第14回 消費者法制度のパラダイムシフトに関する専門調査会 議事録

日時

2024年12月13日(金)10:15~12:01

場所

消費者委員会会議室・テレビ会議

出席者

(委員)
【会議室】
沖野座長、山本座長代理、加毛委員、河島委員、二之宮委員、野村委員
【テレビ会議】
石井委員、室岡委員
(オブザーバー)
【テレビ会議】
鹿野委員長、大澤委員
(参考人)
【会議室】
原田昌和 立教大学法学部教授
【テレビ会議】
大塚直 早稲田大学法学学術院教授
(消費者庁)
【会議室】
黒木審議官、古川消費者制度課長、原田消費者制度課企画官、消費者制度課担当者
(事務局)
小林事務局長、後藤審議官、友行参事官

議事次第

  1. 開会
  2. 議事
    ①有識者ヒアリング (原田昌和 立教大学法学部教授)
    ②有識者ヒアリング (大塚直 早稲田大学法学学術院教授)
  3. 閉会

配布資料 (資料は全てPDF形式となります。)

《1. 開会》

○友行参事官 定刻になりましたので、消費者委員会第14回消費者法制度のパラダイムシフトに関する専門調査会を開催いたします。

本日は、沖野座長、山本隆司座長代理、加毛委員、河島委員、二之宮委員、野村委員は会議室で、石井委員、室岡委員はテレビ会議システムにて御出席いただいております。山本隆司座長代理は少し到着が遅れると御連絡をいただいております。

所用により大屋委員、小塚委員は本日御欠席との御連絡をいただいております。

消費者委員会からは、オブザーバーとして鹿野委員長、大澤委員にテレビ会議システムにて御出席いただいております。

また、本日は、立教大学法学部教授の原田昌和様と早稲田大学法学学術院教授の大塚直様に御発表をお願いしております。原田教授には会議室にて御出席いただいております。大塚教授は御都合により11時頃よりテレビ会議システムにて御出席いただく予定となっております。

配付資料は議事次第に記載のとおりでございます。

一般傍聴者にはオンラインにて傍聴いただき、報道関係者のみ会議室で傍聴いただいております。議事録については、後日公開いたします。

それでは、ここから沖野座長に議事進行をよろしくお願いいたします。


《2.①有識者ヒアリング (原田昌和 立教大学法学部教授)
②有識者ヒアリング (大塚直 早稲田大学法学学術院教授)》

○沖野座長 ありがとうございます。本日もよろしくお願いいたします。

早速、本日の議事に入らせていただきます。

本専門調査会の後半の検討テーマである実効性の高い規律の在り方につきまして、消費者法制度における規律のバリエーションという観点から、既存の枠組みにとらわれず、消費者取引を幅広く捉える規律の在り方に関連した有識者ヒアリングを行いたいと思います。

本日は、民法のうち特に不法行為法・公序良俗論を御専門とされている原田昌和教授に将来の消費者法分野の民事ルールにおける不法行為法制や公序良俗論の活用可能性につきまして御意見を伺いたいと思います。原田教授から「不法行為の活用可能性など~消費者庁によるヒアリングを契機に」というテーマで15分程度御発表をいただきまして、質疑応答、意見交換をさせていただければと思います。

それでは、原田先生、よろしくお願いいたします。

○原田教授 立教大学の原田と申します。よろしくお願いします。

私はいわゆるプロパーの不法行為法の研究者というわけでは必ずしもないのですけれども、消費者取引等に関わる不当な勧誘の問題や公序良俗論との関係などを研究しておりまして、その関係で『論点体系 判例民法』という書籍があるのですけれども、そちらの不法行為の巻で消費者取引と金融取引に関する章を担当したということがございます。その後も消費者取引に関係して公序良俗違反あるいは不法行為についていろいろ見てまいったところでございまして、今日はこの後に大塚教授にヒアリングされるということで、より専門的な内容をお話しいただけると思うのですけれども、私なりに思いましたところをお話ししたいと思います。

ちょうど1か月ほど前に消費者庁の担当者の方からのヒアリングを受けまして、その際、専門調査会の方でお話いただきたいのだがというお話をもらいました。時間も短かったのであまり十分な資料にはなっていないのですけれども、そこから考えましたことやこれまで考えていたことなど、やや散発的な感じではあるのですけれども、まとめてお示ししたいと思います。今日は私もいろいろ勉強できればと思っていますので、よろしくお願いいたします。

まず、過日、ヒアリング事項としていただきましたのが二つございまして、民法の不法行為法における対応のメリットやデメリットなどと、選択の実質を保護するアプローチ、結果としての幸福を保護するアプローチなどについてと大きく二つの事項をいただいておりました。

ヒアリング事項の一つ目ですね。こちらは一般的に民法の不法行為だけでは対応が不十分と考えられる状況はどういう場合か、そのような状況に対して民法の特別法としての不法行為法制で対処しようとするメリット・デメリットはどのようなものかということでございました。

一般的に今回対象として考えられている事案が非常に広うございまして、一方ではデジタル取引のような場面から、もう一方では宗教取引における不当勧誘におけるお話までかなり幅広な事案を対象としておりますので、一般的なお話にはなってしまうのですけれども、個々の取引の無効・取消しで対応する法律行為法アプローチと比べると、不法行為アプローチのメリットとして従来言われているものを5つぐらい挙げております。

まずは原状回復以外の弁護士費用、慰謝料あるいは無駄になった費用など信頼利益などの賠償請求が認められるとか、一連の組織的・一体的な勧誘行為を個々の取引ごとに効力を考えるのではなくて接触段階からあるいは契約締結後の段階も含めて一連一体的な権利侵害行為、財産の奪取と捉えることができるということもよく言われております。また、使用者責任や共同不法行為の制度もありますので、実質的な指揮監督関係にある上位の組織あるいは契約の当事者ではない実際の行為者の責任を問うこともできる、責任を問うことができる相手が増えますので、それだけ被害者の救済にはなると。また、ややこれはもろ刃の剣でもあるのですが、過失相殺があることによって0:100ではない柔軟な金銭的な解決を図ることができる。また、消費者契約法4条などの要件に必ずしも当てはまらない場合についても、その他の事情も考慮して、全部あるいは一部の原状回復を図ることができると。いろいろ書籍、論文等を見ますとこういった点が従来挙げられております。

こうしたメリットを考えますと、一般論としては、消費者契約法に取消権に関する規定と並べて損害賠償が可能である旨を規定することには一定の意義があるのではないかと思っています。

ただ、活用の可能性はこのように大きいのですが、709条には損害賠償請求権が発生するための要件が定められておりますので、どのような点を過失(注意義務違反)と捉えるのか、何をもって「権利又は法律上保護される利益」あるいはその「侵害」と捉えるのか、いわゆる違法性と言われる問題ですが、また何をもって損害と捉えるのか、あるいは損害と捉えたとしてその金銭評価をどうするか、また因果関係の有無をどう考えるかといった、一般条項とは言われるのですが、最低限、要件の充足に係る問題があるので、決して導入すればいろいろな事案がすぐに柔軟に解決できますねというわけではなくて、それなりに使い勝手が悪い部分も出てくるのかとは思います。

幾つか思ったことを書いているのですが、例えば注意義務違反や違法性について、消費者取引の事例では、財産上の利益の侵害が問題になることが多く、いわゆる相関関係説的な考え方からすると、事業者に責任を負わせる際には、それなりに悪質なものが必要とされます。そういう判断の際には、業法規定であったり、業界のガイドラインなどが判例上手がかりになることが多く、そういったものが何もないということになりますと、裁判所の判断も何らかのその他の法律的な規定の違反あるいは公序良俗違反になるような行為態様でないと違法にはならないというように、かなり抑制的なものになる可能性があります。

そうした観点から見ますと、消費者契約法の規定が徐々に充実してきておりまして、「社会生活上の経験」の不足ですとか、「加齢又は心身の故障」、勧誘者への「恋愛感情」、「霊感その他の…特別な能力による知見」として不安をあおられたなど、脆弱性に関わる事例が少しずつ列挙されており、さらに3条でも努力義務が挙がっております。今後「(状況的なものも含む)脆弱性」というものに消費者契約法あるいは不法行為法などで対処していくというときにこういった規定が挙がっているということは、こういう法規範が少なくとも事業者・消費者間では問題となるのだという法規範の存在を示していて、一定の判断の指針を与えるものとして、不法行為法による救済をしようというときに、裁判所としても乗りやすいというのでしょうか、こういう規範が存在することが既に見られるのだということで、救済をしようという判断に乗り出せるのではないかと思っています。

