第16回 消費者法制度のパラダイムシフトに関する専門調査会 議事録

日時

2025年1月15日(水)13:00~16:01

場所

消費者委員会会議室・テレビ会議

出席者

(委員)
【会議室】
沖野座長、二之宮委員、野村委員
【テレビ会議】
山本座長代理、石井委員、大屋委員、加毛委員、河島委員、室岡委員
(オブザーバー)
【テレビ会議】
鹿野委員長、大澤委員
(参考人)
【会議室】
中出哲 早稲田大学商学学術院教授
【テレビ会議】
垣内秀介 東京大学大学院法学政治学研究科教授
山田文 京都大学大学院法学研究科教授
(消費者庁)
【会議室】
黒木審議官、古川消費者制度課長、原田消費者制度課企画官、消費者制度課担当者
(事務局)
小林事務局長、後藤審議官、友行参事官

議事次第

  1. 開会
  2. 議事
    ①有識者ヒアリング (垣内秀介 東京大学大学院法学政治学研究科教授)
    ②有識者ヒアリング (中出哲 早稲田大学商学学術院教授)
    ③有識者ヒアリング (山田文 京都大学大学院法学研究科教授)
  3. 閉会

配布資料 (資料は全てPDF形式となります。)

《1. 開会》

○友行参事官 それでは、定刻になりましたので、消費者委員会第16回「消費者法制度のパラダイムシフトに関する専門調査会」を開催いたします。

本日は、沖野座長、二之宮委員、野村委員には会議室で、山本隆司座長代理、石井委員、大屋委員、加毛委員、河島委員、室岡委員はテレビ会議システムにて御出席いただいております。

なお、所用により小塚委員は本日御欠席との御連絡をいただいております。

消費者委員会からは、オブザーバーとして鹿野委員長、大澤委員にはテレビ会議システムにて御出席いただいております。

また、本日、東京大学大学院法学政治学研究科教授の垣内秀介様、早稲田大学商学学術院教授の中出哲様、京都大学大学院法学研究科教授の山田文様に御発表をお願いしております。中出教授には会議室で、垣内教授と山田教授にはテレビ会議システムにて御出席いただく予定としております。中出教授は、御都合により、少し遅れて御出席いただく予定となっております。また山田教授は、御都合により、15時頃より、御出席いただく予定となっております。そのため、議事次第に記載のとおりで、その順番でヒアリングを進めさせていただければと思っております。

配付資料は議事次第に記載のとおりでございます。

一般傍聴者にはオンラインにて傍聴いただき、報道関係者のみ会議室で傍聴いただいております。議事録については、後日公開いたします。

それでは、ここから沖野座長に議事進行をよろしくお願いいたします。


《2. ①有識者ヒアリング (垣内秀介 東京大学大学院法学政治学研究科教授)
②有識者ヒアリング (中出哲 早稲田大学商学学術院教授)
③有識者ヒアリング (山田文 京都大学大学院法学研究科教授) 》

○沖野座長 ありがとうございます。

それでは、本日もどうかよろしくお願いいたします。早速、本日の議事に入らせていただきます。

本専門調査会の後半の検討テーマである実効性の高い規律の在り方につきまして、消費者法制度における規律のバリエーションという観点から、既存の枠組みにとらわれず、消費者取引を幅広く捉える規律の在り方に関連した有識者ヒアリングを行いたいと思います。

本日は、まず、民事訴訟法を御専門とされている垣内秀介教授に民事手続法の視点から御意見を伺いたいと思います。垣内教授から消費者分野における紛争解決方法の課題や団体訴訟制度の活用といった点について「消費者紛争解決手続の課題」というテーマで、20分程度御発表をいただいて、それに続けて、質疑応答、意見交換をさせていただければと思います。

それでは、垣内先生、よろしくお願いいたします。

○垣内教授 ただいま御紹介に預かりました、東京大学の垣内と申します。本日は、お話をする機会を与えていただきまして、ありがとうございます。

私からは、消費者紛争解決手続の課題ということで、若干の話題提供をさせていただきます。

スライドをおめくりいただけますでしょうか。

以下におきましては、初めに、私自身の研究分野などからくる問題設定の仕方の特徴ですとか、あるいはそれに伴う制約ということについて、まず、お話をしました上で、消費者紛争解決手続をめぐる基本的な考え方、あるいは課題ということについて、私が現在考えておりますところを、時間の許す範囲でお話しできればと考えております。

次のスライドをお願いいたします。

先ほども御紹介いただきましたけれども、私は民事訴訟あるいは民事における裁判外の紛争解決手続といった各種の民事手続をめぐる法制を主たる研究対象としております。

これらの各種の民事手続は、いずれも何らかの形で、紛争とその解決という営みに関わっているところがありまして、本日のタイトルに紛争解決手続という言葉が含まれておりますのも、そうした私の問題関心、問題設定を反映しているということになります。

もっともこうした問題設定自体は、消費生活をめぐる様々な事象の一面を切り取ったものということでありまして、消費者法をめぐる問題を考えるに当たっての一定の方向づけと申しますか、あるいは制約ということを伴う面もあると理解しております。

議論のすれ違いですとか、あるいは混乱を防ぐという観点からは、そういった問題設定に伴う制約について意識しておくことが有益のように思われますので、まず、その点について少しお時間を頂戴して触れておきたいと思います。

まず、手続という言葉あるいはプロセスと言ってもよいのですけれども、これは、それ自体としては非常に広い外延を持つ概念、用語でありまして、消費者ということで申しますと、例えば、消費者法制が実現しようとする価値の実現過程全般を広く含んだものとして、手続あるいはプロセスというものを捉えるということもできます。

これに対して、紛争解決の手続と捉えますと、議論の第一次的な過程あるいは対象は、紛争として顕在化した問題への対応ということに限定されることになってまいります。

逆に申しますと、トラブルとしては特段顕在化せず、消費者取引が正常に行われ、そこで消費者の権利利益が適切に実現されるというプロセスについては、差し当たり視野に入ってこないということになるわけです。

また、私の専攻は民事手続法であると申しましたけれども、民事の手続という対象設定も一定の制約を伴うことになります。

次のスライドをお願いいたします。

と申しますのは、民事手続と申しますと、第一次的には民事上、言い換えますと、実体私法上の権利義務というものが手続の対象として着目されることになりまして、具体的には、民事訴訟手続や各種の裁判外の紛争解決手続(ADR)、強制執行等の権利の実現手続と、こういったものが視野に入ってくることになります。

このように民事上の権利義務に着目することは、民事法という法領域に、例えば刑事法ですとか、行政法とかいった他の法領域とは異なる何らか固有の意義があるという理解を、暗黙の前提とする面があると言えるかと思います。

次のスライドをお願いいたします。

そして、こうした問題設定は、消費者法という観点あるいは消費者法一般の目的といった問題関心との間で、一定のずれを生ずる可能性を伴うように思われるところです。

例えば、各種の紛争解決手続のうち、民事訴訟制度ということで考えますと、民事訴訟制度が全体として消費者法の目的、例えば、消費者の幸福という価値の実現という考え方があり得るかもしれませんけれども、その目的達成のための手段であると言い切ってしまうことは、なかなか難しいように思われます。

もちろん、消費者の主張が民事上の権利として承認されているものであるという限りにおいては、民事訴訟手続を通じて、その存否の判定ですとか、実現という機能が果たされるということになりますけれども、それは、民事訴訟手続が民事上の権利義務一般の判定あるいは実現の機能を持つということの一環として、このような作用を営むと言うにとどまるということができるかと思います。

逆に、一旦民事上の権利として承認されれば、民事訴訟は強力な機能を果たし得るということで、憲法上も裁判を受ける権利の一環として、民事訴訟という手続が保障されることが要求されることがあるわけですけれども、逆に民事上の権利として承認されないということになりますと、民事訴訟手続によってそれが実現されることも、差し当たりは想定されないと、こういうことになってまいります。

次のスライドをお願いいたします。

今申しましたことは、民事訴訟という手続が持つ、ある種の一般性とでも言うべきことと関係する面があるように理解しています。

すなわち、今日の民事訴訟手続は、民事上の権利一般の受皿を提供する手続でありまして、個別の権利ごとに手続が異なるわけではありません。

したがいまして、そうした手続を用意する、そうした一般的なものとしての民事訴訟手続を用意しつつ、設けることの価値は、民事法全体が担っている価値と結びついたものとして捉えられることになります。

そうした価値としては、例えば、ごく一般的に個々の法主体の利益、権利の保障といったものが想定されることになるわけですけれども、逆に、より特定された具体的な政策目標の実現手段として民事訴訟手続を捉えることは、必ずしもできないところがあるわけです。

もっとも、例えば消費者裁判手続特例法などにも見られますように、事件類型に着目した形で各種の特則を設けることは、もちろんあり得るわけでありますけれども、しかし、事件類型ごとの手続の細分化には一定の限度があると考えられますし、問題が実体法上の権利義務の存否に関わる以上は、一般的には通常訴訟手続、一般的な民事訴訟手続の利用を極力保障すべきだという考え方が働くことになります。

次のスライドをお願いいたします。

また、少し異なった視点となりますけれども、手続の機能という観点から問題を考える場合には、手続においては、勝者というものが初めから決まっているわけではないという点にも留意をする必要があるかと思います。

すなわち、適正な手続を経る限りでは、結果として消費者側の主張を否定することも、これは制度の全く正常な機能の一環ということになるわけです。

このような場合には、むしろ相手方当事者の正当な利益の保護という機能が前面に出ることになりますので、その意味でも、民事訴訟手続を、例えば単純に消費者の権利実現のための手段と捉えるわけにはいかないことになります。誰のどのような利益が具体的なケースにおいて保護されるか、これは、あくまで民事実体法の定め、その解釈によって定まることになるかと思います。

次のスライドをお願いいたします。

以上に対しまして、民事訴訟手続ではなく、裁判外の紛争解決手続、ADRに着目いたしますと、様相は若干異なってまいります。

ADRにおきましては、必ずしも民事上の権利義務にはとらわれない形での解決が可能であるということでありまして、そこでは、権利義務の存否という形で形式化されにくいような利害調整もカバーできるという点で、単に裁判を代替し得るというだけではなく、場合によっては政治的な決定あるいは行政による利害調整、こういったものを代替する可能性も提供し得ることになるからです。

もっともこうした柔軟な解決あるいは調整というものが、どのような形で法的に正当化されるのかということを考えますと、少なくとも伝統的には、その根拠は自己決定あるいは私的自治に求められてきたと考えられます。

しかしながら、自己決定が十分な正当化機能を果たすためには、幾つかの条件が備わる必要があると考えられます。

また、私の理解では、ここには、裁判手続への現実的なアクセスの可能性があるということも条件として含まれるように思われるところです。

卑近な例で申しますと、例えば、法的には、事業者が消費者に対して10万円全額を返金すべきだと評価されるようなケースにおいて、訴訟外の場で当該事業者が、解決金として3万円なら支払ってよいけれども、それ以上請求したいならば、それは訴訟の場でやってくださいといった対応をすることがあります。

こういった場合に、10万円のために訴訟を提起し追行するというのは、とても現実的ではないので、3万円で和解をするという事態が考えられるわけですけれども、こうした解決は、民法上、それは恐らく有効な合意であるという点では、私的自治の範囲内ということになるかと思われますけれども、しかし、このような事態が横行することが何の問題もないかといえば、それは、そうではないのではないかと、こういった問題関心が生ずることとなります。

そうした観点からは、裁判手続の利用コストを極力低いものとし、アクセスを広く保障すると、こういったことが重視されることになるかと思います。

ただ、現実には、裁判手続の利用コストを完全にゼロにすることはできませんので、どの程度までそうした条件を充実させるべきなのか、これは、程度問題という面があることも否定できないところです。

次のスライドをお願いいたします。

以上を踏まえまして、消費者紛争解決手続をめぐる基本的な考え方について述べておきたいと思いますけれども、まず、そもそも紛争という概念をどのように定義するかにつきましては、それ自体、様々な議論があるところですが、伝統的には、ある主体の他の主体に対する一定の要求が成立し、しかし、それが実現されていないと、こういった状況を紛争として想定してきたということが言えます。

典型的には、消費者の場面で言えば、事業者との間の取引によって消費者が何らかの被害、これは保護に値する利益の侵害と言い換えることができるかと思いますが、そういった被害を被り、その回復を求めているにもかかわらず、それが実現されないという状況、これが想定されることになります。

そうなりますと、紛争に着目することは、そうした被害の事後的な救済という点に典型的には焦点を当てることになりまして、逆に申しますと、より広く被害の予防ですとか、抑止といった観点は、一旦後景に退きがちとなるという側面があります。

次のスライドをお願いいたします。

この点とも関連いたしますけれども、こうした形で紛争を理解いたしますと、個人的ないしは個別的な利益、何らか個人への帰属が観念できる利益、これは俎上に乗せやすいところがあるわけですけれども、逆に個人への帰属が観念しにくい利益ということになりますと、それを主張する主体をどのように設定するのか、あるいは当該主張について権利性をどのような形で承認できるのか、こういった難しい課題がいろいろと生じてくることになります。

次のスライドをお願いいたします。

また、紛争の解決ということにつきましては、基本的にはどのような内容で解決をするのかという解決内容の確定プロセス、これは権利義務という点で言えば、権利義務の存否の確定プロセスということになりますが、この段階と、もし権利義務があるということになれば、それを実現するプロセスを考えることになります。

もし、第1の段階で権利の不存在が確定されることになれば、それで紛争は一旦解決したという評価を受けることになりますし、逆に権利の存在が確定された場合には、その実現の問題がその先に控えることになります。

次のスライドをお願いいたします。

次に、消費者紛争解決手続の課題についてですけれども、まず、差し当たり権利義務という点に着目して考える限りにおきましては、消費者紛争解決手続の言わば理想像として、全ての消費者紛争において、あるべき権利義務の内容に即して過不足なく被害が回復されると、こういった事態を実現することが考えられるかと思います。

次のスライドをお願いいたします。

逆に、こうした理想像が実現されていない、実現しない状況としましては、幾つかの類型を考えることができます。

具体的には、資料で類型1から3まで挙げておりますけれども、より一般的な言い方をすれば、泣き寝入りですとか、本来勝つべき主張が認められない不当な敗訴でありますとか、あるいは権利があるということが定められたにもかかわらず、その実現がなされない、回収不能とでも言うべき状況、こういった事態は、いずれも先ほど申しましたような理想像が実現されていない状況として評価することができることになります。

そして、現状ということで申しますと、こうした事態は、いずれについても多かれ少なかれ生じていると予想されるところでありまして、以下、幾つかスライドを用意しておりますけれども、時間の関係で若干飛ばさせていただきたいと思いますが、現状についてそのような評価、つまり、こういった理想像が実現されていない事態がいろいろなところで生じているという評価を前提といたしますと、スライドの少し先に行っていただきまして17枚目になりますけれども、例えば、このスライドに示しましたような形で改善が必要であると。相談手続等の情報の問題あるいは権利の確定段階において、裁判手続やADRといった手続の機能をさらに強化する必要がないのか、また、一旦認められた権利の実現手続について、さらに強化する必要がないのか、こういった課題が現に存在すると考えられるところです。

