第13回 消費者法制度のパラダイムシフトに関する専門調査会 議事録

日時

2024年11月29日(金)10:00~13:04

場所

消費者委員会会議室・テレビ会議

出席者

(委員)
【会議室】
沖野座長、山本座長代理、加毛委員、河島委員、小塚委員、二之宮委員、野村委員
【テレビ会議】
石井委員、大屋委員、室岡委員
(オブザーバー)
【テレビ会議】
鹿野委員長、大澤委員
(参考人)
【会議室】
川崎友巳 同志社大学法学部教授
佐藤隆文 T&K 法律事務所 顧問
(消費者庁)
【会議室】
黒木審議官、古川消費者制度課長、原田消費者制度課企画官、消費者制度課担当者
(事務局)
小林事務局長、後藤審議官、友行参事官

議事次第

  1. 開会
  2. 議事
    ①有識者ヒアリング (川崎友巳 同志社大学法学部教授)
    ②有識者ヒアリング (佐藤隆文 T&K法律事務所 顧問)
  3. 閉会

配布資料 (資料は全てPDF形式となります。)

《1. 開会》

○友行参事官 それでは、消費者委員会第13回「消費者法制度のパラダイムシフトに関する専門調査会」を開催いたします。

本日は、沖野座長、山本隆司座長代理、加毛委員、河島委員、小塚委員、二之宮委員、野村委員には会議室にて、石井委員、大屋委員、室岡委員はテレビ会議システムにて御出席でございます。一部委員は、まだ到着が遅れている方もいらっしゃいます。

消費者委員会からは、オブザーバーとして、鹿野委員長、大澤委員にはテレビ会議システムにて御出席でございます。

また、本日は、同志社大学法学部教授の川崎友巳様と、T&K法律事務所顧問の佐藤隆文様に御発表をお願いしております。川崎先生と佐藤先生には、会議室にて御出席いただいております。

配付資料は議事次第に記載のとおりでございます。

一般傍聴者にはオンラインにて傍聴いただき、報道関係者のみ会議室にて傍聴いただいております。議事録については、後日公開いたします。

では、沖野座長に、ここから議事進行をよろしくお願いいたします。


《2. ①有識者ヒアリング (川崎友巳 同志社大学法学部教授)
②有識者ヒアリング (佐藤隆文 T&K法律事務所 顧問) 》

○沖野座長 ありがとうございます。本日もどうかよろしくお願いいたします。

早速、議事に入らせていただきます。

専門調査会の後半の検討テーマである実効性の高い規律の在り方につきまして、本日も消費者法制度における規律のグラデーションや、実効性のある様々な規律のコーディネートに関連した有識者ヒアリングを行いたいと思います。

本日は、まず、刑法を御専門とされている川崎友巳教授に刑事法・刑事政策の視点から御意見を伺いたいと思います。

川崎教授から「『消費者法制度のパラダイムシフト』における刑事法の可能性」というテーマで、約20分ほど御発表いただきまして、質疑応答・意見交換をさせていただければと思います。

それでは、川崎先生、よろしくお願いいたします。

○川崎教授 同志社大学の川崎でございます。

日頃は、刑法の中でも経済刑法について研究をしておりまして、総論では法人処罰であるとか、各論であれば金融商品取引法であったり、会社法の罰則についての研究を中心にしております。

御縁があってといいますか、お声がけをいただいて消費者保護の問題について検討するということですので、内容としては、今日お配りした資料のように雑駁なものとなりますけれども、御容赦いただいて、佐藤先生の前座ということで御了解いただければと思います。

それでは、早速、報告に移らせていただきます。消費者保護において刑法がどのような役割をこれまで担ってきたのか、それから、それを踏まえた上で、今後どのような役割を果たすことができるのかということについて、少し整理をするということで、まずは、過去について目を向けていきたいと思います。

これまで、消費者保護というものに対して、刑法が登場する場面というのは限られてきたというのが、刑法の一般的な理解です。実態としてもそうだったのだろうと思います。

レジュメのほうでは、例示をさせていただいておりますけれども、食品、薬品等、それから広告の適正化、消費者信用の保護、さらには、詐欺的商法について規制をするというときに、罰則で規制の担保をするという形で刑法、刑事法が役割を果たしてきました。

その際、特に、詐欺的商法については、刑事法上も重要な課題として認識をされてきたところと、私自身も承知をしております。

では、実際に、消費者の刑法的な保護の方法について、どのようなものであったかということに、次に目を転じますと、一つは、刑法そのものに消費者を保護するという役割が果たせる場面があるというのは、当然のことだと思います。例えば、日頃利用している商品が、欠陥があったという形でけがをするようなことがありましたら、これは当然刑法上の業務上過失致死傷罪になるでしょうし、あるいは先ほども出た詐欺的商法の中には、詐欺罪として立件されるようなものも少なからずあるというのは御承知のとおりです。

その一方で、刑法にとっては、もう一つ大きな役割としては、行政法規の罰則による保護ということです。行政法規自体が禁止規定あるいは義務規定を設けておりまして、この行政法規の実効性を高めるために、最終的な手段として罰則を置くことで、刑法は、行政法規の実効性を高める役割を果たしてきました。

様々な行政法規が、事業者の規制であるとか、取引の情報開示の義務づけであるとか、行為の規定であるとか、それから行政調査の妨害を禁止し、これらについて、義務に違反をした場合や、規制の効力を発揮するために、背景として罰則を設けているということが、ここに当たります。

こうした立て付けを、消費者保護において刑法が用意してきたというのが、これまでの状況のわけですけれども、基本的なスタンスとして、刑法は、皆様にわざわざここで申し上げるというよりは、私の認識をもう一度確認をするためですけれども、申し上げますと、消費者保護ということ自体は、かなり限定的な役割を刑法は担うにすぎないのだというのも、経済活動の自由というのが、この国のそもそもの前提ですので、自己決定、自己責任というのは少し大げさな言い方かもしれませんが、例えば、欲をかいて損をしたという消費者にまで全て刑法が、保護に回ることはないのだということが前提になっていると承知をしております。

刑法の役割というのは、そもそもあらゆる事柄について、必要最小限ということを原則としております。刑法の謙抑性であるとか民事不介入という形で、あるいは最終手段性、ウルティマ・ラティオという言い方をしますけれども、これは、お題目ということではなくて、刑法の実務家も、あるいは研究者においても、これは当然の前提としておりますので、そういう意味では、消費者保護というもの自体においても刑法が出ていく場面というのは限定されますし、そもそも刑法を使うということも、刑法自体も謙抑的に使うということを前提にしておりますので、消費者保護の場面で刑法というものが前面に出てくる、あるいはその役割を果たすというのは、二重の意味で制限されている、限定されているのだろうと理解しております。

また、消費者保護にとって刑法の果たす役割に限界がある点について、もう少し中身を詳細に見ていきますと、その一つは、原理・原則としての限界で、罪刑法定主義の要請から処罰行為の明確化が、消費者保護に当たっては、困難な場合があると、あるいは対象がかなり多様化していますので、それを具体的にとらまえるような形の規制というのが、なかなか難しいという意味で難しさというものがあります。さらには、先ほど申し上げたような、刑法の謙抑性・補充性のほかに、規制の方法があるのであれば、刑法は出ていくべきではないという大原則というものもここでは一つ、刑法が役割を果たすに当たってポイントになっています。

さらには、運用上の限界としては、立証の困難さであるとか、適法な取引との区別の困難さといった問題も、やはり、この刑法が前に乗り出していくという、刑法の効果というのは刑罰を科すということで、非常に大きなものだということが、先ほどの最終手段性であるとかの前提になっておりますので、その適用に当たっても、かなり慎重な立証等が必要になってきます。そうした場面で、こういった適法行為との区別の難しさ、あるいはそもそもの立証の難しさというものが、とりわけ主観面ですね、欺く意図があったのかということについては立証がなかなか難しいわけです。

そうした中で、刑法の学界は、消費者の問題についてどのようなスタンスを取ってきたのかということに目を転じたいと思いますけれども、基本的には、消費者に甚大な被害をもたらした事件、それから、そうした事件に対応するための刑法の対応ということに着目をした幾つかの場面がありました。

ここでは、表に幾つかの典型的な例を挙げておりますけれども、いずれも社会的に大きく問題になった、多数の消費者に被害をもたらした事案です。これらの事案の場合、刑法の対応としては、かなり事件が発生してから刑事事件として裁判になるまでには、時間を要しているということが、この表からも明らかになるところですし、その後に、立法的な措置がそれぞれ立法事実として、こうした事件を踏まえて、改正であったり、新たな立法がなされるということが行われることになりました。

それに対して、刑法は罰則がついていますので、そもそも、刑事事件として立件された、詐欺罪等で立件されたという事案について着目をする、あるいは法改正がされたときに、罰則規定の効果について関心が向けられるということは、その都度その都度あったわけですけれども、私の理解では、こうした関心というものも一過性のものということで、刑法の学界の中では、消費者に甚大な被害をもたらした事件ですら、刑法上の大きな課題とは、あまり認識されてこなかったように思われます。

例外でいいますと、豊田商事の事件が起こったとき、それから、消費者庁が立ち上がったとき、あるいは消費者基本法ができたときからと言ったほうがいいかもしれませんが、そのときは、後ほど、最後のページに主な文献を挙げさせていただいておりますけれども、幾つか集中的に関心が向けられて、これ以外も含めて多数の文献が公表されたということはありました。しかし、それも一過性の事象であったと言えるのだろうと思います。

大きく、学界での消費者保護への関心というものを整理しますと、特別法にも、こういう形で預託法の制定等を含めて無限連鎖、この防止法を含めて罰則が設けられているのですけれども、その具体的な解釈というよりは、やはり基本法である詐欺罪の成立というものに、これらの事件が該当するかどうかというところに関心がありまして、該当しない、なかなか難しいということも、場合によっては刑法の研究者の中には、それは、詐欺罪の解釈を厳格に行っているということの証左なのだから、それは一つの肯定的な受け止め方すらあり得るというのが、刑法のスタンス、多くの研究者のスタンスだったのではないかと理解をしております。

2000年以降につきましても、先ほど申し上げましたけれども、消費者庁あるいは消費者基本法のその前の制定の場面では、消費者保護における刑法の役割というものが、何人かの先生方が関心を向けられて検討されたことはありました。この場合は、詐欺罪に関わらず、もう少し広い意味での製造物責任等も含めて、あるいは投資のような問題も含めて、問題として認識された場面はあったのですけれども、それも現在ではかなり下火になっていると理解しております。

ただ、こういう状態がそもそもこれからも続くのかというと、そうではないのだろうと思います。

一つは、消費者被害の一層の深刻化ということで、やはりもう一度、一層の保護の強化というものが必要だということが、社会的にもやはり認識されているところですし、あるいはここでの調査会の認識自体もそうなのだろうと理解をしております。刑法の中でも介入する場面が増加しているということ、さらには、これは刑法の固有の事情といいますか、これまで、特に20世紀の末まで、刑法は、改正をしないことが望ましいというのが、一般的な理解であったと、私自身は承知をしております。

と申しますのも、改正をするということは、処罰範囲を広げるとか、罰則を強化するという方向の変更ですので、そういうことは、刑罰権の行使をより積極化することにつながるということで、それまで刑法学会としては、学会全体の風潮としては、これは望ましくないという、その背景には恐らくといいますか、多くの方が指摘されてきたように、戦前、戦時中の刑法の濫用といいますか、それが国家権力によって恣意的に用いられたということへの反省と、日本国憲法の理念に沿った運用という、かなり大きな話として刑法は改正すべきでないという考え方が根強くあったのです。

ところが、1990年代の半ば以降、97年ぐらいからなのですけれども、2002年までの5年間で犯罪の認知件数が、約5年間で100万件以上増加するという、日本では過去に例を見ないような治安の悪化を指摘されるような状況が顕在化したことがありました。

その時代と呼応するように、刑法はその後、幾つかの要素が絡まって、これだけではなくて、相まってだと思うのですけれども、刑事立法の時代を迎えるようになります。

今日では、刑法は、立法としては、その必要性がある場合、立法事実として、その改正をして、より適用範囲を広げたり、新たな犯罪類型を設けたり、あるいは罰則を強化したりということをすべきだという場合については、その大きな理念として謙抑的にすべきだ、だから立法の段階でも、立法はできるだけすべきではないというのではなくて、やはり保護すべきものについては、刑法も保護を図るべきであるということで、立法の段階での謙抑性というものから、運用の面で謙抑的に用いるべきではないのかという形で、刑事立法の当局、法務省等の立法当局も、あるいは刑法の研究者の中で、全員というわけではありません、様々な考え方がありますけれども、その中でもそういった理解というものが徐々に浸透してきているのではないのかと思っています。

そういう意味では、今後、消費者保護の問題につきましても、その被害の深刻化を受けて、刑法の役割というものを強化することは当然あり得るのだろうと認識をしております。

その強化の方向性としましては、一般には、縦方向での強化の可能性、役割拡大の可能性と、それから横方向での拡大の可能性というのがあり得るだろうと。

要するに、縦方向というのは、図にも描かせていただきましたけれども、今も保護しているものをより強化するというニュアンスで理解をしていただければと思います。

それから、横方向というのは、今、保護の対象としていない、規制の対象としていないものにまで広げるという形での強化、この両方があり得るのだろうと認識しております。

このうち、法定刑の引上げについては、要するに、これまでも既に犯罪としているものについての非難を強める、高めるということですので、実際には、それによって量刑相場が上方に移動することで、抑止効果が上がったり、あるいは捜査機関にとって優先順位が上昇するという効果が期待できるのだろうと思います。

ただ、その一方で、上げたければ上げられるというわけではなくて、そこには根拠が必要ですので、保護法益の価値の変容、被害の深刻化、社会問題化などを立法事実として説得的に示せるのかということが、この実現においては課題になってくるだろうと考えております。

その一方で、問題点としては、法定刑を引き上げるということは、実務の対応の変化というのは保障されていない、必ずしも、例えば、法定刑を引き上げたから、絶対に実務の対応が変わるとは限らないということで、例えば、最近ではこの例をしばしば用いさせていただいているのですが、盗撮が、これまでは県の条例で規定されていたものが、法律が昨年できまして、法定刑も盗撮の場合は迷惑防止条例で1年だったものが、全国統一の法律で懲役3年までの罰則規定が設けられているものに、昨年から変わっているわけですけれども、今年になってからの警察の対応につきましても、これまでの盗撮についての対応は、ほとんど変わりが見られず、ほとんど略式で起訴をしたり、起訴猶予になってしまったりということで、実務としての対応が立法で法定刑を引き上げたからといって変わるとは限らないと言えると思います。