そういう意味では、旧統一教会信者らによる不当勧誘について判断した先日の令和6年7月11日の判決がございますけれども、この事案自体は不当寄附勧誘防止法ができる前の事案ではあるのですけれども、既にそういう配慮義務が以前からちゃんと存在して、これが今回法律によって具体化されたのだという理解だと思うのですが、不当寄附勧誘防止法3条の配慮義務を援用した、それに基づいて不法行為についての判断をしなさいと言ったわけですが、こういう法規範が別途存在するというのは、裁判所の判断を後押しする意味で非常に意味があるのではないかと思ってございます。逆に言うと、こうしたものがないとなかなか厳しい判断がされることになりまして、特にこの事件の原審あるいは第1審などは、かなり具体的な外形的に現れているような害悪を告げるなどという不当勧誘行為がないとなかなか違法とはしないという抑制的な判断をしていたのですけれども、そのような判断になりやすいのではないかという印象を持ってございます。

次ですが、接触段階から契約締結後の段階も含めて一連一体的な権利侵害行為と捉えるという見方ですけれども、これは既に投資取引の場面でよく行われている判断ですし、また宗教団体による組織的・計画的な寄附あるいは物品購入の事案でも既に用いられています。これは私の感想なのですけれども、近年問題とされているダークパターンですね。このダークパターンは一つのパターンだけが問題となるというよりは、そもそもの契約の内容が分かりにくい、オプトアウトするのもどこでオプトアウトするのか分かりにくい、契約を締結するボタンなのかどうかもはっきりしない、契約を締結した後も自分にどういう権利があるのかが分かりにくい、分かったとしてもどのようにその権利を行使するのかが分かりにくい、結局額も低いし諦めるかというように流れやすいので、特に契約の締結の場面だけを切り取って財産の奪取を考えるよりは、もうちょっと前のところから契約締結後のところも含めて全体として財産の奪取を図っていると見ることができるのではないかと思いまして、そういうダークパターンが重層的に使われる場面が多いと思うのですけれども、そういう場面では一連一体的な権利侵害行為、財産奪取行為と捉えることができるのではないかと、最近は感じています。

ただ、こういった一連一体的な権利侵害行為と捉えることについて、時間軸が非常に長くなる、宗教的な取引だと関係性を持ち始めてから実際に献金が行われるまで相当年数があったり、献金期間も非常に長かったりというのが今回の令和6年判決の事案ですけれども、そういった場合のほか、あとは勧誘者が複数になる場面があるのですけれども、団体とその団体の構成員の会がまた別にあったり、それの支部があったりなど複数になってきたときに、どこまでを一連一体的な権利侵害行為と捉えることができるのかについて、裁判所としても恐らく難しい判断をすることになるのかという印象を持っています。

また、複数関与者に関して、共同不法行為や使用者責任を問題とする可能性があるところに私もメリットがあると思っているのですが、ただ、どういう場合に「共同の不法行為」と言えるのかとか、「ある事業のために他人を使用する者」と言えるのか、つまり実質的指揮監督関係はあると言えるのか言えないのか、さらには何か組織的な形で不法行為が行われている場合に、全体を法人の不法行為と見ることができるのかなどは問題です。宗教取引に関しては、特に最後の全体を法人の不法行為と見ることについてはかなり抑制的でございまして、信者らの行った行為が必ずしも法人の不法行為と認められるわけではないという判決が多いようです。法人自体がマニュアルをつくって組織的にやっているような事案などについては、法人の不法行為と見てよいのではないかということを、例えば中央大学の宮下教授などがおっしゃっており、私もそう思うのですが、ここは裁判例は抑制的なようです。

これらについて具体的なアイデアがあるわけではないのですけれども、何らかの特則を考えられないかと思っているところです。

次、過失相殺についても若干のコメントですが、特に投資取引でかなり大きな過失割合が消費者に認められています。他方、宗教取引に関しては、そもそもの不法行為の成立の段階で違法性の大きなものについてしか不法行為の成立が認められていないこともございまして、過失相殺がされない、あるいは適切でないとされることも多いです。ただ、そもそもが交渉力の格差がある者同士の取引で、何らかの脆弱性が関与して行われた取引であることを考えますと、そう頻繁に過失相殺されるべきだとは思われませんし、あまり大きな過失割合が認められるのも適切ではないのかと思います。まず消費者契約法に不法行為に関する規定を置く場合、何らかの制限を定めるべきかどうかが考えられるかと思います。

これは書き忘れてしまったのですが、被害者側の過失ですね。最近議論になっていますが、特に投資取引の場面で被害者家族が気づけたのではないかとか、被害者家族がそれを止められたのではないかということで、被害者側の過失を考慮して減額すべきかどうかの判断が下級審裁判例で割れているみたいです。学説でも被害者側の過失を考慮してよいという見解もあれば、あまりすべきではないのではないかと見解が分かれております。この後のところでも、選択の実質を保護するアプローチに関して、家族の何らかの形での見守りですとか、そういったものも考慮してはということを述べようと思うのですけれども、これとの関係でも、明らかに不適切な関与をしているというのであればまだしも、家族の関与が適切でないというときに、これをもって被害者側の過失といって減額されていくと、なかなか被害者の救済には厳しいものがあるのではないかという印象を私などは持ってございます。これについてはまだ議論も動いているところですが、今後投資取引以外のいろいろなところにも波及的な意味を持つような気がしますので、コメントしておきます。

なお、私の感覚としては、被害者側の過失の法理は、求償の循環を避けるために財布が一つという範囲で認めるものと捉えていますので、あまり大きく広げるべきではないという印象を持っています。

次、話がまた替わりまして、情報や時間、関心・アテンションの提供を損害と捉えることに対してですが、これは損害論としてなかなか難しいのではないかと思ってございます。大塚教授もこの後コメントされるということなので、私もそちらで勉強したいと思いますが、例えば情報の提供を損害と見たとして、それをどう金銭評価するか、他の情報と集まって大きな価値を持つとしても個々の情報の金銭的価値がそれほど大きなものにはなかなかならないのではないかという気もしまして、不法行為で何とかなる話なのかどうか、別途の情報法や競争法の話にむしろなっていくのかという気もしております。

ただ、一方で、最近オーストラリアで、若年者のSNSの利用が禁止されるという報道もありましたけれども、そういったSNS等を通じて関心あるいはアテンションに畳みかけるように働きかけて取引をさせるような悪質なターゲティング広告ですね。そういったものについて自己決定をゆがめたものとして財産上の損害とともに慰謝料の請求をすることができる場合がないかどうかと思っています。ないかどうかという書き方をしているのは、なかなか判断が難しいという印象も持ってございまして、京都産業大学の古谷教授などは外国法の状況を参考に、説得と操作的なターゲティング広告とを区別されていますが、若年者をターゲットにして働きかける操作的なものになってくると、特に悪質なものについては慰謝料請求できる場合も出てくるのかもしれないという気もしてございます。

ヒアリング事項2ですけれども、消費者の脆弱性を前提としつつ、選択の実質を保護するアプローチあるいは結果としての幸福を保護するアプローチなどについて、民事ルールとしてどういう手法が考えられるかということで、こちらは不法行為というよりは公序良俗違反などについての御質問なのかと思います。

第三者の適切な関与によって選択の実質を保護するアプローチとして、恐らくイギリス法の過大な保証契約における不当威圧に関する「公平無私な助言」の法理が念頭に置かれているのだと思いますが、我が国の状況を考えますと、こういう発想は既にあちこちに現れているのではないかという印象を持っておりまして、例えば個人による事業用の融資の保証については、契約の締結に先立って、保証意思宣明公正証書の作成が必要とされています。これは公証人による保証意思の確認手続の中で同様の効果、本当に保証するということについて分かっていますかと確認をするということで、同様の効果が期待されているかと思います。

また、成年後見制度は現在見直しの過程にあるわけですけれども、あまり利用されていないと言われる現行法の補助の制度ですが、これも、その方のニーズに合わせて第三者の適切な関与によって選択の実質を保護しようとするものだったと思います。

また、見方を変えると、クーリングオフもその間に家族等第三者への相談の機会を確保するもの、8日とされているのは土日を挟むということで、誰か家族に相談できる機会があるようにするためと聞いた覚えがありますけれども、これも第三者の適切な関与によって選択の実質を保護する機能を一定程度果たしているのかと思います。

そう見ると、既に私法秩序の中にもあちこちに顔を出している考え方ですので、これをさらに発展させることは十分可能なのではないかと思います。

プレゼンとしては最後のページになりますが、結果としての幸福を保護するアプローチについて、これは恐らく消費者に一定の脆弱性が存在することを前提に、本人の意思にかかわらず、法が介入する場面を90条以上に広げられないかということなのだろうと思うのですが、これも考えてみましたが、手段パターナリズム、手段が不適切にせよ、目的パターナリズム、目的が不適切にせよ、本人の意思にかかわらずということになると、ハードルはかなり高いものになるのではないかと思います。むしろ現行法になじむものとしては、内容の不当性から意思形成過程の問題を推定するなどして、第三者の適切な関与によって選択の実質を保護する前者のアプローチにつなげる方がより穏当な手段ではないかと思うのですが、保守的過ぎるかもしれませんけれども、どうでしょうか。

