第5回 消費者法制度のパラダイムシフトに関する専門調査会 議事録
日時
2024年4月19日(金)10:00~12:13
場所
消費者委員会会議室・テレビ会議
出席者
- (委員)
- 【会議室】
沖野座長、山本(隆)座長代理、河島委員、小塚委員、二之宮委員、野村委員 - 【テレビ会議】
石井委員、大屋委員、加毛委員、室岡委員 - (オブザーバー)
- 【テレビ会議】
鹿野委員長、大澤委員、山本(龍)委員 - (参考人)
- 【会議室】
滝澤紗矢子 東京大学法学部教授 - (消費者庁)
- 【会議室】
黒木消費者法制総括官、古川消費者制度課長、原田消費者制度課企画官、消費者制度課担当者 - (事務局)
- 小林事務局長、後藤審議官、友行参事官
議事次第
- 開会
- 議事
①有識者ヒアリング (滝澤紗矢子 東京大学法学部教授)
②山本龍彦委員プレゼンテーション - 閉会
配布資料 (資料は全てPDF形式となります。)
《1.開会》
○友行参事官 定刻になりましたので、消費者委員会第5回「消費者法制度のパラダイムシフトに関する専門調査会」を開催いたします。
本日は、沖野座長、山本座長代理、河島委員、小塚委員、二之宮委員、若干遅れていらっしゃいますが、野村委員には会議室で御出席いただく予定となっております。石井委員、大屋委員、加毛委員、室岡委員は、テレビ会議システムにて御出席いただいております。
消費者委員会からは、オブザーバーとして、鹿野委員長、大澤委員、山本龍彦委員に、テレビ会議システムにて御出席いただいております。
また、本日は、東京大学法学部教授の滝澤紗矢子様に御発表をお願いしております。滝澤先生には、会議室にて御出席いただいております。
配付資料は、議事次第に記載のとおりでございます。
一般傍聴者にはオンラインにて傍聴いただき、報道関係者のみ会議室で傍聴いただいております。
議事録については、後日、公開いたします。
それでは、ここから沖野座長に議事進行をよろしくお願いいたします。
《2.①有識者ヒアリング(滝澤紗矢子 東京大学法学部教授)》
○沖野座長 ありがとうございます。本日も、どうかよろしくお願いいたします。
それでは、本日の議事に入らせていただきます。
1つ目が、「有識者ヒアリング」です。
本専門調査会の前半の検討テーマには、消費者が関わる取引を幅広く規律する消費者取引全体の法制度の在り方やデジタル化による技術の進展が消費者の関わる取引環境に与える影響についての基本的な考え方があります。その検討に当たりまして、関連分野の状況等を踏まえる必要性について、委員の皆様より、御意見をいただいておりました。競争政策につきましては、消費者政策と問題意識等が交錯する場面も多く、消費者法制度のパラダイムシフトを考えていく上では、競争法、競争政策の分野からの視座も踏まえた検討を行うことが有益と考えられます。
本日は、競争法が御専門の滝澤紗矢子東京大学法学部教授にお越しいただきまして、「独禁法・競争政策と消費者」というテーマで、15分から20分程度、御発表いただきまして、その後、意見交換を行わせていただきたいと思います。
それでは、滝澤先生、よろしくお願いいたします。
○滝澤教授 御紹介いただきまして、ありがとうございます。また、このような貴重な報告の場をいただきまして、感謝申し上げます。
本日は、独禁法・競争政策の観点から消費者をめぐる一定の知見を御提供させていただくことで、今後の議論を深める足がかりとなれば幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。
それでは、スライドの次をお願いいたします。今回の報告依頼を受けるに当たっては、いろいろな宿題をいただいたのですけれども、報告時間が限られますので、要点を絞って、3点、御説明させていただければと思います。御依頼の際には、消費者取引全体の法制度の在り方を考える上で、消費者の脆弱性をどう捉えていくかということ、客観的価値実現をどう位置付けるかということ、それから、特にデジタル化に関して強い関心をお持ちであり、デジタル化という社会の大きな動きの中で消費者の脆弱性が顕在化する場面がある、そのような中で競争政策や競争の観点からの様々な規制・取組を消費者政策とどのように接合していくかということ、これらを重点的検討課題としているものと理解しております。これらの課題に沿いまして、本日は、スライドに映しましたような1、2、3の観点を競争法の観点から御説明させていただきます。1と2がどちらかというと前提的なお話で、3に繋がっていくという構成になっております。3のところでは、例としまして、Googleウェブ広告を素材としながら、デジタルプラットフォーム規制における個人情報保護・消費者保護と競争政策の交錯について整理させていただきたいと思います。ご説明がやや個人情報保護に偏ってしまうのですけれども、ここでは個人情報保護の観点と消費者保護の観点はかなり重なると考えています。以上のような順序で報告させていただきます。
次、お願いします。最初に、競争法ではまず市場画定を行いますが、その市場画定において、消費者属性等、つまり、脆弱性といった特性をどのように考慮する可能性があるのか、また、限界はどこにあるのかについて、御説明させていただきます。消費者法制度における脆弱性概念や脆弱性を図る指標なども問題になっていると理解しておりますが、この点にも関わります。
次、お願いいたします。まず、最初に確認すべきことは、基本的な内容としまして、独禁法は消費者や消費者の脆弱性を直接には問題にしないということです。独禁法の直接目的は、同法1条と最高裁判例により、公平かつ自由な競争の促進です。競争の定義は2条4項にあるわけですが、その2条4項の競争を形づくるものは3要素である。需要者と供給者とそこで取引される商品又は役務、ということですので、ここに消費者は直接的には登場しません。独禁法は、何らかの形で市場競争が阻害されて需要者に弊害が及ぶことを問題にしますけれども、そこでの需要者とは、もちろん消費者である場合もあるわけですが、大企業である場合もあるわけです。一般法である競争法は、そこで消費者か事業者かということを区別しないで問題にしているのです。消費者は、需要者のあくまでも部分集合だということになります。独禁法に基づいて競争の観点から規制したら、消費者が保護される場合もあるかもしれないけれども、それは消費者だからではありません。あくまでも、市場競争に弊害が生じさせた行為を規制するのであって、消費者の脆弱性が問題だから競争法が介入していくという思考枠組みにはなっていないということです。あくまでも一般法として、競争政策の観点から、競争促進を目的として介入する。そこに、たまたま、消費者も需要者の中のそれなりに大きなカテゴリーとして出てきますので、そこで保護される場合もあるということです。
次、お願いします。しかしながら、市場画定等の場面では、その需要者群を抽出する際に一定の特性を勘案することも行われており、それが独禁法の市場画定の基本的な思考枠組みであるということです。典型例として、平成22年最高裁判決の例を挙げておりますけれども、そこでは、ブロードバンドサービスの一般的な需要者ではなくて、少し高くても速い通信速度を選好する需要者というものに着目して、その範囲で狭く市場を画定しています。このような例は独禁法ではたくさんありまして、いわゆる、一般的な用語における市場、例えば、日本の自動車市場とか、そういう形で市場画定をしているわけではありません。目の前の事案で問題になっているのがどういう需要者かということを見る際に、需要者が持つ一定の特性が勘案されているということになります。そうすると、そこで問題になっている事案に一定の特性を持つ消費者が登場する場合には、それを勘案してそのような消費者を基点として市場画定をするということが行われるわけです。その場合に、当該市場で競争が阻害されると、必然的に、その需要者群である消費者、一定の特性を持つ消費者が保護対象になる場合が出てくるということです。景表法の例も挙げているのですけれども、これは市場画定とは少し異なる場面かもしれませんが、ほぼパラレルに考えられています。ここは「需要者」と書いてしまっていますけれども、景表法なので消費者に限ったほうがいいと思いますが、特定の消費者群を抽出して優良誤認の判断基準とされています。例えば、有料老人ホームに対する不当表示であれば、問題となる有料老人ホームを選択する消費者群の目から見て優良誤認と判断できるかどうかという判断基準になるということです。そのような例は景表法を見渡してもたくさんありまして、その商品を使うのが子供である場合には子供目線で優良誤認を考えるとか、そういう例はたくさん指摘できます。
次、お願いします。一方で、一般的な消費者が基準となっている例も幾つか見られますので、その点も御紹介しておきたいと思います。まず、先生方の御関心が強いと思われるものが、こちらに掲げました、デジタルプラットフォームが個人情報を収集、利用する場合に優越的地位の濫用になるのではないかという、公正取引委員会が令和元年に定めたガイドラインです。ここでは、個々の消費者ではなくて一般的な消費者を基準として優越的地位や濫用といった違反要件を判断すると書かれています。優越的地位の判断や濫用の判断は、個々の消費者を見るのではなくて、一般的な消費者で見ますということです。ただ、この記載は少し気をつけなくてはいけなくて、そもそも一般的な消費者をどう措定するかという問題があるのですけれども、それ以外に、この記載の背景としては、優越的地位濫用はずっと事業者取引だけに適用されてきていて、その場合には相手方ごとの相対的な違反要件の判断が行われてきたということです。このガイドラインで初めて適用対象を消費者一般に広げる可能性を示した、そこで相手方ごとに個別判断をしなくていいと言った、という流れなので、事案によっては、一定の特性を持つ脆弱な消費者のように、通常の市場画定の考え方と同様に特定的な消費者群をくくり出す可能性は、このガイドラインでも否定されていないものと理解しております。景表法については平成16年の判決を挙げておりますけれども、この判決はいろいろなところで引用されていて、最近でも、名古屋高判の令和3年9月29日の判決でもこれと同じ内容が繰り返されています。平成16年判決は、コジマが「当店はヤマダさんよりお安くしてます」などと書いていたけれども、実際にはヤマダ電機のほうが安い商品もあったということで、ヤマダ電機が差止めや損害賠償を求めて訴えたという事案なのですけれども、判決は、確かに厳密に言えば正確な表示ではないかもしれないけれども、大多数の一般的な消費者は、必ずしも文字どおりには受け止めず、一生懸命競争していますという言明だと理解して認識するので、誤認はない、と言ったのです。そこでは健全な常識を備えた一般消費者が想定されており、たとえ文字通りに捉えてだまされた人がいたとしても弊害として問題視されています。
以上のように申し上げると少し食い違うように見えるところもありますので、整理したいと思います。どういうときに需要者の特性を特に問題にしてくくり出して議論対象にするのかということが問題になるわけですが、例えば、Aでなければ駄目という人がいると、Aだけで市場画定をする、オレンジの点線のような市場を問題にするのかということなのですけれども、どちらでもいい人がそれなりに多くいますと、Aでなければ駄目だという人がこれだけいるから、Aの供給者が値上げをしようとすると、どちらでもいい人がこぞってB等に行ってしまうわけです。それだとAは困るので、通常、それはできなくなるため、弊害が発生しなくなり、このオレンジの部分の市場だけを取り出して問題にする必要がなくなります。例えば、使い慣れにより特定のプラットフォームしか使えないとか、最初に初期設定してもらったプラットフォームから自分で変更できません、クレジットカードの設定ができませんとかいう人がそれなりにいて、問題になる可能性があっても、他に競争関係に立つプラットフォームがきちんといて、問題のプラットフォームが変なことをしようとしたら多くの人が一斉に他のプラットフォームに移ってしまうという状況だと、当該プラットフォームが困ってしまうので、競争が働くために、問題が生じないというわけです。問題が生じる場合は、その需要者群を供給者群がターゲットにしており、競争によっては状況が改善されずに法的保護が必要な場合ということなのではないかと思っています。供給者が特定の需要者群を区別してターゲットにできる場合は、例えば、老人ホームみたいな場合はそういうことがあると思うのです。競争法に限らず、景表法に広げて考えますと、供給者側がターゲットを区別できなくても、一定の割合で、誤認する人がいて、その人の弊害が大きな問題となる場合を指摘できます。健康食品や美容グッズ等で景表法が問題にされる場合は、そういう場合も多いのではないかと思います。以上のように、供給者が一定の需要者をターゲットにして、法的保護が必要な場合は、脆弱性の観点が問題になってくる可能性があるのかなと思っております。
次に、客観的価値実現と正当化理由に移りたいと思います。
