民事規定、いわゆる努力義務規定の位置づけです。消費者契約法には、その制定当初から事業者の努力義務に関する規定が存在しており、また近時の改正において、努力義務に関する規定が追加されるに至っています。

努力義務規定につきましては、法的効果を伴う規定の立法化を断念せざるを得ない場合に、言わば中間的解決として採用されるものであると説明されます。そして、労働法の分野などでは、法律に導入された努力規定が一定期間後に強行的規定や禁止規定へと格上げされるのに対して、消費者契約法については、努力義務規定が法的義務規定に格上げされることが現在までのところないことが指摘され、その原因の分析や対応の可能性が検討されています。

他方で、法的義務規定という「ルール」に格上げされないとしても、努力義務規定には「原理(プリンシプル)ないしスタンダード」すなわち「あることが法的可能性及び事実的可能性に相関的に可能な限り高い程度で実現されることを命ずる規範」(山本教授)としての意義があることが指摘されています。

そして、そのような規範をいかに実現する(エンフォースする)のかに関しては、努力義務規定の「名宛人となる人々の間で、法律に定められたことには特別な理由がない限り従うという法意識が共有されていれば、それによってその義務の履践が確保される」(山本教授)ことが指摘されています。我が国においても、一定の業界については、このような法意識の共有を期待できるように思われますし、あるいは事業者が努力義務規定の形成に主体的に参加することを通じて、そのような法意識を醸成できるかもしれません。

また、努力義務規定につきましては、不法行為責任との関係で「違法性」の判断を通じて事業者の損害賠償責任を基礎づける可能性もあります。さらに、消費者契約法3条1項1号の契約条項の明確化に関する努力義務につきましては、消費者契約の解釈に関して複数の解釈があり得る場合に、契約条項を用意した事業者に不利な解釈を採用するという契約解釈準則(不明確準則)として機能し得るということも指摘されているところになります。

このような努力義務規定を積極的に活用していくことが、新たな民事法の在り方を模索する際に検討されてよいように思われます。例えば、消費者契約の履行過程において、事業者に一定の行為に努めるように求める規定を消費者契約法に置くことにより、裁判所が消費者契約の解釈に際して、これら法律の規定を参照することを通じて、事業者に一定の債務(付随義務)を課すことを基礎づけることが考えられるかもしれません。そのような可能性を含めて、努力義務規定の意義について検討することも、新たな民事法の在り方を提示することにつながり得るように思われるところです。

以上、不十分な報告でございますが、冒頭で申し上げたとおり、消費者法の非専門家による消費者契約法の評価ということで、委員の先生方から様々な御批判・御意見を頂戴できればと思います。よろしくお願いいたします。

○沖野座長 ありがとうございました。

ただいまの加毛委員からの御発表内容を踏まえまして、質疑応答、意見交換をしていきたいと思います。

いつもと同様、前半とも同様、御発言のある方は会場では挙手にて、オンラインの方はチャットでお知らせいただければと思います。どなたからでもあるいはどの点からでも御指摘、御質問をいただければと思いますが、いかがでしょうか。

二之宮委員、お願いします。

○二之宮委員 御説明ありがとうございました。

11ページ、12ページの規定内容の一般性と包括性に関して、特に12ページでは契約の履行・終了に関する規定というところで、クーリングオフに類似した契約解消制度や損害賠償請求などが例として書かれています。これはあくまでも例としてだと思いますけれども、先ほど私も包括条項という話をしていたときに、包括性というのは要件として広く受けるということと、その効果としてどういうバリエーションとどう結びつけていくのかと。それは時系列で考えると、契約の勧誘段階、締結段階、履行過程、最後、契約が終了するまで、その間に離脱というところが入ってくる。そうしたときに、クーリングオフに類似した解消制度、撤回権のようなものはどういう要件の下でそれを発生させるのか。普通に履行過程を考えていくと、どういう場合に離脱を考えるのかを考えると、いろいろここでバリエーションを組めるのは解除制度だと思います。