さらには、もちろん、抑止効果についても保障されているわけでもないということで、これがどれほどの意味を持つのかということには疑問も呈されているところになります。

もう一つは、縦方向の強化としては、処罰の早期化というものがあり得ます。これは、これまでは処罰していない、さらに前の段階で、被害が起こる前の段階で刑罰の発動を考えるという考え方です。

刑法では、未遂罪と言って、実行に着手すれば、結果が起こる前に処罰されますし、あるいはその準備行為をしたら予備罪というものが、一定の犯罪については、殺人罪とかにはありますので、そういう段階というよりも、それよりももっと前の段階というものを想定しているということです。

例えば、無限連鎖などの場合ですと、詐欺罪として起訴することも場合によってはあり得るわけですけれども、そこには、御承知のように、だまされた人が被害に遭ったということの立証が必要になりますので、なかなか立件が難しいということで、無限連鎖講の防止法は、その構造での取引をすること自体を、もう社会的な危険を持っていると、包括的、抽象的な危険を持っているということで取り締まるという形で、かなり前倒しして処罰するという対応です。これが一つ考えられるということです。

ですから、これは、その後をたどっていくと、今の規制の対象になる行為を広げたのは、横に広げたわけではなくて、さらに前でとらまえるというイメージということで、縦方向の中に入れさせてもらいました。

これによって早い段階で犯罪の拡大を防止することができますし、エンフォースメントに係る人的、物的資源の節約にもつながるというメリットはあるのだろうと思います。

これを実現するためには、さらに早期化されるという、その行為について適正な処罰範囲を画する構成要件を設定できるのかとか、個人の財産とは異なる被害が生じていない段階で規制するわけですから、それの保護法益を提示できるのかといった点が課題になります。

問題点としましては、日常的な行為との限界が不明確になる危険性がありますし、保護法益を抽象化することによって、刑法の基本原則である保護法益が侵害されなければ、刑法は発動されないという侵害原理、これを形骸化してしまうことにもつながりかねないといった点を指摘することができます。

少し急がせていただきまして、今度は横方向ですけれども、規制の横方向での拡大、これまで規制していない新たな類型について、処罰の対象にするということについて、二つの方法が考えられるというのが、次のⅢのところです。

二つの方法のうち、1のほうは、新しい行為類型を個別に規制していくという方法ですけれども、この場合、具体的に新たにこういった被害が生じた取引の形態があるので、それを禁止していく、被害が生じているものを禁止していくという形で規制をしますと、これ自体は割と明確に規制対象が分かりますので、導入のハードルは低くなるのだろうと思います。しかし、その分、犯罪を行う側、加害者側からしますと、後追いになってくる法律に対してかわすことができますので、また、その法律ができたら違う、その網にはかからないような形での取引というものを考えていくことが可能になってしまうというのが問題になります。

そこで、もう一つの方法としては、そうしたものを包括的に捉えるような規制という網をかけることができないのかということが考えられると思います。

こちらのほうは、効果としては当然、様々な類型、今は想定されていないようなもの、実際に行われていないものについてまで、ある程度抽象化して、規制の網をかけるわけですけれども、これをすることによって、規制対象とする行為を適正に示すことができるのか、つまり、適法な行為まで取り締まってしまわないかということが問題になり得るでしょうし、あるいはその規制を説明するための保護法益は何なのかということも、説明ができるのかということが課題になってくるだろうと思います。

問題としましては、適正な商取引に対して萎縮効果をもたらすという危険性、もしかしたら自分たちは、この網に引っかかってしまうのではないのかという、これが一つ問題になりますし、もう一つは、このような形での規制をしますと専門性が高くなりますので、解釈の場面で、かなり専門的な解釈を必要とするので、それを取り締まる専門的な機関の必要性というものが生じるだろうと思っております。

次に、レジュメでは、アメリカの状況について触れています。簡単に御紹介しますと、アメリカでは、Consumer Sentinel Network報告書というものが毎年公表されておりまして、そこでは、通報・報告が約530万件で、そのうちの約260万件が詐欺関連であると書かれています。また、被害についても、100億ドルに上るのだということが報告されています。

そうしたものについて、刑事規制はどうなっているのかというと、この情報が集約される形が、このConsumer Sentinel Networkなのですけれども、この集約された情報を、捜査機関がいつでもアクセスして、次の取締りのターゲットを検討できるという形での利用がされているようで、Federal Trade Commissionが刑事規制の権限を持っているわけではありません。FTCは民事上の終局的な差止め命令の申立てであるとか、損害回復のための訴訟の提起というものの権限を持っているということになっている。刑事法とは距離を置いている。専門機関に任せている。

ただ、この情報の集約というところで一定の役割を果たしているというのが、アメリカのすみ分けということのようです。

若干の考察のところは、本当につたないものです。やはり縦方向でも横方向でも、刑法の役割を強化する余地は、私はあるのだろうと考えています。

これは、ただ、刑法の学会の全体の認識かというと、私は経済刑法を研究しているということもあって、割とこの点については積極的な立場ですので、もう少し、もしかすると学界全体としては、伝統的な考え方の立場の方のほうが優勢かもしれません。

ただ、そうは言っても、被害が実際に起きているわけですので、このままでいいというわけではないだろうと。ですので、先ほど申し上げたようなハードルを解消する形であれば、保護法益を明確に提示できるだとか、規制する行為を類型化、具体的にできるということであれば、一歩前進する余地は、十分あり得るのだろうと考えております。

方向性としては、やはり、事業者をターゲットにするというのが妥当だと思います。やはり個人の取引を規制の対象となるということになると、かなり対象が広がってしまいますので、そういう意味では事業者を対象にすると、つまり、複数回にわたって多数あるいは複数のターゲットに対して取引を行う、取引相手を設定しているような場合だけが規制の対象になるということで、規制の対象を制限することが一つポイントになるかと思います。また、誤った情報を伝える、あるいは取引を、その後、伝えて取引を実現するということが、犯罪の規制の対象のコアになるかと認識をしています。

ただ、それだけでは、先ほど申し上げた課題であるところの適法な取引とのすみ分け、線引きというのは、まだ不十分かもしれません。

そういう意味では、さらなる適用範囲の制限のための構成要件の設定というのが可能かどうかということが、恐らく問題になってくるでしょうし、その場合には、主観的要件や目的等で制限するというのが、経済刑法の中でも一般に使われているところだと思います。

さらには、バスケット条項。A、B、C、その他のDという形で、バスケット条項の包括的な規制を置く場合に、その前に置く例示によって、どれだけ具体的な規制の範囲を明示できるのかというところも課題になってくるでしょうし、ポイントになってくるでしょう。さらには、事業者はダミーにすぎない可能性が高いので、両罰規定を置いて個人も併せて処罰するということが大事になってくるだろうと思います。

長くなってしまいましたが、最後にもう一言だけ付け加えさせていただきますと、刑法の役割としては、もう一つ、最近、刑法では、一部で没収の強化の必要性というものが、国際的な協調の一環として検討されています。これを踏まえますと、この没収の強化によって、その没収した財産を被害回復の財源とすることも一つあり得るのだろうと思います。

この場合は、消費者の被害が発生しないようにするという役割ではなくて、発生してしまった被害の回復にとっても、刑法が果たす役割の強化というのはあり得るのではないのかと考えております。

その場合、没収規定ができますと、実効性を確保するために、保全、差押えという、散逸してしまう前に、有罪が確定する前に、刑事司法機関が財産を差し押さえることができますので、その意味でも意味が大きいではないかと考えております。

すみません、長くなってしまいました。消費者の保護にとって、今までは、民事と行政法ということで、行政の実効性確保に刑罰が存在しているという形で、かなり刑法は後ろに下がっている状態でしたけれども、これと両輪という形で役割を果たせるように、刑法が、もう少し果たせる役割というものを検討することが十分あり得るのではないのかということを申し上げて、私の報告を終わらせていただきます。

○沖野座長 川崎先生、ありがとうございました。

それでは、ただいまの川崎教授からの御発表内容を踏まえまして、質疑応答や意見交換をしていきたいと思います。

御発言のある方は、会場では挙手によって、オンラインの方はチャットでお知らせをいただきたいと思います。どなたからでも、どの点からでも、いつもと同じようにお願いしたいと思います。

では、いかがでしょうか。

二之宮委員、お願いします。

○二之宮委員 二之宮です。御説明ありがとうございました。

大規模消費者被害が生じたり、それが刑事事件となったときなどに、弁護士として弁護団を組んで被害回復に携わっておりますと、全部詐欺に当たると、もうこれは詐欺だろうと当然思います。しかし、どうしても実際の実務の世界で、詐欺のハードルが高い、難しいのは、返還する意思と能力があるのかないのかという詐欺の要件のところで、この判断をするために、破綻してもまだやっているから意思も能力もないというところです。そうすると、破綻してしまっているので、被害回復にはもう結びつきません。

先生のご説明の刑法の役割ということからすると、詐欺の保護法益は財産ですけれども、破綻してしまって回復できないのだから、実はその財産は保護されないことになります。ペナルティーは受けるけれども、被害回復には結びついていないところが、なかなか詐欺のハードル、詐欺に伴う難しさだと思って、ずっと事件をやっております。

特例法だとか、いろいろな法律がどんどんできていき、ジャパンライフを契機として預託法が改正されました。改正されて、今のところ預託法絡みの事件というのは聞かなくなりました。この間、少し逮捕者も出たりしていましたけれども、大規模なのは、今のところ発生していないと思います。

そういうのを見ると、やはりいたちごっこになっても、後追いになっても、形を変えても、新たな類型として枠がはめられるのだったら新法をつくる意味はあるのだろうと思います。

先ほどの先生の話を聞いていたら、後追いになって、いたちごっこになったとしても、同じような形を変えてというのは、どんどんどんどん新法で規律を増やしていけば、A類型、B類型、C類型というのができてくると、その後、バスケット条項というのも最終的に設ける余地が出てくるのではないかと思って聞いておりました。

今、犯罪を犯すような事業を継続する意思がないとか、稼ぐだけ稼いで、もう退場すると、最初からそういうことを狙っている犯罪者に対してはペナルティーを受けて、罰を受けてもらい、市場から出ていってもらうのは当然として、そうではなくて、よく分かっていない、遵法意識が薄いというか、弱いというか、これは駄目なのだというところに、あまり意識がないだけなのか、あるいは、最初からそこを狙っているのかというところのやはり見極め、スクリーニングが、この専門調査会でやっているグラデーションをつけてるために必要だと思います。どこをこっちに寄せてくるか、中間層へ寄せてくるのかというところの判断を規律するということを考えると、やはり行政処分を先行させて、それで処分した内容で、事業を継続する意思があるのだったら、恐らく改善すると思いますし、だけれども、改善する気がない、従う気がない、市場で稼げるだけ稼ぐと言うのだったら、形を変えて同じようなことをするというときには、刑罰が控えているという2段構成によって、見極めるというのも、一つのやり方だろうと思いますし、現にそういうルールは、現行法の中でもたくさんあります。

先ほどの先生のお話を聞いていて、行政と刑罰との両輪というのを考えたときに、今までどうしても行政処分をして、それに従って改善するというのだったら、市場にまた戻ってきてもらうが、それに従わない、あるいは提出した書類に虚偽があるといったときには、刑罰が控えているという行政が先行して刑罰が後にという形ではあると思いますけれども、行政処分が先行するだけではなくて両輪として考えるのであれば、これは刑事事件になるのではないのか、でも、その見極めが必要だと考える場合に逆転させて、警察のほうから行政のほうへアプローチしていくという手法もあっていいのではないかと思いました。それで両輪として成り立つのではないかなと、聞いていて思ったところですけれども、こういう発想、考え方はいかがでしょうか、漠とした質問ですけれども。

○川崎教授 御質問ありがとうございます。

前段でおっしゃったように、多くの場合はグラデーションがあります。行政が規制をされるということによって解決する場面もあるでしょうし、必ずしも刑事法がいつも刑罰をもって前に出ていかないといけないというわけではないのは、もちろんのことなのですけれども、私の認識としては、まだまだ刑法が出ていったほうがいい場面もあるのではないのかという趣旨で、大きな枠で謙抑性というものが要らないとまでは思っていないということを前提にして、最後の部分のお話をさせていただきますと、警察で知能犯などの対応をされる方々も、その対応する場面というのは、かなり広い、詐欺だけではなくて、横領事件とか、財産犯の様々なものを対応されていますので、実際問題として、先ほど言った優先順位というものが、やはり一つは、その法定刑のようなもので重い軽いというのもありますし、それから被害者にとっての深刻度で、1人ずつの金額であったりというのが、かなり重くならないと、優先度合いとしては、多数の人が被害になっていても、必ずしも話も前に出ていかないということで、限られたマンパワーの中で対応していくときに消費者の問題というのが、今、必ずしも前に出ていないので、今、言ったような警察のほうが先に動いて、行政に連絡をするという形での実務の運用というのができないわけではなくて、あり得ないわけではなくて、今は実際問題として、できるだけの余裕がないということなのだと私は理解をしております。

ですので、本当の事件によっては、具体的な個別の事件によっては、警察のほうに被害の相談が行って、これは自分たちだけではなくて、消費者問題としても扱うべきではないのかという形で行くというのは、ないわけでは恐らくないのだろうと思うのです。

ただ、そうなっていないことは、やはり警察のほうとしては、よほどのことがないと動けないということですので、ここを改めますと、例えば最近でも、警察が昭和時代、戦後、新しい警察ができてから、初めて大きな組織変更をして、デジタル犯罪、ネットワーク系の犯罪についての取り締まりをするセクションを設けることをしたわけですけれども、そういう形で必要性が起きれば、そこにマンパワーであったり、あるいは組織を新たに注力するということは行われますので、その必要性というものをどれだけ認識を共有できるかというところが、政策的な問題なのだろうと。

法的にあるいはシステム上あり得ないことではないけれども、運用としては、今、それだけの向こうの認識に至っていないということなのではないのかなと、私自身は理解しています。

○沖野座長 よろしいですか。

○二之宮委員 はい、ありがとうございました。

○沖野座長 それでは、河島委員、お願いします。

○河島委員 ありがとうございます。

消費者法関係の刑法の役割について、とても分かりやすい御説明をしていただき、ありがとうございました。もう少しお教えいただきたいことがありまして、質問させていただきます。

3点あります。1点目ですけれども、サイバー犯罪は、時間軸と空間軸に分けていうと、空間軸で見ると、匿名流動型になっていて国境を越えて、犯罪の計画や指示、実行が行われているということが挙げられますが、時間軸で見ると、きわめて迅速に対応しないと手遅れになるケースが増えているのではないかと思っています。それは、犯罪組織が得た資金をすぐ暗号資産に変換しまい追跡できなくなり、6ページに書いてあるような被害者の損害回復ができなくなるという事態が相次いでいるからです。

