特定小売供給約款の変更認可申請に関する消費者委員会意見

2023年5月12日
消費者委員会

消費者委員会は、令和5年4月28日付で消費者庁より「特定小売供給約款の変更認可申請について」の付議を受けた。公共料金等専門調査会において、各電力会社からのヒアリングや、消費者団体との意見交換の実施を含め、令和5年2月~5月にかけて計7回の調査審議を行った結果、上記付議に対する専門調査会としての意見は以下のとおりである

第1 事業者の信頼性に関する事項について

 

事業者から、経済産業省に対し規制料金値上げ認可申請がなされたのは令和4年11月と令和5年1月である。主な値上げ要因は燃料価格の上昇と為替レートの円安傾向とのことであり、当時の様々な情勢に鑑みると消費者においてはやむを得ないとの受止めもあった可能性がある。

ところが、経済産業省において申請内容の審査が進む中、事業者のカルテルの疑い、顧客情報の不正閲覧、経済産業省の管理システムの不適切利用、景品表示法違反の疑いといった事業者の信頼性を揺るがす問題が次々に明らかになるに至った。

専門調査会ではこの点に関し以下のような意見が出された。

  • ①カルテルの疑い、顧客情報の不正閲覧、経済産業省の管理システムの不適切利用に関しては、電力自由化の根幹を揺るがす事態である。閲覧した情報を営業情報として用いたか否かを問わず閲覧しただけでも問題と考えるべきである。既に、事業者において再発防止に向けた対応を行ったとのことであるが、消費者の事業者に対する信頼性を壊す行為である。経済産業省は、これらの事案が事業者の料金値上げ申請に影響していないのか検証すべきである。
  • ②不正事案について、実態が明らかになり再発防止策が取りまとめられた段階で事業者は消費者に説明する必要がある。
  • ③送配電部門の中立性確保を徹底するため、令和2年4月に、送配電部門の発電・小売部門からの分社化(法的分離)が義務付けられるとともに、行為規制遵守のための体制整備(アクセス制限等)が義務付けられていた。それにも関わらず不正閲覧は生じており、送配電部門の中立性確保が現在の取り組みでは不十分であれば更に踏み込んだ検討を行うべきである。

なお、専門調査会委員からは、関係省庁による行政処分は行われたものの1、消費者への説明が十分に行われたとは言い難い中で、料金値上げを単純に認めてもよいのか、それ以前に料金値上げ認可のプロセスの一環として付議を受けそれに対する意見を述べることは、上記の事案を容認することになるのではないかとの意見も出された。

この点、専門調査会においても、事業者から一連の事案についてヒアリング2を実施するとともに、様々に議論を重ねた結果、①電気は生活必需財であり、日々安定的に使用できることが必要不可欠であること、②燃料価格の上昇等環境要因に起因する事業者の赤字を放置し続けてよいのか疑問があること、③規制料金の認可申請にかかる付議を受けた以上、査定内容について専門調査会として意見を述べることは本来の任務、義務であり、またこのタイミングで合わせてカルテル等一連の問題について意見表明すべきであるとの整理に至った。

専門調査会としては、事業者の信頼性に関する問題について未だ完結しているとは考えていない。一義的には、各電力会社が消費者に対し、今回の一連の顛末や再発防止策について説明すべきである。この点、専門調査会において実施した事業者からのヒアリングでは、消費者の理解を得るには説明が不十分と思われる事業者もあったことから、消費者への説明内容や情報提供の在り方について改善を求めたい。さらに、各社において原因究明や再発防止策が練られているところであるが、内部統制の体制・運用の強化はもとより、経営を監督する取締役会の機能強化および審議状況の積極的開示など、信頼回復に向けた最大限の取組みをすべきである。また、経済産業省は事業者に対し業務改善命令等を行ったところであるが、今回の情報漏洩等を受けて、再発防止の徹底を図るため、電力・ガス取引監視等委員会の監視機能の強化を図るとともに、必要に応じ電気事業法やガイドラインについて行為規制や罰則強化を含め更なる対応を検討すべきである。また、送配電部門の中立性確保は電力市場の自由化の観点から重要であり、所有権分離等を含め、更に厳格な対応を検討すべきである。