私自身もこうした方向で、例えば、裁判手続等について、なおその強化を考えるべき点は多いと考えておりますけれども、他方で、こうした言わば民事手続あるいは民事法内在的な機能強化を考えるだけで十分なのか、という問題も存在するように思われます。こちらの専門調査会におきましても、そうした観点が重要視されているようにも理解をしております。

そこで、以下におきましては、そうした観点から、消費者紛争の解決における行政の役割ですとか、あるいは事業者等の役割について、これも私が考えておりますところを簡単に述べたいと思います。

次のスライドをお願いいたします。

まず、行政の役割についてですけれども、およそ民事上の権利の実現ということを考えましたときに、それを行政が担うことが、どのような形で考えられるのかということが、まずは問題になるように思われます。

ここで、まず、確認する必要があると思われますのは、私人が民事上の権利の実現を求める場合に、当該権利を実現することには、それ自体として、一定の公益性が承認されてきたと考えられるということです。

国が、例えば民事訴訟制度を運営してきたということは、まさにこのことに対応することができます。

そういたしますと、ここで問題となりますのは、そもそもそういった公益があるか、ないかということよりは、その実現の手段として、司法が担うべきなのかあるいは行政が担うべきなのか、行政が何か担うとすれば、それはどのような形でなのかと、こういった司法と行政との役割分担の問題が、まずは重要であるということになろうかと思います。

そうした観点から言いますと、まず1つには、そもそも民事上の権利の実現一般が行政の役割と言えるかというと、それは必ずしもそうではないのではないか、それは、むしろ、司法の本来の役割なのではないか、とりわけ権利の存否について争いがあるという場合に、それを判定する、これは本来司法の役割なのではないかと考えられるところです。

もっとも、単に民事上の権利の実現一般ということを超えて、より具体化された利益を観念することができ、また、その手段としての合理性が認められるということであれば、何らか行政がその実現のための役割を果たすことも説明できるように思われます。

次のスライドをお願いいたします。

実際に、消費者の民事上の権利の実現に資するような形での行政の施策や活動というものは、これまでも様々な形で見られたと思います。その態様は非常に様々でありまして、民事上の権利との関わり方もそれぞれに異なっている面があると思われますけれども、最も直接的な形で言えば、例えば、民事上の権利義務の履行そのものを命じるような行政処分が考えられないか、あるいは民事訴訟における行政による訴訟担当といったことは考えられないか、こういったことも問題となり得るところかと思われます。

次のスライドをお願いいたします。

ただ、ここで問題となりますのが、民事訴訟における処分権主義の考え方かと思われます。処分権主義は、権利を行使するのか、しないのかという判断を当事者に委ねるという考え方のわけですけれども、仮に行政等が、当事者からの具体的な授権がなくても、消費者の権利の実現を図ることができることになりますと、従来の処分権主義の考え方と整合するのかという問題が生ずることになります。

この点については、私自身は、例えば情報の面、あるいは判断能力、そして権利行使手段の現実的な利用可能性といった点を考えますと、消費者が権利を行使しないという事態が、自己決定ないし私的自治によって十分に正当化されるかというと、それは疑問があるのが現状だと考えられますので、そのような現状を前提といたしますと、一定の公的な介入が正当化される余地というのはあるのではないかと考えているところです。

もっとも現実的には、それほど多く発生する事態ではないかもしれませんけれども、一部の消費者が、その権利を行使しないという旨の判断を積極的に行うという場合には、それを尊重する必要があるのではないか。言い換えますと、一種のオプトアウトの可能性は留保する必要がないかと、こういった問題もあるように思われるところです。

次のスライドをお願いいたします。

最後に、事業者等の役割ということですけれども、例えば、ADRの機能強化といった点との関係では、事業者等に一定の役割を担わせる施策も有効だと考えられます。

典型的には、デジタルプラットフォーム利用者間の紛争の場合、プラットフォーム事業者が自主的に紛争解決のための支援を提供することも考えられますけれども、仮にそうした取組が十分になされない場合には、取組を促すための規制を設けることも考えられるところかと思います。

そうした場合、その根拠が問題となりますけれども、その点を考えるに当たりましては、先行事例として金融ADRの制度が参考になるように思われるところです。

例えば、プラットフォーム事業者を考えますと、プラットフォーム上の取引の社会生活上の重要性や有用性、また、そこでの利用者保護手段の充実の必要性、事業者の手続提供者としての適切性や、サービスから事業者が収益等を得ていると、こういった事情を考慮いたしますと、利用者の保護の一層の充実とともに、プラットフォーム上における取引に対する利用者の信頼を向上させるといった観点から、事業者に一定の法的義務を課すことも正当化し得るのではないかと考えられるところです。

もっとも、具体的な施策の強度あるいは内容については、多様な選択肢が考えられるところですので、その選択に当たりましては、具体的な実情を踏まえた検討が必要と考えられます。

以上、当たり前のことを整理したにとどまりまして、ここでの御検討に御参考になる点があるかどうか甚だ心もとなく存じますけれども、時間も超過してしまっておりますので、私からのお話は以上ということにさせていただきます。

御清聴ありがとうございました。

○沖野座長 垣内先生、ありがとうございました。

ただいまの垣内教授からの御発表内容を踏まえて、質疑応答、意見交換をしていきたいと思います。

御発言のある方は、会場では挙手によりまして、また、オンラインの方はチャットでお知らせいただければと存じます。どの点からでも、どなたからでも結構ですのでお願いいたします。

二之宮委員、お願いします。

○二之宮委員 二之宮です。御説明ありがとうございました。

今日の御説明をお聞きしていまして、紛争解決手続も私的自治の表れであることから、この専門調査会の前半戦で議論していました客観的価値の実現として納得のいく選択、選択の実質性の確保の実体法的な側面というのが、より理解することができました。

また、同時に手続の私的自治の表れということからすると、同じように手続面でも納得のいく選択、選択の実質性の確保のための修正や新たな手法というのも検討されるべきではないかと思いました。

1点目の実体法の側面としましては、資料の13ページに紛争解決手続の課題が挙げられていますけれども、手続面での課題の大前提として、個人的利益への帰属が観念できないと、訴訟手続には乗りにくいということが記載されています。

消費者被害の相談を受けている実務の者としては、やはりこれはひどいなと思っても、具体的な個人的な利益にどう結びつけるのかという組み立ての段階になると、結構悩ましい問題ことがあります。新たな問題などでは、どんどん悩ましい問題が起こってきます。

そうすると、やはり様々な消費者の状況的な脆弱性に対応して、後追いだとか、いたちごっこから脱却を図って、被害救済という点を考えますと、やはり手続に乗せる選択肢が必要であり、消費者の利益の帰属を観念できる包括的な受皿規定が必要だということを改めて思いました。

権利行使の条件で、いろいろな課題というところが資料にも書かれておりますけれども、手間暇がかかるということに関して、訴訟法そのものをてこ入れするというのも1つですけれども、業界団体の自主的な取組だとか、あるいは認証制度などでいい取組を推奨していくことによっても、このハードルは下げることが可能だろうと思います。我々は実務をやっていて、この資料を拝見していたときにまず思ったのは、交通事故でドライブレコーダーの普及によって、審理手続というのは各段に短くなった、特に止まった、止まっていないというのはドライブレコーダーの映像を見れば分かる、本人尋問をする必要がなくなったことを考えますと、今、さんざん問題になっている詐欺的な定期購入などでスマホの画面でクリックしたあとで、その広告画面はすぐに変わってしまうため、同じようないたちごっこが生じている。少なくとも業界が自主的な取組として、スマホ画面、広告画面の保存義務というものを課すとドライブレコーダーと同じような流れになっていくのではないかと思います。その辺を守っているところと守っていないところをどう峻別していくのかというところも、手続面の課題の1つの解消材料になるのかなと思って資料を見ておりました。

もう一つ、情報開示というところに関しては、やはり、消費者紛争に乗せる手続の前に、事業者側の情報の開示が不十分だと感じます。だから泣き寝入りしてしまう、諦めてしまう。情報が開示され、その情報を踏まえた上で、さあ、どうするというところの選択を与えてあげないと、やはり納得のできる紛争解決の選択というところには結びつかないのではないかと思いました。

そのほかにも、今日は、いろいろと本当に参考になるお話を聞けたと思いました。1点、ちょっとよく分からなかったので教えていただきたいのが、資料の18ページに、国に対する私権保護請求権ということが一言書かれていますけれども、ここがどういうことを念頭に置いているのか、想定されているのかというところがよく分からなかったので、もう一度詳しく教えていただければと思います。よろしくお願いいたします。

○垣内教授 大変貴重なコメントをいただきまして、どうもありがとうございました。

コメントでおっしゃっていただいた点については、私もいずれも共感するところです。

それで、最後に御質問をいただいた点ですが、資料の記載が不十分で説明も飛ばしてしまいましたので大変申し訳ありませんでした。

そもそも、これは、いろいろと根が深い議論と申しますか、民事訴訟という制度が、なぜ設けられているのかということに関しまして、古くは権利保護請求権説といったような、国に対して自分の民事上の権利の保護を求める公法上の請求権というものが私人にはあるのであって、それを履行するための手続、制度として民事訴訟制度というものを国は提供しなければならないと、こういう考え方があるということが1つあり、そういった従来の議論を踏まえても、国が民事上の権利の実現のために一定の役割を果たすことそのものは、伝統的にも認められてきた側面があると、こういうことを申し上げたいということが1つで、そこにそういった記載をさせていただいているということです。

また、比較的近年の議論などでも、例えば、民法の山本敬三教授の御議論などを拝見いたしますと、民事上の権利について、国に対する保護請求権の束のようなものとして民事法というものを考えると、こういった見方も示されているようなところもあり、そういった見方とも若干関連するところがあるかもしれません。この資料の記載の趣旨については、そのようなことでございます。

○二之宮委員 よく分かりました。ありがとうございました。

○垣内教授 ありがとうございます。

○沖野座長 ありがとうございます。

それでは、そのほかの点について、あるいは関係する点でも結構ですけれども、いかがでしょうか。

よろしいでしょうか。それでは、恐縮ですが、私からも幾つか質問をさせていただければと思います。

1つは、今回、紛争解決手続と民事手続との違いというのを明確にしていただいて、そもそもの入り口のところで概念整理をしていただき、大変ありがたかったと思います。

それでですけれども、例えば、現在でも差止訴訟がありますけれども、この差止めについては、最初の分類からすると、これは紛争解決手続ではないという位置づけになるのかどうかという、その概念との関係で確認をしておきたいというのが1点目です。

2点目は、今回様々な役割の中で、行政と事業者というのを取り上げられました。他方で、消費者団体をどう位置づけていくかというのは、既に、特別な団体の権利ですとか、あるいは訴訟における関わり方が規定されているのですけれども、この点については、既に現行法もあるということであるのかと思いますし、それから途中では、個々の個人の利益には還元できない、あるいは帰属を確定できないようなものについても、不可分的に帰属するような権利などについてどうするかという問題があり、その場合に、誰にその請求を認めるかという主体の問題があるというお話がありましたけれども、そういったこととも絡んでくるのか、こないのか、現在の特例法は、あくまで個別の利益帰属ということは前提にしているようにも思ったのですけれども、消費者団体の役割あるいは位置づけについて、さらに補足いただくことがあるのだろうかというのが2つ目です。

3点目は、二之宮委員からも御指摘があった点に関わるかと思うのですけれども、そもそも手続法は、ある意味中立というか、透明というか、特に消費者保護ということでは必ずしもなく、両当事者間の公正公平な手続だとか、紛争解決とかということがまず基本であると理解したのですけれども、一方では、特則の可能性も御指摘になっておられますし、それから、後半の行政ですとか、あるいは事業者の役割についてのところは、むしろ一定の消費者の権利実現をいかに容易にするかとか、確保するかとか、そういう観点に立っていると思われました。それは、実体法が要請しているということなのかもしれません。

そうしたときに、幾つかの点で、情報の点ですとか、3項目というのが出てきて判断能力、それから権利行使のための現実的に利用が可能な手段の存在というものが、特に自己決定や私的自治にとっては必要であって、恐らく手続の選択やあるいは裁判以外の手続による場合の正当化がそこにかかっているところ、消費者の場合それがどのように確保されるのかといった問題もあるということが絡んでいるのかと思うのですけれども、他方で、現在、特に取引においては、意思決定や判断の環境の点などから、消費者の脆弱性に着目するということが共通理解になりつつあると思われます。

そのため、実体法におきましても、特に消費者契約法や消費者基本法などでもうたわれております、消費者と事業者の間の情報の質量、交渉力の格差ということと並んで、消費者の脆弱性に着目することが、様々な規律の介入の根拠や基礎になり得るのではないかという話が出ているかと思うのですけれども、例えば、そのような消費者の脆弱性ということが、実体法のほうで言われるときには、手続の設計においても、そのことが非常に重く意味を持ってくるということでよろしいのか、そうしたことが、今回の御報告の特に後半を支えているということでよろしいのか、脆弱性についての言及は、お話ではなかったように思ったものですから、それがあると何が変わってくるのだろうかということが1つ関心としてございます。

散漫なことで恐縮ですが、以上3項目につきまして、御指摘をいただければと思います。

○垣内教授 大変重要な御質問をいただきまして、どうもありがとうございます。

まず、1点目についてですけれども、紛争と申しますのは、一定の権利なり主張なりがされて、それについての判定、判断が求められることになれば、紛争として顕在化することになるわけで、そういう意味では、差止訴訟と言いますのも、差止請求権があるという形でそれが主張され、手続に乗るということになれば、それについて判断がされれば、それは一定の紛争解決手続の機能だということにはなると思います。

ただ、問題は、ある人が自分に差止請求権があると、裁判所は差止めを命じる判決をすべきであると、こういう主張をして手続に乗ってくるというときに、それを認めることができるのかどうか、これは、結局実体法で差止めをその場合に命ずることができるのか、すべきなのかということにかかってくるということで、消費者団体訴訟ということで差止請求訴訟が一定の場合に認められたということですけれども、これは、一般的な理解によれば、まさに民事上の請求権として、差止請求権を適格消費者団体に創設しているという側面があって、それがされていることによって、差止請求権をめぐる紛争が一般的に紛争という形で出てくることができるようになっているところがあるわけで、逆に言えば、民事法の実体法でそのような権利義務を設定することを通じて、ある権利なり、利益なりが手続で主張されることができるものにするということができるし、逆にそれが、権利としての承認が得られないということになりますと、もちろん、訴えを提起することはできるわけですけれども、しかし、提起したとしても、それが認められることはないということになってしまうわけですから、普通に考えれば、訴えを提起することはなくなるということになるわけで、紛争として顕在化することを抑制すると申しますか、そうさせないという機能を営むことになってくるということで、そこは、民事上の権利として、どのようなものを考えるのかというところにかかってくるところかと思います。

その点で、まずは事後的な被害救済に重点が置かれるということを申しましたのは、民事法の一般的な法理、例えば契約法であるとか、不法行為法といったものを考えたときに、まず、そこに乗りやすいものとしては、既にはっきりとした形で損害が発生しているといった紛争が考えられるということですので、それは、従来の民事実体法を前提としても紛争化されやすいと、そして、それが認められることも十分あり得るということですけれども、差止請求ということになりますと、利益の帰属がより広範な主体に関わってくることがありますし、権利性について立法で認められたものは別とすると、いろいろ議論の余地がある部分もありますので、より俎上には乗ってきにくいところがある、そういった違いはあるのではないか。

