第15回 消費者法制度のパラダイムシフトに関する専門調査会 議事録

日時

2024年12月24日(火)10:00~12:08

場所

消費者委員会会議室・テレビ会議

出席者

(委員)
【会議室】
沖野座長、山本座長代理、大屋委員、二之宮委員
【テレビ会議】
石井委員、加毛委員、河島委員、野村委員、室岡委員
(オブザーバー)
【テレビ会議】
鹿野委員長、大澤委員
(参考人)
【テレビ会議】
水野祐 シティライツ法律事務所 弁護士
西内康人 京都大学大学院法学研究科教授
(消費者庁)
【会議室】
黒木審議官、古川消費者制度課長、原田消費者制度課企画官、消費者制度課担当者
(事務局)
小林事務局長、後藤審議官、友行参事官

議事次第

  1. 開会
  2. 議事
    ①有識者ヒアリング (水野祐 シティライツ法律事務所 弁護士)
    ②有識者ヒアリング (西内康人 京都大学大学院法学研究科教授)
  3. 閉会

配布資料 (資料は全てPDF形式となります。)

《1. 開会》

○友行参事官 定刻になりましたので、消費者委員会第15回消費者法制度のパラダイムシフトに関する専門調査会を開催いたします。

本日は、沖野座長、山本隆司座長代理、大屋委員、二之宮委員は会議室で、石井委員、加毛委員、河島委員、野村委員、室岡委員はテレビ会議システムにて御出席いただいております。

所用により小塚委員は本日御欠席との御連絡をいただいております。

消費者委員会からは、オブザーバーとして鹿野委員長、大澤委員にテレビ会議システムにて御出席いただいております。

また、本日、シティライツ法律事務所弁護士の水野祐様と京都大学大学院法学研究科教授の西内康人様に御発表をお願いしております。水野先生と西内先生にはテレビ会議システムにて御出席いただいております。

配付資料は議事次第に記載のとおりでございます。

一般傍聴者にはオンラインにて傍聴いただき、報道関係者のみ会議室で傍聴いただいております。議事録については、後日公開いたします。

それでは、沖野座長に議事進行をよろしくお願いいたします。


《2.①有識者ヒアリング (水野祐 シティライツ法律事務所 弁護士)
②有識者ヒアリング (西内康人 京都大学大学院法学研究科教授)》

○沖野座長 ありがとうございます。本日もよろしくお願いいたします。

早速、本日の議事に入らせていただきます。

本専門調査会の後半の検討テーマである実効性の高い規律の在り方につきまして、本日も規律のバリエーションという観点から、規律のグラデーション、様々な規律のコーディネートや既存の枠組みにとらわれず、消費者取引を幅広く捉える規律の在り方に関連した有識者ヒアリングを行いたいと思います。

本日は、まず弁護士でいらっしゃり、社会のルールである法によってメタな視点から俯瞰して社会を設計し、創造性やイノベーションを加速させていく「リーガルデザイン」やルールメーキングの在り方などにお詳しい水野祐先生に「消費者法のデザイン」というテーマで20分程度御発表いただきまして、その後、質疑応答、意見交換をさせていただければと思います。

それでは、水野先生、よろしくお願いいたします。

○水野弁護士 今、御紹介にあずかりました水野と申します。よろしくお願いいたします。

スライド、次に行っていただけますでしょうか。東京で弁護士をやっております。

スライド、次に行っていただけますでしょうか。今回この話題提供ですね。私が2017年に書いた『法のデザイン』というタイトルの本があるのですが、この本で法律や契約など、法というものを単に規制として捉えるのではなくて、物事や社会をよい方向に誘導したり加速させたりするアプローチが可能なのではないかということで、そういうアプローチをリーガルデザインという考えとして提案した本で、そのリーガルデザインという観点から消費者法制度を見たときにどういうことが考えられるのかみたいなことでお題をいただいたものですから、紹介させていただきました。

この本とこの後の発表に関わるところですけれども、この本のいろいろな側面はあると思うのですが、デザイン思考と呼ばれるようなデザイン理論がすごく流行っていた時期でもあって、法というものをデザイン思考と掛け合わせて考えたときにどういうことが言えるのかみたいなことも意識して書いた本だったので、それが今日の発表にもつながってくる部分が一部あるのかと思っています。デザイン思考はいろいろな考え方があると思いますけれども、すごくシンプルにユーザーの視点で課題を発見し、そしてユーザーとともに課題解決していく、解決を一緒に共創していくという視点が強く出る、そういうデザイン理論かと捉えております。

次のスライドをお願いします。本日御出席されている方々に釈迦に説法のところもたくさんあると思うのですが、私なりに消費者法制度を見詰め直したときに気になっている点をスライドにまとめさせていただいています。

もう既にたくさんの議論がされてきているようですけれども、消費者法というのは消費者と事業者という概念で区別することになっています。この消費者、事業者というのはそもそもそれぞれ何なのだっけというところが気になるところです。消費者契約法の定義などを見ると、事業性があるかないかで区別していますと。

ただ、消費者法制度のよく言われる目的、消費者の情報の質・量、交渉力の格差、あるいは法文では言われていないと思いますけれども脆弱性については、事業性と格差、脆弱性の関係は本当に自明のものなのだろうかということが疑問に思えるところです。疑問に思えるというか、間違いなく格差がある場合はあるだろうと思いますけれども、全ての場合に同様の格差あるいは脆弱性が発生するかというと、その関係は本当に前提にしていいのだっけということが気になるところです。

よくよく考えると、格差と脆弱性というのは、消費者にも様々な方々がいらっしゃいますし、事業者にも様々な方がいらっしゃいますし、その組み合わせや取引類型、場面も様々ですから、この格差や脆弱性は相対的なものであるはず、消費者と事業者それぞれの関係性によってあるいは場面によって相対的に決まってくるものなのではないかと。もちろんある程度類型化できるというアプローチが重要だという話も後でしたいと思いますけれども、ただ、ある種伸び縮みするというか、消費者だから、事業者だからという区別だけでその格差が自動的に決まってくるものではないのではないかということを感じます。

そもそも消費者というものが格差、脆弱性を抱えるあらゆる取引の受け手、ユーザーという広い言葉がありますけれども、このユーザーの一態様にすぎないのではないかとも思えるわけです。そのようなことを考えていたときに、EUのデジタルサービス法を見ていたら、前文の40項で消費者と未成年者とヘイトスピーチ、セクシュアルハラスメント、その他差別的行為の対象となる特別なリスクのあるユーザーということが並べられていて、それをインクルーディングする形で「サービスの受け手」という定義がされています。定義というかそういう用語が使われているところで見ると、消費者というのは取引における格差、脆弱性を抱えるユーザーの一態様の呼び方にすぎないのではないかという見方もあるのではないかと考えました。

次のスライドをお願いします。この辺りはかなり皆さんも既にたくさんの議論をされてきているのだと思いますけれども、消費者あるいは事業者概念を考えるときに、消費をめぐる環境変化というのはあると思います。

ここにいろいろ書いているのですけれども、強調したいのは、対価性というものが見えづらくなっていることによって権利侵害が捕捉しづらくなっているのではないかと感じます。もちろんここは皆さんもいろいろな議論をされてきていると思いますが、金銭だけではなくて時間とか、アテンションとか、データとかを現代の消費者は「消費」していますねという言い方になっていますけれども、個人的に疑問なのは、これは本当に金銭以外の部分も「消費」なのだっけと。ここも自明のものとしてよく説明されているような気がしますが、こういうものは本当に「消費」なのだっけということは改めて考えてみたい論点で、別に結論を持っているわけではないのですけれども、思ったところです。

もう一つ、これはダークパターン規制などにも顕著ですけれども、従来消費者法制度というのは、表示、表現を規制するという考えでやられてきた部分、表示規制に関してはそのように考えられたと思うのですが、それがデジタル環境においてある種アーキテクチュラルに、アルゴリズミックに権利侵害が発生するリスクが高まってきている、欺瞞的な操作的な技術が権利侵害のリスクを高めているというのは、これもよく言われているところだと思いますが、これも非常に見えづらく権利侵害が行われることが問題として大きいのではないかと思います。

あとはそもそも消費というものが取引関係を前提にしている、契約関係を前提にしている部分が大きいですが、後でお話ししますけれども、契約関係を前提にするだけだと取りこぼすというような取引環境の多面化があるのかと思います。

次のスライドをお願いします。このスライドが私の発表の中で一番変わったところなのではないかと思いますけれども、消費の能動的側面をもう少し見てもいいのではないかということを提案したいと思いました。

消費者の自由というのはよく言われることだと思うので、この検討会でもいろいろな検討がされてきていると思うのですけれども、消費者の「幸福」(自由・自律の尊重)、これが主観的価値で、客観的価値という形で整理されていたかと思います。その客観的価値の部分に当たるところとほぼニアリーイコールなのかもしれないのですけれども、消費者が自律的な選択をして、それがサービスや製品の質の向上につながることはありますけれども、それだけではなくて健全な取引環境、取引環境の状況を向上させる、そういうことが結構あるのではないかと思っています。この価値は無視できないのではないかと個人的には思っています。これは少し乖離があるかもしれないですけれども、最近意識的消費や、同じ言葉ではないと思いますけれども、応援消費とか、そのように消費者の選択が新しい市場をつくったり、あるいは新しいサービスや新しい製品を生み出すみたいなこともありますし、それが次の新しい市場を示唆するみたいなことも行われる。そういったことが行えていく中で、市場環境としても洗練化していくみたいなことが価値としてあるのではないかと。

もう一つは、これは前からある議論ではありますが、消費者法制度の中ではなかなか見ていけないというか、捉えてこられなかった視点だと思いますけれども、いわゆるユーザーイノベーションなどの理論があって、消費者をより能動的で創造的な存在とみなす考え方も割と前から言われてきていますけれども、再度こういう側面も見てもいいのではないかということです。

あとはこれが関係してくるのではないかというところで、リユース市場の要請・広がり、ここは持続可能性の要請など、そういったいろいろな要請や社会環境の変化も含んだところだと思いますけれども、修理品や中古品、あとは最近注目されていますけれども、リファービッシュなどと呼ばれるような整備済み再生製品、再生品ですね。こういった市場の広がりなどもこの文脈でも捉えられるのではないかと思っています。