第2 電気料金制度全般に関して対応が求められる事項について

今般の電気規制料金値上げを巡る消費者の受止めは以下のとおりである。1点目に、自由料金を含めた電気料金の上昇幅の大きさに当惑している3。2点目に、電力市場や電気料金の仕組みの複雑さを改めて認識し困惑している。経済産業省は、規制料金値上げの認可申請のプロセスとして、公聴会、「国民の声」の募集を実施したが、過去に比べ公聴会の出席者は大きく減少している4。これは上記2点目にも起因しており、電気という生活必需財でありかつ非代替的なエネルギーにもかかわらず複雑な制度、料金体系の仕組みの前に、消費者は意見を述べつつも無力感を感じているとの指摘もあった。こうした前提を踏まえ、経済産業省は以下のとおり対応すべきである。

1 電力システム改革がもたらす影響の消費者への説明

経済産業省は、電力の安定供給の確保、電気料金の最大限抑制、需要家の選択肢や事業者の事業機会の拡大を目的に電力システム改革を実行してきた。他方、電気料金の大幅上昇という目下の局面にある中で、この電力システム改革が、消費者にどのような影響をもたらしてきたのか、新電力の事業活動の実態を含め改めて消費者に説明する必要がある。また、今後の電力政策の方向性とそれに伴う消費者に与える影響をわかりやすく明らかにすべきであり、特に、重要かつ中長期的な課題でもある電力の安定供給・レジリエンスと料金上昇の抑制の両立に向けた取組の方向性について、消費者にわかりやすく説明すべきである。

2 経過措置料金規制、燃料費調整制度に関する消費者保護の観点からの検討

この度認可申請があった規制料金(経過措置料金)は、電力システム改革の一環として当初令和2年に撤廃される予定であったが、公正な事業者間の競争環境が整っていないことから、全エリアで撤廃は見送りとなったまま現在に至っている5。今般のような電気料金の上昇局面においては、経過措置料金、段階制料金(いわゆる3段階料金6)、燃料費調整額上限は依然として消費者保護の観点から重要な制度である。現在、経済産業省において、経過措置料金や燃料費調整制度7の上限のあり方について検討がなされていると承知しているが、検討の際には、事業者間の公正な競争環境の確保という観点とともに、消費者保護の視点を失うべきではない。なお経過措置料金規制の解除にあたっては、平成30年12月19日付消費者委員会意見8も参考に、競争の確保、消費者への周知、経過措置が解除される地域に対する周知・円滑な移行手続きの配慮、事後監視の整備等にも留意しつつ、消費者保護の観点を十分考慮した上で実施されるべきである。

3 自由料金の値上げへの対応

消費者庁からの付議事項は規制料金に係るものであるが、自由料金契約の消費者も電気料金値上げに関し既に深刻な影響を被っている。規制料金から自由料金・新電力へのスイッチング状況は、エリア毎にばらつきがあるものの、総じてみれば上昇し、令和4年10月時点、全国48.0%の家庭が自由料金契約となっている9(低圧、契約口数ベース)。消費者の約半数は自由料金となっており、消費者の選択の結果だとしても、今般の急激な料金値上げという状況に対し、経済産業省は自由料金を契約している消費者も念頭にした負担軽減の対策を講じるべきである。あわせて、デマンドレスポンスや、料金メニュー多様化に関して消費者が実行し得る行動について、一層の周知、普及を図るよう、事業者に対し促すべきである。

