消費者基本計画工程表の改定素案(令和5年3月)等に対する意見

2023年3月28日
消費者委員会

消費者基本計画工程表の改定素案(令和5年3月)等に対する意見

令和5年3月28日
消費者委員会

消費者委員会は、消費者基本計画(以下「計画」という。)の具体的な施策を定める工程表の検証・評価及び見直しについて、令和4年12月16日に「消費者基本計画等の実施状況に関する検証・評価及び消費者基本計画工程表の改定に向けての意見」(以下「12月意見」という。)を取りまとめ、12月意見の内容を、可能な限り工程表の改定素案等に反映することを求めた。

その後、消費者庁を始めとする関係省庁等では、12月意見も踏まえて工程表の必要な見直しを実施することとし、取りまとめられた工程表の改定素案は、令和5年3月9日からパブリックコメントに付されている。

消費者委員会は、3月9日の消費者委員会において、工程表の改定素案について、消費者庁からヒアリングを実施した。このヒアリングの結果や、これまでに行った建議・提言その他の意見等の内容、過年度の工程表に記載された個別施策についてのヒアリングの結果や最近の被害実態等を踏まえ、工程表の改定素案等に対して、下記のとおり意見を述べる。関係省庁等においては、下記の各項目について積極的に検討の上、可能な限り工程表の改定案に反映するとともに、工程表に記載されない施策についても滞ることがないよう他の政策文書への反映も含め検討し、施策を進められたい。

消費者委員会としては、本意見及びパブリックコメントの工程表への反映状況やその後の実施状況等について引き続き監視を行い、消費者被害の状況が深刻なものや取組が不十分と考えられるもの等については、今後、重点的に消費者委員会の調査審議を通じて取り上げていくとともに、必要に応じて建議等を行っていくこととする。

1.全体に関する事項

(1)消費者政策におけるEBPMの推進

「消費者基本計画工程表に係る消費者委員会の意見聴取について(意見)」(令和4年6月10日)の附帯意見を踏まえ、工程表の改定素案において、重点項目を設定してロジックモデルの試行やKPIの充実に取り組んでいることや、評価書を新たに作成し前年度の取組に対する評価に取り組んでいること等EBPMの実践を進めていることを評価する。

その上で、ロジックモデルの構築やKPIの設定に当たっては、目指すべき社会の在り方からさかのぼって施策や取組を位置付けることが必要であることを前提としつつ、以下のとおり意見を述べる。

①施策の効果の検証が可能となるようにKPIの設定を行うことが重要である。KPIの中には、目標値が記載されていないものや、目標値が1回(以上)とされているものなど、効果の検証の実効性を欠くものが存在していることから、目標値の設定について改めて検討すること。

②消費者事故や法執行等、その件数のみで評価することが困難な指標についても、時系列的な変化を把握することや、関係する消費活動のトレンドや消費生活相談件数を始めとする他のデータ等と組み合わせることにより施策の効果等を分析することを検討すること。

③地方公共団体による行政処分や普及啓発等に係るデータについても、国の施策の効果の検証に有効な場合があることから、参考指標として設定するなど、活用について検討すること。

④上記(①~③)のほか、将来の効果検証に役立てることを目指し、各省庁等が保有する行政記録情報や民間が保有する様々な情報をKPIとして積極的に設定すること。また、KPIの設定に当たっては、アウトプット指標・アウトカム指標の種別に適切に設定されているかに注意するとともに、新たにアクティビティ指標1を設けることについても継続的に検討すること。

加えて、ロジックモデルを作成して政策目的とロジックを明確化することによって、施策が想定どおりに進まない場合に、インプット(資源)から望むべきインパクト(社会への影響)までの間のどの段階に問題が存在し、どのようにアジャイルに政策変更を行うべきかを理解することが可能となる。そのため、ロジックモデルについても、工程表の改定までの適切なタイミングで公表することを求める。

(消費者庁及び関係省庁等)