次のスライドをお願いします。そういった側面を重視していく先にということですけれども、消費者法の目的や役割も考え直せる可能性があるのではないかと。

「国民消費生活の安定向上から自律的で健全な取引環境の実現へ」と書いていますけれども、決して後者を目的にするから前者を軽んじてという意味ではなくて「自律的で健全な取引環境の実現へ」という目標の中に消費者の安定・安全も含まれると、そのようなイメージでおります。これまでの消費者法制度が消費者の格差是正や脆弱性対策にフォーカスをしてきていると思うのですけれども、そういった対策は必要だけれども、より能動的に消費者法を捉え直すことがあり得るのではないかと。ここに書いていますけれども、受動的な消費者法制度だと動的な環境に対応しづらい、消費者保護もどうしても後追いになってしまうとか、あるいは消費、取引関係を前提としない規律がより可能になるのではないかということですね。

そう考えていくと、消費者の保護と自由の適切なバランスを消費者法制度でどう規律していくかという議論になっていくのではないかということで、単なる被害者として捉えるというよりは、ここはデザイン思考的なマインドが加味されているところだと思いますけれども、消費者や事業者を取引環境の自律性、健全性を確保するむしろ積極的なアクターとしても捉えていく視点がもう少し出てきてもいいのかと。別に何でもかんでもEUに倣う必要はないですし、ここは評価も入っていると思いますから、全然違う評価をされる方もいらっしゃるかもしれないですけれども、デジタルサービス法やデジタル市場法の中にはコンシューマーの話が書いてあって、コンシューマーの自律的な選択を重視する、そのための情報提供や様々な制度を用意することを通じて、デジタル市場の一翼を担う存在として、ある意味で環境を一緒につくっていく存在として消費者を捉えている視点も見えるのではないかと。これは私の評価です。ざっくり言えば、消費者法制度を消費者、事業者と共創していく視点があってもいい。そのように考えていったときには、消費者や事業者に対する情報提供あるいは消費者教育の充実もこの観点から捉え直せるのではないかと。

この「自律的で健全な取引環境の実現へ」というものを消費者法制度の目的に掲げると、当然競争法とのすみ分けが非常に気になるところになってくるのですが、これは事前ヒアリングなどで消費者庁の方と議論させていただいて、例えばBtoB領域の健全性を担うのが競争法で、BtoC領域における健全な取引環境の実現を担うのが消費者法制度であると、こういう切り分けは一定可能なのかと思います。ただ、現状がそうなっているかというと、そのようにすみ分けられていない制度もあると思います。

あとは気になるところは、消費者法制度全体のある種基本法をどう捉えていくのかというところで、現状、消費者政策は消費者基本法で、この消費者基本法は議員立法だということで、扱いがどうなっているのかというか関係性が見えづらくなる部分もあると思うのですけれども、それと消費者制度ということで消費者契約法などということで、この関係性がすみ分けられていると思うのですけれども、私の知識がないだけかもしれないのですけれども、分かりづらいところがあって、それが消費者法制度・政策の全体像の分かりづらさにつながっているのかもしれないと感じるところです。

次のスライドをお願いします。本題はこっちだったと思うのですけれども、時間がかかってしまいましたが、ここではそんなに既に出ている議論と大きく特徴のあることが皆さんに話題提供できるわけではなくて、格差、脆弱性は相対的ではあるけれども、ある程度類型化してリスクベースの規律が可能なのではないかということで、それがグラデーションと柔軟性のある規律につながるのではないかと思っています。

2個目のポツで、事業者の優良・悪質性に応じた規律ということで、まず一丁目一番地としては、悪質な事業者に対する法適用、法執行を強化していくべきだとは私は思っています。これをまずやらないと、良質性や悪質性、この規律自体が実効性を欠くものになってしまうと思うので、これはより強化していくことを前提にした上で、悪質性をどう評価していくかといったときに、例えば平時では事前ではガイドライン等の遵守具合などを見たり、あるいは悪質性に関しては違反の回数・悪質性、是正の対応などを見ていくみたいなことをそういう評価に取り入れていくと。さっきのルールというか消費者法制度を一緒につくっていくパートナーとして考えていったときに、優良な事業者はルールを共創するパートナーとして考えていく。悪質な事業者は制裁はしつつ、でも、ある意味で消費者法制度のよくないところをデバッグしていく、悪質な事業者をそういう存在として捉えていくことが可能なのではないかと。

そうしたときに、優良な事業者のインセンティブも確保していくこと、支援していくことが必要だといったときに、なぜそうなのかというと、消費者法制度を共創するある種模範的なアクターだからということになる。この流れだとそういう説明になると思うのですけれども、例えばガイドライン、このガイドラインをどうつくっていくかというのも次の公民連携の議論と関わってくるところですけれども、ガイドライン遵守などによる適法性の推定や立証責任の転換みたいなことは考えられるのではないか、そういう形でインセンティブを与えていくことはあり得るのかと。

次のスライドをお願いします。そろそろ時間が来てしまいましたが、公民協働の在り方、ここもそんなに特色のある主張はないように思いますけれども、グラデーションと柔軟性のある規律のために公民協働が重要になってくる。共同規制という言い方をしてもいいと思います。民間団体、消費者団体・事業者団体両方ありますけれども、これはこの消費者法制度を一緒につくっていくパートナーとして非常に重要な存在であることは間違いないかと。

そう考えたときに、私の目から見ると、既存の消費者団体の課題は個人的にはあるように思っています。いろいろな視点があると思いますけれども、そもそもあらゆる取引を代表できる団体、そんなことは不可能なのではないかとも個人的には思うところですし、消費者団体と事業者団体が協働関係をなかなかつくりづらい、対立関係にどうしてもなってしまうみたいなところを課題に考えたときに、新しい形での消費者団体の特定あるいはそこを育てていくという視点をどう確保していけばいいのか。

これはいろいろなやり方もあるだろうし、法でできることに限界もあると思うのですけれども、個人的には事業者団体・企業の存在がすごく大事で、彼らあるいは彼女らが自主的に消費者保護に取り組むことのインセンティブをつくっていってあげると。そういうことによって消費者団体をある意味特定していったり、あるいは育てていったり、あるいはそういった消費者団体との対話を重視するような流れをつくっていったりと、事業者団体に働きかけることで彼らに主導してもらうというイメージを持っています。

次、お願いします。これで最後ですね。消費者法制度をこの方向で捉えていったときの個人的なほかに興味があるところとしては、子供の位置づけですね。今、消費者と、もちろん子供は消費者の一部なのだと思いますけれども、その一部になってしまうからこそ子供の脆弱性がやや見逃されているケースが結構あるのではないかと感じています。

そういう意味で、この消費者と子供の関係性を考え直すとか、あるいはダークパターン規制の位置づけ、これは今、どの省庁がやっていくのかとか、どの省庁でもやっていくのかとか、様々な議論が同時並行で進んでいると思いますけれども、健全な取引環境の実現を考えると、消費者庁さんで消費者法制度の中でしっかり位置づけてやっていくことに必然性が出てくるのかと個人的には思っています。

製造物責任法や修理する権利も、この方向で考えたときにどのように位置づけられるのか。立法趣旨が違うので違う制度という位置づけ方ももちろんあるとは思いますけれども、どう取り込んでいけるのか、あるいはどう関係性をすみ分けていくのかということも検討が必要なのだろうと思っています。

以上になります。ありがとうございました。

○沖野座長 水野先生、ありがとうございました。

ただいまの水野先生からの御発表内容を踏まえまして、質疑応答、意見交換をしていきたいと思います。御発言のある方は挙手あるいはオンラインの方はチャットにてお知らせください。

チャットで大澤委員、石井委員から御発言の希望が出ておりますので、順にお願いしたいと思います。まず大澤委員、次に石井委員でお願いします。

○大澤委員 私はオブザーバーですのに1番目に指名していただき、ありがとうございます。

水野先生、大変勉強になりました。ありがとうございました。

本日の御報告、私はうなずきながら、共感しながら伺っておりました。私は消費者概念、事業者概念、その辺りに特に関心を持っていたり、ダークパターン、最後におっしゃっていた修理をする権利も非常に関心を持っているところですので、本当にたくさん伺いたいことあるのですが、すごくシンプルな質問を1点させてください。

事業という概念で消費者という概念、例えば消費者法の適用範囲を決めることに限界があるということを最初のほうでおっしゃっていて、私も全く同感です。私がこの種の検討をしたときに、事業ではなくて例えば消費という概念でできないのかと考えたことがあるのですが、今日の先生のお話を伺っていて、確かに消費者もまさに先生のおっしゃるとおり能動的な場面がかなり増えていると理解していますし、そのようなものとして捉える必要があるということも私も全く同感です。

今日、SDGsの関係もあって、例えば消費者が修理をする権利というのですか、逆に言うと修理をする義務といった話も出てきているところなのですが、消費者もまさに今後のいい消費のためにこういう活動をしなくてはいけないという発想が出てきていて、今までは消費者は事業者から例えば詐欺などを受けて、どっちかというと守ってもらうというのですか、そういう受け手的な存在だったところがそうではなくなってきている、あるいはそういう側面があるということは本当にそうだと思います。例えばネット社会でも口コミをすごく書きたがる人が結構いると思うので、今までだと事業者が一方的に広告を流してうちの店はこんな店ですと宣伝していたのが、消費者が勝手に口コミを書くことで宣伝になったり、逆に誹謗中傷などマイナスな面があると思うのです。

端的にそういった背景を伺っていて、アテンションエコノミーとも関係すると思うのですが、先生から御覧になって消費はどういうものとして考えればいいと思われますか。私もずっと最近これに関心を持っていますので、とてもシンプルな質問で申し訳ないのですが、消費を今後どう考えていけばいいのか、かつ消費を軸に例えば消費者法制度を今後考えていくときに限界もあるような気もしつつ、しかし消費者法と呼んでいるときに、そこでの消費は今後どういうものとして考えていけばいいか、すごくシンプルで申し訳ないですが、伺いたく思いました。よろしくお願いします。

○水野弁護士 御質問ありがとうございます。もちろんその前段の御意見もうなずけるところでした。ありがとうございます。

消費の捉え方、今、映していただいているスライドの次のスライドがふさわしいかと思うのですけれども、ここで消費の全容を捉えられているとは到底思えないほど消費が多様化していると思います。特に消費というものをどの側面から捉えていくのか、行為として捉えていくのか、あるいは対価性から捉えていくのか、法学でも分かっていないところもありますし、社会学的な概念としても消費をどう捉えていくかという議論が今どのように行われているかみたいなことも正直あまり分かっていないところもありますけれども、今回検討していて思ったのは、最近この消費をめぐる議論の中で、先ほども申し上げましたが、金銭だけではなくて時間やアテンション、個人に関する情報、そういった必ずしも金銭の授受が発生していなくても消費と捉えるということがよく言われていますし、これは法学の世界でも言われていると思います。