4 再エネ賦課金、電源構成の多様化に関する消費者への情報提供

消費者が支払う電気料金には、再生可能エネルギー発電促進賦課金(再エネ賦課金)10が含まれている。再エネ賦課金について消費者の理解を求めるためにも、経済産業省及び電力会社は、消費者に対して集めた再エネ賦課金の使途について定期的に分かりやすく説明する必要がある。また、第6次エネルギー基本計画11に掲げられた電源構成の多様化の達成に向けて、今後どのように施策を実施していくのか消費者に周知・広報すべきである。

5 福祉政策の観点からの消費者保護策の重要性

専門調査会で実施した消費者団体との意見交換において、生活の厳しさに関する意見も多くみられた12。今般の値上げが燃料費高騰という外的要因であることは理解しつつも、電気はライフラインであり料金値上げに係る低所得者及び生活困窮者への配慮の必要性を求める声があった。電気・ガス価格激変緩和対策事業や電力・ガス・食料品等価格高騰重点支援地方交付金の増額・強化といった政府による支援が実施されているものの、自由料金を含め今回の値上げ幅は甚大であり、低所得者や収入が不安定な家計がエネルギー困窮者とならないよう、例えばイギリス13等海外が実施している施策などを参考に、福祉政策の視点からの消費者保護対応を検討することも重要である。

第3 電気規制料金値上げ査定方針案について

 

今般の査定方針案については、算定規則等に基づき適切に取りまとめられたものと評価する。ただし、以下については特段の意見を述べるので、算定規則そのものの見直しを含め、経済産業省において適切に対応することを求める。

1 採録期間の見直しによる再計算の実施

電取委から経済産業大臣に対し、特定小売供給約款の変更の認可に係る意見(一次回答)がなされ(令和5年3月16日付)14、「本日時点で入手可能な直近の燃料価格、卸電力市場価格及び電力先物価格を踏まえて原価等を再計算することが適切と考える」とされた。採録期間等の再計算により、北陸電力は値上げ幅が拡大したもののその他6社は縮小した15。再算定を行わなかったとしても、燃料費調整制度が働くため料金はいずれ下がることになり消費者の支払総額は変わらない。他方、規制料金における燃料価格の上限値については燃料価格を採録した際の1.5倍を燃料費調整額の上限とするため、上限が引下げられる効果はある。再計算の実施は、公聴会や「国民の声」等の消費者の意見を受けて行われたものであり、こうした対応がなされたことは評価できる。

2 経営効率化の深掘り

規制部門の電気料金は、現行は総括原価方式の下、適正な原価に適正な利潤を加えたものとされることから、厳格な査定が恒常的に行われるべきである。

今回の査定では、事業者に効率化努力を促すため、①自社の過去水準の比較として妥当な水準であるか、②コスト効率の良い他事業者(ベンチマーク)と比較して妥当な水準であるか、③ベンチマークに満足することなく、継続的に効率化を促していくことも重要である、との視点にたち、発電部門、販売部門の効率化係数が算定16され、原価算定期間(3年間)で達成することとされた17。今般、事業者の高コスト体質が間接的に規制料金に影響しうる可能性も踏まえ、効率化が深掘りされた点について一定の評価はできる。

一方、現時点において、電力会社の事業形態は様々となっている。東京、中部は持株会社方式、その他7社(北海道、東北、北陸、関西、中国、四国、九州)は発電・小売親会社方式、沖縄は発・送・販が一体である。また、東京、中部の火力発電事業はJERAに統合されている。発電部門の効率化係数を算出するにあたり、発販分離している東京電力EPには発電部門が存在しないところ、他の6事業者の効率化係数の単純平均値を用いるとされているが、東京電力EPの事業形態を踏まえる等、各事業者の事業形態に即した算定が追求されるべきである。

