第12回 消費者法制度のパラダイムシフトに関する専門調査会 議事録
日時
2024年11月20日(水)12:00~13:59
場所
消費者委員会会議室・テレビ会議
出席者
- (委員)
- 【会議室】
沖野座長、大屋委員、二之宮委員、野村委員 - 【テレビ会議】
山本座長代理、石井委員、加毛委員、河島委員、室岡委員 - (オブザーバー)
- 【テレビ会議】
鹿野委員長、 山本(龍)委員 - (参考人)
- 【会議室】
横田明美 明治大学法学部教授 - (消費者庁)
- 【会議室】
黒木審議官、古川消費者制度課長、原田消費者制度課企画官、消費者制度課担当者 - (事務局)
- 小林事務局長、後藤審議官、友行参事官
議事次第
- 開会
- 議事
①有識者ヒアリング (横田明美 明治大学法学部教授)
②有識者ヒアリング (水口剛 高崎経済大学学長) - 閉会
配布資料 (資料は全てPDF形式となります。)
《1. 開会》
○友行参事官 定刻になりましたので、消費者委員会第12回「消費者法制度のパラダイムシフトに関する専門調査会」を開催いたします。
本日は、沖野座長、大屋委員、二之宮委員、野村委員には、会議室にて御参加いただいております。山本隆司座長代理、石井委員、加毛委員、河島委員、室岡委員は、テレビ会議システムにて御出席いただいております。なお、室岡委員は少し遅れて御出席される予定となっております。
なお、所用により、小塚委員は本日御欠席との御連絡をいただいております。
消費者委員会からは、オブザーバーとして鹿野委員長、山本龍彦委員にはテレビ会議システムにて御参加いただくこととなっております。
また、本日は、明治大学法学部教授、横田明美様と、高崎経済大学学長の水口剛様に御発表をお願いしております。横田先生には会議室で、水口学長にはテレビ会議システムにて御出席いただいております。
配付資料は議事次第に記載のとおりでございます。
一般傍聴者にはオンラインにて傍聴いただき、報道関係者のみ会議室で傍聴いただいております。議事録については、後日公開いたします。
それでは、ここからは沖野座長に議事進行をよろしくお願いいたします。
《2.①有識者ヒアリング(横田明美 明治大学法学部教授)
②有識者ヒアリング(水口剛 高崎経済大学学長) 》
○沖野座長 ありがとうございます。本日もどうかよろしくお願いいたします。
早速ですが議事に入らせていただきます。
本専門調査会の後半の検討テーマである「ハードロー的手法とソフトロー的手法、民事・行政・刑事法規定など種々の手法をコーディネートした実効性の高い規律の在り方」につきまして、引き続き、消費者法制度における規律のグラデーションや、実効性のある様々な規律のコーディネートに関連した有識者ヒアリングを行いたいと思います。
本日は、まず、行政法、環境法等を専門とされている横田明美先生に、環境法制における規律の例を参考に、行政的視点から御見解を伺いたいと思います。横田先生から「消費者法制のトリプル・アプローチにむけて検討すべき課題と提案(主に行政法・環境法の視点から)」というテーマで20分程度御発表をいただきまして、それに引き続き、質疑応答・意見交換をさせていただければと考えております。
それでは、横田先生、よろしくお願いいたします。
○横田教授 ただいま御紹介にあずかりました明治大学法学部教授の横田でございます。本日は何とぞよろしくお願いいたします。
早速ですが、ページを一つめくっていただいて、お話ししたいと思います。よろしくお願いします。
今、沖野座長から御案内がありましたとおり、後半の検討テーマがここに掲げられたとおりということですので、私といたしましては、やはり中川丈久教授の「トリプル・エンフォースメント論」を改めて確認しておきたいと思います。
こちらは例えば法目的の実現のためにエンフォースメント、すなわち法の執行に関する施策を3つでも重ねていいではないかと。その重ねた結果がもしやり過ぎてしまうのであれば、それは話合いなどで解決したりすることでルートを選ぶ必要があるけれども、例えば被害防止措置としては、民事の団体差止訴訟と、事業者側中心人物を刑事罰で処罰して収監するということと、事業停止命令、行政によるものですが、この3つが並列してもよいではないか、むしろそれをいろいろ使ってやっていこうという発想が常々説かれているところであります。その観点から、今回は行政法と環境法を両方見ながらいろいろと話をしたいと思います。
次のスライドをお願いいたします。
私は行政法が専門なのですけれども、環境法を教えていたり、情報法の研究をしていたり、実は消費者法もかねてからかなり関心がございました。
次をお願いいたします。
次の参考スライドで、実は消費者法と関係する政府関係委員の履歴であるとか、あるいは自分の研究歴における消費者法との関係を示しました。初めて研究を始めたきっかけになった論文が実は団体訴訟論でございまして、本日、委員でいらっしゃっている山本隆司座長代理に御指導いただいた最初の論文(法科大学院生としての研究論文、未公刊)がそれでございます。ただ、今まであまり消費者法との関わりについて横断的に検討したことはございませんので、この機会をいただいたということで少しお話をしたいということであります。
では、次のスライドをお願いいたします。
ここからは少し環境法において当たり前とされていることについて確認をしたいと思います。
第1の点は執行の欠缺とポリシー・ミックス論の関係です。まず、エンフォースメントが欠如しているということを指して、執行の欠缺という問題意識を環境法学は強く持っています。それは環境法を守るための規範がいろいろつくられているにもかかわらず、それを実現するための行政リソースが足りないとか、それを主張する人がいないとか、裁判で必ずしもそれを主張する適格性のある者がいないであるとか、いろいろな形で十分に執行できていないという問題意識のことです。別名、条文があってもそれを実施することができないという意味での実施リスクであるとか、執行することができないということで執行リスクと呼ばれることもあります。
執行の欠缺という言葉自体は、直接には団体訴訟論においてジャスティファイの正当化とレジティマシーの正統化、両方の文脈で言われることが多いわけです。すなわち、環境利益を法が守っていたとしても、それを訴訟で主張できるビークルとしての主体がいないと、それを訴訟で実現することができないではないか。それでは、環境団体にそれを主張してもらおうという発想でございます。これを実現したのがオーフス条約と知られる条約で、それをEU法化あるいは各国法化する観点でいろいろと議論があったということを承知しております。
執行の欠缺なのですが、先ほど別名として実施リスク、執行リスクという言葉を用いたのは、北村教授の環境法の教科書での用語法でして、その指摘があります。日本の民事訴訟においても、必ずしも行政による処分権限は完全に執行されていないということを前提に、民事における人格権による差止め請求を認容した例が紹介されているとおりです。そこに掲げたのですが、もし行政によって完全に執行権限が行使されていれば、処分基準に違反しているような業者がいれば、そこに対して適切な事業停止命令等が出せる。しかし、そうはなっていないからこそ民事の差止めを認容する必要があるという形で議論されているところです。
このことを指して、北村教授御自身は「二枚腰、三枚腰の多重リスク防護システムが必要」と述べており、その論拠として、その事件自体の話を以下のとおり引用しているところです。重大かつ不可逆ということをあえて言っていますので、ちょっと予防原則的な感じもするのですけれども、そのような議論があるところです。
次のスライドをお願いいたします。
その上で、これまた環境法で著名な大塚直教授の教科書から引いてきておりますが、ポリシー・ミックス論ということが法執行手法として言われております。すなわち、行政による規制的手法を中心として考えるとしても、それ以前の総合的手法であるとか、それと並び立つ誘導的手法や合意的手法、そしてそれらの事後的な措置など、多様な手法を活用しようという議論がポリシー・ミックス論と呼ばれるものです。
そこで大塚BASIC、教科書の整理を挙げておきましたが、例えば環境基本計画を立てるであるとか、個別の事業に対して環境影響評価をあらかじめ行うというようなことは、そこの手続においていろいろな人を関与させることによって、この後述べますが、環境公益を見つけ出そうとする過程とも評価できますし、規制的手法の問題点がいろいろとあるので、誘導的手法や合意的手法を組み合わせて行うことが肝要であると説かれたり、あるいはその事後的措置についても、刑事罰や行政罰だけでなく、行政上のサンクションとして持ち得るリソースとしての許可取消しや、損害賠償、原状回復命令などもいろいろとあるという紹介でございます。
次のスライドをお願いします。
なお、規制的手段に利点と欠点とその限界があるという話は非常に有名な話なのですけれども、今日は時間がありませんので、これは授業で使っているスライドそのものなのですけれども、大塚教授の教科書のまとめを掲げておきましたので、適宜御参照いただければと思います。
監視の限界について、先ほど執行の欠缺で説明したのですが、最後の不確実なリスクへの対応というのは環境法で非常に問題でして、被害発生の蓋然が明確ではない場合に規制だけで何とかしようとすると、介入を正当化する根拠がなくなってしまうのでどうしましょうかという議論があります。そこでもなお介入しようとすれば、予防原則、すなわち不可逆な損害が発生するのであれば、それを規制することをためらってはならないという議論があるのですけれども、やり過ぎると目的と手段の均衡が取れないという意味での比例原則の関係で問題になるので、どうしても調整の原理と規制的手法だけではうまくいかないということが出てきてしまいます。この辺はひょっとしたら環境法だけでなくほかの分野でも参考になるかもしれませんので述べておきました。
次をお願いします。
さて、もう一つの環境法の特徴は環境公益のつくられ方です。これは望ましい環境というものが一義的に定まらないということに対処するということでありまして、先ほど総合的手法の説明として申し上げましたが、関係する主体が議論に参画することで、この状況においてどの程度の環境をどんな価値に照らして実現することが望ましいのかということを、参加型熟議主義とかいろいろありますけれども、そういう形も含めて具体化して計画等に落とし込むという発想がございます。そのように環境公益は発見されていくのだと発想がございます。
そこの主体としては、市民や議員、事業者だけでなくNPO等も想定されており、先ほど述べたオーフス条約はまさにこの観点で団体訴権を十分な利益を有する関係市民に認めるものであって、その関係市民の中に、各国法制での条件を満たした環境保護団体を含むという立てつけになっています。
そうしますと、参画適格といいますか、参画ができるという資格と私益との関係は実は明確になくても構わないということになります。ということは、何を言いたいかというと、例えば種の保存の利益を主張できる人間というのは突き詰めるといません。ですが、直接のつながりはなくとも、そのことに十分な利益を有する、関心を有して活動しているであるとか、そのような形で関係市民として立ち現れて、種の保存の利益を主張してくるということになります。そのように、ない場合に制度化の際に一定の関与と組織化等を求めることはあり得まして、団体訴権の仕組みの「団体」の要件はそういうものだと理解されることになります。
この点で、実はドイツは国内法化に一度失敗しておりまして、環境団体が主張できる利益を個人の利益に限定したということがございます。この辺り、私がまさにロースクール生のときに議論した話なのですが、この後で述べるのですけれども、実は日本の行訴法第10条第1項で、自己の法律上の利益に関係のない違法は主張できないという条文が今の日本法にもあるのですけれども、それと同じような条文がドイツ法にもありまして、それを背景に検討した結果こうなってしまったということでありまして、どうだったかというと、オーフス条約の条約機関のほうから、こういうことを入れてしまうと意味がないのでやめましょうと勧告を受けて直すはめになったということになります。
