消費者基本計画の実施状況に関する検証・評価及び計画工程表の改定に向けての意見

2018年12月19日
消費者委員会

消費者基本計画の実施状況に関する検証・評価及び計画工程表の改定に向けての意見

消費者基本法においては、消費者基本計画(以下、「計画」という。)の検証・評価・監視について、それらの結果の取りまとめを行おうとする場合は、消費者委員会の意見を聴かなければならないとされている。このため、当委員会としては、計画の実施状況や計画に盛り込むべき新たな課題等に係る検討を、調査審議の重要な柱のひとつと位置付けてきた。

平成27年3月に閣議決定された計画においても、「消費者委員会は、消費者行政全般に対する監視機能を最大限に発揮しつつ、本計画に基づく施策の実施状況について、随時確認し、KPIも含めて検証・評価・監視を行う」とされている。

当委員会としては、これまでに発出してきた建議等や最近の被害の実態等を踏まえ、計画の実施状況に関する検証・評価において、特に留意すべき事項や計画工程表の見直しに向けて具体的に検討すべき課題について、下記のとおり意見を述べる。関係省庁等におかれては、下記の各項目について十分に検討の上、可能な限り計画工程表の改定素案等に反映されたい。

なお、当委員会としては、状況に応じ、今後、消費者庁において策定される計画工程表の改定素案に対し、更なる意見表明を行うことを予定している。

 

 

1.民法の成年年齢引下げに対する対応について

民法の成年年齢を20歳から18歳に引き下げること等を内容とする民法の一部を改正する法律(平成30年法律第59号)(以下、改正民法という。)が本年6月に成立し、2022年4月1日から施行されることとなっている。これを見据えた環境整備は喫緊の課題であり、スピード感をもって取組を進めることが必要不可欠である。

そのため、「成年年齢引下げを見据えた環境整備に関する関係府省庁連絡会議」において取り組むこととされている個別の施策等について、いつまでに具体的に何をするのかを明確にした上で、その取組等の内容、スケジュール等を工程表に記載されたい。(消費者庁、関係省庁等)

(1)消費者教育の充実

「若年者への消費者教育の推進に関するアクションプログラム(平成30年2月20日)」を踏まえ、「社会への扉」の活用などアクションプログラム等に基づく取組が一定程度進められてきたが、新たに成人となる18歳、19歳の活動の場である大学、専門学校等における消費者教育の充実も不可欠である。そのため大学、専門学校等における消費者教育の充実に向けた取組、自治体や地域における地域若者サポートステーションなどの若者支援機関等との連携強化、消費者教育コーディネーターの育成等に向けた具体的な取組について工程表に記載されたい。(消費者庁、文部科学省)

また、「社会への扉」の全国展開に向けて、教材の配布にとどまらず、出前講座等の活用など、その実効性確保に向けた取組について工程表に記載されたい。(消費者庁)

(2)与信審査について

新たに成人となる18から19歳への貸付、信用供与にあたっては、法律で義務付けられている支払可能見込額調査や返済能力調査等に加え、事業者の自主的な取組(利用限度額等を少額に設定することや借入目的の確認を行うなど)の推進を図る必要がある。このため、事業者の自主的な取組状況を可視化するとともに、取組の効果を客観的に検証する等、更なる取組の推進に向けた各省庁の具体的な取組について工程表に記載されたい。(金融庁、経済産業省)

(3)改正民法の周知

2022年4月からの改正民法の施行に向け、成年年齢の引下げに伴う年齢要件の変更等について、消費者に広く分かりやすい形で周知を行っておくことが不可欠であり、その取組を加速化していくことが必要である。そのため、成年年齢引下げにより、18歳で何ができるようになるのか、どのようなことに留意しなければならないのか等を具体的に周知するとともに、各種媒体の活用等も含め、より幅広い消費者に行き渡らせるための具体的な取組について工程表に記載されたい。(法務省)

2.改正消費者契約法について

平成30年6月に成立した消費者契約法の一部を改正する法律(平成30年法律第54号)について、本年3月に発出した意見1でも言及したとおり、現行法の内容及び改正法の内容について幅広く周知活動を行うこと及び解釈の明確化が必要な点については逐条解説等において明確化を図ることなど、必要な取組を進めることが適当である。また、平成29年8月に発出した答申2の付言及び改正消費者契約法の附帯決議を踏まえた今後の取組スケジュールを、期限ごとに具体的に記載されたい。特に成立後2年以内となっているものについては、その取組を「検討」するだけではなく、それを踏まえて「必要な措置を講ずる」旨を明示されたい。(消費者庁)

3.地方消費者行政の充実に向けて

地方消費者行政については、「地方消費者行政強化作戦」が定められ、「地方消費者行政推進交付金」等を活用した計画的・安定的な取組支援が行われ、消費生活センターの整備、消費生活相談員の配置・増員及び消費者教育の推進等に寄与してきた。一方、これまでの約10年間で、消費者行政職員や自主財源がほとんど増加していないのが実態である。