3 燃料費・購入電力量の抑制

今回、料金審査要領において横並び比較を行うこととなっている費目については、事業形態の差異を加味した形で比較(例えば発販分離会社(東京・中部)が存在することを考慮し、発電部門については東京・中部を除いた8社で比較し、販売部門については10社で比較)がなされ、燃料費等についてもこうした事業形態の差異、調達先の相違をふまえた査定が行われたことやトップランナー方式を用いたことは評価できる。燃料費、購入電力量は、元来原価の太宗を占めており、今回提出された各事業者の値上げ申請書によれば、申請原価に占める燃料費、購入電力料のウエイトは一層高まっていることから、各事業者は調達先の分散化、専用船による輸送コストの低減、発電所の最適な運用等を通じて、調達費用の抑制に取組んでいる18。また、燃料費について、原価算定期間(原則3年間)において、既存の燃料在庫を活用する場合は、それも含めた算定を実施している。こうした取組は評価しつつも、燃料コストの上昇があっても料金への影響を最小限に抑制するさらなる対応策を中長期的な観点も踏まえ検討すべきである。

4 人件費の分析

料金審査要領では、従業員一人当たりの年間給与水準について、統計に基づく他産業の平均給与水準と比較しつつ査定を行うこととされ、また、エスカレーションについては、原則として原価への算入を認めないこととされている。今般の査定においてもその原則に基づくこととし、他方で、「料金審査要領の原則に基づき、賃上げ分の算入は認めないものの、最近の統計値に基づく再計算を行い、原価上の人件費が申請額を上回らない範囲で変わることを許容する」とした点は適切であると評価できる。

しかし、各事業者の申請原価において人件費が減少している点について、自然減による寄与分と効率化の結果による寄与分を分けて分析しそれを査定に反映するなど、さらにきめ細かな分析の手法を今後検討すべきである。

5 事業報酬率等の算定方法

事業報酬率19は算定規則等に基づき、自己資本報酬率及び他人資本報酬率を30対70で加重平均した率とすることとされている。今般の査定においてはルールに基づき適切になされていることを確認した。

他方、事業報酬率の算定に利用されている自己資本比率が実際よりも高い30%で算定が行われ、加重平均された事業報酬率が30%と実績自己資本比率との差分に乗じられるだけでなく、他人資本にも加重平均された事業報酬率が適用されることから、その実際との差額相当分を消費者が料金で負担しなければならない20。算定規則等による事業報酬率の算出は他の産業に比べても過大に設定されている。本来事業報酬率の算定は、申請時の資本構成に基づくことが適切であり、今般の査定には採用できないとしても、今後そうした算定方法に改める21べきである。

レートベースについて、料金審査要領によれば「供給設備についてはデマンドレスポンス等を踏まえた需要見通しを前提にした設備に限定し、長期停止発電設備については原価算定期間内に緊急時の即時対応性を有すること及び改良工事中などの将来の稼働の確実性等を踏まえてレートベースに算入する」とされている。稼働していない停止中の原子力発電所について、消費者が料金で負担しなければならない点について、算定方法を見直すことを検討すべきである。

6 原子力発電の再稼働

原発については安全性が何よりも重要であり、真に安全な場合にのみ稼働する原則を厳格に守るとともに、原発稼働の安全性確保のため最大限の取組を行うべきである。専門調査会で実施した消費者団体との意見交換では、原子力発電所の再稼働に反対する意見が出されるなど22、消費者の不安は払拭されていない。安全性確保に関してどのような取り組みを行っているか経済産業省は消費者に丁寧に説明すべきであり、各事業者にも説明を促すべきである。

また、原子力発電の再稼働を算定期間内に織り込むために、安全対策工事費が大幅に増加されている。安全性を高める観点から否定するものではないが、対策費の内容と内訳について消費者に対し丁寧に情報提供すべきである。

なお、修繕費については、過去実績を基にした基準等をメルクマールとして設定し、修繕費率の算定期間は直近5年を基本とすることとされている。今般の査定方針案では、火力の点検回数の増加や水力の追加的な設備対策などについては、メルクマールを超過した分を認めないとした一方で、原価算定期間中に原子力発電所の再稼働を見込んでいる場合は、メルクマールを超過した分を認めることとされている23。この点、経済産業省からは、「原子力発電については、安全審査等事業者の意思に関わらず停止が必要になっているため」との説明があったものの、火力等と原子力発電に関し同等の扱いをしない理由を消費者に丁寧に説明する必要がある。

