成年年齢引下げに伴う若年者の消費者被害防止に向けた対応策に関する意見

2021年12月17日
消費者委員会

はじめに

成年年齢を20歳から18歳へ引き下げる「民法の一部を改正する法律」(平成30年法律第59号。以下「改正法」という。)が、令和4年4月1日から施行される。これに伴い、新たに成年となる18歳及び19歳の若年者は、現在行使可能な未成年者取消権(民法第5条第2項)を喪失することになり、20歳代初めでみられる消費者被害が、今後、18歳及び19歳の年齢層にも拡大することが強く懸念されている。

この懸念に対応し、消費者への周知の徹底、消費者教育の充実等を目的に、消費者庁、文部科学省、法務省及び金融庁をはじめとする関係省庁において、平成30年度より集中的・重層的な取組を推進してきていることについては評価されるべきである。しかし、成年年齢引下げが若年者へ及ぼす重大な影響や、必要な対策等に関する認識が社会全体に十分浸透したとまでは言い難い1

消費者委員会としては、若年者の消費者被害を防止・救済し、自立した消費者の育成を図るためには、改正法の施行に向け万全を期すために取組を一層加速させることが急務であるとともに、改正法の施行後においても、18歳及び19歳を含む若年者に向けて、適切な周知及び消費者教育を継続的に実施することが不可欠であると考えており、関係省庁に対し、以下のとおり意見を述べる。

1 若年者の消費者被害の現状

独立行政法人国民生活センターが取りまとめたPIO-NET2の相談情報によれば、平成28年から令和2年までの5年間、契約当事者を18歳又は19歳とする相談の件数は、毎年約1万件に及んでいる3

これら相談に係る商品・役務等の内容をみると、「健康食品」、「化粧品」、「デジタルコンテンツ」、「出会い系サイト」、「アダルト情報サイト」など、20歳から22歳までにおいても件数が多い商品・役務等に関する相談が多くみられ、18歳及び19歳と20歳から22歳までの両年齢層では、消費者被害に関しても共通する点が多いことがうかがわれる。

他方、20歳から22歳までは、18歳及び19歳と比較して、「フリーローン・サラ金」、投資用教材等の「教養娯楽教材」及び「ファンド型投資商品」等の「金(かね)」に関する相談や、エステティックサービス等の「美」に関する相談件数が多くなっている4。こうしたトラブルのきっかけとしては、インターネット・SNSの広告や書込み、SNSを通じて知り合った人からの勧誘等、デジタルサービスが起点となるケースがあるが、今後、これらの消費者被害が未成年者取消権を行使できない18歳及び19歳の年齢層にも拡大していくことが強く懸念されている。

2 成年年齢引下げに係る周知及び消費者教育に関する施策等の実施の経緯

平成29年1月、消費者委員会「成年年齢引下げ対応検討ワーキング・グループ」は報告書を取りまとめ、来る成年年齢の引下げに向けて、若年成人の消費者被害の防止・救済のための制度整備、処分等の執行の強化、消費者教育の充実、若年成人に向けた消費者被害対応の充実、事業者の自主的取組の促進等を推進することについて意見を述べた。

その後、平成30年6月、国会において改正法が成立したが、審議の過程で成年年齢の引下げに伴う諸問題への対応が未だ不十分であることへの懸念が示されたことなどから、参議院法務委員会は附帯決議を採択し、成年年齢の引下げに伴う消費者被害の拡大を防止するための法整備、処分等の執行の強化、マルチ商法等による消費者被害の拡大防止対策、消費者教育の質量の充実、18歳及び19歳の若年者への自立支援及び周知の徹底等の措置を講じることへの格別の配慮を求めるとともに、施行日までに、これらの各措置について効果測定や調査を実施し、随時公表することが求められた。

こうした意見も踏まえ、関係省庁(消費者庁、文部科学省、法務省及び金融庁)は、改正法の成立に先立つ平成30年2月、「若年者への消費者教育の推進に関するアクションプログラム」を策定した。さらに政府は、翌3月に「消費者教育の推進に関する基本的な方針」の変更を閣議決定し、若年者への消費者教育を「当面の重要事項」に位置付けた。