次、お願いいたします。脆弱な消費者保護という観点も含まれると思うのですけれども、客観的な価値実現は、独禁法上だと、正当化理由の問題に当たりそうです。教科書的な説明を最初に申し上げますと、独禁法1条の趣旨・目的として一般消費者の利益の確保があり、これが究極目的であると最高裁が判示しています。1条に基づいて、反競争性、競争への弊害があっても、正当化理由により守られる利益と比較衡量して、正当化の利益が上回る場合には違反とならないと述べており、判断枠組としては、比例原則により目的と手段を見て判断されています。これが教科書的な説明になります。
次、お願いします。それをどう衡量するかということが非常に大きな問題になるのですが、日本ではそこまできちんと議論されておりません。第1条の目的規定も広範な内容を含み得ますし、「公共の利益」と書いてあるので、何でも衡量できると考えられている可能性もあります。が、世界的に見ますと、議論の大勢としては、同一市場内でのみ利益衡量をすることが基本原則であるとされています。いろいろとあるのですけれども、実態的理由としましては、違う市場の利害を衡量してしまうと、片方の需要者に不利益が生じて片方の市場で利益が生じているという場合に、利益の再配分が生じてしまいますよねと、こういう問題解決は立法でやるべきだという考え方が、根底的にある理由であろうと思われます。手続的には、市場をまたぐ利益衡量は複雑になり規制コストも大きくなってよろしくないという理由も指摘できます。これに対して、本当にそうなのかという議論がいろいろと起きておりまして、例外を認めようとする議論が起きています。時間の関係であまりここを突っ込んでお話しできないのですけれども、一つには、環境問題のように、全体に大きな利益が発生する場合です。消費者保護の問題も同様の側面があると思うのですけれども、当該市場だけ切り取って利益衡量をしてしまうと、その利益が小さく見積もられて、適切な衡量と言えないのではないかということです。環境問題でいいますと、環境保護の利益は全体に及ぶのに、当該市場の需要者のみの利益に限ってしまうと衡量できる利益が小さくなって、環境保護を後押しできないのではないかということです。このような外部性もあるような大きな利益を十分評価するにはどうすればいいか、という議論は、SDGsの観点からヨーロッパで非常に盛んに行われておりまして、実際に限定的な場合には広めに利益をとって衡量をしたらいいのではないかという議論が出てきている一方で、アメリカは、立法の問題で、競争法の中で比較衡量しないという態度であって議論は盛んでない、ということです。第2には、多面市場の問題です。多面市場は、アナログの場合でもいろいろなところで本当はあったわけですけれども、デジタル化によりすごく顕在化して、ほとんど常に多面市場という状態になっている。そうすると、多面市場の場合、一方の市場で弊害が生じていて他方の市場で利益が生じるということがしょっちゅう起きるわけです。これをどのように衡量するのかということが大きな問題となって、特にアメリカなどはこの問題に熱心でして、少しゆがんだ判決(Amex連邦最高裁判決)が出ています。
次、お願いします。以上を念頭に置いて、競争政策と消費者保護の関係を、今回は個人情報保護の観点からですけれども、GoogleのPrivacy Sandbox Proposalsというウェブ広告の事例を用いながら整理させていただきたいと思います。
次、お願いします。ここで問題にしているものはウェブ広告上で用いられているパーソナルデータの収集・利用でして、まさに優越的地位濫用ガイドラインで問題になったのと同じ問題です。Googleなどが、効果的なターゲティング広告を行うためにパーソナルデータを収集する。その際に、十分な同意なくパーソナルデータを収集・利用すると、個人情報保護の観点からも問題ですし、消費者保護の観点からも問題だろうと思われます。差し当たり、単純化して両者は重なる問題としています。当然少し重ならない部分もあるかもしれないのですけれども、今日お話しする限りは重なる問題としてお話しします。パーソナルデータの収集・利用に関してはいろいろな法規制が関わってくるのですけれども、広告市場の競争も合わせた3つの観点に特化して、整理したいと思います。
次、お願いします。データに関する独禁法・競争政策の観点は既に相当程度語られておりまして、OECDのラウンドテーブルなどでは早い段階から議論がありましたし、日本でも、今、スライドにお示ししているような幾つかの報告書や先ほども申し上げましたガイドラインが出されています。それらの内容については異論がなく、よくまとめられていると思いますけれども、競争政策と個人情報保護・消費者保護との交錯の整理をもう少し厳密にみたほうがいいのではないかというのが、私の問題意識です。
次、お願いします。なぜかというと、交錯態様ということで、両者で協働しましょうとよく書かれているのですけれども、いつもスライドに示したこの三位一体の概念図が持ち出されます。ここの出典に書いてあります、最初にヨーロッパの資料で用いられた図を、日本でも翻訳してそのまま公正取引委員会の報告書に載せているのです。この三位一体の概念図は、間違ってはいないかもしれないけれども、少々大ざっぱだと思っています。
次、お願いします。なぜかといいますと、競争上の弊害は種類が様々で、それによって交錯態様が異なるということがございます。この点は、実は先ほどお示しした公正取引委員会の2つの報告書でも間接的に指摘されているのだけれども、十分に認識されていないのではないかと。それから、先ほど第2点目でお話しした内容で、個人情報保護(消費者保護)が問題になる市場と競争政策が問題になる市場が異なる場合が出てきていて、これをどうするかということです。交錯の問題が話題になると、すぐに優越的地位の濫用に係るガイドラインがもち出される傾向にあるのだけれども、過度にここに焦点が当たってしまって本丸のところが見られていないのではないかと感じています。
次、お願いいたします。これに関しては、イギリスでGoogleの事案について確約決定が出ていまして、この決定についてここで深入りはできないのですけれども、当該決定に先立って、イギリスのICOとCMAの間で、個人情報保護当局と競争当局とが、a joint statementを出しているのですけれども、相乗効果と緊張関係を見なければいけないと言っています。これを御紹介したいと思います。
次、お願いします。まず、よく取り上げられる個人情報保護の場面が、この優越的地位の濫用のガイドラインの場合です。これは、個人情報保護規制・消費者保護規制と優越的地位の濫用規制が同じベクトルを向いている状態です。つまり、デジタルプラットフォームとこれを利用する消費者という2面関係の中でその利用者を保護する、全く同じベクトルを向いていますということです。ただ、この規制のベクトルが同一になることは独禁法規制全体の中では少し特殊です。優越的地位濫用規制は、既に競争が働かなくなってしまっているような市場状況で、この場合ですと、搾取的な個人情報の取得・利用を行うことを問題視しますので、既に競争の関係を視野に入れる必要がなくなっているという意味で、競争法の中では特殊な場面となります。搾取される相手方を保護するという方向性で、ベクトルが一緒だからです。そうすると、これは、ある意味、非常に簡単というか、規制の協働の形態としては単純です。なぜなら、同じ方向性を向いているからです。そうすると、どの法律でもいいのだけれども、消費者保護でも、個人情報保護でも、優越的地位濫用でもいいのですけれども、同じ方向を向いているのだから、あとは細かく調整してうまく政策目的を達成すればいいよねという話になると思います。
次、お願いします。しかしながら、逆ベクトルになってしまう場合もあって、それが緊張関係でして、こちらがより問題となります。実際、先ほどお示ししました公正取引委員会の報告書の中でも、そちらが重点的に書かれています。つまり、パーソナルデータの保護の強化はデータの囲い込みによる排除効果につながりやすい、そうすると、競争政策上奨励するデータへの自由かつ容易なアクセス保護とは相反すると書いてあるのです。この点をGoogle Privacy Sandboxの例を用いて市場の図を描いて分かりやすくしてみたのですけれども、Third-party cookiesというものが個人情報保護の観点から非常に問題だということなので、これを廃止して、代替的な仕組みであるPrivacy Sandboxに移行するというGoogleの計画が問題になり、この計画は実際に行われました。それ自体は、EUのGDPRの趣旨に沿うような移行ですので、個人情報保護の観点からは促進すべきものですが、これをやることによってGoogleがデータを囲い込むことになるので、デジタル広告、特にパーソナライズされたターゲティング広告について、競争上の問題が生じかねない、つまり、競争関係に立つアドテク事業者がThird-party cookiesに依拠してターゲティング広告の精度を高めて競争してきたのに、Googleがデータを囲い込んでPrivacy Sandboxを作ってしまうということになると、その内容によっては競争者が競争上不利になってしまうことが懸念されたのです。この図を見ていただくと、データの保護のレベルを引き上げて消費者を保護すると、反対の市場で排除効果が増大してしまうという、逆ベクトルの問題が直接交錯する局面であることがお分かりいただけるかと思います。さらに、競争法の観点からも難しいのは、これが多面市場だということです。御覧いただくと分かりますように、パーソナルデータに係る消費者保護は左側の市場の問題です。この図は非常に単純化していて、SafariやFirefoxが競争関係にあるようにしていますけれども、実際にAndroid端末を使う人のことを考えるともっとGoogle側に囲い込まれたような状況が左側の市場にあると思います。一方、右側で広告枠を売る競争が行われていて、こちら側ではいいパーソナルデータを得られない競争関係に立つアドテク事業者が排除されてしまうという問題状況になります。
このように、右側市場で競争上の弊害が生じ得て、次のスライドをお願いしたいのですけれども、しかも、このウェブ広告自体が非常に入り組んでおりまして、それだけで3面・4面市場になっているのです。ウェブ広告に関しても公正取引委員会が報告書を出していて、そこにも図が載っているのですけれども、スライドに貼り付けたアメリカにおける訴訟の資料図が分かりやすいと思ってお示ししているのですが、広告主が青の「Advertisers」という右側の人で、広告枠を売るのが緑の人になるのですけれども、要は、広告主が広告を出したいといったときに、こういう広告枠がありますよという形で、お互いに一瞬のうちにピッと競りを行うといいますか、ビットを行って売買するという仕組みを何重にもわたって構築している状態なのです。そして、そのビットをつかさどる機能をGoogleが何段階にも押さえているという構図です。だから、真ん中の3つに区切られているところはそもそも大半をGoogleが握っている状態になっているのです。
もう一度スライドを戻っていただきますと、つまり、この3面関係ないし4面関係が競争の観点からは非常に問題になっていて、その扇の要の位置にGoogleが常にいるような構図になっているのです。この状況で、しかも消費者保護が問題になる市場と競争法、すなわち排除効果が問題になる市場が分かれてしまっています。個人情報保護法やGDPRのようにバチッと立法があれば、個人情報保護をきちんとやりましょうということでこれを優先した上で競争問題を考慮する、となると思うのですけれども、そういう立法がないとか、消費者保護に関する立法が一般的に作られていて特定の場面でどうするか一義的にわからないとかいうことになりますと、ある市場で消費者の問題が生じているけれども、異なる市場では排除効果が問題になる場合、市場をまたぐ比較衡量になってしまって、難しい問題になるということです。
最後のスライドをお願いいたします。以上のように、消費者保護の場合には、親和性がある独禁法規制として消費者に対する優越的地位濫用に目が向けられがちなのですけれども、特にデジタル時代における消費者保護、それと競争政策との協働を考える場合には、このような緊張関係の場面をどうしても視野に入れていかないといけないでしょうということで、今申し上げたような、幾つかの問題点、難しさがございます。
そのような問題提起にとどまりますけれども、以上をもちまして、報告とさせていただきます。
○沖野座長 滝澤先生、ありがとうございました。
ただいまの滝澤先生の御発表内容を踏まえまして、質疑応答・意見交換をしていきたいと思います。どなたからでも御発言をいただきたいと思いますが、御発言のある方は、会場の方は挙手におきまして、オンラインの方はチャットによって、お知らせいただければと思います。よろしくお願いいたします。
室岡委員、お願いいたします。
○室岡委員 滝澤先生、すばらしい報告をありがとうございました。