やはり3ページ目に書かれてある処罰の前倒し、つまり事前の規制を強めざるを得ない面があると思うのですが、しかし、そうなると先生が言われていたように、刑法の基本原理の侵害原理との衝突があるのに加えて、犯罪のプラットフォームにもなっているソーシャルメディアの事業者との連携が必要になってくるのではないでしょうか。とはいえ、それら事業者がソフトローのガイドラインに応じてくれるかというと、かなり厳しいと推察します。最終的には、犯罪の事前察知に協力してもらうために、ソーシャルメディア事業者(プラットフォーム事業者)に向けたハードローを整えざるを得ないのではないかとも思うのですが、この辺り御見解がありましたらお教えいただければ幸いです。

2点目の質問は、6ページの多数回にわたって同種の取引を行う者には、例えば「トクリュウ」のような形態も入るのでしょうかということです。通信の秘密の問題があるわけですけれども、「トクリュウ」の指示役が、実行役と連絡を取り合って次の犯罪を練っていることが察知できれば、犯罪の未遂・予備に該当する要件を構成することにならないのでしょうか。

最後の3点目なのですけれども、アメリカの刑事法の役割のところで、法執行機関との連携が書かれてあります。先ほどあったように、日本でも警察との連携が欠かせないと思うのですけれども、投資詐欺が増えているということを考えれば、警察に加えて金融庁などとの連携も必要になってくるのではないでしょうか。省庁間の連携で、例えばつまずきのポイントなどがあるのでしたら、その辺りをお教えいただければと思います。

以上3点です。

○川崎教授 ありがとうございます。

少し荷が重い質問もありましたので、回答できる範囲でお答えしますと、プラットフォームの規制については、日本は恐らく、これも個人的な印象がかなり大きいですけれども、世界的に見ても一番慎重なのではないかと思います。

これは、先ほど申し上げた戦前の反省であるとか、日本国憲法の理念の実現であるとかということで、例えばヘイトの規制についても、かなり、その一方では必要性を叫ぶ声はあるわけですけれども、やはり表現の自由を規制することについては、立法当局はかなり慎重であるという印象を受けます。通信の問題についても、プラットフォーム自体を規制することについては、よほどのことがないと前に進まないように、私は認識をしています。

ですから、特に刑罰は用いない、規制をすることがあっても刑罰は用いない、自主的な規制をするような形をできるだけ持って、でも、それでは先ほど御指摘があったように、なかなかソフトローでは言うことを聞かないのではないのかというのは、そのとおりですので、これからは、その辺りのせめぎ合いといいますか、それが出てくるのではないのかと認識をしております。

もしかするとですけれども、それに比べると、議員立法という形で法案が出てくることはあり得るだろうと思います。

それから、「トクリュウ」についてですけれども、「トクリュウ」は、私のイメージでは、事業者にはなり得ない、ならないための「トクリュウ」ですので、これを規制するために消費者問題として、そこまでを入れようとすると、先ほど申し上げたような処罰の過剰な適用ということにつながりかねないので、これは、また、組織犯罪という別のカテゴリーで考えるべき問題だと思います。組織的犯罪処罰法が、かなり現実に警察あるいは検察によって適用されて、こっちは利用されておりますし、「トクリュウ」についても場合によっては使うということで、かなり積極的な対応がなされていますので、そうした中で対応すべき問題で、ちょっと消費者問題という形でここをとらまえると、ハレーションが大きいような印象を持っています。

最後に、金融庁等の警察以外の機関との連携、私もぜひそうしていただきたいと思いますし、そこに何か問題があるかどうか、私の知り得ないところですので、私自身のほうが、ほかの方から御指摘といいますか、御教示いただきたいというのが私の限界ということで御理解いただければと思います。

○沖野座長 ありがとうございます。よろしいでしょうか。

それでは、そのほかの点でも、あるいはそのほかの方からでも、御意見や御質問はありますでしょうか。

加毛委員、お願いします。

○加毛委員 東京大学の加毛と申します。川崎先生、本日は貴重なご報告をありがとうございました。

私は、刑事法に関する十分な知識を持ち合わせておりませんが、本日の先生のお話は、私が少し勉強している金融分野の刑事法における議論と重なるところがあるように思いました。

例えば、出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律(出資法)という古い法律が存在します。出資法1条は、出資金の受入れを刑罰をもって禁止していますが、刑法に正条がある場合には適用されないものとされています(8条4項)。つまり、詐欺罪の適用がある場合には、出資法1条は適用されないことになります。そこで、なぜ出資法1条が設けられたのかと言えば、それは、川崎先生が3ページで指摘された、処罰の早期化(前倒し)を実現することが目的であると説明されています。先生の問題意識は、かねてから存在したところを、一般的な形で明確に言語化されたものであると思います。

他方、出資法1条については、「出資金の全額若しくはこれをこえる金額に相当する金銭」を払い戻す旨を示して出資金を受け入れることという構成要件が定められています。つまり、出資金であるにもかかわらず、元本の返還を約束するという欺罔行為のみが処罰の対象とされます。その反面として、そのほかの態様の欺罔行為については、出資法1条を適用できないことになり、そのような適用対象の狭さが出資法1条の問題として指摘されています。このような議論は、川崎先生が、資料6ページにおいて、取引の相手方が取引を行うかを判断する際の重要事項について誤った情報を伝えることにまで処罰対象を拡大する可能性を指摘されていることと、親和的であるように思います。

さらに、出資法に関しては、実務上、立件の根拠規定とされるのが、出資金の受入れを禁止する出資法1条ではなく、預かり金の禁止を定める出資法2条1項であるという特徴があります。なぜ出資法2条1項が使われるのかといえば、金融庁が預かり金について挙げる四つの要件が相当に広範なものをカバーするものであり、また出資法1条と2条1項とでは法定刑が同一であるという事情があるからです。その意味で、出資法2条1項は、先生のおっしゃる包括的な犯罪規定の一例といえるように思います。そうすると、出資法においては、2条1項という包括的な犯罪規定が存在するので、1条の構成要件を緩和する必要性が低いといえるのかもしれません。

以上を申し上げたうえで、この包括的な犯罪規定については、先生が御指摘されるように、どの範囲で捜査を行い、どの範囲で立件をするのかという判断が難しい問題になるのだと思います。資料2ページで、立法段階での謙抑性から運用段階の謙抑性への移行の可能性が指摘されていますが、運用段階の謙抑性をいかにして適正に実現するかが問題になるのだろうと思います。3ページで、盗撮に関する立法について、実務運用が変わらないというご指摘がありました。仮にそうだとすると、実務が適切に運用されているのかという疑問が生じます。また、4ページで、包括的な犯罪規定については、萎縮効果の問題にどのように対処するのかが指摘されました。捜査機関の裁量や検察の起訴便宜主義による対応が考えられるかもしれませんが、その基準や手続について明確化・透明化を図る必要がないかが気になるところです。この点については、二之宮委員の御質問に対する御回答において示されたように、捜査機関にいかなる部署を置くのか、いかなる体制をつくるのかも問題になると思いますし、4ページで指摘されるように、公正取引委員会や証券取引等監視委員会のような警察外部の専門機関に捜査権限を付与することも考えられるのかもしれません。

さらに言えば、金融規制などでは、あるビジネスの展開が規制に抵触するかを監督官庁に事前に問い合わせて、規制に抵触しないというお墨つきをもらう、ノーアクションレターの制度が存在します。刑事法の分野において、類似の制度を設け、善良な事業者に対しては予見可能性を担保するという対応が考えられるのかが気になるところです。

包括的な犯罪規定の創設は魅力的な方策である一方、それに伴う副作用に対していかに対処するのかが重要になります。既にご報告のなかで説明していただいているところですが、今申し上げたことなどに関連して、さらに先生のお考えを伺うことができれば幸いです。よろしくお願いいたします。

○川崎教授 ありがとうございます。

先生の知見を超えるものを私が申し上げることができるか不安なのですが、出資法については、ちょっと勉強不足ですので、私の認識が間違っているかもしれませんが、1条は「何人も」とあるのに対して、2条は「業として」と規定されていますので、規制の対象がかなり違うということで、個人が行う出資のような形態のものというのが、様々な形が昔からありますので、それを全部規制の対象にするわけにはいかないので、それを限定して、個人が行うことで、対象になるのはこれだけだということと、預かり金のほうは業としてですので、それを業として行う者に対しての規制としては、かなり緩やかにできるという、場面といいますか、想定されている規制の対象といいますか、状況がかなり違うのかなと理解をしています。

御指摘のように、この二つが典型例で、そのどちらに進むのかということも言えますし、この両方を使っているという日本の状況をそのままうまく、これからも、どうすみ分けていくのかということになってくるのだろうと、私自身は思っております。

執行の運用の場面での制限というか、限定というものをうまく実現するためには、例えば公正取引委員会は、独占的な間接的な公訴権といいますか告発権を持っていますので、公正取引委員会が告発しないと刑事事件にはならない、立件できないわけですけれども、証券取引等監視委員会については、それはない。けれども、そうした告発する権限を持っていると、実際問題としては、警察が先に、あるいは検察が、特捜部のようなところが先に動くような場合もあるでしょうし、専門的な消費者の問題を扱うような機関をつくって、刑事事件自体は、検察が立件するしか、日本の法律の立て付け上、そうなっていますので、その前提としての捜査の端緒を提供するという役割を果たす、ある程度の資料を集めて、証拠を集めてということを行う、その際に、先ほども申し上げましたけれども、かなり専門的な解釈が入る余地がありますので、その専門的な部局を新たに独立して設けて、それを行うというのは、理想的ではないかと私は思っております。

その部局が、その証拠を集めてするだけではなくて、当然その一方では、これは適法かどうかということの判断をする窓口としての役割も果たすということになるでしょうし、日常的に、証券取引等監視委員会の多くの場合も証券会社が規制の対象になりますので、そういう意味では、業規制のことを行っている、独占禁止法の場合も事業者の規制ですので、事業者を規制することになるわけですけれども、消費者保護の場面というのは、様々な事業者が存在していますので、どちらかというと、それは独占禁止法の公正取引委員会に近い、でも、規制の形態としては、独占禁止法ほど限定されたものだけを規制の対象にするわけではなくて、かなり抽象的なものを規制の対象にするということで、かなり何を対象にした部局になるのかというのが、今までに既存の、そうした同種の機関よりも曖昧模糊としてしまうところがありますので、果たしてこれがうまく限定できるか、実効性が担保できるような形で機能できるのか、それは人が山ほどいてということになれば、また別なのだろうと思いますけれども、そうではないとすると、迅速性も必要でしょうし、あるいは実効性も必要であるという専門性を持った、そういう体制を整えることができるかというところが、もし、そういう形を取るとしたらポイントになるかなと考えています。

○沖野座長 よろしいですか。

○加毛委員 ご教示ありがとうございました。

○沖野座長 ありがとうございます。

それでは、石井委員、お願いします。

○石井委員 ありがとうございます。中央大学の石井と申します。非常に勉強になりました。ありがとうございます。

私のほうからは、2点ほどお聞きできればと思います。

私は、個人情報保護法などの情報法の研究を行っておりますので、その観点からの質問になります。今日の御報告と直結しないものにはなりますが、可能な範囲で御意見等をお聞かせいただければという趣旨の御質問です。

消費者保護と個人情報保護は、最近重なり合う論点が出てきているという状況があると認識しております。

FTC法においても第5条が、個人情報の取扱いもカバーしておりまして、FTCが法施行を担ってきたという歴史もあるところです。

個人情報の取扱いが不適切に行われるケース、例えば、破産者の情報がオンラインでマッピングされて公開されてしまったということで、個人情報保護委員会が刑事告発を行ったりしておりますが、なかなか捕まえることが難しいという問題があります。

一旦破産者になって情報公開されてしまった人が、情報を消してほしいと事業者に求めようとすると、今度は、仮想通貨を払いなさいと求められてしまって、経済的な被害も生じるところだと思っております。

消費者は個人を意味しますので、個人情報保護と、個人を守るという意味では共通するという点があろうかと思っております。

他方、個人情報保護はプライバシー権を背景に発展してきておりますので、その点では背景となる根本的な保護の理念が異なるという面があろうかという認識です。

お聞きしたいのは、まず1点目として、自己決定、自己責任の原則というのが、個人情報保護の場面では、前提として成り立たないのか、プライバシー権が背景にありますので、違った観点での見方をすべきであるのかというのが御質問です。

2点目として、個人情報保護制度は、日本においては、個人情報の取扱いの利用目的を特定し、通知し、公表し、個人の関与をベースとして、事業者に自己の情報の取扱いの是正を求めていくというようなガバナンスであると説明されるわけですが、GDPR、EUの一般データ保護規則においては、原則個人情報の取扱いを禁止するという立て付けになっており、随分とルールのつくり方が違うという状況があります。ただ、同じ個人情報保護制度ではあります。

GDPRにおいては、多額の行政上の制裁金を監督機関が科すことによって、かなり派手に運用してきている中で、個人情報保護法では、改正法の中で課徴金を導入すべきかどうかが議論されています。

刑事罰としては、令和2年の法改正で、法人の処罰規定が1億円に上がったという規定もあります。日本では、これまでは罰金を上げるということで、法的な対応がなされてきました。

EUの監督機関が多額の制裁金を科すというのが、個人情報保護の世界では、実務として割と知られてきているわけですが、刑事罰の運用との関係を考えたときに、日本にも課徴金制度を導入して、監督機関が運用するのが、価値判断としても適切と見るべきであるのか。あるいは、刑事罰の法定刑を上げて対応してきたこれまでの個人情報保護法の流れに沿って、問題がある場合には、個人情報保護委員会の監督権限の行使として、場合によっては刑事罰まで行く、という立て付けで運用していくのが、価値判断として妥当なのか、抽象的な質問で恐縮ですが、課徴金との関係について、もしお考えがあれば、お聞かせいただければと思いました。

すみません、長くなりましたが、質問は以上になります。

○川崎教授 御質問ありがとうございました。

まず、自己決定、自己責任が、個人情報の場合に当てはまるのかということについては、これは場面によるのかなと思います。いかがわしい、だけれども何か得をしそうなネット上の取引に個人情報を入力するという場合に、やはり一定の自己責任といいますか、自分での管理、個人情報の管理というのは必要になってくるでしょうし、その場合には、自己決定、自己責任ということによる責任の負担というものが生じないわけではないのだろうと思いますけれども、そういうものではなくて、最近ニュースなどになるのは、二つ目の問題とも絡んでくるわけですけれども、大きな企業が多数の消費者といいますか、個人情報をデータベース化しているものが、なぜか流出してしまうというような、どちらかというと意図的というよりは、大きな会社そのものとしては、管理監督の不十分さというものが、実際の被害につながったという場合ですので、消費者のほうは、そこまでの責任を自己責任で負えということにはならないのかなと思います。