ただ、そうした中でも、全財産あるいは生活の基盤となる土地・建物の贈与のような個人の生存そのものを危殆化するような合意については、現状でも公序良俗違反として無効と考える余地はあるのではないかと思います。また、取引当事者である消費者に依拠する者の利益という点でも、世帯の生存を危殆化するような合意と捉えられますので、これも同様に公序良俗違反と言う余地はあるのではないかという印象を持っています。内容だけでは公序良俗違反といえないというのであれば、内容プラス合意に至るプロセスなどもある程度考慮して、その上で総合的に判断して、公序良俗違反とする余地はあるのではないかと思ってございます。

雑駁な報告になってしまったのですが、お聞きいただきまして、ありがとうございました。

○沖野座長 原田先生、ありがとうございました。

ただいまの原田先生からの御発表内容を踏まえて質疑応答、意見交換をしていきたいと思います。いつもと同様、御発言のある方は会場では挙手、オンラインではチャットに入れる形でお知らせをいただければと思います。いかがでしょうか。

二之宮委員、お願いします。

○二之宮委員 二之宮です。御説明ありがとうございました。

資料の7ページにあります過失相殺のところに関して、投資取引において裁判所が消費者側の過失割合を大きく認めるということの記載があります。実務をやっておりますと、消費者が普通に生活して普通の行為をやっている、それにもかかわらずそれが過失相殺の落ち度として捉えられる、裁判所の消費者の利益擁護というか被害救済に対しての無理解に本当に悩まされております。この専門調査会は消費者法制度のパラダイムシフトを検討していますけれども、冗談ではなくて真面目な話として、裁判所の消費者の脆弱性に対する認識、この発想の転換、パラダイムシフトの必要性を本当にいつも感じております。

例えば資料の7ページにあります投資取引に関して、この前半戦でやっていた状況の脆弱性というものに置き換えて考えてみますと、損失が発生したという外的要因がある、焦りと不安からどうしていいか分からないという内的な要因がある、専門家である外務員の助言という外的な要因、これらが相互に作用して取引を終了させずに、外務員の指導・助言に従って取引を継続することによって損失を拡大させた、これはもう過失相殺の対象になって落ち度があると捉えられます。ただ、こういう状況に陥った消費者としたら、それは普通の行為であって、言ってみれば消費者の脆弱性の現れだと思います。

こういう裁判所の無理解の原因がどこにあるのかというと、消費者の脆弱性に関する直接的な規範、規定がない、格差というものでは拾い切れない消費者の脆弱性に配慮しなければいけない規範がないということが、まず出発点としてあるのだと思います。そうすると、消費者契約法の目的規定の中に、格差だけではなくて脆弱性を入れる、その上で、消費者契約法に例えば損害賠償請求規定を設けるのであれば、先生の資料にもありますけれども、過失相殺のときに一定の制限が必要になってくるのではないかと思います。脆弱性に基づいてそれは落ち度でも何でもないのだという、過失相殺の対象にならないという特則、制限を設けることは必要だと思います。この点については例えばどういう要素あるいはどういう工夫、書きぶりがあれば一定の制限がかけられるのか、その辺について先生の御知見といいますかお考え、例えばこういうものはどうだろうというものがあれば教えていただきたいと思います。よろしくお願いします。

○原田教授 ありがとうございます。

何らかのアイデアがあるかと言われるとなかなか難しいのですけれども、あまり書き過ぎるとそれはそれで柔軟な判断を阻害する面もあるので難しいのですが、少なくとも過失相殺について、何らかの脆弱性が関与しているのだということを判断の前提にできるような規定はあったほうがいいと思います。アイデアにすぎませんが、重過失のものについてしか考慮しないとすることも考えられますが、そこまでするとやや行き過ぎな感じもしないでもないです。

なかなかはっきりしないお答えで申し訳ないのですけれども、少なくとも裁判例を見ていまして、今コメントもしていただきましたけれども、外務員のいろいろなお話、あるいは意見に従って判断しているにもかかわらず、なぜか外務員の言うことに従ったことが落ち度になってしまったり、あるいはそれに従って自分で何らかの建玉を出したことがまた落ち度にされてしまったり、そもそもが交渉力の格差がある人同士の取引なのに、この交渉力の格差についての配慮が浅いのではないかという印象は私も既に持っております。交渉力の格差は既に目的規定の中にはっきり入っているわけですので、そこが関与されないことになると、もう少し脆弱性についての具体的な規定が必要になるのかとは思います。

本当に思いつき程度ですが、先ほど言ったような重過失の場合にしか過失相殺しないみたいな極端な規定を置くとか、あるいは過失割合の限度を決めるとかいったものも考えられますし、そこまでの規定を置かないにしても過失相殺する場合にはそこに何らかの脆弱性が関与していることを考慮しなければいけないというややマイルドな規定を置くとか、何かあるのではないかという気がします。具体的なアイデアがなくて本当に申し訳ないのですが、そのくらいです。

○二之宮委員 非常に参考になりました。ありがとうございました。

○沖野座長 ありがとうございます。

チャットに室岡委員、鹿野委員長、大澤委員から御発言の希望をいただいていますので、まずはその順番で御発言をいただきたいと思います。

室岡委員、お願いします。

○室岡委員 原田先生、本日は誠にありがとうございました。

8ページについて質問がございます。ここで第三者の適切な関与をさらに発展させることが可能ではないかとありますが、具体的な第三者の対象が非常に重要になると思います。例えば可能性としては行政の誰かあるいは適格消費者団体なども候補としては考えられると思いますが、第三者の適切な関与の誰が行い得るかについて、御意見を伺えましたら幸いです。

○原田教授 ありがとうございます。

具体的にというのはなかなか難しいところでして、こちらに挙がっているものでは、成年後見法制度の見直しが進んでいますけれども、その見直しの中でも、第三者の適切な関与として考えていただくような制度も考えていただけるといいのではないかと思っております。

行政がとなると、私もやっていただければいいとは思うのですが、そんなに人手が足りているわけでもなく、目が届くわけでもないという問題もあるので、なかなか大変なところもあるかと思います。ですから、この保証などはそうなのですけれども、特に大きな不利益になるような場面について、こういう公証人による意思確認手続はもう少しいろいろな場面でも使えるのかもしれません。公証人の人数の問題もあるのですけれども、現在のこの保証意思宣明公正証書の実効性を見極めた上で、それ以外の場面でももう少し使えるというようであれば、使っていってもよいのではないかと思っています。

イギリス法ではもともと公平無私な助言ということで弁護士さんが関与されているということなので、そういった法曹資格を持っている方の関与、公証人に限らず、そういうものももしかしたら、弁護士さんの数も増えていますし、司法書士さんなど法曹資格を持っている方に特に消費者にとって危険性の大きい取引についての関与をしてもらうことは考えられてもいいのかもしれません。具体的にどういう場面でという話になってくると、私もイメージが湧いているわけではないのですけれども、あくまでブレーンストーミングのような感じでそのように申し上げておきます。

雑駁ですみません。

○沖野座長 ありがとうございました。

室岡委員、よろしいですか。

○室岡委員 大変勉強になりました。ありがとうございました。

○沖野座長 では、鹿野委員長、お願いします。

○鹿野委員長 原田先生には本日貴重な御報告をいただきまして、ありがとうございました。

質問はスライドの9ページについてでございます。ここで、結果としての幸福を保護するアプローチについての原田先生の御見解を伺いました。この結果としての幸福の保護ということが、本人の意思にかかわらず法が介入することを意味するのであれば、それについては慎重であるべきだという御見解と伺いました。つまり、民法90条の公序良俗の規定によって対処できる場面もかなりあるのであり、これを広げることについては慎重であるべきだという御意見だろうと伺ったところです。私自身もこの点、基本的なお考えについては大いに共感を覚えるところでございまして、選択の実質の保護を中心に据えるべきなのではないかとは考えているところです。ただ、私自身、より具体的には、考えあぐねている点もございますので、この点に関して相互に関連する2点の質問をさせていただきたいと思います。

1点目は、端的な質問ですけれども、原田先生の御見解によると、結果としての幸福を保護するという観点からの消費者契約についての特別な規定は必要ないということになるのでしょうか。

2点目として、民法90条の公序良俗の規定の適用においては、内容と態様の不当性を総合的に考慮した上で公序良俗違反という判断がされてきたように思われます。同条は直接規定しているのは法律行為の無効ですが、本日のお話との関連でいうと、それが不法行為の違法性にもつながって、不法行為絡みの訴訟においても90条が引用されるケースも少なくないと認識しているところでございます。その上で、現在の民法90条の適用については、判例を見ると残念ながら、消費者契約においてもいきなり抽象的、合理的な人間像を前提にした判断がされてしまっているような、全てとは言いませんけれども、そういう全体的な傾向があるようにも見え、そのためにかなり適用のハードルが高くなっているようにも思われるところでございます。そこで、例えば消費者契約における消費者の脆弱性とか、あるいは事業者との格差の問題とか、そういうことを前提にした消費者契約版のミニ公序良俗のような規定を設ける方向性があるのではないかということを個人的には考えておりまして、そういう方向性について原田先生はどのようにお考えかについて伺いたいと思います。