また、原子力発電の再稼働を織り込んでいる事業者がいるが、再稼働が想定時期より遅れた場合、再値上げ申請を行うのか、あるいは別の方策とするのか明らかになっていない。これらは各事業者の経営判断とも考えられるが、現時点で想定される状況について把握し、消費者に事前に説明すべきである。

7 基本料金と電力量料金の設定方法

今回の査定では料金改定申請の主たる要因が燃料費の高騰であることを踏まえ、基本料金は据え置かれることとされた。電力量料金については、各事業者とも3段階料金が維持されているところ、「今回の料金改定申請の主たる要因が燃料費の高騰であることから、3段階一律に電力量単価を上乗せする」としている。こうした料金設定方法は、消費者にとり透明性が高く、基本料金の据え置きは節電による自助努力が促進されるといえるものの、他方、電力量料金の一律上乗せは生活困窮者等社会的弱者への影響も与えかねず、このような料金設定とした理由を消費者に説明すべきである。

8 事業者による改定率の差異と地域間格差

事業者ごとに値上げの改定率に幅(18~47%)があるが、この点について、経済産業省によれば、改定率が高い北陸と沖縄は、1980年以来、料金の値上げ改定をしていなかったことが一つの要因とされるとのことである。また、現行原価と比較して、今回原価の電源構成では、原子力の割合が下がり、火力の割合が大きくなった場合(例:北陸、中国)等において、改定率が大きくなるとのことである。

東日本大震災後に値上げ申請しなかった電力会社とそれ以外について、査定においては、過去の料金値上げの有無にかかわらず、料金審査要領に基づき、適正な料金原価となっているか、審査を行ったとのことである。

改定率の幅や今回料金値上げをしない電力会社があることにより、電力会社間における電気料金水準の格差が拡大するのは、需要特性や電源構成により致し方ない面があるものの、生活必需財である電気についてはできるだけ地域間格差を是正するような施策を求めたい。

また、同一電力会社内において、契約区分(従量電灯B、従量電灯C等)により値上げ幅に差異がある理由を把握し、その要因について消費者にわかりやすく情報提供すべきである。

9 自由化部門と規制部門の収支のモニタリング

現時点、電気の小売市場においては、自由化部門と規制部門が併存しているところ、それらの費用は料金算定規則に基づきそれぞれに配分されている。

その上で、規制部門の利益率が必要以上に高くなっていないかや、今回の値上げ認可後に燃料費が下落する局面に転じた際には、自由化部門から料金値下げが始まることも想定され、その場合には、規制部門の料金が高止まりし、規制部門の利益率が必要以上に高くならないかの懸念がある。

その点、①各みなし小売電気事業者に対し、規制部門・自由化部門の「部門別収支」について、毎年度の提出を義務付け、②電力・ガス取引監視等委員会で、毎年度、みなし小売電気事業者の「業務・経理の監査」を実施し、③電力・ガス取引監視等委員会が経済産業大臣からの意見聴取を受けて、原価算定期間終了後、毎年度、規制部門の電気事業利益率が必要以上に高くなっていないかなどを確認する「事後評価」を行い、値下げ認可申請の必要の要否について、経済産業大臣に回答する。この回答を受けて、経済産業大臣は、料金が社会的経済的事情の変動により著しく不適当となり、公共の利益の増進に支障があると認められるときには料金変更認可申請命令を発動する仕組みとなっていることが確認できた。今後、これについて適正な運用を求めたい。また電取委においては、今後、新たなフォローアップの枠組みを設けるとのことであるが、その際、各事業者の調達改善の視点に加え、経営効率化の観点も含めた適正なフォローアップの実施を求めたい。