それは、やはり責任を超えたものですので、この管理を十分できなかった人たちの責任ということになるのだろうと思います。ですから、その場面によって違ってくるかなという印象を持っております。

それから、課徴金と罰金との関係ですけれども、これも場合によるかなと理解をしております。

課徴金の特性としましては、金商法であるとか、独禁法でも導入のときに言われたことですけれども、迅速性、やはり日本の刑事裁判というのは、かなり時間がかかりますので、その中で実効性を担保するということで、課徴金というものが果たす役割というのは、大きいだろうと思っております。

ただ、その一方で、それだけに課せる、課徴金というのも制限がありますので、罰金のほうが、もし課すとすれば、大きなインパクトを持つという場面もあると理解しておりますし、あるいはそれは罰金だけではなくて、それに附帯する様々な効果という面でも、罰金のほうが大きいわけですので、それをもたらすことが、重要という場面もあるだろうと思います。

もちろん、最近は、この二つというのは、どちらか二者択一というよりは、両方、時間が前後した場合については調整を行うという形で運用することになっておりますので、その辺りは、ケースによって、対象者が不当な負担を負わないような形での運用がなされるのが最も留意されるべきところかなと理解をしています。

○石井委員 ありがとうございました。大変勉強になりました。ありがとうございます。

○沖野座長 ありがとうございます。

そのほかに、いかがでしょうか。

よろしいでしょうか。

では、山本座長代理、お願いします。

○山本座長代理 非常に有益な御説明をいただきまして大変勉強になりました。ありがとうございました。

一つコメントと、それから二つの質問をしたいと思います。

いずれも最後の5ページから6ページの、若干の考察と書かれているところです。

コメントと申しますのは、現状認識のところです。一番下に、国の地方公共団体に対する指示権が出てまいりますが、これはある場で私が出した例です。これと刑法あるいは消費者法には、二つ違いがあります。一つには、この規定は、国と地方公共団体との関係の規律です。とはいえ、実はこうした包括的な規定は、他国において国が私人に対して規制を行う場面でも使われます。しかし、それは行政処分等の根拠規範であり、刑事罰の構成要件ではありません。これが一つです。

もう一つには、ここで想定しているのは、災害とか感染症、消費者問題で言えば、言わば安全分野の話であって、個別の事業者と消費者等の個別のアクター間の取引の規制を想定したものではありません。その意味で、確かに限界があろうと思いました。

その上で、御質問ですけれども、次の6ページの2の「刑法の役割拡大の方向性」として、例えば、こういったことを犯罪化する可能性があるのではないかと書かれております。これは、私が十分理解していなかったというか、十分聞いていなかったというだけの問題かと思うのですけれども、その次のところに、さらに、例えば主観的要件を入れるか、ここで言う重要事項を限定するか、あるいはバスケット条項でよいのかといったことが書かれています。では、刑事法の処罰要件として、どの辺りまで緩く書くことが許容されるのでしょうか。できるだけ限定したほうがよいということは、理解するのですけれども、どこまでであれば、刑事罰の要件として、緩やかに書くことができるか、私は感覚が分からないので、教えていただきたいのです。

それから、もう一つは、先ほど伺っていて思いついただけですけれども、例えば、ノーアクションレターとか、あるいは行政処分の場合で申しますと、最近独禁法の分野で確約手続がかなり使われているということですけれども、そのように、言わば事業者との間の合意によるソフトな手続を入れる可能性を認めるとした場合に、構成要件の書き方を緩やかにすることは認められるのかといったことも教えていただければと思います。

それから、最後の3番目の「もう一つの役割拡大の可能性」について、第2の質問をしたいと思います。不法収益の保全、押収の強化ということが出ておりますけれども、これについて、具体的に現状の法制度において、どのような問題点があって、あるいは運用において、どのような問題があって、今後それをどのように変えていくべきであるとお考えかという点を、お聞かせいただければと思っております。

以上です。

○川崎教授 ありがとうございました。

まず、先生から御教示いただいた、5ページの最後の国の地方公共団体に対する指示権のようなものというのは、刑事法とはかなり差があるということなのですけれども、方向性として私自身、先生からお話をいただいたときに、なるほど、こういう思考で規制をするということが、刑事法の専門から勉強してきた者からすると、考えたことがなかったものですから、状況条件といいますか、こういう状況だと発動するということがあり得るのかというので、それだけでは、やはり刑法の場合は、なかなか難しいということをここで書かせていただきました。ただ、実は、他国なのですけれども、スイスでは、法人を処罰するというのは、法人を処罰しないと、結果として不十分な場合だけ発動されるという変わった規定があります。普通はドイツと同じで、法人というのは、刑事責任は問えない存在なのですけれども、個人にしか問えないのですけれども、それでは不十分だという場合は、法人を処罰してもいいという立法が十数年前にできまして、それは少し似ているものですので、刑事法の世界では絶対あり得ないというわけではないのですけれども、日本の志向では少しハードルが高いかなという趣旨でお伝えしたということです。

それから、どこまで抽象的な規制を許容されるのかということですけれども、それはなかなか個別具体的な検討ということになるのですが、一般的なことで言えば、予測可能性を奪わないという言い方がされるのだろうと思います。

この規制を規定ぶりで、当然、あなたの行っている行為が禁止されるということが、それは分かったでしょうと、標準的な一般人の基準で言えるかどうかということが問題になるという言い方しか、ちょっと難しいかなと思います。

それから、ノーアクションレターについては、私の理解では、一時期議論されたことがあったのですけれども、刑法の立場としては、何の意味もない。恐らくは、実務としては、それがあることは、起訴の判断のときに、検察は考慮することはあり得るのだと思いますけれども、実際問題として、それをもらっていたからといって、免責されるあるいは違法性が阻却されるという効果はないのはもちろんのこと、違法性の錯誤といいますか、違法性がないと思い込んでしまったということも認めないということ、それを決められるのは裁判所だけ、事前に行政機関が、裁判所の前に評価をするということは、少なくとも刑法の適用に当たっては、効果はないという理解なのだと思います。でも、それは建前といいますか、運用は恐らく違うのだろうと思います。

最後に、没収についての、今後の課題ですけれども、これは世界的に見てFATFが、FATFというのはマネロンの世界的な規制をするための枠組みですけれども、そこからの勧告で、有罪判決を前提にしない没収というものを導入しなさいと言われています。まだ具体的な日本に対する強い勧告というものには至っていないで、恐らく、次の審査を受けたときには出てくる可能性もありますし、日本でも、その必要性というものが最近は議論されているところなのですが、海外では有罪判決が出たものだけですと、例えば詐欺の事件ですと、全件について有罪判決は出ませんので、代表例の100人被害者がいたとしても、一番証拠が集まっている3人とか4人だけの有罪判決を出しますので、そうすると没収できるのは、その部分だけになってしまいます。それを避けるために、組織犯罪処罰法については、その要件を緩める没収の規定がもう既に存在しますので、今、組織的な形で詐欺を行った場合については、そちらの適用がされて、没収の範囲が広くできるわけですけれども、でも、これでも十分ではないということで、有罪判決が出ていないものについても、それを没収する、逆に被告人側が、これは適法な収益なのだという立証ができない限りは、もう没収してもいいという推定規定を設けるという、海外では、国が増えてきていますので、そういう形でより組織的な犯罪を規制するということを行う。

さらには、その没収したものは、罰金などと同じで、被害者の保護のほうに原資として充てるということが行われていますので、そうした一つの手段として考えられる。その点が改正のポイントとして挙げられるのではないかと思っております。

○沖野座長 よろしいですか。

○山本座長代理 ありがとうございました。

2番目の点は、そのとおりだと思いますけれども、制度化の可能性があるかどうかを考えたということです。

○川崎教授 2番目というのは、ノーアクションレターですか。

○山本座長代理 ノーアクションレター自体に法的な効果は何もないというのは、全くそのとおりで、行政法上もそのように理解されています。

○川崎教授 むしろ立法をしていただければ、それは違法性阻却の根拠になり得るということなのではないでしょうか。

○山本座長代理 分かりました。ありがとうございます。

○沖野座長 よろしいでしょうか。

ありがとうございます。今の点も、まさにお伺いしたかったところなのですが、刑法的には、そのようなものは書けばできることであって、理論特に問題はないということでよろしいでしょうか。

○川崎教授 それが何についての、行政が適用を判断したということについて、包括的な規定というのは少し難しいかなと思うのですけれども、特定されたもので、こうこうこういう手続を踏んで、こうされたものであればというのは、それが、まさに適法なもののわけですので、適法になるのは当然だと思うのですけれども。

○沖野座長 ありがとうございます。

プロセスや手続などで、一定のプロセスを取っていれば、むしろ犯罪の構成要件に該当しないとか、あるいは一定の違法性阻却とか、そういう形の可能性があるということでしょうか。

○川崎教授 そう理解しています。

○沖野座長 もう一点、お話の中で出てきた確約手続のような被害救済のために、積極的に活動したという場合には、刑事の処罰についてもそれを勘案するということも、書けばというか、制度として設ければ、可能でしょうか、

○川崎教授 具体的にどういうイメージをされているのでしょうか。

○沖野座長 もともとのイメージは、大上段的に申し上げますと、事業者の3類型というのが、中川教授以来言われておりまして、特に極悪層というか、非常に悪い層については、刑事が最も実効的な手法であって、そのことが逆に、ほかの手法が必要なのかという疑問につながったりしているのですが、いかに実効的に刑事の制度をかけられるかということを考えたときに、最初からピンポイントで、その層をうまく取り込めればいいのですけれども、どうしてもなかなか難しいということになりますと、どこまで包括的なものが許されるかという問題に関わってくるのですけれども、中間的な事業者についても、刑事的な手法をかける形になる、必ずしも捉えたいと思う事業者だけではない事業者を捉える可能性があり、それについては、あらかじめ不透明な部分を明確にする手続などでできないかということと、むしろ独禁法とか景表法とかがそうでしょうか、被害回復にこういう形で努めるとかあるいは確約手続等は、あらかじめ、この後防止措置を取るということを公的に約すると、そういうことをやるということであれば、もう課徴金は課さないとか、そういう形での制度が考えられます。そうすると遵法意識はあって、しかし構成要件に該当してしまったけれども、それは自分たちで是正しますということをしっかりと保証が取れる形でやるのであれば、もうそれは課さないとか減じるとかいうことも、刑事罰について、そのようなものを入れるということもあり得ることはあり得るのでしょうか。

○川崎教授 最後の部分については、かなり司法取引に近いと思いますので、今の制度ではなかなか難しいかなと思います。被害を回復するのに協力したから、刑事責任が科される、課されないというのは、もう過去に行ってしまったことと、これから行うことで相殺することはなかなか難しいというのが、日本の刑法の考え方だと思いますので。ただ、今、御承知のように、一部では司法取引は認めるべきだという形での議論というのはありますし、実際に検察は、ある程度それに近いことを起訴猶予の裁量のときに行っているというのも事実だと思いますので、処罰をする必要がないものについてまで起訴するということはしていませんので、そのときに、もう既に被害の回復には努めているとか、再犯のおそれはないとか、そういう裁量を働かせるときの要件が、具体的にこの場面でいうと、御指摘のような事柄がそれに当たるということで判断されることは、今でもあり得るのだろうと思います。しかし、なかなか重要な事案について、それを発動させるというのは、先ほど、過去の事件が、もう行ってしまった事件が、被害が実際に出ていて大きな事件の場合、例えば、詐欺、消費者詐欺ではない詐欺の事件で、見つかったからといって、お金を返したからといって、それをやはり逮捕しないというわけにはいかない。そうすると、やり得になってしまいますので、では、その場合とどこが違うのかということになって、いや、この人たちは適法な行為をするつもりだったのだからということで説明がつくのかというと、なかなか難しいかなという印象を持っています。

○沖野座長 ありがとうございました。

最初の犯罪要件のところを包括的に書くことによって、そこが広がるので、副作用と加毛委員がおっしゃいましたけれども、それを縮減するための手法をどう組み合わせられるかというのが、関心の一つでした。

○川崎教授 恐らく、先ほども言いましたけれども、そういう形で、結果は適法なものしかとらまえない、捕まえない、だけれども、最初の網は大きく、だけれども結論を小さくするために、その過程で縮減していくということは、恐らく刑法的な思考ではなくて、網のところは、やはり、全てが規制の対象になってしまっても仕方がないものを明示した上で、そこから絞るという、絞れなくても問題がないものを絞ることもあり得るということであって、まだ網をかけた段階では、処罰の対象にしないものまで含んでいるというのは望ましくないといいますか、あり得ないのだろうと思います。その構成要件というのは、あくまでも違法で処罰に値する行為を、抽象的、類型的に定めたものというのが前提だと思います。

○沖野座長 ありがとうございます。

やはり被害も出しているので、それ自体は該当するのだけれども、しかしながら、規制として、重過ぎないかという感じがあるのかと思いますが、そうすると、やはり入り口のところから絞るものでないと適切ではないということかと思いました。

○川崎教授 危害は出しているけれども、処罰には値しないというものがあるのであれば、それを構成要件としてかけるのが必要と思います。

○沖野座長 本来の在り方で、対応するのは必要ですということと理解しました。ありがとうございます。

すみません、私のところで時間を取ってしまって。では、小塚委員お願いします。

○小塚委員 すみません、もうよいと思っていたのですが、今のやり取りをお聞きしたのでクイックに、今日の話は、詐欺罪のお話から始められて、今後拡張していくとしても、やはり基本的には詐欺的なものを対象にしていたということでよろしいのでしょうか。

つまり、消費者問題としては、この調査会でもいろいろなものを議論していて、例えば不当な契約条件とか、そういうものにも直罰を課していくことが、ロジカルにはあり得るわけですね。

そうすると、今のような話も出てきて、悪質な意図で、例えば不当な契約条件を設定した業者は、もう刑事罰でばしばし処罰できるけれども、事業者が、たまたま法務能力が不十分で、変な契約条件を置いてしまったものは、もうすぐ削除しますと言ったら刑事罰になりませんと、これは起訴裁量とかではなくて、処罰されないということが前提になっているので萎縮効果もありません。

こういうことを考えることもあり得るわけですが、今日の話では、やはり前提として刑法の守備範囲、刑事罰の守備範囲というものが、消費者問題の中でも、ある程度詐欺の周辺ぐらいまでが限界ではないかと、そういう前提でお話しいただいたと受け取ってよろしいでしょうか。