次をお願いします。
ここまでが、私が今日述べることと関連して御紹介したかった環境法の主たる考え方なのですけれども、以下はそれをやや私見強めで、消費者法制にスライドするとどうなるか、トリプル・アプローチを実現するために検討しなければいけない課題が幾つか見えてきましたので御紹介したいと思います。
次をお願いします。
まず一つ目です。今述べました自己の法律上の利益と関係のない違法を民事裁判で、あるいは行政訴訟で述べることができるかという論点は、消費者法との文脈では主婦連ジュース事件をすぐ想起することになります。いろいろな方と今回議論させていただいたのですけれども、主婦連ジュース事件があるので団体訴権はそんなに簡単に広がらないのではないですかとかいろいろ言われたのですが、改めてあの事件を読んでみますと、そもそもあのときの景表法はまだ消費者法化していませんでした。当時の目的規定は、「公正な競争を確保し、もって一般消費者の利益を保護する」という言い方になっておりまして、このことがこの最判の反射的利益論、すなわち一般消費者の利益が公益として実現されるものであって、個々人の消費者の個別的利益を保護しているわけではないのだ、それは反射的利益にとどまるという議論ですが、その核心になっているように思います。なので、今、同じ事件を起こしたら、消費者の法律だよねと言えそうだということで、そこの点でも乗り越えられる。また、個別的利益論も、今、行訴法の研究者としてそれを見ますと、やや峻別がはっきりし過ぎている時期の判決だなという気がします。
ここから先がより重要なのですが、仮に原告適格があったとしても、やはり自己の法律上の利益に関係のない違法なのではないのという話になりそうなのですが、行訴法第10条第1項そのものも今かなり死文化した解釈というか、存在はするのですが、あまりこれを重視し過ぎるとよくないのではないかという議論が学説では行われているところです。この条文が問題になった新潟空港最判について、塩野宏名誉教授と阿部泰隆名誉教授がかなり痛烈に批判していまして、周辺住民にとっては、利益侵害について受忍が必要となるのはあくまで全ての処分要件が充足した場合であって、その処分要件に充足しない限りは、それを受け入れなければいけないとならないものだから、そうすると自分の利益に関係する生活環境侵害だけではなくて、この路線が合理的なのかどうかなどのほかの違法事由も主張できるべきだという話になります。
実は関連する裁判例がありまして、自己の法律上の利益をやや柔軟に解することで、この第10条第1項を少し緩めるような解釈をしているものがありまして、かつてこれを紹介したことがあります。
その発想で、主婦連ジュースについて、もし原告適格があっても、自己の法律上の利益ではないのではないかと言われる可能性がある点について検討したところ、そもそも中川教授は、実はこの点に関しても適正な表示によって必要な情報を得て商品を選ぶ利益という観点では、主婦連にしろ、主婦連の会長個人にしろ、それはもう侵害されているのだからそれでよいではないかという議論をされたことがありますし、それに加えて、ここから私見ですが、他の消費者がだまされるような公正取引規約は違法であるという主張を、気づいてしまった消費者が主張できないというのはやや硬直的過ぎるように思いまして、そのような公正取引規約が世に存在することがおかしいと主張する消費者が、自己の法律上の利益として主張できるようにすべきであるし、少なくとも制度設計上、団体訴権等で議論するのであれば、そのような変な限定がかからないような法制度をつくるべきだと思うわけです。
この辺、現行法の解釈としてジレンマを克服できたと見るべきなのか、それとも今後の立法論でそのようなことがないようにしようという観点なのか、自分でもはっきりしないところがあるのですけれども、いろいろ考えると、あの事件、そろそろやめませんかというのが一つの御提案です。
次のスライドをお願いします。
それでは、もうちょっと柔軟に考えられないのかという点で、情報環境というアナロジーを提示したいと思います。これも完全に私見なのですけれども、情報に関する消費者保護等を考えていたときに、例えばいろいろな広告規制であるとか、例えばいろいろな販売のやり方などで、いろいろな誤情報とか偽情報が飛び交っている環境は、通常、環境法は大気とか水のメディアが汚されることに対して、その保全をするというふうに説明するのですけれども、全く同じで、情報環境というメディアが汚染されているときに、それを是正するための方策として何ができるかと考える発想はいかがかということを述べたことがあっています。
望ましい情報環境と言ってみたところで、それが何か望ましいのかが一義的に決まらないというところもまた環境法における環境公益と似ていまして、各事業者の営業の自由や消費者の状況などに応じて、どんな状況が望ましいのかということがなかなか一意に決まりません。
そのような幅広の観点で考えますと、経済法や消費者法で保護される利益というものは、究極的には取引公序(公正な取引秩序)概念で整理できるはずでありまして、この主張の意味は、双方の乗り入れは可能ではないのかという疑問です。すなわち、独禁法や不競法の仕組みで景表法の仕組みを一々改正をやっているわけなのですが、それを統御する概念として、公正な取引秩序について何らかの参画を制度化するという場面と、制度化した後は主張できる利益の範囲を殊さらにその利益に制限しない方向で立法するということもあってよいのではないかという提案です。自分でもかなり私見が入っているなと思いますので、御議論いただければと思います。
そうすると、そういう私益に基づいて提訴してくる人というのはやり過ぎの可能性もあるので、やり過ぎをどうするのですか、濫訴はどうするのですかということをすぐ言われると思うのですが、それは裁判所が考えるべきことであって、制度化に当たってどのような人たちにガバナンスを与えるかという観点と、個別事案における濫訴や濫用というのは、裁判において適切に是正されるという形で調整はできないかと考えるわけです。あるいはレピュテーションが下がるとか、全体的に見ればそこまで濫訴を恐れるがあまりに、引き金を引くべき人が引き金を引けないというのは、執行の欠缺状態にある消費者法において本当によいのでしょうかという疑念です。
次をお願いします。
ちょっと視点を変えまして、利益の実現手法をどう具体化していくのかという観点で、申し上げなかった点で参考として、環境訴訟においては、被告側に具体的な義務内容を決めさせる場合があります。何を言っているか分からないと思うのですけれども、例えば民事の差止め訴訟で騒音がうるさいと。これは80ホン以下にしなければならないという内容だけを判決主文で決めておき、80ホン以下にするのをどうやるかは被告側において考えさせるというような抽象的差止めという議論があります。これは許容されています。
また、私の専門である行政事件の義務付け訴訟においても、非申請型においても申請型においても「一定の処分」となっているのですが、これは行政庁側において、その一定の処分の範囲以内で適切なものを選びなさいという判決主文も書けるということを意味しております。なぜこんなことが許されるのかなのですが、義務履行主体のほうが適切なやり方を知っている可能性があるために抽象化が許容されているものと思料しています。
この観点において、今般導入された景表法の確約手続は、実現したい公益の具体性と、その実現手段の具体性の解明度に乖離がある。つまり、こういうことをしなければいけないというところまでは分かるのだけれども、中身がどうなっているかが分からないために是正命令が出せないという状況で何年も待たされるよりは、どう是正したらいいのかについて義務主体側も提案してもらって、それで確約するというようなことで考えると、例えば複雑過ぎるスキームの是正については、むしろそういう事業者側からの提案を受け入れる。その提案が法にかなって適しているものかを行政処分で確定するという仕組みと理解できそうです。
つまり、事前のルールメーキングは自主規制や共同規制でいろいろつくれるのですが、実際にやってしまった事案について、後始末はどうしましょうかという観点で、事後としての解決手続として、その手順といえそうだと私は見ました。
ただ、ここは消費者法学会でも議論があったところでして、確約手続の確約を認めるよというところが行政処分だからといって、行政行為の規律で何とかなるというわけではなく、むしろ事業者側からの提案に応ずるという事の本質を見れば、我々行政法研究者たちが行政契約の統制について議論してきた内容が、環境法でも環境防止協定がありますけれども、環境防止協定との関連で議論してきた議論をスライドさせて統制をする必要があるというのはそのとおりだと思います。
次をお願いします。
これは半分愚痴みたいなものなのですけれども、「行政法の人と話すとこういうことを言われるから」と思われていることは、半分くらい行政法ではなくて「行政組織の実務の慣行」だったりしますよね…ということをお話しします。
まず、縦割り行政という言葉自体は、行政法のロジックではなく、行政組織の事情で行政組織が分担管理しているということに起因します。そうしますと分野横断型ルールを考えるときに、どうしても行政主体で考えると、行政の所管している事務の範囲内で何とかしようとしがちなのですけれども、横断的ルール策定や調整のときにそれを考えてしまうとよくないですよねという話です。
次はもう一つ別の話でして、よく騒音規制を守っているから全然大丈夫ですよねと言われることがあるのですが、そうではないですよねと。場合によっては、民事の差止め訴訟が認容されることがあるように、規制を受ける側の行為事由を全て行政法が言っているわけではありません。
そうしますと、行政規制では権限発動の根拠規定はないけれども、法の趣旨に照らすと民事ルールでは何がしかのアクションが取れるというような設計もあり得ると思います。これは景表法の供給主体でない者に対しての民事訴訟は本当にできないのですかということを議論したことがあるのですが、行政法から見れば、命令発動権限を厳しめに絞っているだけであって、それで本当に民事のルールで何もできないかというのはまた別の話なのではないかなという気がしております。
次をお願いします。
時間がなくなってきたので、最後、言いたいことを言いますけれども、今民事と行政とでずれがあってもいいではないかと言ったので、手の平を返すようで申し訳ないのですが、このずれは許容できるのかと疑念に思っていることが一つございます。
染谷弁護士がライフサポート事件の評釈でコメントしていることなのですけれども、裁判例で競業者や適格消費者団体がその違反していると思われる業者に対して訴えた場合には、一般消費者概念は、健全な常識を備えた一般消費者で運用されているのに、業者が実際にその処分を受けて、国に対して取消し訴訟で争っているときには、国は何を見ているかというと、消費者または役務についてそれほど詳しい情報・知識を有していない通常レベルの消費者基準で裁判例は行われている。これはどうなのでしょうかという話であります。結果的に、国を勝たせている割に、競業者とか民間側が訴えてくると厳しいという状況になってしまっているように思います。
次をお願いします。
これを説明するロジックとして、例えば「行政は一般消費者全体を見て、あるいは事業者側も利益を見て、公益全体を考慮しているから一般消費者概念は緩めということでよいけれども、私人はそうではない。私益の観点から発動しているのだから、ちょっと厳しめにするのだ」という説明は一応可能なのですけれども、私見は異なります。消費者法のトリプル・アプローチ、すなわちいろいろな主体が引き金を引けるようにしておいて、どの引き金が向けられても事業者は一定程度対応する必要があり、そして引き金が重なってしまったらそれを調整しましょうという発想からすると、これは民事訴訟でも全部主張できたほうがよく、このような解釈がずれている状態は本来是正されるべきではないかなと思っております。また、濫訴や主張が失当というのは、それはそれで調整しましょうということを考えていくというのがよいのではないかと思います。