ただ、これは本当に「消費」なのかというのはもう少し検討してもいいことなのではないかと思っていて、「消費」と言われても違和感は少なくなっているのですけれども、でも、ここで私が感じていることは、「消費」というものをどう捉えていくべきかをもう一度見直すべきなのではないかということの疑問が含まれていると思っていますので、そういう意味では先生の御質問、疑問と私も同じことを疑問に思っていますということで、質問に対する質問返しになってしまうかもしれないですけれども、考えているところです。ぜひ私もここに関する御意見を聞いてみたいところです。

○大澤委員 単純な質問で申し訳ありません。ありがとうございました。

今、映していただいているスライドの「そもそも、これは『消費』なのか?」と若干小さめの字で書いていただいているところがすごく私は響いたというか、本当にこれって消費なのかと何となくぼんやり思っていたところなので、すごく共感したので質問させていただきました。本当にありがとうございました。

○水野弁護士 ありがとうございます。

○沖野座長 ありがとうございました。

単純・簡単な問題ではなくて非常に難しい問題だったと思いますので、まさにこの検討会で検討すべき事項だと考えております。

石井委員から次にお願いします。

○石井委員 中央大学国際情報学部の石井と申します。今日は大変興味深い御報告をありがとうございました。

私は情報法の分野で研究している者でして、その観点から幾つかお伺いできればと思います。全て端的にお答えいただく形で大丈夫です。

1点目、御執筆された御著書が2017年の発刊ですか。その後の状況変化として一番どういう点が大きく変わったかについてお伺いしたいと思います。これが一つ目の質問です。

2点目、大澤委員の御質問と関わりますが、消費かどうかという疑問点に関して、個人情報の分野ですと、広告ビジネスを展開するプラットフォーム事業者との関係で個人情報、時間、アテンションなどが消費されているという文脈で議論されていると思います。先生としてこれは消費なのかと疑問を持たれた根本にある理由、これについて可能な範囲で御教示いただければと思いました。

3点目、能動的・創造的な消費者について、7ページに記載があったかと思いますが、情報法の領域ですと、先ほどの広告ビジネスを展開するときに、Cokkie、広告IDなどを使って個人に関する情報が集められ、それを用いて個人を何かしらの商品やサービスを使うように誘導したりですとか、そうでない場面でも偽情報、誤情報にだまされておかしな方向に判断がなされてしまうことはよくある話で、そういう観点から見たときに、消費者は適切な方向に能動的に動いてくれるのか、創造的に動いてくれるのか、この点について消費者をそこまで信頼できるのか、そういう問題意識もあるような気がいたしましたので、この点についてお考えがあればと思いました。

あと1点だけ、簡単で結構ですが、ダークパターンの規制の在り方として、消費者法の分野、個人情報保護の分野両方あり得ると思いますが、先生がどのようにお考えか、何かありましたら教えていただければと思いました。

以上になります。

○水野弁護士 四つ全て記憶できているかどうか分かりませんが、ありがとうございます。

1点目、著書のこの本を書いた後の状況変化として何が一番大きかったかということですね。私が個人的に思っている状況変化としては、割とこの本はイノベーションという言葉に代表されるような、すごく雑に言ってしまえば割と新自由主義的な当時の例えばグーグルあるいはAirbnb、Uber、そういうディスラプティブなアメリカの西海岸のマナーといいますか手法みたいなものを結構参照しているところがありまして、非常にテクノロジーに対して楽観的、かつプラットフォームの力も2017年なのでもう既に問題点はいろいろ言われていましたけれども、今ほど逆風が吹いていなかった状況で、実際に書いたのは2015年ぐらいのものが多いので、そのようになってしまっていたと思います。

そこから私もかなりいろいろ考えを改めてというか、状況変化がある中で、大きくはプラットフォームの弊害の側面、あるいはよりデジタル取引、デジタル技術が情報分野だけではなくて金融、教育、医療など様々なインフラ分野にも波及してきて、そういう領域でディスラプティブであっていいのかという問題など、その辺り、大きな状況変化があったと思います。ですから、実は消費者法制度をどうパラダイムシフトしていくかという議論の中で、この本を見てどうして依頼が来たのだろうと思ってしまうぐらい、私の中ではもちろんこの本で終わっているわけではなくて、その後も実務家としてずっとやってきていますので、当然消費者法制度に対する疑問や考えはあるところではあるのですけれども、この本を参照して御依頼が来る理由はなかなか戸惑ってしまったということが正直なところではあったりしました。

2点目、今回の私の発表は、消費者という概念というよりはユーザー全般の健全性を図る法律みたいに概念拡張していくべきなのではないかという方向を志向している、あくまでそうあるべきというほど強い意見というよりは、そういう視点も加味できるのではないか、そういうプレゼンテーションだったと思っています。つまり、私の中で恐らく消費者や消費という概念で切り取ると、取引環境の健全性において取りこぼれるものがあるのではないかという疑問を持っているからだと思うのですが、そういう意味では、あくまで先生がおっしゃったように特にデジタル取引においてはユーザーや利用者がいて、必ずしも消費をしていないけれどもユーザーとして振る舞う、サービスを使っている人はいるのではないかという疑問なのだと思います。そういうものも何かしら「消費」しているのではないかと捉える考え方もあってもいいと思いますし、でも、そこからこぼれ落ちているものがあるのではないか、あるいは今後そういうことも出てくるのではないかと捉えたときに、もう少し消費というものの外延あるいはユーザーまで広げるのか、それともそこに分かつ何かがあるのかは要検討だと思いますけれども、消費という概念の狭さを個人的には感じているからこういう発言になっているのかと思っています。

3点目、そこまで消費者を信用していいのかという御質問だったかと思います。この考えは、消費者の全てを信用するとか、そういうことではないと思っておりまして、そういう側面もあるし、脆弱な側面もあるという考えで書いております。ですから、もちろんこういう考えを強調していったときに、逆に消費者の保護がおろそかになるのではないかとか、そういった懸念は、先生の御質問にはそういう趣旨も含まれているのかと想像しますけれども、そこはすごく注意深く見ていかなければいけないのではないかと思っております。

4点目、ダークパターンですね。これはまだ自分の考えを正確に決められているわけでは全然なくて、それこそ個人情報保護法的なアプローチ、あるいは消費者保護法的なアプローチ、あるいは競争法的なアプローチ、いずれもあると思っています。いずれも既にある法規制もありますから、そういう意味では表現の自由や営業の自由みたいなことにも配慮しつつ、過度な制約にならないように、でも規律していかなくてはいけないということを考えていったときに、今ある法律の改正という形で、ある種それぞれの領域でそれぞれ規制し、少し法改正する中で、ダークパターンと呼ばれているような行為をもう少し拾える範囲を広げるというアプローチもあると思います。

一方で、今日私が発表した方向性での考えを強調していくと、ダークパターンみたいなものに対する一般的な法規制をtoCの領域で健全な取引環境を実現するという方向で消費者法が特別法というか、ダークパターンに関する一般法をつくると言うとちょっとあれですけれども、例えば消費者契約法などでダークパターン全般をある程度包括的に規律する規定を入れるみたいなことなどは、今日発表した方向性では考えられるのではないかという趣旨を実は含んでいたかと思います。

○石井委員 大変示唆に富む御回答をいただいて、勉強になりました。ありがとうございました。

○水野弁護士 とんでもないです。

○沖野座長 ありがとうございました。

この後、室岡委員、加毛委員、河島委員からお手が挙がっておりますので、水野先生、恐縮ですが、この順でまた御回答いただければと思います。

室岡委員、お願いします。

○室岡委員 水野先生、ありがとうございました。

私から8ページについて1点だけ。競争法とのすみ分けという点につきまして、BtoBにおける健全な取引環境の実現を担うのが競争法、BtoCが消費者法という形にまとめられておりますが、例えばメルカリなど特に近年のプラットフォームを通じた取引などでは、BtoB、BtoCという分け方はかなり難しくなってきているのかと思います。近年のビジネスの変化について、この競争法と消費者法のすみ分けについて何か御知見がございましたら御教示いただけますと幸いです。

○水野弁護士 ありがとうございます。

メルカリだけではなくて様々なプラットフォームの事業、いろいろなプラットフォームの種類はありますけれども、多面的な市場になっていて複雑性が増している、BtoB、BtoCで切り分けるのは難しいのではないかという御指摘は、おっしゃるとおりかと感じました。

一方で、両方の側面が含まれているとして、この切り分けはプラットフォームに対して競争法的な視点と消費者法的な視点が両方かかってきている状態は今も変わっていないと思います。ここのすみ分けは、全部の問題をこの2つで全部拾い上げられるかという視点というよりは、仮に消費者法を今の法目的からより広げて、広げることなのか、今も既にこの目的が入っていると見るべきなのか、ここも面白い論点だと思いますけれども、仮に広げるような「自律的で健全な取引環境の実現」を今よりも強調していくような法目的として捉えていったときに、そこには取引環境の整備という意味では競争法とのすみ分けをどう考えていくのかという問題が横たわるでしょうから、そのバッティングみたいなところの問題を整理する考え方としては、このように分ける考え方があるかもしれないという提案でした。

何が言いたいかといいますと、プラットフォームの全般の問題をこの分け方で全部整理できるとか、全部扱えるという主張というわけではなかったということです。御説明になっているでしょうか。

○室岡委員 ありがとうございました。

○沖野座長 ありがとうございました。

続いてで恐縮ですが、加毛委員からお願いします。

○加毛委員 東京大学の加毛と申します。本日の御報告、大変勉強になりました。

この専門調査会は「消費者法制度のパラダイムシフトに関する専門調査会」という名称が示す通り、消費者法制度のパラダイムを変えていくことに関心が向けられています。本日の御報告は、悪質な事業者に対する法執行の強化の必要性を当然の前提としつつ、それを超えて優良な事業者に対していかなかるインセンティブを与えるのか、あるいは必ずしも被害を受けているわけではない消費者が市場の設計においていかなる役割を果たすのかなどの観点が強調されており、まさに消費者法制度のパラダイムシフトを提案するものであったと理解しました。