○川崎教授 必ずしもそうは思っておりません。今、御指摘のあった点についても、私が最後6ページ目に書いた、誤解を与えることを知りながら、あえて誤った情報を伝えるという中には当然含まれると思いますので、含めることも可能だと思いますので、そういうかなり包括的なことで、先ほど言ったような不当なものまで排除することができているのかどうか、それを排除するために、客観的な要件を、ああでもない、こうでもないと書くのか、重要事項について列挙することであったり、主観面として目的を一定の目的に限定することで、その目的が立証されて、そうすると、今度は運用がなかなか難しくなるわけですけれども、そういう少し堂々めぐりなところがあるのですけれども、妥当な範囲に絞れば、それは詐欺以外の場面でもあり得るかなと理解しています。

それは、誤った情報を伝えるというのは、詐欺に近い類型のように思うかもしれませんが、これは一例で、ほかの場面でもそういう同じような立て付けで対応することは可能なのだろうと。

○小塚委員 はい、分かりました。

○沖野座長 よろしいでしょうか。

時間を超過しまして、大変申し訳ございません。

それでは、川崎先生におかれましては、貴重な御報告をいただきまして、ありがとうございます。

この後、後半に進みますけれども、既に金融関係ですとか、お話が出ておりますし、関連する議論はきっと出てこようかと思いますので、差し支えなければ、引き続き御参加をいただければと思います。

それから、二つ目の議事に入る前に、事務局から確認がございますので、お願いします。

○友行参事官 二つ目の議事に入ります前に、皆様に御連絡事項がございます。

続いてのヒアリングにおきましては、配信用の画面に資料を表示する場合がございます。ただ、こちらの資料は、本来、委員限定の資料となっておりますので、取扱いには御注意いただきますようお願いいたします。

以上です。

○沖野座長 では、この点、よろしくお願いいたします。

佐藤先生、大変お待たせいたしまして申し訳ございません。続きまして、T&K法律事務所で顧問を務められており、金融法・金融政策分野におけるプリンシプル・ベース・アプローチの導入と浸透にお詳しい佐藤隆文先生に「プリンシプル準拠の可能性」というテーマで20分程度を発表いただきまして、質疑応答・意見交換をさせていただければと思います。

佐藤先生、どうぞ。

○佐藤顧問 佐藤でございます。本日は、よろしくお願いいたします。

○沖野座長 よろしくお願いいたします。

○佐藤顧問 本日は、この専門調査会にお招きいただきまして、改めて誠にありがとうございます。プリンシプル・ベースの話を若干できること、大変光栄に存じます。

今回、消費者庁あるいは消費者委員会のほうから御要請いただいたのですけれども、私は法学徒でもありませんし、いわんや消費者法制について知見があるわけでもございませんので、お引き受けすべきかどうか大変迷ったのですけれども、金融行政の中でプリンシプル・ベースの行政を進めるということに関しては、当事者として関与してまいりましたので、その経験に基づいた私見を提供するということで、それを消費者法制のパラダイムシフトの御検討をなさる際の参考にしていただく素材を提供すると、そういう趣旨でもよろしいでしょうかと伺ったところ、それでよいということでしたので、大きな不安を抱きつつ、今日は参加させていただきましたけれども、先ほど川崎教授の御発表の中で、幾つか共通の接点などもありましたので、小さな安心感を抱いているというところでございます。

ですが、今日の話のあらましですが、まず、最初にプリンシプル準拠というのはどういうものかについて確認させていただいた上で、実定法などルールとの関係を整理し、また、金融分野では結構普及しておりますので、その実態を御紹介させていただく。

続きまして、プリンシプル準拠の制度設計を構想していただく際の参考として、資本市場の規律づけ、というのを例にお話をさせていただく。

三つ目に、プリンシプル準拠が働くメカニズムとして、「分権的規律づけ」と私は呼んでいますけれども、この分権的な規律づけを想定いたしまして、それが実効性を持つための仕組みを議論するということでございます。

四つ目に、先行しているプリンシプル、現に存在しているプリンシプルが幾つかありますけれども、その中から手法として大変重要な「コーポレートガバナンス・コード」と「スチュワードシップ・コード」を取り上げる。続いて、消費者法制との接点も多い「金融サービス業におけるプリンシプル」、それから「顧客本位の原則」というのを例に取りまして、教訓を引き出せるかな、という試みでございます。

最後、まとめとして全く私見でありますけれども、これらの経験から感じた教訓と課題というのをまとめてあります。

中身に入ります。まず、ルールとプリンシプルについての御説明でございます。

一応私としては、「プリンシプル」に固まった定義があるわけではありませんけれども、一応社会や各々の業務分野において共通に抱かれている抽象的、潜在的な規範意識、これに明示的ないし具体的な内容、表現が付与されて、それが関係者の間で広く共有されることを通じ、各主体の業務遂行の指針となることが期待される行動規範や行動原則、ということでございます。

資本市場を例に取れば、市場秩序の維持、市場の公正性と透明性、投資者の保護、公正な価格形成などの理念から導かれる分野ごとの行動規範、あるいは行動指針などがこれに当たるわけであります。

あるいは別の捉え方をしますと、法令、ルールの背景にある基本精神や法目的というものを、より具体的に表現するもの、といった捉え方もできようかと思います。

次に、プリンシプル・ベース・アプローチについて書いてありますけれども、プリンシプルで提示される行動原則等を明示的に意識し、それに沿って行動することが、自己の利益にもつながるという動機づけを通じて、各主体の自己規律に直接訴えることによって、全体としての規律づけメカニズムが有効に働き、実効性が高まる、ということを狙った手法であります。

下のところに少し書いてありますけれども、プリンシプルは直接の法的強制力を持つものではありませんけれども、これをめぐり、時間の経過とともに資本市場全体の規範意識が高まり、それが市場慣行等に反映されるようになれば、実効性のある分権的規律として、持続的な効果が期待できるのではないかということでございます。

ルールとプリンシプルとの関係では、金融関係の法令で具体的な実定法の規定とプリンシプルというのは、意外とつながっているということをお示ししたものでございます。

実定法の背景にはプリンシプルが存在するということでございます。

次にこれは先ほどの川崎教授の御発表とも若干接点がありますけれども、ルールとプリンシプルを対比したときに、それぞれ長所、短所があるということで、一貫性という意味では、ルールのほうが優れているでしょうし、透明性・予見可能性という面でも、ルールのほうに一長の分があると。

実効性という意味では、これは議論のあるところですけれども、監視とか監督とか行政措置、あるいは刑罰による実効性の確保が可能だという意味では、ルールが最終的な強みを持っているということかと思います。プリンシプルの場合は、規範意識のない者には効果がないという弱みがあります。

次に、カバレッジについてですけれども、ルールの場合には、ルールの隙間というのが必ず発生します。現に発生もしていますし、特に金融の分野では、新しい商品が出てきたり、新しい取引手法が登場したときには、必ず隙間が出てきてしまいます。そういうものをカバーするという意味で、プリンシプルというのは、相当有用に使えるということでございます。

具体的な処罰に結びつけるというのは、直ちにはできませんけれども、悪質性を認定するという意味では、プリンシプルは極めて強力な武器になるということかと思います。

次に、当局のリソースとの関係でいきますと、ルール・ベースの話は、一つには監視、監督措置の網羅性の問題がありますし、行政資源のリソースの制約というのが非常に大きいですので、そこでの弱みがあるということかと思います。その点プリンシプルの場合は、規範意識の浸透のための努力というのは本当に必要ですけれども、当局の執行負担というのは相対的に軽いとも言えようかと思います。

次に、形式と実質の関係ですけれども、金融庁で実際にいろいろな仕事をやってきた中で、結構、形式的なルール遵守の組み合わせ、ルール遵守といっても結構グレーゾーンで、直ちには判断できないような、そういう取引を組み合わせて、実際は全体の姿として見ると大変悪質なもくろみになっていると、それが組織的に行われているというケースが結構ありまして、そういうところはルール一辺倒ではカバーできないということでございますので、その辺に光を当てるという意味では、法目的等に即した実質の評価による真の公平性、公正性の確保ということに向いているかなと思います。

このように見てきますと、ルールとプリンシプルというのは相互に補完的であって、両者を組み合わせて使うことが現実的だということを一番下に書いております。

次に、プリンシプルが、実は金融分野ではかなり普及していますという話ですけれども、2008年4月の「金融サービス業におけるプリンシプル」、これを皮切りに、これまで8つのプリンシプルが策定されておりまして、それなりに実効性を持った運用がなされているものもある、ということでございます。

この背景には、この策定者のところにありますように、金融庁あるいは東証、それと一体であります日本取引所自主規制法人、こういった準公的機関というのですかね、あるいは自主規制機関と言ってもいいのですけれども、こういうものの存在が非常に大きいと思います。

次資本市場におけるプリンシプルが幾つかできているのですけれども、この8つのプリンシプルがそれぞれ異なる対象事業者、運営者に向けて発せられておりまして、結構役割分担をしているということでございます。

対象となっているのは上場会社、金融サービス業、機関投資家、監査法人といったところですけれども、それぞれのプリンシプルがかなり網羅的、網羅的というか一通りカバーしております。

この章の小括でですけれども、繰り返しになりますけれども、ルール・ベースの規制監督とプリンシプル・ベースの規制監督は、それぞれの長所、短所を吟味し、分野ごとに使い分けたり、あるいは両者を組み合わせたりして、相互補完的に活用するのが現実的であるということでございます。

このプリンシプル準拠は、先ほど申し上げましたように、近年、資本市場の分野ではかなり浸透してきているわけですけれども、これがある程度実効性を持っているのはなぜかというと、基本的にはディスクロージャーの制度とそのインフラが充実しているということがあると思います。

もう一つ、これは私の全くの私見ですけれども、ルール・ベースを基本とする行政実務や裁判においても、法令を個別事案に適用する過程で、明示的ではないにせよ、暗黙知としてプリンシプルが援用されているのではないかというのが私の理解でございます。

第2部に入ります。

プリンシプル準拠の制度設計を構想する際の参考として、資本市場の規律づけという具体的な分野で、政策目標の明確化と、それから中間目標へのブレイクダウン、これが有用であるということをお示ししたいという趣旨でございます。

それを具体的に述べますと、資本市場では、情報開示の信頼性、取引の公正性と執行実務の信頼性、投資者及び資金調達者にとっての利便性、金融商品の品ぞろえと品質、金融サービス業の活力と規律、確かな価格発見機能ということを挙げていまして、こういったことで望ましい資本市場の姿をお示しして、それを、持続的に機能が発揮されるようにしていく、それによって、資本市場としての品格が認められ、資本市場の国際競争力が高まり、持続的な発展に寄与すると、こういう発想でございます。

では、その持続的な機能の発揮は一時的なものでは駄目なので、持続的なものになるためにはどういうものが必要かということで、下のところにあります、質の高い規律づけメカニズムというものを重視するということでございます。

そのための要素として、規範意識の共有、合理的な動機づけ、規制の透明性・予見可能性、規制の実効性と公平性、さらには市場メカニズムを通じた評価、などというのを挙げております。

資本市場規制のケースでは、この市場の望ましい姿というのを再確認しまして、それを実行するために必要となるインフラの整備あるいは運用、さらには事業者のあるべき行動というのを抽出して、分野ごとに目指すべき目標を提示するという手法を取っております。

消費者行政においても、望ましい消費財市場の在り方を再確認し、それを社会に発信するということが、消費者、事業者双方と、その規範意識を共有していくための一つの方策かなと思っております。これは、素人が言うのは、甚だ僣越なことで恐縮ですけれども、そのように思っております。

その際に、消費者行政の行政目標は、最終目標だけではなくて、それを実現するための中間目標を含めて、階層的に整理することも一案かなと思っております。

それらの中間目標に即したプリンシプル項目を抽出する、これはプリンシプル項目を抽出する際のヒントということでも申し上げているのですけれども、プリンシプル項目を抽出し、設定し、それらを事業者等と共有するということで、規範意識の高まりを期待できるのではないかと思っております。

第3部に入ります。

その目次ですけれども、資本市場の規律づけという具体的ケースを例に取りまして、分権的な規律づけの重要性を確認する。それから、その中でプリンシプル準拠が実効性を持つための仕掛けというのを考えるという趣旨でございます。

資本市場から見た特性、特にこれは株式市場を前提に考えていますけれども、資本市場に参加する主体が非常に多様であるということを強調しているわけです。

金融商品の需要サイドで言えば、個人投資家がおり、機関投資家がおり、証券アナリストがいると。

金融商品の供給サイドであれば上場企業がおり、引受証券会社、投資銀行等が存在しています。

それらを仲介するものとして、仲介機能を果たす市場仲介者、取引所、清算機関、決済機関、さらには独立プロフェッションとしての公認会計士、監査法人あるいは弁護士、法律事務所などが存在しているということで、一つの市場だけ捉えても非常に多様な多数の市場参加者が存在しているというのが、ここのポイントでございます。

したがって、資本市場では、分権的規律の働き方が全体のパフォーマンスを大きく左右すると考えております。

「分権的規律とは」と書いてありますけれども、資本市場の場合であれば、今、申し上げたような様々な資本市場の関係者において、合理的な制度と動機づけ、インセンティブを背景に、おのおのの持ち場に即した規範意識と遵法精神が作用し、それらに基づく各々の行動の集積ないし相互作用が市場全体としての規律づけの実効性を高めるメカニズムになると、一応説明をしております。

その規律づけをしていくチャネルとしては、一応三つに分けることができるかなというのが私の理解でございまして、いわば分権的規律に実効性をもたらすドライバーであります。それは当局による規律づけ、市場規律、自己規律の三つでございます。

それを図示しますと、次のようになりますが、とにかく重要な要素というのは、真ん中の黄色い丸にありますように、ルールと情報開示とプリンシプルという、この三つであります。

三つの規律づけチャネルに、若干簡単に触れますと、規制当局等による規律づけというのは、一つは、法令ルールの制定とそのエンフォースメントがありますけれども、それに加えまして、プリンシプルを取りまとめる、あるいは社会に対して、遵法精神、規範意識の涵養をしていくということで、このエンフォースメントと規範意識の涵養というのは、車の両輪だと考えております。

次に、市場による規律づけですけれども、当局による規律づけ、エンフォースメントだけでは、個別事案ごとの対象が中心となるわけです。全ての問題事案を網羅的にカバーするというのは、現実問題としては不可能であって、非常に強いリソース面の制約があります。それから逆に、規制当局への過度な依存というのは、潜在的に過剰規制のリスクをはらんでいるということも忘れてはいけないと思います。