このようにずれている場面は結構あるのではないかなと思っていまして、理論的に正当化できるのであったら別にいいのですけれども、正当化できない場合もあるのではないかと思っています。
時間が押してしまいました。最後、まとめのスライドで今日述べたことを確認して終わりにします。
まず、環境法において、執行の欠缺ということをかなり危機的に思っておりまして、それにいろいろなものを使ってやっていきますよというポリシー・ミックスをしている。そして、環境公益も一義的に決まらないので、アクターの参加を支援する仕組みをいろいろと持っているということを御紹介いたしました。
トリプル、アプローチの前提として、使えるものは何でも使えるようにしておいて、重なり合いは比例原則などで対処するということも併せて確認しておく必要があります。
そうしますと、過度な分断がいろいろな原因でいろいろな制度で起きていると思いますので、横断的に一つ一つ見た上で、バランスの取れた制度設計とする必要があるのではないかと思っている次第です。
早口になったところもかなりありますので、いろいろ御指導、御質問いただければと思います。よろしくお願いいたします。
○沖野座長 横田先生、ありがとうございました。
ただいまの横田先生からの御発表内容を踏まえまして、質疑応答・意見交換をしていきたいと思います。御発言のある方は、会場では挙手で、オンラインの方はチャットでお知らせをいただければと思います。どなたからでも、どの点からでも、御自由にお願いしたいと思います。いかがでしょうか。
二之宮委員、お願いします。
○二之宮委員 二之宮です。御説明ありがとうございました。
前半線で、消費者の脆弱性、その多様性という議論をしておりましたが、後半戦の法規範のグラデーションをどうつけていくのか、行政手続・民事手続・刑事手続をどう組み合わせていくのかというところに入ってきたなという気で今日は聞いておりましたし、適格団体に関わる者としては刺激的なお話だったなと思います。
個々には、書かれていることについて、ファビウス事件の判決のおかしさとか、いろいろコメントしたいところはあるのですけれども、そこが今日の本題ではないので、一歩引いてまず感想といいますか意見を述べさせていただきまして、最後に質問を一つさせていただきたいと思います。
これまで消費者契約法の改正の限界といいますか、壁といいますか、いろいろな流れがありました。最初は、どんな被害が発生するのか、その具体例を挙げてきて、要件を組み立てる。被害事例の収集というところで、そんな被害では十分ではないとか、被害がよく分からないとか、現行法でいけるではないかという問題点が指摘されていたときがありました。その後は、要件が不明確だと。要件をもっと明確にしなければいけないというところの争いがありました。
いずれも事業者と消費者の対峙といいますか意見の相違がそういう形で現れていて、なかなか思うような前への進み方をしなかったということを踏まえて、この調査会、その前の在り方懇談会という形に移ってきているという状況があります。
前半戦では、デジタル取引においては、もはや被害そのものに気づかない。そのため、被害事例を収集すること自体に難しさがあることがわかりました。
また、消費者の脆弱性が多様化しているという状況があり、何を捉えて、どういう規範、ルールづくりをしていくのかというところが後半戦につながるところだと思います。
今日の先生のお話を聞いていて、環境法学に参考になる点、ヒントがたくさんあると思って聞いておりました。6ページにあります環境法学における規制手法の欠点に書かれているところは、そっくりそのまま当てはまるだろうと思いますし、7ページにあります望ましい環境が一義的に決まらないというのも、消費者の脆弱性の多様性を考えると、一義的には決まらないという状況も似ている、同じだと思って聞いておりました。
参考文献に挙げられている中川教授の『現代消費者法』にも挙げられていますけれども、消費者問題に携わる者からすると、中川教授の共同規制の考え方というのはある程度広く受け入れられてというか知られているところであると思いますが、そうではない分野あるいは一般の人たちからするとまだまだなじみがないのかなと我々は受け止めております。今日先生から御紹介いただいたとおり、中川教授が言っている共同規制というのは、公的規制というものがまずあり、それを踏まえて既存の委任立法、政令等に委ねる、ガイドラインに委ねるというだけではなくて、それに加えて事業者団体がつくった自主ルールというものを承認する。その自主ルールにのっとっている限り、被害回復の点は別として、法令違反に問われることはないという仕組みを唱えられていると受け止めています。
この共同規制の方法では、事前規制だとか違反行為の中止、行政による中止、執行だとか、適格団体による差止めだとか、あるいは違法性の高いものは行政罰・刑事罰で対応するとされ、被害回復に関しては、個々の不当利得返還だとか、損害賠償だとか、消費者団体による被害回復だとか、行政による返還措置命令と、こういうものも紹介されております。
今日の先生のお話の環境法学のところでも、ここも同じだと思って私は捉えておったのは、やはりリソースの限界というところをどう克服するのかと。行政だけではなくて、消費者団体にもそのリソースの限界があり、どっちかがというわけにはいかない状況があると思います。
そうすると、取引公序の実現という政策目標のためには、まさにおっしゃっているとおり、資料にも書かれていますとおり、重複を恐れない、ずれを恐れないという考え方、そういう手法が、遵法意識のある事業者が割に合わないということを避けつつも、結果的に遵法意識がないあるいは弱い事業者が利することがないというためには、あらゆるアクターが必要になってくるのだというのもそうだろうと思って聞いておりました。
ここまでは感想です。ここからが教えていただきたいといいますか、先生の御意見をお聞かせいただきたいのですけれども、相互乗り入れが不十分ではないか、近接法域との関係で、競争法との関係とか消費者法との関係で、もっと相互乗り入れが可能なのではないか。そうした一つの手法としては、資料に確約手続の意義がありましたけれども、諸外国、ドイツなんかでは確約手続のアクターとして、行政当局だけではなくて、消費者団体も担い手となっており、民民の確約手続も盛んに行われて、かなり活用されている。
あるいは、不正競争防止法の不正競争行為に対して、行政当局だけではなくて、もっと消費者団体もアクターとして担っていく。いろいろなことが考えられると思うのですけれども、この辺の可能性、あるいは十分余地がある、あるいはここが障害になっているとか、先生のお考えとかがあればお聞かせいただきたいと思います。よろしくお願いします。
○横田教授 コメントと御質問ありがとうございました。
まず、コメントに関して補足をしておきますと、中川教授の共同規制論は、情報法及び情報法にある程度知見のある行政法研究者の間でも共同規制論自体言われているのですが、人によって共同規制と見るものの範囲が違っていて、中川先生は割と慎重な説です。つまり、民事で決めたルールに公的機関が認証等を与えることによって、公的規制に取り込んでいくことのみを共同規制と呼ぶべきだというやや狭めの解釈を取っていて、それの理解を御説明いただいたものと承知しています。
また、中川教授のお話でもう一つ触れておくべきなのは、事業者の層を遵法層と中間層と極悪層の3つに分けて制度設計を考えていくべきだというのがありまして、これは非常に今コメントいただいた内容で重要かなと思います。結局事業者がこういう規制が入ると自分のところに来るかもしれないと思って入れさせないようにするのだけれども、本当は極悪層をそういう規制で取り締まることをやりたい。中間層はなるべく遵法層に持っていくような中間的な手段を用意しておくことで、一番重たい斧しかない状態だと、みんながみんなその斧でやるように見えてしまうのだけれども、いろいろな手法といろいろなアクターを用意しておくことで、是正すべきものは是正するけれども、やり過ぎのないようにするという発想につながっているように思いますので、改めて強調しておきます。
その上で、相互乗り入れや確約手続の民事訴訟における活用についてなのですけれども、私も民事・民事間での確約手続についてはあまり知見がなくて、どういうことがドイツでも言われているのかということをあまり承知していないのですけれども、一つは確約手続で一種の和解だと思うのですが、和解の効果をどこまで誰に及ぼすべきかについてはかなり慎重な検討が必要です。すなわち、消費者団体訴訟の日本における導入のときも、判決効を偏面的に拡張するのかどうかみたいな議論があったと思うのです。言い方は悪いのですが、「まずい和解をしてしまうとみんなが困る」みたいなことが起こるので、民事だけで、それも裁判所が関わらない形だけで確約手続をやる場合は、まずい和解ではないということをどこかで担保しておく必要があり、あるいはまずい和解であった場合に、それに対して覆すような手続を入れる必要が出てくるのですが、そうするとあまり意味がないから、そもそも確約手続に業者が乗ってくれないということも起きそうでして、民事についての確約手続は、実はそこの辺がちょっと難しいというところがあろうかと思います。
つまり、制度化して、こういう団体だったらできますよというふうなものをつくるコストがかなり高くなるということであります。そこはまだ私にとっても経験がありません。
その上で、不正競争防止法のアクターとしての消費者団体についてですが、むしろドイツは私の記憶が確かであれば、UWG(不正競争防止法)の差止訴訟がかなり早期から入っていたので、この辺は宗田貴行教授の昔からの御研究にあるところなのですけれども、あまり気にしていないのです。消費者の利益と事業者団体の利益を両方考えて不正競争防止法の団体訴訟はできていまして、もともとはたしか事業者団体の団体訴訟が先にできたところ、そこに消費者を後から追加したという話だったと思います。ギルドでちゃんとやっている人たちが、そういう意味ではさっきの中間層や遵法層の事業者自らが極悪層に差止め請求をするというモデルから始まったのがドイツの不競法団体訴訟のはずで、そのアクターとして消費者団体も増やしたらいいという話だったように思います。なので、日本の不競法の仕組み等が分断し過ぎていないかというのは、その辺りも見ているのが背景にございます。
差し当たり以上です。
○沖野座長 二之宮委員。
○二之宮委員 ありがとうございました。また勉強したいと思います。
○沖野座長 ありがとうございます。
オンラインで河島委員、室岡委員からそれぞれ御発言の希望が出ておりますので、その順でお願いしたいと思います。
まず、河島委員からお願いします。
○河島委員 御発表ありがとうございました。とても勉強になりました。
デュアル・エンフォースメント、トリプル・エンフォースメントなどにつきまして、先生の御提案に深く同意いたします。
既にもう二之宮委員と横田先生とのやり取りで一定の回答があったことなのですけれども、海外事業者や悪徳事業者についてどのように規制をかけていくのかというのが大きなポイントで、それらの業者はソフトローでは実効性に乏しく、デュアルやトリプルでエンフォースメントをかけていく必要があります。
そうなると必ず出てくるのが、遵法意識が高い企業や中間層の活動の萎縮を招くという指摘です。しかし私が知識不足なだけかもしれませんけれども、景品表示法などでは、トリプル・エンフォースメントになっているにもかかわらず、確約手続があるがゆえからか、遵法意識の高い企業や中間層の萎縮が特に起きていないのではないかとも思っているのです。この辺りはいかがでしょうか。また、スライド10で「行き過ぎは裁判所において是正されるべき」とあり、スライド15では比例原則が挙げられているわけですけれども、そのようなことを唱えることで重層的にエンフォースメントをかけていくことに対して十分な社会的な説得力を持たせることができるのでしょうか。この辺りお聞かせいただければと思います。