そのため、現況調査結果等のこれまでのデータの蓄積を踏まえ、短期的な分析に加え、中長期的な視点でも要因分析を行うと共に、不断の見直し、検討を行った上で、以下の事項を含め、その具体的な取組について工程表に記載されたい。(消費者庁)

  • 地方公共団体における体制や自主財源の更なる充実に向けた消費者行政重視への政策転換を促す実効性・継続性を確保した具体的な取組
  • 地方消費者行政推進交付金から地方消費者行政強化交付金への切り替えが、地方消費者行政に与える影響の把握とそれを踏まえた財政支援の取組等
  • 相談体制の質の向上、見守りネットワークの構築等、地方消費者行政強化作戦で掲げられた目標の着実な達成
  • 地方消費者行政の取組が後退することのないよう、これまで消費者庁が実施してきた地方消費者行政に関する施策を検証し、それを踏まえ、中長期的な視点に立った必要な取組

4.食品表示について

(1)食品表示制度の理解、周知に係る取組状況について

平成27年4月から施行された食品表示法に基づく食品表示制度に関して、平成29年度消費者意向調査の結果を踏まえ、機能性表示食品等にかかる理解促進に向けた取組について記載されたい。また、同制度に関する消費者の理解度を測るKPIについて、適切に設定されたい。

加えて、当委員会が平成29年8月に発出した加工食品の原料原産地表示にかかる答申3において言及した消費者、事業者への周知等を含む9つの前提条件を踏まえた取組について工程表に記載されたい。(消費者庁)

(2)「いわゆる健康食品」の淘汰に向けて

平成27年4月から施行された機能性表示食品制度も含めた保健機能食品制度において、機能性の表示可能な製品が消費者に選択されることによって、科学的根拠に乏しい製品群が市場から淘汰されることが重要である。そのための普及啓発や、本制度における科学的根拠に関する質の向上に向けた取組について工程表に記載されたい。(消費者庁)

5.身元保証等高齢者サポート事業に関する消費者問題についての対応

高齢化社会が進展していく中で、消費者が安心してこうしたサービスを利用することができるよう取組を進めることは重要である。そのため、これまでの取組を踏まえ、今後どのような取組を行うのか、以下の事項を含め、工程表に明記されたい。(厚生労働省、消費者庁)

  • 契約時のチェックリスト、預託金の適切な保全など、身元保証等高齢者サポート事業を提供する事業者への働きかけ
  • 平成29年度に実施された実態調査の結果を踏まえた身元保証人に期待される機能の詳細検討、より小規模に提供される身元保証等高齢者サポートの実態把握、今後、身元保証等高齢者サポート事業の需要が増大する社会における制度の在り方など、実態調査の結果から課題とされた事項に対する更なる取組
  • 平成30年度に実施される医療機関への調査を踏まえた、身元保証人のいない高齢者等に対する医療機関が採るべき対応等の事例集発出等の取組

6.事故情報の収集、注意喚起等

本年3月に当委員会が発出した「3月意見4」でも言及したとおり、消費生活において生じた生命・身体に係る事故等に関する情報(以下「事故情報」という。)を活用し、事故情報の分析を深め、事故情報の一層の活用を図ることにより、事故の未然防止等に資する対応をより一層進めることが可能である。そのため、昨年8月に当委員会が発出した「事故情報の更なる活用に向けた提言」を踏まえた、中長期的な取組スケジュールを検討の上、特に以下の取組について具体的に工程表に記載されたい。(消費者庁)

  • 事故情報データバンクの入力項目の精査や、新たな分析技術の活用等の事故情報をデータとして活用していくための取組
  • 事故原因の究明等を行っている研究機関へ公開する等の事故情報の公開促進に向けた取組
  • 事故情報の更なる活用に向けて、関係省庁のみならず消費者、事業者、事故情報データバンク参画機関が連携・情報交換をスタートさせる取組

7.その他

前記1から6に掲げた内容の工程表への記載に当たっては、これまでも累次指摘しているように、KPIについては、各施策の実施状況等に応じた見直しや、アウトプット指標だけではなくアウトカム指標の追加設定等を検討するとともに、工程表の図については、可能な限り具体的な取組に分けた上で、当該具体的な取組ごとに期限を明確に設定した上で、図示する等を留意の上、工程表改訂素案に反映されたい。

(以上)

  1. 消費者契約法の一部を改正する法律案に対する意見(平成30年3月8日)
  2. 消費者契約法の規律の在り方についての答申(二次答申)(平成29年8月8日)
  3. 食品表示基準の一部改正に係る答申(平成29年8月10日)
  4. 「消費者基本計画工程表の改定素案に対する意見」(平成30年3月30日)