電気の経過措置料金解除に関する消費者委員会意見

2018年12月19日
消費者委員会

消費者委員会は、本日、公共料金等専門調査会から、本件に関する意見の報告を受けた。

本意見を踏まえ、消費者庁において意見表明することを求める。


電気の経過措置料金解除に関する意見

平成30年12月19日
消費者委員会公共料金等専門調査会

1.経緯

消費者委員会公共料金等専門調査会は、本年5月、電力小売全面自由化より約2年、また都市ガス小売全面自由化から約1年が経過したことから、有識者、消費者団体、事業者や行政機関等から行ったヒアリングの結果等を踏まえ、自由化後の状況をフォローアップするとともに、今後更に重点的に注視すべき論点を整理した。その論点整理において、今後更に重点的に検討すべき論点の一つとして、2020年3月までに電気の経過措置料金(規制料金)が原則解除されることについて、客観的な指標や消費者に関するデータに基づく慎重な判断が必要であることなどを指摘した1

さらに、本年10月、消費者庁長官から消費者委員会に対して、電気の経過措置料金解除に関する検討についての意見を求める旨の付議が行なわれた。公共料金等専門調査会において、有識者、関係団体、関係省庁等から行ったヒアリングの結果等を踏まえた電気の経過措置料金解除に関する当専門調査会の意見は以下のとおりである。

2.電力小売自由化の状況等

(1)電力小売自由化・経過措置に関する消費者の認識

2016年4月に電力小売自由化が始まってから約2年半が経過し、消費者の電力小売自由化についての認知度は高まっている一方で、スイッチングをしていない消費者について見ると、電力小売自由化に関する基本的事項についての誤解(新規参入の事業者は電力の安定供給に不安がある、災害時の復旧や対応など管理体制に不安がある)が払拭されていないなど、電力小売自由化に関する基本的事項について、正確な知識が十分浸透しているとは言えない状況である2

また、消費者が電力会社や料金プランを変更しない理由として、「変更することのメリットがわからない」、「変更してしまうことがなんとなく不安」、「今まで通り慣れている会社の方がよい」といった理由が上位にあがっており、スイッチングが可能な環境にある地域においても、自由化についての理解不足や不安感がスイッチングを促進する上でのハードルとなっている3 4

加えて、経過措置5についても、消費者庁が2018年5月に実施した物価モニター調査において経過措置料金に関する事項の認知度を聞いたところ、「経過措置料金という言葉」について知っている人の割合は22.7%、「経過措置料金が少なくとも2020年3月末までは続くこと」について知っている人の割合は5.0%にとどまっているのに対し、「いずれも知らない」と回答した人の割合は77.3%となっている6

(2)小売電気事業者の参入状況・スイッチングの状況

① 参入状況

2018年10月の時点で登録小売電気事業者数は520事業者7となっているが、地域別にみると、東京、中部、関西等の都市圏において多くの小売電気事業者が参入している一方で、北陸、四国、沖縄では小売電気事業者が相対的に少ない状況である8 。そして、新規の小売電気事業者が少ない北陸、中国、四国といった地域では事業者間の競争が実感できていない消費者の割合が高くなっている9

②スイッチングの状況

2018年6月の時点での新電力へのスイッチング実績は11.3%、旧一般電気事業者の自社内の規制料金から自由料金への切替えは7.0%となっている10

(3)比較サイトの現状

訪問販売等の対面営業を中心としている新電力事業者では、比較サイトを介したスイッチングの割合は高くないとの意見もあったが、比較サイト事業者からは、比較サイトの閲覧数や比較サイトを介したスイッチング件数は増加傾向にあるという意見もあった。

この点に関連して、比較サイトの利用状況について当専門調査会の行ったアンケートでは、スイッチングをするに当り、比較サイトの情報を参考にした人と電力会社の情報を参考にした人の割合がそれぞれ36.1%と34.8%となっており、消費者への情報提供についての比較サイトが一定の役割を果たしていることが見てとれる。また、電力会社や料金プランの切替えを行った、または切替えを行う予定がある者の約4割が比較サイトを利用した経験があり、比較サイトを利用したいといった回答を含めると6割を超えていることから11、比較サイトが料金プランを比較検討するための重要なツールとなっていることがうかがえる。