質問は以上です。
○横田教授 ありがとうございます。
制度を設計することによって中間層や遵法層まで萎縮するというのが、どこまで本当に起きているのかが私は疑問でして、個人情報保護法等の界隈でもよくあることなのですが、規制をかけるとイノベーションが阻害されるであるとか、あるいは規制をかけるとビジネスが成り立たなくなるとおっしゃるのですけれども、実際に発動するためのコストや発動するための機会を極悪層に集中させたいというところは、社会的合意を、消費者基本法にしろ、基本計画にしろ、そういうものなのだということを何とか取り付けた上で、そこから外れているような運用、例えば大して悪くもないのに団体訴訟してきた団体等は、もっと滅すべき悪を滅するように活用してくださいと団体に対してレピュテーションが下がったりであるとか、あるいは協力が得られないことになるというような形で、そんなことは本当に起こるのかという気もしているのですけれども、むしろその内実をどうにかしたいというのが1点。
比例原則と申し上げたのは、例えば消費者団体が既にそのような調整や和解等をしているにもかかわらず、行政がそれに重ねて何らかの処分等を打つ場合のことを想定しますが、後から打ってきた処分等は、そのような改善の仕組みに動いているにもかかわらず、必要のない行政処分をしたということで、必要性が欠けるという形で処分取消し訴訟の対象になるとか、そういう形で調整するということをイメージしてお話をしておりました。
なお、必要がないのに行政処分が行われるということはあまりないのですが、あり得るので、それはそれとして、どこかしら確認規定等を置くなどして、比例原則については、既存の立法でもよく確認規定が置かれていますので、そういう形でフォローしておく。そういう形で多少の明文化を伴う確認の改正をするなどで調整をしていくということでいかがかと差し当たりは考えています。
○河島委員 ありがとうございます。
○沖野座長 よろしいでしょうか。
それでは、室岡委員、続けてお願いします。
○室岡委員 本日はありがとうございました。
スライドの右下のページの13から14ページについて一つ伺わせてください。
訴える側が一般消費者あるいは競業者、適格消費者団体の場合と国の場合で課される条件が異なるというところが挙がっております。このようなものは一般に取消し訴訟に限ったものなのでしょうか。それともより広く存在するものなのでしょうか。
例えばアマゾンプライムのキャンセルしにくさについてヨーロッパで議論が生じたときに、最終的にこのようなダークパターンは問題だと合意がなされて、アマゾンはアマゾンプライムからキャンセルしやすいようなウェブサイトに変更したのですが、他方で過去に入った人に全てお金を返す、契約を取消しせよというところまでは行かなかったはずです。国と一般消費者とで別々の基準でやるのか、同じ基準でやるのかというのは、何についての訴訟なのかというのも重要な点かと思いますので、そこについてより詳しく御教授いただければ幸いです。
○横田教授 御質問いただいたことを契機に補足をしたいと思います。
今、画面ではスライド14ページを映していただいているのですけれども、よく見ると条文は違ったり同じだったりします。不競法の一般消費者だったり景表法の一般消費者だったりするわけですが、しかし、業者対国のほうは、景表法の措置命令についての要件としての一般消費者に誤認を惹起するのだと思うのですけれども、ここで一般消費者と呼ばれているものと、競業者や適格消費者団体が訴えるときに一般消費者の誤認を惹起するという意味で、ほぼ同じ文言がずれているというケースを御紹介しました。
今、室岡委員から御指摘のあったダークパターンについてなのですが、ダークパターンをやめさせることと、ダークパターンに基づいて契約をしてしまった人に事後的に救済をどうするかというのはちょっと次元が違うかと思っておりまして、今後新たな被害を発生させないというところの事前防御であるとか、あるいはこれ以上の被害を発生させない。約款の差止めとかはそういう考え方だと思うのですが、ダークパターンをやめさせるというのも約款規制の事前差止めに近いところがあろうかと思います。
それに対して、事後的に今、入ってしまった人たちにやめる機会を付与するであるとか、あるいは一種の被害回復についてどこまでどうするかというのはまたちょっと次元が違うのかなと今聞いていて思ったのですけれども、確かにそこまでしないと本当は駄目であるというのを、例えば行政処分で行う場合には事後的な是正まで踏み込めるのに、民事だとできないというのはおかしいかもしれないというのはそうかもしれませんし、そうであれば、民事の裁判でこのダークパターンはよくない、差止めだというところが確定した後に、行政側が行政指導として事後的な救済も検討しなさいと言ってみたり、あるいは場合によっては是正命令を出すというような組合せもあるのかなと思っております。
つまり、民事の訴訟物として、事後型救済まで行けなかった場合であっても、事後救済が必要な場合には別途エンフォースをかけるということは、全体としてやり過ぎになっていなければあり得るところかなと思います。
いただいた御趣旨から外れているかもしれないのですけれども、そういう形で幾つか使える手段を用意しておいて、事案に応じて組み合わせるというのは、そういう解決をも可能にする可能性があるという意味において、かなり新しい地平に来るかなと思っています。
○室岡委員 ありがとうございました。
○沖野座長 ありがとうございました。
それでは、石井委員からお願いできますでしょうか。
○石井委員 御説明ありがとうございました。大変勉強になりました。
私からは3点ほどお聞きしたい点があります。今日の御報告の趣旨とは少しずれる内容になってしまいますが、3点お聞きいたします。
まず1点目は、今、個人情報保護法の3年ごと見直しが進められているところでありますが、先生の観点から御覧になったときに、課徴金や消費者団体訴訟制度の導入についてはどのように評価されているかをお聞きできればと思います。
2点目は、資料の中に偽情報に触れられているスライドがあったと思うのですが、10ページです。こちらの構成について、プラットフォーム事業者が関わる情報流通の仕組みの中で偽情報が蔓延して、情報環境が汚染されている。こういう事態に対処する上で、公正な取引秩序概念で整理を行い、そうした概念をベースとして、基礎概念としてルール形成につなげていくという部分の考え方が成り立ち得るのかということ。
3つ目は、ポリシー・ミックスと表現していいのか悩むところではあるのですが、例えばヨーロッパですと、デジタルサービス法やデジタル市場法、また、AI法の中で、GDPRを参照しながら、プロファイリングに係るルールが設けられていたりする。これはある意味規定の乗り入れと言っていいような気もするわけですが、個人情報保護の分野、消費者法の分野、競争法の分野においてはいろいろな交錯する論点が最近出てきておりまして、先ほどダークパターンの御質問があったところですが、パーソナライズド・プライシングやプライバシーサンドボックス、コンセント・オア・ペイ、制度面でいうとデータポータビリティですとかいろいろと論点が出てきている中で、制度設計を考える上でのそれぞれ異なる性格を持つ法分野の協調といいますか、うまくシナジー効果を出しながらルール形成を行っていくときの何かしら視点のようなものがあれば御教授いただければと思います。
よろしくお願いします。
○横田教授 ありがとうございます。
石井委員とはいつも情報法の分野で御議論させていただいているので、そのことを少し話せという御趣旨かと思いまして、少し付言したいと思います。
まず、3点それぞれに答えるというよりは、前提として確認しておきたいのが、ドイツあるいは欧州の消費者団体訴訟制度は、データ保護法を含みます。すなわち、データ保護団体訴訟ともいうべき消費者団体ないしデータに非常に強い関心を持つ団体が多く存在していて、かつ過激です。過激というのは、対プラットフォーマーに対しても、対各国のデータ保護当局に対しても非常にアクティブに活動していて、実際に研究会や学会等に行っても彼らがブースを出すレベルで存在感があるアクターです。いろいろと訴訟を起こしていて、実際にそのうちのひとつ「noyb」代表のシュレムス氏が起こした裁判で、アメリカとEUでのデータ移転に関する裁判が2度も起こされ、2回とも認容されて止まるということが起こるくらいには彼らはアクティブです。
その訴訟は欧州人権裁判所ですので、彼個人の提訴ですから、団体訴訟とは直接関係ないのですけれども、そういう状況であることを見ているので、今の石井委員にこの3つの質問をさせてしまう分断こそが私が今回何とかしたいことであります。データ保護法が問題にしていること、個人情報保護法が問題にしていることは、まさに消費者問題ではないですか。消費者団体がなぜ今まで団体訴訟できなかったのだろうと、今さら感があるぐらいに思っています。
ただ、これはいろいろな事情があるのは承知しておりまして、日本の個人情報保護法が事業者法というか業法ベースでつくられていて、消費者の利益ないしデータ主体の利益に着目した構造にあまりなっていないという批判が前からあるところですが、特にデジタル主権という概念をデジタル臨調のほうで宍戸委員などもおっしゃっていますけれども、我々のデータによる自由であるとか、あるいはデータを用いて自分の生活を改善していくという欲求に向き合って、それができるように活動していくための団体というものを日本でつくっていかなければならないし、別に団体でなくても個人でもいいと思います。そのような利益を主張する者が適切に自分の関心を公益と結びつけて主張していくという仕組みをつくり、その活動をエンハンスしていくことで、何かいいものになるようにするという発想はできる限り進めていくべきかなと思っています。
ですので、個人情報保護法の3年ごと見直しで団体訴訟が入ったのは非常に望ましいことであり、それに対応できるような形での消費者主権のデジタル化というか、デジタル社会における消費者の権利のありようを検討していかないといけないだろうというのがお答えになります。
その上で、誤情報と取引秩序概念についてなのですけれども、いわゆるダークパターンの幾つかで、これはダークパターンでおかしいのではないかというのを排除していく行為はまさにそれかと思っておりまして、広い意味でのダークパターン、欺罔とか人間の脆弱性一般に付け込んで広告をしたり誘引をする活動について、それによってだまされた人が事後的に救済を求めるのでは足りず、だまされる人がいるかもしれないので念のため申し入れしますとか、だまされる人が一定数いそうなので差し止めますということをさせる仕組みをつくるという観点での消費者団体の活動を支援する。あるいは、それに気づいた個人の活動を支援するということがあってもよいのではないか。
ただ、そういう活動をすることで注目を集めて、何かお金を稼ごうとする人が出てくることも想定されますので、そのやり過ぎについてどうするのかというような観点で捉えるであるとか、そういう形で制度設計するのもあるのかなと思った次第です。
差し当たりは以上です。
○石井委員 ありがとうございます。大変勉強になります。
○沖野座長 ありがとうございました。
そのほかにいかがでしょうか。よろしいでしょうか。
それでは、一旦、横田先生からいただくヒアリングのパートはここで終了させていただきまして、次のヒアリングに入りたいと思います。
横田先生におかれましては、貴重な御報告をいただきまして、ありがとうございました。後半に進むのですけれども、関連することも出てくるかと思いますので、よろしければそのままおとどまりいただいて、ぜひ御発言などもしていただければと思っております。
