消費者基本計画工程表の改定素案(平成29年4月)に対する意見

2017年5月23日
消費者委員会

消費者基本計画工程表の改定素案(平成29年4月)に対する意見

当委員会は、消費者基本計画工程表(以下「工程表」という。)の検証・評価及び見直しについて、本年1月31日に「消費者基本計画の実施状況に関する検証・評価及び計画工程表の改定に向けての意見」(以下「1月意見」という。)を取りまとめ、本意見の内容を、可能な限り工程表の改定素案に反映することを求めてきた。

その後、消費者庁をはじめとする関係府省庁等では、1月意見も踏まえつつ、工程表の検証・評価及び見直し作業を行い、取りまとめられた工程表の改定素案は、本年4月10日よりパブリックコメントにかけられた。

当委員会は、本年4月11日の消費者委員会本会議において、工程表の改定素案について、消費者庁よりヒアリングを行ったところである。このヒアリングの結果や、これまでに行った建議・提言その他の意見等の内容、工程表に記載された個別施策についてのヒアリングの結果等を踏まえ、工程表の改定素案に対し、下記のとおり意見を述べる。関係省庁等におかれては、下記の各項目について積極的に検討の上、可能な限り工程表の改定原案等に反映されたい。

当委員会としては、本意見の工程表への反映状況や、その後の実施状況等について引き続き監視を行い、消費者被害の状況が深刻なものや、取組が不十分と考えられるもの等については、今後、重点的に当委員会の調査審議を通じて取り上げていくとともに、必要に応じて建議等の意見表明を行っていくこととする。

第1 全体的な事項

1.KPIについて

当委員会が公表した「次期消費者基本計画の素案(平成27年2月)等に対する意見」(平成27年2月17日)において指摘したような基準1を念頭にKPIの見直しを行うほか、施策の達成状況等に応じ、指標の見直しや追加設定を検討するとともに、目標の数値等についても、不断の見直しを図られたい。

2.工程表の図について

年限を区切らずに5年間で取り組むことが示されているものについては、定期的・継続的に実施しなければならないものを除き、可能な限り具体的な取組に分けた上で、当該具体的な取組ごとに期限を明確に設定した上で、図示されたい。また、取組の進捗や効果が思わしくない施策は、その状況を改善するための具体的な対策を工程表に反映されたい。

第2 工程表への反映が必要な事項

1.成年年齢引下げ対応について

民法の成年年齢が引き下げられた場合、新たに成年となる18、19歳の消費者被害の防止・救済のためには、消費者教育の充実や制度整備、消費者被害対応の充実等が必要である。これらの成年年齢引下げに対応する各取組を一体的に把握出来るよう、各項目に関する工程表を集約し、一覧出来るようにされたい。

特に、消費者教育推進地域協議会の枠組みに大学・専門学校等に参画してもらうよう、大学・専門学校等関係団体を通じて要請し、かつ、消費生活センターと大学・専門学校等との被害事例を交換するための枠組みの構築について工程表に明記されたい。(消費者庁、文部科学省)(4(2)マル6関係)

さらに、消費生活センターの相談窓口の拡充、及び多様な媒体を用いた広報の充実について工程表に明記されたい。(消費者庁)(6(2)マル5関係)

消費者庁からの意見聴取に対する委員会の回答2を踏まえた若年成人への対応は、必ずしも成年年齢引き下げを内容とする民法改正が実施されなければ行えないものではない。このため、民法改正を待たずに直ちに取組を始められる事項についても今期の工程表に具体的な取組を記載し、今期の工程表に記載出来ていない取組については次期の工程表に記載出来るよう実施に向けた準備・検討を進められたい。(消費者庁、関係省庁等)

2.食品表示について

(1)消費者等への周知の強化と健康食品の表示・広告の適正化

栄養成分表示や保健機能食品に関する消費者への周知に係る取組として「栄養表示・保健機能食品の消費者教育調査」(平成28年度)や「栄養成分表示・保健機能食品の消費者教育モデル事業」(平成29年度)、また、平成30年度以降の全国展開に向けた取組について記載するとともに、取組のスケジュールを工程表の図に明記されたい。(消費者庁)(2(3)マル1関係)

加えて、平成27年に施行された食品表示法に基づく食品表示の理解度のKPIとして、消費者・事業者双方の理解がどの程度かを示すデータを記載されたい。(2(3)マル1関係)