その点、市場による規律づけ、市場規律のメリットというのは、情報開示の信頼性が高ければ、市場による規律づけのカバレッジが広いということと、市場メカニズムの働きで因果関係が作用しますので、大きな追加的なリソースは不要である。市場メカニズムの作用には時間的連続性があって途切れることがあまりないというメリットもあります。

上場企業、上場会社については、そこにありますように業績の悪化、情報開示の劣化、不祥事の発生などによって、株価の下落、レピュテーションの低下、販売実績の低下あるいはファイナンスの困難さといった現象が起き、因果関係が見て取れるわけであります。

ただし、市場による規律づけが機能する大前提は、一つは適時適切な情報開示、二つ目に公正な価格形成ということでございます。そういう意味では、規制当局等による環境整備、インフラの整備が極めて重要であるということも繰り返しておきたいと思います。

最後に、自己規律ですけれども、世の中、楽観的に捉えると、そもそも経済活動全般が活力を持って整然と行われているのは、各経済主体自身が自己規律を持っているからだという認識を、少し楽観的であるとしても持たざるを得ないと。そこに希望を寄せるということだと思いますけれども「自己規律とは」と改めて大げさに書いていますけれども、一応、各経済主体が自ら抱いている規範意識や遵法精神によって自らを律することということで、本来、当局による規律づけとか、市場による規律づけに先行するものだと思いますけれども、それらとの出会いによって、より具体的に機能を発揮すると思います。

この規範意識というのは、各主体が直感的にないし学習の効果として抱くものだと思いますけれども、もともとは潜在的、抽象的であったものが、ルールやプリンシプルとの出会いによって顕在化、具体化するものだと思います。

自己規律が有効に働くための環境整備を幾つか挙げていますが、一番下に書いてありますのは、ただし、現実の世界では、規範意識が希薄で自己規律が期待できないような市場参加者が登場するのも事実であります。そのような主体には、ルールに即した規制当局のアクションによって対処するのが基本かなと思っております。

次、分権的規律を機能させる要素のうち最も重要な前提として情報開示があります。

信頼のおける情報開示、ディスクロージャーが決定的に重要であります。そのためのインフラが存在し、適時かつ適切に情報提供がなされることが重要であります。

このことは、投資者あるいは顧客の側の責任ある判断力の醸成にも寄与するというものであります。

開示と言っても、なかなかいろいろな仕掛けが必要なわけで、一つは制度的枠組みですね、法的根拠を持った開示義務の設定が望ましいと思っていますけれども、あと開示項目の設定も重要かと思います。

次に、開示インフラの運用です。資本市場であれば、金融庁によって運用されているEDINETあるいは東京証券取引所によって運用されているTDnetといったものがありますけれども、開示インフラは、権限ある者によって整備され、運用されることが望ましいということを申し上げておきます。

次に、開示される情報の内容、開示される情報が真実であり、正確であり、明快であって、タイムリーであるということがとても重要です。

また、情報の正確さを担保する物差しが設定されていることが望ましい、上場会社などの場合であれば、会計基準ですね。

それから、虚偽の開示に対するペナルティーの適用というのも導入されていることが望ましいと思います。

このことは、顧客サイドに責任ある判断を期待し得る前提にもなるということでございます。

次は、もう一つの分権的規律を機能させる要素として、動機づけというものを挙げております。

インセンティブを媒介とした事業者への動機づけというものが効果的であると。特にBtoCのビジネスに従事する事業者の場合は、顧客あるいは社会におけるレピュテーションというものが非常に重要ですので、レピュテーションに敏感であるはずです。

したがって、これを媒介とした動機づけというのも一案かなと感じたところでございます。

インセンティブとしては、ポジティブ・スクリーニング、ネガティブ・スクリーニング、両方が働くわけで、実際に我々が生きている日々の日常生活の中でもいろいろなケースを目撃していますけれども、例えば、大きな事業会社であると、SDGsへの取組をしています、あるいはそのためのサークルにきちんと入っています、といったことを、また機関投資家であれば、「責任ある投資原則」に署名しています、その仲間に入っていますといったことは、当該事業者の社会的ステータスを得ることにつながるわけですし、レピュテーションの向上にもつながるということかと思います。

不祥事の発生などでネガティブ・スクリーニングが働くというのは、皆様、御案内のとおりであります。

次に、一応まとめのようなことを書いておりますけれども、消費者法制の対象分野というのは、不特定多数の事業者と、不特定多数の顧客とが存在する世界でありますので、その意味では、先ほど申し上げた資本市場と類似している面があって、分権的規律を働かせるべきニーズが高いのではないか、と愚考しているわけであります。

改めて、分権的規律を働かせる上で不可欠な要素、3大栄養素と私は呼んでいますけれども、ルールとプリンシプルとディスクロージャーであります。

この三つの栄養素をうまく使って、当局、市場、自己という三つの規律づけチャネルが働くことによって、所期の目的を達成できるのではないか、というもくろみであります。

信頼性の高いディスクロージャーが重要であることは繰り返しになります。

4番目のBtoCのビジネスを展開する事業者の意識というのも、先ほど申し上げたところでございます。

次に、第4部ですけれども、個別のプリンシプルからの示唆ということで、現に存在するプリンシプルの中から、仕組みとして重要な「コーポレートガバナンス・コード」と「スチュワードシップ・コード」を紹介し、また、消費者法制との接点も多い「金融サービス業におけるプリンシプル」、それから「顧客本位の原則」を取り上げまして、今後、消費者法制の分野において、プリンシプル準拠の導入を検討される、構想される際のコツというものを提供できるのではないかと思って、ここに掲げたものでございます。

「コーポレートガバナンス・コード」というのは、2015年6月に制定されましたけれども、これは、日本の上場会社の在り方について、いろいろな批判が以前からありまして、改めて、欧米の例も参考にしながらつくったコードであります。

株主の権利、平等性の確保、株主以外のステークホルダーとの適切な協働、適切な情報開示と透明性の確保、取締役会等の責務、株主との対話と、こういった大きな原則を掲げております。

次を御覧いただきますと、コーポレートガバナンスとは、会社が株主をはじめ、顧客、取引先、債権者、従業員、地域社会等のステークホルダーの立場を踏まえた上で、企業価値の持続的な向上のために、透明、公正かつ迅速果断な意思決定を行って実践するための仕組みである、と言えようかと思います。持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のための自立的な対応を促すということで制定されました。

目的は今申し上げたようなところで、上場会社をはじめとする企業のパフォーマンスの向上というのは、個別投資家等の利益だけではなくて、年金財政の改善にも寄与するわけで、そういう意味では、社会保障制度の安定にもプラスになっているということでございます。

下にプリンシプル・ベース・アプローチについて、コーポレートガバナンス・コードの観点から、改めて確認している部分があります。

対象となる上場会社は、各自、自らの活動が形式的な文言、記載ではなく、その趣旨、精神に照らして、真に適切か否かを判断するということが強調されておりまして、その判断した結果を公にするというところも、もう一つのポイントであります。

次、続きですけれども、コンプライ・オア・エクスプレインの方式を採用しております。つまり、ここに書かれた原則を実施するか、実施しない場合にはその理由を説明するか、を選択できるわけです。

もう一つ重要なポイントは、このコーポレートガバナンス・コードは東京証券取引所の上場規則に取り込まれておりますので、上場会社は、コーポレートガバナンス報告書の提出及び開示を義務づけられています。これがコーポレートガバナンス・コードの普及と実効性向上に大きく寄与しているということでございます。

一番下の留意点のところに書いてあるのは、プリンシプル・ベースを仮に導入しても、今後課題になり得る話ですけれども、もともとコーポレートガバナンス・コードというのは多項目にわたるコードでありまして、改定のたびに項目が追加されてきたこともあって内容が細分化し、ややルール・ベースに近づいている面があります。また、コーポレートガバナンス報告書の作成に当たって、経営トップが自ら考えずに、担当部署に丸投げをする、あるいはコンサル会社に丸投げしてもうけさせていると、こういったケースも散見されるというか、かなり広い範囲で蔓延しているということがあります。これはプリンシプル準拠の課題です。

次、スチュワードシップ・コードであります。

趣旨というところに説明があります。

機関投資家というのは、もう皆さん御存じのとおりですけれども、年金基金であるとか生命保険会社であるとか、人々から預かっているお金をまとめて大きな規模で運用する投資家のことであります。

機関投資家に、投資と対話を通じて企業の持続的成長を促すという役割を与えているわけです。それとともに顧客、受益者の中長期的な投資リターン、拡大を図る責務、これをスチュワードシップ責任と呼んでいますけれども、これを果たすように求めるものであります。

次にまとめがありますけれども、このコードは、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を促し、その成果を社会と投資家が享受できることを目指す、この点でコーポレートガバナンス・コードと共通であります。

企業のパフォーマンス向上は、個別投資家の利益のみならず、年金財政の改善に寄与し、社会保障制度の安定にもプラスであるということも繰り返しですが書いてあります。

それから、プリンシプル・ベース・アプローチを明示的に採用していること、それからコンプライ・オア・エクスプレインの方式を採用していること、これはコーポレートガバナンス・コードと全く同じでございます。

ただ、コーポレートガバナンス・コードと異なりますのは、このコードを採択するかどうかは、事業者の裁量であります。

ただし採択することにより、機関投資家としてのステータスの向上あるいは信頼の確保を得られるということで社会的に認知され、ビジネスにも好影響になるので、主要な機関投資家の多くがこのコードを採択しているということでございまして、これがまさにインセンティブ効果であろうかと思います。

少し毛色が変わりまして、最初に制定されたプリンシプルである「金融サービス業におけるプリンシプル」というのを掲げてございます。

このプリンシプルを構成する14の原則は、大体以下のように分類できますということで、金融業の社会的役割の重要性を認識しましょう、その責任を履行するための基本的心構えをしっかり持ちましょう、という話が原則1ですけれども、原則2と9は市場の透明性・公正性・効率性を高める、そのための市場参加者や市場仲介者の行動を述べております。

それから原則の3から7、つまり3、4、5、6、7合わせて五つの原則は、いずれも金融サービスの利用者の保護ということに触れております。

その他、原則8は経営管理体制、原則11、12は財務の健全性、リスク管理の話。

原則10と13は、反社会的勢力への対応とか、大規模自然災害等の際の危機対応に触れています。

最後、原則14に、規制当局との双方向の対話をしましょうと。要するに、規制当局には言わせておけばいいと、聞いたふりをするという対応の業者も結構いるのですけれども、そうではなくて、ちゃんと真面目に双方向で議論しましょうねと、業者の側から当局に対して意見を言ってくれてもいいのですよと、反論してもいいのですよと、そういう姿勢を改めて示したということでございます。

ここで重要なのは、このプリンシプルを策定する過程では、銀行業界、保険業界、証券業界、その他の主要な金融庁の所管する業界団体との間で時間をかけて議論をやってきたということでございます。その流れの中で、価値観の収れんと共有がもたらされたということが大きかったと思います。

そういう意味で、業界団体も策定に参画しているわけで、内容について業界としても一定のコミットメントをしたと捉えられるわけですから、このプリンシプルに照らしておかしいだろうということを当局が言った場合には、業界の側は、それに対しては、このプリンシプルが存在していることを前提に議論するということを強制されるわけですね。そういう意味での実効性を担保しているものかもしれません。

次、「顧客本位の業務運営に関する原則」でございます。

これは、金融事業者が主体的な創意工夫を発揮し、ベストプラクティスを目指して顧客本位の良質な金融商品・サービスの提供を競い合うことを目指す。そういった取組みを行う金融事業者が、顧客から選別される、選択されていくメカニズムの実現を目指しています。顧客から選別されるということは、まさにそのインセンティブ効果を狙っているわけであります。

従来の法令等だけによる規制では、金融事業者の形式的、画一的な対応が目立ったということもあって、金融事業者自らが、何が顧客のためになるのか、というのを真剣に考えて実行してもらうことを目指すということでございます。

内容としては、顧客本位についての方針を策定し、それを公表すること、顧客の最善の利益を追求すること、利益相反を適切に管理すること、手数料等を明確化すること、重要な情報を分かりやすく提供すること、顧客にふさわしいサービスの提供、これは言ってみれば、婉曲表現ですけれども、適合性の原則を言っていると理解しています。

最後に、営業の現場が重要なので、従業員に対する適切な動機づけの枠組みというのも、これは後から追加されたのかな、現在は入っております。

次ですけれども、このプリンシプルは、金融商品・サービスを提供する金融事業者を対象にしておりますけれども、顧客の利益を中心に据えた業務運営の在り方を述べておりますので、消費者向けのビジネスを展開する事業者にも、ある程度応用可能ではないかと思っています。

例えば、顧客の利益実現と事業者の利益追求というのは、潜在的な競合関係にあるわけですけれども、顧客利益を損なうような利益優先というのを戒めているとも理解できます。

それから、顧客への正確でタイムリーな情報提供は重要かつ基本的な要請であると。顧客サイドにおける合理的な判断、それと合理的な消費行動を支えるものであるという理解であります。先ほど申し上げた、適合性の原則への配慮というのは、広い分野に当てはまると思います。

最近の事例を見てみますと、このプリンシプルに著しく反する業務運営に対しては、このプリンシプルから光を当てて浮かび上がってきた問題事例に対して、行政措置が講じられているというケースがあるのかな、と私は理解しています。

金融庁の最近の行政実務において、このプリンシプルに照らして問題事例を抽出し、それをよくつまびらかに分析すると、多くの場合、ルール違反に該当している部分が浮かび上がってきます。そういう場合には、その該当性が確認できれば、それを根拠に行政処分に踏み切ることができます。

行政処分というところまで行かなくても、報告を徴求するということを特定の業者にするだけで、相当大きなインパクトがあるということでございます。

このような行政対応と、その実例が周知されれば、事業者の自覚が強まってプリンシプルの実効性が高まるということでございます。

最後に、第5部、教訓と課題と少し偉そうに書いていますけれども、改めての復習です。まとめますと、プリンシプル準拠は経済社会における全般的な規範意識を高め、分権的な規律づけを働かせる上で有用だと思います。行政資源の制約という問題にも応え得るということであります。

二つ目にプリンシプル準拠が有効に機能するには、信頼できる開示制度の存在が不可欠です。インセンティブを通じた動機づけのメカニズムを支える上でも、この開示が重要であります。開示の内容については、自由度を持たせるのがプリンシプル・ベースですけれども、一方で、開示そのものは制度として義務づけるということも、プリンシプルの実効性を高めるのではないかと考えております。

少し大げさな言い方をさせていただいていますけれども、ルールはプリンシプルの存在によって正当性を獲得する、またプリンシプルはルールの存在によって実効性を具現すると、こういう関係にあろうかと思います。ルールとプリンシプルの間における役割分担を意識して、両者を賢く組み合わせた行政対応というものが求められるかなと思います。