それでは、続きまして、会計学を御専門とされ、環境・社会・コーポレートガバナンスの要素を投資意思決定に統合する責任投資等を御研究されている水口剛先生に、健全な事業活動を促進する仕組みの在り方、ソフトロー活用の在り方について御示唆をいただきたいと思います。水口先生から「サステナブルファイナンスと非財務情報開示」というテーマで、これも20分程度を目安としまして御発表いただき、質疑応答・意見交換をさせていただければと思います。
それでは、水口先生、よろしくお願いいたします。
○水口学長 ありがとうございます。
御紹介いただきました高崎経済大学の水口と申します。貴重な機会をいただきまして、ありがとうございます。また、大変視座の高い御研究をされていることに敬意を表したいと思います。本当にお疲れさまです。
私のほうからは、「サステナブルファイナンスと非財務情報開示」と題して20分ほどお話をさせていただきます。
私は、法律とは全く無縁ですので、どこまでお役に立てるか分かりませんけれども、恐らくソフトロー的な手法の一つの参考という位置づけなのかなと思いましたので、この分野の状況について御紹介をしたいと思います。
では、次のスライドをお願いします。
このサステナブルファイナンスと呼ばれる分野は、もともとは1920年代アメリカでSRI、社会的責任投資と言われる分野がありました。それが発展をしまして、2006年に責任投資原則という原則ができたことで、比較的ヨーロッパを中心に民間の金融機関に広がりました。この特徴は、基本的には民間の金融機関の自主的な取組として進んできたということ、そして、投資や融資の力を使って環境や社会の課題に取り組んでいくという自主的な運動であったということです。それが2018年の欧州委員会の取組から、このサステナブルファイナンスを制度的・政策的に推進をしていくという動きも出てきましたということです。
次のページをお願いします。
かつてSRIと言われたものは比較的マイナーな取組でしたが、それを比較的メジャーにメインストリームに押し上げたきっかけが責任投資原則でした。原則の内容はこのようになっておりまして、環境と社会とガバナンスを総称してESGと呼ぶのですが、このESGの要素を投資の判断に組み込んでいきましょうという原則でありました。
この原則に署名を求めたところ、金融機関の署名がどんどん増えまして、現在では世界の5,000件以上の金融機関がこれに署名をしており、その資産総額は121兆ドルとなっております。
この研究会への示唆という意味では、このように原則を示して、署名を求めることによって、自主規制が働く。こういう仕組みは金融機関側に規律を求める仕組みの一つとして参考になるのかなと思います。
次のページをお願いいたします。
具体的にサステナブルファイナンスは何をしているのかということなのですけれども、上場株式投資と融資や債券投資といったエクイティーとデットの双方で、例えば上場株式投資ではESGインテグレーションやスクリーニングといいまして、環境・社会・ガバナンスの要素を考慮して投融資先を選んでいくという行動と、一旦、株主として投資をした後に、株主の力を使って企業に働きかけをしていくという行動、そしてデットのほうでは、むしろ望ましい活動に積極的に資金を振り向けていくという意味で、グリーンボンドやサスティナビリティ・リンク・ボンドといった仕組みができております。これらは事業会社に対して金融機関とか投資家が望ましい環境や社会の配慮を求めていくある種のプレッシャーであったり、企業の選別の仕組みであったり、そういうものとして機能しているとお考えいただければと思います。
次のページをお願いいたします。
これは民間が中心の活動なのですけれども、なぜ民間の金融機関が環境や社会に配慮した企業行動を投融資先に求めるのか、その論理は何なのかということなのですけれども、先ほど申しました責任投資原則、PRIが事務局を持っておりまして、そこの事務局がサステナブルファイナンスを行う論理を3つに整理しております。
これがPathway A、B、Cとあるものなのですけれども、まずPathway Aは、環境や社会、ガバナンスを考慮することで、その企業が長期的には利益を生み、リスクを減らす。つまりは投資として合理的な行動になるのだというのがPathway Aの考え方です。
Pathway Bの考え方は、個々の企業が環境や社会のことに配慮することで、直接的な利益になるということとは別に、環境や社会に対する負の外部性を削減していくことによって、経済活動の基盤をきちんと守って、経済活動の基盤が守られることによって、結局はポートフォリオ全体の価値が守られるという考え方であります。
そしてPathway Cは、そもそも環境や社会を重視するということは、金銭的な利益とは独立の価値のあることなので、それも追求したいという考え方です。
投資家は自由な判断で投資をするわけですので、このいろいろな価値観に基づいて投資をしている人たちがいるということであるわけですけれども、例えばPathway Bの考え方というのは、ここで議論されています例えば消費者がデジタルとかいう仕組みによってだまされていくとか、それによって消費者が脆弱な立場に置かれて、結果的に経済や社会の仕組みが壊れていくことで、長い目で見て経済活動の基盤が壊れるのであれば、それを自主的に守っていこうという活動として位置づけられるのかなと、こんなふうにも考えられますし、Pathway Aのほうは、きちんと自主規制をして、デジタルで得たデータを正しく使う業者が、言わばレピュテーションが高まって、市場でも選ばれていく、こういう考え方なのかと思っております。
次のページをお願いいたします。
具体的な事例として、GPIFは日本の国民年金と厚生年金をまとめて運用している世界でも最大規模の機関投資家でありますが、このGPIFもESG投資、責任投資をしておりまして、具体的な例としてESGに関するファンドを運用しております。これはEとSとGの観点からよい企業を選んで、それを指数にして運用するという仕組みでありますが、企業の側からすれば、GPIFのファンドに採用されるということは、ESGでよい企業であるというレピュテーションが得られることになりますし、必ずGPIFが投資をしてくれるわけですから、それによって株価が上がっていくというか、株価の下支えになる、そういう面もありまして、できればESGの指数に入りたいと企業側は思うわけです。その結果として、GPIFのこの取組は、企業のESGの取組を促進するという結果を生んでいるというわけであります。
逆に、GPIFにとっては、ESGの指数で運用することで、より利益が高まるという構造になっているということで、実際こんなことが行われていますという事例でありました。
次のページをお願いいたします。
GPIF以外でも、GFANZというのですけれども、世界中の金融機関のネットワークで、脱炭素のネットゼロを実現するということを約束した金融機関の連合体がありまして、GFANZなどは、金融機関を連合して、投融資先に対してネットゼロを求めるという活動をしておりますので、こういう金融機関の活動の一環として、消費者に対する保護ですとか、特にデータの扱いですとか、そういうものを求めていくという方向はあり得るのだろうと思っております。
次のページをお願いいたします。
ここまで民間の動きでありましたけれども、特にEUはサステナブルファイナンスというものを政策的に推進することを2018年から明確に始めておりまして、具体的にどうやって推進しているのかというのがこの図なのですが、EUのサステナブルファイナンスの推進の中核にあるのはタクソノミーという考え方です。タクソノミーというのは分類学という意味なのですけれども、ここではサステナビリティタクソノミーということで、サステナビリティに貢献する活動を気候変動の緩和と適応、それから水問題、サーキュラー問題、公害防止、生物多様性という6項目に分けた上で、それぞれの項目ごとによりサステナブルな事業活動とはどういうものなのかを定義いたしまして、この基準を超えたものはサステナブルな事業活動であるという分類学を示したのです。
このタクソノミーに基づいて、タクソノミーに合致するものがサステナブルな活動だという定義をし、左側のCSRDというのは、Corporate Sustainability Reporting Directiveでありまして、企業に対してサスティナビリティレポートを出せという規定になっているのですけれども、その規定の中で、タクソノミーに基づいてサステナブルな活動ができているかどうかということの報告をさせるという規制、右側のSFDRはSustainable Finance Disclosure Regulation、サステナブルファイナンスに関して、今度は金融機関に対しても情報開示をせよという規定になっておりまして、サステナブルファイナンスに関する金融機関の情報開示もタクソノミーを基にしている。
それから、先ほどちょっと出てきましたけれども、債券での資金調達でグリーンボンドという仕組みがあるのですが、このグリーンボンドがグリーンであるかどうかの判断基準にもタクソノミーが使われる。こういう仕組みで何がサステナビリティに合致するものかどうかという基準を示すというのが一つのやり方でありました。
次のページをお願いします。
日本でも、環境省、金融庁、経済産業省が政策的な推進をいろいろしておりまして、環境省はグリーンボンドとかグリーンファイナンスというものを推進しております。
時間もないので次をお願いします。
具体的にグリーンファイナンスとはどういうものなのかの大変細かい情報提供をグリーンファイナンスポータルでしておりまして、グリーンボンドとかグリーンローンとかこういうものに興味がある人たちは、環境省のポータルに行って情報を集めるということになりますし、グリーンボンド、グリーンローンを発行したいと思う人に対する補助金のようなこともしております。
次のページをお願いします。
金融庁はサステナブルファイナンス有識者会議という会議体を設けまして、こちらも政策的にサステナブルファイナンスを推進するという形になっております。
次のページをお願いいたします。
金融庁はEUほどがちがちと規制で進めるということはしておりませんが、サステナブルファイナンスを進めるために必要な取組をざっと列挙いたしまして、それぞれどこまで進んでいるのかという進捗管理をしておりまして、これを毎年報告書で公表しているのですけれども、例えば企業に対する事業報告開示の義務づけとか、地域の金融機関に対してはきちんと金融庁が指導するとか、ソーシャルボンドのガイドラインをつくるとか、そういういろいろな取組を並行して行っているということであります。
次のページをお願いいたします。
経済産業省を中心に、特に脱炭素の分野では取組が進んでおりまして、GX(グリーントランスフォーメーション)を実現するための基本方針が策定されました。この中で脱炭素を実現するために10年間で150兆円の資金が必要だという試算をいたしまして、150兆円の資金のうち20兆円を国債を発行して調達をするということを決めております。
次のページをお願いいたします。
10年間で150兆円の資金が必要で、そのうちの20兆円分をクライメート・トランジション・ボンドという名前をつけた国債で発行して、資金調達をして、それを呼び水に民間の金融機関の資金を集めてこようということで、重要な分野とか必要な分野にいかに資金を集めるかというのがこのサステナブルファイナンスの一つのポイントになっているということです。
次のページをお願いします。
実際にクライメート・トランジション・ボンドが発行されておりまして、今年の2月に第1回が始まって、今年度も続けておりますというスライドでした。
次のページをお願いします。
実際、今年の2月に1兆6000億円、今年度になってから1兆4000億円ぐらいの資金を集めているのですけれども、具体的にその集めたお金をどこに使うべきなのかということで、経済産業省が分野別投資戦略という戦略を定めて、どういう分野にきちんとお金を流していくのかというロードマップを描いております。
