SNSを利用して行われる取引における消費者問題に関する建議

2022年9月2日
消費者委員会

SNSを利用して行われる取引における消費者問題に関する建議

デジタル化の進展に伴い、多様な機能と利用のしやすさから、近年、SNS1の利用率が増加し、コミュニケーションのツールとして一般化してきており、その利用者層も、若年層だけでなく幅広い年代層に広がっており、また、事業者による販売促進ツールとしても使用されている。

これに伴い、SNS関連の消費生活相談件数も年々増加しており、2021年には合計で約5万件の相談が寄せられ、年齢層別の内訳を見ると、20歳代からの相談が最も多いものの、40歳代、50歳代からも多くの相談が寄せられている。特に若年層に関しては、成年年齢の引き下げに伴い、その消費者被害の未然防止に取り組む必要性が高まっている。20歳代を契約当事者とする情報商材や転売ビジネスに関する消費生活相談に着目すると、その数は2016年から2021年までで増加傾向が見られ、かつ、その多くにSNSが関連していることがうかがえる。その内容は、SNS上の投稿や広告等をきっかけにしたものや、SNSのメッセージでのやりとりを経て契約し、トラブルが発生しているもの等が見られる。中でも、SNSのメッセージを利用して勧誘が行われる取引での消費者トラブルは増加傾向にある。また、SNSのメッセージによる勧誘において、メッセージに記載された内容が事実と異なっている等のものも見られる。

このようなSNSの急速な普及に伴って増加している消費生活相談の状況等に鑑み、SNSを利用して行われる取引における消費者問題への対応等について、「デジタル化に伴う消費者問題ワーキング・グループ報告書」(以下「本報告書」という。)を踏まえ、早急に対応すべき点について、本建議に至ったものである。

当委員会は、消費者庁及び消費者委員会設置法(平成21年法律第48号)第6条第2項第1号の規定に基づき、内閣府特命担当大臣(消費者及び食品安全)に対し、次のとおり建議する。また、本建議への対応について、内閣府特命担当大臣(消費者及び食品安全)に対し、令和5年3月までにその実施状況の報告を求める。

また、当委員会としても、今後、本報告書に盛り込まれた内容を踏まえ、関係省庁等の取組を注視し、消費者政策について調査、審議等を行っていく。

第1 SNSのメッセージを含むインターネットを利用した広告表示に対する法執行の強化等

(建議事項1)

1. 消費者庁は、デジタル化に伴う消費者被害の未然防止の観点から、SNSのメッセージによる広告表示を含め、特定商取引に関する法律(昭和51年法律第57号。以下「特定商取引法」という。)第11条(表示義務)及び同法第12条(誇大広告等の禁止)などの通信販売に関する規定の執行を強化すること。

2. 消費者庁は、SNSのメッセージから契約に至る場合において、特定商取引法第11条に基づき販売業者又は役務の提供の事業を営む者(以下「販売業者等」という。)が広告に表示しなければならない事項を、消費者がSNSのメッセージ上で容易に認識できる場所に表示させることを徹底させること。

3. 消費者庁は、形式的な契約当事者以外の事業者も含めて事業者が販売業者等と連携共同して事業を行っている場合において、特定商取引法の執行を強化すること。

4. 消費者庁は、近時、特定商取引法上の執行とともに消費者安全法(平成21年法律第50号)上の注意喚起を行っているが、両法に限らず、関係する法制度を連携させた運用を図ること。

(理由)

1. (1.について)デジタル化の進展等に伴い、SNSの利用率が増加し、コミュニケーションのツールとして一般化してきており、また、事業者による販売促進ツールとしても使用されている。これに伴い、SNSをきっかけとした消費生活相談件数も年々増加している。

SNSのメッセージについては、電子メールと同様に、URLを表示すること等により紹介しているサイト(リンク先)を一体として、通信販売についての「広告」に該当し得ると考えられる。

通信販売の広告において、「住所」は「現に活動している住所」、「電話番号」は「確実に連絡が取れる番号」を記載することを要するが、記載されている住所や電話番号によっても、事業者との連絡が取れないため、消費者被害の救済が図れないケースがある。

