次期消費者基本計画案(令和元年12月)及び工程表策定に向けての意見

2020年1月30日
消費者委員会

次期消費者基本計画案(令和元年12月)及び工程表策定に向けての意見

消費者基本法においては、消費者基本計画の検証・評価・監視について、それらの結果の取りまとめを行おうとする場合には、消費者委員会の意見を聴かなければならないとされている。このため当委員会としては、計画の実施状況や計画に盛り込むべき新たな課題等に係る検討を調査審議の重要な柱の一つと位置付けてきた。

次期消費者基本計画(以下「次期計画」という。)については、平成30年9月に発出した「次期消費者基本計画策定に向けた基本的な考え方についての意見」を始めとして、次期計画策定に向けての課題や留意すべき視点について累次指摘するとともに、消費者庁から、随時、その検討状況についてヒアリングを重ねてきた。

当委員会は、昨年12月から個別施策についてもヒアリングを行うとともに、同月25日の消費者委員会本会議において、次期計画案について、消費者庁からヒアリングを行ったところである。このヒアリング結果や、これまでに行った建議・提言その他の意見表明の内容等を踏まえ、次期計画等の策定において特に留意すべき事項や具体的に検討すべき課題について、下記のとおり意見を述べる。関係省庁等におかれては、下記の各項目について十分に検討の上、可能な限り次期計画の原案等に反映されたい。

当委員会としては、本意見及びパブリックコメントの次期計画等への反映状況やその後の実施状況等について引き続き監視を行い、消費者被害の状況が深刻なものや取組が不十分と考えられるもの等については、必要に応じて建議等を行っていくこととする。

なお、当委員会としては、消費者庁において別途策定する工程表素案に対し、状況に応じ、更なる意見表明を行うことを予定している。

第1 計画に反映が必要な事項

1.計画全般に関する事項

○ 第1章の「2.消費者庁・消費者委員会設置とその後10年間の消費者政策の展開」において、消費者委員会がこれまでの調査審議や建議等の発出を通して果たしてきた役割等についても本文に明記されたい。

○ 第1章の「2.消費者庁・消費者委員会設置とその後10年間の消費者政策の展開」での消費者契約法の改正による取消権の創設等の記載について、平成29年8月に発出した答申1の趣旨及び改正消費者契約法の附帯決議を踏まえ、本文における「主として若年者に発生している被害事例を念頭に置いた」を削除することを検討すべきである。

○ 消費者のぜい弱性は、年齢等の特性による固定的なものや、災害等に起因するものや、電子商取引等における一時的なものなど様々な類型があり、それぞれ対応していくことが重要である。そのため、第1章から第3章までで使われている「消費者のぜい弱化」について「ぜい弱性」とするなど表現を工夫されたい。

○ SDGsの達成のためには、全てのステークホルダーが役割を果たすことが重要である。そのため、消費者政策に関わる様々な主体への理念の浸透に向け、SDGsと消費者政策の取組の全体を俯瞰した記載を追加すべきである。

○ 計画中における「連携」や「協働」の取組について、本文に例示するなど具体的に記載されたい。特に、既存の取組については、これまでの施策の進捗等も踏まえ、今後10年を見据えた連携や協働の在り方等について、できる限り具体的に示されたい。

2.政策の基本方針に関する事項(第3章関連部分)

(1)コミュニティの形成等における行政の役割

多様な主体によるコミュニティの形成等、共助による地域づくりの推進に向けた取組を進めることは重要である。一方で、悪質業者への対策や越境取引への対応など、コミュニティのみでは対応できない課題があることも事実である。そのため、自助、共助の視点に加え、公助(行政)に求められる役割についても明記されたい。(消費者庁、関係省庁)(1.(3)関係)

(2)消費者志向経営の促進に向けた取組

消費者志向経営を促進するためには、消費者と事業者が一体となってその取組を進めていく必要がある。

そのため、消費者志向経営の促進に向けた方策や自主宣言後のフォローアップの取組、基準の明確化や消費者が後押しする気運の醸成等、消費者志向経営が社会の基本認識となるための中長期的な視点や取組を明記されたい。(消費者庁)(2.(3)②関係)