また、当局と民間事業者との間における規範意識の共有というのが全体としてものすごく重要な要素だと思っております。その際に、自主規制機関あるいは消費者団体、業界団体などの準公的機関と当局との間における、意思疎通、連携、協力というのは、その効率性をさらに高めると思います。

最後に、これも繰り返しですけれども、規範意識の乏しい事業者、悪質な事案に対しては、ルールの厳格な適用で対処するのが基本です。ただし、ここでもプリンシプルという視点から光を当てると、悪質事案の悪質性について、それをどの程度のものなのかというのを評価する、判断するための物差しを提供できるということがあろうかと思います。

最後、プリンシプルについて、ここまでポジティブな面を強調してお話しさせていただきましたけれども、これまでの経験から、若干問題とすべき点、今後の課題となる点もあるね、ということで4項目ほど挙げております。

一つ目は、先ほども少し申し上げましたけれども、プリンシプルが定着するにつれて、開示全般がルーティン化してきてしまっている部分があるのではないかと。重要な規範としての本旨が忘れられて、思考停止になっていないかと。特に開示する側において、経営者が自ら考えているのか、真に会社の方針と実績を反映している報告書になっているのかどうか疑わしいケースも見受けられます。

二つ目は、今の話と一体ですけれども、開示内容というのは、個別の事業者に委ねられております。プリンシプルが定着するにつれて、あるいは細分化していくにつれて、開示内容が結構、画一的、形式的に流れる傾向があります。

先ほど開示する側の問題を申し上げましたけれども、この問題に関しては、読者の側のリテラシー、つまりコーポレートガバナンス報告書を読む側、これは投資家、機関投資家あるいは様々な関係者がいますけれども、読者の側のリテラシーを高めるというのも重要だと思いますし、これは、おかしいではないかと株主総会等で質問するというアクションも重要かと思います。

あとは、最低限、虚偽開示、明らかな嘘だということが開示された場合については、プリンシプル・ベースの枠組みではありますけれども、虚偽開示に対してはペナルティーを当局が課すということが当然だと思いますし、いずれにせよ、開示内容の質のチェックというのは課題だと思います。

三つ目は、顧客にとっての利便性、品ぞろえの豊富さとか、アクセスのよさとかといったことと、消費者の保護というのは常に難しいバランスあるということですね。

昨今のEコマースなどを見ていても、私も個人的に経験したりしますけれども、必要以上の顧客ニーズを煽ったり、関連サービスに強引に誘導したり、(消費者にとっての)不芳情報を伝えない、典型的にはステルス値上げですけれども、こういった慣行も一般的になっているわけです。

そういう意味では事業者の側の節度、こういった面をカバーできる事業者の側の節度を求める、これをプリンシプルで何か触れておくということは、牽制球になるのかなと思ったりしました。そういう意味では、顧客の側のリテラシーも重要であります。

実際に被害が起きてしまった場合には、事後的な解決策にすぎませんけれども、ADR(裁判外紛争処理)のファシリティーを使いやすくするといったことも一案かと感じました。

四つ目は、これは先月、消費者庁の方々と意見交換をさせていただいたときに改めて感じたのですけれども、金融分野のプリンシプルについては、金融庁や東証が金融業界や上場会社に対して規制・監督権限を持っているわけですね。そのことを背景にリーダーシップを発揮できたという面があります。

他方、消費者に財・サービスを提供する事業者は非常に広範多岐でありますので、消費者庁が一元的にそういった権限を持つという立て付けにはなっていない、ということかと思います。しかも業種ごとに、異なる規制当局や監督官庁が存在していると、その権限も多様であります。

したがって、業種ごとの直接の規制・監督権限を想定せずに、プリンシプル準拠の効果を引き出すというのは、制度設計の上でも、かなり工夫が必要かなと思った次第であります。

私からのご説明は以上であります。ご清聴ありがとうございました。

○沖野座長 佐藤先生、大変ありがとうございました。

ただいまの佐藤先生の御発表内容を踏まえまして、質疑応答、意見交換をしていきたいと思います。いずれの点からでも、どなたからでも。まず、二之宮委員、次に小塚委員の順でお願いします。

○二之宮委員 二之宮です。

大変充実した資料と御説明をありがとうございました。

消費者行政においてプリンシプル・ベース・アプローチという言葉に言及されたことがかつてありました。政府は消費者行政推進するために、5か年計画、消費者基本計画というのをつくっております。現在は、2020年から2024年の第4期消費者基本計画というのが実行されているところなのですが、この第4期消費者基本計画の在り方に関する検討会というのが事前に開かれまして、消費者庁が取りまとめを行った2019年の1月に、プリンシプル・ベース・アプローチというものの紹介がされておりました。

そこではどう書かれているかというと、金融行政の分野では、従来型のルール・ベース・アプローチに対して、金融機関側に委ねるプリンシプル・ベース・アプローチというものがあり、金融行政と消費者行政とでは、事前規制、事後規制の違いだとか、対象となり得る事業者の属性など規制目的や規律内容に差も少なくないけれども、新たな規制手法に配慮しつつ、消費者行政の在り方を検討すべきであると、このとき紹介されていました。

このとき、私の中では、まだ全然理解が追いついてなくて、今日の御説明を聞いて大変よく分かりました。これは、非常に参考になり得ると改めて思ったところでございます。

他方で、ものすごく親和性があるなと思って聞いておりましたのは、消費者基本法では、消費者の8つの権利というものが定められておりまして、その中には情報が与えられる権利だとか、意見が反映される権利だとか、健全な環境が確保される権利とか、8つの権利がうたわれておるのですけれども、これはコーポレートガバナンス・コードの5つの基本原則だとか、31の原則、顧客本位の業務運営に関する原則、これらの中にも全部落とし込めるものばかりだと思いました。

そうすると、サプライチェーンを含めた上場企業がコーポレートガバナンス・コードを実践するということは、消費者政策のプリンシプル・ベース・アプローチの基礎というか手法は、もう既にできていると思いました。あとは意識の転換と、アプローチの仕方かなと思いました。

他方で、金融分野との違い、不足している部分、あるいは課題として、先ほど先生も述べられておりましたけれども、消費者庁は網羅的な監督権限を持っているわけではない、ここは根本的に違うのだと思いますが、逆に言うと、特定の監督権限を持っていないからこそ、あらゆる業者、業界と、あるいは消費者団体との協議の場というのを、消費者庁だからこそ、監督権限を持っていないからこそ設定できるのではないか、そういう環境設定というのが消費者庁には可能なのではないかと思いました。

ここまでは感想なのですけれども、1点御質問をさせていただきたいのは、ルールとプリンシプルの組み合わせ、相互作用、相互補完というところで、既存の法律の中には、消費者契約法の中にもありますが、事業者の努力義務規定というのが規定されています。ここでは、努力義務ですから具体的な法律効果というのはないのですけれども、ただ、ここに一つルールとしてはあります。そこで何をどこまで努力するのかという背景になるのは、まさにプリンシプルではないかと思います。そこを消費者庁、行政機関あるいは事業者団体、消費者団体が協議して、それを高めていくと、具体的な努力義務の内容をつくっていくというところの一つの組み合わせの要素になるのではないかと思いました。

そうすると、どちらかというと、我々実務家からすると、使いにくい、具体的な法律効果が発生しない規定ですから、あまり役に立たないとまでは言わないですけれども、だけれども、今後このプリンシプル・ベース・アプローチを背景にして、努力義務規定というものの活用の仕方、使い方がもっとあるのではないかと感じましたが、この辺は、ルールとプリンシプルとの組み合わせということの観点でいうと、先生は、どのように捉えられるでしょうか。

○佐藤顧問 ありがとうございます。

御質問に関して言えば、この法律の中に、そういった努力義務の規定が入っているということは、非常に先進的な法律だと思いますし、その努力義務規定のところを根拠に、こういうプリンシプルをつくったという説明も可能なのだろうと思います。

言ってみれば、このプリンシプルを単につくって、これはいいことだね、こういう方向でやりましょうという合意をするだけではなくて、この合意に沿って努力しなくてはいけないという努力義務が法律に基づいて設定されているということは、非常に強力な仕組みになり得ると思います。

先ほど来、私はプリンシプル・ベースが実効性を持つためには、やはり圧倒的に開示の仕組みが重要だということを繰り返しましたけれども、特に法律に基づいての努力義務でありますので、その努力は、どういう努力をしたのかということを各対象事業者に開示してもらうように促す、あるいは開示の義務づけまで行くのはなかなか大変だろうと思いますけれども、そういった法的な枠組みまで拡張していただくと、プリンシプル・ベースの取組みというのは、かなり実効性を持ってくるのではないかなという印象を受けました。

先ほどおっしゃっていただいた、消費者基本法の消費者の8つの権利というものが明示的に掲げられているのであれば、そういったものも援用する中で、8つの権利を具体的に、権利がきちんと担保されているというか、実際の消費市場においても、権利が行使されていて取引が行われているということを確認するための目安になると思うのです。

ですから、そういう意味では、この法律の中に努力義務規定があり、なおかつ消費者基本法に、私が先ほどプリンシプルの抽出作業の過程で、様々な中間目標、これは消費者庁設置法などにも多分書いてあるのだろうと思うのですけれども、行政目的の中間目標なども参考にしながら、事業者に全うしてほしい、そのような規範を抽出していく、プリンシプルをつくっていく際にも、非常に重要な材料になると思います。そのプリンシプルが思いつきでできたものではなくて、法的な規定と結びついているというのは、非常に大きな説得力になるのかなと思っております。

それから、お答えとしては、努力義務と結びつけるというのは、非常に現実的であり、かつ、かなり有力な方法ではないかなと思いましたけれども、それがさらに開示と結びつけられて、消費者の方々の評価を求める、評価に委ねるという流れまでつながっていくと、さらに強力な実効性の高いものになっていくのかなという印象を抱きました。

○二之宮委員 大変有益な御説明をありがとうございました。

○沖野座長 ありがとうございました。

それでは、小塚委員、次に室岡委員という順番でお願いいたします。

○小塚委員 学習院大学の小塚です。

私は、一応会社法、商法を専門にしているということになっていますので、今日のお話でも、とりわけコーポレートガバナンス・コードとスチュワードシップ・コード、これは私もなじみのある分野でして、その背景など、大変興味深く伺いました。

この二つのコードは、御報告の中でもお触れになっていましたけれども、メカニズムが大きく違うように感じていまして、コーポレートガバナンス・コードは、結局、証券取引所の規則に取り入れられると、自主規制機関といっても事実上、要するに上場したい企業にとって規制そのものであるということで言えば、強制力は担保できるというタイプのものである。

それに対してスチュワードシップ・コードというのは、機関投資家に対する規範なので、なぜ、これが実効性を持つかというのが、理論的には非常に分かりにくいといいますか、不思議な気持ちがいつもしていたわけです。

もちろん、今日お話しいただいたように、それは、例えば評判を高めるという効果がある。しかし、業者ではないので機関投資家ですので、例えば顧客といっても一般の投資家ではないわけですし、機関投資家の顧客というのも、一般の投資家に直接接しているわけではないですし、日本国内の投資家というか、アセットオーナーに限っているわけでもないということで言うと、このスチュワードシップ・コードに従うというインセンティブはどこから出てくるのだろうかと、実際には200を超える機関投資家が署名しているわけで、そこのところを伺いたいというのが、金融行政に固有の御質問です。

後半の御質問は、それを今度、消費者行政に応用するというときに、コーポレートガバナンス・コードとスチュワードシップ・コードのどちらのモデルが現実的だと見えますかということです。

コーポレートガバナンス・コード的な行き方としてあり得るとすれば、消費者取引は別にデジタルだけではありませんが、例えばデジタルのプラットフォームのように、大きな力を持ったプラットフォームを、自主規制側に取り込んで、そこの協力を得ることによって、そのプラットフォーム上のプレーヤーに対して一定の行為を求めていく、こういう行き方は一つあり得るだろうと思います。

他方で、プラットフォーム提供者は、プラットフォームはあるにせよ、基本規制されていない主体だと見れば、むしろ機関投資家的なものだと位置づけて、プラットフォーム業者の何らかのインセンティブを考えて、スチュワードシップ・コード的なものを彼らの行為規範としてつくっていく、両方の行き方が論理的にはあり得ると思うのですが、先生の目から御覧になると、どちらが現実的あるいはうまくいきそうだと見えますでしょうかというのが、消費者行政に関わる質問です。

○佐藤顧問 一つ目のスチュワードシップ・コードを採用するインセンティブというか、理由に関しては、先ほど申し上げましたように、基本的には、これを採択していますよ、それから、報告もしていますよという、そのオペレーションをやっていること自体が、機関投資家としてのステータスを獲得することになるということが、一つは大きいのかなと思っておりまして、これは、機関投資家の場合はBtoCではなくてBtoBなので、限られた企業社会あるいは団体の中での評価ということにはなりますけれども、そうは言っても、結構やはりこの業界もそれなりの競争がありますので、一番大きいのは、運用の実績、成績が悪いとリターンが低いというのが一番大きいですけれども、ただ、昨今は機関投資家にも様々な要請が投げかけられておりまして、典型的には、ESGにちゃんと配慮した投資先の選定をしているかとか、様々な地球規模の人類のための要請というのがいろいろ出てきています。気候変動だけではなくて、様々いろいろ出てきていますので、SDGsの要請というのも非常に幅広いものがあるわけですね。

これが、結構欧米を中心にグローバルな共通の機関投資家の責務ということで位置づけられてきていまして、逆にこういうものをきちんと実行していないという機関投資家は評判が落ちてしまうということです。

日本の機関投資家の場合、海外の資金がどの程度たくさん入ってきているかというのは分かりませんけれども、ただ、東証に上場している大手の上場会社というのは、海外投資家の比率がもう50パーセントぐらいになっているので、海外の投資家というのも、当然強い関心を持っているわけです。

海外の投資家は、投資先の企業のパフォーマンスをよくしてもらわなくては困るという強い意識を持っていますので、そういう意味で、機関投資家、日本の機関投資家にも、いろいろな要請をしてくるということかと思います。

したがって、評判、リスクというか、一言で言ってしまうと、そういうことなのですけれども、やはりそういう採択するインセンティブは、グローバルな広がりの中で、様々な要請がなされていることに対して、きちんとうちは応えていますよという説明ができるための仕掛けとして、海外にとっても重要かなと思っています。

それから、本題のプラットフォームの話に関しては、典型的にはA社とか、ああいうEコマースの巨大組織なのかなと、私個人的に、少し例示したのは、そういうのを意識していますけれども、これもグローバルな課題で、米国当局もものすごく苦労しているわけですね。