包括条項といってもいきなりそれだけでは無理なので、具体的な規定が幾つかあって、それと類似したというつくりになると思います。そうした中で、例えば14ページで大澤委員の論文から不当条項リスト、要はブラックリストを設けてというところを書いていますけれども、解除を考えると、履行過程で事業者がどういう行為をしたのかしていないのかを条項として幾つか要素あるいは規定を設けて、あとは広く受ける受皿規定もあっていいと思うのですけれども、そういう不当条項リストだけではなくて不当行為リストのようなものも幾つか考えられるのではないかと思います。不公正な取引方法だとか、競争法が参考になると思うのですけれども、それらを挙げておいた上でどれにどういう形で違反したら解除できるかというのも撤回権とは別に考えられるのではないかと思って考えておったところなのですが、民法の先生からすると、撤回権、損害賠償と並んで解除も同じように考え得るものなのか、あるいはまた違う話なのか、その辺の捉え方について御意見をお聞きできればと思います。

○加毛委員 御質問ありがとうございます。

資料12ページに挙げたのは、考えられる規定の例示に過ぎず、それに尽きるわけではありません。それゆえ、二之宮委員が御指摘された債務不履行解除に関する規定を新設することも、当然考えられると思います。平成29年の民法改正を経て、債務不履行解除については、民法541条に催告解除に関する規定、民法542条に無催告解除に関する規定が設けられているのですが、法定解除権の発生を基礎づける債務不履行の内容を具体化していくことが考えられます。催告解除については、債務不履行の軽微性という消極要件があり、無催告解除については、契約目的の達成可能性が重要な基準とされます。債務者による債務不履行の全てが法定解除権の発生を基礎づけるわけではないのであり、その前提のもとで、消費者契約について、いかなる債務不履行があれば法定解除権の発生が基礎づけられるのかを、法律ないし下位規範において明確にしていくことが考えられるように思います。現実の立法過程において、そのような規定の明文化に反対が向けられることは想定されますが、本日の報告を前提として、研究者の立場から立法の可能性を検討するという意味では、今、申し上げたところになるのではないかと思います。

○二之宮委員 ありがとうございます。

○沖野座長 ありがとうございます。

では、大澤委員、よろしくお願いします。

○大澤委員 大澤です。

加毛委員、どうもありがとうございました。

感想と質問をさせていただきたいのですが、先ほど二之宮委員からの御発言にもあった私の論文を引用してくださっているところで、私は不当条項リストということを書いていますが、ここでの例えば政令レベル等々での具体化というのは、これはまさに二之宮委員がおっしゃっていた例えば勧誘の場面なども想定して書いております。文章が下手くそで伝わっていないのだろうと思うのですが、不当条項リストも個人的にはもう少しさらに具体化すべきだと思っていますが、他方で勧誘行為についてもよく4条3項に関してはまさに特定商取引法化しているではないかというややネガティブな見解もあり、私もそう思うところもあるのですが、他方でもうそのようにしてしまったのであれば、それはそれで細かなどういう勧誘行為は不当に当たるかをリストアップしつつ、しかし包括的な条項は必要ではないかと思います。

その包括的な条項をつくるときにどこに着目するのかという問題があって、加毛委員ももちろん御存じだと思うのですが、2016年、2018年の消費者契約法改正のときには、まさに消費者の脆弱性と。当時考えていた脆弱性は、どちらかというと高齢者や若年層など、そういった判断力や経験など、いわゆる人的なところを想定していたと思いますが、そういったものに着目したものももちろんあるでしょうし、あるいはもっとまさにヨーロッパにあるような不公正取引方法の一般条項のようなものですね。そういったものを設けつつ、しかしせっかくできてしまった4条3項のような細かい規定をリストとして併用することが個人的にはあり得るかと思っています。

今のは感想ですが、その上で質問させていただきたいのですが、これもすごく端的な質問であり、なかなか難しいというか私自身もどうすればいいのか分からないところはあるのですが、民事法の専門家でもいらっしゃる加毛委員から見て、消費者契約法、もっと言うと、消費者に関わるような民事ルールを今後どういうルールとして、つまり誰のためのルールとして見ていくか、どのようにお考えなのかということです。

これは何個か考えられることはあって、一つはまさに今日御報告で出ていますように、事業者にプリンシプルを示すと。もちろんプリンシプル的なものもあるでしょうし、現状の例えば4条3項だったり、あるいは消費者契約法の不当条項リストですね。数は正直に言って多くないと思いますが、具体的な条文をもってこういう勧誘行為だったらあるいはこういう条項をつくるというのはやめたほうがいいという紛争予防的な効果も法律はあると思うので、そういうものを示すルールであるということが一つの見方です。

