事故情報の更なる活用に向けた提言 ~消費者安全専門調査会報告書を受けて~

2017年8月8日
消費者委員会

事故情報の更なる活用に向けた提言
~ 消費者安全専門調査会報告書を受けて ~

消費生活において生じた生命・身体に係る事故等に関する情報は、消費者庁において一元的に集約され、消費者に対する注意喚起を行う等、事故情報の活用については、一定の取組が行われている。

しかしながら、消費者委員会においては、消費者庁が事故情報の分析を深め、事故情報の一層の活用を図ることにより、消費者にとってより有益な注意喚起が可能ではないか、より事故の未然防止等に資する対応を実施することが可能ではないかとの問題意識にたち、消費者安全専門調査会を立上げ、今般、同専門調査会から「消費者安全専門調査会報告書~事故情報の活用等の在り方について~」の提出を受けた。

同報告書においては、事故情報の更なる活用に向けた適切な検討や提言がなされていると考えており、事故情報の一層の活用を事故の未然防止等につなげるとの観点から、消費者庁に対し、同報告書の内容を踏まえ提言する。また、本提言への対応について、必要に応じて、今後、消費者庁から報告を求めることとする。

なお、提言への対応にあたっては、特に、以下の点に留意すべきである。

まず、提言内容の取組にあたっては、事故情報データバンクに関与する様々な関係者、例えば消費者、事業者、データバンク参画機関、関係行政機関が連携・情報交換を行うことが望ましい。

また、事故情報の分析の質を高めるためには、様々な事故情報から、重要な点を見つけ出し、事故の未然防止等の消費者問題の解決につなげていく力(翻訳力)を高めていくことが必要である。

さらに、将来的な課題ではあるが、事故情報の収集、分析等に係る、国際的な連携を進めていくことも重要と考えられる。

1 事故情報データの品質の向上

事故情報データバンクの入力項目数は多数にのぼる。

また、参画機関ごとに、登録事故情報の入力項目が個々に決められており、事故情報として表示される際に差異がみられる。

今後も、事故情報データバンクが消費者事故の未然防止等に活用され、有用なものであるよう、以下の点について提言する。

なお、それぞれについて検討する際には、常に、事故情報データバンクの整備目的や利用者のニーズに沿ったものであるかを念頭におくことが不可欠である。

(1)入力方法の整理

  • ア 入力項目の検討
    事故情報データバンクは、運用開始時に「統一入力フォーマット」として必須入力項目を決定する際、各機関で持っているデータベースの項目に基づいて事故情報を入力することを基本としているため、参画機関ごとに入力項目に差異が生じていることや入力項目であっても情報が得られないことにより、登録されない項目が数多く存在している。そのため、事故情報データバンクの目的、利用者のニーズ等を踏まえ、入力を推奨する項目を明確化することが望ましい。
  • イ データ分析技術を利用した入力項目の補完
    上記のとおり、各参画機関の入力項目に差異等があるという実情を踏まえ、当面、消費者安全専門調査会報告書(以下「報告書」という。)で示したような新たなデータ分析技術を用いて、自由記述文を分析することにより、データを補完する仕組みを検討することも考えられる。
  • ウ 入力項目の定義の明確化
    参画機関ごとに入力項目の定義を定めていることから、事故情報データバンク全体として見た場合、分類の揺らぎが見られると考えられる。このため、より効果的な事故情報データバンクの利用に資するよう、入力項目の定義や分類方法を明確化し、例えば、ガイドライン等を示すことが望ましい。
    さらに、将来の課題として、自由記述文の用語のコード化を検討することが望ましい。
  • エ 入力項目の精査
    事故対策の検討や未然防止等に資するよう入力項目を適宜検証し、必要に応じて、見直し、更新することが望ましい。
    また、事故内容については、「その他」が4割を超えている。こうした項目については、利用者のニーズを踏まえ、細分化を検討することが望ましい。

(2)データ入力者のスキルの向上と入力フォーマットの技術的支援

データの品質向上のためには、データ入力者のスキルの向上も必要であり、必要に応じ研修を行うことも重要である。

同時に、入力フォーマットに関する技術的な支援(プルダウン方式とする、入力を必須とする項目については入力しないと作業が完了しない等)も重要と考えられる。

(3)把握が困難と考えられる事故情報の収集

家庭における子どもの事故や、被介護者の事故は、保護者あるいは介護者が、自らの不注意とのみとらえること等により、どこにも連絡しない場合があると考えられる。

また、製品の誤使用と思われる事故についても、同様のことが想定される。これらの事故に関する情報も、事故の再発防止等には重要であり、こうした把握が困難と考えられる情報についても、消費者教育や消費者の体験と参加を促進する仕組み等を通じて、消費者が積極的に情報を出しやすい環境を作ることで、より一層収集できることが望ましい。

(4)事故情報データバンク参画機関の連携・情報交換

入力参画機関において、データ品質向上の目的やその重要性を共有し、具体的な方策の検討に当たっては、連携・情報交換を行うことが望ましい。

さらに、将来の課題として、事故情報を収集・分析している国内外の機関との連携についても検討することが望ましいと考えられる。

2 新たなデータ分析の活用

事故情報データバンクに登録されている情報の分析において、これまでは、人工知能技術等の新たなデータ分析技術が必ずしも十分に活用されていない面があると考えられる。

このため、データ分析技術の活用の可能性について検討し、それを踏まえ、以下のとおり述べる。

(1)新たなデータ分析技術の活用

事故情報データバンクには、平成29年3月末現在、約20万件の事故情報が登録されており、自由記述を含むこれらの情報を限られた人員において網羅的に分析することは困難な場合もあると思われる。