(2)社会状況の変化に伴う新たな消費者問題への対応

12月意見で指摘したとおり、国内外の様々な社会状況等の変化に伴い生じる消費者問題へ対応していくことが重要である。新型コロナウイルス感染症については、感染症法上の位置付けの変更が予定されているなど、コロナ禍前の状況に戻りつつある部分がある一方で、この約3年間に生じた急速なデジタル化とこれに伴う消費者問題への対応は引き続き重要である。また、新たな技術やサービスの登場や、エネルギー価格や食料価格等の物価の高騰など、社会状況が目まぐるしく変化している中においては、誰もがぜい弱性を持つ可能性があることを踏まえ、対応していく必要がある。これらの新しい消費者問題に対しては、工程表やその他の政策文書において位置付けて、取り組むこと。

(消費者庁及び関係省庁等)

2.各重点項目に関する事項

12月意見で指摘した施策について、工程表の改定素案に重点項目として位置付けたことを評価する。その上で、各重点項目について、それぞれの担当省庁等に対して、以下のとおり意見を述べる。

(重点項目1)消費者事故等の情報収集及び発生・拡大防止

12月意見で指摘したとおり、消費者事故の未然防止と被害の拡大防止のためには、消費者に対する注意喚起にとどまらず、制度や製品等の改善につなげていくことが重要である。

消費者事故の情報収集の充実に向け、事故情報データバンクの入力情報の質向上、医療機関ネットワーク事業の拡充やSNS等の活用について引き続き検討すること。

また、取組が被害防止や制度・製品等の改善にどの程度つながっているかについて把握するため、消費者の行動変化のみならず、製品の改善状況や制度の改正状況等の事業者、関係省庁等の対応変化についても、可能なものはKPIを設定すること。

(重点項目2)特定商取引法等の執行強化等

12月意見で指摘したとおり、特定商取引法等の契約書面等の電子化については、施行2年後の見直しに向け、論点やスケジュール等可能なものから工程表等に反映させることが重要である。そのため、「特定商取引法及び預託法における契約書面等の電磁的方法による提供についての建議」(令和3年2月4日)、12月意見及び「特定商取引に関する法律施行令及び預託等取引に関する法律施行令の一部改正についての答申」(令和5年1月20日)の附帯意見を踏まえた上で、取組方針やKPIを設定すること。

また、デジタル化の急速な進展に伴って消費者被害が複雑化していることから、「SNSを利用して行われる取引における消費者問題に関する建議」(令和4年9月2日)を踏まえた取組を進めること。その上で、特定商取引法については、これまでの国会の附帯決議等を踏まえ不断の見直しを行う必要があることから、その検討の方向性を消費者に分かりやすく示すことに努めること。

さらに、法執行については、取引類型ごとの法執行件数と他のデータとを組み合わせることにより、その効果を検証すること。また、地方公共団体の執行力強化も重要であることから、地方公共団体における法執行件数を参考指標として活用することを検討すること。そのほか、他の重点項目では法律の理解促進の観点から、説明会や情報発信等の回数をKPIに入れていることを踏まえ、同様なKPIの採用を検討すること。

(重点項目3)社会経済情勢の変化に対応した消費者契約法を含めた消費者法制の整備等

消費者契約法等の消費者法の見直しについては、中長期的な取組が求められるものであるが、工程表等を通じて取組方針を国民に示すことが必要であることから、消費者庁の「消費者法の現状を検証し将来の在り方を考える有識者懇談会」における議論を踏まえ、検討の方向性やスケジュールについて記載すること。

また、令和4年12月改正消費者契約法及び不当寄附勧誘防止法については、今後の見直しを見据えた取組方針について、工程表に記載すること。

(重点項目4)景品表示法の厳正な運用及び執行体制の拡充

消費者庁の「景品表示法検討会報告書」において課題とされた特定適格消費者団体への情報提供やデジタル表示の保存義務等について、引き続き検討すること。

また、法執行については、法執行件数と他のデータとを組み合わせることにより、その効果を検証すること。さらに、地方公共団体の執行力強化も重要であることから、地方公共団体における法執行件数を参考指標として活用することを検討すること。

加えて、アフィリエイト広告やステルスマーケティングに関する施策は新たな取組であり、その効果を検証することが重要である。そのため、景品表示法全般のみならず、アフィリエイト広告やステルスマーケティングに関する施策についての、消費者や事業者の認知度や理解度、法執行件数等のKPIを設定すること。