要するに、彼らはGAFAと言われるような組織体は、あまりにも巨大でグローバルに展開していて、別に米国に本社があるからといって、そのビジネス全体について米国当局の束縛を受けるわけではないという意識も強いですし、非常に捉えどころのない存在だと思うのですね。

ですから、ここのところを、本来はこういうプラットフォーマーをきっちり方向づけるというのはすごく重要だと思うのですけれども、恐らく一国の当局だけが頑張っても、何かすり抜けていってしまう。ああいうグローバル展開している巨大企業の場合は、貴国はそんなに厳しくするのですか、では、別の海外の市場に移りますとかと言って、なおかつ、他方でもうものすごく日本の広く国民一般、消費者一般に浸透していますので、それが突如日本から撤退するなどといったら、多くの人たちがとんでもない不利益、不便さに落とし込まれてしまうわけですね。

ということなので、非常に彼らは強い立場にあるというのも現実だと思います。ですから、プリンシプル・ベースでこういうプラットフォーマーに対峙するとすれば、彼らがやっている不適切な事例というのを集めて、それを類型化して、こういうことが行われていますね、これは事業者として妥当でしょうかということを、当局としてある程度整理をして、妥当でしょうかという疑問を国民全般に投げかけて、そういう中で、これはおかしいねということがある程度抽出できれば、それをプリンシプルとして掲げて、かつそれを公表すれば、彼らは、これもやはりレピュテーション・評判の世界、利便性の世界で生きているので、それに明らかに反するようなアクションを取るというのはためらわれることがあるのではないですかね。

次に問題なのは、では、プリンシプルをつくりました、また、明らかにそれにコンプライしていないビヘイビアが目立ちますねというときに、その次にどうするか、それに対してペナルティーを課すというのは、当局の権限でどこまでできるのかが課題ですね。明らかにおかしいと、明らかに適合性の原則に反するとか、虚偽の伝達をしたとかということであればペナルティーを課せますけれども、そうでない場合にどうするかという辺りについては、これは、やはり世論の喚起、あるいは消費者の側のリテラシーの向上というところに結びつけていくというのが現実的な対応かなと思いました。お答えになっているかどうか。

○沖野座長 ありがとうございました。

それでは、室岡委員、次に加毛委員までお願いしたいと思います。できましたら手短に、それぞれお願いできればと思います。

では、室岡委員、お願いします。

○室岡委員 本日はありがとうございました。

私のほうから手短に自己規律のところについて質問をさせていただければと思います。自己規律の点で、1業者の規律だけでなく、例えば業界標準など業者間での取組も非常に重要になると思いますが、このような事業者の間での自己規律の点につきまして、何か具体的にございましたら、御教示いただければと思います。

○佐藤顧問 ありがとうございます。

おっしゃっていただいているのは、自己規律ではあるのだけれども、言ってみれば、同一業界の中、あるいは同一のレベルの中におけるピア・プレッシャーみたいな、そういう感じでしょうかね。

同一の業界の中で、同じような事業者が幾つかいるときには、ここは、こういうことをやっていて、ちょっとよろしくないねという評判が、その業界の中、関係者の間で、そういうパーセプションが認識されると、恐らくそれがプレッシャーとなって、当該事業者にも働いて、そこの事業者の自己規律が変わっていくと、そんなイメージのことをおっしゃっていらっしゃるのでしょうか。

○室岡委員 はい、ピア・プレッシャー事業者間のピア・プレッシャー自体も一つあり得るかと思います。ただ他にも、例えば事業者間で定型約款の見直しを行ったり、事業者間で業界標準をつくったりということもできると思います。

○佐藤顧問 そうですね、ですから、そういう業界レベルでまとまって議論をしてというのは、まさに自己規律をベースとして、市場規律、お互いに、いいものをつくっていこうという意識でまとまっていただくというのは、すばらしいことだと思います。ただし、その業界標準をつくるというのは、いろいろなケースがあって、可能性としては、裏で談合の業界標準をつくるとか、そんな話もあり得るので要注意ですが、ここは自己規律ということもベースにあると思いますけれども、例えば、業界団体でやる場合には、業界特有の事情も踏まえて、あるべき姿を探っていくという作業が、恐らくあるのだろうと思います。

そういう意味では、自己規律がベースにありますけれども、ある種、市場規律であり、業界団体が、何かそういう標準をつくる場合には、監督官庁との相談をするというプロセスも多分あって、全体の中でよい業界標準をつくってくということは非常に好ましいことだと思います。自己規律に限定せず、市場規律、当局規律が融合して進んでいく話かなと思いました。お答えになったでしょうか。

○室岡委員 ありがとうございました。

○沖野座長 ありがとうございます。

それでは、加毛委員、お願いします。

○加毛委員 本日は、大変貴重なお話をありがとうございました。

直前の小塚委員と室岡委員の御発言は、プリンシプルに従うインセンティブを当事者に与えるのが難しい問題であることに関わるものであるように思われます。佐藤先生のお話のなかで、顧客本位の業務運営に関する原則が消費者問題にも示唆を与えるものと御紹介がありました。私も、金融業界以外の業界において、類似のプリンシプルが設定され、事業者がそれに従って事業を行うことが望ましいと考えます。

その一方で、顧客本位の業務運営に関する原則については、それに従わない事業者が一定数存在するという問題があり、近時、金融サービスの提供及び利用環境の整備等に関する法律が改正されて、金融事業者が顧客等の最善の利益を勘案しつつ、顧客等に対して誠実かつ公正に業務を遂行する義務を負うことが法定されました。これは、プリンシプル・ベースの規範に事業者が従うインセンティブを確保する難しさを示すものであるように思われます。

小塚委員の御質問は、プラットフォームにかかわるものですが、消費者取引一般について言えば、プラットフォームに限らず、様々な事業者に対して、いかに動機づけを行うのかが難しい問題になります。また、室岡委員は、業界団体などによってプリンシプルを形成する可能性を指摘されましたが、その場合には、佐藤先生もおっしゃったように、監督官庁の存在を背景として、プリンシプルに従わないことによって不利益を被る可能性があるというネガティブなインセンティブが事業者に付与されることが想定されるのではないかと思われます。

以上を申し上げたうえで、二つ質問があります。一つ目の質問は、消費者庁という官庁の特性をどのように考えるのかということです。先ほどの二之宮委員の御質問や、あるいは川崎先生に対する河島委員の御質問について川崎先生が回答を留保されたところにも関わるのですが、消費者庁とその他の官庁の関係については、例えば消費者庁が他の官庁に対して強く働きかけていくことが望ましいという考え方があるかもしれません。佐藤先生の行政官としての御経験を踏まえて、この点についてお考えのことがあれば、お聞かせいただければ幸いです。

二つ目は、本日の御報告の中核的な主張である分権的規律についてです。分権的規律が重要な視点であるということ、その際に、ディスクロージャーが重要であることは、私もそのとおりであると思います。ただ、その際には、いかなる情報を開示するのか、開示対象となる情報の範囲をいかなる手続のもとで決めるのかが問題になるように思われます。また、情報の信頼性が重要であることもそのとおりであるのですが、情報の信頼性の検証をいかなる主体が行うのかが問題となります。金融市場であれば、公認会計士や監査法人などが存在しますが、消費者取引全般について情報の信頼性を検証する主体を確保することは困難であるかもしれません。さらに、消費者のリテラシーの向上が重要であることもそのとおりであると思うのですが、消費者に情報を分析する能力を期待できない場合に、事業者の開示した情報を分析して、消費者に提供する主体を想定できるのかが問題となります。金融市場における証券会社や証券アナリストなどに相当する主体が存在するのかという問題です。

以上は、皆で考えていくべき問題であるわけですが、例えば、公認会計士や監査法人などに、非財務情報などを超えて事業者の情報を監査させるという可能性があるとお考えであるのか、それとも既存の主体による情報の評価・分析には限界があるとお考えであるのかについて、可能であればお教えいただければと思います。よろしくお願いいたします。

○佐藤顧問 ありがとうございます。

お答えの前に、まず、インセンティブの関係で、一部ハードロー化していくという流れがあるとすると、恐らくハードローになる過程では、様々な審査、この建物の住人でもあります内閣法制局のチェックもあるでしょうし、与野党による法案チェックもあるでしょうし、最後国会での審議もあるでしょうし、いろいろな過程でスクリーニングされていくものですので、仮にそういう形で成立すると、それは非常にステータスの高いものになっていくのだろうと思いますので、プリンシプルがそういう形でハードロー化していくというのは一つの希望のチャネルというか、そういう印象も受けました。

顧客本位の原則に明らかに著しく反するような事例というのが実際あったときに、比較的最近ありましたけれども、金融庁は、そういうのがあったときには、ほかの案件よりも綿密に調べ上げて、報告徴求などもかけて調べた上で、これは法令違反だねという部分が見つかれば、それを根拠に不利益処分を科すこともできますので、実際そういうのがあったわけですね。

これは、直接プリンシプルに基づいて不利益処分を科したということではないですけれども、枠組みとしてはですね、ただ、現実にはプリンシプルで光を当てて悪質性を判断して対応したという流れですので、こういった事例が広がっていくと、結構インセンティブとしても強まっていくのかなということを、先ほど少し説明させていただいたところであります。

それから、御質問の消費者庁の特性というのを、私も先月、消費者庁の方々と意見交換をさせていただいた後につくづく感じたのですけれども、金融庁は恵まれていたなと。金融業に携わっている事業者の皆さんは、それは、あからさまに金融庁に盾突くというのは、よっぽどの根拠と強い意志がなければしにくいということもあって、そういう中でプリンシプルというのにも反対はしない、賛成するというプロセスだったのかなとも思っています。

ただ、先ほども強調しましたけれども、「金融サービス業におけるプリンシプル」は、相当時間をかけて業界の人たちともいろいろな議論をして、時間がかかったのですけれども、一応価値観の収れんというところに、ある程度は行ったのではないかと楽観的に捉えていまして、そういう意味では、これも、もちろん背景に監督権限があって、そういう話し合いに応じてくれたというのも、もちろんありますけれども、やはりこの業界をよくしていきましょう、消費者サービスの質を上げていきましょうという誰も否定し得ないような、そういう確固たる価値というものを中核に据えて、その上で、それを実現するためにはどうしたらいいですかという問題設定で挑んでいったときには、それは、さすがに責任ある事業者であれば、反論はできないはずなので、巻き込んでいくことは不可能ではないのではないかなと思います。

先ほどの御議論の中でもあったように、消費者庁は、直接の業界を対象とした権限はないけれども、逆にないからこそ、白地に描けるというか、ないからこそ、理念を強く打ち出せるという部分もあると思うのですね。

それから、事業者を監督しているというか、経産省などは典型だと思いますけれども、様々な問題の解決のためにリーダーシップを発揮してくれている部分もありますけれども、他方で、業界の利益とか業界の存続可能性というのも当然配慮しているし、産業としての国際競争力といったことも意識していますから、消費者のためだけを考えた判断はしにくい、下しにくいところがあると思うのですね。

そういう意味では、潜在的な利益相反の構図の中にあるわけで、その点、消費者庁は、そういう利益相反の要素が少ないわけですので、消費者の利益を中心に据えて大胆なことを掲げることができるのではないかと思います。そういう中で、掲げただけで、では何が動くかというと、恐らく具体的には、例えば問題起こした事業者が属している業界を監督している役所、官庁との連携も必要になってくると思います。全ての官庁、消費者に財・サービスを提供する全ての産業の監督官庁と連絡を取っていかなくてはいけないということだとすると、非常に大変なお仕事なのだろうなと思います。

その際に、そういう個別の監督官庁が、消費者庁の言うことにしっかりと耳を傾けてもらえるような、そういう仕掛けも考えないといけないと思うのです。ですから、そういう意味では、消費者庁設置法を改正して、そういう官庁間のやり取りというものについて、消費者庁から話があったらば監督官庁はしっかりと耳を傾けて議論をしなくてはいけない、という条項を入れるということも一つあり得るかなと、素人的に考えましたけれども、そういう方向が一つ。

それから、消費者庁の立場、消費者庁としても消費者保護という大きな理念を掲げて、これに、あんた反対するのと言えば、相手は引っ込むぐらいの、その辺の理論武装をしていくということも大事だろうと思いました。

二つ目の御質問は、詰まるところ開示された情報を消費者の側が、いかに正確に、合理的に分析し、解釈して、それを自分の消費行動の判断に結びつけていくかというところかと思いましたけれども、これも、もちろん業界ごとに商品、サービスの質は全然違いますので、それぞれの専門家が必要かもしれませんけれども、場合によって、消費者団体の中に、そういう開示された情報を分析するような部署を設けるという手もあるのかなどと、素人的に少し思いました。

先ほど会計士ということも少しおっしゃいましたか、なかなか会計士の皆さんは、そういうことをやるというのは、会計士へのインセンティブというのをしっかりと据えつけないと難しいかなと。

今、監査法人の業界というのは、会計監査ではもうからないので、ほとんどがコンサル業務に走っているのですね。そのコンサル業務の一環として、消費者のために、消費者向けサービスを提供している事業者の開示内容の質をチェックする、そんな仕事が、彼らにとってコマーシャルベースに乗っかるような仕掛けをつくると、意外といいかもしれませんね。これも思いつきですけれども。

それで、消費者の側にその費用を負担する資力はないので、結局、事業者の側の善意に基づくというか、ある程度強制しないと出してこないと思いますけれども、事業者の側から資金を拠出させて、そういった消費者の受け取る情報の質の向上と、それを担保する仕事というのをあてがう手もあるか。これは監査法人もコマーシャルベースに乗るというか、利益につながるのであれば、前向きに考えるのではないかなと思います。

何か、途中から雑談というか、茶飲み話になってしまって、すみません。

○沖野座長 ありがとうございました。

大変示唆に富む、いろいろな御指摘をいただいたと思います。もともと13時が最大とお願いしており、既にその13時の時間を過ぎております。不手際で大変申し訳ございません。

また、川崎先生には、恐らく川崎先生からのコメントということもあったかと思うのですが、すみません、その機会も与えられずに大変申し訳ございませんでした。

川崎先生、佐藤先生におかれましては、大変貴重な御意見、御報告はもとより、質疑の中での御指摘も大変有益なものであったと考えております。誠にありがとうございました。

また、委員の皆様におかれましても、長時間にわたりまして活発な御議論をありがとうございました。

それでは、最後に、事務連絡をお願いします。


《3. 閉会》

○友行参事官 本日も誠に長時間にわたり、ありがとうございました。次回につきましては、決まり次第、御連絡いたします。

以上です。

○沖野座長 それでは、本日は、これで終了、閉会とさせていただきます。

お忙しいところお集まりくださいまして、本当にありがとうございました。

(以上)