次に、消費者の救済を考えると民事ルールはもちろん絶対に必要で、消費者が実際に例えば事業者と契約をして、しかしこの契約をすごく後悔しているのでというときには、今、お話に出ていたような例えばクーリングオフあるいは契約の取消しがないと、消費者には代金が返ってこないわけです。解除もそうでしょう。そうだとすると、確かに民事ルールはすごく大きな役割を果たしますし、これは行政ルールだけではできないことだと思います。特別な仕組み、基金などをつくらない限りはできないのではないかと思っているのです。

他方で、消費者契約法の場合は、消費者問題は実際には消費生活センターでの相談受付が非常に多いと思うので、クーリングオフができる事案ならばいいのですけれども、そうではない事案の場合に、消費生活相談員のあっせんで中に入って、事業者とやり取りをしてくれて、例えばそこで事業者が分かりました、取消しに応じますということであれば話はもうこれで終わって、めでたく解決して、ちゃんと代金さえ返してくれればですけれども、事業者が破綻などをしていなければですけれども、そういうことで解決となるのですが、恐らくそうではない事業者もいるだろうと。話にそもそも応じてくれない事業者もいるとなると、相談現場でも恐らく対処できないし、ましてや消費者が自分で取消権を行使して、代金を実際に返してもらえるか分からないということになってしまうこともあるかと思っているのです。

あとは何よりもこれはもちろん司法規範として、要するに裁判官の規範でもありますので、そうだとすると、まさにさっき話が出たようにリストだけではなくて包括的な条項も設けておくことで、実際に日本の不当条項の裁判を見ていると、消費者契約法10条は非常によく使われているという印象を持っていますので、そうすると包括的な条項で裁判官がきちんと解釈をしていくことも大事になってくると思います。

今、申し上げた三つぐらいざっと思いついたところですが、もちろん全部あり得ると思うのですけれども、そのときにこの消費者契約法、ひいてはこういう消費者に関する民事ルールが今後どうなっていけばいいのだろうかと。すごく漠とした質問で申し訳ないのですが、勉強させていただきたいと思います。よろしくお願いします。

○加毛委員 御質問ありがとうございました。

消費者契約法が事業者に対してプリンシプルを示し、紛争予防的な役割を果たすことはあるだろうと思います。消費者の救済が民事法としての消費者契約法の重要な役割であるというのもおっしゃる通りと思います。それから、消費者契約法が裁判規範としての役割を果たすのも当然であると思うのですが、それが消費者の救済とは別の意味でおっしゃられているのかについて、私の理解が十分に及んでいないところがございます。その点を留保した上で、消費者契約法が誰のためのルールなのかといえば、それは、大澤委員の御指摘された消費者、事業者、裁判所の全ての者のためのルールなのだろうと考えています。

報告では、消費者契約法の在り方を考える際に、民事法に軸足を置いて消費者契約法の在り方を検討するという視点と、民事法という枠にとらわれずに消費者契約法の在り方を考えるという視点が重要なのではないかということを申し上げました。民事法に軸足を置いて消費者契約法の在り方を考えるという視点からは、裁判規範として役割を果たすことが消費者契約法の役割の中核に据えられることになり、消費者の救済がその重要な機能であることになるものと思います。

その一方で、裁判規範や消費者の救済については、既に発生した被害の回復に焦点が当たることになるのですが、消費者契約法の役割や機能を、その点に限定する必要はないだろうと考えています。その意味で、大澤委員がおっしゃった事業者に対してプリンシプルを示し、紛争予防の役割を果たすことも、消費者契約法の重要な役割と位置付けるべきように思います。ただ、消費者契約法がそのような役割を適切に果たす上では、従来の民事法という枠組みにとらわれると、うまくいかないところもあるように思われます。このことは、二之宮委員の御報告においても指摘されたように思いますし、本専門調査会で共有されている認識なのではないかと思います。

そのような観点から、例えば、民事規定と公法的規制やソフトローとの結びつきを検討する必要があると思います。両者の結びつきについては、報告の中でも若干の指摘をしましたが、様々な在り方があるのだろうと思います。また、法的効果を定めない努力義務規定についても、それが果たす役割について、さらなる探求が必要であるのではないかと考えています。