大阪大学の室岡と申します。私自身、産業組織論を専門にしております。最初のほうのスライド、4ページをお願いします。ここで、「カテゴリカルな思考様式ではない」、「一般法の下での個別具体的判断」とございます。滝澤先生から御説明いただいたとおり、独禁法それ自体は消費者保護が目的ではないと思います。ただ、例えば情報の非対称性の理論でよくあるように、消費者保護の状況においても、悪貨が良貨を駆逐する、つまり消費者を搾取するような企業を放置しておくと消費者を搾取する企業の寡占化・独占化が進んでしまうという状況も、一部では想定できます。そのような場合は、独禁法の対象・目的に入ってくるという理解でよろしいでしょうか。
○滝澤教授 すみません。もう一度、お願いできますか。
○室岡委員 独禁法自体が消費者保護を目的としていないということは、正におっしゃるとおりだと思います。他方で、例えば、消費者が事業者から搾取されているような状況においては、真っ当に取引をしている企業がクラウドアウトされてしまうという状況も、経済環境次第では起き得るかと存じます。このような場合は、もちろん消費者保護法の範疇ではあるのですが、独禁法の対象・目的にも含まれるという理解でよろしいでしょうか。
○滝澤教授 ありがとうございます。
問題状況の例の部分を確認させていただいたのですけれども、一般的に、消費者保護をしなくて独占・寡占化に進むということを直接独禁法が規制するということはないと理解しております。独禁法自体は、独占や寡占になることそのものを問題にしているというよりも、もっと特定的な行為を規制対象としているので、その消費者保護をしないという行為という中に、独禁法が問題にする、例えば、何らかの行為、搾取も含むと思いますけれども、不当表示規制も一部入っていますし、そういうものに当てはまれば、それは規制できるわけですけれども、それも消費者保護をしなくて独占・寡占化が進むからという形では規制はしていないと理解しております。
○室岡委員 ありがとうございます。
これも確認のための質問ですが、独占力の行使の中に、消費者を搾取すること自体は一般に含まれるでしょうか?私は経済学者で法学には詳しくないため、先程の質問もおそらくこのようにお聞きした方がよかったかと思います。申し訳ありません。
○滝澤教授 消費者の搾取という行為は、条文上は可能ですし、先ほどから申し上げているガイドラインでも、消費者に対する搾取という可能性が示されているのですけれども、現実にはほとんど具体的規制が行われていませんし、理論的にもどんどんそこを優越的地位の濫用で規制していくのは難しいと考えております。
○室岡委員 ありがとうございます。優越的地位の濫用を用いて規制していくことは、実際には非常に難しく問題もあることは、私も心から同意します。よくわかりました、ありがとうございました。
○沖野座長 ありがとうございました。
不公正な取引方法自体を規律して市場環境を整えていくということは、競争政策や競争法の話になるのでしょうか。
○滝澤教授 もちろんですけれども、不公正な取引方法は、多くは排除効果などの競争上の弊害を問題にする、特定の行為規制なのです。一般的、抽象的に不公正な行為を規制するという規定ではなくて、既に不公正な取引方法として法律もしくは公正取引委員会の指定で決められた特定的行為について規制するという形になっていて、多様な行為がそこには定められているのですけれども、そのうち大部分が先ほど申し上げたような市場における排除効果を問題にしています。少なくとも、不公正だから消費者を直接保護するという規定にはなっておりません。
○沖野座長 独占や寡占という結果自体は問題視しないということなのですが、独占や寡占は、結局、その1社ないし数社が市場を占有して他の人は入れないようにするということでもあると見られるようにも思うのですけれども、取引方法において、一般的に公正でないやり方、しかし、それに「需要者」たる消費者が気づかない、あるいは、そういうものだけをターゲットにしていると、その人たちについては、「搾取」と言われましたけれども、そのような取引方法を取っている業者だけが、そこで占有されて、しかもそんなに乗り換えていかないということで、独占になってしまうという話は、競争法の話ということになるのでしょうか。
○滝澤教授 今のお話の例ですと、独占・寡占の問題と、それを利用した行為によって一定の排除効果をもたらしてその市場の独占や寡占を獲得、維持するという問題が含まれていると思います。独占・寡占的な地位を利用して排除効果を生じさせる行為を行って、例えば、自分だけが情報を囲い込んで競争者を排除することによってGoogleが独占的地位を強化する、その結果として搾取も行うかもしれないのですけれども、そういう排除効果を独禁法は弊害として問題にしている、独占的地位や寡占的地位をもつ人が排除効果をもたらす行為を行うと、市場に与える弊害が大きくなる、反競争効果が大きくなるので、そのような行為を規制するという枠組みになっているということです。
○沖野座長 ありがとうございます。
室岡委員も、よろしいでしょうか。
特に追加の御質問等はないということだと伺いました。
二之宮委員、お願いします。
○二之宮委員 二之宮です。貴重な御説明等をありがとうございました。
まず、感想といいますか、先生から、先ほど、優越的地位の公取の考え方について、もう少し厳密にやったほうがいいのではないかという御指摘がありました。理屈を考えるとそうなのかなと私も思いますけれども、我々が現場の実務をやっていて大きな流れを見ていますと、令和元年に公取の考え方が出て、その後、令和2年に透明化法ができて、令和3年にデジプラ法ができた。こういう大きな流れを見ていると、最初の令和元年の公取の考え方が最初の一歩を踏み出したのかなと思います。それに基づいてデジプラをめぐるいろいろな法的なルールが整備されていったということに関しては、私は評価していいのではないかと捉えています。他方で、今日の先生の御指摘を踏まえて、いろいろな方向から考えなければいけないということもよく分かりました。その中で、正当化理由の近時の議論で、利益衡量を欧米ではこうやって考えるのだと、1つは、ある分野では利益考量ではなく法でやるべきという考え方があるということでした。ここで、私がついていけていないところもあるのですけれども、利益衡量をすることと法があったら法でやるべきだということはどのように捉えたらいいのか。要は、競争政策当局が利益衡量をして、優越的とか、排除するとか、そういうことをやることには問題があり、消費者保護政策をやるのだったら、それは別途の法律でやるべきであり、その許された範囲内で自由に競争しなさいということを言っているのか、いや、そうではなくて、もう少し利益衡量なり規制当局が乗り出していくときに一定程度の法的な仕組みやルールの縛りが要るということか、ここはどのように捉えたらよろしいのか教えてください。
○滝澤教授 貴重な御指摘をありがとうございます。
まず、最初のほうにつきましては、私も、この公正取引委員会の令和元年の消費者に対する優越的地位濫用に関するガイドラインは、踏み込んで作られており、アドボカシーと公正取引委員会は言っておりますけれども、その社会的な影響はすごくあると思います。そういう意味での意義は、先生がおっしゃるように、非常にあると思っております。ただ、本日の私の報告で申し上げたいことは、その方面だけではなく、緊張関係も視野に入れないと全体的な消費者保護と競争政策との接合がうまくいかないのではないかということでございます。
後のほうのご質問ですけれども、ここでいう利益衡量とは、競争が制限される市場状況があるけれども、消費者保護のような一定の正当化理由がある、個人情報保護を行うために、少し排除効果が生じても仕方がないのではないか、というような問題なのですけれども、その場合に、同じ需要者だったら、この人たちは不利益も少しあるかもしれないけれども、こういう利益もあるのだから、というように利益衡量をしてもいいのだけれども、違う人たちの間でということになると、一方の人たちが不利益を受ける、他方の人たちは利益を受けるという状況をどう比較すればよいのか。特に不利益を受けるほうの人たちに対する正当化ですね。不利益を受けるだけで、利益があればいいのですけれども、ない。環境の場合などは、全員に利益があるからいい、という議論があったりするのですけれども、不利益しかない需要者群を正当化することは、独禁法の利益衡量という範囲内では難しいのではないかという議論が根強く競争法分野ではある、したがって、市場をまたぐ場合には衡量は難しいですねという議論になっています。そういう一定の弊害を一部の需要者群に負担してもらうためには、立法で、議会で話し合って民主的に決定しないと難しいのではないかという議論が、特にアメリカなどでは強いということでございます。
お答えになっているか分かりませんけれども。
○二之宮委員 分かりました。ありがとうございました。私が誤解していたのが少し整理されたかと思いました。要は、弊害を受けるところに対して締め出すということであれば、一定程度、その正当化根拠をもってルールを作らないと、というところと、締め出される側だろうと、その中で競争する側だろうと、一定ラインの消費者保護で、横串でルールを作ってしまうと、どの市場であってもそれは維持されなければいけないので、そこを立法でやることはまた別の話という理解をしたらよろしいのでしょうか。
○滝澤教授 消費者保護ルールみたいなものがきちんとあれば、それは正当化の根拠としては非常に強い後押しになりますので、問題がないのですけれども、往々にして、ルールがないとか、ルールが一般的過ぎて特定の場合にどのくらいの根拠になるのかが問題になりうる、そこで衡量が問題になるものと理解しております。
○沖野座長 二之宮委員は、もう少し続きがあると思いますし、今の点については、さらにお伺いしたいこともあり、消費者保護の一般的なルールがあるという、そのルール自体の当否というか、それ自体の見直しのような話もあると思ったのですけれども、石井委員、大澤委員から、御発言の希望があり、かつ、石井委員の時間が限られておりますので、石井委員から、まず、御発言をいただきたいと思います。
石井委員、お願いします。
○石井委員 大変分かりやすい御説明をありがとうございました。
私からは、2点ほど、お伺いできればと思います。
まず、1点目は、消費者に対する優越的濫用に関する公正取引委員会の文書のところ、17ページの辺りですね。この部分は競争が働かなくなっている市場状況における問題だという御説明があったかと思いますが、その場合に、消費者保護や個人情報保護を図ったところで、市場の適正な環境は影響を受けるものではないという考え方になるのでしょうか。基本的な質問かもしれませんが、競争環境との関係で、「消費者」、これは個人情報保護を受ける主体だと思うのですが、個人が保護を受けることが、適正な競争環境を回復させることに寄与するわけではないのかどうかを、お聞きできればと思いました。
2点目は、監督機関双方の協調・連携についてお聞きできればと思いました。後半の御説明のうち、Sandboxのところで逆ベクトルのお話があったかと思います。他にも、データポータビリティの議論をするときに、特定の事業者が個人情報保護やセキュリティを理由に情報の提供を拒むケースがあり得るかと思います。逆ベクトルが働くケースは他にもあり得るのかもしれませんが、そうしたときに、個人情報保護委員会や公正取引委員会といった監督機関相互の協調関係をどのように高めていったらいいのか、協力関係の在り方をどのように考えていくのが適切かということについて、お聞きできればと思います。
すみません。もしできれば、もう一点だけなのですけれども、個人情報保護を正当化するときに、正当化の根拠として、競争法の観点から捉えたときに、個別の立法化が必要だという考え方があり得るかということについても、お聞きできればと思います。
すみません、3点になってしまいましたけれども、お願いします。
○滝澤教授 貴重な御質問をいただきまして、ありがとうございます。
まず、第1点目ですけれども、それは正に石井委員の御指摘のとおりでして、基本的に直接にはないということです。つまり、独禁法は、独占という状態自体に、手を入れて、突っ込んで、何かをするということは原則としてないわけです。なぜなら、一生懸命に競争をしていい商品だからこそ選ばれて独占になっているような場合もあるわけで、その状態に介入するということはないのだけれども、もちろんこの場合は優越的地位ということでもう少し緩く判断されるのですけれども、独占的もしくはそれに類する地位を利用して相手方に対して何らかの搾取を行う行為は規制しましょうと、ここでは、搾取行為を規制しているにすぎないのです。搾取行為は規制されますけれども、優越的地位自体は残っている状態なので、その意味では、競争は促進されない。もちろん、搾取行為がなくなることで搾取されていた人が自由に事業活動を行えるようになるとか、そのような間接的な効果はいろいろとあると思いますけれども、直接にはないということです。