次のページをお願いします。
そのロードマップに基づいて、実際に個々の事業がロードマップに合致しているのかどうかを判断するというのがGX推進機構という組織でありまして、今年の7月にGX推進機構ができまして、ここが実際の判断をすることになっていますということです。
次のページをお願いいたします。
一方で、インパクト投資という分野もありまして、環境や社会やガバナンスを考慮して投資をするだけではなくて、そこから具体的にどんなインパクト、特にポジティブな環境や社会によいインパクトが生まれるのかということも追求するという投資のことをインパクト投資と呼んでおります。
次のページをお願いいたします。
このインパクト投資を推進するために、金融庁と経産省が連合して、インパクトコンソーシアムを今年つくりました。これがこの研究会と何の関係があるのかということですが、消費者を支援するということを民間の力を使って進めていくというのはあり得るのかなと思いまして、法律で規定するだけではなくて、ポジティブなインパクトを促すという意味で、民間の力をうまく使っていくときにインパクト投資の考え方もあり得るのかもしれないということでありました。
次のページをお願いいたします。
最後に情報開示についてですが、情報開示が一つの手法になっていることは事実でありますが、情報開示も実は民間の組織が率先して行ってきたものが徐々に制度になってきたということでありまして、1989年にCERESという団体が環境報告書を提唱し、その後、GRIがサステナビリティ報告書という考え方を提唱し、いろいろ経緯があって今、国際基準になっているということです。
次のページをお願いいたします。
例えばGRI(Global Reporting Initiative)という団体は、民間の任意の報告書として、サステナビリティ報告書を各企業がつくるべきだと考えて、その各企業がつくるサステナビリティ報告書の記載内容をスタンダードという形で自主的につくっております。これを多くの企業が参照して、この基準に沿って報告書をつくっているということです。
GRIの基準は環境と社会と経済という枠組みになっているのですけれども、社会の項目の中には、例えばCustomer health and safety、それからCustomer privacyということで、消費者保護系のことも少し入っております。社会課題の一部として消費者の保護ということは含まれていますので、責任投資の世界でも、特に大規模なプラットフォーマーの影響力が強くなっているということに対する問題意識はあるようです。一応基準はできておりますということです。
次のページをお願いします。
一方で、IIRCという別の団体は、統合報告という考え方を提唱しておりまして、この図はなぜ統合報告が必要なのかという考え方を示しているのですけれども、企業活動というのは、いわゆる貨幣的な資本というのでしょうか、財務的な資本だけではなくて、社会資本とか自然資本とか人的資本とか様々な資本によって経済活動は支えられていて、そして経済活動がそれらの資本に影響を与えているので、それを全体として考えることが必要なのだと。こういうことを統合思考と言うのですけれども、統合思考に基づいて経営が行われているかどうかを報告する必要がありますよねと、こんな提唱をしているところであります。
次のページをお願いします。
こういう様々な議論の中で、企業がなぜ情報を開示しなければいけないのかということについても、自主的に開示してくださいねと言っているのですけれども、その議論がいろいろ整理をされてきました。
一番下の枠組みは、いわゆる規制されている会計報告などでありまして、当然、投資家の投資意思決定に役立つ情報については、例えば日本でいえば金融商品取引法などによって規制されているのですけれども、この意思決定に役立つ情報を提供すべきだという考え方がありますよねと。
しかし、その外側には、規制はされていないけれども、環境や社会の要素は企業価値に影響する可能性があるので、そういうものを情報開示すべきではないかというのが真ん中の四角です。
一番外側の四角は、企業価値に関係するかどうかではなくて、むしろ企業が社会や環境にどういう影響を与えているのかを報告する必要があるのではないか。それは、企業は投資家からお金を集めているだけではなくて、社会的な存在なのだから、社会のステークホルダーに対して責任を果たすべきではないか、こういう考え方があって、一番中心に近いほうをシングルマテリアリティ、一番外側のほうをダブルマテリアリティと呼んでおります。しかし、社会にとって必要な情報というのはやがて規制などによって経済に内部化されていくので、ダブルマテリアリティも時間とともにシングルマテリアリティに落ちてくるのではないかという考え方をダイナミックマテリアリティなどと呼んでいます。
次のページをお願いします。
現実に今、規制という意味では、国際会計基準をつくっているIFRSの中に、国際サステナビリティ基準審議会という組織ができて、ISSBと言うのですけれども、ここがサステナビリティに関する情報開示の国際基準をつくりました。昨年の6月に最初の基準ができておりまして、全般的な要求事項と気候問題に関する開示の国際基準ができました。
次のページを御覧ください。
ここでどういう内容の開示を要求しているのかということがポイントだと思うのですけれども、大きくガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標ということで、そもそも環境とか社会に関してどういうガバナンス体制で企業が取り組んでいるのか、それがその戦略にどういうふうに組み込まれているのか、リスクをどういうふうに管理しているのか、そういうことをきちんと開示させることによって、企業の規律をつくっていくという考え方があるのだと思います。それと同時に、具体的な指標を提示して、目標を定めて、実際にパフォーマンスがどうなっているのかということを開示させる、こういう仕組みになっております。
次のページは、この国際基準に合わせて日本版の基準もつくろうということで、SSBJ、サステナビリティ基準委員会が今年の3月に草案を出しまして、来年の3月末には確定版が出る予定であります。
次のページをお願いします。
このSSBJの基準がどういうふうに有価証券報告書に適用されていくのかというスケジュールがこのようになっておりますということで、一番早いのは2027年の3月期から、一番大きな会社に適用されるということであります。
次のページをお願いいたします。
こうして国際基準を基礎に有価証券報告書での開示が決まってくるわけですけれども、SSBJに先立って既に昨年の1月には企業内容開示府令が改正されまして、特に人的資本や男女の賃金格差の開示、女性管理職比率の開示といったことは既に進んでおりますので、有価証券報告書の中でデジタルとか消費者保護とかいうことに関しての開示をさせるという考え方はあり得るのだろうということであります。
次のページをお願いいたします。
こういう議論の中で、どうしても情報開示は大手上場企業しか対象にならないということなのですけれども、最近の情報開示の傾向として、例えば脱炭素でいいますとScope3といいまして、その企業が調達してきている原材料とか部品を生産するときの二酸化炭素の排出量も計算して公表すべきだとか、生物多様性に関しても、原材料を調達する先での生態系の破壊とか、そういうことが問題ではないのかと。
それから、特にビジネスと人権ということで、責任投資の大きなテーマの一つが人権問題なのですけれども、サプライチェーン上での強制労働とか児童労働といった人権侵害がないかどうかについて調査をして開示をすべきだというデューデリジェンスという考え方が今、入り始めています。
それはどういうことかというと、情報開示の世界で、自分の企業だけではなくて、バリューチェーン全体に責任を持つべきではないかという考え方が浸透し始めたということではないかということであります。
次のスライドをお願いします。
最後のスライドなのですけれども、日本とか、国際的には先ほどのISSBに基づいた情報開示なのですけれども、欧州委員会は、ISSBとは別に独自の基準で既に環境と社会とガバナンスに関する全体の基準をつくって情報開示を推進しておりますので、情報開示をISSBに限る必要はないのだということかなと思っております。
ということで、ちょうど20分ということですので、私の報告は以上にさせていただきたいと思います。ありがとうございました。
○沖野座長 ありがとうございました。
水口先生の御発表内容を踏まえまして、質疑応答・意見交換をしていきたいと思います。先ほどと同様に、御発言の希望につきましては、会場では挙手で、オンラインではチャットを使いましてお知らせをいただければと思います。それでは、これもどなたからでも、あるいはどの部分からでもお願いできればと思いますが、いかがでしょうか。
では、二之宮委員、それから加毛委員という順でお願いします。
○二之宮委員 二之宮です。御説明ありがとうございました。
資料を事前に拝見して、いろいろ金融手法を使ってどう促していくのか、消費者問題、消費者の取引環境とどう関係しているのか、私は強い関連があると思って読ませていただきました。今日の御説明を聞いてますます大いに関係があると思いました。
御説明の中で、5ページのサステナブルファイナンスの論理、A、B、Cとあるところでは、公正な取引環境、取引社会が壊れないようにすることだとか、あるいは11ページのGRIのスタンダードでは消費者法系も入っているという御説明がありました。23ページの情報開示の論議と効果のところでは、社会への影響、まさに社会ですから取引社会も入ってくるということだろうと思って聞いておりました。
資料の中には、世界の各国のみならず、日本の国内においても関係省庁がいろいろ推進している、取り組んでいるということもよく分かりました。そうしたものと比較したときに、消費者庁は消費者志向経営というものを推進しています。消費者志向経営というのは、消費者庁のホームページに紹介されていますけれども、簡単にいうと社会的に有用で安全な商品・サービスの開発・提供、これによって消費者の満足と信頼を獲得していかなければ事業活動が継続できない、SDGsとの関連も深いものであるという紹介がされています。
その推進をしつつ、毎年、消費者志向経営優良事業表彰というのを消費者庁は行っておりまして、例えば昨年度の内閣府特命担当大臣表彰を受けたのは、マルハニチロさんのクロマグロの完全養殖だとか、アトランティックサーモンの陸上養殖の事業化が表彰されています。この専門調査会のテーマである消費者の脆弱性、脆弱である消費者がどのような選択、幸福を求めるのかという点は人権と大きく関わるものだと思いますし、例えば食の問題を考えると、食品をめぐる取引という取引環境は自然環境とは切り離せないものだと思います。
このように消費者志向経営の対象とする事業者の事業活動には取引分野も当然入ってくると思います。そうすると、ESG投資だとか責任投資原則の対象になじむ、親和性が強いと思います。
しかし、消費者庁が今やっている推進策というのは、あまりうまくいっていないのではないかと私は思っておりますが、今日もお話を聞いていますと打ち出し方の問題と、インセンティブが不足しているのではないかと思いました。
消費者志向経営の優良事業の判断要素には、ESGの要素と重複している部分も多いと思いましたし、取引分野も含めて消費者志向経営を行うということは事業者の財務強化、資金繰りの支援、あるいはスタートアップ支援にもつながるということをもっと打ち出してもいいのではないかなと今日聞いていて思いました。