また、自由化部門の赤字を規制部門から補填するといった内部補助が行われていないかの確認は、部門別収支の確認、自由化部門の赤字額と赤字事業者名の公表、事後評価により規制部門の電気事業利益率の確認、自由化部門の収支が連続して赤字でないかの確認、自由化部門に対する半年ごとのモニタリングによりチェックしていることが確認できた。こうした仕組みを適切に運用し、必要に応じて消費者にわかりやすく情報提供すべきである。

10 消費者意見の反映方法

経済産業省は今般の電気規制料金値上げに際し、令和5年1月~4月にかけて全国7か所で公聴会24を開催し、「国民の声」25(意見)を募集した。審査プロセスの一環として、公聴会や国民の声を募集し、消費者の意見も踏まえて査定を行う仕組みとなっていることやそれを適切に実施したことは評価できる。しかし前述のとおり、公聴会の意見陳述人が前回値上げ申請時に比べて減少していることを踏まえ、その要因を分析するとともに、デジタル技術を活用してより多くの消費者の意見をくみ上げる等消費者からの意見聴取の在り方について改善すべきである。

第4 消費者に対する周知等に関する事項について

1 消費者から寄せられた意見、疑問点への丁寧な説明

消費者委員会は第73回及び第76回公共料金等専門調査会において、値上げ申請が行われている地元消費者団体等との意見交換を実施した。経済産業省及び事業者には、公聴会、国民の声、消費者委員会における意見交換に寄せられた意見、疑問点について、消費者に届くような丁寧な説明を求める。また、今後も電気料金に関わる重要事項が検討、決定される節目をとらえ、消費者への情報提供、周知・広報を重ねるべきである。

2 消費生活相談を踏まえた対応

国民生活センターや地域の消費生活センターに寄せられた電力・ガス自由化をめぐる相談26には、電気料金が安くなると言われて契約を切り替えたが実際は従前の2倍の金額になった事例、市場連動型プランとの説明を受けておらず電気料金が高額になった事例等が寄せられている。経済産業省、消費者庁及び事業者は、国民生活センターや地域の消費生活センターに寄せられた消費者からの相談内容を積極的に把握する努力をすべきである。その上で電気料金は消費者にとって複雑でわかりにくいものとなっていることを踏まえ、相談に対応した説明会を地域で行う等事業者は丁寧な情報提供に努めるべきであり、経済産業省は事業者の情報提供の在り方を早急に検討し改善を促すべきである。消費者庁においても情報提供や消費者啓発について積極的に進めていく必要がある。

3 消費者からの問合せ対応の体制整備

新料金が認可された場合には、事業者は消費者へわかりやすい情報提供を行い、新料金移行後も消費者からの問合せ・苦情等に丁寧に対応し、適切に対応することが可能な体制を早急に整えるべきである 。

4 消費者への丁寧な説明の継続

経済産業省及び事業者は、本意見で述べた事業者の信頼性や電気料金制度全般に関する事項について引き続き真摯に対応し、その結果を消費者に万遍なく届くよう丁寧に周知・広報すべきである。電気料金制度は消費者にとって大変わかりにくいものとなっていることから、説明は値上げ申請の際のみに行うのではなく、恒常的に行うべきである。特に、原価算定期間内の収入および販売電力量の実績値、見込み額については、定期的に消費者が理解しやすい形で公表することを求める。また、地域の消費者、消費者団体、大学等が連携し電気料金制度について理解を深める活動を広げていくことも重要であり、経済産業省及び消費者庁はこうした活動に向けた環境整備を進めることが必要である。

なお消費者委員会においても、事業者の信頼性に関する事項、電力システム改革が消費者にもたらす影響等を含め、電気料金を巡る様々な問題について必要に応じてフォローアップを実施し、消費者保護の視点から意見表明を行うこととする。

(以上)