次に、監督官庁同士の協調ということで、これは非常に鋭い御質問で、私もどう考えればいいのかなと考えていたところですけれども、正にこのような場合こそ協調が必要だと思うところでして、実際、Google Privacy Sandbox Proposalsの場合には、GDPRの問題もありますので、先に個人情報保護の観点を整備してから競争環境についてCMAが介入したのですけれども、最後までCMAとICOが一緒になって、何年間かの確約期間だったと思いますけれども、チェックするという体制が取られていました。緊張関係がある場合のように、両方の政策が正面から問題になる場面こそ協調する必要があるという感想を持っております。つまり、同じベクトルを向いている場合は、どれか1つがやっても一応政策は達成されるのですけれども、違っている場合こそ両方の考え方を出し合ってすり合わせる必要があると考えた次第です。
正当化理由のところでの個別ルール化について、ルール化されたほうが正当化理由として勘案されやすいかという点は、はっきりとそうであると思います。少なくとも競争法の世界ではそのように勘案されやすいです。実際上どこまでルール化が現実的なのかという問題はあるとは思いますが。私は割と利益衡量を柔軟にやっていいのではないかと思っていますけれども、競争法の大勢はかなり保守的だとみています。消費者保護といっても違う市場における利益だということで簡単に衡量できない可能性もあると思いますので、重要なところはルール化したほうが勘案される余地はあります。
○石井委員 ありがとうございました。
大変明確に御回答いただき、よく分かりました。
先に質問させていただきまして、大澤委員、申し訳ございませんでした。
○沖野座長 ありがとうございました。
それでは、今、言及もありましたけれども、大澤委員から、御希望がありますので、お願いします。
○大澤委員 私は、オブザーバーですので、最後にと思っておりました。貴重なお時間をいただき、ありがとうございました。
また、滝澤先生、非常に分かりやすい報告をいただき、ありがとうございます。
私は、消費者法が専門で、独禁法・競争法は全くの素人なのですが、ヨーロッパでは、言うまでもないですけれども、競争法と消費者法の関係は非常に密ですので、その辺りに関心を持って勉強しております。
今日の報告は、全て非常に分かりやすく、勉強になったのですが、特に興味があったことが消費者の位置付けで、スライドでいいますと、4ページ、5ページのところに関して、2点、質問をさせていただきたいと思っております。背景としては、私は、今、消費者法のパラダイムシフトという中で、どういう消費者を想定するか、そこでは、いわゆる脆弱性、括弧つきの脆弱性ももちろん想定されますが、いろいろな消費者を想定した消費者法づくりに関心を持っています。それに関して、2点、質問をさせていただきたいのです。
1点目ですけれども、スライド5で、基本的に、独禁法では、要は、消費者は、弱いので、保護するという、カテゴリカルな思考ではないということは、なるほど、そうだろうなと思いました。それに関係して、5ページで、これが1点目の質問になりますが、その特性を持つ需要者群を抽出できる可能性がある場合ということで、2点、示されていまして、独禁法と景表法が挙がっております。そのうちの景表法に興味を持っていますが、景表法に関しては、2009年に消費者庁に移管されたときに、目的規定が変更されたと伺っております。消費者の決定、自由な決定ができるか、適正な判断ができるかといった文言に変わったと思うのですが、そういった景表法の今までの競争、公正競争というよりは、消費者の選択の機会を、要は、きちんと適正にすることが目的規制に変わっていることの意義に前から関心を持っています。その目的の変更というか、景表法が正にそういった広告等を見て消費者が適正な決定できるかどうかというところに関心・重きを置いているということが、例えば、特定の需要者群を抽出して優良誤認の判断基準とすることに、割とポジティブに働くというか、そういう消費者の意思決定等に配慮している法律であるという点で、独禁法よりも、特にそういう優良誤認の判断基準にするときに、特定の需要者群を抽出しやすいということになるのかどうかということが、1点目の質問です。
2点目は、今のことに関連するのですが、ここでの需要者の特性に応じた市場画定ということで、独禁法では、例として挙がっているものが、一般のブロードバンドサービスの需要者ではなく、こういうものを選好する需要者を起点とした市場画定があり得るということで、景表法のところでは、有料老人ホームに関する不当表示を挙げていらっしゃいまして、私の聞き漏らしかもしれないのですが、ここでの「脆弱性」という言葉の意味を少し確認させていただきたいと思っています。「脆弱性」にも、いろいろな意味が恐らくはあって、ある特定の属性を持っていることから、例えば、若者なので取引経験に乏しいとか、高齢であるという場合には判断力の低下等々、いろいろなその人の属性から来るものと、そうではなくて、その状況から来る脆弱性、ある特定の状況に追い込まれているからこそ不合理な判断をしてしまうという、大体2つの脆弱性があると思います。有料老人ホームに関する不当表示が例として挙がっていることから、例えば、ここで有料老人ホームを探している人はどういう人なのかというところになりますけれども、もちろん高齢者だからという人的な属性に基づくものもあるでしょうが、将来の住みかとかを探すという状況で、しかも、決して安いものではない、高額なものを探しているという状況、しかも生活の拠点になるようなところを探すような人であるという、そこからくる弱さといった、多様なバリエーションを含むものなのかということです。そうだとすると、独禁法で挙がっている特定のサービスを選好する需要者にもやや重なるような気がしているのですが、その私の理解が間違っているような気もするので、確認させていただきたいです。
よろしくお願いします。
○滝澤教授 ありがとうございました。
非常に鋭い御質問をいただいたと思っておりまして、正に大澤委員のおっしゃるとおりなのではないかと思うのですけれども、まず、独禁法の市場画定で需要者の特性に着目することと、景表法で一定の場面に応じて先ほど大澤委員がおっしゃった属性などに応じて特定の消費者群を抽出することと、基本的にはパラレルに考えられると思います。次に、有料老人ホームに関する不当表示の問題は、日本では少し古い事例なのですけれども、つい最近、イギリスのCMAが有料老人ホームに対してかなり大々的に介入した事例がございまして、そこでは属性と状況の両方を考慮して、この表示はこうした属性の人からは見にくかったとか、例えば、入居した後にかなり高額の追加的支払いを要求されるという条項が単に分かりにくいところに入っているだけでなく、老人のホーム入居後という状況を利用しているとか、私自身があまり需要者の特性の中身をきちんと書けていないということに大澤先生の御質問で気づいたのですけれども、消費者群を抽出する際には、どちらも、属性だけではなくて状況等も含めて、抽出する余地はあるように思いました。
景表法の場合のほうが独禁法よりも特定の消費者群を抽出しやすいかという点に関しましては、私は今すぐにはお答えしにくいです。なぜなら、独禁法も、そこで問題になる需要者の特性を、属性の場合、状況の場合も含め、かなり見ていると理解しています。景表法も同様ではないかと思っていますけれども、景表法については多種多様な事例を私自身がつぶさに検討できていないので、今はお答えを留保させていただきたいということです。まとめますと、属性や状況などに応じて抽出する余地は十分にあるのではないかと思います。
○大澤委員 こちらこそ、どうもありがとうございました。
○沖野座長 ありがとうございます。
加毛委員から御発言の希望がありますので、加毛委員から、お伺いしたいと思います。
○加毛委員 二之宮委員と石井委員の御質問に関連して、さらに滝澤先生のお考えを伺いたいのが、規制当局間の協調についてです。本日の御報告の重要なポイントの一つが、消費者保護にとって望ましいと考えられる施策が、別のところで問題を引き起こし、社会全体に望ましくない帰結をもたらし、かえって消費者にとっても不利益となる可能性があるので、その点についてもきちんと検討しなければならないという御指摘であったと思います。そのことを前提として、我が国では、公正取引委員会の保守的性格との関係で、消費者保護・個人情報保護に関する法的ルールを明確化したほうが良いとおっしゃったことが気になりました。アメリカやヨーロッパと比較して、日本の公正取引委員会の在り方について改善していくべきであるというお考えをお持ちなのでしょうか。さらに言えば、法的ルールを明確にすれば公正取引委員会が従ってくれるとしても、その法的ルールが競争政策を適切に考慮することなく策定された望ましくないものである可能性はあるような気がします。そのような場合には、公正取引委員会が法的ルールの形成に異議を申し立てるなど積極的にかかわっていくことが望ましいように思われるのですが、そのような役割は公正取引委員会に期待できないのでしょうか。この辺りは、今後、消費者庁・消費者委員会が立法作業を進めていく上で重要であると思われますので、公正取引委員会の在り方に関する先生のお考えを伺えればと思いました。
○滝澤教授 貴重な御指摘をありがとうございます。
公正取引委員会は、アメリカやEUの競争当局が強過ぎるのかもしれないですけれども、アメリカやEUに比べるとやや存在感が小さいところもありまして、また組織体制からしても慎重なタイプの競争当局だろうと思います。例えば、アメリカですと、政権が変わるとがらがらと政策もスタッフも変わって、チャレンジングな規制政策をとりますし、EUもトップの人が旗を振るとかなり積極的に進むのですけれども、日本の競争当局は、安定的であるけれども、チャレンジしにくい状況というのは、いろいろな要素があって、そうせざるを得ない面もあると思いますけれども、あるのではないか。そうすると、先ほども申しましたように、理論的にもチャレンジングな領域、市場をまたいで利益衡量をするというようなことを、世界でもまだ規制の方向性がはっきりとしないのに、日本で先駆けて積極的にそういう規制政策を展開していくということにやや足踏みすることは、致し方のないことかなと思っています。したがって、消費者保護のここのところはきちんと衡量に入れてほしいということは、ルール化したら公正取引委員会がそれを衡量しやすいということは念頭に置いておくとよいように感じます。そのルールがよくなかったらどうするのか、確かに問題はあると思うのですけれども、何もないと衡量自体をやりにくい状況にあるということは指摘できるのではないかなと。
お答えになっているか分かりませんけれども、以上です。
○加毛委員 大変ありがとうございます。
それぞれ各国の規制当局の実情なども踏まえた上で、どのようなルール形成が望ましいのかといった視点は非常に重要だと思いますので、大変勉強になりました。
○沖野座長 ありがとうございました。
他にも御意見等はあるかとは思うのですが、時間との関係もございますので、一旦、議事の1点目はここで区切りとさせていただきたいと思います。
滝澤先生におかれましては、大変貴重な御報告をいただきまして、ありがとうございました。この後、後半に進みますけれども、関連する事項や議論も出てこようかと思いますので、差し支えなければ、引き続き御参加いただけますと幸いでございます。
《2.②山本龍彦委員プレゼンテーション》
○沖野座長 次に、議事の2点目といたしまして、委員からのプレゼンテーションをお願いしたいと思います。
山本委員から御発表をいただくことになりますけれども、本専門調査会の前半の検討テーマの一つに、金銭の支払いに限られない消費者取引の拡大への対応の在り方があります。また、デジタル取引について、リアル取引と異なる規律が必要となる場面や規律が整備されていない場面を整理するに当たっても、消費者が、情報、時間、関心・アテンションを提供する取引について、議論を深めることが重要と考えられます。本日は、その検討に当たりまして、憲法を御専門とされ、プライバシーの問題やAI等のテクノロジーが個人の意思決定に与える影響等についても御研究をされております山本委員から、御発表をいただきまして、議論を深めていただければと思います。山本委員にも15分から20分程度で御報告をお願いしておりまして、その後、質疑応答、意見交換をさせていただく予定です。
それでは、山本委員、お願いいたします。
○山本龍彦委員 山本でございます。本日は、どうぞよろしくお願いいたします。
非常に時間が限られておりますので、早速、本論に行きたいと思います。
私は、専門が憲法学ですので、今の滝澤先生の御議論のように精緻なものではなくて、本当にざっくりと考え方を示すものにとどまることを御承知おきいただければと思います。
