消費者基本計画等の実施状況に関する検証・評価及び消費者基本計画工程表の改定に向けての意見

2020年12月18日
消費者委員会

消費者基本計画等の実施状況に関する検証・評価及び消費者基本計画工程表の改定に向けての意見

消費者基本法(昭和43年法律第78号)において、消費者政策の実施の状況の検証・評価・監視について、それらの結果の取りまとめを行おうとする場合は、消費者委員会の意見を聴かなければならないとされている。このため、消費者委員会としては、消費者基本計画(以下「計画」という。)及び具体的な施策を定める工程表(以下「計画等」という。)の実施状況や、計画等に盛り込むべき新たな課題等に係る検討を、調査審議の重要な柱の一つと位置付けてきた。

令和2年7月に消費者政策会議で決定された工程表においても、「消費者委員会は、本工程表に記載されている施策の実施状況について、KPIを含めて随時確認し、検証、評価及び監視を行う。」とされている。

消費者委員会としては、個別施策に係るヒアリングの結果や最近の被害の実態等を踏まえ、計画等の実施状況に関する検証・評価において、特に留意すべき事項や工程表の見直しに向けて具体的に検討すべき課題について、下記のとおり意見を述べる。関係省庁等においては、下記の各項目について十分に検討の上、可能な限り工程表の改定素案等に反映されたい。

なお、消費者委員会としては、引き続き令和3年1月以降も、下記1のコロナ禍等緊急事態下の消費者問題等についてヒアリングを行うとともに、今後、消費者庁において策定される工程表の改定素案に対し、更なる意見表明を行うことを予定している。

1.コロナ禍等緊急事態下における消費者問題及び消費者行政のデジタル化への対応

新型コロナウイルス感染症拡大により、外出自粛や人との接触をなるべく減らす行動が求められ、在宅時間の増加、インターネット通販の利用拡大、デジタル化の加速、消費行動や価値観の変化等、消費者に様々な影響が生じている。こうした変化に対応した「新しい生活様式」を踏まえて必要とされる施策のほか、新型コロナウイルス感染症に便乗した悪質商法その他の消費者問題への対策について整理・類型化を行い、以下の事項を含め追加・拡充すること。

また、同感染症の流行により、対面での消費生活相談や見守りに制約が生じており、デジタル化により、そうした制約を補完することが期待されている。消費者政策においては、この機会に、高齢者などデジタル技術に習熟していない消費者もいることに配慮しつつ、デジタル化を進めるとともに、デジタル・リテラシーの向上に努めることが必要である。消費者行政のデジタル化及び消費生活のデジタル化が招く消費者問題への対応についても、以下の事項を含め追加・拡充することが必要と考えられる。

さらに、大規模災害の発生等の状況下においても同様の消費者問題が発生するおそれがあることに鑑み、今般の緊急事態下で講じた施策の効果や迅速性等についてリスク管理という観点も踏まえて検証・評価をした上で、改善点を抽出し、工程表を見直すことが必要と考えられる。

(1)消費者の不安に乗じた悪質商法等への対応

新型コロナウイルス感染症に限らず、自然災害等も含め、社会的に大きな不安が生じた際に、それに便乗する形で悪質商法等が行われることは、これまでも繰り返し発生し、また、今後も発生すると考えられる。このようないわゆる便乗商法等に係る消費者被害については、あらかじめ予測し得る側面もある。

そこで、消費者に対して、具体事例に即した迅速かつ効果的な注意喚起や、関係行政機関と連携した消費者教育の取組等、被害の未然防止、拡大防止のための取組をより一層強化するとともに、引き続き迅速な取締りに取り組むこと。以上を踏まえ、工程表を見直すこと。(消費者庁、警察庁)

(2)フィッシング対策

近時、フィッシングが急増傾向にあることから、消費者委員会では、令和2年12月、関係行政機関において早急に取り組むべき事項について、「フィッシング問題への取組に関する意見」として取りまとめた。同意見を踏まえた具体的な施策について、工程表に記載すること。(警察庁、総務省)

(3)緊急事態下における消費生活相談体制の充実、地域の見守りネットワークの構築

都道府県と市町村の役割分担の明確化、消費者行政部局と他部局との連携の促進に関し、必要な方策について検討すること。(消費者庁)

消費者がどこに住んでいても質の高い相談を受けられるとともに、潜在的な相談の掘り起しにもつながるよう、SNSを含めた多様な相談手段を確保すること。その際、相談への応答率を高め、安定的に相談を受けられるよう、広域での効率的なSNS相談体制の構築を推進する方策を検討すること。(消費者庁)

また、チャットボットを活用した情報提供の試行に当たっては、相談員による相談対応と組み合わせるなど、ハイブリッドな相談体制の在り方を検討すること。さらに、中長期的には、前述の取組により顕在化する相談に十分対応することができるよう、AIを最大限活用し相談業務の効率化及び相談員に対する支援を図りつつ、相談員が相談者と信頼関係を築きながら聴き取りを行うなどして事案の解決に取り組むことができるという対面のメリットもいかす観点も踏まえ、相談員(人)とAIが協働する相談体制の在り方についても検討すること。(消費者庁)

起こり得る消費者問題を先取りし、より迅速な注意喚起や法執行等につなげられるよう、AIによる相談内容の分析機能を導入するなど、PIO-NET1の機能強化を含めた消費生活相談体制の更なるデジタル化を検討すること。(消費者庁)