また、比較サイトが料金プランを順位付けするロジックは、独自の基準を設けておすすめ順を表示している方式と金額のみを比較して安い料金プランから順に表示する方式があり12、事業者によって考え方が分かれている。比較サイト事業者が倫理基準を明文で規定している事例はほとんどないが、各事業者において公平・中立であるべきという顧客本位の業務運営となる考え方を定めている例もある。

(4)市場環境

低圧部門における新規参入事業者数や販売電力量での新電力シェアは増加傾向にあり、3大都市圏を中心に小売段階での競争は進みつつあるが、地域別の新電力シェア(販売電力量ベース)は、東電PG1315.2%、関西13.8%、北海道10.4%、中部7.4%、九州6.7%、四国5.2%、東北4.9%、中国3.4%、北陸2.5%、沖縄0.0%となっており、地域間にばらつきが見られるなど十分とは言えない14。また、日本卸電力取引所(JEPX)における取引量は増加しており、2017年度から開始された旧一般電気事業者によるグロス・ビディング(発電部門・小売部門の内部取引として行っていた電力売買取引の一部を取引所経由で実施すること)によって全需要に占める取引量のシェアも伸びている15

もっとも、新電力事業者からは電源へのアクセスについて、現時点では旧一般電気事業者との間で格差があることから、ベースロード電源へのアクセス等についてのイコールフッティングを強く求める意見があった。

また、住宅用太陽光発電設備のFIT買取期間が2019年以降、順次終了することに関して、新電力事業者からは買取終了の対象者が新たな電源調達先として期待されているが、対象者の情報を旧一般電気事業者が独占的に保有しており、競争上の公平性が保たれていないとの意見があった。

(5)三段階料金

現在の経過措置料金では三段階料金が設定されているが、新電力が提供している料金プランでは、旧一般電気事業者の経過措置料金と同様に三段階料金を設定している料金プランがある一方、最低料金制や完全従量料金、定額料金制といった料金プランも見られる16

また、三段階料金の趣旨として、高福祉社会の実現や省エネルギーの推進といった点があるが、低所得者層でも電気の使用量が多い世帯は第一段階に収まっていないことや、所得が多くても単身者で日中家にいない世帯などでは電気の使用量が少なく、必ずしも高福祉社会の実現という目的と合致していないという指摘もある。

3.経過措置料金解除に対する意見

(1)経過措置料金解除のための前提状況

上記のような電力小売自由化の状況を鑑みるに、消費者保護の観点から以下の点を確認した上で経過措置料金を解除すべきである。

① 競争の確保

経過措置料金解除後、規制なき独占に陥り電気料金が値上げされることがないよう競争圧力を働かせるためには、経過措置が解除された時点において、新電力事業者が調達等の競争条件において不利益を被らないようにすることが必要である。新電力事業者からは、現状、電源へのアクセスについて、旧一般電気事業者との間で圧倒的な格差があるとの意見があったように、競争条件がイコールフッティングになっているとは言い難い。

また、旧一般電気事業者による余剰電源の限界費用ベースでの全量市場投入や旧一般電気事業者の自社供給(社内取引)を一定程度市場経由させるグロス・ビディングによって新規参入事業者の調達環境が一定程度改善されたとのことであるが、十分な競争圧力が存在する市場とするためには、更に強力な施策が必要と考えられる。あわせて、電力卸取引の適正性を監視する機能も求められている。

現在、経済産業省においてベースロード市場の在り方等について検討が行われているが、旧一般電気事業者と新電力事業者が公平に競争できるような市場が整備され、実際に、それらが機能していることが不可欠である。したがって、経済産業省は、経過措置の解除に先行して競争の確保について検討を進め、その施策が機能することを確認した上で経過措置の解除をすべきである。

② 消費者への周知

市場が整備され、競争条件がイコールフッティングになった場合でも、消費者が自由に選択できる環境になければ競争圧力は働かない。上記2(1)で指摘したように、各調査では、地域による競争状況の違いにより、選択したくても選択できる他の小売電気事業者が存在しないだけでなく、電力小売自由化についての正確な知識が乏しいことに起因して、消費者が不安を感じたり、スイッチングをためらう理由になっているという指摘があること、新電力事業者への切替えによって停電が起きやすくなるのではないかといった誤解がいまだに残っていることからも、消費者に対する電力小売自由化に関する基本的な知識についての情報提供や経過措置料金解除に関する周知の徹底は不可欠である。消費者が自由に選択できる環境を整備するため、消費者が電力小売自由化及び経過措置についての正確な知識を身に付けることは、経過措置の解除の有無に関わらず電力小売自由化を進めていく上で不可欠である。