さらに申しますと、事後的な被害として、従来の民事法から見ても、これは被害の救済、回復が必要であると評価できるもの等についての訴訟手続の保障ということと、その外延と申しますか、予防的な部分について、どこまで訴訟で担っていくのがよいのかというと、そこには一定のグラデーションと申しますか、訴訟で最低限、これは、きちんと保障しなければならないという部分と、ある程度、政策的あるいは立法の裁量として、この辺りまで権利性を認めて、訴訟の場で争わせることができるようにするといった判断に幅があるような領域というのもあるのではないかというように、私自身は考えているところです。

それから、2番目の点ですけれども、今、申し上げたところにも関わりますけれども、消費者団体が現に重要な役割を果たしているということで、これを法制面でも承認しているところがあるということですから、それは、当然役割としては非常に重要であると考えております。

ここで、民事訴訟等の紛争解決手続に問題となる権利、あるいはより広く利益を誰がどのように代表し、手続において争うのかということが問題となるわけですけれども、まず、例えば、損害賠償請求権、特例法では、最終的には損害賠償請求権、個々の消費者の損害賠償請求権が問題になるわけですけれども、こういったものについては、少なくとも形式的には個々の消費者が自分で権利主張することが十分できるということで、しかし、そこには限界があるので、例えば、特例法で定めている被害救済手続といったものも十分合理性があるし、必要性もあるということになってくるわけですけれども、その外延と申しますか、利益がはっきりとは個別的に帰属を管理しにくいというところについて、これをどういった主体が代弁するのかというところが1つ難しい問題で、その担い手として消費者団体というのは、重要な選択肢を提供していると。

ただ、さらに進んで、行政自身がそういった利益の実現のために役割を果たすべきではないかと、こういった議論もあり得るのだろうと思いますけれども、そこまでいかないとしても、消費者団体が一定の役割を果たすことは十分あり得ると思いますし、それは合理性があるのではないかと考えております。

2番目の点について、お答えになっていたか分かりませんけれども、3番目の点に進ませていただきまして、本日、消費者の脆弱性という形では、必ずしも明示的には触れていなかったのですけれども、私的自治が十分に機能するための条件というところで、裏から、言わば、消費者については、そういった条件が十分に備わっていない面があると。これは、脆弱性というところと重なるところが大きいのかなと考えています。

これについて、手続上、何らか手続の設計に反映させる余地というのは、当然一定の範囲ではあり得るということだと思います。

報告の中でも申しましたけれども、消費者裁判手続特例法などは、その代表的な例ということになりますし、あるいは国際裁判管轄に関する規律でありますとか、また、仲裁法、これは今日の3番目の山田教授の御報告で出てくる話かと思いますけれども、現在は附則で、将来の紛争についての消費者仲裁については、差し当たり否定的な慎重な立場を取っていることがあるわけですけれども、そのような様々な手続法上の規律について、一方の主体が当事者、消費者であるということに着目して特則的な規律を設けるということはあるわけで、そうした観点から、もう少し手続追行上の消費者の脆弱性を何らか補うような形での規律が考えられないのかということは、考慮に値することではあるかなと考えております。

ですので、実体法だけではなくて、手続の設計においても問題となり得るというところは御指摘のとおりかと理解をしているところです。

いずれもお答えとしては不十分ではないかと思いますけれども、取りあえずは、以上ということにさせていただきます。

○沖野座長 十分お答えいただきました。ありがとうございます。

オンラインで、大澤委員、鹿野委員長から手が挙がっておりますので、この順で御発言をいただきたいと思います。

では、大澤委員からお願いします。

○大澤委員 大澤です。垣内先生、どうもありがとうございました。

すみません、私、今日都合があって途中から聞かせていただいて、大変失礼いたしました。

ちょうど、今、沖野座長の御質問と、それに対する垣内先生の御回答を伺っていて、かなり尽きている気がするのですが、私が聞きたかったことも全く関連していることなので、実質的な問題かもしれないのですけれども、実際にこういう制度をつくって動かすときにどうだろうかという観点で質問をさせていただきたいと思います。

今、映していただいているスライドの、恐らく1個前ではないかと思います。19枚目ではないかと思うのですが、一番下のところ、民事訴訟における行政による訴訟担当ということで、垣内先生のほうが恐らく詳しいのではないかと思うのですが、例えばですけれども、フランス法ですと、これは差止めのほうですが、要は、例えば消費者契約の中に存在する不当条項の差止めを、日本と同じように消費者団体が、差止めができるのですが、それと同時に、行政機関である競争・消費・詐欺防止総局という、日本でいうと消費者庁と公正取引委員会の合体版のようなところですが、そちらが差止訴権を行使できます。

これは、不当条項ということですので、かつ差止めですから、そういう不当な条項を事業者に、これ以上使ってもらっては困るという予防の側面があり、消費者利益を守るために、適格消費者団体だけではなく、行政もまさにその利益の実現のために差止めができるということだと理解をしているところですが、ただ、実際上、私が調べていましても、行政機関が積極的に差止めをしているかというと、恐らくほとんど使われていないのではないかと認識しています。

実際、向こうの役所でも、そういう話を聞きましたし、裁判例もほとんど見かけないのですが、どうもその理由を聞いてみると、そもそも、いわゆる実体的な判断として、その条項が不当かどうかを行政機関が判断するというのが、非常に難しいというのが1つ理由としてあるようです。あとはマンパワーもあるようですが、マンパワーに関しては、フランスの場合は、日本よりは数としてはいると思うので、どちらかというと、やはり実体法上の不当性の判断を、行政機関の、例えば、いわゆる司法の専門家ではない人が行うことが非常に難しいということがあるようなのです。

そういった実績の話として、個人的には、民事訴訟という形を使うとしても、民事訴訟なのか行政訴訟なのか、どちらがいいのか分からないのですが、そういう不当条項の差止めというのを消費者団体だけではなくて、行政機関にも利益擁護のために頑張ってもらうということはあり得る制度だと思っているのですが、実際上、その条項の不当性を判断するのは難しいというのは、それはそうだろうという気もしておりまして、この辺り、実体的な判断を行政機関が判断することの困難性とか、あるいは、それ解消するために何か手立てはないだろうかということが、もし御知見がありましたら伺いたいと思って質問をさせていただきました。

フランスの場合は、濫用条項委員会という日本でも非常に有名な独立行政機関で、不当な条項の不当性を判断したり、勧告を出したり、裁判官に意見を出すという機関がありますので、その機関の意見を参考にしつつ、行政機関もいろいろと、例えば、行政的なサンクションとかを課すときにしているようなのですが、それでもなかなか訴訟を起こすとなるとハードルが高いということのようです。

というわけで、すみません、海外の話になりますが、よろしくお願いします。

○垣内教授 どうもありがとうございます。

私自身が、何か海外の具体的な事例について深い知見を持っているということは全くありませんで、その点は、大澤委員のほうがずっとお詳しいと思うのですけれども、今、御指摘があったような、例として挙げていただいたフランスの例は、差止めということですので、また、若干状況が異なってくるところがあるようにも思いますけれども、それにしても、権限としては認められていても十分には活用されていないという状況は、大変参考になるお話かと伺いました。

では、どうすれば機能するのかということですけれども、これは、なかなか私に妙案があるということではないのですが、先ほどのお話の中で、マンパワーというお話がありました。もちろん、最終的には訴訟でということになれば、最終的には裁判所が判断するということで、行政として求められる判断は、その前段階において、裁判手続を経て、その点を確定するに値する問題があるのかどうかというところを評価するところに帰着するのだろうと思いますけれども、その点に関しては、消費者法制、不当条項規制等に詳しいような法律家等が、その担当部署等で、その知見を提供できる体制というものが整えられるかどうかといったことが1つあるようにも思われますし、また、差止請求を行うことが、一定の単なる完全な私人の特定の利益ということではなくて、一定の行政が担うべき利益の実現であるというように考えるのであれば、そのために必要な情報収集についても、行政に一定の権限を認めるということは十分あり得ることだと思いますので、事業者に対して一定の照会をして、回答をさせるであるとか、そういったこと、情報収集やその判断能力、それを担う人材の充実といったことが、1つは重要になるのかなと、お話を伺っていて感じたところです。

○大澤委員 大変参考になりました。確かに情報収集については、なるほどというか、非常に勉強になりました。

ぼんやりと考えていたのは、実体法規範のほうで、この場合は不当条項ですけれども、日本の場合は、不当条項リストもあまり多くないと言われていることだと思うのですが、例えばリストですね、実体法のルールをもっと充実させたりとか、あるいは本当に大胆には、例えば、立証責任の負担を軽減するとか、何かそういったこともつながるのだろうかと思っていましたけれども、ただ、それがなかなか難しいとなったときに、確かに情報収集権限とか、事業者に情報を出してもらうというのは、なるほどと思いました。本当にありがとうございました。

○垣内教授 どうもありがとうございます。

実体法によって何らかの解決を図るということも、もちろん選択肢としては有力だと思いますので、それが可能なのであれば、それはぜひ、行うべきものなのかなと、私も思います。どうもありがとうございます。

○大澤委員 こちらこそ、どうもありがとうございました。

○沖野座長 ありがとうございます。

それでは、鹿野委員長、お願いいたします。

○鹿野委員長 本日は、貴重な御報告をいただきまして、ありがとうございました。2点質問をさせてください。

1つ目は、消費者ないし消費者団体の立証負担についてでございます。本日の垣内先生のレジュメで言いますと、13ページの、理想像が実現されていない事態の諸類型というところにおいても、例えば、類型の2などにおいて、権利確定のためのプロセスにおいて、証拠の偏在や交渉力の格差などの事情から、本来認められるべき権利が認められない場合があるのだということで、不当な敗訴ないし逆の場合は不当な勝訴ということが指摘されているところでございます。

従来から、消費者契約法をはじめ、消費者法分野で、この立証負担の軽減について、いろいろと御議論があって、先般の改正でも、努力義務規定などが設けられたとは認識しているところではございますが、ただ、やはり努力義務だけで十分これが機能するのかということについて、個人的には危惧を持っているところでもございます。

一方で、行政処分との関係でいうと、例えば、景表法とか特商法の中には、一定の場合についてではありますけれども、いわゆる不実証広告規制と言われるような一部立証責任の転換がなされて、このような表示をするのだったら、その裏づけとなる資料を出しなさいと、出さなかったら優良誤認表示とか、あるいは不実の表示とみなすような規定も設けられているところではございますが、垣内先生の目から見て、この立証負担の軽減ないし立証責任の転換的なものについて、今後、消費者法制において、何らかの工夫の余地がさらにあるのかということについて、お聞かせいただきたいというのが1つです。

もう一つは、既に御質問があったところにも関連するところですが、18ページ以下のところの、消費者紛争解決における行政の役割というところについてです。

事業者が不当な利益を得ているときに、それを被害の回復にどうやって充てるのかということが、いろいろと問題とされているところでございますが、例えば、レジュメ19ページの下から4行目あたりにおいて、返金や賠償の支払いを命じる行政処分?というところで、その2つの例として、1つは不当労働行為に対する救済としてバックペイの支払命令はなされていますという例が挙げられているのですが、その上のところに、違法状態排除のための行政処分としての返金命令を肯定する学説というものが紹介されているところです。

その上で、20ページのところには、より一般的な形ではありますけれども、垣内先生は、権利の不行使が自己決定(私的自治)によって十分に正当化されるための条件が備わっていないとすれば、介入が正当化される余地があるのではないかということを御主張なさっていて、さらに先ほどの御質問に対する回答でも言葉を加えて御説明もいただいたところです。

そこで、端的に、19ページの下から4行目の、このような学説などに対して、垣内先生御自身がどのようにお考えなのかということについて、もし、現時点でお考えがあれば、お伺いしたいと思った次第です。よろしくお願いいたします。

○垣内教授 どうもありがとうございます。

まず、1点目の立証負担の問題ですけれども、これは、先般の努力義務の創設がされた際の検討過程に、私自身も加わっておりましたけれども、最終的には努力義務という形になったわけなのですが、それで十分に機能するのかという点については、私自身も危惧を持っているところで、今後、もう少し実際にどう機能するかを検証する必要があるのではないかと思いますけれども、なお不十分だということになれば、さらに何らかの対応が考えられないのかということが、当然次の検討課題になってくるのだろうと理解しております。

大きく言えば、鹿野委員長の御質問中でも言及いただきましたように、立証責任そのものをどう分配するのかという問題がありますし、立証責任の分配を前提とした上で、立証責任を負う側の証明負担をどうするかという問題があるということになりまして、このうち、とりわけ前者の問題、立証責任の分配につきましては、これは責任逃れのようなことで大変恐縮ですけれども、一般的には実体法の法規によって立証責任の分配は定まっていると、実体法が、様々な要素を考慮しながら、条文の形でそれを表現していると、このように理解をされるところで、結局、実体法上の評価として、立証責任をある事項について、通常であれば、消費者が立証責任を負担するような事項であっても、事業者側に、その反対事実の立証責任を負わせるということは、何らかそれが正当化できるような理由というものがあるのであれば、当然あり得るところで、それは、具体的に問題となる事実の種類ごとに考えていくことになるのだろうと思います。

ただ、なかなか立証責任そのものの転換ということになりますと、多くの場合には、それは、なかなか抵抗もあり、難しいところもあるのではないかと思われまして、ほかの方法としては、立証責任は維持するけれども、一定の推定規定を設けるということも考えられ、これもいろいろ議論されてきたところでありますけれども、どのような前提事実を構成し、どのような推定法則を考えるのかというところが、うまく説明がつく形で設定ができれば、そういった方法もあり得るのだろうと思っています。

ただ、これもそれぞれ、例えば、平均的損害であれば、平均的損害についてどういうものが考えられるのかということが種々検討されたけれども、なかなか難しかったところも事実でありまして、なお、私自身も検討しなければいけないと考えているところです。

もし、そういった法律上の推定であるとか、立証責任そのものの転換ということが難しいとなりますと、基本的には、これまでの立証の負担を前提としつつ、それを何とか軽減することになってくるわけで、これについては、消費者紛争は1つの典型的な分野ということでありますけれども、それに限らず、様々な分野で、当事者間の証拠の偏在等が問題とされてきたということがありまして、その中で事実関係について十分な情報を持っている側の当事者が、仮に当該当事者は立証責任を負っていないとしても、ある程度事案の解明に協力すべき義務というのがあるのではないかといった観点から、例えば、否認をする際にその理由づけを求めるであるとか、あるいはさらに進んで、一定の主張立証活動をしないときには、当該、当事者の側の主張が認められないという事実上の推定を考えるといった様々な議論があり、裁判例の中には、一部そういった考え方と親和的と思われる判断をしたものもあるということかと思います。

ですので、いろいろな段階があるわけですけれども、恐らく現状では、なお消費者側の立証負担の困難さというのは十分に解消されているとは言えないと考えられますので、それを軽減する、解消していくための施策というのは、なお考える必要があるのではないかと思っております。

それから、2番目の点ですけれども、学説として、最近、私が目にしたものとしては、宗田教授が書かれたものなどを目にして、こういう学説もあるということで、私自身、行政法については、あまり十分に勉強できていないところがありますので、そういうものが認められるのかどうかというところは、何とも申し上げにくいところがあるということなのですけれども、返金であるとか、あるいは賠償であったとしても、それを命ずることが、行政が担うべき利益の実現方法として、必要十分というか、過不足のないものであるということが十分に言えるのであれば、そのようなこともあり得るのではないかと思うところです。