長くなりました。以上です。

○原田教授 ありがとうございます。

私も最後におっしゃっていただいたような方向で考えてございまして、90条自体を動かすとか、新たな無効規範を消費者契約法上につくることはあまり考えてはいないのですが、ただ90条の適用に当たって脆弱性であるとか、そもそもが交渉力の格差に基づいて行われたものであるとか、また生身の人間ですので生活者であるとか、そういったことを考慮に入れて判断をするべきだという、努力規定とはまた違いますけれども、そういった判断の要素を挙げるような、表現は難しいですが、先生がおっしゃるようなミニ公序良俗違反ですか、そういった判断の要素あるいは判断の留意点を列挙するような形での規定はあっていいように思っております。

以上となります。よろしいでしょうか。

○鹿野委員長 ありがとうございました。

○沖野座長 ということは、1点目については特則を設ける余地は十分あるというお考えでよろしいですか。

○原田教授 そうです。

○沖野座長 ありがとうございます。

では、時間になっているのですが、挙手をされていらっしゃる方がありますので、大澤委員、石井委員にそれぞれ簡潔に御発言をいただいて、次の報告に入らせていただきたいと思います。

大澤委員、お願いします。

○大澤委員 ありがとうございます。

原田先生、大変勉強になりました。ありがとうございました。基本的には先生に今回お示しいただいている考え、私は非常に共感しております。

2点あるのですが、1点目は今の鹿野委員長の御発言あるいは御質問、問題意識とほぼ同じですが、1点だけ付け加えさせてください。この90条の活用の在り方について、鹿野委員長がおっしゃったような方向性はあり得るのではないかと思っています。他方で、今のスライドの一番下のところ、全財産あるいは生活の基盤となるというところで、要は個人の生存そのものを危殆化する合意ですとか、あるいはその取引の悪質性が非常に高いことが明らかなものに対して、例えば預託法にも民事的な無効ルールがありますように、そういうものに関して、いわゆるミニ公序良俗規定と別に例えば預託法のようなものを、民事的な効力自体を否定するようなルールを設けるのはあり得るのではないかと思っています。結果としての幸福を保護するアプローチに関しては、私は取れるとしてもそういう方向ではないかと思っておりまして、基本的にはその選択の実質を保護するアプローチという方向性をまず考えるべきだということであれば、私は賛成いたします。

2点目なのですが、こちらは質問になります。スライドで申し上げると6ページ、ダークパターンに不法行為は活用可能なのではないかというところで、私も一般論としてはそうではないかと思っております。ここにお書きになっていることにも基本的に共感をしておりますが、その上で伺いたいのですが、先生も十分御存じだと思うのですが、例えばダークパターンは本当にいろいろな場面がありまして、同意しないと先に行けないようなネットのつくりをしているとか、契約締結の場面が中心ではあるものの、幅は本当に広いように思っております。問題は、ダークパターンが客観的に見てこれは消費者にそういう不利な選択をさせる構造になっているということで、これがいわゆる不法行為でいうと違法性がある程度言いやすいとして、それによって消費者が意思決定をしたこと、それによって消費者が、この場合の損害はどういう損害なのかという問題はありますが、もちろん財産的にというのもあるでしょうし、自己決定の機会を奪われたという損害だということも考えられるのですが、それによって消費者がそういう決定をしてしまった、そして消費者が損害を被っているという因果関係の立証などがどうなるのだろうかということはやや気になっております。

そこで、例えばこういった不法行為の特則のようなものを消費者契約法の中に入れるときに、因果関係の推定規定あるいは事実上の推定など、そういった推定規定などを設けることはあり得るのではないかと個人的には思っているのですが、この推定に関して、あるいは立証責任の転換などまで行ってしまうのか、先生、何かお考えがありましたらぜひ教えていただきたいということが2点目の質問です。

以上です。1点目はほとんど意見に近いので問題ありません。よろしくお願いします。

○原田教授 ありがとうございます。

因果関係の推定規定があり得るかということで、私もあり得るのかと思っているのですが、ただ、どういう場合だったらその因果関係の推定規定は発動するのか、なかなか規定が難しいように思うのです。だから、極端に誘導的なダークパターンが連鎖しているような場合になってくると、事実上推定してもらえるのではないかと思っています。規定はできるならばしたほうがいいとは思うのですが、発動の要件を書くのが難しいのではなかろうかという印象を持っていまして、今回はそこまでは触れてございません。いいアイデアが何かあればと思います。

ただ、財産上の損害が回復できないにしても、非常に誘導的なダークパターンの連鎖の度が過ぎるようなもの、どういうときに度が過ぎるかはあれなのですけれども、非常に悪質なものになってくると、それで決定を非常に極端にゆがめられているということで、最低限慰謝料の請求を認めるということもなくはないのかと。具体例が思い浮かばないのですけれども、あるのではないかという印象は、現在のいろいろな判例の延長でも不可能ではないのではないかと思ってございます。

○大澤委員 ありがとうございました。

お話を伺っていて、どっちかというと誘導行為の違法性が高いとか、そちらに重きが置かれるような気が私もしております。今日の冒頭で努力義務規定、例の宗教勧誘の最高裁の判例はそうだったと思うのですが、努力義務規定あるいは4条が具体化していることが例えば過失、違法性の評価を容易にするというか、少しつながるのではないかといった趣旨のスライドがあったのではないかと思いますが、ダークパターンをどのようにああいう形で定めることができるのか、なかなか難しい気もしているのですが、何となくお話はよく分かりました。私も考えてみたいと思います。どうもありがとうございます。

○沖野座長 ありがとうございました。

石井委員から御発言希望がございましたけれども、時間の関係ですとか、既にこれまでの御質問の中で相当程度は内容としてカバーしてくださっているということですので、石井委員御自身のお申出もいただいて、今回ではなくむしろ次の御報告の中で関連することも出てこようと思いますので、そのときに御発言をいただくことにしたいと思います。

既に大塚教授が入ってくださっております。会場からもまだまだ御発言になりたいということがひしひしと受け取れるのですけれども、時間の関係もございますので、次のヒアリングに入りたいと思います。

原田先生におかれましては、貴重な御報告をありがとうございました。この後にまさに関連する議論がまた出てこようと思いますので、引き続き御参加をいただけますと幸いです。

次に、民法のうち特に不法行為法を御専門とされている大塚直教授に環境分野等における不法行為法の観点からの規律例も踏まえまして、また、AIなどの問題も踏まえまして、将来の消費者法分野の民事ルールにおける不法行為法制の活用可能性につきまして御意見を伺いたいと思います。大塚教授から「将来の消費者法制度における不法行為法の活用可能性」というテーマで20分程度御発表いただきまして、その後、質疑応答、意見交換をさせていただければと思います。

大塚先生、お待たせして申し訳ありません。どうかよろしくお願いいたします。

○大塚教授 早稲田大学の大塚でございます。よろしくお願いします。

民法のうち特に不法行為法と環境法を研究しており、消費者法については専門ということではございませんので、いろいろ不十分なところもあるかと思いますけれども、どうぞよろしくお願いいたします。

「将来の消費者法制度における不法行為法の活用可能性」というテーマで若干お話をさせていただきます。科学技術の進展に伴って生じた不法行為法の対応を最初にお話しさせていただき、その後で消費者取引分野に不法行為法を取り入れることについてというテーマでお話します。

最初に、科学技術の発展に伴って生じた不法行為法の対応でございますけれども、裁判例と学説の動向、無過失責任や中間責任の立法がなされていること、それからAIの特徴と不法行為法への影響などについてお話していきたいと思います。

最初に、裁判例と学説の動向でございますけれども、科学技術の発展に伴って、不法行為法において過失の認定が厳格化しているということがございます。過失の内容につきましては、予見可能性を前提とする結果回避義務違反あるいは損害回避義務違反であるということが多数説になっておりますけれども、この予見可能性を前提とするというところに関して、予見義務や調査義務を導入することが裁判例上認められてきています。医薬品に関して、あるいは医療事故に関して、さらに公害に関してこのような判決が、下級審を含めてですけれども、存在しております。

学説において、これを受けて過失判断において危殆化段階を考慮するという加害段階の類型化論というものが錦織教授をはじめとして唱えられるようになっておりまして、潮見教授などによってまとめられています。この考え方は、過失の行為義務について、抽象的危殆化段階における行為義務と、具体的危険段階における行為義務、この二つを分けて両方併せたものとして構成していくという考え方でございます。最初の抽象的危殆化段階における行為義務の中に予見義務や情報収集義務を入れるということでございます。

これは橋本教授によってさらに2類型として侵害段階型の事案と危殆化段階型の事案と二つに分けられていますけれども、前者は古典的な不法行為類型で、後者は現代的な不法行為類型でございまして、後者につきましては、抽象的危険があるけれども、社会的有用性のある行為がこれに当たります。