御質問の趣旨を正しく理解していないかもしれず、誠に申し訳ないのですが、差し当たり、以上のご回答を差し上げたいと思います。

○大澤委員 とんでもないです。ありがとうございます。

裁判規範のほう、私の言葉不足でした。想定していたのは、もちろん消費者の救済もあるのですが、ただ実際上は途中でも申し上げたように消費者がなかなか自分で裁判を起こして代金を返してもらうということはあまり現実的ではないということと、実際に消費者関係の裁判を見ていると、特に最近は適格消費者団体の勧誘行為の差止めだったり、あるいは多いのは不当条項だと思うので、そういう差止めのときがもしかすると実際は多いかもしれません。そのときに、実際上はもちろん不当条項リスト、私が不当条項がどっちかというと専門家なのであれですけれども、不当条項リスト自体、日本はそんなに多くないので、実際上は10条を使って裁判官はいろいろ解釈をしてくれているので、そちらを想定していました。これが補足です。

今のお話を伺って思ったことは、私も従来の民事法というか消費者契約、民事ルールですというだけにとらわれず、いろいろそれこそ行政的なルールを入れたり、努力義務などは今もどんどん増えていますが、個人的には大賛成です。ただ、思うところとしては、実際に例えば別の法律で不当寄附勧誘防止法でしたか。それの配慮義務でしたか。法的効果がないものを最高裁が活用して不法行為を認めた事案があったと思うのですが、そういう形で実際に裁判所が活用してくれるというところが一つポジティブなポイントであり、今後も期待したいところでもあるのです。

他方で、もちろん努力義務が消費者契約法は今回たくさんできたので、それによって恐らく事業者がそれを例えば踏まえてソフトロー的な自主規制的なものをつくってくれると。これも完全に理想論だと思うのですけれども、他方で、努力義務の規定だけたくさん置いておけばこれでプリンシプルとして十分だと、そこも若干もやもやするところがあって、例えば4条3項のような細か過ぎるかもしれないですけれども、そういう公法的効果があるものを置くことで、消費者契約法は言うまでもなくどの業種にも適用される一般的なルールなので、そこに含まれている法的効果を伴っているものであっても、例えばうちの業界であれば、旅行業であればこういう広告にはこういうことをちゃんと確認しましょうとか、あるいはキャンセル料に関してもこういうルールをつくりましょうという自主ルールを促すと。これは努力義務だけではなくて現に今ある法的効果を伴っているようなもの、そういうものでも果たせるのではないかと思っているところです。

感想めいたもので申し訳ありません。ありがとうございました。

○沖野座長 それでは、そのほかにいかがでしょうか。

小塚委員、お願いします。

○小塚委員 小塚です。

同じ民事法の分野にはいるのですけれども、加毛委員の非常に深く考えられた御発表で、私もいろいろと分かったことがたくさんありました。ありがとうございます。

特に大澤委員との間で非常に面白いやり取りもありましたので、そちらの感想を先に申し上げさせていただくと、消費者契約法を平成12年につくったときから、単なる救済としての民事法ではなくて規律づけのという意識はあったのではないかと思うのです。それはとりわけ今回加毛委員が大村教授の文章を引きながらおっしゃったことですけれども、当時は規制緩和という文脈があって、忘れかけていたことを思い出したのですけれども、当時たしか事前規制から事後救済へというようなキャッチフレーズがあった。それは事前に規制をしているのは外しましょうということが「事前規制から」の部分ですが、後半の「事後救済へ」というのは、別にそれで何でもやらせて被害が起こったら救済すればいいでしょうという乱暴なことを言っていたわけではなくて、当時どこまで関係者が自覚しておられたかは別ですけれども、事後に救済なり損害賠償なり取消しなりの仕組みがあることが事前のインセンティブとして働いて、立ち入った規制はなくなっても事業者の行為は一定程度規律されるのだと、少なくともそういう大きな立てつけの中でこの法律ができたのではないかと思うのです。だから、そういう意味でいうと、当初から問題意識としては民事ルールを通じて事業者の行為を規律づけしていくということがあったと思いますし、逆に言うと、それは努力義務を通じて浸透させていくという話とはまた違うような気がするのです。

立法時にも3条の努力義務を入れたということで、3条の努力義務と言いながら、当時議論に深く関与していた落合名誉教授が著書の中では事実上これは守られるべきものだということを書いたりして、非常に面白いことがあったのですけれども、それはまた違う話で、どちらかというと一律に義務にしてしまうと例えば規模の小さい事業者が対応のコストが大きくなるという議論があったり、あるいは少しでも義務に反すると義務の違反ではないかということを言われたりするので、努力義務ですと言いつつ、しかし事実上それはそれこそ健全事業者であれば対応するでしょうという意図で努力義務を当時も入れたのではないかと思います。今になって非常に増えている規定もそういう問題意識なのではないかと思いますので、事後の民事的なメカニズムが事前的にもインセンティブとして機能するという話とはまた別の形での動機づけの話ではないかと思っています。