ただ、これは私的自治の問題とも若干関わるのですけれども、例えば、違法状態を排除するであるとか、不当な利得を吐き出させるといったことが、そのような活動を、これ以上させない、抑止していくという観点から必要であり、合理的であるということが仮に言えたといたしまして、そこで得られた利益を、そのまま当事者、消費者に被害回復として付与するというところは、また、一段先の問題をはらんでいると申しますか、違法状態が排除された上で、民事上の消費者の権利そのものを行政処分として実現するようなことというのが、目的のために過不足のない規律であると言えるのかどうかといった辺りは、若干議論の余地がありそうだという感じが私自身はしております。

被害回復そのものをしないと、例えば抑止なら抑止の効果というものが十分でないのだということなのであれば、それはそこまでやるべきだということになるのかもしれないのですけれども、抑止するのとは、また少し異なった側面が含まれているようにも思われますし、そうすると、どうなのだろうかというところが悩ましいところかなと感じているところです。

これも大変不十分なお答えでしかないと思いますけれども、取りあえずは、以上でお答えに代えさせていただきます。

○鹿野委員長 ありがとうございました。

実体法で考えるべき点も含めて、いろいろな御指摘等もいただきました。また、考えさせていただきたいと思います。どうもありがとうございました。

○垣内教授 ありがとうございます。

○沖野座長 ありがとうございました。

行政の役割や事業者の役割など、非常に多面的に御指摘をいただきましたので、それぞれ関連する御質問や御発言もあるかと思いますけれども、予定した時間が来ておりますことと、また、垣内先生は、この後、お時間も限られていて、そろそろ御退出予定の時間も迫っておりますので、大変恐縮ですが、最初のヒアリングは以上とさせていただきたいと思います。垣内先生におかれましては、貴重な御報告をいただきまして、ありがとうございました。

○垣内教授 どうもありがとうございました。

○沖野座長 ありがとうございました。

それでは、引き続き、本日の議事の第2、有識者ヒアリングといたしまして、保険制度・保険法を御専門とされています、中出哲教授に保険分野の視点から御意見を伺いたいと思います。御足労いただきまして、ありがとうございます。

中出教授から保険制度が機能するための前提条件や、保険による救済が適切な場面を考える際に挙げられる要素などについて「保険の仕組みと保険制度の創設」というテーマで20分程度御発表をいただいて、引き続き、質疑応答、意見交換をさせていただければと思います。

中出先生、お待たせいたしました。どうかよろしくお願いいたします。

○中出教授 早稲田大学の中出です。本日は、貴重な機会をいただきまして、ありがとうございます。

それでは、レジュメに沿ってお話をさせていただきたいのですが、最初に2ページのところ、「話の流れ」というところになります。

最初に、基本的なことではございますが、保険とは何か、そして保険にはどういう機能があるのか、その保険がどういう経緯で生まれてきて、保険はどういう当事者と構造を持っているか、さらに、賠償責任との関係でも保険を考えた上で、消費者の損害に対する救済として、どういう観点が保険の切り口から考えられるかなどを少し議論したいと思っております。

それでは、次のスライドを御覧いただきたいのですが、3ページ目になります。

まず、保険といいましても、実に多様な存在でいろいろなものがございます。実は法律上、保険とは何かという定義はないのです。保険業法の中には保険業についての定義、あるいは保険契約法である保険法の中には、保険契約の定義はあるのですけれども、結局、保険とは何かといった定義は法律上なく、抽象的に定義することは非常に難しいといった部分があります。

ただ、ここでは大きな違いとして、少し私が指摘をしておきたいと思っているのは、保険の中にはプーリングによって、たくさんの人が集まることによって、変動を小さくする、そのようなシェアリングによるベネフィットを得ようという制度と、完全にリスクを移転するというものがありまして、通常、保険というものは保険料を払って、あるいは掛け金を払って、リスクを保険者側が取るという、そういう取引になります。しかし、そうではない制度もありまして、これは相互保険というようなもの、最近では、ペア・トゥ・ペア・インシュランスなどと言ったりしますが、保険料が確定しないで、お互いにシェアリングのベネフィットを取るという仕組みなどもあります。

歴史的に見ますと、船主責任相互保険組合という制度がございまして、これは、船舶による大きな賠償事故に対して、保険会社では保険の引き受けができない状況があり、そこで船会社の人たちが集まって、保険会社がカバーしてくれないものをみんなでシェアしていこうと仕組みとして生まれたものです。最初にお金を払いますけれども、成績が悪かったら追加の保険料を払う、余った場合にはリターンが来ると、このような制度です。これと同じ相互保険を個人分野で導入した方式も数年前から、世界的に存在しているということがありまして、保険もいろいろな制度があるということがございます。

それでは、次のスライドの4番になりますが、そう言いましても、基本的には、保険はリスクを引き受けるところに本質があると思いますので、そのリスクの内容も様々で、それによって保険の中身も違ってきます。ここでリスクというのは、リターンが得られるような投資的なリスクと少し異なっていて、損失が生じるようなリスクに対してカバーするものを保険と考えております。

では、その次のスライドの5番になります。

最近、私がいろいろ発表したりしているものは、同じ保険制度といっても、大きく分けると、マスリスクの保険と非マスリスクの保険というもので違うのではないかという主張です。このマスリスクの保険というのは、大数の法則と言っているのですが、たくさんの事象があると予測がある程度できる、これは自動車事故だとか、生命保険とか、大量のものがある中で、一定程度予測をして、それで保険料を計算できると、こういう分野をマスリスクの保険と考えています。

それに対して、例えば、宇宙保険、人工衛星保険だとか、海上保険、最近で言うと、大規模サイバーとか、大きな噴火だとか、こういうものは、過去の統計があまりないとか、多数の契約がないとかの事情があり、そうリスクを引き受けることは、かなりアドベンチャラスなものなのですが、まさにリスクを取ることでリターンを得るというビジネスとして存在すると思っています。

ですので、この2つでもって、いろいろな枠組みとか、法的な内容に、いろいろと違いが出てくるかと思い、少しそこに触れさせていただきました。

続きまして、次のスライドの6です。

保険はどういう機能があるか、多くの人たちは保険というのは、事故が生じた後にお役に立つ、そういう制度だと考えていまして、まさに第一義的には、損失が生じた後の補償を与える、ここに重要性があって、それによって生活・経済活動が安定するわけです。

それから、早期に救済ができること。過失者が、仮に明らかであったとしても、それに対して請求して、実際に救済としてのお金が得られるまでには、かなりの時間がかかってしまう。何年とかかることもありますし、しかも十分であるかどうかも分からない。そういった点では、保険は早期に救済ができる。ここは、非常に大きな事後のメリットとしてあります。

もう一つは、関係者間の紛争の回避でございまして、賠償などであれば、誰がお金を払うのか、そうすると、自分は悪くないということで、お互いに自分は悪くない、あなたが悪いということになり、そもそも責任論の分野で大きな紛争になっていきます。

しかしながら、保険があると、いずれにせよ、保険でもって救済されるので、どちらが悪いかということは、もう少し時間をかけて別途やりましょうということが可能になってきます。こういったことが、事後の機能としては大きいかなと思います。

これらに対して、事前にもいろいろな機能があると思うのですが、万が一の場合でも補償が得られることによって、安心が生まれて、経済活動が計画的に進められることがあります。

それから、当然保険に入っているということで信用が高まる。

そして、リスクがある事象に対するチャレンジを後押ししていくというのがございまして、海上保険というようなマリンの船舶や貨物の保険がスタートしたのも、貿易商人が、地中海貿易にチャレンジする中でのリスクを金融業者が引き受けることで、チャレンジを後押ししていたということもあります。

原子力発電というのを少し書きましたが、実際、事故があったときに、その賠償をどうするのかという大きな問題がある中で、この賠償責任保険を強制保険としてつけることによって、原子力発電を進めたということなどもあります。

細かな話にはなりますが、例えば、過去のことですが、自転車を販売するときに、自転車でけがしたりするリスク等もありますよということで、自転車に傷害保険をつけて自転車を販売していたという時代がありまして、この自転車に乗って万が一けがしても、保険があるから大丈夫ですよと、ですので自転車に乗ってください、という形で保険が利用された例もあります。

それから、保険の場合には、将来に対する備えを費用化できるので、企業においては、コストとして、それを処理できる点もあります。これは準備資産、企業にとって、資金の準備を減らすことができますので、資本効率を高めることができます。万が一のことに備えるとなると、いつでもお金を出せるようにお金を置いておかなくてはいけないわけですが、それをしないで済むわけなので、資本効率が高まるという機能があります。

それから、次の7ページになりますが、保険制度による副次的な機能としても、いろいろあると思います。当事者間のトラブルといったものに、保険会社等の第三者が介在しますので、その中で、大量の処理の中で、紛争処理とか損害の評価、填補額、賠償額の水準、こういうものについての標準化が進んでいきます。それから、補償の公平性が高まるというのがあります。個別にやっていると、力関係によっていろいろな解決が出てきます。そして、裁判をするとしても、それはごくごく一部に限られてきますので、大量のものが保険処理の中で扱われることで、賠償の均一性が進むという面があります。

例えば、自動車事故の解決で、自賠責保険、そのほかが導入されたことで、賠償額、どういった場合には、どのぐらいの過失割合になるのかとか、どういう損失に賠償が認められるのかと、こういうものが標準化していった、それによって効率性も進んだということがあると思います。

また、こういったデータが、一義的には保険会社ですが、大量のトラブルのデータが集積していきますので、そのデータを基に、将来に対しての事故防止等に向けて、原因分析をしたり、いろいろな活用ができる面もあります。

それから、保険制度によって対応することによって、社会全体としてみた場合の処理コストが下げられるということも、副次的なメリットではないかなと考えます。

次のスライド8になりますが、保険にもデメリットもありまして、大きく分けると2つです。

まずは、モラルハザードです。これは、保険料というものは比較的低額なので、保険金とのバランスで、わざと事故を起こしてお金を取ってしまう。一番典型的なものは、保険金を目当てとした殺人事件とか、放火事件、こういったものがあります。

そのために、当然故意だとかは免責にするとか、原因のいろいろな調査をやるとか、いろいろな手当をしています。あるいは、保険金を削減するような方式もありまして、企業分野などでもあるのですが、事故防止で、いろいろと問題があってはいけないので、自分でも、例えば、20パーセントは必ず自分で負担してくださいとか、こういう形の契約にして、わざと事故を起こすとか、起こった事故の損害を軽減しないとか、こういうモラルハザードを避けることがあります。

もう一つは、モラールハザードと言われるもので、保険があるので安心であるということで、注意力が低下してしまうという問題です。これは、個人でもありますし、企業でもありまして、リスクマネジメントのためのコストをかけるよりは、保険があるからいいのだということで、いろいろな予防を怠ってしまうというものです。モラールが下がるということで、モラールハザードと言っております。

そのほか、デメリットとしては、保険制度の運営上のコストがかかりますが、これは損害額の算定のパターン化とか、定額化とか、免責制度の設定、いろいろな合理化の方策もあるといったことが言えます。

続きまして、9ページになりますが、それでは、新しい保険がどういった契機で誕生するのかといったことを少し見ますと、1つは大事故の発生です。そういう事故があって、やはり保険が必要だということになりまして、例えば、伊勢湾台風とかの後に、水災リスクに対する補償をしていこうとなっていくとか、新潟地震によって田中角栄が動いたことによって、保険会社が嫌だと言っていた地震保険というものが政府主導でできたとか、いろいろなことがございます。

また、モータリゼーション後の交通事故の急増で、自賠責保険というものが誕生したということがあります。

それから、新たなリスクが出現し、例えばドローン、サイバーリスク、新型コロナ、こういった後に、いろいろな保険が出てきます。保険は、社会的なニーズというのは必要としてありますけれども、それだけではなくて、ビジネスとして、これでもってもうけてみようという事業者が出てこないと、なかなか営利保険は進まない面があります。そこで、政府がいろいろ絡むことによって、前に進めていくという場合もあります。

それでは、次のページ10になりますが、保険契約の構造について、私は4つのパターンで、お話をしたいと思います。この辺りを基本的な点として御認識いただきたいと思うのですが、当事者として、今、ブルーで書いてある被害者、損失者、それと、その関係者、それから加害者、保険者がいるといったときに、損害賠償請求としては、被害者から加害者という矢印になりますが、保険契約としては、この3つの当事者のいずれかがつけていく方式がありまして、これを保険契約A、B、C、Dと記してみました。

具体的に見ていきますと、その次のスライドの11です。

方式Aと書いたのは、自分のための保険。典型的な保険は、自分の家について保険をつけるといった場合で、自分のための保険ですので、契約者が自分のものに保険をつけるということになります。

保険料は、被害者となる自分が負担する。何かあれば、損害をこうむった者、すなわち自分が保険からお金をもらえるということになります。

そして、加害者はどうなるのかというと、保険会社は被害者に保険金を払って、請求権代位という形で、賠償請求権を取得しますので、保険者から加害者に対して損害賠償請求を行うという形になります。

この方式によって、迅速な損害填補が可能となり、まずは被害者にお金を払う、そして、加害者がいる場合には、それとの交渉を保険会社が行って回収を図るという形になります。

この場合の損害額の評価については、損害賠償法の場合には損害賠償法としての損害額の考え方があるかと思うのですが、保険は若干自由でして、契約上で、どういうものを損害として認めていくかをフレキシブルにアレンジすることができるという面はあります。そして、保険金を支払った上で加害者に損害賠償をしていくという形になります。

これが、まず、パターンAの自分のための保険です。

次のスライドの12、これは他人のための保険契約ということなのですが、損害を受ける人以外の人が、他人のために保険をつける方式で、典型的には、輸出入の売買を考えていただくと、売主が買主のために保険をつける。そうすると、航海中で事故があったときにお金をもらうのは買主で、買主が保険会社に請求する。しかし、保険料は、売主が払って、この保険料は結局売買契約代金に織り込まれてくるのですが、保険は、売主が買主のためにつける形をとります。

こういうパターンは、ほかにもいろいろありまして、倉庫の保険であれば、例えば、倉庫業者が荷主のためにつけるとか、そういう形で、他人のために保険をつける形があります。

全く関係ない人が、ほかの人のためにお金を払ってあげるということはありませんので、そこには何か別の経済関係あって、こうした取引が行われるわけですが、こうした他人のためにする保険契約も法律上有効です。ただ、保険金がもらえるのは、損害を被った方になるという形です。あとは、パターンAと一緒です。

3番目は、他人に対するため保険契約で、前のBパターンのバリエーションなのですが、加害者になりえる関係の人が、保険契約を被害者のためにつけるという方式です。これは、賠償責任保険と少し似ていて違うのですが、あくまで保険を利用できるのは被害者です。被害者が保険金を請求して保険金をもらう。しかし、その保険の保険料を、加害者側が払っておくものです。

例えば、運送業者とか、国内のトラック業者が荷物の運送をするときに、荷主のために保険をつける。そうすると、言ってみると、賠償責任の代わりみたいなものですが、荷主はその保険を使って保険会社からすぐお金がもらえるという形です。

そこで、今度、保険会社は、保険法上で請求代位の行使等が出てくるのですが、そこでいろいろなアレンジがありまして、保険料を負担した運送業者に対する請求権については代位を放棄するという特約をつけたりします。