特に、経過措置が解除された場合、移行方法によっては、消費者が自由料金プランに移行したことを認識できない可能性があるが、このような消費者は自ら電力会社や料金プランを選択できる認識がないまま自由料金プランに移行する。自由料金への移行に際して消費者が十分な検討を行う機会がない場合、市場に対する競争圧力が働かず、実質的に不当な値上げにつながるおそれもある。したがって、電力小売自由化及び経過措置についての正しい認識が広がるまでは経過措置料金を解除すべきではない。

加えて、消費者が自由に電力会社や料金プランを選択できるような環境を整備することが必要である。例えば、切替手続や料金の比較が面倒という消費者も一定数いることから、消費者に対してスイッチングへの興味・関心を喚起するための方策を検討するのと併せて、比較サイト等の消費者が自身に最適な料金プランを見つけることを容易にするための環境やツールを整備する必要がある。また、このような要請に応える比較サイト事業者の取組にも期待したい。 経済産業省は、上記2点について成果が上がり、消費者が自由に選択できる環境が整ったことが確認できてから経過措置料金の解除をすべきである。

(2)解除される地域への対応等

① 経過措置が解除される地域に対する周知・円滑な移行手続の配慮

仮に経過措置が解除される地域がある場合、経済産業省はその地域の消費者が自分に合った電力会社や料金プランへの切替えを検討できるように十分な期間を確保するとともに、経過措置が解除されること及び消費者が期限までに電力会社や料金プランを選択して契約をしなければならないことについての周知、スイッチングに関する情報提供(小売電気事業者や料金プランについての情報を取得するための方法、スイッチングするための手続方法等)を行うべきである。また、消費者庁は、経済産業省による周知等について協力すべきである。

また、期限までに積極的に契約手続をしない消費者が無契約状態とならないよう、円滑な移行手続を設ける必要がある。想定される手続としては、旧一般電気事業者の経過措置料金と同等の自由料金プランに特段の変更手続を行うことなく一括して移行することが考えられる。しかし、このような手続により移行した場合、消費者が自由料金プランに変更されたことを認識できないまま自由料金プランに移行してしまうおそれがある。消費者が認識しないまま移行してしまう事態を避けるため、経過措置料金が解除される地域の消費者への通知においては、そのような点についても消費者が理解しやすい通知方法や通知内容を検討すべきである。また、クーリング・オフなどの消費者保護のための制度17や電力に係る相談窓口の充実も必要である。

② 事後監視の整備

電気は非代替的なエネルギーであることから、電気の経過措置を解除するに当たっては、その時点において競争状態にあるだけでなく、その競争状態が継続することも確認した上で経過措置を解除すべきである。もっとも、経過措置が解除された地域において、新電力事業者が撤退すること等により市場環境が変化し、競争圧力が失われることがある。したがって、経済産業省は、解除後の競争状態について継続的に監視する体制を整備すべきである。そして、競争圧力が失われた場合の施策の在り方についても解除前に定め、公表、周知すべきである。

また、競争状態が適正であることを消費者が確認できるよう、事後監視の結果及びその判断根拠を公表することについても検討すべきである。

③ 三段階料金について

現在の経過措置料金には三段階料金が設定されている。その趣旨としては高福祉社会の実現や省エネルギーの推進といった点があるが、経過措置料金が解除された場合、自由料金プランに三段階料金が設定されるとは限らない。低所得者世帯には電気使用量の多い消費者も相当な割合で含まれているため、現状の三段階料金は低所得者層の保護につながっていないという指摘がある18。また、再生可能エネルギー発電促進賦課金には逆進性があり、低所得者層に対する負担が重いといった指摘もある。このことから、経済産業省は、三段階料金の廃止を認める場合には、低所得者を保護するための三段階料金に代わる制度を検討すべきである。

まとめ

電気は生活に不可欠かつ非代替的なエネルギーであるため、経過措置料金解除が消費者の生活にもたらす影響は非常に大きい。経済産業省は、本意見で指摘した点を踏まえて、経過措置料金解除について慎重に検討を行うべきである。

(以上)