(3)協働を支える地域の枠組みの構築

消費者団体は、消費者の埋もれがちな声を集約し、具体的な意見として表明するほか、消費者への情報提供、啓発等を行っており、消費者政策の推進に果たす役割は大きい。そのため、地域におけるネットワークの構築における消費者団体との協働の在り方について、具体的に記載すべきである。(消費者庁)(2(3)③関係)

また、ボランティア団体やNPO等の多様な主体との協働における行政の役割についても具体的に記載すべきである。(消費者庁、関係省庁)((2(3)③関係)

3.行政基盤の整備に関する事項(第4章関連部分)

(1)情報基盤の整備

消費者被害が多様化・複雑化する中で、消費者行政の機能強化に向けた更なる情報基盤の整備・充実は必要不可欠である。特に、全国の消費生活センター等に寄せられた情報を一元的に集約しているPIO-NETの情報については、各消費生活センター等での相談業務において大きな役割を果たしていることに加え、国における法令の執行、消費者政策の企画立案や消費者への情報提供等においても基盤をなすものである。

また、国民生活センターでは、現下の課題も踏まえた今後のPIO-NETの在り方について検討するため「PIO-NET刷新検討会」を開催し、平成30年9月、PIO-NETの刷新方向性と改善方針等を報告書2として取りまとめている。

そのため、以下の点について本文に明記すべきである。(消費者庁)((1)関係)

  • 消費者行政の情報基盤の整備における国の役割
  • PIO-NET情報の国と地方における活用の現状とその関係性
  • PIO-NET活用に係る現状の課題を踏まえた今後の方向性
(2)専門人材の積極的な登用

人口減少、高齢化等を踏まえ、専門人材の確保や育成に向けた取組を進めることは重要である。また、消費者政策の担い手として、消費者政策を専門的に学んだ人材を積極的に登用し、活躍できる場を提供することを通して、社会的な貢献とニーズの双方を広げていく必要がある。

そのため、専門人材等のプレゼンスの向上に向けた今後の取組の方向性について明記されたい。(消費者庁)((2)関係)

(3)地方における組織基盤の確保

消費者行政の最前線は地域であり、地方消費者行政は国全体における消費者行政の基盤をなすものであることから、消費者の安全・安心を確保していくためには、地方消費者行政の強化が不可欠である。そのため、国、都道府県、市町村が共通の意識を持ち、地方公共団体等において、組織基盤を確保、強化していくことの重要性や、それに向けた基本的な方向性について本文に明記されたい。(消費者庁)((3)関係)

(4)消費者庁の司令塔機能の発揮

消費者事故や消費者トラブルの発生及び拡大の防止に向けた取組を進めていくためには、所管法令等について不断の整備・見直しを行うとともに、その運用に当たっては、関係省庁と連携しつつその運用状況を把握するなど、連携強化の取組を推進すべきである。そのため、以下の点について本文に明記すべきである。(消費者庁、関係省庁)((4)関係)

  • 消費者庁が「消費者行政の司令塔・エンジン役」として、各府省庁の縦割りを超え幅広い分野を対象とした横断的な政策の企画立案等を行っていくこと
  • 消費者事故や消費者トラブルの発生及び拡大の防止に向け、関係省庁等と相互の協力の下で、法令等の運用実態や被害の発生状況等を的確に把握するなど組織としても適切に連携していくこと
  • 消費者取引の多様化・複雑化・国際化や新たなビジネス等に対応するために、必要な制度整備や法制度の在り方の検討に当たり、スピード感を持って行うこと

4.個別施策に関する事項(第5章関連部分)

(1)食品安全の確保

食品の安全を確保していくためには、基本原則である原料農産物等の科学的検証に加え、書類の確認等による社会的検証の仕組みをより良いものとしていくことが重要であり、トレーサビリティの整備に向けた取組を進めることを明記されたい。(農林水産省)(1.(1)関係)

(2)消費者事故の発生・拡大・再発防止に向けた取組

消費者事故の発生・拡大・再発防止に向け、これまでの調査分析で得られた知見の活用や職員の資質向上に向けた取組など、今後の取組の方向性について明記されたい。(消費者庁、関係省庁)(1.(1)②③関係)