次のスライドに行っていただいて、現状、我々が多くの時間を過ごしている情報空間は、いわゆるプラットフォーム事業者、例えば、Digital Services ActでいうところのVery large online platformsと呼ばれるようなプラットフォームが、ゲートキーパーになっているという空間なのではないか。あらゆるメディア、それは、User Generated Contentsと呼ばれるような、一般ユーザーが投稿するコンテンツも含むわけですけれども、そういったあらゆるコンテンツ、情報が、基本的にはプラットフォームの上で、ユーザーのアテンションをめぐって競争している状況なのではないかと思います。今、User Generated Contentsと申し上げましたけれども、このユーザーとは、近年では、インプレッション数、表示数を稼ぐと、広告収入が得られるということになるので、単純なユーザーなのか、それとも、事業者的な、お金を得る、経済的な利益を得るということで投稿しているということも出てきているということでございます。こういった言論空間ないし情報空間を統治するようになったプラットフォームのビジネスモデルとは何か。重要な、我々が今多くの時間を過ごす情報空間は、このプラットフォームのビジネスモデルにかなり左右されるというところがあるのではないか。
次のスライドに行っていただいて、それがアテンション・エコノミーと呼ばれるようなビジネスモデルなのではないかと言われているわけです。アテンション・エコノミーは、先生方も御承知のとおりで、ネットの普及による情報過多あるいは情報過剰な世界では、人々が払えるアテンションあるいは消費時間が供給される情報量に対して圧倒的に希少になるために、これが交換財として経済的な価値を持って取引されるというビジネスモデルになります。アメリカの経済学者であるグレン・ワイルは、こういったアテンション・エコノミーを、批判するような文脈でではございますけれども、セイレーン・サーバーと呼んでいるわけです。
次のスライドをお願いしたいのですけれども、これはホメーロスの叙事詩「オデュッセイア」に出てくる一場面を絵に描いたものです。この船の周りを飛んでいるのはセイレーンという魔女でして、非常に美しい魅惑的な歌声で海を航海している者を引きつけて、いろいろなものを搾取する、奪っていく、場合によっては、その航海する者を食べてしまうという恐ろしい魔女なわけですけれども、英雄であるオデュッセウスは、このセイレーンの歌声にやはり自らも誘惑されてしまうということを事前に理解したので、自らの身をこの船のマストに縛りつけたという、有名な一場面ということになるわけです。グレン・ワイルは、今、我々は、このオデュッセウスのように、魅惑的かつ刺激的なコンテンツに取り囲まれていて、常にアテンションを奪われている、セイレーンが周りをいっぱい飛んでいるような状態なのではないかと言っているということでございます。
次のスライドをお願いします。このアテンション・エコノミーの歴史は、もちろん今に始まったことではなくて、例えば、日本であれば、民放といわれるようなテレビ局は視聴率というアテンションを広告主に売るような形でビジネスをやっているということになるわけです。今に始まったことではないということなのですけれども、民放を含む放送事業者は、放送法によって一定の規律を受けている、つまり、視聴率至上主義にはならないように、政治的公平原則や真実を曲げないで伝えるという放送法第4条の規定が存在しているので、とにかくアテンションを得ればよいという方向に全振りすることはできない。他方で、今のプラットフォーム事業者は、そういった規律を受けておりませんので、現状においては、アテンション・エコノミーに、全振りと言っていいかどうかは分かりませんけれども、そこに一定の法的な規律が特に存在しているわけではないということでございます。Facebook、Googleなどは、このモデルにほぼ排他的に依存していると指摘されているわけです。このティム・ウーは、アメリカの競争法・情報法・憲法のコロンビア大学の教員で、今のFTCにも影響力を持っている人物です。アテンション・エコノミーという考え方は、真ん中に書いてあるように、ノーベル経済学賞を受賞したハーバード・サイモンがこういった考え方を既に1960年代後半に予言して、1990年代の後半にもマイケル・ゴールドバーグがこのようなことでアテンション・エコノミーという言葉を使っておりました。アテンションとは、ゴールドバーグによれば未来の通貨であり、彼は貨幣は時代遅れになるという非常に大胆な予測を主張していたわけですけれども、こういったアテンション・エコノミーという言葉を法学の世界で復活させたのは恐らくティム・ウーであろうと。彼は、このアテンション・エコノミーと競争法あるいはアテンション・エコノミーと言論の自由との関係について、精力的に議論をしている、論文を書いている、本を書いているということになろうかと思います。このアテンション・エコノミーは、近年では国連も文書を出しておるとおりで、世界的に注目を集めている、正にアテンションを集めている考え方なのかなと思います。
次のスライドをお願いいたします。このアテンション・エコノミーによってアテンション市場が拡大しているわけですけれども、これによって我々がどういう変化を受けているのかということです。ポエム的なものではありますが、ティム・ウーは、現在では、情報の受け手の全ての時間が、かつては非商業的な時間であった友人や家族と過ごす時間さえも激しい競争の的になっているのだと、我々の毎時間、実際には毎秒が、それを支配しようという商業的アクターの標的になっていると。メーガン・レイ、ジャーナリストですけれども、この方は、例えば、パートナーとつながったり、本を読んだり、終わらせようと思っていた他のことをしたりするのに使えたはずの時間を失っているのだと。ただ、それは、自分のせいではなくて、それこそが正にアテンション・エコノミーなのだと言っていて、このアテンションあるいは時間が実は現代社会においては他の何よりも貴重な資源であるという言い方をしているわけです。ここまで言えるかどうかは、慎重に議論するというか、疑ってかかったほうがよいと思いますが、現実において、貨幣を代替するものにはなっていませんけれども、交換財としてマーケットにおいて極めて重要な意味を持っているということは言えるのではないかと思います。
次のスライドをお願いいたします。このアテンション・エコノミーの世界においては、プラットフォーム事業者やそこに巻き込まれている、そこでビジネスをしている多くの事業者は、可能な限り、多くの時間、多くのアテンションを得ようということで、個人データや利用者データ等を使ってあるいはAIを使って、その利用者が最も強く反応しクリックするもの、反射するものを予測し、ターゲティングをしたり、リコメンドをしたりしている。そうなってきますと、アテンション市場においては、「市場」という言葉は経済法の先生方の前で簡単に使う言葉ではありませんけれども、こういったアテンション市場においては、思想と思想や情報と情報とがその説得力や信頼性をめぐって競い合う「思想の自由市場」から、いかにそのユーザーないし消費者を刺激してその反応を得るかという「刺激の競争」へと変わってきている。先ほどのレイの言葉をまた引用しますと、我々はどうも1日平均7時間もネットに費やしているということが近年のデータのようですけれども、この結果から見ても、巨大テック企業がアルゴリズムをマスターした証拠なのではないか。別の言い方をすれば、非常にアディクティブな状況になっている、これはアルゴリズムをマスターした証拠だという言い方をされています。
次のスライドに行っていただいて、アテンション・エコノミーの課題に入っていきます。一つは、自律的な意思決定の動揺なのではないか。この自己決定論は、古くからそのフィクション性や虚構性が指摘されてきたところではありますけれども、いよいよフィクションとしても非常に揺らいできている状況にあるようにも思うわけです。こういった自律的・主体的な意思決定が、アテンション・エコノミーあるいはAIの力を背景としたアテンション・エコノミーによって脅かされている可能性があるということでございます。AIを使ったプロファイリングの広がりという点は、着目しなければいけないところかと思います。「脆弱性」という言葉ももしかしたらいろいろと議論があるところかもしれませんが、我々の脆弱性も、個人データ、利用者データ、プロファイリングという技術によって、非常に高精度に推測することが可能になっている。皆様も御存じのケンブリッジ・アナリティカ事件と呼ばれる事案において、ケンブリッジ・アナリティカ社がFacebookのデータを使って、例えば、神経症で極端に自意識過剰なタイプである、陰謀論に傾きやすい、衝動的怒りに流されるといったことを細かくプロファイリングして、いわゆる偽情報や陰謀論との接触頻度を高めるようなリコメンドをしていた、それによって投票行動が操作されたという指摘があるわけであります。実際にプロファイリングによって個々人の脆弱性が予測されるようになってきていることは非常に重要で、それをうまく利用してリコメンデーション等々をすれば、アテンションを奪うことができるようになるということが一つの考え方であろうかと思います。この辺は、先ほどのティム・ウーは、正に、奪う、奪われているという言葉を使って説明しているということでございます。
次のスライドをお願いいたします。これはティム・ウーの議論なのですが、ティム・ウーは、カーネマンのいわゆる二重過程理論そのものを使ってはおりませんが、近い考え方を示している。二重過程理論には心理学の世界でいろいろな批判もあるようですので、非常に大ざっぱな考え方だろうと思いますけれども、整理の仕方としては便宜的であろうということで、ここで紹介させていただくと、我々の思考モードには2つの思考モードがあって、我々人間は、非常にファストで直感的なシステム1という思考モード、論理的・内省的でスローな思考モードである熟慮的なシステム2という2つを使いながら、物事を考えているあるいは行動していると言われているわけです。
次のスライドをお願いします。近年のアテンション・エコノミーの下で、この認知科学の知見を駆使したUXあるいはUI、リコメンデーションは、システム1、非常にファストな思考モードに強く働きかけ、意思をある種介在させない形、つまり、考えさせない、思考をさせないような形で、ユーザーのアテンションを奪う傾向があるのだと指摘されているわけです。TikTokという有名なショート系動画のアプリがありますけれども、このTikTokは縦スクロール画面に利用者の嗜好に合った動画を次々とリコメンドをする。閲覧のためには、画面を指でスワイプして次の動画を出していくというUXを持っているわけですけれども、このUXはドーパミン誘発型のUXだと言われていて、非常にアディクティブな状況にユーザーを陥らせてしまうという指摘がなされてきているところでございます。私も、こういうショート系の動画を2~3分見ようかなと思って見ていたら、いつの間にか30分とか、場合によっては1時間ぐらいたっているということがあるわけです。私が単に弱いだけなのか、アテンションを見事に奪われているのかということはよく分かりませんが、そういった体験はもしかしたら先生方もされているかもしれないということでございます。
次のスライドをお願いします。ティム・ウーは、こういった状況について同意によらないアテンションの強奪だというかなり強い言葉で批判をしていて、かつて、アメリカの修正第1条との関係で出てきた囚われの聴衆、例えば、電車とか、閉鎖的な空間の中に閉じ込められて、聞きたくないものを強制的に聞かされる、他律的に情報を摂取させられている状況で、そこから逃れられないような人々のことを囚われの聴衆と呼んで議論をして、日本でもプライバシーの観点から議論されたことがありますが、こういったユーザーは今や囚われの聴衆になっているのではないかとも言っているところです。
こういう問題について、次はEUがどういう対応をしているかということですけれども、まず、Digital Services Actの背景として、これはみずほリサーチ様の総務省提出資料からの引用なのですけれども、そもそもRecitalや前文等々でこの問題について触れられていると。例えば、1つ目のポチを見ていただければ、プラットフォーム事業者は、ユーザーの情報に基づいてプロファイルを作成し、パーソナライズされたコンテンツを提供している、こうしたリコメンドシステムはエンゲージメントの最大化が目的である云々と、アテンション・エコノミーのことを述べているわけです。次の赤字で書いたところを御覧いただくと、リコメンドシステムの具体的な手法や根拠については透明性が欠如している状況がある、ユーザーが無自覚のうちにセンセーショナル/虚偽/過激なコンテンツのラビットホールにはまることになりかねないという懸念も提示しているところであるわけです。このラビットホールとは底なし沼ということですけれども、要は、さっきのアディクティブな状況に陥ることを指摘しているわけでございます。
