消費者教育の推進に関する基本的な方針の変更に向けての意見

2022年9月2日
消費者委員会

消費者教育の推進に関する基本的な方針の変更に向けての意見

消費者教育の推進に関する法律(平成24年法律第61号)第9条に基づく消費者教育の推進に関する基本的な方針(以下「基本方針」という。)は、消費者教育を総合的・一体的に推進するため、国や地方公共団体の施策の指針となるだけでなく、消費者団体、事業者、事業者団体、教職員、消費生活相談員、地域福祉関係者、その他の幅広い消費者教育の担い手全ての指針となるものである。したがって、その内容は、消費者教育全般を範囲とし、それぞれの方向性を示すものとなっている。

ところで、基本方針は、おおむね5年ごとに検討が加えられるものとなっている(同法第9条第7項)が、「令和3年の地方からの提案等に関する対応方針」(令和3年12月21日閣議決定)に基づき消費者基本計画と基本方針の対象期間を一致させるため、次期基本方針に限り、令和5年度から11年度までの7年間を対象期間として策定されることとなった1

消費者委員会は、基本方針の変更にあたり、以下のとおり指摘する。これらの事項について議論を深め、基本方針に盛り込まれることを期待する。

また、今般策定される基本方針においては、対象期間が7年間と長いこと等から、期間中に社会環境の変化に即した重点課題を適宜示し、必要に応じ新たな課題への対応を含む基本方針の見直しも検討すべきである。

なお、当委員会としては、本意見の基本方針変更案への反映状況等について引き続き検討し、必要に応じ、意見表明を行っていくこととする。

1.SDGs達成に向けて、消費者市民社会の一員として行動する消費者の育成

消費者市民社会の一員としての行動は、SDGs、エシカル消費、サステナブルの考え方(以下「SDGs等の考え方」という。)と目指す方向性が同じであり、人・地域・社会・地球環境等に配慮した考え方及び行動を促す消費者教育を実施することが重要である。

消費者が、消費者市民社会の一員として、自らの行動が社会・経済及び地球環境等により良い影響を与え得ることを認識し、「自立した消費者」として考え、行動できることが重要である。

【実現に向けての観点】

  • 小学校、中学校、高等学校、特別支援学校から大学、専門学校、職域において各段階に応じた消費者教育を実施すること。
  • SDGs等の考え方に基づく消費行動には、持続可能な社会を目指すためのあらゆる取組が含まれることについての理解増進を図ること。
  • 消費者が、社会的課題を自分事として捉え、消費行動により課題解決につなげる消費者教育を推進すること。
  • 社会課題解決のためには、消費者、事業者、行政等が連携・協働することの重要性についての普及啓発を行うこと。
  • 日常の生活で実践できるエシカル消費の基本的な考え方や、その具体例をより積極的に紹介すること(例:食品ロス、プラスチックごみの削減、エシカルファッション、水産エコラベルの普及等)。

2.デジタル社会における消費者被害の未然防止と被害回復に向けた対応

社会経験が少ない子ども・若年者に加えて、高齢者、障害者、生活困窮者、外国人等脆弱性を抱える消費者には、社会における孤独・孤立化や、消費者被害にあった場合に相談が困難なケースや被害に気付かないケース等がみられる。特に若年層に関しては、成年年齢の引下げに伴い、その消費者被害の未然防止に取り組む必要性が高まっている。

誰一人取り残さない社会を実現するため、脆弱性を抱える消費者が必要な情報を入手できるようにするとともに、周囲の人々が脆弱な消費者を支援できるよう、必要な消費者教育を実施していくことが重要である。

また、社会のデジタル化に伴い、多様で複雑な契約、決済、サービス形態が絶えず出現している。デジタル化の前には誰もが脆弱性を持ち得るとの認識に立ち、消費者被害の未然防止及び被害回復とデジタルの積極的活用といった双方の観点から、デジタルリテラシーに関わる消費者教育を充実させることが重要である。

【実現に向けての観点】

  • 小学校、中学校、高等学校、特別支援学校から大学、専門学校、職域において各段階に応じた消費者教育を実施すること。(再掲)
  • 消費者被害の未然防止の観点から、消費者法分野の教育を充実させること。また、契約の成立時期等契約に関する理解を深めるための教育に力を入れること。
  • 誰もがバイアスによる脆弱性を持ち得ることから、行動経済学、心理学の知見を踏まえ、消費者被害の未然防止に向けた消費者教育を実施すること。
  • デジタルリテラシーに係る消費者教育については、デジタル取引の仕組みの構築の仕方によっては、消費者に即時に意思決定させる等バイアスを生じさせる可能性があることを消費者が理解し、自らを守る視点と、デジタルを積極的に利活用する視点の両方を踏まえ、継続的に最新情報を反映させていくこと。
  • 地方公共団体における取組については、多様な意見や資源を活用するため、関係行政機関、消費者団体、事業者、事業者団体の連携・協働を一層推進すること。

3.消費者教育の効果測定

消費者教育の推進にあたっては、EBPMの考えに立ち、必要なデータ収集やKPI設定を行い、施策の効果測定を実施することが重要である。

【実現に向けての観点】

  • PIO-NET(全国消費生活情報ネットワークシステム)情報を積極的に活用すること。また、行政機関が保有する情報の活用を検討すること。
  • 効果測定については、アウトプットにとどまらず、対象者の理解度・課題解決力の向上、対象者の行動変容(家庭内の食品ロスを2分の1にする等)、被害件数の増減等のアウトカムを重視すること。前提として、適時にデータを蓄積した上で、消費生活における考え方や行動についても併せて把握・分析し、その結果を消費者教育の施策へと活用すること。
  • 新未来創造戦略本部で実施された取組について、他の分野での効果測定調査等を参考に発展させるなどした上で横展開することを検討すること2
  • 適切なKPIの設定が容易でない施策については、調査研究の実施とそれを踏まえた新たな対応を検討すること。
  • 基本方針と、消費者基本計画工程表に掲げる消費者教育の施策との連携に留意すること。

以上

  1. 「令和3年の地方からの提案等に関する対応方針」(令和3年12月21日閣議決定)において、「消費者基本計画(消費者基本法9条1項)と消費者教育の推進に関する基本的な方針(消費者教育の推進に関する法律9条1項)については、両者の対象期間を一致させるため、次期消費者教育の推進に関する基本的な方針の対象期間について、消費者教育推進会議の意見を聴いた上で検討し、令和3年度中に結論を得る。その結果に基づいて必要な措置を講ずる。」とされたところであり、これを踏まえ、令和4年2月9日の消費者教育推進会議において、次期基本方針に限り対象期間を5年から7年に変更することを決定した。
  2. 知識定着率の高い学校や、生徒の自立意識の高い学校の取組を調べ、基礎的な知識のみならず、情報リテラシー、金銭管理、リスク管理、持続可能な消費の実践など、検討すべき消費生活の側面を定量的に把握し、消費者教育の進度やあり方を検討できるようにしていくこと。(令和2年12月消費者庁「徳島県における「社会の扉」を活用した授業の実施効果に関する報告書(平成29年度~令和元年度総括)」25頁より抜粋)