また、SNSのメッセージを利用した情報商材や転売ビジネスの消費者被害に関し、消費者安全法に基づく注意喚起がなされており、消費者庁が確認した事実として、勧誘メッセージにおける、虚偽・誇大な広告・表示等に関3するものが含まれている2

なお、自社サイトの広告表示に対する特定商取引法第12条に関する処分事例として、東京都が令和2年1月21日に株式会社WAVEに対して行った行政処分がある。その中では不適正な取引行為として、「『月収120万円稼げる最新ビジネス』、『まずは週30万円!月収120万円・・・つまり年収1,000万円越えをクリアして頂きます!!」『開始翌日から収益発生の即金力」などと自社サイトに記載し、あたかも短期間で大金が稼げるかのように著しく事実に相違する表示を広告していた」ことが認定されている。

上記東京都の処分事例は自社サイトの広告表示に関する事例であるが、SNSのメッセージによる広告上にも上記に類似の広告事例があることを踏まえると、SNSのメッセージによる広告表示を含め、特定商取引法第12条の執行を強化することが求められる。

このため、SNSのメッセージによる広告表示を含め、特定商取引法第11条及び同法第12条などの通信販売に関する規定の執行を強化することが求められる。

2.(2.について)情報商材等の事案では、例えば、クレジットカード決済が利用される場合「SNS→SNS上にリンクされたURLをタップ→決済代行業者のサイトでカード情報の入力」という経過をたどって申込みに至るケースもある。

このため、上記のように、SNSのメッセージから契約に至る場合において、SNSを端緒として販売を行う事業者に対し、消費者がSNSのメッセージ上で容易に認識することができる場所に、特定商取引法11条に基づき広告に表示しなければならない事項を表示させることを徹底させることが求められる。

3.(3.について)消費者庁によると、事業者が販売業者等と連携共同して事業を行っていると認められるのであれば、その事業者は「販売業者等」として特定商取引法の規制を受けるとされている。また、契約当事者以外の事業者(処分例では、他の販売業者等と連携共同して通信販売を行っていた統括事業者等)についての執行実績もある。

このため、形式的な契約当事者以外の事業者も含めて事業者が販売業者等と連携共同して事業を行っている場合において、特定商取引法の執行を強化することが求められる。

4.(4.について)近時、特定商取引法上の執行とともに消費者安全法上の注意喚起を行う運用が見られるが、このように関係する法制度を連携させて対処することは適切と考えられ、両法に限らず、関係する法制度を連携させた運用を図ることが必要と考えられる。

以上を踏まえ、消費者庁は、上記建議事項1に基づく措置を講ずべきである。

なお、本報告書においては、「通信販売ではあるが、積極的な勧誘がなされる類型については、SNSのメッセージによる勧誘と電話による勧誘の類似性を念頭に置きつつ、勧誘規制等を検討することが必要である」と指摘されている。この点については、更に深く検討することが必要であると考えられることから、引き続き、当委員会において調査、審議等を行っていくこととする。

第2 電話勧誘販売に該当する場合の解釈の明確化及び周知

(建議事項2)

消費者庁は、当初の契約に加えて更に高額な契約を勧誘する事例や、WEB会議ツールによる勧誘事例にあるように、新たな手口やツールを利用して勧誘を行う取引が出現していることを踏まえ、消費生活センター等における消費者トラブルの解決に資するため、電話勧誘販売に関する解釈を事例に即して分かりやすく関係団体等に対し周知すること。

(理由)

1. 情報商材等の消費者トラブルにおいては、初めから高額契約を勧誘するのではなく、無料又は少額な情報商材等を契約させた後、情報商材等の説明をするためなどと称して消費者に事業者からの電話連絡の予約等をさせ、その電話によって高額なサポート契約等を勧誘する事例(以下「二段階型事例」という。)があるとの指摘がある。二段階型事例において、電話勧誘販売に該当すると考えられる場合であっても、販売業者等が電話勧誘販売の該当性を認めないケースがある。