(重点項目5)食品表示制度の適切な運用と時代に即した見直しの検討

目標に掲げられた「時代に即した食品表示制度」への改善について、その具体的な論点や取組方針を工程表へ記載すること。また、「食品の生産及び流通の円滑化」や「食品の生産の振興」について、工程表に記載する場合には、消費者の利益の擁護及び増進との関係を踏まえたKPIや取組を設定すること。

さらに、インターネット販売における食品に関する情報提供については、取組の検証が可能となるよう、認知度・理解度等のKPIを設定すること。

(重点項目6)高齢者、障害者等の権利擁護の推進等

本重点項目を推進する上で基本的な情報である高齢者や障害者の消費生活相談件数等、高齢者や障害者の消費者被害の状況を把握するKPIを設定すること。

その上で、12月意見では、地方公共団体の消費者行政部局や消費生活センターと福祉部局等の関係部局や法テラス等の関係相談窓口等との連携、消費者安全確保地域協議会(見守りネットワーク)と重層的支援体制整備事業との連携等の重要性について指摘したところであり、これらの連携状況を把握するKPIを設定すること。また、見守りネットワークや成年後見制度における地域連携ネットワークは整備するだけでなく、各取組が実効的なものとなっていることが重要であることから、具体的な解決事例の把握に努めること。

さらに、身元保証等高齢者サポート事業に関する消費者問題への対応については、必要な情報が必要な人に確実に届くことが重要であることから、設定したKPIを継続的に把握、分析し、効果の検証を行うこと。

(重点項目7)成年年齢引下げに伴う総合的な対応の推進

12月意見で指摘したとおり、若年者の理解度、定着度や消費者被害の状況等の把握を通じて、施策の効果や課題等について検証・評価し、改善していくことが重要である。そのため、理解度や消費者被害の状況等を把握するKPIに加えて、教育実施後に継続的に理解度を測定すること等による定着度の把握や、被害類型ごとの消費者被害の状況等の把握に関するKPIの設定を検討すること。

また、成年年齢引下げに伴う対応には、事業者の取組も不可欠であることから、自主規制の遵守状況等の事業者側の取組に関するKPIの設定を検討すること。

(重点項目8)消費者団体訴訟制度の推進

令和4年改正消費者裁判手続特例法の施行後を見据え、対象消費者及び和解対象消費者に対する情報提供方法の充実や特定適格消費者団体を支援する法人の活動状況等の法改正事項に関するKPIを検討し、設定が可能となった場合には工程表に記載すること。

また、消費者庁の「消費者裁判手続特例法等に関する検討会報告書」において将来の検討課題とされた事項の今後の検討方針についても可能な範囲で具体化すること。

(重点項目9)食品ロスの削減の推進に関する法律に基づく施策の推進

食品ロスの削減に当たっては、消費者と事業者の双方の取組が重要である。そのため、賞味期限及び消費期限に関する理解度や「てまえどり」の実施状況等の消費者側の取組や、「3分の1ルール」の緩和状況等の事業者側の取組等の具体的な取組状況を測定するKPIについて検討すること。

(重点項目10)エシカル消費の普及啓発

12月意見で指摘したとおり、認証ラベル等の認知度にとどまらず、活用度を把握することが有効であることから、水産エコラベルのみならず複数の認証ラベル等について、認証数、認知度や活用度について把握するKPIを設定すること。

また、エシカル消費の実践による効果は、食品ロス削減、プラスチック削減、温室効果ガス削減、省エネ・節電等の取組に表れてくるものと考えられることから、これらの取組状況を把握するKPIを参考指標として設けること。さらに、エシカル消費の対象は、人権問題や環境問題など幅広いことから、これらの諸問題との関係についても引き続き検討すること。

(重点項目11)公益通報者保護制度を活用したコンプライアンス確保の推進

公益通報者保護制度の更なる推進のためには、制度に対する労働者の理解度の向上や、中小事業者を含んだ事業者における内部公益通報対応体制の整備状況の向上が必要であることから、事業者の規模別に理解度や体制整備状況を把握するKPIを設定するとともに、公益通報窓口への通報状況の把握に努めること。