福祉など他分野における見守りとの連携や情報共有を強化するとともに、デジタル技術を活用した見守りの在り方について検討すること。その際、デジタル弱者にも配慮したものとすること。(消費者庁)

(4)食品表示の適正な運用に関する取組

新型コロナウイルス感染症拡大によりインターネット通販が一層拡大しており、ECサイト上の食品表示の在り方について、アレルギー等の健康被害を未然に防止する観点からも、早期に具体的な取組の方向性を示すことが重要である。

令和2年度に実施する「ECサイト食品表示実証モデル構築事業」の調査結果やコーデックス委員会での検討の内容等を踏まえ、ECサイトにおける食品表示の在り方を早期に検討すること。(消費者庁)

(5)デジタル・プラットフォーム企業が介在する取引における消費者問題への対応

消費者庁において「デジタル・プラットフォーム企業が介在する消費者取引における環境整備等に関する検討会」が開催され、令和2年8月、論点整理が公表された。論点整理を踏まえた今後の取組内容について、工程表に記載すること。(消費者庁)

(6)社会のデジタル化に対応した消費者教育の推進

新型コロナウイルス感染症拡大に伴う生活様式の変化等により、社会のデジタル化が加速化している。このような社会のデジタル化におけるリスクやその対応策について、消費者があらかじめ学んでおくことが重要となる。特に高校生・大学生については、令和4年4月からの成年年齢引下げを踏まえ、実践的な消費者教育が重要である。

消費者庁において「消費者のデジタル化への対応に関する検討会」及びその下部組織である「AIワーキンググループ」が開催され、令和2年7月、報告書」等が取りまとめられた。また、消費者庁においては現在、「消費者教育推進会議」及びその下部組織である「社会のデジタル化に対応した消費者教育に関する分科会」、「消費者保護のための啓発用デジタル教材開発に向けた有識者会議」、並びに「生活者・消費者教育に関する関係府省庁連携推進会議」が開催されている。

上記に関する今後の取組内容のほか、社会のデジタル化に対応した消費者教育の推進について、担い手となる人材の育成・活用策も含め、工程表に記載すること。(消費者庁、文部科学省)

2.SDGsの推進

(1)環境の保全に資する消費者と事業者との連携・協働

2050年カーボンニュートラルに向けて、令和2年度に実施予定である地球温暖化対策計画及び地球温暖化対策のための国民運動実施計画の見直しの内容も踏まえて、脱炭素社会づくりに向けたライフスタイルの変革に係る工程表を見直すこと。(環境省)

(2)エシカル消費の普及啓発

消費者が、ポストコロナ時代も見据えて、持続可能な社会の実現に向けて、自ら考え、人や社会・環境に配慮した消費行動をとることができるよう、消費者教育を通じ、エシカル消費の普及啓発を図ること。(消費者庁、関係省庁)

(3)消費者志向経営の推進

消費者庁において、「消費者志向経営の推進に関する有識者検討会」が開催され、令和2年8月、中間報告書が取りまとめられた。中間報告書及び令和2年度の検証を踏まえ、消費者と事業者間の協働の具体化による消費者からの後押し拡大や、地方公共団体との連携強化による取組の全国展開を始めとして、今後、自主宣言事業者数を増やしていくための具体的な方策について更に検討し、工程表に記載すること。(消費者庁)

3.地方消費者行政の充実・強化

地方消費者行政については、令和2年4月、地方消費者行政強化作戦2020が策定され、地方消費者行政強化交付金等を活用した取組支援が行われ、一定の充実が図られてきた。令和2年地方消費者行政の現況調査によれば、自主財源の増加等がみられるものの、消費生活相談員の2年連続減少等の事態も生じている。今後、高齢化や人口減少が更に進む中にあっても地方消費者行政を持続可能なものとするため、消費者委員会が令和2年8月に公表した、「2040年頃の消費者行政が目指すべき姿とその実現に向けた対応策等に関する意見」も踏まえつつ、消費生活相談員の更なる処遇改善や消費者行政の担い手となる多様な人材を育成・確保するための方策を始め、必要な施策について検討し、工程表に記載すること。(消費者庁)

4.特定商取引法・預託法の見直し

消費者庁において「特定商取引法及び預託法の制度の在り方に関する検討委員会」が開催され、令和2年8月、報告書が取りまとめられた。報告書を踏まえた今後の取組内容について、工程表に記載すること。(消費者庁)

なお、契約書面等の電子交付に関する検討に当たっては、契約書面等の制度上の意義を十分踏まえつつ、消費者保護の機能を失わせない観点から検討すること。(消費者庁)

5.携帯電話の料金等に係る表示の適正化及び消費者の合理的な選択の機会の確保

携帯電話料金の低廉化に向けた二大臣会合の検討の内容等を踏まえ、消費者が自らのニーズに合った料金プランを容易に選ぶことができるよう、各事業者の広告表示について総点検を行うとともに、料金やサービスの内容等について、消費者への一層の周知に取り組むこと。(総務省、消費者庁)

(以上)

  1. 全国消費生活情報ネットワークシステム(Practical Living Information Online Network System)。独立行政法人国民生活センターと全国の消費生活センターをネットワークで結び、消費者から消費生活センターに寄せられる消費生活に関する苦情相談情報(消費生活相談情報)の収集を行っているシステム。