このため、報告書で示したように、言語解析技術等のデータ分析技術を用い、事故の傾向の把握や、分析対象とすべき事故の絞り込み等に活用することは、より深い分析を支援するための方策として有用と考えられる。

なお、事故情報データバンクの参画機関は、参画機関ごとに情報の分析に取り組んでいると考えられるが、事故情報データバンクに集約された情報を全体的に分析することの有用性を共有し、その有用性を高めることを目的に、参画機関が連携してデータ分析技術の活用について検討することも重要である。

あわせて、データ分析技術には、分析の限界があることも踏まえるべきである。例えば、一定程度に絞り込んだ後は、人手により丁寧に見ていくことも必要と考えられる。また、実際の分析に当たっては、分析の専門家だけでなく、事故について知見を有する者が行うことが重要である。

(2)SNS上の事故情報の分析

SNSには、事故情報データバンクには入力されない事故情報が、動画や写真付きでリアルタイムで投稿されている場合がある。また、本報告書参考資料1「暮らしの事故に関するアンケート結果」(以下「アンケート結果」という。)によると、10代、20代は、「事故に遭った場合」、「あるいは事故に遭いそうになった場合」にSNSに情報をアップすると回答するものが一定数存在している。そのため、SNS上の事故情報について分析の対象とすることも一定程度有効であると考えられる。

なお、SNS上の事故情報の分析に当たっては、報告書で述べた留意点を考慮することが重要である。

(3)消費者安全専門調査会における分析結果の検討

報告書を参考に、そこでの分析結果を踏まえ、さらに調査分析を行うことが望ましい。調査分析の内容としては、例えば、これまでの注意喚起の有無、関連製品の調査・対策の有無、今後の事故の広がりの可能性の検討等が考えられる。

3 事故情報を伝達する新たな仕組みの構築

(1)新しい事故情報の公表

  • ア 事故を分かりやすく表現する方策
    報告書を参考に、消費者にとって事故を分かりやすく表現し、消費者自身での危険回避を促進し、事故の再発防止効果を高めるため、事故の特性に注目した公表を行うことが望ましい。例えば、ライターによる火傷の一因は、ライターの残り火によるものという特性があるが、残り火はライターの他、花火、たき火等でも生じる可能性がある。そのため、残り火の危険性に着目した公表などが考えられる。
  • イ 消費者に届きやすい方策
    • (ア)情報提供の媒体
      報告書におけるアンケート結果によると、事故に関する情報を入手する手段として、「テレビのニュース」を挙げたものが性別・年代を問わず圧倒的に多い。そのため、事故情報の公表を行う際は、こうした媒体に取り上げられるよう、引き続き考慮することが望ましい。
      また、10代、20代に限ると、情報の入手手段として「消費者庁Twitter」の割合も高く、これらの世代向けには、TwitterなどのSNSを活用した公表に取り組むことも有用と考えられる。
    • (イ)情報提供の内容
      提供する情報の内容は、商品名や事故の詳細な内容等と併せて、事故の予防策・対応策も含めるなど、消費者にとってより有用なものとなるよう配慮することが望ましい。また、事故情報と結び付けて、事故後に行った行政機関等の注意喚起や事業者がとった対策の内容についても情報提供することが望ましい。
      なお、文字による情報提供だけでなく、動画を活用することも、消費者にとって分かりやすく有用であると考えられる。
      さらに、海外と事故に関する情報共有が容易に図れるよう、将来的には、事故情報データバンクの英語等による情報提供についても検討することが望ましい。
    • (ウ)情報提供のルート
      世代によって主な生活の場や、遭遇しやすい事故が異なる。そのため、例えば、子どもについては学校等、高齢者については高齢者の立ち寄る場など、情報チャネルを工夫して情報発信をすることが望ましい。
    • (エ)継続的な情報提供
      事故の中には、特定の時期(季節等)などに繰り返し発生しているものも見られる。そのため、こうした事故については、事故の未然防止等のため継続的に情報提供を行うことが望ましい。

(2)体験と参加を促進する仕組み

報告書を参考に、情報による事故伝達だけでなく、消費者が事故を疑似的に体験することで消費者自ら事故の危険を考え、回避することを促す仕組み(消費者事故の体験型テーマパーク等)や、家庭、学校での事故情報などを自ら発信するなど消費者が積極的に事故情報に関わる仕組み(くらしの安全掲示板と安全情報マイスター等)を構築することの可能性を検討することが望ましい。

4 事故に対して講じた施策の効果の評価

事故に対して施策を講じた場合、例えば、施策を講じた前後における事故の件数の推移等を継続的に把握するなど、その効果を検証し、必要に応じ施策の見直しを行うことが望ましい。

5 事故情報の公開の促進

事故情報については、社会で広く共有するものとの認識に立ち、報告書の留意点を十分に踏まえ、可能な範囲で公開を促進する方向で検討を行うことが望ましい。こうした公開により、消費者から収集された事故情報が、消費者にフィードバックされることにもなる。

公開の方策として、直ちに全ての情報を全ての人に公開するのではなく、まずは、事故原因の究明等を行っている研究機関や、製品の安全性の向上等に取り組んでいる事業者等に対して、研究目的等に応じて公開する内容を限定して公開する。あわせて、公開範囲の拡大について検討する等、段階的に公開を行うことも考えられる。

その中で、現在、医療機関ネットワークの情報は一般には公開されていないが、より有効に活用することが可能となるよう、個人情報の取扱い等に十分留意した上で、研究目的等に応じて情報を提供する可能性について検討することが望ましい。

以上