また、令和2年改正公益通報者保護法の附則に規定された公益通報者に対する不利益取扱いに対する是正措置の在り方、裁判手続における請求の取扱い等の今後の検討方針について、工程表へ記載すること。

(重点項目12)デジタル・プラットフォームを介した取引等における消費者利益の確保

12月意見で指摘したとおり、取引DPF消費者保護法の国会附帯決議において今後の課題とされたC to C取引への対応、オンラインによる手続が可能な裁判外紛争解決手続(ODR)の提供、SNSを利用して行われる取引における消費者被害の実態把握等の各事項について、その検討の時期や取組について可能なものから工程表への記載を検討すること。

なお、重点項目4で指摘したとおり、アフィリエイト広告やステルスマーケティングに関する施策について、取組の効果が検証可能となるようKPIを設定すること。また重点項目5で指摘したとおり、インターネット販売における食品に関する情報提供に関する取組についても、効果が検証可能となるようKPIを設定すること。

(重点項目13)消費者教育の総合的、体系的かつ効果的な推進及び地域における消費者教育推進のための体制の整備

令和5年3月に閣議決定した消費者教育の推進に関する基本的な方針(以下「基本方針」という。)に基づき着実な取組を進めることが重要である。その上で、「消費者教育の推進に関する基本的な方針の変更に向けての意見」(令和4年9月2日)や12月意見で指摘したとおり、基本方針の対象期間が7年間となっており、対象期間中における必要に応じた見直しが必要であることから、工程表のKPIの充実や、これに基づく検証が重要である。

具体的には理解度や被害件数等についてのKPIに加えて、消費者市民社会の一員としてより自立した消費者行動を促す観点から、消費者の行動変容を把握するKPIの設定が必要である。そのため、重点項目10で記載したエシカル消費の実践に関わる指標について重点項目13でも設定するとともに、各データについて地域比較・年齢比較等を行って、課題を明らかにし改善に結び付けることを検討すること。

(重点項目14)地方消費者行政の充実・強化、消費生活相談のデジタル化に向けた地方公共団体への支援等

12月意見で指摘したとおり、消費生活相談員の担い手確保は重要な課題となっている。そのため、消費生活相談員の人材育成や処遇改善等に関する地方公共団体の取組を支援するため、設定した各KPIについて地域比較・年齢比較や、地方公共団体間の比較等を行って、課題を把握することを検討すること。

また、消費生活相談のデジタル化の推進については、地方公共団体にとっても実効的なものとなる必要があることから、地方公共団体への情報提供や意見聴取を十分に行うとともに、地方公共団体の準備期間を確保することが重要である。そのため、計画期間中の取組方針については、工程表に可能な限り記載すること。

3.その他

次回の工程表改定において、下記について検討すること。

(消費者庁及び関係省庁等)

(1)デジタル化に伴う消費者問題

デジタル化に伴う消費者問題は、重点項目12に限られず、情報リテラシーや決済手段の多様化等、様々な消費者問題があることから、可能なものから重点項目に位置付けることを検討すること。

また、消費者委員会「デジタル化に伴う消費者問題ワーキング・グループ」における、特定商取引法の通信販売のうち積極的な勧誘がなされる類型の規制の在り方についての検討の結果が取りまとめられた場合には、関連する目標や取組、KPIを記載することについて検討すること。

(2)悪質商法の被害拡大防止及び被害回復

消費者委員会「消費者法分野におけるルール形成の在り方等検討ワーキング・グループ」における、「破綻必至商法」の被害拡大防止や被害回復の方法についての検討の結果が取りまとめられた場合には、関連する目標や取組、KPIを記載することについて検討すること。

(以上)

  1. 政策の具体的な活動(アクティビティ)とその活動に基づく産出物(アウトプット)とを区別して整理することが必要である。工程表の改定素案にアウトプット指標として位置付けられているKPIの中には、アクティビティに関する指標が含まれていることから、工程表にアクティビティ指標を設けることが考えられる。