この二つを区分する意義としては、この二つ目の危殆化段階型事案については、侵害段階型事案と異なって、予見義務としての調査研究義務の賦課が大きな特色となっています。さらにハンドの定式などの比例原則的衡量の利用可能性もあるという点が区別の意義であると考えられます。

次のページをお願いします。さらに、科学的不確実性のある段階においても予見義務や調査義務が認められるべき場合があるのではないかということで、熊本水俣病事件の第1次訴訟の判決や、福島原発事故の国賠訴訟の三つの高裁判決、同訴訟の最高裁判決の少数意見などにおいてこのような考え方が示されていると思います。福島原発事故に関して言えば、原子炉建屋の水密化をすべきではなかったかという点が過失の判断として問題になるところでございまして、ただ、これは、予見義務・調査義務をかなり高度にしていくことになり、予防原則の反映ということにもなりますので、公害、原発事故、食品公害など限定された場面に使うべきではないかということが考えられます。さらに、中身としては完全な結果回避義務ではなくて、リスクの削減の措置義務にとどまるのではないかと考えております。最後の点は私の意見で、この間、私法学会で報告させていただいたところでございます。

次のスライドをお願いします。科学技術の発展に伴って、中間責任や無過失責任の立法が行われてきており、中間責任との関係では、自動車損害賠償保障法、製造物責任法、これは欠陥責任でございますけれども、これが立法化され、さらに無過失責任との関係では、公害に関して大気汚染防止法と水質汚濁防止法の改正、原子力損害賠償法、ごく最近ですけれども、炭素貯留に関するCCSの事業法などにおいて無過失責任の立法がなされています。ただ、我が国では裁判所による過失の厳格化によって危険責任のかなりの部分を補ってきたという経緯があり、先ほど申し上げたような過失の厳格化が実はかなりのところを担っているということも申し上げておく必要があると思います。

次、お願いします。デジタル化の前提としてのAIの特徴と不法行為法の影響でございますけれども、AIとサイバーフィジカルシステムの特徴について、基本的なことで恐縮ですが、若干申し上げておきますけれども、AIの特徴としてはこの七つのものが挙げられています。特に特徴として申し上げておく必要があると思われるのは、この④の自律性でございまして、時々刻々と変化していく、学習して変化していくというブラックボックス性と呼ばれるものでございます。さらにCPSを合わせると、今のAIが自分で深層学習をしていくという点に加えて、全てのものが接続され複雑なシステム自体を構成要素とするシステムのために発生する新たなシステムリスクというものがあるということでございまして、これがAIやプラスCPSの特徴と言うことができると思われます。

次、お願いします。AI+CPSの不法行為法への影響ですけれども、特に過失や欠陥の要件に対しての影響があると考えられます。過失判断については、このようなことになってくると具体的なリスクの認識は困難であり、これが必要だと考えると常に過失なしになってしまいます。他方で、一般的なリスクの可能性は認識されているとも言えるということでございます。さらに、情報の非対称性、つまり、開発者あるいはAIを管理している人と、行政庁あるいは裁判所との情報のギャップという問題がございます。さらに規制の陳腐化の速度が速いという問題があります。ただ、最大の問題は従来にない自律性(ブラックボックス性)をどう考えるかということでございまして、これに対してはリスクに対する事業者の予見可能性・予見義務については、標準的な探索方式で探索できることについての対応は事業者に要求できるので、この点に限っては過失の認定も可能ではないかということが言われております。

これに対して、次、お願いします。EU法においては大きく展開しておりまして、今年の6月にAI法がEU規則として採択されました。こちらは規制のほうの問題です。製造物責任法も強化されるということで、これはデジタル化を念頭に置いた改正案が示され、10月に採択されています。ここでは製造物の定義が拡大されてデジタルサービスも含むこととなり、欠陥の定義、欠陥判断の要素、製造者の責任の範囲も拡大・強化することとされています。さらに、一定の場合にプロバイダーに対する証拠開示命令、欠陥及び因果関係の推定の規定が入っています。また、製造物に対する欠陥責任について、製造者等のアップデートの義務が課されることになっておりまして、従来のように欠陥の存在時期は製造者が流通に置いた時点を基準とするという発想から、さらにその後についても責任を負い続けるという考え方が示されています。

また、AIに関する民事責任指令も案としては出てきておりまして、これはハイリスクAIに関して、プロバイダー、ユーザーの双方に関して過失の推定プラス証拠開示命令の規定を置いているものでございます。AIに関しては、危険源としてのプロバイダー責任を重視して、過失責任についてはプロバイダーと稼働者の責任は少なくとも同等であるという考え方を取っています。この考え方の基礎には新規科学技術の導入の後の継続的な安全性のインセンティブを重視するという考え方があり、基本権保護義務の視点とも関連するところが扱われていると言えると思われます。

次、お願いします。AIの投入に関する不法行為責任に関して、橋本教授が論文を発表されておりまして、加害の構造によって二つに分類できるということを言われています。これが参考になると思いますので、ここで取り上げましたけれども、第1類型はAIの出力によって機械が自動運転される場面でございます。第2類型はAIの出力が人の行為に利用される場面でございます。一つ目は自動車の自動運転やドローンの自動運転などが関係いたしますが、こちらに関しては橋本説は機械それ自体についての稼働のところの無過失責任を考えるという発想でございます。第2類型については当該行為についての過失責任が成立するので、別に新しい立法的な対応は必要ないということが橋本説のお考えでして、AIによる生成物の出力は、事業者自らの表現行為として評価されるためだということを理由とされています。

次、お願いします。第1類型に関しては、AIに関する責任主体の在り方に関して、橋本説のように稼働者に危険責任を課して支配領域で発生した事象については責任を負うとし、その支配を観念的に捉える立場と、もう一つは、EUの製造物責任指令の改正でも示されている立場ですけれども、従来の危険責任の対象とは違うAI-CPSの特殊性に着目して、プロバイダーに対しての製造物責任、将来的には厳格責任ということになると思われますけれども、むしろシステムの開発者や管理者あるいは運用者に責任を負わせるべきではないかという発想の考え方とがあり、こちらは私の考え方ですが、二つが対立しているような状況がございます。

次、お願いします。そこで、消費者取引におけるデジタルリスクの特徴ですけれども、今の二つの橋本教授の分類との関係でいうと、当面、第2類型のほうになるということが重要でございます。そのためということもあって、AIのブラックボックス性自体だけでなくということになりますけれども、個々の対応をすることなく、システムとして一律の対応をすることになる点、消費者の依存性が高まる、ダークパターンなどのように消費者の自律性が阻害されるなど、消費者の脆弱性に対する侵害がより高まるという点が重要な課題であると思われます。不法行為法を活用する場合には、論点の重点は過失や欠陥だけでなく権利法益侵害や違法性や損害により移るであろうということが言えると思われます。

次、お願いします。デジタル化に伴う消費者取引に関する不法行為法への影響でございますけれども、過失判断については、事業者の主観的意図によらずに生じる損害が発生するために、過失を認定しにくいようなケースがあるということでございまして、例えばAIによるレコメンデーションが不適切なケースにどう対応するかが問題となります。先ほど申しました標準的な探索方式で探索できるかによるということにはなると思いますけれども、困難であるとすると過失の推定や無過失責任化の議論が必要となってくる、あるいは因果関係の推定の規定も必要になってくると思われます。ただ、人身に対する侵害を伴う物理的リスクの場合に比べると、消費者取引のケースではこのようなことが問題になるケースは比較的少ないのではないかと思っていますが、ここは必ずしもよく分かりませんので、私の印象だけを申し上げておきます。

違法性判断ですけれども、こちらについては誤推定や消費者の脆弱性に関して違法性を認定しにくいということがあるとすれば、規制が導入されていると裁判所が違法性の判断をしやすくなるのではないかということを申し上げておきたいと思います。

次、お願いします。権利法益侵害要件と損害要件の判断との関係では、消費者の自律性(自己決定権)の侵害が問題になるわけですけれども、取引的不法行為という形で見ていくと、この点に関しては若干の問題点があると思っています。不法行為法の権利法益侵害や損害は元来は属人的なものとされていますけれども、その上で、宗教的人格権については、エホバの証人事件の判決などがあるように、自己決定権侵害や期待権侵害のような新しい人格的利益に関して、裁判所が徐々に拡張してきたという経緯がございます。しかし、平成16年の最高裁判決のように、これは御案内のように不動産取引において売主が重要事項を説明しなかったために買主の意思決定の機会を奪ったとして慰謝料を認めたものでございますけれども、これとの関係で主張されている学説では、取引的不法行為における説明義務違反の事案における保護法益については、慰謝料が認められるケースであっても人格的利益ではなくてむしろ財産的利益と見るべきであるとされています。

次、お願いします。さらに、この場合の自己決定侵害は、医療行為における期待権侵害などと違うとされています。すなわち、医療においては治療に当たって自己の健康・身体を医者に委ねざるを得ないという医師・患者関係の特質から、患者の自己決定権の確立が重要な意味を持ちこれは人格的利益の侵害の一種とされてきましたが、取引的不法行為における自己決定権侵害はこれとは異なり、財産的利益の侵害と見るべきであるという指摘です。なお、一般に自己決定権自体は支配的な権利とは言えなくて、ほかの権利などとの衡量が必要になってきますので、侵害行為の態様が重要になってくるという認識が学説において示されています。