  1. 顧客情報等の不適切な閲覧については、令和5年4月17日、経済産業省から5社(関西電力送配電、関西電力、九州電力送配電、九州電力、中国電力ネットワーク)に対する業務改善命令等が出された。カルテルについては、令和5年3月30日、公正取引委員会から電力会社6社(中部電力株式会社、中部電力ミライズ株式会社、中国電力株式会社、九州電力株式会社、九電みらいエナジー株式会社、関西電力株式会社)が独占禁止法の規定に違反したとし、そのうち5社(中部電力株式会社、中部電力ミライズ株式会社、中国電力株式会社、九州電力株式会社、九電みらいエナジー株式会社)に対し排除措置命令及び課徴金納付命令がなされた。経済産業省は、7社(中部電力株式会社、中部電力ミライズ株式会社、関西電力株式会社、中国電力株式会社、九州電力株式会社、九電みらいエナジー株式会社、関西電力送配電株式会社)に対し、補助金等交付停止及び入札の指名停止措置、2社(中国電力ネットワーク株式会社、九州電力送配電株式会社)に対し、補助金等交付停止措置をとっている。
  2. 第74回公共料金等専門調査会において、5社(東北電力、北陸電力、中国電力、四国電力、沖縄電力)に対し、一連の事案について①経緯と現時点での対応状況、②将来に向けた再発防止策、③電気規制料金値上げ申請への影響の有無について説明を求め、委員と意見交換を行った。
  3. 規制料金について標準的な家庭における電気料金の値上げ率は、当初北海道31%、東北31%、東電EP28%、北陸45%、中国30%、四国26%、沖縄38%。(第74回公共料金等専門調査会、資料2-1電気の規制料金に係る審査について、5ページ)。自由料金について(広島市在住、オール電化、夫婦2人)は令和3年1月と令和4年1月で比較すると約10倍になっている(第73回公共料金等専門調査会、資料1-3中国電力株式会社による規制料金の値上げに関する意見、1ページ)。
  4. 例えば経済産業省が開催した四国電力公聴会(令和5年2月1日)は陳述人が0人であった(その他の電力会社公聴会においてもそれぞれ数名程度)。なお、前回値上げ申請時の四国電力公聴会(平成25年5月14日)の陳述人は13名であった。その他の電力会社公聴会においては30名程度であった。
  5. 経過措置料金解除の基準については①消費者の状況(電力自由化の認知度など)、②競争圧力(シェア5%以上の有力で独立した競争者が供給区域内に2者以上存在するかなど)、③競争的環境の持続性(電力調達の条件が大手電力小売部門と新電力との間で公平かなど)という3つの観点から総合的に判断すべきとされている。(第75回公共料金等専門調査会、資料4消費者庁及び消費者委員会からの御意見などに関する現時点での取り組み状況等について、50ページ)
  6. 3段階料金とは電気料金のうち「電力量料金単価」(電気を使った分だけかかる料金)を使用量に応じて三段階に分けたもの。電気の使用量が増えるのに比例して1kWhあたりの電力量料金単価も高くなる。
  7. 燃料費調整制度とは、原油、LNG、石炭の燃料価格(為替を反映した円建ての日本着ベースの価格)の変動を毎月の電気料金に反映する仕組み。①料金申請の直前3か月の貿易統計に基づいて算定した「基準燃料価格」と②各月の3~5カ月前の貿易統計価格に基づいて算定した「実績燃料価格」の差を燃料費調整単価に換算し、月々の電気料金に反映(第74回公共料金等専門調査会、資料2-1電気の規制料金に係る審査について、31ページ)。ただし規制料金制度では上限が各社が算定した基準燃料価格の1.5倍に設定され値上げに歯止めがかかる。
  8. 電気の経過措置料金解除に関する消費者委員会意見(平成30年12月19日)
  9. 第72回公共料金等専門調査会、資料2電気の規制料金に係る審査について、4ページ。第398回消費者委員会資料4電力卸取引等に関する検討状況等について、2ページ。