ここから質問をさせていただきます。前半部分でやっていたことなのですけれども、事業者が商品やサービスを脆弱な状況下にある消費者に不当な売り方をしたり、提供の仕方をしたり、あるいはデジタル環境を悪用して提供したり取引をしたりしてはいけないという規範があります。これは、責任投資原則だとか、サステナブルファイナンスの判断要素であるESG課題の取組に関して、あるいはESGのG、ガバナンスの点に関して、自社製品やサービスの取引環境に関する規範意識だとか、遵守意識だとか、これらに対する管理体制、実践状況は現在どういう形で捉えられているのか、あるいはその辺はまだまだこれから検討されていく部分なのかという点について1点教えてください。
もう一点は、消費者志向経営をサステナブル情報として取り込もうとしたときに、どういう要素を非財務情報として捉えて開示させていくことが必要あるいは有用なのかという点についても御知見をお聞かせいただければと思います。
よろしくお願いします。
○水口学長 大変貴重な御質問ありがとうございます。おっしゃるとおりだと思います。
まず、前段の消費者志向経営というお取組は大変すばらしいと思いますけれども、確かにあまり知られていないといいましょうか、少なくともサステナブルファイナンスの世界ではあまり広がっていないのかなと思いました。これは恐らく消費者庁さんが金融業界ときちんと接点を持って、こういう考え方で例えば投融資先を選ぶみたいなことを働きかけていくようなプロモーションも必要なのかなと思いますし、同時に、その視点をもう少し整理をしていかないと、通常のよい製品をつくって、売上げを上げていくという活動との切り分けが難しいのかなと思いました。例に挙げていただいたマルハニチロのマグロの完全養殖などは、本当に環境の取組としてもすばらしい取組だと思いますので、評価され得る取組なのだろうと思います。
御質問のほうなのですけれども、まず消費者の脆弱性とか、あるいはデジタル環境を悪用するとか、こういうものがどのようにサステナブルファイナンスに取り込まれているのかということなのですが、おっしゃるように重要な社会の課題の一つだと思いますし、中間整理を拝読いたしましたけれども、大変そのとおりだと思って拝読をいたしました。率直に言えば、まだまだサステナブルファイナンスの世界でこの問題意識が十分に根づいていないということかなと思います。
欧米の大手の機関投資家は、アマゾンですとかマイクロソフトですとかこういう大手のプラットフォーマーに対しては問題意識を持ち始めていて、例えば人々の思考を誘導するようなやり方の危険性について何らか配慮するということを要求し始めたところだと思うのですけれども、その議論はちょうど始まったところだろうと思います。
そういった大手のプラットフォーマーだけでなくて、そのプラットフォームを利用して、いろいろ悪事というか不当な利益を得ようとする企業に対してどう対応するのかというのは、恐らく今後の課題だと思いますので、投資家側もそういうことを考えていかなければいけないのかなと思いますし、まだまだその問題意識が不足しているような気はいたしました。
それとサステナブル情報というものをどう位置づけるのかという情報開示についても、なかなか難しいのですけれども、説明の中でもPathway A、B、Cと述べましたけれども、実はサステナブルファイナンスをする投資家側にもグラデーションがありまして、ESGの要素を考慮することで、結局投資先も長期的に見れば成長する、企業価値が上がっていく、そういう言わば合理的な投資家としての行動としてこれを推進する人たちもいるのです。特に日本ではまだそういう感覚のほうが強いものですから、きちんと消費者に対応することで、企業としてのレピュテーションが上がって、成果につながっていくという開示が評価をされるのだろうと思うのです。
しかし、本来的にはそれだけではなくて、社会の仕組みの中に公正さというのでしょうか、社会全体を公正なものにしていくような規範が組み込まれていくことが社会全体を底上げしていくわけですから、そういったことが本当は重要だと思うのですけれども、それはなかなかまだ日本の投資家には一言で言うと受けないという側面はあるかなと思っております。
なかなかお答えにならないのですけれども、いかがなものでしょうか。
○二之宮委員 ありがとうございました。
まだまだこれからというのはそうだろうと思いますけれども、規範を打ち出して、定着させて、浸透させていってというところから、その転換点なのだろうなとは思いますし、お答えいただいたのは、要は消費者庁頑張れと言っているのだろうなと思って聞いておりました。いつか近い将来、私なんかは今日のお話を聞いていて、グリーンボンドと同じようにコンシューマーボンドのようなものが発行され、それが社会に還元されて、資金として回っていくというような日が近い将来来ればいいなと思って、期待を込めて聞いておりました。
ありがとうございました。
○水口学長 ありがとうございます。おっしゃるとおりだと思います。
○沖野座長 ありがとうございました。
それでは、加毛委員、お願いします。
○加毛委員 ありがとうございます。
本日はサステナブルファイナンスの分野について見通しを得る非常に有益な御報告をいただきまして、ありがとうございました。
質問しようと考えていた内容は、二之宮委員の御質問とかなり重なります。サステナブルファイナンスの発想を消費者問題にどのように生かしていくのか、どのような範囲で消費者問題への対処としてサステナブルファイナンスの発想を利用できるのかについて、水口先生のお考えを伺いたいと思っていました。既に二之宮委員の質問に対する水口先生のご回答を通じて大分理解できたところもございます。屋上屋を架すことになるかもしれませんが、水口先生のご回答を踏まえて、少し考えたところを申し上げようと思います。
ヨーロッパなどでは、サステナブルファイナンスの文脈で、顧客や消費者との関係が考慮され始めているというお話がございました。他方、現状では、消費者問題は、環境問題や人権問題などに比べると未だ十分な考慮がされていないのだろうと思います。そうすると、それはなぜなのかが問題となります。この問題は、本日の横田先生の御報告に対する二之宮委員の御質問にも関わるのですが、例えば、プロファイリングによる広告に基づいて消費者が商品やサービスを購入することが、被害として認識され難いという問題があるのだろうと思います。環境問題や人権問題についても、かつては類似の問題があったのかもしれませんが、現在では重要な問題であるという共通認識が確立していると思います。それに対して、商品を売りやすい人に売るということは、企業の通常の営業活動であり、それ自体として批判されるべきことではないという考え方が一方ではあるのだと思います。他方、デジタル技術の発展とともに、消費者の選択に対して事業者が重大な影響力を行使できるようになっていることが、現在では深刻な問題として認識されつつあります。そのことを踏まえて、サステナブルファイナンスの発想を活かすことができるのかが、重要な論点になるのだろうと思います。
この点に関して、プロファイリングなどを用いて「不当な」利益を事業者が得る、というときに、その「不当性」をどのように評価・判断するのかが難しい問題となります。その評価・判断の基準がある程度明確にならないと、例えば消費者・顧客との関係を企業会計基準に取り組むことは難しいのだろうと思います。そのような基準設定の困難さが消費者問題についてあるのかもしれないと思ってお話を伺いました。
また、水口先生が最後におっしゃった、日本の投資家の思考の在り方は、そのとおりだと思います。サステナブルファイナンスに従った事業活動をすることが、事業者の将来的な企業価値の向上につながることを前提として、投資が行われるという実態があるのではないかと思います。企業価値を毀損するような形で環境対策をしている事業者に対して投資をできるのかといえば、例えば、金融機関については、株主との関係が問題が生じるように思います。この点は、消費者問題を議論の対象に取り込んでいく際に、より難しい問題を惹起するようにも思われるところです。
質問というより感想のような発言になってしまいました。先生のお話から多くを勉強させていただきました。ありがとうございました。
○水口学長 ありがとうございます。
大変本質的な御指摘で、特に最後に御指摘された株主利益と消費者利益の言わば相反関係というか相克がありますよね。ですから、なかなか本質的に難しい。それはまさに御指摘のあった不当な利益と言うときの不当な利益とは何なのかということとも関わるわけでして、違法でない限り利益を追求してよいではないか、それが株主利益のためなのだと考えるとなかなか難しい問題で、恐らく投資家側の規範の問題とも関わってくるのだと思うのです。
こちら側の論理としまして、受託者責任という概念があって、この受託者責任に反しないのかというのは大きな議論です。しかし、金融というものの公共性を考えたときに、受託者責任だけが無制限に金融を規定する概念であるのか、公共の利益とか公共の規範みたいなものが本来あるのではないか、少なくともサステナビリティに配慮する論理というのはもうちょっと別にあるのではないか、そういうこともあり得ると思いますし、説明の中で申しましたPathway Bのように、直接的な利益にはならないとしても、外部不経済を抑制することによって経済社会全体を底上げすることが、実は本来の注意義務ということになるのではないか。その辺の受託者責任概念をきちんと整理するということも併せてしていかないと、なかなか消費者保護と結びついていかないのかなということを思いました。
もう一点、環境とか人権の話はサステナブルファイナンスに入っているのに、なぜ消費者問題があまり入っていないのかという、そのなぜなのかという論理なのですけれども、そう言われてみると、1920年代から始まっているSRIの世界は、1960年代、70年代ぐらいに社会運動と結びついているのです。当時、社会運動としてベトナム反戦運動もありましたし、公民権運動もありましたし、環境保護運動もあって、レイチェル・カーソンとかもいろいろいた。同じように消費者運動というのも非常に活発であったので、例えばGMに対する訴訟みたいなことがあった。こういう消費者運動が非常に盛んで、ここが問題なのだということが可視化されていると、投資家もそれに向けて動くのだと思うのですけれども、恐らく今はまさに御指摘のようにどこが不当なのかよく分からない。売り手ができるだけ売りやすい人に売るというのは当たり前の行為のようにも見えるので、問題が可視化されていないのだと思うのです。
この問題を可視化することによって、実は不利益を受けているということが分かるようにすることが必要だと思いますし、例えばサステナブルファイナンスでこの問題を取り上げようと思ったら、具体的に何が問題なのかが分かるような説明が要ると思うのです。よくあるのは、健全な購買だとか消費者対応、健全な行動とは何かのガイドラインとかガイダンスを出すとか、ガイダンスを明確に出していただいて、このガイダンスに違反しているのはよくないよねというコンセンサスをつくっていくとか、何かそういう仕組みが必要だろうなと思いました。
おっしゃるように不当な利益とは何かというのは、事後的に利益が大きいから、少ないからということで評価しにくいとするならば、事前的な企業の行為のほうを何らか規制するといいましょうか、少なくとも行為についての見るべき視点を明らかにして、何か規範をつくっていくことが必要なような気はいたしました。
ありがとうございます。
○加毛委員 ありがとうございます。
消費者問題の解決には様々な手法がある中で、企業が自発的に問題解決に取り組むよう促す仕組みが必要であることについては、この検討会でも繰り返し論じられてきました。水口先生には、その筋道を立てる一つの可能性を示していただいたものと理解しました。
大変ありがとうございました。
○水口学長 ありがとうございます。
そうですよね。そういう企業のやるべきことをちゃんとやっている企業とそうではない企業が明確に見えるようになるといいわけですけれども、そこは難しいのだと思いますが、ESG投資の世界では、ESG Rating Agenciesといいまして企業を評価する組織もありますので、そういう民間の評価機関がESGのレーティングの中にその種の規範を取り込んでいけば、ちょっと見える化されるのかなという気もいたします。
