「悪質なお試し商法」に関する意見

2020年6月26日
消費者委員会

「悪質なお試し商法」に関する意見

第1 はじめに

「お試し無料」「お試し価格〇円1」「初回無料」「初回〇円」等2(以下「お試し価格」という。)をうたい、実際は定期購入を条件とした契約を締結させるといった、定期購入に関する消費者問題(以下「本件問題」という。)がここ数年で急増している。

具体的には、PIO-NET3上の定期購入に関する相談件数4は、平成28年4月から令和2年5月までの累計件数で11万件を超え、令和元年度だけで約5万件となっており、いまだ毎月数千件単位で推移している(別紙参照)。

この点、独立行政法人国民生活センターは、平成28年6月16日、平成29年11月16日、令和元年12月19日の計3回、本件問題に係る注意喚起を行った。また、消費者庁においても、令和元年12月26日に2件、令和2年1月22日に1件、定期購入に係る事案に関して、特定商取引に関する法律(昭和51年法律第57号。以下「特商法」という。)に基づく行政処分を行った。

このような状況を背景に、当委員会は、本件問題について調査検討を行い、現時点において、以下第2のとおり問題意識を有するところであり、これに基づき、以下第3のとおり意見を述べる。

消費者庁におかれては、本件問題に係る議論を深めていくに当たり、本意見の趣旨も踏まえて検討されたい。

なお、当委員会としても、今後の状況を注視し、必要に応じ更に調査審議を行うこととする。

第2 問題意識

1 「悪質なお試し商法」の類型

当委員会として、本件問題の中でも「悪質なお試し商法」として問題視する類型は、以下のとおりである。

(1)回数縛り型
 例えば、お試し価格を誇張して一回限りのお試し販売と見せかけ、実際は、最低●回の購入等(以下「回数縛り」という。)を条件とした定期購入契約を締結させる場合等をいう。2回目に数箇月分の商品を一括して購入することを条件とし、総額数万円を請求するケース等が見受けられる。
(2)違約金型
 例えば、定期購入契約ではあるが回数縛り等の条件はなく、当該定期購入契約の解約がいつでも可能(以下「解約自由」という。)であったとしても、初回購入後、中途解約した場合には初回がお試し価格ではなく通常価格に戻り、いわば解約料又は違約金のようなものが請求される場合等をいう。
(3)解約困難型
 例えば、定期購入契約につき、電話による解約手続に限定されているため販売業者に電話をかけたところ、一向につながらない場合等であって、その間に販売業者側が定めた解約期限が過ぎてしまい、次回分商品の受領及び支払をせざるを得なくなる場合等をいう。

なお、以上(1)から(3)までの類型が組み合わされている場合もある。

2 問題の所在

「悪質なお試し商法」の各類型に係る問題の所在を整理すると、以下のとおりである。

(1)表示に係る事項
 販売業者が、お試し価格や解約自由(以下「お試し価格等」という。)の表示を他の契約条件の表示よりも誇張し、かつ、契約条件の全体が理解困難な表示手法がとられていること。例えば、お試し価格等の表示につき、他の契約条件と比して著しく大きなフォントサイズ、目立つフォント、文字色、背景色等を使用するほか、お試し価格等の表示から何度もスクロールしなければ認識できないような離れた位置に他の契約条件を表示すること等5が挙げられる。
(2)契約内容に係る事項
 例えば、中途解約した場合にはお試し価格が通常価格に戻ること6、2回目は数箇月分の一括購入とすること等が挙げられる。
(3)解約手続に係る事項
 例えば、定期購入契約であることを表示する一方で、解約自由を強調しておきながら、実際には、解約手続の方法を電話のみに限定し、かつ、解約期限を比較的短い期間に設定することにより、当該期間が過ぎるまで電話受付を事実上拒否して解約できないようにすること等が挙げられる。また、解約期限を他の契約条件と関連させて複雑にした上で、当該他の契約条件を表示しない又は分かりづらく表示すること7等も挙げられる。
(4)消費者による誤認等に係る事項
 例えば、上記のような表示に係る問題や、「お試し」という文言に対する消費者の一般的な理解と定期購入という実際の契約内容との矛盾を前提として、消費者に対して、金銭的な負担はない、又は、お試し価格のみ支払えばよいと誤認させること等が挙げられる。

なお、上記(1)から(4)までについては、相互に関わっている場合もある。

第3 意見

消費者庁は、これまで、特商法に基づく執行や、消費者に対する注意喚起等の措置を行ってきたところであるが、「悪質なお試し商法」に関する消費者問題がいまだ多く発生し、多数の消費者被害が生じていることに鑑み、法制度や法執行の在り方を含む消費者被害の未然防止、再発防止、被害回復について検討を行い、必要な措置を講ずるべきである。

「悪質なお試し商法」に関する必要な措置等に係る当委員会における意見は、以下のとおりである。

1 消費者庁において早急に講ずべき事項

(1)ガイドラインの見直し
 上記第2で指摘した問題意識も踏まえ、まずは8、インターネット通販における申込みの最終確認画面等を規律する「インターネット通販における『意に反して契約の申込みをさせようとする行為』に係るガイドライン」9(特商法第14条第1項第2号、特定商取引に関する法律施行規則(昭和51年通商産業省令第89号。以下「特商法施行規則」という。)第16条第1項第1号及び第2号参照)につき、見直しを行うこと。
 例えば、以下のことが考えられる。
 