そのことを申し上げた上で、二つ質問があります。一つ目は、8ページの二つ目の黒マルの二つ目のマルとして「共創するアクターとして捉える以上、情報提供の強化と消費者教育の充実が必要」とお書きになっている点についてです。この点はおっしゃるとおりであると思う一方で、留意すべき事柄もあるのではないかと思われます。事業者による情報提供を受容できるタイプの消費者や、消費者教育を適切に受け止めて自分の行動を変容できるタイプの消費者が存在する一方で、そうでないタイプの消費者も存在するのが現実であると思います。そうすると、情報提供の強化や消費者教育の充実による恩恵を受ける一部の消費者集団が事業者に働きかけることにより、事業者の行動に変容が生じることが、情報提供や消費者教育の恩恵をあまり受けられない消費者にとっては望ましくない結果をもたらす可能性もあるのではないかと思われます。仮にそうであるとすれば、消費者法制度としては、情報提供や消費者教育の恩恵を受けにくい消費者の利益を擁護するような枠組みが必要とされるのではないかと考えられます。この点について、水野先生のお考えを伺うことができれば幸いです。

二つ目の質問は、9ページにおいて優良な事業者のインセンティブ確保・支援が重要であると指摘されていることと、10ページにおいて事業者団体・企業が自主的に消費者保護に取り組むインセンティブが大切であると書かれていることについてです。これらの点もまさにおっしゃるとおりであり、現状においても優良な事業者は消費者の評判を気にするので、既に一定のインセンティブ付与の構造があるのだと思います。ただ、そのようなものでは十分でないとなったときに、さらなるインセンティブの付与をどのように実現するのかが重要な問題となります。この専門調査会の以前の会合では、サステナビリティファイナンスが取り上げられ、サステナビリティの開示基準が導入され、それに従わないことで優良な事業者が大きな不利益を被ることが紹介されました。そのようなネガティブなインセンティブがある場合には、事業者の行動変容をもたらしやすいのですが、消費者法制についても同じような対応が考えられるのかが問題となります。この点につきまして、実務家として様々な事業者を相手に仕事をされている水野先生のお考えを伺いたいと思いました。

質問が長くなりまして申し訳ありません。

○水野弁護士 ありがとうございます。

1点目の情報提供に関することあるいは消費者教育のことなのですけれども、御指摘は非常に重要な問題ではないかと思いました。正直、解決策が見えているわけではないのですけれども、それは恐らくこの調査会でも御議論されてきた消費者の脆弱性にもかなり多面的な多様なものがあって、単に情報や交渉力、特に情報の格差がなくても、情報を与えてもなかなか脆弱性を是正できない消費者もいるというような、御指摘の中に表れている問題点かと感じました。これに対してどうアプローチできるのかというのは答えを持っていないのですけれども、ただ単に情報提供してオーケーとか、あるいは消費者教育を充実させればオーケーとここで書いていますし、簡単に必要という言葉でまとめられておりますけれども、そういった問題もあることを前提に拡充をオンゴーイングで考えていくということしか今は言えることはない状況です。

2点目のインセンティブの確保ですね。私はまさにサステナ関係の開示などを割と念頭に優良な事業者に対するインセンティブの付与を実は捉えていたので、先生の御指摘はごもっともだと思いました。今、サステナ関係やESG、SDGs、特に上場企業においてそういった指標が本当にインセンティブとして、どちらかというとネガティブな側面を与えないようにするための企業努力というか、そういう意味でプレッシャーになっているかというと、サステナビリティに関しては一定広がっていてプレッシャーになっている、逆に言うとインセンティブになっている面もあると思うのですけれども、プレッシャーがかかっている事業者とかかっていない事業者は多種多様です。

特に、もう一つ多様性の議論があると思いますけれども、ダイバーシティー・アンド・インクルージョンの要請みたいなものも、東証をはじめ市場は投資家のプレッシャーみたいな形でインセンティブをかけようとしていますけれども、ここは結構よりサステナ文脈よりもインセンティブになっているかどうか微妙なラインといいますか、御存じのとおりトランプ政権にじき替わるということで、アメリカでもDEIに対する市場の見方は冷えてき始め、さらに今まで以上に逆風が吹くのではないかということが言われ始めていますけれども、そうなったときに日本でもそのインセンティブが働きづらくなるみたいなことは十分考えられるのかと思います。

一方で、先生も御指摘のように消費者を企業は意外に見ている、気にしているというのは本当にそのとおりだと思いますので、逆にそういったDEIやサステナブルに関するインセンティブよりも、この消費者保護に関するフレームを少し変化させることによって消費者保護に取り組むインセンティブ、あるいは消費者や消費者団体との対話をしていくインセンティブは、より企業にとっては身近なものである可能性が高いとも思います。

すみません。全然直接的なお答えになっていないかもしれないです。

○加毛委員 実務のご経験に即したご回答をいただき、ありがとうございました。大変勉強になりました。

○水野弁護士 ありがとうございます。

○沖野座長 ありがとうございます。

もう時間ではあるのですが、河島委員からも御発言をいただきたいと思います。河島委員、よろしくお願いいたします。

○河島委員 御報告ありがとうございます。青山学院大学の河島と申します。

とても分かりやすく、聞きやすい報告でありました。

1点詳しくお聞きしたいことがあり、発言の機会をいただきました。

時間が限られていますので簡潔に申しますと、スライド9でリスクベースの規律について書かれています。AI Actなどでもリスクによって規律の方法を変えていくアプローチが取られておりまして、あり得る有望なアプローチかと思っておるのですけれども、おっしゃっているのは、リスクマネジメントのアプローチを使って発生確率と影響度を組み合わせて消費者のリスクを類型化して、例えばどのような消費者法制度が対応しているのか、あるいはこれから対応していくべきなのかというマッピングをつくっていったりすることなのでしょうか。この辺り、簡略化して御説明なされたので、もう少し水野先生の御意見をお聞きしたいと思いました。よろしくお願いいたします。

○水野弁護士 ありがとうございます。

非常に鋭い御指摘で、まさにここはさらっと過ぎようとした意図が実はありました。でも、私のイメージしていたのは、河島委員のおっしゃったようにまさにEU AI Actのイメージを持って、発生確率とインシデントの大きさ、影響力の大きさをリスクと定義して、その類型化を図るというアプローチを想定していたところです。

少しそれに敷衍する形になりますけれども、先ほどのガイドラインの遵守の適法性推定みたいなことなどもかなりEU AI Actを意識しているところでは実はありまして、御案内のようにEU AT Actでは一部の基準をコード・オブ・プラクティスやコード・オブ・コンダクトという形で、企業に自主的に、主に企業ですけれども、企業だけではないかな。様々な国際協調の中でいろいろな方に参加してもらって、基準、ガイドラインみたいなものをつくっていくという立てつけになっておりまして、そういったものをある種遵守している限りにおいては適法性を推定していくみたいな、そういうアプローチが見てとれるのかと思っておりまして、御指摘いただいたようにそういったアプローチと親和性があるのかと考えておりました。

○河島委員 よく分かりました。ありがとうございました。

○沖野座長 ありがとうございました。

会場からも御発言いただきたいと思いますので、大屋委員、お願いします。

○大屋委員 慶應義塾の大屋です。

先ほどの大澤委員とのお話を聞いていて思ったことだけ言わせていただきます。

恐らく消費という言葉には二つの大きな意義があると考えたほうがよいだろうということで、もともとのオリジナルの意味は、使ったら消えてしまうというところだと思うのです。「消える」「費やす」ということですから。例えば事業者の場合でもエネルギー消費といった場合の消費はこの意味であると。ところで、事業者の場合にはそうやって何かを消費したものが大体物に化けて製品が出てくる、生産につながってくるわけです。ところが、我々人間が例えば何かを食べると、それは何にもつながらなくて、文字どおり消えてしまう。もう一つは、そうやって消えさせるためにそのものを手に入れてこなければいけない。この手に入れることを我々は消費ということでもう一度呼んでいるわけですね。例えば服を考えると、それは我々が着ている過程で徐々に消費されていく。第1の意義からするとそうなのですが、空中から湧いて出るわけではないので、消費するためのものを購買してこなければいけない。この購買のことを、我々はもう一つ消費という言葉で言っていると。こちらの消費は消費者にしか実はほとんど関係がなくて、また、そこでは生産につながらないという意味でその消費が行われていると我々は言っておるのだと、そう言えるのではないか。

そうすると、先ほど出てきたアテンションエコノミーなどの場合は、オリジナルの意味での消費が行われているわけですね。つまり、我々の限りある人生の時間がそこで使い潰されていく。しかし、その事前の段階の購買行動がない、金銭のやり取りがないので、第2の意味の消費という理解からすると、違和感がそこに残るということなのかと思っていましたということです。

○水野弁護士 そういう意味では、消費という言葉を使うことにも妥当性があるということだと思いました。概念の区別について勉強になりました。ありがとうございます。

○沖野座長 ありがとうございます。

消費については非常に難しい問題があると思っておりまして、余計なことを申し上げますと、例えば売買で物を入手してきて、そしてその物を消費する場合には、物自体が消費の対象で、それからそれを購入するために契約をしているということがあるのですけれども、そこで消費に着目していたときに、今までどの部分を想定してきていたのかというと、金銭を費消しているという点なのか、物を消費する、必ずしも使ってなくなることばかりではなくそのまま使用することもあるのですが、生産には結びつかない、そのことを言っていたのか。むしろ後者と思われます。そうすると、先ほど来、情報、時間、アテンションを消費している、費消しているということは、消費者が持っているもののほうについて、つまり事業者から受けたものではないという部分について、金銭以外のものを費消しているという形で転換が起こっているということもありますので、その意味でもそれを消費と言うのかという問題があり、あるいは逆に事業者から何を受けているのかという問題が出てくるのかと伺っていて思いました。ただ、このこと自体はさらにいろいろ詰めていくということで、先生の御報告のおかげで一層観点が明確になったように思っております。

既に時間を超過しているのですが、申し訳ありません。水野先生、もうちょっとお付き合いください。あとお一人御発言いただきたいと思います。

二之宮委員。

○二之宮委員 二之宮です。御説明ありがとうございました。

私はふだん京都で弁護士をしておりまして、消費者問題、消費者被害などに弁護士になったときからずっと取り組んでおります。

最初に先生は今日どうして呼ばれたのだろうとおっしゃっていましたけれども、私などからすると、違う視点でお話を聞くと非常に興味深くお聞きできました。

このパラダイムシフトの専門調査会でどう実効的な規律をつくるのかといったときに、私が頭の中で考えていたのは、遵法意識の高い層、中間層、悪質層と、それに刑事ルール、行政ルール、民事ルール、あるいはそれに消費者団体などのアクターを配置して、漏れがなくどうルールを整備していくのかを念頭に置いてこれまで議論に参加していました。