○加毛委員 大変ありがとうございました。
○沖野座長 ありがとうございました。
そのほかにいかがでしょうか。
では、大屋委員からお願いします。
○大屋委員 大屋でございます。
私、お金の話は全然分からないので、物すごく新鮮な気持ちで伺っておったのですけれども、こういう形で企業行動をある種統制する道筋があるというのは極めて新鮮に伺っていました。
加毛委員からのお話を受けて若干確認的な御質問なのですけれども、Pathway A、B、Cとあって、受託者責任との関係が問題になるというところはそのとおりだと思うのですが、それは資金の出方というか、金融の性格によっても違うのかなと思いまして、例えばビルゲイツ財団が直接投資するのであったら、本人がよければいいわけですね。受託者はいないと。一方で、銀行なんかであると、預金者とか株主からお金を預かるときに目的を特に言っていないから、やはり受託者責任として損失が出るようなところまで踏み込んでよいかということが問われる。
他方で、例えば投資信託であれば、こういう方針で投資しますとうたっておいて、そこにお金が入ってくる分には、それはそれでもう同意は取れているわけですから、場合によっては若干損失が出る場合であっても、そういう投資信託なのだと分かっていればそれでいいということだろうかと思うのですけれども、大体こういう整理でよろしいのかという点について伺わせていただければと思います。
○水口学長 大変きれいに整理していただいて、ありがとうございます。
基本的に今言っていただいたとおりだと思います。Pathway A、B、Cとありまして、Pathway Aはリスクリターンと整合する投資ですから、現在の受託者責任の範囲内で問題ないと。
Pathway Cのほうはまさにおっしゃったビルゲイツ財団のように、自分がこういうことをしたいのだという意図があって投資をする分には全く構いませんということですし、サステナブルファイナンス投資というような投資信託をうたって、環境社会のインパクトを追求するのですよということを約束してお金を集めたならば、それをしていいということでしょうし、むしろそれをしなければ契約違反ということになるのだろう。
微妙なのは年金基金とか大きな生命保険会社とか巨大な資金を多くの人から集めている機関投資家が、Pathway Aだけに縛られるのか、Pathway Bまでやっていいのか、Pathway Cもやっていいのかというのは非常に微妙な問題でして、PRIという組織がフレッシュフィールズブルックハウスデリンガーでしたか、イギリスの法律機関に委託をして、レポートを出しております。恐らくPathway Bのような考え方は、負の外部性を削減することで長期的にポートフォリオの価値を守っていくということなので、経済合理性のある行動なので、受託者責任の範囲内と理解されていると思います。
実際にGPIFも負の外部性を削減するということを明言してESG投資をしておりますので、そこまでは許される。恐らくGPIFはPathway Cのようなことはしないということです。たくさんの投資家のお金を集めているのに、特定の価値観でサステナビリティを追求するということはできないという理解だと思います。ですので、おっしゃっていただいたとおりかなと思います。
○大屋委員 ありがとうございました。
○沖野座長 ありがとうございました。
そのほかにはよろしいでしょうか。
野村委員、お願いします。
○野村委員 水口先生、ありがとうございました。
もうほとんど質問はこれまでの議論で解決をされたので、感想になります。私は、花王に勤めておりまして、企業なので、ESGに関してレポートも出していますし、まさに企業がやっている活動そのものを今日御紹介いただいたと思っています。
ESGのレポートについては、本当に守っていて、私たちの企業の価値を上げるために情報の開示をきっちりやっているというのが本当に企業活動の中にしっかり根づいている状態になっているので、先ほど加毛委員からもありましたけれども、企業が自発的に取り組むという視点では、この消費者問題のところもこういうことになるといいなと思いました。
ただ、一方で、守らなかったときには、やらなかったときには、この環境のESGの観点でいえば、恐らく株価が上がらなかったりとか、投資をもらえなかったりということがあるので、企業にとってのダメージもあると思うのですけれども、消費者のところに行きますと、それが今度はダークパターンでもうけている状態になることになるので、何らかの悪いことをした場合は罰則だとか何かがやはりないとうまくいかないのかなというのを思った次第です。今日、トリプルパターンの話もお伺いしましたので、やはり組合せなのかなと思った次第です。
感想になりますけれども、以上でございます。ありがとうございます。
○水口学長 ありがとうございます。私も同意見です。
やはり法的なきちんとした規制は必要だろうなと思います。特にこの分野は、おっしゃるようにやったもん勝ちになってしまうのはよくないと思いますので、きちんとした何らかの規制というか制御をするという仕組みが必要で、それと花王さんのように大変よい企業がきちんと取り組んでおられるという、そこは社会から正しく評価されるべきだと思いますし、そういうことの組合せなのかなと思っております。
○沖野座長 ありがとうございました。
それでは、そのほかに、いかがでしょうか。
まず横田先生からお願いしたいと思います。
○横田教授 横から聞いておりました、環境法も一応研究しています横田でございます。
企業における情報開示という例でいえば、環境に関するサステナビリティ報告書については、環境省がガイドラインを出したりしてかなり推進してきた歴史があます。一つ提案なのですが、ダークパターン等についてきちんと問題意識を持って取り組んでいるかどうか、あるいはアドテック業界等で自分の報告がどのようなところに出されているかを把握しているかなどの企業の取り組むべき見直しの準則みたいなものを環境省側が提示して、既に行われているサステナビリティ報告書に一語加えるというのはいかがでしょうかというような啓蒙活動を行うなど、あまり企業の負担が増えない形で、しかし、そういう価値があるのだということを追加していくような形での誘導策というのもあり得るのかなと思った次第です。
特に今般、女性の社会進出に関しての条項が入ったというのは結構労働法界隈ではインパクトを持って受け止められていまして、そのような形で漸進的に進めていくということもこの分野に対してはあろうかと思います。
コメントでございます。
○沖野座長 ありがとうございます。
野村委員から今の点について何かございますか。よろしいですか。
○野村委員 大丈夫です。
○沖野座長 では、大屋委員からお願いします。
○大屋委員 これは議論の整理だけの発言なのですけれども、要するに水口先生から御紹介いただいたのは、前半の横田先生の整理された大塚BASICの整理に当てはめると、③の誘導的手法、その中でも市場を用いる経済的手法だと整理することができる。
私なんかは、誘導的手法というところでいわゆるナッジのことを考えていて、エンドユーザー側に対する誘導のことを考えがちなのですけれども、環境法分野でいうと、それももちろんあるけれども、企業主体のほうに対する誘導的手法も当然あると。その一例であって、しかも投資と組み合わせると物すごく利くという話を伺ったのだと理解されるだろうと。
そうすると、これは皆さんがおっしゃっていることですが、そこでうまく誘導される主体はそれで見ればよくて、中川教授の整理でいうと遵法層から中間層になる。ただ、極悪層にとっては、そもそも極悪層は会社を潰して逃げたりするわけですから、投資活動で誘導をかけようとしてもうまくいかないわけであって、やはり規制的手法できちんと対応するようなことを考えなければいけないということになるのだろうと思いますという話でした。
○沖野座長 ありがとうございます。両方の報告を合わせて、全体としての整理をしていただいたと思います。
今の点につきまして、さらに水口先生から何か、横田先生の御指摘あるいは大屋委員のご指摘についてありますでしょうか。
○水口学長 全くそのとおりだと思います。特に情報開示の仕組みはある種、誘導的手法の中でもよく情報的手法と呼ばれていたりしますし、実際に情報開示を進めることによって企業行動を誘導するという側面はある。御指摘のように、女性活躍推進法で賃金格差などの開示をさせて、それを有価証券報告書での開示に組み込んだことによって非常に可視化が進んだということがありますので、同じように消費者保護の分野についてもこれを例えば有価証券報告書の中に組み込んでいくということはあり得るのではないか。
あれは金融庁の検討会のほうにここを入れるようにという議論があってできていることだと思いますので、こういうところに組み込んでいくのがよいのかなと思いますし、ナッジという意味で、企業側の行動を誘導していくというのは非常に重要だなと思って聞いておりました。そのとおりだと思います。
○沖野座長 ありがとうございました。
では、二之宮委員、お願いします。
○二之宮委員 二之宮です。
最後に横田先生に関連して質問させていただこうと思っておりましたが、先ほどコメントいただいたことでして、環境法の対象である環境問題はサステナブルファイナンスの中心テーマそのものですから、今日のお話は両方とも関連しているなと思いました。それで、横田先生はどう受け止められているのだろうと。多分コメントいただけるのではないかなと思っていました。環境法学の対象から消費者法への転用、あるいは相互乗り入れということをお話しいただきまして、今のサステナブルファイナンスもそれをどうこれから取り込んでいくかというところの議論を先ほどまでしておったところで、先程少しコメントいただきましたけれども、恐らくほかにもこういうところは関連性がある、ヒントがあるとお気づきになった点についてもコメントいただければと思います。
○横田教授 機会をいただきありがとうございます。
私の横断的研究テーマが、「情報の流れをよくして社会をよくする」というものでして、サステナビリティ開示が進むとそれを取り上げた市民運動が起きたり、あるいはそれこそこういういいことをしているというのをコンテンツ化して発信する人たちが出てきたり、いろいろな形で社会が変わるきっかけができるための情報基盤や適切な在り方の整備を行政が支援し、それをみんなの社会活動をよくしていく人たちを応援するために使っていくということにひもづけていただければと思います。
環境法に関しても、先ほどのオーフス条約、団体訴権のところばかり言いましたが、実は情報を開示して手続に参加・関与させ、それが何か駄目なことがあったら訴訟を起こさせるという3本柱で議論されているところでして、同じような話はもうちょっと幅広に、前広に考えて、社会に出てくる情報を広げるということは、実はかなりいろいろなものの規定になるということを最後一言申し上げたいと思います。
ありがとうございます。
○沖野座長 ありがとうございました。
二之宮委員、よろしいですか。
鮮やかにまとめていただいたと思うのですけれども、よろしいでしょうか。
チャットは大丈夫ですね。
それでしたら、まさにちょうど予定の時間でもございますので、今回の議論はここまでにさせていただきたいと思います。
横田先生、水口先生におかれましては、大変貴重な御報告をいただきまして、ありがとうございました。
また、委員の皆様におかれましても、活発な御議論をありがとうございました。
それでは、最後に事務局から御連絡をお願いいたします。
《3.閉会》
○友行参事官 長時間にわたりまして御議論いただきまして、誠にありがとうございます。
次回につきましては、確定次第また御連絡いたします。
以上です。
○沖野座長 ありがとうございました。
それでは、これで本日は閉会とさせていただきます。
お忙しいところお集まりくださいまして、ありがとうございました。
(以上)