ただ、現代においてはデジタル化の進展によって消費者がプロファイリングに基づくレコメンデーションなどによって自覚のないままに誘導される可能性がある、依存性が拡大していることを考えると、消費者の自律的意思決定を阻害する程度は拡大しておりますので、この平成16年の判決の頃の学説の議論は修正されていくことになるのではないかと考えておりますが、もともとはこういう議論があったということでございます。

このような変化をもって事業者と消費者の関係を医師と患者の関係と類似するものとして認められるかどうかが問題になっているとも言えますが、いずれにしても侵害行為の態様については、一定の事項を要求する規制を導入すると明確となって、違法性が認定されやすくなると思います。

次、お願いします。もう一つの大きな問題である情報や時間や関心やアテンションを収奪されるということですけれども、これは事業者から見ると自らのビジネスの「原材料」を提供されていることになる、消費者においてはこれらが利用されることによって生じる懸念や不安が存在しますので、不法行為法上の新たな法益と見ることは可能であると思われます。

消費者からは、自らの情報等がどのように利用されるかについての認識が必要になってくるので、その同意の手続が問題になってくると思われまして、ただ、損害額に関しては、そこに書いてあるようなことは若干ありますけれども、非常に算定しにくいので、さらに放っておくと裁判所の対応が遅れる可能性もありますので、立法によって推定規定を置くという解決も十分に考えられると思っております。

次、お願いします。今の点に対処するための不法行為の特則的規律の必要ですけれども、違法性の判断については、規制立法などを行って不法行為法は解釈によってそれとタイアップして問題を解決できると思いますが、権利法益侵害については、不法行為法の根幹に関わる部分ですので、修正や特則の規定は難しいと思います。損害については、損害額が認定しにくい点については推定規定を置くことは可能であると思います。過失については、先ほど申しましたように、物理的リスクの場合に比べるとそれほどの必要性はないのかもしれませんけれども、証明が困難になる場合もありますので、その点からはAI一般の問題に広がっていく可能性もございますが、特則の必要があることになると思います。

次、お願いします。AIをめぐる責任としては、究極的には厳格責任プラス不確実性免責の導入ということが考えられると思っておりますが、当面は過失責任を維持した上で、EUのAI民事責任指令と同じように、一定の要件の下での過失の推定や因果関係の推定、証拠開示命令の導入を行うことが考えられるのではないかと思います。

さらに、補償基金という方法もありますが、これは事業者の無資力の危険を回避するために、あるいは迅速な賠償を認めるためにこれを行うことも考えられると思います。ただ、これがどういう効果を発揮するかについては、後でまた申し上げたいと思います。関連して、EUがやっているような製造物責任法の強化や改正、これはAIやデジタル化との関係で検討することは我が国においても必須ではないかと思われますので、ぜひ御検討をお願いしたいところではございます。

次、お願いします。消費者取引分野に不法行為法を取り入れることについてでございますけれども、違法性の内容や法益の充実化・拡充に関しては、中間整理を拝読させていただきましたけれども、ここにあるような対象行為や対象範囲の拡大、規制におけるグレーリストの規定や割合的解決や努力義務、配慮義務等のソフトローとの接続などが問題となっているということでございます。

次、お願いします。これらとの関係では不法行為法は十分に活用可能だと思っています。財産的損害を含めて、包括的慰謝料としての慰謝料において柔軟な損害額の認定をすることが可能になると思われますし、場合によっては過失相殺を活用することも可能であると思います。グレーリストについて、さらに契約からの離脱過程の規律を含めて規制を導入して、それを基礎として不法行為法の違法性の判断を行うことも十分に考えられます。これは判例の積み重ねによって法的安定性を保ちつつ充実化していく必要があると思います。ただ、若干留意しなければいけないのは、日本の不法行為法は過失比例主義は採用していませんので、過失の程度の大小によって賠償額を変えるという考え方そのものは採用していません。スイスのような考え方は採用していませんので、ここには限界があることも同時に申し上げておく必要があると思います。

次、お願いします。消費者取引の規律における公法・私法の協働ということでございますけれども、ここは書いてあることは当たり前のことで誠に恐縮ですが、コアの部分は公法上の規制によることが適切であると思います。民事・行政・刑事をまたいで横断的に規律を考えていただくことが適当だと思いますが、消費者団体訴訟には大いに期待がかかっており、民事訴訟でございますけれども、性質上は違法行為の抑止のための訴訟の性格を持つものと考えられますので、その点をより進めて明確に公益訴訟としてもよいのではないかと思っています。これは消費者契約法を、このままの法律名でいいのかどうか分かりませんけれども、消費者が関わる取引を幅広く規律する法に転換すべきだという御議論もあるようですけれども、その考え方ともマッチするのではないかと思っています。

AIの進展によって生ずる統計による推定の誤謬やデジタル化の進展により相互依存したシステムのリスクなどについては、個別に責任の追及が困難だということも中間整理などで指摘されていたと思いますけれども、こういうものについては消費者団体訴訟の活用が望まれるということがございます。

次、お願いします。消費者取引に不法行為法を活用する際の論点として、幾つか当たり前のことかと思いますが、若干申し上げさせていただきますが、不法行為法は契約法と公法・刑事法の中間的な性格を持っているということでございます。契約法は当事者の合意が必要であり、個別性がもともと高いわけですけれども、公法・刑事法は一律性があり、構成要件の明確性が罪刑法定主義の観点から極めて必要性が高いわけでございます。これに対して、不法行為法は一律性はあると言えますけれども、構成要件の明確性に関しては刑事法のような厳格性はございません。また、公法・刑事法の事前規制に比べて、不法行為法は事後対応ではあるということでございます。

そういう中間的な性格を持っているということでありまして、これは山本敬三教授がこの前身の会議で最初の頃にプレゼンをされていたと思いますけれども、明確なルール化の手法だけでは紛争解決規範としての役割を十全に果たせない場合があるということもございますので、そういう意味では不法行為法の活用の場面は少なくないのではないかと思っています。宍戸教授がまたこれもプレゼンされていたと思いますけれども、AIに関する政府による事前規制の困難性との関係でも、不法行為法を活用すべき場面が結構あるのではないかと思っております。

次、お願いします。活用のメリットを今まで申し上げてきたことの延長線として申し上げておきますと、違法性の判断においてある程度柔軟な対応が可能になること、デジタル化によるシステムに対してある程度一律の対応が可能になること、損害額の算定に際して柔軟な対応が可能になること、過失相殺が柔軟にできることなどがメリットになると思われます。

関連して、法律行為法上の救済が与えられなかったこととの評価矛盾の議論がかねてございますが、これについては、法律行為法上の救済が与えられなかったことは、法秩序が当該契約を完全に瑕疵がないものとして承認したことを直ちに意味するわけではないという窪田教授の考え方を私も採用しておきたいと思っております。民法709条のほうがより限定的に、損害賠償のみを法律効果としているし、要件に関しては包括的な定め方しかしていないという違いがあるということになると思われます。

次、お願いします。不法行為法の機能からの視点について若干申し上げておきますと、違法行為あるいは損害の発生の抑止機能については、かつてはそれほど重視されてこなかったところがありますが、現在、損害の塡補機能が第一義であることはほぼ異論がないものの、この損害発生あるいは不法行為の抑止機能も重要であることが指摘されてきております。不法行為に関しては、1980年代に加藤雅信教授を中心とした「総合救済システム」論などによって議論がなされ、二つの点で不法行為法には問題があるということが言われており、一つは被害者救済の実効性が必ずしも高くなく、また、不公平であるケースがあること、二つ目に不法行為制度によって潜在的加害者の社会活動に対する萎縮効果が発生する場合があること、でございました。

これ自体はそのとおりなのですけれども、代わりに事故補償システムを導入して不法行為訴権を廃止すればよいのかというと、これはニュージーランドで実際に行ったことがあるわけですけれども、逆に二つの問題が発生することが分かりました。一つはモラルハザードの発生、二つ目が賠償額が十分な額に達しないことでございまして、モラルハザードの発生の代表は不法行為の抑止の効果がなくなってしまうことであり、不法行為の機能の派生的な機能であると思われていた不法行為の抑止や違法行為の抑止、損害発生の抑止という効果・機能が、不法行為訴権をなくす場合の最大の問題として顕れてしまったという若干意外な結論が導かれたということでございます。そこで不法行為訴訟と事故補償制度の併存が求められるということになりますけれども、損害発生の不法行為の抑止の機能の発揮と、先ほど来問題になっている不法行為制度による社会活動への萎縮効果の低減、これら二つの点については、損害の塡補とともに重要な課題になってきているということでございます。

