「東日本電信電話株式会社及び西日本電信電話株式会社の提供する特定電気通信役務の基準料金指数の設定」等に関する消費者委員会意見

2018年6月14日
消費者委員会

消費者委員会は、本日、公共料金等専門調査会から、本件に関する意見の報告を受けた。

消費者庁において、本意見を踏まえ、総務省とともに適切に対応することを求める。


「東日本電信電話株式会社及び西日本電信電話株式会社の提供する特定電気通信役務の基準料金指数の設定」等に関する公共料金等専門調査会意見

平成30年6月14日
消費者委員会公共料金等専門調査会

消費者委員会公共料金等専門調査会は、平成30年5月31日付で消費者庁より付議を受けた「東日本電信電話株式会社及び西日本電信電話株式会社の提供する特定電気通信役務の基準料金指数の設定」等について検討した。設定案の内容は以下のとおり。

特定電気通信役務を提供する東日本電信電話株式会社及び西日本電信電話株式会社(以下、「NTT東西」という。)に対して平成30年10月から適用する基準料金指数を以下のとおり設定する。

平成30年10月から適用する基準料金指数

公共料金等専門調査会は、本年6月1日に総務省及び有識者からヒアリングを行い、調査審議を行った。その結果を踏まえた、設定案に関する当専門調査会の意見は以下の通り。

1.結論

〇設定案については妥当であると認められる。

2.理由

〇NTT東西による音声伝送サービス1(加入電話、ISDN、公衆電話)については、電気通信事業法上、「特定電気通信役務」と位置付けられ、指定電気通信役務2のうち、利用者の利益に及ぼす影響が大きいものであるため、プライスキャップ規制の対象とされている。上限価格は、役務種別のバスケットで基準料金指数として設定され、実際の料金指数がこれを下回る場合には届出で設定が可能な一方、超える場合には総務大臣の認可が必要とされている。

〇音声伝送サービスで特に重要な位置を占める固定電話音声通信については、移動電話等の普及もあり、契約数は1997年度をピークに減少し、2016年度は約2300万契約、トラヒックも2015年度には全通信回数の30%を下回る状況となっている3

〇基準料金指数の設定案については、NTT東西の①収入予測、②費用予測及び③適正報酬額の予測並びに④消費者物価指数変動率の予測に基づき、生産性向上見込率(以下、「X値」という。)を試算することにより算定される。当専門調査会においては、収入面に関しては上記の契約数減を反映した使用料等収入減のシナリオ、費用面においては人件費減・回線数減を織り込んだ費用減及び経営効率性分析に則った非効率性の解消を勘案した費用減の予測、などにつき確認をし、その予測は一定の合理性があると判断する。また、報酬率の設定も妥当なものとなっており、これらの数値を総合的に勘案して試算されたX値は、妥当であると判断する。

したがって、当該X値を踏まえた全体としての基準料金指数設定案についても妥当と結論付けるものである。

3.留意事項

(基準料金指数と実際料金指数との乖離、メタルIP化への対応)

〇基準料金指数と実際料金指数は2012年10月までは乖離が縮小傾向にあったものの、2015年で乖離幅が拡大しており、事業者の側ではプライスキャップ規制の下で値上げ余地がある状況となっている4。実際には、料金引き上げには至っていないが、固定電話の音声伝送サービスを主として利用している高齢世代の消費者5にとっては、代替サービスである移動電話や光回線などの固定系大容量データ通信に価格や利用形態などの面で円滑に移行しにくい状況もある。そのため、固定電話の通信需要が減退する環境の中でこうした既存の受益者の利益保護の手段として上限価格規制は一定の意味を持っていると解される。6

〇なお、固定電話網については、既存のメタルケーブルのネットワーク中継網を今後2025年までにIP網へ移行することが予定されている。NTT東西が今後提供するメタルIP電話は現在の加入電話同様、利用者利益に影響を及ぼすことが大きいと考えられることから、総務省は、引き続きプライスキャップの規制の対象とすることを前提として検討を進めていくべきである7