加毛委員のお考えを伺ってみたいのは、当時の考え方の中心として「情報の質及び量並びに交渉力の格差」というものが鍵ですと。私は当時からそれはおかしいのではないかと思っていて、繰り返すことは避けますけれども、少なくとも私が理解した非常にシンプルな情報経済学の議論からすると、これはこの話ではない。情報の格差、交渉力の格差があれば、むしろ取引が成立しないということであって、この法律はあくまで取引が成立してしまった場合のことを書いていますから、そういうロジックにはならないのではないかと思っていたのですが、とにかくこのように書いてしまった結果として、実際に情報なり交渉力に格差があったから被害が出てしまったという、まさに事後的な物の見方の法律になってしまったわけですね。それをどこまで戻せば正当な情報なり交渉力のバランスになるのかという問題が出てきてしまったように思うのです。情報経済学であれば、本来そこはマーケットに取引をさせたいという事業者側にインセンティブが働いて市場で規律されるはずなのですが、そうではない形になったと。

この焦点自体が今の消費者取引に合わないのではないかということで、例えば今日加毛委員が引用された西内論文の言葉で言うと、「認知的な負荷がある場合には」というような言い方をしている。しかし、そうしても同じ問題が恐らく出てきて、どれぐらい認知的負荷があればこの制度が発動されて、どの程度これが解消されれば本来の民事一般法に戻るという、ここを決め切れないと機能しないのだと思うのです。ですから、同じ問題は残っているような気がするのですが、加毛委員はそこが解消できるということについてまず楽観的に見通しはお持ちですかということと、あるとすると、一言では当然言える話ではないと思うのですが、どうやってそれを決めていったらあるいは確定していったらよいと考えていますでしょうかという御質問です。

○加毛委員 大変有益な御示唆をいただきました。御質問もありがとうございます。

御質問に関連して、まず思いましたのが、消費者契約法1条の目的規定における情報の質・量や交渉力の格差が、消費者契約法の内容をどの程度規定するものであるのかについて考えなければならないということです。私の報告は、情報の質・量や交渉力の格差が、消費者契約法の基底をなし、消費者契約法改正においても制約原理として働くのではないかという発想を前提としていました。そのうえで、この点に関して見直す必要があるのではないのかという問題提起を御紹介したことになります。

他方、報告の準備段階では、目的規定は、消費者契約法の内容との関係で、それほど重視する必要はないと考える可能性もあるだろうと思っていました。この点は、小塚委員がおっしゃったように、そもそも情報の質・量や交渉の格差が消費者契約の規律における原理として機能するのかという問題にも関わるのではないかと思います。そのことを、まず申し上げたいと思います。

その上で、消費者の属性(脆弱性)に着目して法的な規律を設けるとした場合には、認知的負荷がどの程度解消されれば一般民事法に戻るのかといった形で議論をしても、なかなか答えは見つからないのではないかと思います。少なくとも法制度として一定の明確性を持ったルールを設ける上で、一義的な決め手を提供するのは難しいと思います。そうではなく、消費者の属性(脆弱性)について消費者契約法の目的規定の中で規定することの意味は、消費者契約法の解消に関するルールの背後にある考え方を示すことにあるのではないかと考えています。

例えば、クーリングオフ制度については、事業者の反対による立法化の困難という問題を措くとしても、仮に制度を設けるのであれば、契約解消が認められる期間を定めるうえで、消費者の認知的負荷の解消という考え方によって、一義的に期間の長さが導かれるわけではありません。また、消費者の認知的負荷の解消という観点のみから、制度設計をできるわけでもないだろうと思います。例えば、消費者によるクーリングオフ制度の悪用の問題なども含めて制度設計を考えなければいけないように思います。その意味で、消費者の属性(脆弱性)は、制度を支える思想の一つに留まるのではないかと考えています。