  1. 「電力・ガス小売自由化に関する現状と課題について」(2018年5月31日消費者委員会公共料金等専門調査会)
  2. 2017年度産業経済研究委託事業(電力・ガス小売自由化における消費者の選択行動アンケート調査事業)調査報告書(2017年10月3日電通マクロミルインサイト)9、17頁より。なお、第52回公共料金等専門調査会(2018年10月17日)一般社団法人全国消費者団体連絡会提出資料2-1にも同様の意見がみられる。
  3. 2017年度産業経済研究委託事業(電力・ガス小売自由化における消費者の選択行動アンケート調査事業)調査報告書(2017年10月3日電通マクロミルインサイト)17頁より。なお、第45回公共料金等専門調査会(2018年4月26日)「電力・ガス小売自由化に関する消費者の意識について」消費者委員会事務局提出資料8頁では「現在契約している会社や料金プランと比べて料金があまり変わらないと思われるから」、「現在契約している会社や料金プランに満足しているから」、「契約変更の手続に手間がかかりそうだから」、「料金プランの比較検討に手間がかかるから」といった意見が上位にあがっていた。
  4. 新電力事業者からのヒアリングでも電力小売自由化に対する消費者の認知度の低さや漠然とした不安感がスイッチングの妨げになっているとの意見があった(第53回公共料金等専門調査会(2018年11月9日))。
  5. 電力小売自由化に際し、「規制なき独占」に陥ることを防止する観点から、旧一般電気事業者の低圧需要家向け小売規制料金について経過措置を講じ、2020年3月末までは、全国すべての地域において、従来と同様の規制料金(経過措置料金)を存続させることとなっている。
  6. 第53回公共料金等専門調査会(2018年11月9日)消費者庁提出資料11頁より。なお、第52回公共料金等専門調査会(2018年10月17日)一般社団法人全国消費者団体連絡会提出資料2-1 1、4頁では、経過措置料金について「知らない」という回答の割合が39.5%、「聞いたことはあるが詳しい内容は知らない」という回答の割合が43.9%となっている。
  7. 資源エネルギー庁ホームページ「登録小売電気事業者一覧」より。
  8. 第1回電気の経過措置料金に関する専門会合(2018年9月26日)資料3-1 18頁より。
  9. 第53回公共料金等専門調査会(2018年11月9日)消費者庁提出資料9頁より。「お住まいの地域で事業者間の競争が進んでいると感じるか」という質問について、「あまり進んでいないと思う」または「進んでいないと思う」と回答した人の割合の合計が全体では52.8%だったのに対し、北陸、中国、四国の地域ではそれぞれ、75.6%、68.8%、76.7%となっている。
  10. 第52回公共料金等専門調査会(2018年10月17日)電力・ガス取引監視等委員会提出資料1-2 10頁より。
  11. 第45回公共料金等専門調査会(2018年4月26日)「電力・ガス小売自由化に関する消費者の意識について」消費者委員会事務局提出資料11、26頁より。
  12. 第50回公共料金等専門調査会(2018年7月23日)「電力・ガス比較サイトの現状把握と課題抽出のための調査報告書」消費者委員会事務局提出資料8頁より。
  13. 東京電力パワーグリッド株式会社(東電PG)は東京電力ホールディングス株式会社傘下の一般送配電事業会社。
  14. 第52回公共料金等専門調査会(2018年10月17日)電力・ガス取引監視等委員会提出資料1-2 12頁より。なお、2018年10月の物価モニター調査においても東京、中部、関西といった都市圏では電力会社及び料金プランを変更した割合が高くなっているが、東北、北陸、四国、沖縄といった地域では割合が低くなっている(第53回公共料金等専門調査会(2018年11月9日)消費者庁提出資料4頁より。)。
  15. 第52回公共料金等専門調査会(2018年10月17日)電力・ガス取引監視等委員会提出資料1-2 15頁によるとJEPX取引量のシェアは2018年6月時点で18.4%となっている。
  16. 第52回公共料金等専門調査会(2018年10月17日)電力・ガス取引監視等委員会提出資料1-2 7頁より。
  17. 訪問販売や電話勧誘販売によって電気の供給契約を締結した場合、特定商取引に関する法律(昭和51年法律第57号)により法定書面の受領日から起算して8日間はクーリング・オフすることが可能である。
  18. 第54回公共料金等専門調査会(2018年11月22日)一般社団法人電力中央研究所提出資料22頁より。