そうすると、このCの図で見ていただきますと、被害者はお金をもらえる、保険会社に権利は移転するのですが、加害者である、つまり、この加害者等が保険契約を締結しているのですが、それに対して保険会社は、代位権を行使しませんという形になるので、加害者としては、自分は訴えられないで済むという形になります。

ただ、自分以外の人が不法行為による損害を起こしたような加害者がいる場合には、それに対しては、請求権は行使してかまわないという特約もあります。ですので、このパターンCは、他人のために対する保険契約ですが、次の方式である賠償責任保険契約に少し似ている形なります。

次の14ページのスライドが、加害者のための賠償責任方式になります。これは、加害者が自分のために保険をつけるというもので、この保険は、損害賠償請求を負った者に対して保険金を払ってもらうと方式で、あくまで加害者のための保険です。

保険金は、加害者となる被保険者に支払われますが、その反射的な効果として、被害者の救済にお金が回されます。加害者のために保険会社は示談交渉するという形になりますので、加害者に責任があるときにしか、保険会社は、示談交渉はできません。そして、保険会社は、あくまで加害者の立場で動きますので、できるだけ加害者の立場に立って被害者と交渉する。当然、解決までには時間がかかるということになります。

時間が押してしまって申し訳ございません、次の15ページになりますが、この賠償責任保険は、加害者が負担する損害賠償責任を補償する加害者のための保険ですので、防御機能として、いわれのない請求とか、過大な請求に対して、加害者を保護するという機能もあります。そして、その反射的な効果として、保険金が被害者の救済に充てられるということになります。

この賠償責任保険でも、保険事故と損害の認識について、いくつかの方式がありまして、加害者が賠償金を払った段階で初めて損害が生じたとして、それを填補する方式から、損害賠償が判決・示談で確定したときに、損害の発生を認識して保険金を発動される方式。さらに進んで、請求がなされた段階で、一旦は保険事故が生じたとして、そして、賠償責任が確定した段階で、損害額が確定して払う方式など、いろいろな方式がありまして、これは賠償責任保険の種類によっても異なっています。

それでは、次の16ページなのですが、これは、素人である私が中途半端な説明をして申し訳ないのですが、消費者が被害者になる場合を考えますと、損害賠償請求は、自賠法などの特別法がない場合に、損害賠償の請求のハードルは非常に高い。当然ながら、過失の立証、損害、自分の損害の立証ですら簡単ではありませんし、さらに、因果関係、いろいろな立証は非常に困難です。

また、自分に過失があれば、過失相殺というものも適用される場合があります。そして、請求のためのハードルは、ノウハウ、時間・費用、非常に大変ですし面倒です。どうしてよいか困惑してしまう、そういうことが本質的に存在するのでないかと思っています。

そして、賠償責任保険はどうなのかと見ましても、これは加害者を守るための保険になっていて、賠償責任保険は、紛争の法的解決を前提としています。あくまでも法的な損害賠償というものを前提にした制度設計になっていることになります。

今、ドイツなどで広がっている保険として、権利保護保険というのがあるのですが、これは、被害者が自分の権利を実現するために支援するもので、リーガルエイドのようなものを、保険制度で利用する方式が広がってきているもので、解雇だとか、セクハラだとか、会社を訴えるとか、こういうものに使われています。個人とかが大きな主体に対して訴えるのは非常に大変で、例えば、会社のパワハラを訴えようと思っても、どうしても泣き寝入りしてしまうと。こういうときに、この権利保護保険を使うという方式が利用されたりしています。

次に、17ページになりますが、現代の取引は、ますます複雑化していますし、高齢者がどんどんこれから増えていく、日本の場合にも急速に進んでいるわけですが、一方、契約条項も非常に複雑になっている。

しかしながら、取引は非常に簡便になってきて、ワンクリックでもって重大な結果になってしまう。利便性が上がれば上がるほど、リスクは増大してしまう。そして、契約締結に焦らせられてしまうというものもある。そして、何かあっても相手方の特定などが非常に困難。真の加害者が分からない。外国の業者である場合もあるし、原因の特定もほとんどできない。取引はブラックボックス化して、過失の立証、因果関係の立証なども難しい。自分の損害を認識するのは、かなり時間がたってからと、1年、2年、3年たってから損害に気がつくということなどもある。そういう点があるのではないかと思います。

次のページの18になりますが、では、それに対してどういう保険ができるのかといったときに、保険をつくろうと思った場合には、まず、保険料が算定できないといけません。そうすると、過去に統計がないと難しい面がある。そして、保険料を算定するためには、何を事故にして、何を免責にするか、誰のどういう種類の損害を対象にするのか、財産価値なのか、期待利益なのか、余分な費用なのか、どういうものを損害にするのか、そして、それをどのように評価するのか。これは、一定のパターン化でいいと思うのですが、そういうことをしないと保険料が算定できないということになります。

次に、19ページになりますが、ここにマスリスクということを書きましたが、一定の予測ができないとなかなか厳しいという面がありますが、極めて予測が難しいもの、例えば、大規模災害のような損害が出てきたときにどうするかといったときに、そこは再保険とか、政府のいろいろな力を利用するという方式などもありえるのではないかなと思います。

それで、次のスライド、20ページになりますけれども、保険の場合には、加害者が行ったいろいろな事象、それから、それ以外の事象、こういうものが複合的に損害を生じさせて、被害者にもいろいろな種類の損害がでてきますので、何を保険事故にするか、何を損害として評価するか、こういう辺りを決めておく必要があるということになります。

次の21ページですが、それでは、この保険料をどうやって算出していくのか。この中ではリスクに応じた保険料というのがありまして、自賠責保険は強制保険なので、車種ごとに決めてまいりますが、一律になっていて、事故率が高い人も低い人も全部同じ保険料にしているのですが、リスクが高い人には高い保険料というやり方が一般的です。

その中では、年齢とか性別、いろいろな要素を反映させるというものがありまして、こういったものを利用するとメリットとしては、逆選択、リスクの高い人が、より保険に入ってしまうことを避けることができるという点があります。デメリットは、正確に何が重要な要素かをなかなか判定できないということや、リスクの高い人は保険に入れなくなってしまうということがございます。

次の22ページになりますが、消費者の損害に対する保険制度を考えていった場合には、まずは、入り口としては、加害者の賠償責任を補償する保険がいいのか、被害者の損害をダイレクトに補償する保険のほうがいいのか、そのどちらがいいのかという点があると思います。

そして、その保険料を誰が負担するのがいいのかという点では、消費者が負担するのがいいのか、あるいは取引から利益を得る業者が負担するのがいいのかということがありまして、そして、保険料の算出をどういう形でやるのか、そして、モラルハザード等、利得禁止等も考えていかなくてはいけないということがあるかと思います。

その次の23ページに行きますが、その辺りをいろいろ考えますと、個人的に考えると、賠償保険方式は、損害賠償のプロセスを伴いますので、時間とコストが非常にかかるし、過失割合等も適用されてしまう場合もあります。

救済面を見た場合には、被害者が直接保険で補償される方式が、利点があるということがあります。

ただ、取引の実態はいろいろ異なっていますので、業種によって幾つかの制度に分けて保険料率も異なるものにするとか、一番消費者取引で保護が重要と考える領域に限定して、保険制度を導入するとか、例えば、ネット取引に限定して行うとか、こういうやり方はあり得ます。

それから、保険コストの負担者をどうするかということがありますが、消費者が負担するというよりは、取引によって利益を得ている取引業者がコストを負担して、消費者のための保険をつける、これは、まさにパターンのBとか、パターンのCなのですが、取引業者がコストを負担して、被害者がその保険を利用するというやり方はあり得ると思います。

取引業者に対する請求権代位は、故意の場合を除いては行わないとすることで、取引業者が保険に入りやすくするというやり方はあるかと思います。

結局こういう方式の保険料は、広く取引価格に転嫁されることにはなっていくわけですが、このメリットとしては、取引業者のリスク度によって、保険料を高くするとか、安くするとか、非常に事故が多い業者の保険料を高くすることができるという点があります。

この副次的な効果としては、データが集積していきますので、どういう場合に事故が多いかとか、集積データを得られて、保険料率に反映させることができます。

さらに、よくない業者とかが出てくれば、それを開示していくとか、そういうこともできるということがあるかと思います。

最後のページ、24になりますけれども、こういう保険制度を考えた場合に、政府だけで全部やるとなると非常にコストがかかりますので、民間と政府の協力した仕組みが一番望ましいと思います。

民間としては、いろいろな取引のノウハウとか技術があり、そして、事務処理は民間に任せる。そして、政府は強制力であるとか、公平な取扱い、データの一元管理、それから、大きなサイバーリスクなどのリスクを負担するとか、更に保険会社に対するモニタリングや、問題がある場合に行政処分を行っていくという形でコントロールするやり方があるかと思います。

最後に、参考の例として記載したのですが、インターネットの詐欺保険というものを最近知りまして、中国では、そのような保険があることを知りました。日本ではないのでないかと思うのですが、詐欺に遭った場合に対応する民間の保険ですが、そのような例があることを記しました。これは、こういうものを導入したいという意見で書いたものではございません。

あと、政府と民間の協業として、イギリスの制度などもいろいろあるということで、少し最後に触れました。

申し訳ありません、時間を超過してしまいまして、雑駁な話で恐縮です。どうもありがとうございました。

○沖野座長 中出先生、ありがとうございました。

それでは、中出教授の御発表内容を踏まえまして、質疑応答、意見交換をしていきたいと思います。

御発言のある方は、会場におかれましては挙手で、オンラインの方はチャットでお知らせいただきたいと思います。

では、二之宮委員、お願いします。

○二之宮委員 二之宮です。御説明ありがとうございました。

私の知る限り、消費者問題を検討する審議会だとか検討会で、保険制度を正面からテーマとして取り上げたのはなかったのではないかと思います。

それで、今日のお話、資料も含めて非常に新鮮で、いろいろヒントがあるなと、なぜ、この視点で今まで考えなかったのだろうというところで、大変勉強になりました。ありがとうございました。

被害相談を受けて、その救済に取り組んでいる弁護士としては、相手がどこの誰かが分かって、かつ交渉もできるという、言ってみれば中間層に対しては、ドイツで発達しているような権利保護保険というものが有用だと思います。

我々が一番頭を悩ましているのが、最初から詐欺的な取引を行う、市場でも同じ事業を続ける意思がない、稼げるだけ稼いで、業態、形を変えてしまうという極悪層と言われているところを相手にする場合に、相手の特定が難しい、どこの誰かが分からないというところで、いつも悩んでおります。

本店の所在地だとか、レンタルオフィスだとか、あるいは口座や電話番号なども、倒産した会社だとか、休眠会社を闇バイトで売却させて、本当に形だけ、だから登記上の形式的な名義人を相手にしても被害回復ができない、実質的な主体というのは表に出てこないので、形を変えて、また同じ手口を繰り返すというのがどんどん続いています。

そのため、行政処分だとか、刑事罰で対応するしかないと思うのですが、被害回復に関しましては、今日、先生のお話を聞きまして、補償制度による保険の設計というのが非常に有用だなと思いました。

現在、極悪層の詐欺的な取引の入り口は、ほとんどがネット上の広告表示にありますので、そこを考えると、まず、違法、問題のある広告表示をしているプラットフォームとかの媒体は、まず、自らの責任として問題のある広告表示の削除義務というものを明確にした上で、残存している問題のある広告表示により発生した消費者の被害回復として、プラットフォームなどの広告の掲示、その収入に対するコストとして補償制度の保険料を掲示媒体が負担するというのが、1つ考えられないかと思いました。

実際、現在もある程度のプラットフォーム事業者の中には届いた商品が偽物だったり、壊れていたり、そういう場合には、返金に応じるという保険類似の取組というものを行っているところもあるのですが、現在、そこでの問題点、課題というのは、その基準というものが開示されていないので、実際どういう場合にどれだけ返金されるのかというのが、申入れをしてみないと分からないし、なぜ、それがその金額しか返ってこないのかというところも、どういう基準になっているのか、どう当てはめられているのかが分からない。これは、運用が始まった段階だからなのかも分かりません。

そうした中で、今日のお話を聞いていて、先ほどの手続、民事訴訟のところでも同じように思ったのですけれども、既に発達している自動車保険の制度というのは、非常に参考になるのではないかと。

プラットフォーム上での事業者に、ミニマムの返金基準という、自賠責みたいなもので返金基準を明確にした上で、これだけの返金は、こういう場合には応じると、そこは明らかにしておいた上で、さらに補償を上積みするというときには、例えば消費者の方で上積み分を負担して任意保険のような形でという仕組みを設ける、また、返金件数が増える、あるいは消費者からのクレームが増える、消費者センターでの申入れが増えるということによって、自動車保険の等級のように負担率を変えていくという形によって設計できるのではないかと思って聞いておりました。今のような仕組みを考えるとしたときに、まず、どういったところが課題になりそうなのか、あるいはどういったところをクリアすれば、実際に可能性が見えてくるのか、その辺について、お気づきの点があれば教えてください。

○中出教授 どうもありがとうございます。二之宮委員、ありがとうございます。

まさに消費者の局面で、今まで賠償のいろいろな話がある中で、保険という制度も議論するのは、今回初めてなのかなと私も思いまして、そのような点に着目していただいて、本当にすばらしいなと思って大変うれしく思います。

今、お話をいただいたように、悪意ある人たちから賠償金を取ってくるというのは非常に難しいわけですね。

ところが、ネットのプラットフォームは、その人たちも利用し、ある面ではプラットフォーマーは利益を得ているわけで、今の話でいうと、例えばプラットフォーマーとかが保険契約者になって保険料を負担する。被害を受けた人は、そこからお金を回収する。そして何かあれば、保険会社が最終的な代位求償をして、悪い人に対する対応を行うわけですけれども、そこが回収できるかどうかは分からない。ただ、そこは保険料に反映させていくので、このプラットフォーマーAでは、しょっちゅうそういう事故があるとなると、そこの保険料を高くしますよとなっていく。そのプラットフォーマーは、スクリーニングを厳しくしなくてはいけないとなってくるので、プラットフォーマーが自分の保険料を上げないためにも、もっとちゃんとしたスクリーニングをしなくてはいけないことになってくるので、保険料が上がることのメカニズムを使って、スクリーニング強化をさせるという経済的な仕組みを織り込むということが可能になってくるかなと思いました。

今の自賠責保険の場合には、政府の救済制度として、加害者が見つからないとか、保険制度を使えない場合などもあるので、そういう場合にも別枠として救済ができるようにしましょうというのがありますが、ただ、自動車のほうは、あくまで賠償を前提にしているので、過失責任を転換したような賠償義務の制度をつくって、賠償責任に保険を使いましたが、今日、私がお話ししたのは、むしろ最初からダイレクトに消費者に対して救済をしてしまって、その後は、保険会社とか政府とかが、民事とか刑事でもって相手加害者に対応していく方式です。そして、そのコスト負担は、取引から利益を得ているプラットフォーマーとか、そういう取引業者に課していくというのがいいのかなと思います。

今、御質問の中で、何が課題になるかといったときに、具体的に保険金として払うのは、何を払うのがいいのかという制度設計をしなくてはいけないと思うので、取引価格を全部払ってしまうというのがいいのか、そうすると、モラルハザードの問題があるので、少なくとも取引価格の2割は自己負担してくださいとするのかとか、そういうことは決めなくてはいけませんけれども、その辺りを決めていけば可能かなと思います。