次、お願いします。不法行為の抑止機能について裁判例上認めるものが増大していることがございまして、特に人格権に関わる事件や国賠訴訟などにおいては多々見られております。そこに書いてあるようなケースでございまして、個人情報の漏えいの話もこの中に入っています。不法行為法の違法行為の抑止機能と行為規範の形成効果が社会において重要性を増しているということになると思います。近時不法行為法の違法行為抑止機能が問題となった事例は裁判例以外にもございます。これはやや端っこの問題ですので、飛ばしていきたいと思います。

次に、消費者取引と不法行為の違法行為抑止機能でございますけれども、デジタル化によって事業者が個々の対応をすることなくシステムとして一律の対応をするようになった結果、類似するタイプの違法行為が多数発生している場合に、その抑止機能を不法行為法に果たさせることに大いに意義があると考えられます。先ほど申しましたように、契約法の個別性、他方で公法規制の明確性が必要とされるという点での限界、萎縮効果発生に対するおそれから、適切なタイミングで規制がしにくいということがございますので、そのような観点からすると、不法行為法が機能を発揮する場面があると言えるのではないかと思います。

次、お願いします。これは先ほど申し上げたことと大いに重なりますけれども、この消費者取引の分野に不法行為法を活用する場合の違法性の要件に関しましては、ある程度柔軟な対応が可能だということで、規制立法がなされることがあるとより望ましい。グレーリストの規制立法であってもこのような効果は一定程度期待できるという意味でございます。それから、権利法益侵害要件や損害要件については、先ほど来申し上げているような自己決定権侵害あるいは情報、時間、関心・アテンションの収奪に関しても新しい法益と捉えることができるけれども、その際、侵害行為の態様が問題となるということがございます。

次、お願いします。過失要件に関しては、これはAI全般の話で消費者取引に限った話ではないですけれども、標準的な探索方式を用いるにしてもなお証明の困難が発生することがございますので、先ほど申しました過失の推定や因果関係の推定が問題になると思いますし、究極的には厳格責任、不確実性免責のようなことを考えることも必要になってくるのではないかと思います。

次、お願いします。補償基金の可能性も検討する必要があると思いますけれども、特に責任主体が無資力の場合の危険、過失が証明されにくい場合の迅速な損害の塡補を強調するときには、この補償基金が考えられると思います。この補償基金をつくる場合、公的な補償基金にするか、それとも原因者から拠出させるかという問題がございますけれども、公的な補償基金に関してはフランスが結構行っているところでございますけれども、これを行うには理由が要ることになりまして、国家による新科学技術の導入に伴うリスクだということを理由にして導入できるかが大きな問題になると思います。他方で、補償基金の原資の拠出を原因者から行う、事業者から行うということになりますと、補償基金に違法行為抑止の効果を発揮させることになりますので、違法行為抑止の機能を果たさせようと思えば、拠出の仕方に関しては留意する必要があるということになると思われます。

以上、雑駁でございますけれども、私の話を終わらせていただきます。

○沖野座長 大塚先生、ありがとうございました。

大塚先生の御発表内容を受けまして、質疑、意見交換を行いたいと思います。ただ、本日は次の御予定との関係で終了時間がかなり厳格になっておりますので、御発言を手短に抑えていただきたいということでお願いしたいと思います。

では、最初に石井委員から御発言いただきまして、次に河島委員からお願いしたいと思います。

石井委員、お願いします。

○石井委員 ありがとうございました。

資料1の原田教授の御報告と資料2の大塚教授の御報告、それぞれについて簡単に御質問等をさせていただければと思います。

原田教授のプレゼンテーションに関しましては、大澤委員からの御質問と私の質問したかった事項がほとんど重なりますので、1点だけ確認させていただきたいと思います。資料でいいますとヒアリング事項の1の部分で、損害をどう捉えるかについてお聞きできればと思っています。情報や時間、関心・アテンションの提供を損害と捉えるのか、もしそう考えるとすれば、悪質なものに限らずターゲティング広告をたくさん受け取ることで既に損害が発生していると見るのか、あるいは具体的な取引の段階に至ったときに損害が生じるというように見るのか、この点について確認させていただきたいと思います。

大塚教授の資料の6スライドのところで、AIのブラックボックスは不透明であるということとの関係でご質問させて頂きます。この点は、情報法の世界ではよく議論されているという認識でおります。それを踏まえて資料の14スライドを開いていただきたいのですが、ここはすごく興味深い御説明だと思いながら伺っております。プロファイリングに基づいてレコメンデーション等をされて誘導される可能性といった問題を医師と患者の関係と類似するものと見られるかと。ここの部分ですが、説明責任としてどのような説明をすれば事業者として必要な義務を果たしたと言えるのか、AIを使うことを説明すればいいのか、プロファイリングを行っていることを説明するのか、あるいは不利益判断が生じる可能性があることを説明すべきなのかといったあたりの、具体的な説明責任の内容についてどのようにお考えかをお聞きしたいと思っています。

もう一点、スライドの次の頁だったかと思いますが、一番上の「事業者から見ると」の御説明の中で、懸念や不安を不法行為法上の新たな法益と見ることが可能であるというように御説明されているところについての質問です。プライバシーや個人情報保護の世界ですと、事業者による個人情報の取扱いは常に懸念や不安が抽象的には存在すると思われるわけですが、かなり広く捉えることになりはしないかと。ここの懸念や不安を広く不法行為法上の法益と見ることについての必要性、この部分をもう少し狭めて考える必要はないのか、その辺りについてお聞きできればと思います。

長くなってしまいましたが、私からは以上になります。

○沖野座長 ありがとうございます。

お二人に御質問があったのですけれども、まず大塚先生のほうの御質問を先に集中させたいと思いますので、大塚先生に対する2点、また実は原田先生に対する御質問は大塚先生に対してもあり得るかとは思いますけれども、まず大塚先生からお答えいただければと思います。

○大塚教授 第1点でございますけれども、AIに任せているというだけでは説明としては不十分だと思いますので、プロファイリングしていることや不利益判断の可能性があることも説明しないといけないと思います。それで十分な説明になるかどうかは、実際にどういう誘導がなされるかはAIが自律的に決めていく可能性があるので、その結果との関係で十分な説明がされていたかを後から判断することになるのではないかと思っております。

それから、懸念・不安は新たに保護法益性を認めるための理由として申し上げただけですので、懸念・不安自体が損害だという趣旨で申し上げたわけではございません。自己決定権侵害として認めるかどうかを含めて今おっしゃっていただいたプライバシー侵害など様々なケースがあると思いますけれども、具体的な損害については、そのようなものがあるかどうかを見ながら判断していくことになると思っております。

原田先生に対しての御質問は私のほうにも若干関係しますけれども、具体的取引があった段階で初めて損害が発生しますので、そこまで行かないと不法行為にはならないということになると思っております。

簡潔でございますけれども、恐れ入ります。

○沖野座長 ありがとうございます。

石井委員からの2点目について、そういった懸念というものが根拠であるならば、そのような懸念が必ずしも共有されないようなものが、時間ですとか、関心ですとか、そういうものについてはある可能性があって、そうするとより狭めていく必要があるのではないかという御指摘ではあったかと思いますが、それに対して例えば損害や他の要件で十分絞れるというお話ということだったでしょうか。

○大塚教授 時間や関心などとの関係で具体的な損害があったかどうかを判断していくことになると思います。不安・懸念の点は、保護法益として認めるべきかどうかの理由として申し上げたつもりだということでございます。

○沖野座長 ありがとうございます。

原田先生への御質問に対して、大塚先生としてはこうお考えだということですが、原田先生としてはいかがでしょうか。

○原田教授 私のプレゼンテーションだと7ページ、最後の二つの黒ポツのところだと思います。大塚先生と私の意見で特に異なるわけではないのですが、いずれにせよ個人の損害と捉えられない限り、不法行為法による保護は問題とならないので、情報や時間、関心・アテンションの提供を損害と捉える可能性はあるかと思うのですが、ただ、金銭評価の点で問題があって、大塚先生は推定規定を御提案されていらっしゃいますが、ただ、いずれにせよ金銭的価値はあまり大きなものにならないのではないかという気がしてございます。

その下のこのページでいうと三つ目の黒ポツのところは、それを損害と捉えるということではなくて、それとは別にSNS等を通じて畳みかけるような、特に操作的で悪質なターゲティング広告があるような場合には自己決定をゆがめたということで、そちらを捉えて財産上の損害の賠償を求める、あるいは特に悪質なものについては慰謝料を請求するということももしかしたらあるのではないかという趣旨で書かせていただいたものでございます。