先生の今日のお話を聞いて、悪質な層、違法な犯罪行為を行うところには厳しく処罰すべきだ、そこはもう切ってしまうべきであると。その後にルールをどう配置するかだけではなくて、今日のデザイン思考というお話を聞いて、それだけではなく中間層の悪質層寄りだとか、そういうところをどう中間層へ、また中間層から良質な健全層へ動かすのかと。中間層を良質層へインセンティブを与えて持っていくことによって、ルールを配置、整備するだけではなくて全体として流れをつくる、動きを持たせるということが必要であると感じました。そこどう考えていくのかという意味で、今日は非常に興味深く聞いておりました。

また別の視点で見たときに、4ページに先生がおっしゃっている法とは生活を「心地良く」「豊か」にするためのツールだということが書いてあります。これもおっしゃるとおりだと思って聞いておりましたけれども、他方で、全国の消費生活センターに寄せられる相談情報、これが全国で集約されている相談件数が出ているのですが、毎年90万件ほどで高止まりしている。そうすると、いわゆる悪質事業者の目線で見るならば、今の法というツールはまさによからぬことをやりやすい「心地良い」「豊か」なツールになってしまっているのではないかという見方もできなくはないと思います。

先ほど先生がおっしゃったまずは違法行為、犯罪行為を行うところは処分する、刑罰を科す。そうではないところで、共創していく、共に創っていくアクターとして消費者が参加しつつ、行政は行政処分を行い、消費者団体もそこに乗り出していって一緒に処分的行為を行う、一緒に行うことによって情報や手段などを交換し合って、より中間層へ持っていく形もあり得るのかと思って聞いておりました。

感想めいた話ですけれども、非常に参考になって勉強になりました。ありがとうございました。

○水野弁護士 ありがとうございます。

まず、強調しておきたいことは、今日の私の発表はこれまでの消費者政策や消費者法制度を否定するという意味ではなくて、御理解いただいていると思うのですけれども、全くそういう側面ではなくて、二之宮委員のおっしゃったように悪質な事業者に対する適用、執行を強化していく方向性は、私も大前提としたいという考えがあります。

今の消費者法制度が悪質な事業者にとって「心地良く」「豊か」になっているかもしれないというのは非常に考えなければいけないことで、私がなぜ「心地良く」と「豊か」にかぎ括弧をつけているのかということなのですけれども、誰にとって何が「心地良い」か、「豊か」か、あるいはグッドなのか、よいのかということは、それは法を使う私たちが決めていくことで、そこは多様な価値観が含み得ると思っています。ですから、現在の消費者法制度に対する評価は置いておいて、二之宮委員がこれまでやられてきたこととか、私も一実務家、弁護士として、消費者問題に関わっているあるいはいろいろ難題をクリアしてきたその分野の先生方のこれまでのお仕事を本当に尊敬しています。

何が言いたいかというと、それを矛盾したいこととか、そういったものが弱くなっていくあるいは保護は置いておいてイノベーションといった側面を重視していくべきだと言いたいわけではなくて、ただ、そういう側面も付加して検討することも可能なのではないかと、その程度の提案だと御理解いただければと思います。ありがとうございました。

○沖野座長 ありがとうございました。

水野先生におかれましては、貴重な、また示唆に富む御報告をいただきまして、ありがとうございました。さらに、貴重なお時間を費やしていただいて延長して御回答いただき、ありがとうございます。

この後、後半に進みますけれども、関連する議論も出てこようかと思いますので、もし差し支えなければ引き続き御参加いただけますと幸いです。

○水野弁護士 終わりまでいるつもりです。お願いいたします。

○沖野座長 どうもありがとうございます。よろしくお願いいたします。

続きまして、民法を専門とされている西内康人教授に契約法・法と経済学の視点から御意見をお伺いしたいと思います。西内先生から既存の枠組みにとらわれず消費者取引を幅広く捉える民事規律の在り方につきまして「消費者法の再設計-社会科学の知見を前提に」というテーマで20分程度御発表いただきまして、その後に質疑応答、意見交換をさせていただければと思います。

それでは、西内先生、お待たせいたしました。よろしくお願いいたします。

○西内教授 報告の機会をいただきまして、ありがとうございます。御紹介にあずかりました京都大学の西内と申します。

専門は民法、消費者法、法と経済学でありまして、民事法全体を経済学その他社会科学と結びつけて法学を含めた社会学全体の観点から分析をしている形になっています。

本報告では、消費者法について、以上のような社会科学全体の観点を前提に分析をする私の問題関心から消費者法の一定の再設計ができないかという試論を述べさせていただこうと思っております。

本報告は以下のような順序になります。2では、消費者法の適用範囲の問題を取り上げさせていただこうと思います。3では、この適用範囲を考える上で問題となる消費者の特性としての最近注目されている脆弱性という問題を取り上げようと思います。4では、判例の具体的な分析を行動経済学の助けを借りて行うことで、消費者法の発展可能性を示せるのではないかという一試論を示させていただこうと思います。5で、若干のまとめという形で本報告を閉じさせていただこうと思います。

次のスライドをお願いします。2.消費者法の適用範囲なのですけれども、消費者法の適用範囲は、水野先生の御報告でもあったのですけれども、事業者概念と消費者概念の対比という形で決まっているということが現状になっています。これらの概念の区別基準としては少なくとも二つの方向性がありまして、事業者概念を確定していく方向性、もう一つが消費者概念を確定していく方向性だろうと思います。

次のスライドをお願いします。このうち、まずは事業者概念を見ていこうと思います。事業者概念を確定する際の問題としては、事業者の側に特有の規律が少なくなっていること、意義の不明確化が問題になっているのではないかと思われるところになります。例えば事業者の典型例は、商法、会社法にいう反復・継続性のある営利活動を行う商人となるわけですが、自然人である商人に適用される特別規定は、2017年の民法改正でかなりの部分は解消されているという形になります。また、会社というものについて見てみますと、一般社団法人法ひいては信託法などもそうなのですが、会社法の規律が多く導入されておりまして、法人その他これに類する法律関係に特有の規律というぐらいにまで会社の規律については希釈化されておりまして、商人、事業者に特有の規律はなかなかなくなっているのではないのかというところは問題になるのかと思います。

次のスライドをお願いします。では、事業者、消費者という対比のもう一方の極、消費者概念から対比が明確化できるのかという問題を次に扱っていこうと思います。難しくなっているように思われるところになります。ここで問題になっているのは、消費者を取り巻く経済活動の変化並びに消費者概念の核であるところの情報・交渉力に代表される能力の多様化になろうかと思います。例えば経済活動という面だと、フリマアプリなどのネットオークションの隆盛に見られますように、従来消費者として活動してきた者が反復・継続的に売主となって利益を獲得できる環境が整っているように思われます。また、能力という面だと、既に述べた法人や類似団体でも事業者として扱うことは問題がないのかという問題が関係するわけではあるのですが、一方で、ネットオークションで大量の取引をしている場合には、他の取引に役立つような経験を積んでいる結果として、消費者として扱わなくてもよい例が場合によってはあるのではないかと思われるところになります。他方で、後に3で述べる脆弱な消費者のように、消費者の中でもさらに保護を要求されるカテゴリーも存在することになりそうだと思います。

また、保護すべき消費者の経済活動との関係での注目点として、アテンションエコノミーのように消費者側から支払う対価として観念される重点が金銭から広告や情報、個人情報、コンピューターやスマホの処理能力に変化しつつあり、消費者契約法8条ないし9条のように消費者の金銭的な不利益に注目してきた伝統的な消費者の制度と合わない取引が多くなっているように思われます。これを取引と呼ぶのかという問題はあるわけですが、規律しようと思うのであれば取引法という形になるのだろうと思いますので、そういったものが合わなくなっているのではないかと思われるわけです。しかも、こうやって消費者側から得られたものを、例えば広告であれば他の事業者からの金銭支払いを受けるように、事業者は相手方たる消費者以外の者から金銭化する点で従来の取引とは違った特性が現れているといった点で、事業者の相手方の何を保護しなければならないのか、またこの保護にとって消費者概念というものが適当か、これが問い直される時期に来ているのだろうとは思われます。

次のスライドをお願いします。以上を踏まえて、今後は事業者概念、消費者概念の扱いについてどのような方向性があるかですが、三つの方向性があるように思われます。第1にということで、このスライドなのですが、事業者概念、消費者概念の概念上の入り口をやめてしまって、つまり二分法をやめてしまって、個別の状況に細かく注目するという方向性はあり得るのだろうと思います。これは状況の濫用のように一般条項的な条項で考慮要素の考量で問題を解決する、比較考量で問題を解決するという方向性と通じるところはあるだろうと思われます。

私自身はこういった方向性も一般的には魅力的だとは考えておりまして、しかも巨大プラットフォーマーによるサジェストが我々の選好に合致してきているように、AIなど個別の状況に適合的な判断をコンピューターなどの処理能力の助けを借りて行う、そういった可能性は法的な問題を考える側面でも出てきているように思われるところではあります。

しかしながら、これだと典型契約などに見られますように、法的な物の考え方、思考経済というものには反してしまうようには思われます。とりわけ、裁判官や国民生活センターの相談員などといった消費者救済の担い手にとってあまり使い勝手がよくないタイプの法になってしまう可能性は考えられるところではありまして、ひいては消費者契約法10条などのような一般条項が射程は広いにもかかわらずあまり使われないというように、適用者にとっての基準のなさがかえって適用を妨げる、そういう事態に陥りかねないようにも思われるところになります。

次のスライドをお願いします。第2に、先ほど見た事業者概念の精緻化を図るという方向性もあり得るのだろうと思います。事業や法人、団体という概念に注目して事業者を確定して残余を消費者とする消費者契約法はあくまでこの方向性ですし、伝統的には有力な方向性でして、こういった伝統的に有力な法学の方向性の蓄積を利用できるという意味では有力な方向性だろうと思われます。

ただ、伝統的に有力であるからといってこの方向性にこだわる必要性は必ずしもないのではないかとは思っております。とりわけ、既に述べたように事業者の典型例であるところの商人や会社に結びつけられるような特別な法的効果、責任というものは少なくなっている現状が存在しておりまして、これに照らしてみると、この方向性は昔に比べるとかなり疑わしくなっているのではないかと考えられるところになります。

次のスライドをお願いします。そこで、第3に、消費者概念の精緻化によって問題の解決を図ることが一つのよい方向性なのではないかと個人的には考えております。つまり、消費者特有の弱さとこれによる悪影響のメカニズムの解明、こちらに注力したほうがよいのではないかと思うわけです。もちろんこの方向性を取るとしても、巨大なプラットフォーマーのような競争法上の問題も出てくる特別な事業者とこの責任は今後さらに重要性を増していく可能性はありますし、これに関する特別法という形で対処を行う、この方向性はあり得るのだろうと思うのですけれども、これは別カテゴリーとして、つまり消費者の区別のために見るべき対象というよりは、特に規律されるべき事業者を別のカテゴリー、別の法律で切り出す、そういった方向性のほうがよいのではないかと考えられるわけです。