次のスライドをお願いします。こういった問題について、既に、欧州委員会は、DSAの手続を使って、エンフォースメントと申しますか、その上のところを見ていただくと、DSA違反の評価手続を開始すると今年の2月に発表しております。TikTokが過去に提出したリスク評価報告書の分析、及び、これは情報要求の手続ですけれども、欧州委員会のRFIに対する回答など、これまでに実施された予備調査に基づき正式な調査を行うというものでございます。ここでの調査の論点は、赤字で書いてあるとおり、アルゴリズムを含むTikTokのシステム設計に起因する、実際の又は予見され得る悪影響の観点からの依存症やいわゆる「ラビットホール効果」の誘発につながるシステマチックなリスクの評価と軽減に関するDSA義務の遵守状況についての調査であると。こういった評価は、人の身体的・精神的な福利に対する基本的権利の行使、Fundamental rights、児童の権利の尊重及び過激化のプロセスへの影響に対する潜在的なリスクに対抗するために必要になるのだということまで述べているわけです。もちろんこの調査結果はまだになりますけれども、先ほどのTikTokのUX/UIの問題性については、EUの当局も認識しているところではないかと思われます。
次のスライドをお願いします。これは、先ほどから述べているとおりです。
時間の関係上、次のスライドに行っていただいて、ここでは、アテンション・エコノミーからは若干遠くなるのかもしれませんけれども、いわゆるマインドハッキングみたいに言われる問題について、EUではどのように考えているのかと。ポイントになるのは、プロファイリング、ターゲティング、リコメンデーションになります。DSAは幾つかの条文を持っていて、御承知のとおりだろうと思いますが、第26条で、特別カテゴリー、いわゆるセンシティブデータを使って、プロファイリングに基づき、サービス受領者に広告を提示してはならない。第28条におきましては、オンラインプラットフォームのプロバイダーは、サービス受領者が未成年者であることを合理的な確実性を持って認識している場合には、そのサービス受領者の個人情報を使用して、プロファイリングに基づく広告をインターフェース上に提示してはならないと述べています。未成年に関するプロファイリングに基づくリコメンデーションの禁止です。Very large online platformsにつきましては、第38条のように、プロファイリングに基づかない、少なくとも一つのオプションを各リコメンダーシステムに提供しなければいけない。常にアテンションを奪うようなリコメンダーシステムから逃れられるような仕組みを要求しているということでございます。
次のスライドは、DMA、Digital Markets Actでございまして、正に競争法の話になるわけですけれども、ここでもプロファイリングについての規定があります。例えば、第15条を見ますと、このゲートキーパーとは、Google、Amazon、Apple、Microsoft、ByteDance、Metaですかね。そういったゲートキーパーのコアプラットフォームサービスなので、GoogleだったらYouTubeが含まれますし、ByteDanceであればTikTokが含まれますし、MetaではFacebookやInstagram等が含まれ、MicrosoftではLinkedInですけれども、こういったコアプラットフォームサービスに適用している又はそのコアプラットフォームサービス全体にわたって適用している消費者のプロファイリング技術について、独自に監査した説明を欧州委員会に提出しなければならない、欧州委員会は監査済みの説明を今度は欧州データ保護委員会に提出しなければならないということを言っています。これも非常に重要な条文なのですけれども、第46条の実施規定を見ると、欧州委員会は以下の適用に関する詳細な取り決めを定めた実施法を採択できるのだと言っていて、これは一部省略していますけれども、第15条、監査、監督の義務ですけれども、消費者のプロファイリングに使用される技術に関する監査説明の方法及び手順について、今後、実施法を採択していく、この実施法の草案を作成する場合にはマルチステークホルダーだということについても述べている点も注目されます。Digital Markets Actにおいても、特にゲートキーパーと呼ばれるような大規模プラットフォームにつきましては、プロファイリングについて一定の責任を持つことが要求されているということでございます。
次のスライドをお願いいたします。既に時間が10分たっておりますけれども、すみません。ここは省略させていただきます。
最後に、ダークパターンについて少しだけ触れたいと思います。ダークパターンは、Digital Services Actの中であるいはアメリカの幾つかの州法の中で、定義がされるようになってきている。DSAの第25条は、赤字ですけれども、このような定義をしてダークパターンを禁止している。ただ、ダークパターンについては、非常に境界設定が難しいということがございますので、この具体的な禁止対象についてはガイドラインを作ると規定されております。ダークパターンを禁止することを法律上で明言し、典型的、Typicalなダークパターンを、3つ、DSAでは挙げていて、しかし、その他についてはガイドラインに委ねるという考え方を取っているということでございます。
次のスライドをめくっていただいて、これは、三菱総研様が総務省に提出した資料、私が主査を務めている検討会の中で提出された資料ですけれども、プリンストン・シカゴの調査では、まず、調査結果②を見ていただくとわかりますように、調査結果に基づいて認知バイアスの観点からの分類を行っている。この点も非常に興味深いと思います。要するに、ダークパターンは我々人間の認知バイアスを利用しているのだということがこの報告書の中できれいに整理されているということでございます。ダークパターンとはこの認知バイアスを使っている、そういう対応関係を表にして表しているもので、ここではそこまでは引用できませんでしたけれども、この点は、1つ、脆弱性というところでも注目するところかと思います。
次のところを見ていただいて、EUのAI法案です。先日、3月に欧州議会で可決されたもので、ほぼこの文面は変わらないと思います。ここでも、脆弱性と申しますか、自律的な意思決定への介入についてかなり書かれているということは情報共有をさせていただくべきところかと思います。EUのAI法第5条では、禁止されるAIプラクティスを列挙しておりますけれども、その1.(a)を見ると、読みませんが、要するに、下線部にあるような、人の意識を超えたサブリミナル的な技法、又は意図的に操作的もしくは欺瞞的な技法を展開するAIシステムの禁止を言っているということであります。ここでいうサブリミナル的な技法や欺瞞的な技法とは何かということについては、今後のガイドライン等々を見ないと分からないところはありますが、1つ、考えられるのは、プロファイリングとダークパターンを掛け合わせたような仕組みなのかなと思います。要するに、各ユーザーの認知的な傾向をプロファイリングし、そこに合わせてUIを変化させるということです。EUでも、ここは非常に強く懸念されているところです。つまり、プロファイリングとダークパターンを掛け合わせる。今まではリコメンデーションという情報を個別に送るということだったのだけれども、個々のユーザーの性質に応じて情報環境自体を変えてしまうということです。こういうことについては、もしかすると、これは予想ですけれども、禁止されるAI実践の一つに含まれるのかもしれないということでございます。
次のスライドに行っていただいて、他にも、禁止されるAIの使われ方ということで、年齢、障害、又は特定の社会的もしくは経済的状況に起因する個人又は特定の集団のvulnerabilityを悪用、悪用はexploitなので、付け込んだ利用ということかもしれませんが、こういうAIシステムを禁止しているということ。
その次のスライドは、飛ばしたいと思います。スコアリングの話で、二重になってしまっているので、このページは飛ばします。
その後もいろいろと書いているのですけれども、要するに、これまでの消費者法と、ダークパターンやプロファイリングといった問題との間には、若干距離が出てきてしまっている。例えば、さっきのとらわれの聴衆論ではないですけれども、バーチャルに、ある意味で閉じ込められてしまう、あるいは、他律的にそういった情報を見せられる、ダークパターンによって身動きが取れなくなるといったことは、従来の消費者法ではあまり想定されてこなかったのかなということでございます。ここの上に書いてあるとおり、例えば、事業者の困惑惹起行為として挙げられているものは、フィジカルな閉じ込め、不退去及び退去妨害になるので、フィジカルに行動を邪魔することについては、もちろん規定されていたわけだけれども、どうも近年はバーチャルに身動きを取れなくさせるという問題が出てきているのではないか。しかも、それは認知バイアスをうまく使っているので、なかなか気づきにくいという問題がある。これも、従来の経済的な損失をカバーするような消費者法制と違った問題が出てきているようにも思うということでございます。
次からはずっと飛ばさせていただいて、最後のほうを見ていただきたいと思うのですけれども、最後から1つ前のスライドを提示していただけますと有り難いです。アテンション・エコノミーは、いろいろな影響が個人にもあるのではないかということです。これはまたレイの議論ですけれども、米印を見ていただくと、お金になれば、我々がアテンションを向けたコンテンツが我々の集合的な精神衛生に害を与えていようが、アテンション・エコノミーは気にしないのだと。悲劇的で恐ろしいコンテンツはよくクリックされるけれども、それが我々の目にする全てであれば、我々の世界観はますますネガティブになる。加えて、危険を感じる慢性的なストレスは健康にも有害である。さらに、救急車のサイレンを我々は無視できない。そこにどうしてもアテンションが行ってしまう。現在のアテンション・エコノミーではずっとその救急車のサイレンを浴びているようなもので、我々はそこから逃れることはなかなか難しくなっているのではないかと。さらに、タイム誌が最近出した文章の中では、人間の注意持続時間が非常に短くなっていると。金魚は集中力がないことで有名な生き物らしいですが、金魚の平均的な注意持続時間は9秒なのだけれども、マイクロソフト社の新しい研究によると、人間が8秒で集中力を失うようになってきていると。私は、マイクロソフト社の原文、一次資料に当たっておらず、このタイム誌の文章しか見ておりませんので、詳細は分からないのですけれども、人間に対するいろいろな影響があり得るのではないかと。
最後のスライドを見ていただいて、しかし、現状においては、欧米に比べて、日本は、プロファイリング天国とまで言えるかどうかは分かりませんが、マインドハッキング天国というか、この点に関しては法整備がなかなか進んでいない状況なのではないか。実被害、経済的・金銭的な損害は、消費者保護の文脈で特に重要視されるけれども、それ以前の自律的な意思決定等々への介入に関しては、日本の消費者法制は比較的寛容になっているのではないか。それにはいろいろな理由があるかもしれません。結果よければ全てよしではないですけれども、快楽が得られれば、ある種、そこは不問に付してもよいのではないかという傾向がもしかしたらあるかもしれないということでございます。最後に、人間の理性の限界は無視できない。認知バイアスが巧みに利用されているという状況で、それに対しては全ての人が脆弱性を抱えているということを認識すべきなのではないか。そうしますと、法制度をどのように組んでいくのか、それとナッジ的な技術とリテラシーの組合せをどのようにしていくのかが非常に重要ではないかと思います。「弱いが、強い個人」、オデュッセウスのように、脆弱であるということを深く認識し、先回り的にそれに対する対応ができるのかどうかということが非常に問われているように思います。
大変雑駁ですし、時間も大幅にオーバーしてしまって、大変申し訳ありませんけれども、私からのプレゼンは以上とさせていただきます。ありがとうございました。
○沖野座長 山本委員、ありがとうございました。
それでは、早速、質疑や意見交換をお願いしたいと思います。
河島委員、お願いします。
○河島委員 河島です。
スマホとソーシャルメディアとAIが合わさって、個々人を説得し習慣化する技術が非常に広まって、かつ、高度化しているということを、とても丁寧にまとめていただきまして、ありがとうございます。
質問は3点あります。1点目なのですが、EUのDSAの説明をしていただきましたけれども、日本の消費者法のパラダイムシフトを考える上で、これは取り入れるべきではないという点があるのかどうか、あるとしましたらその点をお教えいただければ幸いです。
2点目は、DSAの第38条のレコメンダーシステムについて書かれている内容に絡む質問です。前の滝澤先生の御発表でGoogleのPrivacy Sandboxのお話が出ました。あれはプロファイリングに該当するのかどうか、専門家の御知見をお聞かせいただければと思います。