また、必要な情報がより適切に消費者に伝わるよう行動経済学の知見等を踏まえて、消費者への情報提供の在り方について検討する旨を明記されたい。(消費者庁、関係省庁(1.(1)②③関係)

(3)被害回復・救済に向けた取組

消費者被害の拡大・再発防止に加え、消費者被害の救済に向けた取組も重要である。そのため、消費者被害の回復・救済制度の利用促進に向けた取組について具体的に記載するなど記載の充実を図られたい。また、被害回復の実効性の確保や向上に向けた取組についても明記されたい。(消費者庁)(1.(2)関係)

(4)消費者の苦情処理、紛争解決に向けた取組

平成28年10月から施行された消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律(消費者裁判手続特例法)は、施行後3年を経過した場合において、この法律の規定や施行の状況等について検討を加えることとされている。昨年、施行から3年を迎えたことから、制度の適切な運用のみではなく、制度の見直しを含め、今後の取組の方向性について明記されたい(消費者庁)(1.(4)関係)

また、紛争解決のための制度の活用促進を図るとともに、紛争解決に係る相談窓口周知にも、積極的に取り組むべきであり、その旨を明記されたい。(消費者庁)(1.(4)関係)

(5)パーソナルデータを含むビックデータの適切な管理と効果的な活用

近年、ビックデータの適正な利活用に資する環境整備に向けた取組が進められている一方、ビックデータ等の活用に当たっては、消費者の利便性向上と消費者保護のバランスを図る必要がある。特に、パーソナルデータの中に含まれる個人を識別できる情報の管理に当たっては、他の情報と同様に扱われることのないよう留意すべきである。

また、いわゆる情報銀行の今後の在り方については、情報銀行事業及びその認定がまだ開始後間もないことから、定期的に認定指針の運用状況を点検し、事業の展開や関連制度の動向等を踏まえて、必要に応じ認定指針の改定を検討することとされている。この事業については、消費者を巻き込んだ議論を通じて、消費者の利便性向上と消費者保護を図り、消費者を含む社会全体の理解と信頼を得られるようにする必要があると考えられるため、それを踏まえた今後の取組について明記すべきである。(総務省、経済産業省)(3.(1)②関係)

(6)消費者教育の推進

「人生100年時代」を迎え、さまざまなライフステージを前提とした持続可能な社会の構築に向けて、各ライフステージにおける消費者教育を充実するとともに、消費者が主体的に取り組んでいくことが重要である。

こうした消費者教育の機会等の充実を図るため、地域における取組の支援にとどまらず行政においても消費生活センターや関係機関と連携し、その推進に向けた取組を進めることを明示すべきである。(消費者庁、関係省庁)(4.(1)関係)

(7)消費者政策に関する啓発活動の推進

普及啓発を行うための推進戦略について、例えばアウトカム指標をどのように設定するかなど、その基本的な方向性について記載されたい。(消費者庁)(4.(2)関係)

第2 工程表策定に向けて留意すべき視点

1.全体的な事項

(1)新規施策の積極的な反映

次期計画に基づく既存の取組に加え、今後取り組むべき新たな施策についても積極的に工程表に盛り込んだ上で、積極的に取組を進められたい。

(2)KPIについて3

これまでの施策の達成状況等に応じ、指標の見直しやアウトカム指標の追加設定を行うとともに、目標の数値等についても、不断の見直しを図られたい。

また、現状のKPIについての検証を行うとともに、それを踏まえ次期工程表の策定に向けて、SDGsへの対応や取組の進捗状況も踏まえ、より効果的なKPIの設定方法等について検討の上、積極的に盛り込まれたい。

(3) 工程表の年表について3

年限を区切らずに5年間で取り組むことが示されているものについては、定期的・継続的に実施しなければならないものを除き、可能な限り具体的な取組に分けた上で、当該具体的な取組ごとに期限を明確に設定した上で、記載すべきである。したがって、取組の進捗や効果が思わしくない施策は、その状況を改善するための具体的な対策を工程表に反映されたい。

2.現時点において、工程表への反映が必要と考えられる事項

(1)事故情報の収集、注意喚起等

12月意見4以降、累次指摘をしているとおり、平成29年8月に当委員会が発出した提言5を踏まえた、中長期的な取組スケジュールを検討の上、特に以下の取組について具体的に工程表に明記されたい。(消費者庁)