このうち「アクションプログラム」においては、関係省庁が緊密に連携し、平成30年度から令和2年度までを集中強化期間として、高等学校等や大学等における実践的な消費者教育を強化するため、「社会への扉」5を活用した授業の実施、消費者教育コーディネーターの育成・配置等による実務経験者の活用、教員による消費者教育の指導力向上のための取組等が推進された。さらに成年年齢引下げ施行前の最終年度となった令和3年度は、「成年年齢引下げに伴う消費者教育全力キャンペーン」を通じて、関係省庁が連携しつつ、各々の立場から地方公共団体・大学等及び関係団体等への働き掛けやイベント・メディアを通じた周知活動を行い、さらには教育コンテンツの充実・活用の促進に取り組むなど、重層的な取組を展開中である。

3 これまでの取組の成果と課題

(1)成果

マル1高等学校等における「社会への扉」等を活用した消費者教育の充実

令和2年度末までに「社会への扉」等を活用した授業を実施した全国の高等学校等の割合は、86パーセント(国公立学校では95パーセント)に達した。また、域内の70パーセント以上の高等学校等で「社会への扉」等を活用した授業を実施した都道府県数は、令和2年度で45に達した6

マル2消費者教育コーディネーターの配置促進

消費者教育を担う関係者や「場」をつなぎ、「社会への扉」等の教材を活用した教育活動の提案などを行う「消費者教育コーディネーター」を配置する都道府県数は、令和2年度で34に達し、平成29年度に比して倍増した7

マル3周知・広報

消費者庁及び法務省は、それぞれ成年年齢引下げに関する情報を周知するための特設サイト8 9を開設するとともに、Twitter、LINE、YouTube等を通じた広報活動を推進している。

(2)課題

マル1私立学校及び特別支援学校での「社会への扉」等を活用した授業の実施

全国の高等学校等における「社会への扉」等を活用した授業の実施率は、令和2年度末の時点で、国公立学校では95パーセントに達している一方、私立学校は65パーセント、特別支援学校は81パーセントにとどまっている10

マル2社会での認知度

関係省庁において精力的な周知・広報活動、教育コンテンツの充実・活用が推進されているものの、未だ成年年齢の引下げに伴う影響等が社会で広く認知されているとは言い難い11。現状では、関連情報を入手するためには、ウェブページやSNSでの検索・閲覧等、対象者自身による能動的なアプローチが必要であり、対象者に一定の関心のあることが前提となる「プル型周知」にとどまっていることが、認知不足の一因と考えられる。

マル3成果の検証

各取組の成果の検証に関しては、平成29年度から、徳島県内の高校学校等において実施された「社会への扉」等を活用した授業の実施効果の検証が行われたものの12、当該検証を除き、成年年齢の引下げに係る消費者教育の有効性・実効性等について、事後的に十分な効果測定が行われているとは言い難い状況である。

マル4学校での効果的な消費者教育の実施

教育の現場では、所定の教材を通じた概括的な教育手法がとられることが多いため、実施直後は一定の理解が得られる反面、知識が十分に定着せず、経年により知識が低下する傾向がうかがわれる13。また、新型コロナウィルス感染症拡大の影響により、対面での授業の実施に制約が生じる中、施行日までの短期間のうちに、とりわけ卒業を間近に控えた高校三年生に向けて効果的な消費者教育を実施することには困難が伴うことにも留意する必要がある。

マル5消費生活センター等における相談体制

現状において、消費生活センター等では、電話又は対面での相談対応を実施することが一般的である。もっとも、若年者は日常のコミュニケーションにおいてSNSを積極的に活用する一方、電話や対面での会話には消極的であるなど、消費生活センター等への主要なアクセス手段との間でミスマッチが生じているとの指摘がある。そのため、若年者から消費生活センター等に寄せられる相談・トラブルは、氷山の一角である可能性もある。

4 今後の対応策に関する意見

以上のように、来年4月に迫った成年年齢引下げにより、新たに成年となる18歳及び19歳の若年者は未成年者取消権を喪失するにもかかわらず、依然として対応を要する諸課題が残されている。このため、消費者委員会としては、消費者庁、文部科学省、法務省及び金融庁をはじめとする関係省庁が緊密に連携した上で、以下に掲げる取組を迅速かつ強力に推進することを強く求める。