3点目の質問は、最後のスライドに関係します。日本では包括的なAI法を成立させる機運が高まっておらず、ソフト・ローで問題はないという路線が堅持されていると思うのですけれども、その点について、山本委員の御見解があれば、お教えいただければと思います。
取りあえず、以上です。
○山本龍彦委員 ありがとうございます。
まだ、DSA等々のEUの広い意味でのAI法制と申しますか、そういうものについて研究が十分でないことと、まだエンフォースメントの状況、特にDSAについてはいよいよこれからというところもありますので、どういう形で参考にすべきかというところ、具体的な制度設計については、EUと日本で大分違う。DSAについては、エンフォースメントの仕組みが非常に多層的・多重的で、特にVery large online platformsに対しては欧州委員会が基本的に責任を持つ、かつ、各加盟国の規制当局と連携しながらエンフォースメントをしていくという、非常に手厚いというのですかね、重厚なエンフォースメント体制を組んでいますので、そういうリソースなりが、国家連合としてのEUと比べて、日本の場合には十分に作れない可能性がある。その点、いろいろとディスカウントをして考えていかなければいけない要素はあるのだろうと思っています。基本的な考え方なり方向性は、先生におっしゃっていただいたように、取り入れるべきではない理由はあまりないのではないかと感じているということが、1つ目です。
すみません。2点目を私は少し聞き逃してしまって十分に理解できなかったのですけれども、まず、3点目から答えますと、包括的なAI法制は、私は必要だと思っている立場です。法律が必要だろうと理解しています。
2点目、もう一度、すみません。時間がない中で、あれなのですけれども。
○河島委員 ありがとうございます。
スライド14に関係する質問で、「第38条 レコメンダーシステム」について「プロファイリングに基づかない少なくとも1つのオプションを」とありますけれども、例えば、GoogleのPrivacy Sandboxは、レコメンダーシステムとどのように連動するかはさておき、このプロファイリングに基づかないオプションに該当するのかどうかをお聞きしたいと思いました。
○山本龍彦委員 私がそこのSandboxの話をあまり理解できていないので、今、正確なあるいは責任を持ったお答えができないのですけれども、ここでの趣旨は、私なりの理解では、個人の属性等を踏まえてアテンションを得ることを専ら目的としたリコメンダーシステム、あるいは、その世界観から、逃れる、それは、ワンタッチで逃れると申しますか、幾つかのリンクを飛んでようやく別の世界を見られるということではなくて、非常に簡単に別の世界を見られることが重要だということだと思うのです。Privacy Sandboxがそのようなものになっているかどうかということが重要だろうと思います。それがそうなっていなければ、それは、ここでのリコメンダーシステム、代替的なリコメンダーシステムと考えるべきではないのではないかと私は思います。それと合っていれば、それはそう考えてもよいということになるのかなと思います。
このような答え方で大変恐縮ですけれども、すみません。
○河島委員 ありがとうございました。
勉強になりました。
○沖野座長 ありがとうございました。ほかはいかがでしょうか。
先に御発言の希望が出ていますので、大屋委員、小塚委員の順でお願いしたいと思います。
大屋委員、お願いいたします。
○大屋委員 大屋でございます。御報告をありがとうございました。
確認的というか、恐らくこの点の認識は共通だと思うのですけれども、念のため、お伺いするという趣旨です。同じところですが、プロファイリングに基づくターゲティングやリコメンデーションが自律的な意思決定をゆがめるリスクを持つという点については、これは異論なくあると思う一方、現代的な情報環境で、言わば情報の十分な吟味に基づいた自己決定はほぼ不可能になっている、つまり、典型的には、ネットフリックスでどういうプログラムが提供されているかをチェックしている間に一生が終わってしまうわけで、我々が自己決定を行うためにはもはやリコメンデーションが不可欠である、そのリコメンデーションを正確に精度よく行うためにはプロファイリングが不可欠であるという状況の中で、それをいかに健全に行うかということが課題であるという認識だと思うのですけれども、これは共通だという理解でよろしいですか。
○山本龍彦委員 そうです。全く共通です。
○大屋委員 それだけです。
○山本龍彦委員 ありがとうございます。
消費者委員会でも、今後、もう一つ、専門調査会が走っていくと聞いておりますけれども、そういうところで、技術による意思決定の支援を、正にプロファイリングをして、その人の認知レベルとかをむしろ分析して、どういう支援があり得るのかということをしていかなければいけないかもしれない。その意味で、正に、ターゲティング、リコメンデーション、プロファイリングそのものが悪ということではないということは、大屋先生とも共通の認識だということです。
○大屋委員 ありがとうございます。
○沖野座長 明瞭にしていただいて、ありがとうございました。
それでは、小塚委員、お願いします。
○小塚委員 学習院大学の小塚です。
2つ、質問がありまして、かつ、2点目は競争法に関係するということで、お話しいただいた滝澤先生の御意見も、もし座長がお許しくださるならば、伺いたいということです。
第1点目は、山本委員が早口で飛ばされた部分なのですが、スライド23です。最近の新しい消費者問題は、消費者自身がむしろ問題状況にあることを自覚できないという状況になっている。そのことに対して既存の消費者団体が対応できているかという問題提起をしておられます。これは私も非常に問題意識を持っていて、おっしゃることとぴったりとは一致しないかもしれませんが、例えば、昨年、総務省でメタバースに関する報告書が出たときも、日本の国内消費者団体からの意見提出はなかったと私は記憶しているのです。しかし、海外で話を聞くと、メタバースの一番の問題は子供をどう守るかということだと、各国、ヨーロッパの人たちは非常に強くおっしゃる。それぐらい、落差があるのです。そこで、第1の質問は、日本の消費者、現在の消費者団体に何が欠けているのか、どういうことをしていかなければこういう問題に対処していくことができないとお考えかという、非常に具体的な質問でございます。
2つ目は、逆に、抽象的な話なのですが、今日の前半でも競争法が出ていて、これもあまり消費者団体の方は賛成してくださらないときもあるのですが、競争法は非常に消費者利益を考える法律だと私は思っています。結局、広く自由な競争を確保することによって、例えば、安い価格の事業者あるいはよいサービスの事業者や新しいサービスの事業者が出てくるというところに消費者のメリットがあるという意味で、消費者利益の法律だと思っていたのですが、このデータ、とりわけアテンションが問題になってくるアテンション・エコノミーの中で、そういう今言ったような安いサービスあるいは商品や新しいサービスと同じような、「何々なデータ、アテンションの使われ方」といった消費者から見て、こういうことが実現されれば望ましいというものがありますでしょうか、表現できますでしょうかということが質問です。
ついでに、滝澤先生にお聞きしたいのは、競争法と消費者法が狭い意味ではベクトルがずれることもあるというお話をいただきましたが、自由な競争を推進することでむしろそういうアテンションやデータの在り方が改善されていくということについて、滝澤先生は、楽観的に見ておられるのか、そこはむしろ難しいと見ておられるのか、その辺りを教えていただきたいということです。
以上でございます。
○沖野座長 ありがとうございます。
まず、2点について、山本委員から、お願いしたいと思います。
○山本龍彦委員 2点、御質問いただいて、今、1点目の御質問への回答を考えていて、2点目は、またさっきと同じで、最近私の頭が回っていないのかもしれませんけれども、もう一度、後でお願いできればいいのですが、1点目については、小塚委員と、そういう意味では、同じ認識でして、特にメタバースについては、場合によっては、いわゆる生体情報の取得もできるようになる。そうなると、さらに認知的な領域の分析が可能になっていく、そういう意味では、アテンション・エコノミーで生じてきているような課題が加速度的に生じるということはあるのだろうと。そういう意味では、特に子供の保護が重要になるということもそのとおりだと思いますし、場合によっては、子供だけではなくて、成人に対する問題も考えなければいけないということはあると思います。消費者団体については、私も、十分なフィールドワークと申しますか、そういう調査をしているわけではありませんので、今後、いろいろと消費者団体の方々ともこの消費者委員会を通じて意見交換をして理解を深めていくことが必要だと、まず、思っております。他方で、非常に感覚的に申しますと、まず、リソースが不足してきているのではないかと。例えば、実害が生じた後の事後的な対応で手いっぱいになってしまっているように思います。そうすると、実害を引き起こすもう少し前の段階で自律的な意思決定がゆがむ、ダークパターンのようなことがあるということについてまで対応する余裕がなくなってきているように思います。他方で、実害を感じにくいあるいは経済的な損失までいかない、アテンションを奪われるみたいな問題は、消費者本人がなかなか気づきにくいので、むしろ消費者団体がモニタリングをしっかりとしていくことも必要です。必要でありつつもリソースがないという問題状況が拡大している、そのギャップが広がっているような状況を感じています。そういうことで、これはたしかパラダイム専門調査会の前の消費者庁の研究会でも議論があったと思いますけれども、EUとかの消費者団体に対するエンパワメントを本当に真剣に考えていかなければいけないと感じております。
2点目ですけれども、もう一度、お願いできますか。大変申し訳ないです。
○小塚委員 すみません。私の説明の仕方が悪いのです。
従来であれば、より安くよりよいサービスあるいは新しいサービスが、一つの消費者利益の形として見えていたと思います。アテンションやデータについて同じように表現すると、どのようになるのでしょうかということです。
○山本龍彦委員 ありがとうございます。
私は、従来のconsumer welfareみたいな消費者厚生の議論の考え方を少し変えていかなくてはいけないのではないかと思っています。この辺は、例えば、憲法学の神戸大の木下先生とかも主権者厚生という言い方をして、あるいは、シカゴの研究所でしたか、すみません、名前を失念してしまいましたけれども、citizen welfareという言葉を消費者厚生に代えて使ってきている。これはネオブランダイス学派の影響が非常に強いのだろうと思います。リナ・カーンやティム・ウー、あの辺の考え方です。そういう意味では、消費者の快楽というか、あるいは、金銭とか、そういうものでない価値、民主主義とか、自己決定とか、そういうことを競争にどのように織り込んでいくのかということが問われていて、これは専門外ですのであれですけれども、競争法の目的と言ってしまうと大変お叱りを受けるかもしれませんけれども、そういうことを少し考えていかないといけないのかなということが、憲法学から見ている感想ということになります。
○沖野座長 滝澤先生、②にも関連してきたわけなのですが、先ほどのGoogleのSandboxについては、視点を言っていただいたので、特に追加は必要ないかと思いますが、もし何か追加して言っていただくことがあれば、併せてお願いします。
○滝澤教授 ありがとうございます。
非常に難しい問題を投げかけていただいたと思っておりますけれども、まず、競争法の場合ですと、価格は分かりやすいのですけれども、品質も非常に重要な要素で、価格、品質、その他の様々な条件を見て競争していくということなので、はっきりと安い価格と分かりにくくなりましたけれども、品質の競争はあるので、安全性もあるかもしれないけれども、そういうことで、品質のよい、自分に合ったお勧めが出てくるような広告が一応はあり得るのかなということです。
後半部分の御質問については、非常に難しいと同時に、最初に室岡委員にいただいた御質問をようやく今になって理解したと、頭の働きが遅かったなと思っているのですけれども、基本的には、今、競争法を見ていると、2つの大きな議論が対立していて、正に御質問はそれに関わっていると思っています。大きな意味で、競争が非常に働いていて、新しいデジタルサービスがどんどん出てきていて、それで我々は恩恵を受けているということがあるので、それをもっと評価すべきだということが、一方で、強い議論としてある。一方で、今御紹介いただいたようなティム・ウーの議論とか、イギリスだとアリエル・エズラチとか、こういったアテンション・エコノミーはそこで競争してもあまり需要者にメリットがないではないかというところが指摘されて、室岡委員の御指摘のような悪貨が良貨を駆逐するような場合もありますということですね。独禁法の場合ですと、それへの直接の処方箋はあまりないのですけれども、エズラチ先生などは、そういうトキシックコンペティションについては、コンペティション促進よりも規制にかじを切ったほうがいいのではないかという議論をされていて、EUなどはそっちのほうに移っているところはあると思うのです。私はどうなのかというと、その両者を見ながら揺れ動いているというところかと思っております。曖昧な答えで、申し訳ございません。
