消費者基本計画工程表の改定素案に対する意見

2018年3月30日
消費者委員会

消費者基本計画工程表の改定素案(平成30年2月)に対する意見

当委員会は、消費者基本計画工程表(以下「工程表」という。)の検証・評価及び見直しについて、昨年12月20日に「消費者基本計画の実施状況に関する検証・評価及び計画工程表の改定に向けての意見」(以下「12月意見」という。)を取りまとめ、本意見の内容を、可能な限り工程表の改定素案に反映することを求めてきた。

その後、消費者庁をはじめとする関係府省庁等では、12月意見も踏まえつつ、工程表の検証・評価及び見直し作業を行い、取りまとめられた工程表の改定素案は、本年2月22日よりパブリックコメントにかけられた。

当委員会は、本年3月8日、同15日の消費者委員会本会議において、工程表の改定素案について、消費者庁よりヒアリングを行ったところである。このヒアリングの結果や、これまでに行った建議・提言その他の意見等の内容、工程表に記載された個別施策についてのヒアリングの結果等を踏まえ、工程表の改定素案に対し、下記のとおり意見を述べる。関係省庁等におかれては、下記の各項目について積極的に検討の上、可能な限り工程表の改定原案等に反映されたい。

当委員会としては、本意見の工程表への反映状況や、その後の実施状況等について引き続き監視を行い、消費者被害の状況が深刻なものや、取組が不十分と考えられるもの等については、今後、重点的に当委員会の調査審議を通じて取り上げていくとともに、必要に応じて建議等の意見表明を行っていくこととする。

第1 全体的な事項

過去の平成28年4月及び平成29年5月の当委員会よりの消費者基本計画工程表改定素案に対する意見 において、下記2点につき累次の指摘をしているところであるが、改めての取組みの加速化を図られたい。

(1) KPIについて

施策の達成状況等に応じ、指標の見直しやアウトカム指標の追加設定を検討するとともに、目標の数値等についても、不断の見直しを図られたい。

また、現状のKPIについての検証を行うとともに、それを踏まえ第4期消費者基本計画工程表の策定に向けて、より効果的なKPIの設定方法等について検討されたい。

(2) 工程表の図について

年限を区切らずに5年間で取り組むことが示されているものについては、定期的・継続的に実施しなければならないものを除き、可能な限り具体的な取組に分けた上で、当該具体的な取組ごとに期限を明確に設定した上で、図示すべきである。したがって、取組の進捗や効果が思わしくない施策は、その状況を改善するための具体的な対策を工程表に反映されたい。また、第4期消費者基本計画工程表の策定にあたっては、当初よりその点に留意されたい。

第2 工程表への反映が必要な事項

1.成年年齢引下げ対応について

成年年齢の引下げを内容とする「民法の一部を改正する法律案」が国会に提出されたことを受け、新たに成年となる18、19歳の消費者被害の防止・救済は喫緊の課題であり、消費者教育の充実や制度整備、消費者被害対応の充実等に向けて取組を加速化していくことが必要である。

そのため、民法の成年年齢の引下げに向けた環境整備に対応するための「成年年齢の引下げに向けた環境整備に関する検討会(仮称)」の取組とスケジュール等について工程表に記載されたい。(法務省、関係省庁等)

また、上記環境整備に係る個別の施策については、「改正民法の周知活動について」「与信審査について」といったテーマが例示されているところ、「消費者基本計画の実施状況に関する検証・評価及び計画工程表の改定に向けての意見」(平成29年12月20日)でも指摘したように、民法改正を待たずに、直ちに取組を始められる事項については、その取組等の内容、スケジュール等を工程表に記載されたい。(消費者庁、関係省庁等)

(1) 消費者教育の充実等

「若年者への消費者教育の推進に関するアクションプログラム(平成30年2月20日)」を踏まえた取組につき工程表へ反映されたい。また、消費者庁からの意見聴取に対する当委員会からの回答 を踏まえた、大学・専門学校等における消費者教育の推進、若年成人に向けた消費者被害対応の充実等 につき取組を加速化されたい。(消費者庁、文部科学省、法務省、金融庁)

特に、高校生向け消費者教育教材について、平成29年度に実施した徳島県での授業の実施結果を踏まえた、今後の全国展開に向けた具体的な取組について工程表に明示されたい。(消費者庁、文部科学省)(4(2)マル4マル6関係)

また、平成30年度以降に実施される小・中学校向け教材の検討、作成のための具体的取組やスケジュールについて工程表に明示されたい。(消費者庁)(4(2)マル6関係)

さらに、地域におけるコーディネーターの育成、支援に向けた取組について工程表に明示されたい。(消費者庁、文部科学省)(4(2)マル6マル7関係)

なお、消費者教育を効果的に推進していくためには、効果測定を行った上でPDCAサイクルの取組を回していくのが極めて有用である。当委員会が累次述べてきている通り 、そのために有用である適切なKPI設定等に向け必要な調査を早急に進めていただきたい。(消費者庁)

(2) 特定商取引法(省令)の見直し

消費者庁からの意見聴取に対する委員会の回答 を踏まえ、成年年齢引下げ対応として検討することとされていた以下の点について、その検討状況や、検討を踏まえた取組状況について工程表に明示されたい。(消費者庁、経済産業省)(3(1)マル2関係)

  • 連鎖販売取引における若年成人の判断力の不足に乗じて契約を締結させる行為を行政処分の対象とすること
  • 訪問販売において、若年成人の判断力の不足に乗じて売買契約または役務提供契約を締結させることが行政処分の対象行為となることを規定上、明確にすること