次のスライドをお願いします。その上で、どのような消費者の特性に注目するべきかという問題を次に見ていこうと思います。この点で参考になるのが消費者の脆弱性に関する議論でして、消費者の脆弱性に関しては三つほどの脆弱性にまとめられているのだろうと私は認識しております。

第1に、消費者の属性的とも言えるような脆弱性だろうと思われます。若年、老年あるいは障害といった本人の一定の属性によるところの類型的な脆弱性が考えられるわけです。また、このような点について貧困のような金銭的な脆弱性、こちらも本人の努力によって動かし得るものとしては限りがあるところではありますので、属性による脆弱性に含めることができるのかと思うところになります。

第2に、消費者の心理的な脆弱性もあり得るのだろうと思います。つまり、行動経済学などが明らかにしてきましたように、完全合理性ではなく限定合理性しか持たない、そういう消費者の側面に注目することが一つあり得るのだろうと思われます。そして、このような観点は、以上の属性的な脆弱性では捉え切れないより一般的な脆弱性が存在するという主張として注目を集めてきたのだろうと思われます。

第3に、消費者の状況的な脆弱性もあり得るのだろうと思われます。つまり、訪問販売や電話勧誘などを通じて狙い打ちにされることであったり、デジタル化によるダークパターンの利用など、以上のような脆弱性が探知されたり、作出・強化されると。例えば行動経済学的に心理的に弱い部分が探知されたり、あるいはそれを強化されてしまう、そういった場面を問題視しているように思われるような脆弱性があろうかと思われます。

次のスライドをお願いします。その上で、脆弱性の精緻化の試みを行っていこうと思うのですが、以上のような脆弱性は一見してもっともであるものの、関係がよく分からないところがあるのだろうと思うところになります。とりわけ、貧困のような金銭的な脆弱性は、人と関係する属性という点ではほかの属性的な脆弱性と同様のカテゴリーにくくることも可能であろうと思うのですが、これを脆弱性と呼ぶのかと言われると、若年性などのように人自体の属性に注目していくこととの比較では、人自体からやや離れているようなところが多いという点では問題があるように思われるところになります。このような金銭的な脆弱性に注目して整理することの一つの試みとしては、次のように言えるかもしれないというところで、二つの整理があり得るのだろうと考えられるところになります。

第1に、狭義の適合性原則などで問題とされてきましたように、例えば高額・高リスクの金融商品を購入することによって生活全体が破壊されてしまうリスクと結びつけるという方向性があります。つまり、その人の金銭的な能力、金銭的な資産の問題として、一定の高リスクな商品を購入することによって生活全体が破壊されてしまうと。だからこそこういったものについては購入させないようにする、そういったパターナリスティックな介入を問題にするような、そういう脆弱性の捉え方があり得るようには思われます。

そのほかに、第2にということなのですが、より直接に認知能力や自己抑制能力と結びつける方向性があり得るのだろうと思われます。例えば経済学者と心理学者の共著による研究では、金銭的な欠乏状態が認知能力に影響を及ぼすことは知られているところになっています。お金がない状態と認知的な負荷という状態は法学では直観的に認識されてきたと思われるわけなのですが、経済学や心理学の最近の研究に即してより詳細にアップデートされることにより、介入が特に必要な場面が特定しやすくなっているのではないか、このような状況が生じているのではないかと考えてはおります。

次のスライドをお願いします。これらに加えてさらに2点、特に第2の認知能力や自己抑制能力について述べた点と関係して追加的に述べさせていただければと思います。

追加の第1点目として、金銭的な困窮状態に一応は注目したわけではありますけれども、例えばこの金銭的な困窮状態は、消費者の属性的な脆弱性にあった障害などの金銭的な稼働能力が低い状態とも結びつけることが可能であろうと思われるところになります。こういった点を含めて脆弱性概念に統一的な理解をもたらす可能性が、さきに紹介した経済学や心理学の研究に照らして生じているのではないかと考えることができようかと思います。

また、追加の第2点ということなのですけれども、金銭的な困窮状態も含めた欠乏ということについては、ここでは金銭に焦点を置いてお話ししたのですが、さきに紹介した研究では、心理的な欠乏状態、例えば時間的な余裕のなさや心理的な負荷、病気などによる心配事によって認知リソースが占有されてしまうことによっても二次的な影響、つまり認知的な影響や判断能力に関しての悪影響が出ることが説かれております。したがって、そういった時間的な欠乏や心理的な負荷という点からも、脆弱性を統一的かつ誰にでも起こり得るようなこととして理解することは可能ではないかと考えるところになります。

以上のようにまとめると、脆弱性は心理的脆弱性という第2の点、状況的な脆弱性という第3の点のみならず、属性的な脆弱性という第1の点についても認知的な問題を中心にまとめることができるのではないかと、そのように考えているところになります。

次のスライドをお願いします。その上で、以上のような脆弱性で示された認知的な問題を踏まえて消費者法に具体的な改善をもたらせる何かがないかを考えてみることにしたいと思います。時間も限られておりますので、今回の報告では行動経済学の観点から一判例の分析を通じて内容規制の深化可能性を考えてみたいと思います。

次のスライドをお願いします。候補となるのは、一般条項として消費者契約の内容を無効にする可能性を認めている消費者契約法10条という形になります。というのは、消費者契約法はあまり使われているとは言えない状況でして、この活性化の余地があると考えられるからとなります。

この問題を考える上で参考になるのが、最高裁の平成23年7月15日の判決になります。本件は、被告Yから居住用建物を賃借した原告Xが、更新による支払いを約する条項が消費者契約法10条または民法90条に違反して無効であるとして、Yに対して不当利得返還請求を行った事案となります。本報告で関心があるのは、信義則違反により消費者契約を一方的に害する点を問題とした消費者契約法10条の後段ですね。こちらの適用問題になります。

すなわち、この部分の判断を総合考量で行うというところが枕言葉で存在しているわけではありますが、具体的な当てはめとしては、更新料条項には賃料の補充など「対価等の趣旨を含む複合的な性質」を持っており経済的合理性があるとした上で、②ということで「賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料条項は、③更新料の額が賃料の額、賃貸借契約が更新される期間等に照らし高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り」消費者契約法10条違反にはならないという形で判断しているものになります。

次のスライドをお願いします。この消費者契約法10条の枠組みは、一面では私が研究を通じて過去から主張してきたように、民法90条での規制根拠とほぼ同様の考え方を用いる可能性があるのだろうと考えてはおります。すなわち、契約は契約時点から見て両当事者の利益の改善を通じて効率性の向上、利益の向上を図るものと見ることができるものであるところ、一方では、一方当事者の不利益から心理的バイアスの存在と、これによって一方当事者の不利益が他方当事者の利益より大きい状態、すなわち非効率な契約に入っている可能性を推定する可能性があるのだろうと思われるところになります。他方、一方当事者の大きな不利益で他方当事者が利益を得ている状況は、この利益を獲得しようとして様々な投資が行われる。例えば脆弱な消費者を探知しようとする、あるいは脆弱な消費者をつくり出そうとする、そういった形の投資を生む可能性がありますので、こういった行為、レントシーキングという形で呼んでおりますけれども、通常の取引では得られないような剰余、利益を獲得しようとする形での無駄な投資が行われるというように捉える余地があるのだろうと思われます。

このように見ることと、平成23年判決の③が整合的だろうと思われるところになります。つまり、主として当事者の不利益に注目しているわけなのですけれども、一方的な不利益の大きさに注目することで、こうした状況が生じる場合の過小評価という楽観主義バイアスや自信過剰バイアスというものを推定することができ、そしてそれによって一方的に不利益な契約、ひいては不利益の額のほうが利益の額よりも大きい、そういった契約に入ってしまう可能性を考えることができるのだろうと思われます。また、同じようなことではあるのですが、不利益が将来のものであることを考えると、こういった不利益を過小評価してしまうといった近視眼バイアスの影響も考えることができるところになりまして、このような意味でも非効率な契約であるという推定を働かせやすいような類型なのではないかと考えているところになります。

次のスライドをお願いします。ただ、民法90条と消費者契約法10条の後段、こちらは私は基本的には連続的なものと捉えているわけではあるのですが、全く同じになるわけではないとも考えてはいます。

特に、無経験、無思慮、窮迫という状況を一方的に利用して一方的に高い利益を上げることを民法90条で規制する暴利行為論というものがあるわけですが、こちらとの比較では次のように言えるかと思われます。すなわち、消費者について問題となる心理的バイアスの影響を見ると、この点は次のように言うことができようかと思います。すなわち、平成23年判決の②の部分なのですが、賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載されたということ、これに注目して、消費者契約法10条後段違反を否定している部分については、利用可能性バイアスの存在が前提とされているように思われるところになります。すなわち、心理的バイアスの一種として、想起しやすい内容についてはこの発生や重大性を過大評価してしまうという、逆に言うとこういったものでなければ想起可能性や発生確率を過小評価してしまうという利用可能性バイアスが存在しているわけなのですけれども、このバイアスの影響を受けないような状況であることが②の当該部分では示されているのではないかと思われるところになります。逆に言うと、こうした状況にない条項については、考慮の対象からは除かれてしまい、消費者は自らに不利益であっても契約に入ってしまう可能性が高くなるように思われるところになります。

この利用可能性バイアスと関連して、考慮対象の限定に関する問題も存在しています。例えば自動車を購入する場合、考慮すべき項目としては様々なものがある反面、一時期の過激とも言えるような値引き競争などにも現れていたように、消費者は分かりやすい一定の指標のみに注目して購買行動を行いがちでありまして、別の指標が考慮対象から除かれてしまうという問題があります。契約条項についても、価格やそれに近い条項あるいは社会的に注目を集めている条項以外は、そのようにそもそも考慮の対象から除かれてしまう、そのように言いやすいように思われるところになります。

このように見ると、対価という平成23年判決の①の問題と関係しつつも、②のような具体的な摘示がないと消費者契約法10条の規制から除かないとしているのは、利用可能性バイアスや考慮対象の限定から正当化されるように思われるところになります。