ア 販売業者が、初回をお試し価格10とする定期購入契約の申込みを受ける場合においては、購入者が、申込みの最終確認画面において、定期購入契約の申込みをするに当たって消費者の重要な考慮要素となる条件の全てを明瞭に判読し、適切に理解できるような表示とするようにすること。
  例えば、当該定期購入契約に係るお試し価格等以外のその他の契約条件の表示につき、マル1お試し価格等の表示と同等の又は当該表示よりも目立つ色、フォント及びフォントサイズで行うこと、マル2お試し価格等の表示が含まれる画面表示からスクロール又は切替えを要さずに済む同一画面内で表示すること、マル3お試し価格等の表示との距離を開けずに近接して表示すること11を満たす必要がある旨を確認的に追記すること等が考えられる。
 
イ 特商法施行規則第16 条第1項第1号及び第2号で定める行為に該当しない画面例又はこれらの行為に該当する画面例を示すに当たっては、一般化又は抽象化した体裁だけではなく、「悪質なお試し商法」を行う事業者(以下「悪質事業者」という。)の販売サイト等における実際の画面例を参考にしながら、具体的な画面例の追加を示すことも含めて検討すること。
 
(2)執行の強化及び高度化
ア 執行官庁の迅速な執行等を通じて悪質事業者を市場から淘汰するとともに、健全な事業者が適正な事業を行えるよう、執行の強化に向けて、事業者や消費者にとって分かりやすいガイドライン等を整備すること。
  例えば、広告表示(特商法第11条第5号、特商法施行規則第8条第7号)や誇大広告等の禁止(特商法第12条)につき、その具体的な表示の内容や方法をガイドライン等で定めること12等が考えられる。
 
イ ICTやAIの積極的な活用13、健全な事業者団体等との連携の強化等により、監視を高度化する体制を整備すること等。
 
(3)消費者に対する情報提供及び注意喚起
 「悪質なお試し商法」及び悪質事業者に関して、消費者に対する情報提供及び注意喚起を徹底すること。
 例えば、以下のことが考えられる。
 
ア 消費者に対する注意喚起で事例を示す際は、一般化又は抽象化した情報を示すのではなく、例えば、実際の悪質事業者が使用している画面表示により近づけた画面を再現して示す等、注意喚起を受けた消費者が実際の状況を体感し、自分事として受け止めることができるような形式及び体裁で示すこと。
 
イ SNS上の広告やアフィリエイト広告を介して悪質事業者の販売サイトに遷移したという相談事例があることも示すこと。

2 その他検討が必要な事項

「悪質なお試し商法」に係る論点は多岐にわたり、その特有の問題のほか、インターネット取引全般に及ぶ論点も含まれている。当委員会として、その他検討が必要と考える事項は、現時点、以下のとおりである。

(1)「悪質なお試し商法」にもみられるような少額多数被害に係る実効的な救済の仕組み14
(2)インターネット取引における消費者の利益保護を実現するための民事法上の効果の在り方
(3)アフィリエイト広告に係る責任の主体や内容の在り方

これらについては、当委員会としても、今後の状況を注視し、必要に応じ更に調査審議を行うこととする。

(以上)

  1. 「〇円」は、例えば通常価格が1万円であるところを初回は「500円」とする等、通常価格よりも安い価格が示される。本意見において「〇円」との表記は同じ趣旨である。
  2. その文言の組合せは多様であるため、これらは一例にすぎない。
  3. PIOーNET(全国消費生活情報ネットワークシステム)とは、独立行政法人国民生活センターと全国の消費生活センターをネットワークで結び、消費者から消費生活センターに寄せられる消費生活に関する苦情相談情報(消費生活相談情報)の収集を行っているシステムのことである。
  4. 当該相談件数は、通信販売で「お試し価格」「初回無料」などをうたった飲料、健康食品、化粧品の定期購入に関する相談を集計したものである。
  5. その他の例として、広告表示の途中で「今すぐ購入する」等のボタンが表示され、当該ボタンをクリックすると、契約条件に係る表示を全て確認できないままに、直ちに購入画面へと遷移してしまうケースも見受けられる。
  6. 当該契約内容自体が必ずしも悪質であるとはいえない場合もあり、このような契約内容を悪用する場合を問題視している。
  7. 例えば、「解約期限は次回商品発送日の●日前とする。」旨表示しておきながら、次回商品発送日を表示しない又は分かりづらく表示するケース等が見受けられる。
  8. 当委員会としては、まず見直しを行うべき対象として、既に定められ、かつ、運用されている特商法第14条第1項第2号に係る当該ガイドラインを挙げた。しかしながら、最終的には、同条項のみならず、広告表示に関する特商法第11条及び誇大広告等の禁止に関する特商法第12条についても、上記第2で指摘した問題意識等を踏まえ、特商法施行規則やガイドラインの在り方を検討していく必要があると考えている。
  9. 令和2年3月31日各経済産業局長及び内閣府沖縄総合事務局長宛て、消費者庁次長/経済産業省大臣官房商務・サービス審議官発「特定商取引に関する法律等の施行について」別添7。
  10. 上記第1における用語と同じ。
  11. 現行のガイドラインにおいては、「申込みの最終段階の画面上において、定期購入契約の主な内容の全てが容易に認識できないほどその一部が離れた場所に表示されている場合」を特商法施行規則第16 条第1項第1号で定める行為に該当するおそれがある例として示している。しかしながら、当該基準は、どの程度離れた場所に表示されていれば容易に認識できないのかが不明瞭であるため、むしろ、距離を開けずに近接して表示する必要がある旨定めるべきである。
  12. その考え方としては、脚注8も参照されたい。
  13. 例えば、インターネット上の監視体制を強化するため、AIを活用して法令違反のおそれのある表示を検索、抽出し、当該表示を目視により確認する方法等が考えられる。
  14. その他、悪質事業者の手元に不当な利益が残らないようにし、当該悪質な事業のインセンティブを削ぐために、不当な利益を剥奪するための制度や仕組みを構築することも合わせて検討していく必要がある。