以上です。

○沖野座長 ありがとうございます。

そういう攻撃的な広告等に常時さらされているという段階では必ずしも発動しなくて、それによって取引をした場面だという点では共通だということでよろしいでしょうか。

○原田教授 そうでございます。

○沖野座長 ありがとうございます。

○石井委員 ありがとうございます。

○沖野座長 それでは、時間の関係もありますので、河島委員からお願いしたいと思います。

○河島委員 ありがとうございました。とても学ぶことが多い報告でありました。

一番お聞きしたいのは石井委員がおっしゃってくださったので、別の2点をお教えいただければ幸いです。

スライド18にあるEUのPLディレクティブ改正についてですけれども、いろいろなところで言われているように、先生もスライド7でおっしゃっているように、AIが対象の場合、PLディレクティブの改正の文書を見ても何をもって「欠陥」であるかを同定するのが実質的にかなり難しく、あまりにも多くのことが欠陥に入ってしまったり、逆にほとんどのことが欠陥に入らないことになりかねないという思いもします。先生は日本でもPL法の改正を検討すべきだとおっしゃっておられるわけですけれども、欠陥の同定について現時点でどのようにお考えになっているかをお聞きできればと思います。

2点目は、AIに関連して補償基金の設立の可能性等、とても共感する議論が展開されていまして、嬉しくなりました。少しお伺いしたいのは、既存の法体系からはかなりずれているのですけれども、生成AIの影響もあり、AIエージェントの議論が活発化していて、その関係でAIに法人格を付与するという主張も再び見受けられるようになってきました。消費者がAIエージェントに売買を任せてそれで損害を被ることを考えると、消費者法にも関係します。この辺りの大塚先生の御意見を頂戴できればと思いました。

以上です。

○沖野座長 お願いします。

○大塚教授 どうもありがとうございます。

欠陥概念につきましては、EUの製造物責任の指令の改正においては従来よりもかなり拡張していくことを考えておりまして、製品自体の安全性だけではなくて、サービスのところも含めて欠陥を考えるということをしている点に特徴があると思っています。欠陥に対しての考慮すべき内容として、ラベル表示やデザインなどのほか、合理的に予見可能な使用が従来どおり定められるとともに、製品の相互接続性や自己学習機能を含めて、その製造物とともに使用されることが予想される他の製造物がその製造物に及ぼす合理的に予見可能な影響も含まれるようなことも考えられています。さらに、サイバーセキュリティー要求事項を含む関連する製品安全要求事項を満たしているかどうかも考慮されることになっておりまして、規制との関係も含めてサイバーセキュリティーのことをかなり重視することになっております。

それから、先ほど申し上げてここにも書かせていただいたように、アップデートやアップグレードを含めて欠陥があるかどうかを考えるということになっていまして、ただ、後からアップデートされたというだけで、欠陥があるかどうかをそれだけで決めるわけではないということも言われております。従来の欠陥概念に比べてかなり拡張してきているということだと思いまして、この辺に関してはデジタル化の推進とともに日本においてもぜひ検討すべき課題だと思っております。

2点目につきましては、AIの法人格の問題に関しては議論がなされているところでございますが、私自身はその議論はなかなか取りにくいかと思っておりまして、使用者責任に類似して考えていくようなことになるかと思いますけれども、結局使用者としての責任を誰かに問う、自然人に問うことを考えていかざるを得ないことになると思うので、それだったら最初から自然人との関係を考えていったほうがいいのではないかという議論に私は賛成していますので、AIエージェントという発想は幾人かの先生方が取っておられることは承知しておりますけれども、なかなか取りにくいのではないかと個人的には思っているところでございます。

○河島委員 ありがとうございました。よく分かりました。

○沖野座長 ありがとうございます。

もうお二人ぐらい御発言いただけると思いますが、加毛委員、よろしいですか。

○加毛委員 ありがとうございます。

まず、直前の河島委員と大塚先生のやり取りに関するコメントなのですが、河島委員の御発言は、補償基金の活用を考えるのであれば、使用者としての人を想定する必要はなく、補償基金に対して請求をすることになるので、AIに法人格を認めるという議論にもつながり得るのではないかという考え方に基づくものと思います。もっとも、この点については、法人格は権利義務の帰属点となるということに加えて、責任財産が結びついた概念であると思います。そうすると、AIに法人格を認めるか否かを議論する場合には、AIに帰属する責任財産まで認めるのかが問題となります。それゆえ、補償基金を導入したとしても、そのことから直ちにAIの法人格を認めることにはならず、もう一段の議論が必要になるように思われます。

そのことを申し上げた上で、補償基金について御質問があります。補償基金を導入する場合には、補償基金に資金を拠出するのは誰なのかが重要な問題になるように思います。一つの考え方としては、国民の税金で補償基金を運営するという可能性もあろうかと思います。他方、事業者に対するインセンティブ付与や受益者負担などの観点から、AIを利用する事業者に資金を拠出させるという考え方も現実的であると思います。もっとも、利用するAIの種類、利用の仕方、AI利用によって得る利益の多寡は、事業者ごとに個別性が高いような気がします。そうすると、事業者間の平等といいますか、各事業者にどの程度の金額を拠出させればよいのかが問題となるように思います。これらの点について、大塚先生のお考えをお教えいただければ幸いです。

○大塚教授 どうもありがとうございます。

そこは非常に面白い論点であり、難しいところだと私も考えていますが、国民の税金ということはもちろん考えられるのですけれども、違法行為の抑止という観点からは、私は事業者や原因者から取ったほうがいいかと思っているところです。ただ、原因の程度を考えるのはなかなか難しいので、原因者と受益者は違うのですけれども、受益者から取るということを言っている人もドイツにはいたので、その議論は先生におっしゃっていただいた利用者の受益の程度に応じて拠出してもらうという考え方に結びついてくるのだと思います。平等性との関係は、もちろん公的補償基金だと特に問題になるのですけれども、受益の程度に応じて取るということであれば、それはそれで一つの考え方になるので、考え方としては取り得るのではないかと。だから、具体的には売上高などをAIとの関係でチェックして、それで拠出をしてもらうということなのだろうと思います。ここは原因に応じてという考え方から若干ずれてきてしまうことは気持ちの悪いところではあるのですけれども、取りあえず受益の程度に応じて取るということはありうると思っています。そのとき、自分で言っていて恐縮ですが、違法行為の抑止の効果は減殺されてしまうので、そこは悩ましいところではあると思っています。

○沖野座長 ありがとうございます。

もうお一人うかがえると思います。

二之宮委員、お願いします。

○二之宮委員 手短に。御説明ありがとうございました。

資料27ページにあります消費者団体訴訟に期待というところなのですが、これは不法行為の損害を属人的なものだと捉えつつこの記載をされているので、消費者団体訴訟の対象を拡大して社会的損害、社会的利益まで広めて団体訴権で対応すべきだというお考えなのか、あるいは反射的利益ではなくて、それは個々の消費者の損害にも位置づけられるのではないかと、そういう意味で捉え直すという形で訴権を拡大するのか、ここはどういう形で先生は御期待されているのかを教えてください。

○大塚教授 スライド21に書いたところが御質問と関係していると思いますけれども、そんなにラジカルなことを言っているわけではなくて申し訳ないのですけれども、このAIの進展によって生じる統計による推定の誤謬やデジタル化の進展に伴って生じる相互依存したシステムのリスクなどについて、個別に責任を追及できないのであれば消費者団体の訴訟の活用が望まれるという趣旨でございまして、今存在している属人的なことが明確な利益に対して不法行為を使っていく、そうでないものは消費者団体訴訟を活用するということを申し上げております。

○沖野座長 恐らく現在の特例法などですと、あくまで消費者の個別の利益というか債権が前提になって、それを糾合してという形なので、そこが難しいという以上、現行法の枠組みでは消費者団体になっても難しいだろうと。そうすると、そもそもの損害や利益のところを個々人ではなくて社会的損害へと転換するのか、それともむしろそれは個人の利益に還元されるものであって、利益としてなお伝統的なというか不法行為にも十分のり得るものだという形にするのかというのが、二之宮委員の御指摘だったかと思います。

○大塚教授 ありがとうございます。分かりました。

その点だったら変えるということになると思いますけれども、消費者団体訴訟を違法行為抑止のための訴訟に変えていく必要があるかと思っていまして、現在だと個々の消費者に関しての損害があることが前提だということあるいは消費者の利益があることが前提だということで、その利益を具体的に考えることになってくるとすると、その点を変更し、個人の利益は前提としない、又は、少なくとも損害の発生に関してはより抽象度を高めていくのがよいのではないかと考えております。

○沖野座長 ありがとうございます。

ちょうど時間が参っておりまして、恐らく原田先生からも御質問などがあるかと思うのですけれども、よろしいでしょうか。

ほかの先生方にも御発言の機会を十分に与えられず申し訳ございませんでしたが、本日につきましては、時間の制約がより厳格にございますので、今回の議論はまさに切り上げることにさせていただきたいと思います。

原田先生、大塚先生におかれましては、大変貴重な御知見をいただきまして、本当にありがとうございました。

また、委員の皆様におかれましても、活発な御議論をありがとうございました。

それでは、事務局から事務連絡をお願いいたします。


《3.閉会》

○友行参事官 次回の会合につきましては、決まり次第お知らせいたします。

以上です。

○沖野座長 それでは、本日はこれで閉会とさせていただきます。

お忙しいところをお集まりいただきまして、ありがとうございました。

(以上)