また、暴利行為論において心理的バイアスを大きくしていると推定させるための要素として考えられるところの窮状利用の要素ですね。つまり、無経験や無思慮、窮迫といった要素をこの消費者契約法10条の場面では明示的には使わないことも正当化できるように思われるところになります。すなわち、以上のような利用可能性バイアスや考慮要素の限定という消費行動は窮迫状況でないような場面にも広く見られるところでありまして、消費者側には不合理な不利益が存在していることは、楽観主義バイアスなどの影響が弱かったとしてもそのような点から説明できるのではないかと考えられるところになるからです。

以上のように、行動経済学というものを通じて判例の理解、深化と、消費者契約法の具体的な規定の発展の方向性を示すことができるのではないかと私は考えているところになります。

次の最後のスライドをお願いします。以上、従来私が主張してきたことの関係ではあまり新規性がなくて、かつまとまりのない話をさせていただいたわけなのですが、消費者概念の確定の必要性であったり、あるいは脆弱性概念の認知的な問題からの理解、あるいは行動経済学に照らした消費者契約法10条の理解といった社会科学全体の知見を前提としてこそ見えてくる法的に対処すべき問題と、この対処すべき問題に対しての一定の方向性を示すことができたのではないかと思うところであります。今後の御議論等があれば幸いと思います。

御清聴ありがとうございました。

○沖野座長 西内先生、ありがとうございました。

西内先生の御発表内容を踏まえまして、質疑応答、意見交換をしていきたいと思います。いつもと同様、御発言のある方は挙手あるいはオンラインの方はチャットでお知らせいただければと思います。どなたからでもどの点からでも結構です。いかがでしょうか。よろしいでしょうか。

二之宮委員、お願いします。

○二之宮委員 二之宮です。御報告ありがとうございました。

15ページ、16ページのところをもう少し詳しく教えていただきたいと思って、質問させてください。

10条の理解に関して、90条の連続性と90条との違いということが書かれています。ここでは楽観主義バイアス、自信過剰バイアス、利用可能性バイアスや考慮要素の限定という消費行動、90条との違いのところでは、この利用可能性バイアスや考慮要素の限定という消費行動は窮迫状況がなくても誰にでもというか消費者には見られるのだから90条と違うということが書かれています。この連続性と違いのところは理解できたのですが、10条をこのように判例を通して見たときに、10条の適用範囲をもっと広げることができると考えていいのか、あるいはそうではなくて、ここからヒントにして10条とは違った形でミニ公序良俗違反といいますか、そういった新たな規律の在り方が見えてくるのではないのかとか、ここら辺を通じてどういったところを今後このパラダイムシフトの中で位置づけて、法制度、規律、グラデーションをつけていけばいいのか、その辺を教えていただけるとうれしく思います。

○西内教授 消費者契約法10条というものについて、現在まで発展可能性を示せるのか、それともある程度それ自体も変化させていく可能性があるのか、前半部分はこういうお話だと聞き取れたのですが、そういった御趣旨でよろしいですか。

○沖野座長 それで一旦お答えをいただければと思います。

○西内教授 そういったことを前提にお答えいたしますと、消費者契約法10条に関して、消費者契約法10条自体は柔軟な枠組みではありますので、解釈というものを通じて具体化、そしてそれを使いやすいものにすることはできるのだろうと考えているのが私の立場とはなります。そのような観点からというところで、消費者契約法10条というものについて、民法90条などで蓄積されてきたような判例や学説、これらのうちでも利用可能性があるものについて、それをある程度活用できるような枠組みをつくり出すとともに、消費者契約法については途中でも示しましたように、消費者の認知的な影響あるいは心理的な脆弱性、この辺りが中心的な問題になっているのだろうとまとめることもできようかと思いますので、そういった認知的・心理的な脆弱性が出やすいような場面についてカテゴリー化するような形で規律の方向性を解釈において探ることが一方ではあり得るのだろうと考えているところにはなります。

他方で、このままでいいのかとか、改定の方向性があり得るのかというところなども考えると、一つあり得るのは、任意法規を基準とするということで、任意法規違反をどのような意味として見るのかなどが考えられるところだろうとは思われるところで、任意法規違反の意味などについては、ここで述べてきたような心理的な影響などを中心に考えることもできようかとは思うのですけれども、ただ、そこに関しての直接的な影響があるのかないのかと言われると、あまりないのではないかというところが考えられるところでありまして、かつ心理学や経済学の文献などを見ても、そういった任意法規、デフォルトルールからのずれだけでそもそも何かしらの規制すべき状況は推定できるのか、逆にこういった任意法規がそもそも存在しなかった場合などに何かしらの規制の必要性がないのかということなどについては、なかなか正当化が難しいところではないかとは思います。任意法規に違反するとかその辺りの部分については、規律を行う上での一つの重要な考慮要素になり得るのかもしれないものの、そういったものについては将来的な方向性としてはなくしていくというか、必須の要件というよりは考慮要素の一つという形で落とし込む、そういう方向性もあり得るのではないかというところにはなろうかと思います。

すみません。御質問を誤解していたら申し訳ないのですが、以上のような形になります。

○沖野座長 ありがとうございます。

消費者契約法10条の分析として平成23年の判例を取り上げられて、それが90条の枠組みからどう評価されるのかを展開された上で、90条との違いも御指摘いただいたのですけれども、そうすると、消費者契約法10条の見直しやあるいはミニ一般条項の規定の在り方についてどういった示唆になるだろうかということが、あるいは二之宮委員の御指摘だったのかと思いましたけれども、今のお話は言わば第1要件ないし前半要件を考慮要素にして、後半要件だけで、信義則に反して一方的に不利益かというところの考慮要素として入れてくる、それによってより柔軟化するというか、適用対象があるいは広がる、そういうお考えということでしょうか。

○西内教授 そうなるのではないのかというところですね。実際に任意法規それ自体も不文のものも含むという形でかなり拡張的に捉えられているのが消費者契約法10条の前段の要件かと思いますし、実際にそこがクリアされても後段のところで詰まってしまうということが現在の消費者契約法10条の適用の問題なのかと考えられるところではありますので、前段が持つ意味についてはいずれにしても何らかの捉え直しは必要なのではないのかと考えるべきなのかと考えているところにはなります。

○沖野座長 二之宮委員、よろしいですか。

○二之宮委員 すみません。質問が聞こえにくかったようですけれども、質問の意図は酌み取っていただきました。ありがとうございました。

○沖野座長 ありがとうございました。

そうすると、不利益であることの評価を何を基準にするのかという問題はありそうですけれども、消費者契約法10条の前半要件はかなり形式的、機械的にクリアすることが多いようにも思われますけれども、他方で、裸の不利益というものをどのように評価したらいいのかという問題もあるようには思いました。これは感想です。

そのほかにいかがでしょうか。

大屋委員、お願いします。

○大屋委員 慶應義塾の大屋でございます。

全体的におっしゃるとおりだと思って聞いていたのですけれども、1点だけ確認したいのは、事業者、消費者それぞれの概念の精緻化によってこの状態を解決するのは非常に難しいという見立てをされているわけですけれども、今日お話しされたような事業者というものに対する固有の規律が減少しているとか、消費者側について特有の弱さに集中したほうがよいのではないかということを挙げておられるわけですが、それ以外に、これは水野先生の前半のお話と重なる部分が大きいのかと思っていまして、つまり単純に事業者といっても、結構強大で認知的な脆弱性がなさそうなちゃんとしたプロセスを踏めるような事業者と、それこそ一人親方やスタートアップ企業みたいにうっかりすると認知的脆弱性が出てしまうような主体もいるだろうと。あるいは逆に消費者と位置づけられていてもアクティブな消費者ですね。積極的に制度のハックをかけるような消費者も中にはいないわけではないとすると、そこはある種、重なりのある概念としてもうできてしまっているので、そういう切り分けではなくて、両者に共通してあり得るかもしれない認知的脆弱性のところで解決するようにしたほうがよろしいのだという話として伺ったのですけれども、このような認識で齟齬はないでしょうかという御質問であります。

○西内教授 そういった認識で齟齬はないだろうと私は思ってはおるところです。どうもありがとうございます。

○沖野座長 御確認いただき、ありがとうございました。

では、加毛委員が挙手されていますので、加毛委員からお願いします。

○加毛委員 西内先生、本日は大変ありがとうございました。とても勉強になりました。

質問は、本日の御報告全体を通じて明らかになる、西内先生の消費者法制ないし消費者契約法制の構想がいかなるものであるか、という点にかかわります。

消費者の脆弱性概念を認知の問題として捉えることについては、消費者が契約をする場面を前提とすれば、消費者問題が消費者の認知と結びつくという御主張は説得的であると思います。このような御指摘の背景には、民法の意思表示理論が、当事者の認知の問題を適切に把握する分析枠組みを有していないのではないかという問題意識があるのかもしれず、そのこともそのとおりであるように思います。

他方で、消費者の脆弱性が認知の問題であると統合的に理解することと、10ページにおいて消費者の脆弱性を三つに分類する分析的な枠組みが、どのような関係に立つのかが気になりました。2番目に挙げられている心理的な脆弱性は、生身の人間である以上、全ての者が多かれ少なかれ有しているという意味で、一般的な脆弱性であるように思われます。次に、第1の属性的な脆弱性は、年齢、障害等の病状、金銭的な困窮状態など、一定のグループの消費者に類型的に存在する事情に着目したものであると思います。以上に対して、第3の状況的な脆弱性は、これは言葉の使い方の問題なのかもしれませんけれども、消費者と取引をする事業者が脆弱性の探知あるいは脆弱性の作出・強化などの行為をすることによって引き起こされる脆弱性であると理解できるのではないかと思います。

そのように理解した場合、本日の御報告における重要なポイントの一つである、消費者概念を精緻化していくという場合に、消費者契約法の適用対象となる消費者の属性をどのように捉えるのかという問題と、規制の対象となる消費者契約をどのように切り出すのかという問題を区別して議論することもできるのではないかと思われます。第3の消費者の状況的な脆弱性は、事業者側の行為態様の悪性と結びつけて消費者契約法制の中に位置づけることもできるのではないかと思いました。

本日の後半部分で取り上げられたのは、消費者契約法の10条という一般条項性を有する規定であり、様々な要素の考慮の仕方を整序していただいたわけですけれども、消費者契約法における意思表示の取消しに関する規定などにつきましては、今申し上げたような形で、消費者側の事情と事業者側の行為態様の悪性を分節して規律することもあり得るのではないかと思いました。

この点に関連して面白いと思ったのが、7ページにおいて、個別の状況に着目すると基準が存在しなくなり、規定の使い勝手が悪くなるというお話をされたことです。使い勝手の良さという観点から、消費者契約法制をどのように構築することが望ましいのかという点に関して、西内先生のお考えをお聞かせいただけないだろうかと思います。