また、健康食品の表示・広告について、現行の健康増進法において従前以上に速やかな監視・指導を行うための方策について記述されたい。もしくは、現行法では現行以上には速やかな監視・指導及び措置が行えない場合は、建議3で求めた健康増進法改正に関する検討を速やかに行うことを記載されたい。(消費者庁)(2(3)マル2関係)

さらに、事業者に対して、特定保健用食品の広告に、バランスの取れた食生活の普及啓発を図る文書の表示を求めることについて、事業者に対するパンフレットの配布枚数などの実績を記載するとともに、これが実効性ある対策であることを示すためのKPIを設定されたい。(消費者庁)(2(3)マル2関係)

(2)特定保健用食品等の制度・運用の見直し

特定保健用食品の許可後の事後チェックについて、実効性のあるものとなっていることを確認出来るよう、買上調査や指導等の件数の実績を具体的に記載されたい。(消費者庁)(2(3)マル1関係)

また、内閣府令改正等により新たな科学的知見の解釈は以前より明確になったものの、特定保健用食品の再審査制に係る運用については明確になっていない面があることから、再審査制を更新制の代替として機能させるための要件見直し等の検討を明記されたい。(消費者庁)(2(3)マル1関係)

さらに、特定保健用食品の製品に係る公開情報の充実を図ることについて、スケジュールを工程表の図に明記されたい。(消費者庁)(2(3)マル1関係)

加えて、特定保健用食品のみならず保健機能食品全体に関する制度を適正に運用できる体制を強化するための計画を明記されたい。その際、特定保健用食品の平成28年度買上調査において関与成分が規定量に満たない製品が見つかったことを踏まえ、保健機能食品で問題のある製品が見つかった際の対応ルールについて、行政処分の是非を判断する基準の明確化・透明化の他、当該事案の情報(販売量、販売期間、違反状況の詳細 等)の開示といった当該製品を購入した消費者の視点に立った情報提供の在り方も含めて、早急に検討することを盛り込まれたい。(消費者庁)(2(3)マル1関係)

(3)機能性表示食品制度の見直し

機能性表示食品制度の施行後2年が経ったことから、制度の運用状況や制度に対する消費者の理解度等を踏まえ、改善に向けた見直しを行うことを明記されたい。特に、事後チェックの在り方や表示・広告等の問題提起を受けることの多い点については実態を把握し、必要な見直しを行うことを明記されたい。併せて、工程表の図に記載されている「食品の機能性等を表示する制度改正の要否の検討【消費者庁】」の部分も修正されたい。(2(3)マル1関係)

3.地域の見守りネットワークの構築について

改正消費者安全法により新たに位置づけられた消費者安全確保地域協議会の設置状況は、人口5万人以上の市町4において21市にとどまっており(平成29年1月1日現在)、非常に低調である。

このため、地方自治体における消費者安全確保地域協議会の設置促進のための取組が強化されるよう、先進事例の収集・共有にとどまらず、消費者安全確保地域協議会を設置することの意義や地方消費者行政推進交付金の活用が可能なことを含む設立支援に関する情報等の積極的な周知等、具体的な取組を更に追加して盛り込まれたい。(消費者庁)(6(2)マル2関係)

また、消費者安全確保地域協議会の設立や運営に関してガイドライン5に記載されている事項について、地方自治体がその全てを必要事項と捉えることにより、設置に対する負担感がもたらされている可能性があることから、既存の介護・福祉サービスにおける高齢者の見守りのネットワークを活用することの呼びかけ等、こうした負担感を取り除くための働きかけを地方自治体に対して積極的に行うことが重要であり、そのための取組について工程表に明記されたい。(消費者庁)(6(2)マル2関係)

(以上)

  1. (i)法令及びガイドライン等の見直しや改訂の実施状況、(ii)消費者や事業者等への、法令及びガイドライン等の周知状況、(iii)消費者関連法令の執行等、行政処分の実施状況、(iv)関連する取組全体の効果としての消費者被害の発生状況を基準としている。
  2. 「民法の成年年齢が引き下げられた場合の新たに成年となる者の消費者被害の防止・救済のための対応策について(回答)」(平成29年1月10日消費者委員会)
  3. 「健康食品の表示・広告の適正化に向けた対応策と、特定保健用食品の制度・運用見直しについての建議」(平成28年4月12日消費者委員会)
  4. 人口5万人以上の市町数は全国で556(平成28年4月現在)。
  5. 改正消費者安全法の実施に係る地方消費者行政ガイドライン(平成27年3月消費者庁)