○沖野座長 よろしいですか。

○小塚委員 ありがとうございます。

私も認知的負荷がどれぐらい解消されればというのは解けない問題ではないかと思っていたので、そうすると、加毛委員が考えておられることを私なりに理解すると、最終的にはそれは消費者あるいは事業者を含めたステークホルダーの関与の中である程度決断をして線を引いていく。その背後にはこういう考え方があるのですというだけのことで、その引かれた線が合理的かも、それはある程度社会実験みたいなところもあって、それをアジャイル・ガバナンスと言うかどうかは別として、取りあえず引いてみて、また運用状況に応じてそれを調整していくことにならざるを得ないので、そういう意味ではまさに行政規制的色彩を持った民事法になっていくということなのではないかと思います。例えばダークパターンの問題やサブスクリプション解除の問題などについても、そういう対応をしていかざるを得ないのではないかと。何がダークパターンで何が合理的なウェブサイトのデザインなのかを極めようとしても、最終的にはそれは常に議論が出てしまうことになるのではないかと私も感じているところです。

ちなみに、ここは学会ではないので別によいのですが、「情報の質及び量並びに交渉力の格差」ですが、平成12年の消費者契約法は全体を通じてこれが指導規範だったと思うのですね。ただ、確かに令和4年改正まで来ると、本当にそれで貫かれているかというと、私もそうではなくなってきていると思うし、まさにそれがそれならば今回そもそも在り方を考えようという問題提起になっていると理解しています。

○沖野座長 ありがとうございます。

よろしいですか。

○加毛委員 ありがとうございます。

小塚委員がアジャイル・ガバナンスに言及されましたけれども、法律に包括的・一般的な規定を設けて、その具体化を下位規範に委ねる際に重要と思われるのは、下位規範の内容を恒常的に検討し、必要に応じて適時に改定していく仕組みを、いかにして構築するかであるといえます。適切なガバナンスのもとで規範が更新されていく仕組みがある場合に、このような規律の在り方がうまく機能するように思います。その意味で、民事規定の内容をソフトローや公法的規制によって具体化する際には、下位規範の策定の在り方が鍵になるだろうと私も考えています。その点を申し上げたいと思います。

○沖野座長 よろしいでしょうか。

そのほかにいかがでしょうか。よろしいですか。

申し訳ございません。私も民事法を専門に研究をしているもので、感想を申し上げようかとも思ったのですけれども、学会でもないのでということもございまして、適切ではないのかもしれませんけれども、発言させていただきます。

最後に御指摘のあった情報・交渉力格差について、やり取りの中身そのものだと思うのですけれども、平成12年の消費者契約法ができたときには、何がスタートかという問題はありますけれども、民事実体法として契約の効力を否定する、しかも契約締結過程に着目して否定する意思表示の取消しと不当条項の無効を入れることに当たって、それをどう基礎づけられるのかという問題があったと思います。

なぜ契約締結を民法でもできないのに取消しが認められるのかとか、民法上もできないのならばなぜ不当条項として無効にできるのかというところを、事業者と消費者の格差に求め、それを情報と交渉力に求めたということがあって、実際にどうなのかということ以上に根拠を示すものであったと思います。ただそれが本当に消費者契約法を通じて全般にわたっているのかというと、不当条項と契約締結過程では随分違うのではないかという問題もありますし、交渉力とは何かという問題もありますし、不当条項規制をめぐっては約款アプローチと交渉力アプローチが対立していたなどの事情もあります。そのような状況もある中で、立法としてどうかということで入れられたと理解しています。ただ、そのときに言われたのは、本日まさに明確にしていただいたところの市場取引における自己責任ということですけれども、民事法にすることによって契約当事者としての消費者のイニシアチブで、その権利義務関係の中で適正化を図っていく手法を用意することが考えられていたのではなかったかと思います。

平成12年当時は事業者と消費者という、事業者との対比で、事業性ないし非事業者性に着目してではありますけれども、そこに格差がある契約主体を正面から認めることはそれなりに意味があったのだろうと思いますけれども、しかし市場で自ら立っていく消費者が想定されていた面は否定できなくて、それに対して脆弱性の指摘といったことが言われている。既に消費者契約法の中にも入っている部分はありますけれども、そこが変わってきたということを、さらにそれを例えば目的規定で正面から打ち出しますと、いろいろなところで効いてくる面もあるのではないかと。規律の解釈の仕方、事業者に求められる行為の内容、それから途中で出てきた誰に向けたものかというところもあるのですが、民事法としては最終的には司法の判断に委ねるということがあり、しかも、私人のイニシアチブによって訴訟等に持っていくということですけれども、消費者法の分野でときに言われますのは、裁判官が例えば消費者契約法の情報・交渉力格差あるいはそれが是正されれば立っていける主体ということを見ているために、消費者に非常に厳しい判断がされる。過失相殺などがそうだと言われるのですけれども、それに対して法が消費者をどういうものとして見ているかというときに、脆弱性を持った存在であるということを明らかにすることは、裁判官に向けたメッセージとしても、あるいは消費者法なりが捉える消費者像を明らかにする意味でも意味があるのではないかという指摘はいただくところで、その意味は十分あるのではないかと思っております。