○沖野座長 ありがとうございました。
その他の方から、さらに御発言や御質問などはありますでしょうか。
野村委員、二之宮委員の順で、お願いします。
野村委員、お願いします。
○野村委員 いろいろと詳しいお話をいただきまして、ありがとうございました。
私は、法律の専門家ではない中で、企業で働いておりますので、企業の立場では、技術の発達は本当にすばらしくて、ターゲティングの広告でうまくマーケティングができて、すごく恩恵を受けています。AIで仕事を効率化することが当たり前の時代になってきたときに、先ほどのお話の中で、子供がずっとTikTokとかを見て、その辺が大変ですよというお話があって、確かに本当にそういうことがたくさんある中で、技術がどんどん発達していって事業主とかはどんどん活用している時代になってきている中でも子供は守らなければいけないというときに、規制のかけ方とか、先ほども少し手前でかけないと間に合わないみたいなお話もあったと思うのですけれども、そういった想像するだけで後手後手に回りそうな規制を先手でやっていくのはすごく難しことだと思います、いい例もしくはいい視点はどこにあるのか、何かお考えがあったら教えていただけたらと思いました。
○沖野座長 ありがとうございます。
山本委員、いかがでしょうか。
○山本龍彦委員 ありがとうございます。
いい視点はどういうことがあり得るのかということだと思うのですけれども、私は、個人データなり利用者情報の観点で、子供に対するプロファイリングなのか、あるいは、プロファイリングに基づくリコメンデーションなのかということについては、基本的に同意や本人の意思決定を個人情報あるいは利用者データの文脈でも重視すべきという立場ではあるのですけれども、子供の場合にはなかなかそういった自己決定が難しいという側面もあろうかと思います。そういう意味では、パターナリスティックに規律しなければいけない対象でもあるのかなと思っています。先ほどのDSAのような考え方が、1つ、参考にはなるのかなと思っているところでございます。また、アメリカのFTCの欺瞞的なダークパターンの中で、こういうことが言われているのです。子供が知っていて信頼しているキャラクターを使ってある選択をするように圧力をかけること、例として、有名な漫画のキャラクターを使って子供にアプリ内課金をさせることはアメリカのFTCでは欺瞞的な行為だとされているので、こういった子供の好奇心に付け込んでいくような形もある種のダークパターンとして考えていくことはあり得るかもしれないと思いました。
以上です。
○沖野座長 ありがとうございます。
二之宮委員、お願いします。
○二之宮委員 二之宮です。御説明をありがとうございました。
実は今の野村委員と同じようなことを私もお聞きしたいと思っていました。同じ質問の言い方を変えただけのものになるかも分かりませんが、ここ何回かヒアリングで御意見を聞いておりまして、例えば、石井委員から御説明いただいたときに、個人情報の問題やデータの問題を収集する段階で個人情報保護法の問題があり、それが分析・評価されていくと消費者問題が加わり、利活用する段階では競争法の問題も入ってくる。今日のお話を聞いていて、例えば、個人情報やデータの問題であれば、それをどう取り扱うのかという一つのくくりができるのかなと思いますが、今日の先生のお話、アテンション・エコノミーは、その土台の部分にある問題ですから、全ての出発点で、ここをどう考えるのかということを整理しておかないと、その後に積み上げても全部が抜け落ちてしまうのではないかと思いました。例えば、DSA法であれば、行政規制ですから、行政当局が入っていって、ある程度、安全な環境を作る、整備するところまではできるのでしょうが、プラットフォームの上で、そこでアテンションを強奪されているだけではなくて、同じように、広告がついて回るわけですから、クリックすることによって、物を買ったり、サービスの提供を受けたりという取引のところまで延長していくと、民事効をどうつなげていくのかということが後半の議論の対象になるのだと思います。意識や意思の過程を破壊されてしまっていると、取引があり、売ります、買います、幾ら払いますという段階で、意思表示が構築されるわけではなくて、瞬時でやっているわけですから、意思表示理論が通用しなくなる。そうなると、民事効をどのように組み立てていけばいいのかを考えるときに、先ほどの質問を聞いて、包括的な問題をパターナリスティックにやるというところが一つの視点だと思って聞いておりました。ただ、小塚委員から消費者団体の問題が出たときに、私も同じことを思っていまして、もう一つの側面があると思いました。我々は被害の救済にどんどん追われて後追いになっていく。今までの民事ルールの作り方が、どうしても、どういう被害が発生しているのかという立法事実から入っていくのですが、今日のお話を聞いていると、まず、被害が顕在化しないというか、させないというか、させようがない、その段階で問題が生じてしまっているので、どういう実際の被害があるのですかとなっても、多分出てこない。被害数を集められない。そうすると、今までの手法だと、民事ルールが作れないということに結びついていく。その辺を、EUとか、最初に分かりやすく先生からも御紹介がありましたけれども、包括的なルールをあらかじめ作ってセットでやっていかないと駄目なのかなと思って聞いておりました。その辺について、こういうものがあるよ、ああいうものがあるよということが何かあれば、教えていただきたい。野村委員と同じところの質問になります。
よろしくお願いします。
○沖野座長 山本委員、お願いします。
○山本龍彦委員 ありがとうございます。
大変重要で、今後の消費者保護の在り方を考える上で重たい御質問かと思いました。その被害や損害という考え方をどのように見ていくのか。かつて、心理学が十分に発達する前は、いわゆる精神的損害も、心の弱いやつの単なる泣き言であるということで、損害として考えられなかった時代があった。しかし、心理学が発展していって、フィジカル、タンジブルでない損害も、損害として、いわゆる精神的苦痛、精神的損害として認めるようになってきた。そういう歴史を考えると、今、心理学というか、認知科学が発展していく中で、その損害や侵害をどのように考えていくのか。それは、単に、経済的、金銭的なものが奪われたということだけをもって損害や侵害と考えるのか、harmやinjuryという考え方だけなのか、特に消費者の保護の文脈では、専ら経済的な価値の損失が損害・侵害と考えられてきたと思うのですけれども、正にパラダイムシフトではないですけれども、そこをもう少し考えていく必要があるのではないかと思います。先ほどの自己決定権そのものの侵害、あるいは、アテンションを奪われること、このアテンションも、今は交換財として重要な意味を持ってきて、アテンションを得る時間についても、タイムパフォーマンス、タイパ的に、情報が非常に多くなる世界では、本当に我々の一生はあっという間になってくるわけですから、我々がそういう中でどこに自分のアテンションを振り分けるのか、時間を振り分けるのかということも、個人的に非常に重要な価値を持つことになるのではないか。それが奪われるということは、やはり損害なのではないか。消費者保護の文脈では、少なくとも被害・損害という風に考えるべきではないか、そういう観点で、もう少し再定義をしていき、消費者保護とは何かということについて考えていく必要があるのではないか、それによっていろいろな仕組みなり制度も動いていくところがあるのではないかと考えております。
雑駁な答えで恐縮ですけれども、そのように思っているということでございます。
○沖野座長 ありがとうございます。
二之宮委員。
○二之宮委員 ありがとうございました。
○沖野座長 ありがとうございました。
非常に示唆に富む貴重な御報告をいただきました。私も少し気になるところがありまして、自律的な意思決定を問題とするときに、今、オデュッセウスは生きられるのかということなのですけれども、どこまでのことがあれば、自律的と言えるのか。一方で、大屋委員が御指摘になった、もはや私たちはこのシステムを使わないで意思決定をすること自体が非常に難しくなっている、一定のリコメンデーション、さらにはプロファイリングを前提とした世界で進んでいくというときに、どこまでのことが健全な意思決定であって、どこまでであればそうでないのか。アディクションになっているということはそれ自体が損害だと思うのですけれども、どこまでであればそうなのか。あるいは、先ほどの他の世界に簡単に逃れられるようになっていればいいのだということだけれども、今、私たちもいろいろなところで同意を求められて同意をしているわけですけれども、実質的には先に進めないからどんどん同意しているということがあるので、結局、それを置いても、本当に適切なのかといったことも気にはなってはいるのです。今のような、自律的な意思決定の尊重ということ自体も、実現可能性という点でのフィクション性のようなものをどうクリアしたらいいのかといった点についての議論あるいは例などもあるのでしょうか。
○山本龍彦委員 ありがとうございます。
非常に難しいと思っていて、オデュッセウスの例を挙げたのは、さっきのオデュッセウスの船の絵を思い出していただくと、船をこいでいる人たちもいるのですよね。つまり、オデュッセウスは、英雄だったので、先回りして考え、縛りつけるわけですけれども、その犠牲になっている人もいる、つまり、船をこいでいる人たちもいるということになるわけです。要するに、ある種の自律的・主体的な意思決定の虚構性は頭に入れておかなければいけない話だろうと。どこまでの状況があると自律的と言い得るのかということになるわけですけれども、一つは、我に返る瞬間があるということが重要だと私は思っていて、その瞬間をどのように人為的に作出することができるのかということもあり得るのかなと思います。例えば、デフォルト設定のところで、面倒くさいのだけれども、現状は既にデフォルトが設定されていたりするわけですけれども、ここについて、アテンション・エコノミーそのものの問題をそこで伝えることは難しいとしても、リテラシーの問題も出てくるのでしょうけれども、そういった情報をきちんと提供して、最初の段階では、少なくとも自分で設定する。これはとても面倒くさいので、ビジネス的には非常に難しいのかもしれませんけれども、そういう瞬間を作って、事前に設定を変えることによって、正に自分をマストに絞りつけるという瞬間ですけれども、こういう瞬間を作っていく。この瞬間がないと、自律的・主体的にシステム2を使って考える時間がずっとないまま過ごしてしまうということなる。もちろんナッジの要素も出てくるかもしれません。それをどのようにシステムとして作っていけるのかどうかということが問われているのかなと思います。それでもなおもってシステム1で考えてしまうということもあるのかもしれませんけれども、逆に、ホワイトパターンではないですけれども、そういうホワイトパターンとはどういうものなのかということを考えて、そういった情報共有を消費者委員会等が中心になってやっていくということも考えられるのかなと思います。いろいろなことを申し上げましたけれども、いろいろな施策の組合せということになるのだろうと思います。
すみません。まとまりのない答えで、大変恐縮です。
○沖野座長 大変ありがとうございました。
もう時間が既に過ぎておりますが、滝澤先生から、さらに、山本報告に対して、何かございますか。なければこれで終了とさせていただきますけれども、よろしいでしょうか。
ありがとうございます。
山本委員におかれましては、本当に貴重な御報告をありがとうございました。間を飛ばしてしまったことが本当に残念ですけれども。
○山本龍彦委員 とんでもございません。
滝澤先生に、私からも御礼を申し上げたいと思います。本当に大変勉強になりましたし、今後もいろいろと教えていただければと思います。ありがとうございました。
○沖野座長 ありがとうございます。
滝澤先生、山本委員におかれましては、共に、非常に貴重な御報告、御知見をいただきまして、ありがとうございました。
委員の皆様におかれましても、活発な御議論をありがとうございました。
それでは、本日はこれでこの中身のほうは終了とさせていただきます。
《3.閉会》
○沖野座長 最後に、事務局から、事務連絡をお願いいたします。
○友行参事官 長時間にわたりまして御議論いただきまして、どうもありがとうございます。
次回の会合につきましては、確定次第、お知らせいたします。
以上です。
○沖野座長 ありがとうございました。
それでは、これで閉会とさせていただきます。
お忙しいところ、正にお時間を使っていただきまして、ありがとうございました。
(以上)