(生産性向上見込率測定手法の不断の見直し)

〇現在、X値(生産性向上見込率)算定の根拠として採用されているDEA分析(包絡分析法)は、分析の数値基礎となる支店数の減少のため、非効率性の推定の精度を今後も維持していくことが課題となっている。このため、総務省は、生産性向上見込みを測定するための手法につき、不断の見直しに努めていくべきである。

(政策決定プロセスの透明化の確保)

〇総務省主催の生産性向上見込率を算定する「上限価格方式の運用に関する研究会」については、NTT東西から提出された経営情報を基に分析を行っており、これらの経営情報には詳細な費用構造や収益構造等が含まれ、これを公にすることはNTT東西の競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあることから、会議及び会議に使用した資料は、原則として非公開とされている。例えば、議事録は議事要旨のみの公表であるため、議論の内容を十分に把握できない状況にある。EBPM(証拠に基づく政策立案)推進の観点からも、事業者の営業に不利益な影響を及ぼす情報以外は、できる限り情報公開を行っていくことを基本とすべきである。

(消費者への情報提供)

○総務省は、プライスキャップ制度の意義や位置づけを含め、通信料金など消費者に関わる情報通信サービスの制度的な仕組みについて、消費者団体等を通じた積極的な情報提供についても実施すべきである。

(以上)

  1. 音声伝送バスケットの対象サービスとしては、加入電話・ISDN(市内、県内市外通話料)、公衆電話(通話料)、番号案内料がある。また音声伝送サービスの内種である加入者回線バスケットの対象サービスは、加入電話・ISDN(基本料・施設設置負担金)となっている。
  2. ボトルネック設備を設置する電気通信事業者(NTT東西)が、それらの設備を用いて提供するサービスであって、他の電気通信事業者による代替的サービスが十分に提供されない電気通信役務。
  3. 平成27年におけるNTT東西の固定電話契約数は2,272万件となっている。(平成29年2月13日 第57回長期増分費用モデル研究会 参考資料3)また、固定電話のトラヒックはピークの2000年度と比べて大きく減少しており、2015年度には、全通信回数の30%(通信時間は20%)を下回る状況となっている。(平成30年1月31日 第32回情報通信審議会 電気通信事業政策部会 接続政策委員会 資料2)
  4. NTT東西の固定電話収入は減少で推移しており、2016年度損益でも特定電気通信役務の音声伝送サービスは営業利益ベースで赤字(東日本 マイナス180億円、西日本 マイナス240億円)となっている。他方、特定電気通信役務以外のFTTHアクセスサービスなどの指定電気通信役務は黒字(東日本1,900億円、西日本1,200億円)となっており、赤字をカバーしている状況にある。
  5. 総務省通信利用動向調査によれば、固定電話保有率(世帯主年齢別)に関して2008年と2016年の数値を比較してみると、60から69歳層では95.3%から87.6%、50から59歳層では96.2%から85.2%の低下にとどまっているのに対し、20から29歳層では54.0%から7.5%と大幅に低下している。
  6. 他方、本専門調査会委員からは、特定電気通信役務の音声伝送サービスに関して事業者に赤字が生じていることで、内部補助により同サービス以外の利用者が相対的に高い利用料を負担している点に関しては、留意すべきとの指摘もなされた。
  7. 「『固定電話網の円滑な移行の在り方』一次答申~移行後のIP網のあるべき姿~」(平成29年3月28日情報通信審議会答申)において、「IP網への移行に伴い、NTT東日本・西日本が今後提供するメタルIP電話は、利用者の利益に及ぼす影響が大きい固定電話サービスとして現在の加入電話と同様の性格を有するものと考えられる。このため、メタルIP電話(ISDN電話及び公衆電話も含む)を特定電気通信役務として位置付け、現行の加入電話と同等の利用者料金規制(プライスキャップ規制等)を課すことが適当である。」とされている。