  10. 環境への配慮、エネルギー自給率の向上等を目的に、再生可能エネルギーの導入を支えるため、再生可能エネルギー固定価格買取制度がある。固定価格買取制度で買い取られる再生可能エネルギー電気の買い取りに要した費用は再エネ賦課金によってまかなわれ、毎月の電気料金とあわせて徴収されている。2012年8月から徴収開始、単価は毎年改定される。
  11. 第6次エネルギー基本計画(令和3年10月22日閣議決定)によれば2030年度の電源構成の見通しを再エネ36~38%、原子力20~22%、火力41%、水素・アンモニア1%としている。
  12. 第74回公共料金等専門調査会、資料3-1消費者団体との意見交換における御意見
  13. エネルギー利用困窮者対策として低所得者や年金生活者等を対象に定額の数量保障が行われている。
  14. 特定小売供給約款の変更の認可に係る意見(一次回答)(令和5年3月16日)
  15. 2023年4月27日付査定方針案によれば規制料金原価の改定率は以下のとおり。北海道32.3→25.2%、東北32.9→25.2%、東電EP29.3→17.6%、北率45.8→46.9%、中国31.3→30.6%、四国28.1→27.9%、沖縄43.8→40.9%。
  16. 北海道23.0%、東北7%、東京13.7%、北陸12.6%、中国16.1%、四国12.5%、沖縄10.9%。
  17. 電気料金を構成する費目は①変動的な費目(例:燃料費)、②固定的な費目のうち法令・契約・外部要因等による制約を受ける費目(例:公租公課)、③固定的な費目のうち②を除いた費目(例:人件費、消耗品費、委託費、修繕費、減価償却費等)であり、①②については個別に必要性・効率性などを確認することが可能とされるが、③の費目は効率化努力の推移を推定する際の尺度として有効であると考えられる(第41回電力・ガス取引監視等委員会資料5-1経営効率化について④、5ページ)。
  18. 第31回(令和5年1月11日)及び第40回(令和5年4月4日)電力・ガス取引監視等委員会料金制度専門会合。
  19. 事業報酬率は自己資本報酬率×30%+他人資本報酬率×70%で算出される。
  20. 事業報酬=レートベース×事業報酬率―一般送配電事業者分事業報酬。通常自己資本報酬率は他人資本報酬率より高い。従って実際の自己資本比率が3割を下回る場合には事業者に過大な報酬を与えることになる。
  21. 自己資本比率を申請時のものに改め、自己資本比率に自己資本報酬率を乗じるとともに、他人資本比率に他人資本報酬率を乗じ、両者に利益対応税を加算する方式に改めることも考えられる。
  22. 原発再稼働を織り込んだ値上げ申請には、納得できない。原子力発電に頼らないエネルギー政策への転換に踏み出すべき(第73回公共料金等専門調査会、消費者団体等との意見交換)、原発費用の増加傾向が続くのであれば、コストをかけて原発を使い続けることを見直すべき(第76回公共料金等専門調査会、消費者団体等との意見交換)といった意見があった。
  23. 「北海道電力は修繕費のメルクマークの水準を超過しており、その超過の内訳は原発関連を特殊要因としている。今回大幅な値上げ申請の局面でメルクマールを超えるものとして再稼働に必要な費用と再稼働時期に応じて追加的に必要となる費用を例外的に認めることは消費者として納得し難い」との意見があった(第76回公共料金等専門調査会、消費者団体等との意見交換)。
  24. 電気事業法等の一部を改正する法律附則第22条
  25. 広く一般の方から御意見を伺う観点から、電子政府の総合窓口(e-Gov)及び経済産業省ホームページにおいて「国民の声」を設置し、インターネット等を通じて意見募集を行うもの。
  26. 国民生活センター、消費者庁「電力・ガス自由化をめぐる速報!NO19」