(1)「社会への扉」等を活用した授業の更なる推進

新たに成年となる若年者に対する消費者教育を効果的に行うためには、上述した周知・広報活動の強化のほか、学校等において、実際の被害事例等を踏まえた実践的な教育をきめ細かく行う必要があると考えられる。そのためには、若年者向け消費者教育教材として開発された「社会への扉」を十分に活用し、消費者教育コーディネーターの協力も得るなどして外部講師を活用した出前授業を実施することや、オンライン授業向け教材の更なる利用促進を図ることが必要であり、私立学校及び特別支援学校を含む全ての高等学校等において、施行までに、「社会への扉」等を活用した授業を当初目標の通り100パーセント実施するべく、取組を一層強化されたい14

(消費者庁、文部科学省ほか関係省庁)

(2)周知・広報活動の更なる強化及び政府広報等を活用したキャンペーン活動の実施

これまでの周知・広報活動にもかかわらず、成年年齢の引下げの意義や影響、関連する法制度の内容、注意しなければならない事項等については、必ずしも社会に十分浸透していない状況にあると考えられる。

そこで、従来の「プル型周知」に加え、「プッシュ型周知」を一層強化し、施行までの短期間において、新たに成年となる若年者をはじめとする全国民に向けて、成年年齢引下げの内容やそれにより惹起される可能性のある若年者に対する消費者被害等に関する周知・広報を徹底されたい。

具体的には、より多くの人の目に触れるよう、政府広報等を活用し、テレビCM・新聞広告やインターネット・SNS上の広告等を活用した大規模なキャンペーン活動を実施することを検討されたい。

なお、若年者が「自分ごと」として捉えることを促すことは被害の未然防止に特に有効であると考えられることから、周知・広報に際しては、若年者の被害事例等に重点を置いて情報を発信することが重要であると考えられる。また、上記のインターネット・SNS等のデジタルツールを活用することも、若年者に効果的に周知・広報を行う上では有用と考えられる。

(消費者庁、文部科学省、法務省、金融庁ほか関係省庁)

(3)制度整備及び執行の強化等

既に当委員会の意見として指摘しているとおり、新たに成年となる若年者の消費者被害の防止・救済のためには、そのための制度整備及び処分等の執行の強化が必要である。これに関し、消費者庁では、消費者契約法の見直しについて、消費者契約の内容に係る情報提供の努力義務における考慮要素として消費者の「年齢」を加味することや、消費者の心理状態に着目した取消権に係る規定を設けること等を内容とする検討会の報告書が取りまとめられたところである。次期通常国会への法案提出に向けて、こうした検討を踏まえた取組を着実に実施するとともに、特定商取引法等に違反した事業者に対して積極的かつ厳正に処分を行うなど、継続的に法執行を強化していくことが必要である。

また、施行に向けて、各業界に対して、新たに成年となる若年者に配慮した自主行動基準(過剰与信の防止や丁寧な情報提供等)の制定・遵守等を促すとともに、施行後は、若年者における消費者トラブルの発生状況等を踏まえて、必要に応じ見直し・改善を図るよう働きかけをおこなうべきである。そのうえで、事業者における自主的取組が奏功しない場合には、若年者の消費者被害を防止するため、更なる必要な対策を検討すべきである。

(消費者庁、金融庁、経済産業省ほか関係省庁)

(4)消費生活相談体制のデジタル化

成年年齢の引下げ後、18歳及び19歳の年齢層からの相談が増加することを見据え、消費生活センター等における消費生活相談のデジタル化を進展させるなど、18歳及び19歳を含む若年者がより簡易に相談できる体制を整備されたい。とりわけ、できるだけ早期にホームページ上におけるFAQ等の充実を図るとともに、メール・SNS等による相談受付やAIチャットボットによる解決支援システムの導入を実現するなど、消費生活相談体制のデジタル化に向けた取組を一層加速させることが必要である。

(消費者庁ほか関係省庁)

(5)各取組の成果の検証及び評価

成年年齢の引下げに向けてこれまで行ってきた周知・広報、消費者教育等の取組について、関係省庁において、その成果の検証及び評価を継続的に行うべきである。それに当たっては、20歳代前半でみられる消費者被害の発生状況も参照しつつ、18歳及び19歳の年齢層における消費者被害に係るKPIの設定を検討するとともに、施行後においては、PIO-NET等の情報をより迅速に分析・公表して、取組の改善・強化等につなげるべきである。