ただ、限度額がありますので、この取引で何十億円の損失があるとか、金融取引とか、土地取引とか、規模が大きいものは全く世界が違ってくるので、インターネットなどであれば、インターネットで取引できるような領域のもので設定していき、それ以外の不動産取引とか、高額の取引は、また別の保険で設定するとか、業種によって少し変えていくことが必要で、全部同じ制度でカバーするのは難しいかなという気はいたします。

○二之宮委員 ありがとうございます。

自賠責保険と任意保険の例を出したのは、2段構成にしてというところで、やはり補償型というのが消費者問題、特にネット型のときには必要で、賠償型というのは、なかなか難しいと思います。

ただ、補償型をネット取引で、なおかつ、被害金取引金額を全額というのを、品物が届かないとか、広告のものと全く違う偽物だったとか見ればわかる分かりやすいのは組めると思うのです。

このような仕組みが導入されたら、非常に有用だと思うのが、越境型の海外の販売業者を相手にするときには、消費者は泣き寝入りをするしかないところをカバーできるのは大きいかなと思って聞いておりました。どうもありがとうございました。

○中出教授 たしか越境型は、私自身もネットでイギリスの本を注文して苦労したことがありますけれども、今の取引では、知らないうちに、ほかの国のサイトに飛んでいってしまっているというもの、あるいは旅行などでもシンガポールの業者になっていたりとかで、結構いろいろな問題などもあるかなと思うので、日本でビジネスをする業者が保険料を負担するという方式にメリットはあるように思います。

○沖野座長 ありがとうございます。

河島委員、加毛委員の順で御発言いただきたいと思います。河島委員、お時間との関係で大丈夫でしょうか、お願いします。

○河島委員 ありがとうございます。

とても分かりやすい御説明、ありがとうございました。大変勉強になりました。

主に2点、質問をさせていただきます。

1点目は、情報共有に関わる質問です。スライド7にあるように、大量処理することによって社会全体で見たときの処理コストの軽減が図られます。自動車保険や傷害保険では保険金請求歴情報交換制度、あるいは生命保険会社でも共同で情報共有していると思うのですけれども、部分的にせよ何か消費者保護に役に立つような保険業界の情報共有として、何か実践されていることはあるのでしょうか。またスライド24にあるような、保険業界と政府との連携が消費者問題に関わることですでに情報共有されていることがあれば、そのことについてもお伺いできれば幸いです。

2点目の質問としましては、テロリスクやサイバーリスクといった大規模リスクへの対応で、日本の消費者向け保険制度が取り入れるべき点として、どういったことがあるのだろうかという質問です。お教えいただければと思います。

○中出教授 ありがとうございます。

まず、1点目の大量にやることで、そもそも処理コストが減るといった中では、そもそも1件1件トラブルを、例えば弁護士が入っていろいろ解決するとなれば、当然弁護士コストがかかってきますし、意味あるアドバイスであれば、一定程度のお金もかけなくてはいけないとなりますが、そういうものは省けるといった面での取引コストが下がるということや、全体での統計データを整備する中で、こういうものの事故が多いということで、改善に向け結びつけていけることがあると思います。

ただ、実際に消費者分野でどういうものがあるかと見てみたときに、今の損害保険で見ますと、火災保険とか自動車保険とかが中心ですので、自動車だとか、いろいろ火災などは、こういう犯罪が多いとか、そういうデータをいろいろ社会にも還元などをしたりしているのですけれども、その先の、いわゆる一般消費者取引に対する保険制度というのは今ないので、そういったデータが集まっていないということはあります。

ですから、これは将来、そういうのができてくると、その取引のデータが集まってくるのではないかという意見です。

2番目の大規模と言ったところで、少し質問をうまく理解できなかったのですが、大規模サイバーとかそういった点について、もう一回質問を教えていただけますでしょうか、すみません。

○河島委員 おっしゃる通りテロやサイバー攻撃は、大規模になる場合があることを想定しなければなりませんが、そこで述べられた仕組みを、消費者向けに応用する場合、どういったことが考えられるのでしょうか、もしくは消費者向けには応用できないのでしょうか。こういったことをお教えていただければと思いました。

○中出教授 私は、これは、民間の力だけでは無理だと思います。大きなサイバーリスクになると、戦争リスクにもかなり近いような、ほかの国から敵対的なサイバーアタックがなされて、いろいろな取引が麻痺していく。

実際には、それによって消費者が多額のお金を失ってしまうことが出てくる可能性があります。そのときに、民間ベースの保険制度でやろうとしたら、そういうリスクも考えると保険料がすごく大きくなってしまうのです。

そこで、そこは政府が再保険をするというやり方しかないかなというのが私の考えで、これは地震保険とかで例があります。地震保険は最大リスクの99.7パーセントぐらいまで、最終的には巨大リスクは政府の財源でカバーする方式になっていまして、支払処理は全部民間が行うのですが、大きなリスクは政府が行うということで、保険料を安くすることができています。

例えば、全体で100億円を超えるとか、1000億円を超えるような被害になってくるとか、あるいはもっと何千億円となるような場合には、政府の救済を使うという形にして、財源は考える必要がございますけれども、そういうことによって、そういう場合でも救済されるのですよとなれば、より安心が高まるという点もあります。

もちろん、そのような場合は、業者側も自分のせいではないから賠償に応じられませんといってくることがあるのですけれども、そうすると、結局消費者は、泣き寝入りになってしまって、こういう大規模サイバーだからしようがないのですよと言われてしまう。そうすると、ネット取引には慎重になってしまうという面も出てくるかもしれないので、むしろDXとか、いろいろなものを推進していこうと思えば、ビヨンド・コントロールの大きなことは再保険というものを使ってリスクを消化するという手はあり得ます。ただし、これは政府の力がないと難しいかなと思います。

○河島委員 かしこまりました。とても勉強になりました。ありがとうございます。

○沖野座長 ありがとうございます。

それでは、加毛委員、お願いします。

○加毛委員 東京大学の加毛と申します。中出先生、本日は大変詳細かつ分かりやすい御報告をありがとうございました。

保険制度の利用は、消費者問題の文脈では、これまで主たる検討対象として取り上げられてこなかったのかもしれませんが、他方で、企業の事業活動一般については、リスク管理の観点から保険が広く利用されていると思います。また、外国に目を向けると、事業者に対する規制において、事業者が消費者に対して負う損害賠償責任に関して、責任保険への加入を義務付けるという仕組みが取られることもあります。保険制度の利用は、少なくとも一定の場面では有効なのだろうと思います。

その上で、2点の関連するご質問を差し上げます。第1に、23ページにおいて、「保険のコスト負担者」として、「取引業者がコストを負担して利用者を補償する方式が考えられる」とのご指摘がありますが、保険料を支払う主体が消費者であるのか、それとも事業者であるのかという点は、制度設計する際に、非常に重要なポイントであると思います。ここで挙げられているパターンCによれば、事業者が保険料を支払う保険契約者となることが想定されていると思うのですが、やはり事業者が保険契約を締結するといった仕組みのほうが実効性が高いからと理解して良いでしょうか。

二之宮委員が、プラットフォーマーの広告の事例を挙げてくださいましたけれども、そこでは、広告を掲載している事業者が、広告によって消費者に損害が生じた場合に、損害賠償責任を負うという実体的な規律を前提として、保険を付すことが想定されているのではないかと思います。ただ、広告の掲載を理由として損害賠償義務を負うことと、消費者に対する詐欺的な働いかけを行ったことを理由として損害賠償義務を負うこととは、別個の考慮を要するように思います。保険の利用を考える場合には、経済合理的に行動する事業者を想定することになりますが、そのような事業者に対して、法律によって付保を強制するとか、あるいはそこまでいかなくとも、実体法上、事業者が広告掲載による損害賠償責任を負うという実体法の規律が確立していれば、合理的な事業者は保険に加入することになるという形で、保険の利用を実効的なものとすることが考えられるでしょうか。

この点に関連するのが、25ページの最後のところで挙げられている中国の保険の例です。これは、消費者が自ら加入するタイプの保険であると理解しましたが、このような民間の保険が中国で存在している理由が問題となります。事業者に保険契約の締結を義務づけたり、契約締結を促したりするのではなく、消費者が保険契約を締結するような仕組みが中国では必要である、有効であると考えられているのでしょうか。この点も、保険契約を締結する主体が、消費者なのか、事業者なのかにかかわる問題であり、先生のお考えをお聞かせいただければと思います。

第2に、第1の点にも関わるのですが、ご報告のなかでお示しいただいた、パターンAからパターンDのうち、特にパターンAとパターンCとでは、保険会社に支払われるべき保険料の総額は、かなり変わってくるのでしょうか。パターンCでは、保険会社は、加害者である保険契約者との関係で、請求権代位を放棄するため、自らが払う保険金に関して、加害者に責任追及をできないことになります。そうすると、そのような保険を引き受ける上で、保険会社が保険料として徴取すべき金額が高くなるように思われるのですが、そのような理解でよろしいのかということをお尋ねしたく思いました。

この点に関連して、ここでも二之宮委員が挙げられた事例を念頭に置くと、パターンCによる場合、第三者との関係では、契約上、請求権代位ができることになりますが、加害者が悪徳事業者であると、事実上、請求権代位を行うことが難しい場合も考えられると思います。仮にそうだとする、結局、保険会社としては、損害を発生させた悪徳事業者に対しても、請求権代位をすることができないことになり、その点が保険料の金額にも影響するのではないかと思われるのですが、そのような理解が正しいのかご教授いただければと思います。

また、二之宮委員の事例に関しては、広告を掲載するプラットフォーマーが保険料を取引価格に転嫁する、消費者に負担させるのが難しい場合もあるような気もいたします。そのような場合について保険制度による対処を考える場合に、障害となる事情があるのかにつきましても、もしお考えがあれば、お教えいただければと思います。

まとまりの質問を差し上げて申し訳ありません。私の誤解のために、おかしな質問をしているようにも思いますので、その点の訂正も含めて、お教えいただければと思います。よろしくお願いいたします。

○中出教授 ありがとうございます。とても重要な点をいろいろお聞きいただき、大変ありがたく思います。

最初に、まずお話しいただいた賠償者と被害者がある、この賠償義務を強化することによって、これがうまく機能するかどうかという辺り、実効性を考えていったときに、保険の話と義務の話がどうリンクしていくかというお話ではないかと思いました。

保険と賠償義務のところは、必ずしもリンクさせなくても可能と思います。プラットフォーマーの賠償義務は非常に強化し、そうしたら、賠償保険に入らなくてはいけないねという形で保険に入っていくことも考えられます。

しかし、第三者のための保険というスキームを使った場合には、プラットフォーマーの賠償義務自身は別に変えなくても、保険料のコストとして負担していくということになり、損害賠償の義務があるかどうかにかかわらず保険料の負担がかされる。例えば、今たまたまプラットフォーマーといいましたが、悪者にしているわけではないのですが、1つの例として、プラットフォーマーがいろいろ責任を負っている場合、責任を負っていない場合、いろいろあるかもしれませんが、そこでの取引を利用して損害が生じたら、それは保険でカバーしましょう、そこにまず保険の制度があって、その先に誰が悪いかどうかは、後でじっくりと保険会社と業者がやればよくて、求償によって回収ができれば、その分、保険料は下がってくるということになります。

ただ、保険の設計については、別に賠償義務等を強化する話と、この話を切り分けることができますので、パターンBとかCの場合、すなわち、A、B、Cの場合には、損害賠償責任の制度自身は変えなくても関係ないということになります。

ただ、パターンDの場合には、賠償義務を強化しないと、消費者はなかなか救済されないことになります。特に現在の取引は非常に複雑化して、被害者がいろいろなものを立証していくのは、かなりハードルが高いので、パターンDの賠償責任のスキームでやっていくと、なかなか消費者保護は得られないのではないかという気がします。

それから、AとDとCと保険料の総額はどう変わってくるかというのは、これはかなり難しいので、一概に簡単には議論ができないのですが、パターンBとかCの場合には、被害者の救済をダイレクトに行い、その後に損害賠償して回収を得るという形ですので、悪い業者などはいなくなってしまうかもしれませんし、回収できない金額は保険のコストに入ってしまいます。

しかしながら、その場合には、保険料がすごく高くなるかというと、パターンBやCでは、紛争処理コストがかからないのですね。まず、お客様にお金を払うといった点で、非常に早くお金を払えるので、そもそも損害賠償責任があるのかどうなのか、お互いが弁護士を入れて、そして、立証するためにいろいろやるというコストがかかってこないので、保険制度としては、ごく単純に被害者にお金を払う、あとは、明らかに悪い場合だけ回収すればいいという形の、1つ割り切りができるので、紛争コストを下げることができます。

しかしながら、悪い業者がどんどん増えてしまってもいけないので、そこは保険料を増やすという形でもって経済的な抑止力になるというやり方ができます。プラットフォーマー自身が、故意に悪い行為をやってしまった場合には、これは保険では免責になりますけれども、そうではない場合も、自分の取引のところを安全にするようなことをしないと、自分が負担する保険料が高くなってしまう、そういう経済効果が働くので、保険料を低減させることができるのかなと思います。

それから、質問の中の中国の保険については、消費者が自ら入るということで、あくまで自分の財産を自分で守るための保険として、民間の保険会社が開発した保険でして、これをもともと知ったのは、私のところに来ていた中国からの留学生といろいろ話をしたら、両親のために、こういう保険をつけたのだという話で、これは面白いなと思い、保険約款とか、いろいろ調べさせてもらって、日本ではなかなかない保険もあるのだなと思ったところです。

ただ、ここは重要な点かなと思うのですが、このような保険は、被害者が自分の意思で保険料を払う、自分のお金で自分を守るという保険になりますが、私が紹介したパターンBとかCは、業者に入るか入らないかを完全に任意にしてしまうのがいいのかが論点になります。うちのプラットフォームを使ってもらうと保険がついているので安心だから、こっちを使ってくださいねということであればいいのですけれども、やはり悪いプラット業者のところで詐欺がたくさん生じてしまうということが起きるとすると、やはり一定の取引をする場合には、法律でもって、業者に保険の手配を義務化させないといけないのかなという気がします。

ですので、手厚い保護は、二之宮委員からお話をいただいたように、ミニマムの部分は、何か保険制度でもって救済されて、それを超えていく部分は自分で個別に手配するとか、そういうやり方はあるのではないかなと思いました。

ほかにも、まだ質問をいろいろいただいたような気もするのですがも、すみません。

○加毛委員 全ての質問にお答えいただいたと認識しております。ありがとうございます。

最後のところで、保険契約の締結を法律上強制する場合に、どの範囲の事業者に付保義務を課すのかということは、制度設計において難しい問題なのだろうと思います。ある程度、事業の内容を類型化できて、当該事業を行う事業者に保険契約の締結義務を課すことを法制化できるのであれば、消費者保護との関係で、有力な手法になるだろうと思います。あるいは、事業者団体が適切に機能している業界であれば、事業者団体に働きかけることで、当該団体に所属する事業者に保険加入を促すという対応もあるように思われます。

なお、以上の点と区別される問題として、消費者が自ら保険に加入することも、当然考えられるところであるわけですが、日本の保険会社が、消費者個人向けの保険商品を開発してくれるのかどうかについては、お話を伺っていて少し気になった点となります。