2.地方消費者行政への支援

地方消費者行政については、どこに住んでいても質の高い相談・救済を受けられ、安全・安心が確保される地域体制を全国的に整備することを目指して、「地方消費者行政強化作戦」が定められ、「地方消費者行政推進交付金」等を活用した計画的・安定的な取組支援が行われ、消費生活センターの整備、消費生活相談員の配置・増員及び消費者教育の推進等に寄与してきた。

平成30年度に措置される「地方消費者行政強化交付金」については、従来の上記推進交付金に相当する「推進事業」が減額される一方、新たに位置づけられる「強化事業」の補助対象事業は、国として取り組むべき重要消費者政策等となり、従来の「推進交付金」よりも補助対象は限定的なものとなっている。このため、地方消費者行政の安定的な運営維持のため、「強化事業」の補助対象となる事業実施メニューの増強や柔軟な運用が重要であり、それに向けた取組について工程表に明示されたい。

加えて、地方公共団体における消費者行政の自主財源確保に向け、消費者庁において、各自治体の消費者行政に係る基準財政需要額を試算し、それをもとに各自治体に自主財源拡充の要請を図る等、具体的な取組策について工程表に明示されたい。(消費者庁)(6(2)マル1関係)

なお、消費者庁は、地方公共団体におけるスムーズな消費者行政予算策定のために、予算サイクルの時期に合わせた早めの国の予算状況に係る情報提供に留意すべきである。それとともに、平成30年度交付金減額に伴う地方公共団体における事業(消費者相談、消費者教育・啓発等)への影響を把握・検証し、その結果に基づいて、「推進事業」の安定的な財源の確保等も含め、必要な方策について検討されたい。

さらに、消費者庁は今後、地方消費者行政の取組が後退することのないよう地方消費者行政支援に関する中長期的な支援の在り方も含めた検討を行い、必要な取組を行うべきである。(消費者庁)

3.適格消費者団体等への支援

消費者被害の防止・回復を効果的に実現するため、消費者団体訴訟制度の主体となる適格消費者団体等の設立促進や、その活動支援に向けた取組を消費者政策として進めていくことは重要である。

このため、適格消費者団体及び特定適格消費者団体に対する支援について、平成30年度予算案に盛り込まれた消費者団体訴訟制度の機能強化のための取組み(被害実態調査事業等)を含む活動支援策につき具体的に工程表に明示されたい。また、「地方消費者行政強化交付金」を通じた適格消費者団体の設立支援についても引き続き取り組んでいく旨工程表に明示されたい。(消費者庁)(5(1)マル1関係)

4.事故情報の収集、注意喚起等

消費生活において生じた生命・身体に係る事故等に関する情報(以下「事故情報」という。)を活用し、事故情報の分析を深め、事故情報の一層の活用を図ることにより、事故の未然防止等に資する対応をより一層進めることが可能である。 そのため、昨年8月に当委員会が発出した「事故情報の更なる活用に向けた提言」を踏まえ、事故情報の更なる活用に向けて、消費者、事業者、事故情報データバンク参画機関、関係行政機関が連携・情報交換をスタートさせる取組について工程表に明示されたい。(消費者庁)(1(2)マル1関係)

第3 次期基本計画に向けた課題

昨今のICT(Information and Communication Technology)の発展により、消費者を取り巻く商品・サービスにおいても、IoT(Internet of Things)、ビッグデータ、AI(人工知能)を活用したものが出現してきている。現在、政府部内でもこれらに関係する施策の検討が急速に進められているところである が、これらは消費者に多大な利便をもたらす可能性がある反面、プライバシーの問題等消費者にとっての課題も有していると考えられる。

そのため、このようにIoT等の活用には利便性とともに課題もあるという特質について消費者が理解を深めるとともに、消費者保護に係る取組が必要になることについても留意する必要がある。

このため、次期消費者基本計画策定に際しては、各省庁における施策検討の熟度を見据えつつ、消費者の積極的な議論への参加を得ながら、上記のような特質を踏まえたIoT、ビッグデータ、AIに係る施策を次期基本計画に意欲的に盛り込むことを検討されたい。

また、2015年に国連で採択されたSDGs(Sustainable Development Goals)と消費者政策との関係性について、「第4期消費者基本計画のあり方に関する検討会」(消費者庁)での議論も生かして整理をした上で、SDGsの趣旨をできる限り組み入れた消費者政策の取組を次期基本計画に盛り込むことを検討されたい。

以上

(注)例えば、以下のようなものがあげられる。

  • 内閣府知的財産戦略推進事務局「新たな情報財検討委員会」(平成28年10月-)では、「IoT等で大量に蓄積されるデジタルデータや、AI創作物とその生成過程である「学習用データセット」及び「学習済みモデル」などの新たな情報財の保護・利活用の在り方について検討」がなされている。
  • 総務省情報通信政策研究所「AIネットワーク社会推進会議」(平成28年10月-)では、「社会全体におけるAIネットワーク化の推進に向けた社会的・経済的・倫理的・法的課題を総合的に検討」がなされている。
  • 国土交通省自動車局保障制度参事官室「自動運転における損害賠償責任に関する研究会」(平成28年11月-)では、「自動運転における自動車損害賠償保障法の損害賠償責任のあり方について検討」がなされている。
  • 厚生労働省大臣官房厚生科学課「保健医療分野におけるAI活用推進懇談会」(平成29年1月-)では、「AIの特性を踏まえ、その活用が患者・国民にもたらす効果を明らかにするとともに、保健医療等においてAIの導入が見込まれる領域を見据えながら、開発推進のために必要な対応およびAIを用いたサービス等の質・安全性確保のために必要な対応等を検討」がなされている。