  • 事故情報データバンクの入力項目の精査や、事故原因の究明等を行っている研究機関へ公開する等の事故情報の公開促進に向けた取組
  • 事故情報の更なる活用に向けて、関係省庁のみならず消費者、事業者、事故情報データバンク参画機関が連携・情報交換をスタートさせる取組
(2)いわゆる「販売預託商法」に関する消費者問題についての対応

当委員会が昨年8月に発出した建議及び意見6への現在の検討状況を踏まえ、今後どのような取組を行うのか、以下の事項を含め工程表に明記されたい。(消費者庁、警察庁)

  • いわゆる「販売預託商法」に係る法制度・法執行の在り方についての検討
  • 悪質な「販売預託商法」事犯の取締りに係る関係機関との連携強化に向けた取組
(3)消費者契約法の見直し

平成29年8月に発出した答申の付言及び改正消費者契約法の附帯決議を踏まえた検討については、消費者庁において「消費者契約に関する検討会」が開催されている。今後の取組スケジュールを、期限ごとに可能な限り具体的に明記されたい。(消費者庁)

(4)与信審査

産業構造審議会商務流通情報分科会割賦販売小委員会最終報告書を踏まえ、AI等の技術・データの活用に当たっての消費者保護の取組や、過剰与信の防止等に向けた今後の取組について具体的に工程表に明記されたい。(経済産業省)

(5)身元保証等高齢者サポート事業に関する消費者問題についての対応

3月意見でも指摘したとおり、これまでの取組を踏まえ、今後どのような取組を行うのか、以下の事項を含め工程表に明記されたい。(厚生労働省、消費者庁)

  • 預託金の適切な保全などに係る身元保証等高齢者サポート事業を提供する事業者への働きかけ
  • 平成29年度に実施された実態調査の結果を踏まえた身元保証人に期待される機能の詳細検討、より小規模に提供される身元保証等高齢者サポートの実態把握、今後、身元保証等高齢者サポート事業の需要が増大する社会における制度の在り方など、実態調査の結果から課題とされた事項に対する更なる取組
(6)食品表示制度

栄養成分表示の義務化等を内容とする食品表示法に基づく新たな食品表示制度が令和2年度から全面施行される。消費者の更なる食品表示の活用に向けた取組について具体的に工程表に明記されたい。(消費者庁)

また、令和4年度に全面施行される加工食品の原料原産地表示制度、及び令和5年度に施行される遺伝子組換え食品表示制度について、円滑な施行のための事業者への周知や消費者への普及に係る取組について工程表に明記されたい。(消費者庁)

(7)環境保全に向けた消費者の役割

省・再生可能エネルギーや、気候変動対策、循環型社会の実現等が課題となる中、電力の小売全面自由化や、都市ガス小売自由化などにより、消費者がエネルギーについて自ら選択できる環境が整いつつあり、環境保全に向けて消費者が果たす役割は大きい。

そのため、循環型社会や脱炭素社会の実現に向けた消費者への情報提供や普及啓発について、この点を踏まえた具体的な取組を明記されたい。(環境省、関係省庁)

(8)プラットフォームが介在する取引の在り方

平成31年4月に当委員会が発出した提言7を踏まえた具体的な取組について工程表に明記されたい(内閣官房、消費者庁、総務省、経済産業省)

また、消費者庁において「デジタル・プラットフォーム企業が介在する消費者取引における環境整備等に関する検討会」に係る検討スケジュールについて工程表に明記されたい。(消費者庁)

(以上)

  1. 消費者契約法の規律の在り方についての答申(平成29年8月8日)
  2. 次期PIO‐NET刷新に向けて‐PIO‐NET刷新検討会報告書‐
  3. 消費者基本計画工程表の改定素案(平成31年2月)に対する意見(平成31年3月27日)でも指摘している
  4. 消費者基本計画の実施状況に関する検証・評価及び計画工程表の改定に向けての意見(平成30年12月19日)
  5. 事故情報の更なる活用に向けた提言(平成29年8月8日)
  6. いわゆる「販売預託商法」に関する消費者問題についての建議及び意見(令和元年8月30日)
  7. プラットフォームが介在する取引の在り方に関する提言(平成31年4月18日)