具体的には、一段階目の契約での電話のサポートを実施すると称して、SNSで販売業者等が消費者に電話をかけることを要請し、その電話において新たな高額サポート契約等の勧誘をしたのにもかかわらず、先に購入したデータ書籍(PDF等)に高額契約について価格・契約内容の記載があったから勧誘目的での電話勧誘販売には当たらない、と主張するケースや、一段階目の契約に関する電話サポートを実施するとして、事業者が購入者宛に電話をかける日時を調整させ、先に購入したマニュアルに商品のカタログがあり、それを見た上で消費者が電話予約をしてきた日時に電話したので電話勧誘販売の適用除外にあたる、と主張したりするケースがある。また、WEB会議ツールにより勧誘がなされるケースもある。

2. 特定商取引法に関する通達において、「『電話をかけ』とは、電話により通話状態に入ろうとすることをいい、通話には録音音声や人工音声によるものも含まれる。インターネット回線を使って通話する形式(映像を伴う場合も含む。)を用いた場合であっても『電話』に該当する。」とされている。特定商取引法第2条第3項中、「政令で定める方法」により消費者が電話をかけることを要請された場合として、特定商取引に関する法律施行令(昭和51年政令第295号)第2条において、販売業者等が販売目的を明らかにしないで、消費者に電話をかけさせる場合等が規定されている。なお、特定商取引法第26条第7項第1号において、電話勧誘販売の規定の適用除外が規定されている。

3. 販売業者等が電話勧誘販売の該当性を認めないことが消費生活センター等での消費者トラブルの解決の妨げになっているという指摘がある。1.の二段階型事例や、WEB会議ツールによる勧誘事例にあるように、新たな手口やツールを利用して勧誘を行う取引が出現しており、そのような場合に消費生活センター等において、具体的な事例に即して、電話勧誘販売に該当するか否かを判断し難いとの指摘があるため、電話勧誘販売に該当する場合の解釈を事例に即して分かりやすく、販売業者等のみならず、関係事業者(クレジットカード会社等)、関係団体(消費生活センター等)に対し周知することが求められる。

以上を踏まえ、消費者庁は、上記建議事項2に基づく措置を講ずべきである。

第3 消費者への注意喚起及び関係事業者等への情報提供

(建議事項3)

消費者庁は、消費者安全法を活用し、SNSのメッセージを利用した消費者事故等の発生に関する情報について、消費者への注意喚起を積極的に推進するとともに、消費者被害の発生又は拡大の防止を図るため、関係事業者等へ情報提供をすること。

(理由)

消費者安全法上の注意喚起においては、販売業者等に加えて、背景に存在し関与していた事業者名も併せて公表する等、幅広く事業者等に関する情報提供を行ったものがある。また、事業者名を掲載したり、具体的な手口や画面例を掲載している。こういった運用は、消費者被害の未然防止の観点から注目されるところである。

このため、引き続き同法を活用し、積極的な注意喚起を行うことが重要である。その際、注意喚起に関する情報が幅広く活用されることが重要であり、関係事業者等(SNS事業者等)にわかりやすい形で情報提供する等、注意喚起の方法を工夫することが求められる。

以上を踏まえ、消費者庁は、上記建議事項3に基づく措置を講ずべきである。


1 SNSとは、「ソーシャルネットワーキングサービス」の略称であり、登録した利用者同士が連絡し交流することができる会員制サービスである。本建議において、「SNSのメッセージ」とは、メッセンジャー機能などを想定している(LINE、Twitter、Instagram、Facebook)。

2 SNSのメッセージについて、消費者安全法において、虚偽・誇大な広告・表示等に当たるとされた事例として、「どなたでも手出しナシで確実に稼いで貰えるお仕事をご紹介しています」、「カンタンにいつでもどこでも稼げちゃうので毎日忙しい方や初心者さんにオススメです」、「短期間しか稼げない旬なものではなく、長期的に稼げる先のあるお仕事ですので、是非これを機に○○さんも生活を変えてもらいたいです!!」、「お仕事をこなしていくことで報酬も増えていきますが、始めた月は大体1日2万円ほどとお考え下さい」などと、あたかも、費用として9,800円を支払って本件ビジネスを始めれば、すぐに、誰でも簡単に、確実かつ継続して1日2万円程度を稼ぐことができるかのように表示しているものがある。(出典:消費者庁 令和3年4月28日「無在庫での転売ビジネスのノウハウを提供するなどとうたい、多額の金銭を支払わせる事業者に関する注意喚起」)

以上