しかし、いずれにせよ、大変ありがとうございました。

○中出教授 ありがとうございます。

1点だけ、すみません、今の御指摘の中で、自分自身の保険について、保険会社が新保険の開発してくれるかどうかといった点は、これは結構難しいのではないかと思います。これは、個人によって相当いろいろニーズに違いがありますし、逆選択とか、モラルハザードも高い。それを1件1件契約していくとなると、募集コストも大変かかり、1件の契約を締結するのに何千円かかってしまうとなると、保険料がそれだけで1万円となるなどと、あまり意味がなくなってしまいます。

ところが業者が保険に加入する方式とすれば、1つの契約ですので、100万件のいろいろなビジネスを1つの保険契約で全部カバーすることができますので、契約の締結コストがすごく小さくなります。そういう点では、自分自身が守る保険をつくるのは、若干コストがかかって難しいかもしれないので、団体の仕組みをつくって、それを強制させるか、事業者団体が、そういうものをやっていくとか、そういう方式がアプローチとしては、実効性があるのかなという気はします。

○加毛委員 ありがとうございます。

23ページについて御質問をしたかった事柄について、詳細に御説明いただいたと思いました。大変ありがとうございます。

○沖野座長 ありがとうございます。

大変興味深いことで、まだまだ御質問があると思うのですけれども、次の項目がございますのでここで区切らせていただきます。中出先生におかれましては、本当に貴重な御報告をいただきまして、ありがとうございました。

○中出教授 すみません、時間も長くなってしまい、申し訳ございません。

○沖野座長 いいえ、とんでもない、大変よく分かりましたし、また、さらに教えていただくことが出てきたようにも思います。この後も関連する議論も出てこようかと思いますので、差支えなければ、そのままおとどまりいただいて御参加いただければと存じます。

それでは、本日3件目ということで、民事訴訟法を御専門とされている山田文教授に、民事手続法の視点から御意見を伺いたいと思います。

山田教授から、消費者法分野における紛争解決方法の課題や、ADR・ODRの活用といった点について、消費者紛争解決手続のリデザインに向けてというテーマで20分程度御報告をいただいて、質疑応答、意見交換をさせていただければと思います。

それでは、山田先生、お待たせいたしました。お願いいたします。

○山田教授 ありがとうございます。京都大学の山田でございます。

それでは、御報告させていただきます。

とはいえ、パラダイム転換にはほど遠い話でして、リデザインにすぎないということでもございます。また、消費者紛争とこういうことですので、一番消費者に近いところで、ADR・ODRを中心としたお話をさせていただこうと思いまして、簡単に言いますと、仲裁的な、あるいは裁断的な手続を日本でも、もう少し利用できないかということをお話しさせていただこうと思います。

次のページをお願いいたします。

こちらは「消費者紛争解決手続のデザイン」と書いております。消費者紛争ということで、BtoCも、それからCtoBも両方含めておるところですけれども、近時のはやりといたしまして、解決手続に関しては、法的な情報収集のステージから様々な紛争解決の手続、そして、また権利実現に至るまで、その紛争管理、マネジメント全体のデザインをいかに行うのかという総合的な視点が必要で、かつ、特に消費者紛争においては真にユーザーフレンドリーな手続とするために、何が必要かを全体として考える必要があります。

一般的には、手続法として、裁判ないし裁判所の側から制度を組み立てがちでありますけれども、ADRも含めて手続利用者が増えない中で、むしろ、利用者の立場から変換すべき点があるのではないかという発想で、デザインという言葉を使っております。

こちらに掲げました幾つかのフェーズは、これは、ODR活性化検討会という日本経済再生本部で開催された会議で取りまとめられた段階的な紛争解決のフェーズです。消費者の視点から、情報収集ないし分析を行い、自分の抱えている問題が普通のトラブルなのかとか、法的な救済があり得るのかといったところから話が始まり、行政等の相談に向かっています。

ただ、相談段階では片面的な情報開示ないし助言を得るに止まり、事実上の交渉も相談担当者と事業者の間でなされるので、本人は出ていかないということを経て、調停ないし和解仲介のステージに進む場合もあります。ただ、ここでかなりちゅうちょすることが見て取れます。相談については100万件ぐらいあっても、その次の段階では、ほんの数十件となってしまうというところです。もし和解が成立すれば、そこで解決となりますけれども、そうでない場合には、仲裁を行う可能性もありつつ、ほとんど利用がありませんので、一足飛びに裁判ということになります。

裁判と申しましても、起訴前の和解や少額訴訟等様々ありますし、ここに書いておりませんけれども消費者団体訴訟もありますが、個人の目から見たときに、ここには隘路があると思われます。

次のページをお願いいたします。

以上のとおり、メインは相談と、それから当事者が対面しない、アドバーサリーではない交渉であって、調停にもなかなか進まない。制度全体としても、合意形成型の手続を中心とするというのが、従来の日本の消費者紛争手続の在り方ではないかと思われます。

このように合意形成の手続に集中させていることには、もちろん大きな意義があり、他国に比べてもアドバンテージがあるように思います。

まず、迅速な手続が可能である、あるいは柔軟であるといったことから、入り口が非常に広い、ハードルが低いということです。

特に、従来、行政が間に入るということで、行政政策の実現のための相談なり、ADRなりという側面がありましたし、事業者の側からすれば、行政による指導にあたる面があり、効果が大きかったのだろうと思います。しかし、近時交渉コストが増大してきて、これはいろいろな理由があると思うのですけれども、事業者側が任意の手続には従わなくてもよいという行動パターンの変化があったり、実体的権利として明文化された利益のみを合意対象とする側面があったり、消費者のほうも、相手方を特定することの困難等、交渉のコスト感が大きいということがあろうかと思います。

第2に、交渉力の格差もよく言われており、証拠収集とか、コスト負担力の格差について、これ自体は今でも変わっておらず相談やADRでの是正が期待されていると思いますが、他方で、デジタルプラットフォーム事業者においては、相手方事業者の特定や契約に関するやり取りのデジタル化によりまして、証拠や情報をプラットフォーム事業者が所持することが可能なります。その点で、従来のBtoCにおける偏在状況と少し構造が変わってきているとも言えるところで、プラットフォーム事業者が中心となる場面では、交渉力是正を規範的に求めることが可能にもなりつつあるということかと思います。

3番目のポツですが、実際にADRの状況を見ていますと、多くの事案で、ADRですら何かフォーマルな手続だという認識があるようであって、そこになかなか進まず、その前段階で合意成立する事案も多いようです。それ自体はおかしくはないですけれども、あまりにも手続利用へのちゅうちょが大きいのではないかが気になるわけです。

そこは、結局、交渉コストを非常に重く見ているということであって、ODR、Online Dispute Resolutionですと、テキストベースでの交渉も可能になりつつあるわけですが、それでも交渉ないし譲歩を求められると、そのための時間をかける、あるいはエネルギーをかけることを回避したいという層が一方であり、他方で、デジタル・デバイドないしは福祉的な介入が必要な層というのがあって、逆にもっと後見的に職権探知的に介入すべき層があるようです。また、デジタル・デバイドでない方であっても、ビジネスモデルの複雑化との関係では、やはりそうせざるを得ないという層も、また顕著になっているように思われまして、その意味では二分化が見えるのではないかということであります。

それから、その次のポツでは、従来、消費者紛争であれ、その解決は合理的な意思による自己決定に依拠してきたと思いますけれども、近時、その変容ないし揺らぎを前提とすべきものとされます。

さらに、デジタルツールを利用して、紛争解決システムというものが塗り変わっていくという時期において、やはり手続そのものも変わっていく必要性があるのではないかということです。

これもまた二義的なことを申し上げて大変恐縮なのですけれども、自己決定の変容ということは、確かにそうなのですが、他方で手続法においては、例えば、訴訟上の和解ですとか、調停ですとか、攻撃防御方法の釈明に見られるように、それぞれの手続において訴訟法上の効果を理解した自己決定であるのかということについては、従来も慎重に見極めることが必要だという認識がありまして、手続実施者、裁判所なり、調停委員なりによって、情報提供や確認により真の意思決定をしてもらうという考え方があります。そのような支援によって、揺らいでいる自己決定を支援していく方向性は継続して今後もあり得るのだろうと思いますし、それがデジタルツールを使って、よりスムーズにいくという方向性も一方であるのだろうと思います。

他方で、デジタルプラットフォームでの売買のように簡単なクリックで取引を進めていくという新たな取引の中では、自己決定にあまり依拠することも現実的ではなくて、そのようにクリックをしていく人でも、一定の救済が得られるという道も考えなければいけないのではないかという、両面作戦でいく必要があるのかなと思っております。

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以上のような状況で、もちろん、丁寧な手続というのは一方で必要であり、合意型の手続の充実は、さらに図る必要があるのですけれども、他方で、交渉コストとか、あるいは終局性のコストを回避して、消費者が救済を求めやすくする、要するに、簡易でラフでもよいので、迅速かつコストの低い、そして具体化された解決を求めるという層への、あえて言えば、ファストファッションとか、ファストフードの意味でのファスト化ということですけれども、そういった層が、今少し置いていかれている、あるいは潜在化してしまっていて、それらに対応する裁断的な手続も必要なのではないかと思われます。

これは、特に諸外国におけるODRの利用のされ方を見ていますと、そういう少しラフジャスティスだけれども、迅速かつ非常に手に入りやすいことから実際の紛争解決やその端緒を開くのに役立っている、その第一歩になっているとも見えるところであります。その辺りからヒントを得たところです。

そのようなことで、裁断的な手続としての消費者仲裁について、後にお話ししますようにメディエーションとの組み合わせも想定しつつ、取り入れることを検討したいと思います。ただ、その際に交渉力格差の観点から、仲裁機関については、消費者仲裁にふさわしい一定の認証ないしはトラストマークといった形でレギュレーションしていく必要性が非常に強いように思っております。

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消費者仲裁には、御案内のとおり、日本法ないし大陸法は非常に慎重な態度を取ってきたところでして、日本の仲裁法の附則の3条は、当面の間、消費者紛争、消費者仲裁については、紛争前の仲裁合意については、消費者側の解除を容易とする規定を置いており、当面の間というのが、ずっと続いているところです。

その理由は、これも御案内のとおりですけれども、交渉力等の脆弱性が消費者側にあり、また、仲裁合意が裁判を受ける権利の放棄を意味するところ、その理解を十分してもらえているかの確認が必要であると。それから、仲裁人の資格等、これは認証システムほか法律上の制限がありませんので、例えば事業者側が費用を負担して偏りのある手続になり得ることが挙げられます。

それから、仲裁ですので、訴訟手続に類似した法的攻撃防御を提出する必要がある。さらには、消費者紛争は、公益的な側面があり、消費者全体の権利保護、利益保護を仲裁の形で、言わばプライバタイゼーションしていいのかという問題があろうかと思われます。

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それはそのとおりなのですけれども、ただ他方で、レギュレーションの仕方によっては、例えば、国民生活センターや建設工事紛争審査会のように一定の法的レギュレーションのもとで、消費者仲裁等を行っているということを鑑みても、可能性はあるのではないかとも思われるところです。

レギュレーションとして、1つには、認証制度ないしトラストマーク制度を得た機関のみ消費者仲裁を扱えますという形にして、その要件として、仲裁人の質保証を制度的に担保することが考えられます。これは、例えば金融ADRの手続実施者として、消費者・事業者のバランスの取れた専門性が必要とされており、そういった例が参照されます。

それから、2番目に、仲裁は訴訟並びかということですけれども、確かに法適用がなされるのですが、他方で、弁論主義とか、処分権主義といった訴訟手続の主原則が適用されるという必然性はないわけでして、逆に消費者法のような専門的な知見に基づく仲裁人による積極的な求釈明であったり、あるいは職権で事実の調査、いわゆる職権探知ということを行って、判断の資料にも組み入れていくといった積極的な介入ということは、むしろ、当然のものとして期待されていることかなと思います。例えば、建築紛争とか、ソフトウエア紛争の解決手続に見られるように専門的な仲裁人というものの需要は、まさにそういった積極的なリード、それから事案解明に期待されているところです。

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さらに問題とされているのは仲裁人の公平・中立性というところです。機械的にBとCを平等に扱うことになりますと、いかにも消費者が負けるではないかということですけれども、機械的な平等ではなくて、格差を踏まえた実質的平等扱いをするのだということは、日本では通説化しておりますし、また、中立性というのも、手続の制度目的との関係で考えるべきであって、単なる平等(ニュートラル)ということではなくて、制度の目的適合性(交渉力格差を前提とした解決)から外れる意味での偏頗的な扱いというのはしないという解釈ができると考えられます。

また、訴権放棄の理解については、確かに慎重な判断が必要だと思われまして、対応策としては、セーフティネットをいかに組んでいくのかが重要となります。例えば、紛争発生前の仲裁合意を有効と考えるか、あるいはその要件をどうするのか、消費者紛争を扱うことのできる仲裁機関を限定的にしていくのか、それから紛争の価額を、例えば定額以下のものに限定して仲裁可能性を認めるのか。さらに、仲裁手続からの離脱を可能とする、あるいは熟考期間をおいて、その間であれば手続離脱を自由にして提訴ができるようにするといったセーフティネットはあり得るところです。他方で、仮に仲裁のような簡単な解決手続がなかった場合に、先ほど申したADRも使わないという層が、不本意に権利を放棄する、あるいは交渉で不当に低い額で交渉成立をさせてしまうと言ったような、実質的な意味で司法へのアクセスが実効的でないというリスクが発生することとの見合いで、レギュレートされた消費者仲裁を考えることができるのではないかというのが本日の私論でございます。

なお、スライド記載の昭和55年の最高裁判決は、いわゆる建設工事請負約款に含まれていた、建設工事紛争審査会での仲裁合意の有効性を認めたものですが、実際、消費者側というか、注文者側から紛争審査会への仲裁申立ては近時もなされています。これは、国内では非常に珍しいのですけれども、逆に、こういうところから、消費者は、実は仲裁を求めているとことの徴憑でもあろうかと思います。

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このような制度的なセーフティネットに加えまして、取引自体がデジタル化しているということで、その証拠資料となり得るものですとか、あるいは関連する情報については、デジタル化された上で、その共有が比較的簡単になっていく。

とりわけ、プラットフォーム上での取引が増えていく中では、プラットフォーム事業者がそういった情報を所持する、あるいは決済方法も把握しているということで、これらの事業者が紛争解決の制度を置くべきだというのは、既に法律でも規定のあるところです。その前提のもとで、プラットフォーム事業者が、例えば、ADRや仲裁をアウトソースした場合には、従来のBtoC格差とは少し違う状況が生じ得るのではないかと思います。

さらに、従来、合意形成型のADRが中心で、そのデジタル化ないしオンライン化は、一見、大変便利なことです。ただ、テキストベースでのやり取りですとか、あるいはオンラインでの話し合いとなった場合に、各種の心理学的な実験によれば、情報量が大きく減ること、それから、いわゆる共感性が弱化すると言われておりまして、ビジネスとか、BtoCで共感しなくてもいいのですけれども、しかし、その譲歩の前提としての理解というものも弱くなっていくおそれがあると考えられます。加えて、特にテキストベースなどですと、コストなく示談のためのやり取りをしていくということですので、コストがないというのはいいことなのですけれども、他方で、いつまで交渉を続けてもそんなに困らないということがありまして、早期に紛争解決をするインセンティブが減少するのではないかとも考えられます。日本では、ADRといっても個別面接方式が一般なので、各当事者が提供する情報量というのは、あまり変わらないかもしれませんけれども、やはりデジタル化によって、事業者等に対する説得がやや難しくなっていくのではないかといったことも指摘されているところです。