裁判自体については、判決まで持っていくのは非常に難しいのですけれども、またある程度裁量などがあると、実際に多数を占める消費者相談の現場でどのくらい使えるかという問題があることはあるのですけれども、ただ消費者相談などでのレクチャーというか、そういうものに行きますと、例えばある規定の解釈について消費者庁見解として明らかにされているところはこうですと申し上げるのですが、大変恐縮ですが、相談員の方からは裁判例はありますかと聞かれるのです。裁判例があると事業者の方に非常に言いやすいと。裁判例が持つ現場における意味も非常に大きいものがある。もちろん所管庁が明らかにされている見解は大変重要ですけれども、そういった形で形成されていることが、全体として消費者の救済なり、適正化なり、それの厚みを増すことはあって、そのような裁判規範の形成に向けてどういうものを用意するのが適切なのかも大事なのかと思って伺っておりました。

具体的な規律についてどういうものとして整理するかは、あるいはいろいろあり得るのかもしれないと思いまして、二之宮委員の最初の質問で出されたところでは、解除の話をされましたが、その前提として、いろいろな行為規範などを明らかにした上で、それが満たされないときにどういう効果を生むかということ自体も言わばベストミックスで考えていくということがあったかと思います。現在の消費者法自体も意思表示の取消し、しかも原始規定は詐欺・強迫から展開しているところがありますので、不当な行為、しかも民法は必ずしも事業者と限っていないのですけれども、消費者契約法は事業者の不当な勧誘という形で切り取っていますので、効果を書いているわけですけれども、それが取消しがされないためにはこういうことをしてもらいたいという行為規範がその背後に見えてくることもあって、それを拡充していくことは今の消費者法からより見える化にとって意味があるし、延長に置くこともできるのではないかと思っております。

これもエピソード風になってきますけれども、消費者契約法の制定等のときに事業者の方から言われたのは、行政の規制などで行為規制を置かれることはあまり問題がない。問題がなくはないのでしょうけれども、しかしそれはそれなりの明確性があるし、どういう意味かが分からなければその次の対話の場というか明らかにする場もあると。それに対して、民事の規律になって、しかもいきなり取消しが来るというのは、非常に事業者にとっては重い効果であると。だから、そのように重い効果をもたらすだけの何がそこにあるのかという指摘をされて、民事的な規律の捉え方はいろいろあると思いますけれども、取消しにふさわしい、しかも事業者にお願いしたい行為態様は何かということは、実は背後に消費者法は持っていると思うのです。

一方で、展開している部分もかなりありますので、そういう中では実は過量取引の規律が結構特徴があって、この評価は難しい。位置づけも二つぐらい出されているかと思いますけれども、また特商法は解除になっているのにこちらは取消しになっていて、その位置づけも違ったり、非常に多面的であり、しかも内容に立ち入っているという意味では特徴的で、詐欺・強迫の展開にとどまらないものを持っていて、そういうものをどう位置づけていくかということを消費者契約法は既に内包していると思います。

長くなって本当に申し訳ないのですけれども、クーリングオフなどについても、これは現実に解消されるかということではなく、どういうことがあればそれ以降は消費者が負担すべきだと考えるのかということをバランスを持って展開していくのかと思いますが、しかしなぜそれができるのかという根拠の説明はもちろん必要で、それに照らした規律の内容であることが必要ではないかと思いました。

技術的な話なのですけれども、クーリングオフが履行や終了に関する規定なのかどうかは分からないところがありまして、締結過程における環境の整備の問題であるということだとすると、広い意味での成立段階であるとも見られます。それから、原状回復的な損害賠償も、これが契約を締結した後の具体的なまさに履行段階での行為を捉えて解除に持っていくということであればこちらだと思うのですけれども、契約締結過程における一定の行為を捉えてのことであれば、あるいは成立段階かもしれない。それは技術的な切り分けの問題ですけれども、ただ、契約成立過程だとなお今の消費者契約法から展開しやすい面はあるのかもしれないとも思いました。