長くなりましたけれども、以上です。よろしくお願いいたします。

○西内教授 どうもありがとうございます。

御質問いただいた内容は、誤解をしていなければ脆弱性として捉えられる部分がまず存在していて、そちらに関して、第1、第2に関しては消費者というか影響を受ける側ですね。そちら側に注目しているところが中心であるのに対して、第3の部分に関しては悪性の部分ですね。事業者側が行う行動の悪性、あるいは行動と言っていいのか分からないのですけれども、アーキテクチャーや様々なダークパターンなどのように場というものをどのようにつくり出すのかというところも含まれる、そしてつくり出された場それ自体の悪性なども含まれるのかもしれないので、そういった意味では事業者側が行った行動あるいは設定した場、こういったものの悪性が捉えられているのであって、それらについて分節して捉えることができるし、それが適切である可能性もあるのではないか、そういうことではなかったのかと思われるところになります。

全体としてはそちらの観点から、そして消費者契約法上では10条だけではなくて取消しの場面などもあって、取消しの場面などだととりわけ事業者の悪性の部分が多く出てくるところもありますし、また、そういった点についていろいろと考えるということなどは、途中で述べたような使い勝手のよい消費者法制をつくる上で、個別具体的な状況は確かに重要なのだけれども、ある程度のカテゴリー化、類型化みたいなものも必要で、そういうところなどとどのように関係してくるのかというお話だったかとは思います。

私自身の見方としては、事業者の悪性というものを捉える上でも、消費者側にどのような影響をもたらす可能性があるのかを最終的には捉えざるを得ないと考えているところではありまして、すなわち事業者側の悪性といっても社会通念ということで伝統的には捉えてきたものが中心であろうと思われるわけなのですが、例えば詐欺や強迫における違法性の観念については、伝統的な教科書だとあれは社会通念上許容される限度を超えるかどうか、そういうところであったかと思われるわけなのですが、そういったところについても新たな取引類型が登場してくる場合などについては、社会通念が追いついてこない可能性はありますし、また新たな取引類型について、我々が優待など伝統的に培ってきた社会通念というもので適合的な形質をつくり出せるのかという問題もあろうかと思いますので、そういった意味でどのような影響を事業者の行動が最終的には消費者に与えるのか、そのような意味で消費者を中心として事業者行動の悪性を最終的には理解するべきではないのかと考えているところで、認知的あるいは心理的な脆弱性を中心に据えるべきではないかという主張をさせていただいたところになります。

ですから、私の中では事業者側の行動の悪性も一つの基盤で判断されるものという形でまとまっているところになりまして、そういったことを行った上で、最終的には条文をつくり出す場合などにはある程度のカテゴリー化は必要で、おっしゃっていただいたように消費者側に注目する脆弱性と事業者側に注目する脆弱性、これらを切り分けた上で要件化していって、具体的な4条のような条文などをつくり出したわけですね。あるいは内容規制などでも8条や9条などがあるように、そういった様々な個別具体的な内容規制の条文ですね。こういったものの精緻化をそういった方向性から行っていくことで、10条の負荷とでもいうのですか、それを軽くしていく方向性が使いやすい法制を考える上では必要なのではないかと考えているところになります。

以上です。

○加毛委員 ありがとうございました。まとまりのない質問を適切にまとめて御回答いただきました。

消費者契約法全体に通底する基礎的な考え方と、法制度を構築する際に、その基礎的な考え方をブレークダウンするうえでいかなる中間概念が有用なのかという点に関して、非常に有益なお話をいただいたと思います。

一言だけ申し上げると、二之宮委員の前半部分でのお話にも関わるかもしれませんが、法律の規定を作る際に、問題となる行為を類型化するとして、その類型があまりにも明確であると、当該規定を容易に回避できてしまうという問題があることから、ある程度の包括性・一般条項性を有する規定が必要とされるのだと思います。現在は消費者契約法10条がそのような役割を果たしているのだと思いますけれども、消費者契約法10条に解釈上の負荷がかかっているという現状認識を前提とするのであれば、その他に、包括性・一般条項性を有しつつも類型化された規定を考えなければならないのではないかと思ってお話を伺いました。大変ありがとうございました。

○西内教授 こちらこそ分かりづらい話をまとめていただいて、ありがとうございました。

○沖野座長 ありがとうございました。

そのほかにはいかがでしょうか。よろしいでしょうか。

私から1点だけ教えていただきたいのですが、今回の御報告も、大変示唆に富むものと思いました。それぞれの部分はよく分かったようにも思ったのですけれども、他方で、消費者法の適用範囲の問題の中で、消費者概念、事業者概念によって現在例えば消費者契約法であれば区画している、また消費者契約法の規律が実質的に総論的な話になっている、取引についてはという状況がある中で、その概念設定が事業者性あるいは事業性に着目した消費者と相手方の対比になっている、そのことの問題をまず言われたように思いまして、これは水野先生の御報告とも非常に共通してくる点だと思いました。

そのときに、最終的にはむしろ個別化していく方向もありながらも、類型が持つ意味を考えたときに、いずれかといえば消費者の概念を精緻化するほうが可能性があるのではないかと。そうしたときに、消費者の概念として脆弱性に着目し、その脆弱性をより正確に分析をしていただいたということになるとご報告をうかがいました。

この理解でよろしければさらにですが、そうしたときに、その消費者の概念のほうを精緻化し、脆弱性をより正確に捉えたときに、消費者法の適用範囲の問題としてそれがどのように扱われてくるのかがよく分からなかった点です。といいますのは、現在脆弱性の問題は、一方で定義というよりはむしろ介入の根拠といいますか、これも水野先生に御指摘いただいたところと思いますけれども、現行法が、事業性によって入り口は切り分けつつ、両当事者の間の情報・交渉力格差を捉えるのに対して、それだけでは不十分であって、消費者が持つ取引における脆弱性を捉えるべきだということで、その介入の根拠を明らかにすることによって、それぞれの規律の適用においてその観点を入れた解釈の展開ですとか、あるいは個別の規律の在り方についても見直していくことが考えられるのではないかと、それが一つの考えとして出されているのかと思います。

それから、それぞれの意思表示の取消し、条項の無効あるいはそれ以外にも損害賠償等、消費者契約法が必ずしも規定していないものについての展開もありますけれども、それぞれのルールの中で消費者の持つ脆弱性を入れてくる余地を要件化するとか、あるいは考慮要素に入れるとか、それはそれぞれのルールの在り方として考えるという話になるかと思います。一方で、適用範囲として消費者、事業者の概念を見直して今のような形で消費者の概念を精緻化するときには、定義自体をかなり変えるということなのでしょうか。そうしますと、どのような定義の在り方をお考えになっているかを教えていただければと思うのですけれども、お願いします。

○西内教授 ありがとうございます。

そう主張してみたものの、具体的にどう規律すればいいのかというところは分からないところが少なくとも現状だというところでは、私もそう思っているところでありまして、そのような意味で、最終的には消去法で事業者という概念を確定して消費者という概念を確定せざるを得ないところになっているのかというところではありますね。

ただ、しばしば指摘されるところではありますけれども、法人や団体に関して、消費者契約法上は事業者概念に該当してしまっているわけではありますけれども、法人それ自体が会社というものをある程度念頭に置いた上で、そして会社に関しては事業者であることは争いはないところではありますので、そうなっているのが現状だと思うのですけれども、他方で、個別の裁判例などではよく知られているところではありますけれども、任意団体のようなものや非営利団体、非営利の法人については事業者概念から外すべきではないのか、あるいは外した上で消費者の中に含めるといった裁判例等も存在するところではありますので、そういうものを適切に取り出せるようなものであったとして、入り口概念としては、現状の事業者と消費者の分け方から現在問題になっているようなものなどを消費者の側に移していく形で考えることぐらいの微修正で済むのではないかと思います。

消費者契約法はとりわけそういったところはあり得るところで、それ以外の部分、基本法などを考える場合の理念としての消費者というのですか、そういった場面などでは本報告のような一般的な考え方が生きてくる可能性はあるのかもしれないのですけれども、具体的な条文をつくる場合などだと、先ほど申し上げたような微修正にとどまるのではないのかということが認識になります。

お答えになっていなくて申し訳ないです。

○沖野座長 ありがとうございました。

任意団体などもここで言われる脆弱性を備えているという前提でよろしいでしょうか。

○西内教授 そうですね。団体というものなどは千差万別で、かつ事業者性の一つの要素としてしばしば金銭、お金もうけをするとか、その辺りの要素なども挙げられるのですけれども、そちらをどう捉えるのかどうかとも関わって団体や法人などをどう切り分けるのかという議論などは必要ではないのかと。申し上げたように認知的な弱さに関しては、一定の任意団体に関してはとりわけそれは強く現れるだろうと思われますので、そういった点も念頭に置きつつ、切り分けの議論などはそこを中心的に行う必要性があるのではないかと思うところになります。

○沖野座長 ありがとうございました。

時間を超過しまして申し訳ございません。

水野先生には残っていただいているということだったのですが、水野先生から何か御質問や御指摘はございますでしょうか。

○水野弁護士 ありがとうございます。私も大変勉強になりました。

先ほどもほかの先生からも御指摘がありましたけれども、思考経済という観点からの御示唆をいただいた点には、私自身もなるほどというところがありました。

また、私のプレゼンテーションは飛躍がかなりある部分があったと思いますけれども、西内先生の御発表と大きく矛盾するわけでもないと私自身は捉えて、安心というのも変な感じですけれども、西内先生の精緻なご議論と両立させ得る内容だったのではないかと考えました。

完全に感想ですが、ありがとうございます。

○沖野座長 ありがとうございました。両報告をつなげてまとめていただいたと思います。

既に予定の時間を過ぎておりますので、今回につきましては、これで切り上げたいと思います。

水野先生、西内先生におかれましては、大変貴重な御知見をいただきまして、誠にありがとうございました。

また、委員の皆様におかれましても、活発な御議論をありがとうございました。

それでは、事務局から事務連絡をお願いいたします。


《3.閉会》

○友行参事官 本日は長時間にわたりまして、誠にありがとうございました。

次回の会合につきましては、確定次第御連絡いたします。

以上です。

○沖野座長 ありがとうございました。

12月24日というこの時期にこういう会議を入れることの適否も問題となりそうですけれども、お時間をやりくりしていただいて、ありがとうございました。

本日はこれにて閉会とさせていただきます。

恐らく次回は年明けになると思いますので、よいお年をお迎えください。本日はありがとうございました。

(以上)