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他方で、仲裁はどうかと言いますと、仲裁では、デジタルのフォームがあって、自動化されたシステムに書き込みをして、整理の上その部分を紛争解決するということに非常になじみやすい手続であって、対面での交渉というものがありませんので、デジタル化による損失が少ない手続であろうと思われます。

また、取引自体あるいは紛争解決において、デジタル化の中でインフォームド・デシジョンがもし形骸化しているのだとすれば、それに代わる判断者の必要性をより正当化しやすくなるのではないかとも考えられるところです。

そうであれば、第三者たる手続実施者、これは仲裁人であったり、調停人であったりするわけですが、そういった者の介入を正当化するとともに、第四者(フォースパーティー)と言われますけれども、デジタルツールとかオンライン手続をうまく使って、同時に当事者の意思決定についても、それぞれのシーンで必要な情報を提供しきちんと真意性を確認する、手続離脱の機会や熟考契機等も与えるという形で、インフォームド・デシジョンをより豊かなものにしていくという新しいフェーズに入っていくのではなかろうかと思います。

ただ、ナッジとか、そういったことも容易にできてしまうので、その留意が必要ということにはなります。

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このように、迅速な仲裁は消費者紛争にも有用ではないかと思われるのですけれども、さらに、少し応用的なものとして、メディエーション・アビトレーションという手続がよく使われており、消費者紛争にも有用ではないかと思われます。

メディエーション・アビトレーション(Med-Arb)は、先に調停を行って調停のいいところを生かしつつ、その脆弱性、すなわち合意が成立するかどうか分からない、あるいは交渉格差があり得るということをカバーするために、原則としては、同一の調停人が仲裁人として判断をするというものです。渉外要素のある売買契約等の多重紛争解決条項として、よく用いられているものであります。

事業者側も、調停による合意という形で紛争解決をすると、社内で説明しにくいので、仲裁判断という形で終わらせるメリットがあり、このMed-Arbのニーズがあると言われております。

ただ、手続的な問題としては、調停人と仲裁人が同一であると、調停で得た情報を仲裁の判断の資料とするおそれがありますし、他方で、調停で忌憚のない話し合いは、後に仲裁が控えているため怖くてできないという問題も生じ得るところです。

また、調停人は、実体的な評価・判断をするべきではなく、判断者は和解仲介をすべきでないという法文化の国も多々あるわけでして、上記の点は私も基本的には問題だろうと思いますけれども、例えば、手続実施者を交代させるとか、仲裁判断資料と調停の資料は違うという切り分け、これは日本の訴訟上の和解でなされるようですが、そのような形での対応は可能かと思います。

このMed-Arbが使いやすいのではないかというのは、1つは、最初に調停がなされるので手続に入りやすいだろうということと、それから調停期間に仲裁について熟慮して、先ほどの訴権放棄という大きな効果について慎重に検討してもらうことも可能になるだろうと。それは、オンラインで、とんとんとボタンを押すことで進む手続であっても、このような期間を置くことで慎重を期することができるのではないかと思うところであります。

次のページをお願いします。

このような、いわゆるハイブリッドの手続というのは、Med-Arbのほかにも、2番目のポツですけれども、例えば、調停人が和解案を提示して、一定期間経過して、何も異議を言わなければ、その和解が成立したものとするという手続的な合意をするといった、言わばメタ合意をするということも考えられます。これは、日本法的には、いわゆる調停に代わる決定に類似をするのですけれども、これは合意でやろうというものも考えられるところです。

また、3番目の特別調停案制度、金融ADRで使われているような、調停案を出されて、消費者側のみは、その受入れ拒否ができるのだけれども、金融機関は、これは受け入れなければならないといった片面的な仲裁も考えられます。

ただ、金融機関側が提訴すると調停案の受入れを免除するという形で裁判を受ける権利が保障されているのですが、他方で、その場合には消費者が被告となり、かつ、証明責任はそのまま負うことになりますので、諸刃の問題というのはあろうかと思われます。

このような様々の選択肢があるところ、これらの組み合わせも含め、裁断的な紛争解決を取り入れるべきではないかということでございます。

すみません、最後に次のページをお願いします。

課題ということですが、非常に抽象的ですけれども、消費者像の変容に合わせて、合意形成型の手続との関係で二分化する消費者に合わせた解決方法を可能としつつ、しかし、全体の有機的関連を利用者に感得してもらえるようなユーザーフレンドリーなデザインをしていく必要性があるだろうと思います。

また、従来、例えば紛争の価額が小さくても法的に複雑な問題が含まれることは大いにあり得るので、そこを区別してこなかったわけですけれども、そこは思い切って割り切りをしてODRを活用し、広義の司法アクセスを拡げる、あるいは仲裁のような裁断的な手続を用意する、これはカナダなどでも実施されているところですけれども、そのようなことを考える余地があろうかと思います。他方で、それらが不調となり訴訟手続が開始されれば、手厚い手続保障するといった、めり張りのある手続デザインということです。従来、少額訴訟等のかたちで議論されてきたことなのですが。

大変雑駁で、夢を語っただけということではございますけれども、いろいろと御教示をいただければ幸いです。

御清聴どうもありがとうございました。

○沖野座長 ありがとうございました。

それでは、山田先生の御発表内容を踏まえまして、質疑応答、意見交換をしていきたいと思います。

御発言のある方は、これまでと同様、会場においては挙手で、オンラインの方はチャットでお知らせいただきたいと思います。いかがでしょうか。

二之宮委員、お願いします。

○二之宮委員 二之宮です。御説明ありがとうございました。

ちょっと私が聞き漏らしたのかも分からないのですが、3枚目に「合意による解決に集中させていることの意義」というところの4ポツのところ、交渉コストの回避で、ODRですら二分化していると、その下に、合理的意思による自己決定への依拠、それが変容してきているというここの2文について、もう一度教えていただきたいのですが、ODRでも二分化している一番の理由といいますか、原因が何なのかというのが1つ。

もう一点は、この専門調査会の前半戦で自己決定モデルを現代社会では変容させる必要があるということを議論していました。除去モデルから、現代社会が他者との適切な関係性、サポートにより納得のできる決定の保障、選択の自主性を保障すべきだという議論をしていました。

先ほどの合理的意思による自己決定への依拠、これが変容してきている揺らぎを前提として、プラス、デジタルツールを利用した紛争解決システムのリデザインというところが書いてあります。

合理的意思決定というものについて、他者との適切な関係によって初めてできるのだ、成り立つのだということ、前半戦の議論を踏まえますと、それを、デジタルツールを利用することによってサポートすることを念頭に置かれているのか、あるいはそれが可能なのか、デジタルツールによって、どういう形で個人の意思決定を補助することができるのかというところについて、言及されているのであれば、もう少し詳しく教えていただければと思います。よろしくお願いします。

○山田教授 二之宮委員、御質問ありがとうございます。

この辺りは、確かに非常に二義的なことを申し上げておりまして、説明が不十分で申し訳ありません。

まず、交渉コストの回避のところですけれども、このODRですら利用回避をする層というのが1グループということになります。

ODRの推進は、この何年間か、法務省も一生懸命旗を振ってやっているのですけれども、なかなか進んでいかないところがありまして、これは自分のクレームを一方的に述べるということ自体は、そんなに問題はないというか、デジタル化によって促進されるのだろうと思うのですけれども、そこから先、相手方との間で、いかにそのすり合わせをして、どこかで解決を見いだしていくのかという、この譲歩のフェーズというのは、かなり技術も要りますし、能力も要る、コストもかかるものだと思うのですけれども、そこを回避する層が一方であって、なかなか利用が進まないところがあるのだろうと思います。

他方で、後見的・職権探知的な介入が必要な層というのは、これは従来もあるところ、さらに複雑化する社会において、一層取り残されそうな層というのがあって、これは老齢かどうかという、そういう特性でもって区切るというよりは、対象としている取引の複雑性ですとか、あるいは事業者が規制ぎりぎりのところのグレーなビジネスモデルを持っているのかとか、そういったことにもよってくるのだろうと思いますので、そういう意味で、一般的な意味での交渉コストの回避というのは、むしろ前者に妥当するものだろうと思います。後者においては、そもそも交渉コストは非常に重いと思いますが、その質が少し違う人たちを対象にしなくてはいけないのではないかということであります。

それから、最後のポツのところです。

おっしゃったように、この自己決定ないし自由な意思による私的自治が今後どうなっていくのかというのは、私もよく分からないところはあるのですが、合理的な意思、合理的というのも今やクォーテーションマークつきかと思いますけれども、意思の真意性についてのデジタルツールでの助力としましては、例えば、離婚して共同親権のもとで面会交流の合意をしなくてはいけない。その2人の間の調整をするアプリケーションがありまして、ここでは、少し攻撃的なことをアプリに書いてしまうと、そのアプリがもう少し柔らかい言葉で返しましょうと、こういう言い方をしたらどうですかという示唆を与えてくれて、それによってあまりけんかをせずに、その相手方、元配偶者との調整をやっていける、あるいは交渉がスタックしたときにも、和解のためのヒントを出してもらえるといったツールというのは、既に実用されているようであります。日本でも使っている事業者はあるようなのですけれども、1つには、そういう例があります。

他方では、ろくに約款の中身を読まずに何かに合意することは、私などもよくあることなのですけれども、紛争解決に関しても、いきなり仲裁に行かないで、最初にメディエーションの手続を置くことで、少し立ちどまって考えなければいけないという場面を敢えてデジタルでつくって、そこで少しためを作って熟慮をしてもらう。その際、デジタルツールからの先例の紹介やアシストですとか、そういったものを得て、少しまた考え直すといったこともできるようにはなっております。

恐らく、探せばもっともっと例はあるのだと思いますけれども、まずは、そういった使い方も、デジタルツールにも使い道があるようだと伺っております。

以上です。

○二之宮委員 よく分かりました。ありがとうございました。

○沖野座長 ありがとうございます。

これ以外の点でも、あるいは関連してでも結構ですけれども、いかがでしょうか。

よろしいでしょうか。ありがとうございます。

申し訳ありません、1点だけ、既に二之宮委員から御質問があった点なのですけれども、消費者の層がかなり変化している、特にデジタル化の影響で変化しているということを十分に考慮する必要があるのではないかというのは、何度か御指摘をいただいたと思います。最後の課題のところでも、消費者像に合わせた多様な解決方法というときに、二分化する消費者というお話があったかと思います。

先ほど出た3ページ目の、二層化、二分化の意味なのですけれども、これは、従来型の三層化ということではなく、むしろ端的にこの2つに分かれているということなのでしょうか、それとも交渉コストの回避という点から見ると、デジタル化による特徴的な事象として、この2つの層というのが目立って出てきているのだけれども、言わば三層になっているということなのでしょうか、大変細かい話を聞いて申し訳ないのですけれども、確認させていただく次第です。

○山田教授 ありがとうございます。

すみません、そうですね、特に従来の議論を否定するものでは全くありませんで、ただ、交渉コストを非常に従来よりも気にする層というのが、少し顕著になってきているのではないかと思いまして、そういった人たちが、それゆえに紛争解決手続ないし、訴訟手続は嫌だというのは、いろいろな理由があるわけですけれども、ADRとかODRですら嫌だと、面倒くさいという層にどうアピールをするのかという問題意識の中で出てきたということですので、おっしゃったような意味でいいますと、デジタル化の中での交渉コスト回避の1つの特徴的な層が顕在化したという趣旨でございます。

○沖野座長 ありがとうございます。よく分かりました。

このほかにありますでしょうか。

よろしいでしょうか。大変短い時間ではあるのですが、大変申し訳ございません、予定した時間がそろそろ来ているということで、ほかにも各種御指摘はあるかと思うのですけれども、山田教授の御発表に対する質疑応答、意見交換の時間というのは、これで一旦切り上げることにさせていただきたいと思いますけれども、そのようにさせていただいていいでしょうか。

実は、中出教授に先ほど本当は聞きたかったことがあるのだけれどもというものがありますので、改めて、この発言だけお認めして、適宜応対をしていただくことにしたいと思います。では、二之宮委員から手短にお願いします。

○二之宮委員 すみません、わがまま言って申し訳ございません。

最初の資料1の民事訴訟のところの御説明で、不特定多数に不可分的に帰属し、個人への帰属は観念できない利益は訴訟に乗りにくいという説明がありました。

保険を使う場合は、個人の保障というところからすると、そうなのですけれども、自然災害を念頭に置くと、個人の利益に必ずしも結びつかなくても、そういう保険というのは、幾つもあると思うのです。

これまでは公正な取引環境の反射的利益として消費者の利益ということが言われていましたけれども、現代社会ではダークパターンとかになると、個人は被害そのものに気づかない、気付きにくくなっており、言ってみれば、反射的利益ではなくて個人の利益に還元できるはずなのだけれども、不公正な取引環境により顕在化しない消費者の被害が発生している、実は消費者の利益を害しているという形になってきていると思うのです。

こういう社会的な利益、損失的なものをカバーするような形で、損失補償みたいなものをつくって、それを団体がまとめて回収して、消費者にオプトアウトなり、そこはいろいろあると思うのですけれども、分配するとか、そういう仕組みというのは考えられるでしょうか。

○中出教授 ありがとうございます。

まず、保険制度を使用したときには、何を救済するのかということを明確化する必要があるわけですが、そこは消費者の損害というものの概念をつくることによって、それを救済しましょうということが重要で、それが何の原因で生じているか、そこはあまり関係がない。むしろ、後は確率論の話になるので、非常に多過ぎたりすると、また難しいわけですけれども、多い事象であれば、それだけ保険料を上げていけばいいという形なので、やはり基本的には、まずは、どういう損害を救済するのかということがスタートで、それを明確化していけば、制度をつくっていけるのではないかなという気はします。

○二之宮委員 ありがとうございました。

○沖野座長 それでは、もうお一人ぐらいはご発言いただけるかと思いますけれども、山田教授の御報告に対して、よろしいでしょうか。

それでは、本日の議論をここで切り上げたいと思います。

山田先生におかれましては、大変貴重な御報告をいただきました。これをどう受け止めたらいいのかということ、さらに考えていかなくてはいけない様々な点というのを御指摘いただいたと思います。

また、中出先生におかれましてもありがとうございました。

垣内先生は、もう退室されていると思いますけれども、今回、3人の先生方に大変貴重な御報告をいただき、御知見を賜りました。これを、さらにどう生かしていくかという宿題をいただいたと思っております。

委員の皆様におかれましても、本日は、非常に長時間にわたり御議論をいただきまして、ありがとうございました。これで一旦終了とさせていただきまして、事務局から事務連絡をお願いいたします。


《3. 閉会》

○友行参事官 本日も誠にありがとうございました。

次回の日程につきましては、決まり次第、御連絡いたします。

以上です。

○沖野座長 それでは、本日は、これにて閉会とさせていただきます。お忙しいところ、お集まりいただきまして、ありがとうございました。

また、山田先生、本当にありがとうございました。

それでは、終了といたします。お疲れさまでした。

(以上)