長くなって恐縮です。加毛委員、お願いします。

○加毛委員 終了時刻を過ぎているところ、申し訳ありません。

沖野座長から、これまでに頂戴した御質問の内容を解説していただいたところもございますので、何点か申し上げたいと思います。

まず、消費者契約法の目的をどう捉えるのかについては、沖野座長がおっしゃるように、原始規定を説明するために、そこから逆算するような形で目的規定が定められたというのが、立法の実態に即した理解なのかもしれないと思いました。それゆえ、その後の改正によって、目的規定からはうまく説明できない規定が既に消費者契約法に存在している現状において、目的規定をどのように変えていくのかを検討すべきことになるのだろうと思います。

そして、消費者の属性(脆弱性)に着目した目的規定を設けることにした場合、先ほどの大澤委員の御質問に関わる事柄として、そのような目的規定が、裁判所が消費者契約法を解釈する際の指針として機能する可能性があることは大変勉強になりました。消費者契約法の目的規定に、裁判所に向けたメッセージとしての機能を営ませることは、重要な視点であると思った次第です。

次に、消費者契約法の具体的な規定内容との関係で、二之宮委員の解除に関するご発言についても、沖野座長から言及をいただきました。本日の報告の最後のところで、裁判所が、消費者契約法の解釈に際して、努力義務規定の参照を通じて、事業者の付随義務を基礎づけることが考えられないだろうかということを申し上げました。二之宮委員の御質問は、この点にも関わるように思います。仮に付随義務が認められるとして、その法的効果との関係では、損害賠償義務を基礎づける付随義務もあると思いますし、契約の解除を基礎づける付随義務もあるだろうと思います。効果のベストミックスという御指摘がありましたけれども、一般民事法の指向という観点からは、いかなる義務違反が契約の解除を基礎づけ得るのかという点も含めて、事業者の義務の在り方を検討しなければならないと思いました。

最後に、沖野座長から、過量取引に関する規定への言及がございましたが、この規定は、消費者契約法の在り方を考える上で示唆的であると考えています。これは、消費者契約法において、消費者・事業者という対立構造を前提とする必要があるのかという点にかかわります。過量取引に関する取消権の規定は、消費者の判断能力の低下に着目したものであるわけですが、なお、事業者が過量であることを認識しながら勧誘したという事業者の行為に着目して、取消権を認めるものであるともいえます。その意味で、やはり消費者と事業者という対立構造を前提とした規定であると考えられます。

他方、消費者の属性(脆弱性)に着目した規律を設けるとした場合にも、「事業者」という概念を維持するか否かは別として、脆弱性を有する当事者と脆弱性を有しない(脆弱性を考慮しなくてよい)当事者を想定し、両者の格差に着目して法的な規律を設けることにならざるを得ないのかが問題となります。本日の報告では、9ページにおいて、当事者の対立構造を前提として、一方当事者が他方当事者の属性(脆弱性)につけ込むことに着目した規律と、そのような当事者の悪性を前提とせずに、保護されるべき属性(脆弱性)を有する当事者への配慮を目的とした規律を区別できるのではないかということを申し上げました。沖野座長のお話を伺って、このような視点も消費者契約法の在り方を考えていく上で重要なのではないかと思った次第です。ありがとうございました。

○沖野座長 ありがとうございました。

予定の時間を大幅に過ぎてしまって申し訳ありません。議事進行の不手際をお詫びします。予定の時間を過ぎておりますので、この辺りで今回の議論につきましては切り上げたいと思います。

加毛委員におかれましては、貴重な御報告をいただきまして、ありがとうございました。

また、委員の皆様におかれましても、活発な御議論をありがとうございました。

それでは、事務局から事務連絡をお願いいたします。


《3.閉会》

○友行参事官 長時間にわたりまして、どうもありがとうございました。

次回の会合につきましては、確定次第、御連絡いたします。

以上です。

○沖野座長 それでは、本日はこれにて閉会とさせていただきます。

お忙しいところをお集まりくださいまして、また長時間にわたって御議論いただきまして、ありがとうございました。

(以上)