なお、「社会への扉」等を活用した授業について、その効果を検証するための成果指標としては、授業を実施した学校数に加え、生徒・学生の理解度及び定着度、更には、消費生活における姿勢・考え方、具体的な行動をどう変化させたかにも着目すべきである15。また、生徒・学生の理解度は全国規模で把握するとともに、その結果を分析した上で、教材の改訂や教育プログラムの改善にもつなげるべきである。

(消費者庁、文部科学省、法務省、金融庁ほか関係省庁)

(6)施行後の取組の具体化

成年年齢の引下げに関する諸課題への対応は、改正法の施行によって終わるものではなく、むしろ改正法の施行後に更なる取組を実施することこそが重要であると考えられる。そのためには、これまでの取組を振り返り、その成果を検証・評価した結果(上記(5))を踏まえ、施行後の効率的・効果的な施策の実施につなげていくことが求められる。

このため、消費者被害防止・救済に向けた消費者教育の充実及び制度整備の両面において、関係省庁における施行後の取組を早急に具体化すべきである16。また、それに当たっては、18歳及び19歳を含む若年者における消費者被害の発生状況等のデータを収集したうえで、取組の効果の検証・評価が可能となるようなKPIを設定すべきである。

(消費者庁、文部科学省、法務省、金融庁ほか関係省庁)

消費者委員会としては、今後も消費者庁、文部科学省、法務省及び金融庁をはじめとする関係省庁の取組状況を注視し、必要に応じ意見表明を行う所存である。

  1. 消費者委員会に送付された関係団体からの意見(令和3年度は13件<令和3年12月17日現在>)においても、同様の指摘がなされている。
  2. PIO-NET(パイオネット:全国消費生活情報ネットワークシステム)とは、国民生活センターと全国の消費生活センター等をオンラインネットワークで結び、消費生活に関する相談情報を蓄積しているデータベースをいう。
  3. 独立行政法人国民生活センター「若年の消費者トラブルの実態-相談現場からの報告-」(第357回消費者委員会資料1)
  4. 独立行政法人国民生活センター「狙われる!?18歳・19歳 「金」と「美」の消費者トラブルに気をつけて!」(令和3年4月8日)参照
  5. 消費者庁が平成29年3月に作成した高校生(若年者)向け消費者教育冊子教材
  6. 消費者庁「『若年者への消費者教育の推進に関するアクションプログラム』の進捗状況等について」(第354回消費者委員会資料1-3)
  7. 脚注6と同じ
  8. 消費者庁「18歳から大人」(https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_education/consumer_education/lower_the_age_of_adulthood/)
  9. 法務省「大人への道しるべ」(https://seinen.go.jp/)
  10. 脚注6と同じ。
  11. 法務省が令和3年3月26日から28日まで実施した「令和2年度 成年年齢引下げ浸透度フォローアップ調査」では、成年年齢が18歳に引き下げられることを「知っていた」と回答した者の割合は、16から17歳及び18から19歳で約90パーセントに達しているが、成年年齢が引き下げられるのが令和4年4月からであることを「知っていた」と回答した者の割合はいずれも半数以下であり、また、未成年者取消権を喪失することについての認知度も50パーセント程度にとどまっている(成年年齢引下げを見据えた環境整備に関する関係府省庁連絡会議(第5回)資料10)。
  12. 消費者庁「徳島県における『社会への扉』を活用した授業の実施効果に関する報告書(平成29年度から令和元年度総括)」
  13. 脚注12と同じ
  14. 施行日までの限られた期間内に実施率の向上を図るためには、卒業に向けた各種学校行事等を活用して全校生徒に対して周知・啓発や注意喚起等を行うことも有効と考えられ、文部科学省等から各学校に対して通知の発出を含めた働きかけを行うことも検討されるべきである。
  15. さらに、都道府県ごとの授業の実施率と若年者の消費生活相談情報との関係を分析することにより、授業実施の効果を検証することなども考えられる。
  16. なお、高等学校等及び大学等において効果的な消費者教育を実施するためには、知識の一方的な伝達のみならず、生徒・学生自身に考えさせ、意思決定を体験させることに重点を置く取組が有効と考えられることから、今後の教材やプログラムの作成に際して積極的に取り入れることを検討すべきである。