北海道電力、東北電力、関西電力、四国電力及び九州電力による電気料金値上げ後のフォローアップに関する消費者委員会意見について

2017年4月18日
消費者委員会

消費者委員会は、本日、公共料金等専門調査会から、本件に関する意見の報告を受けた。本意見を踏まえ、消費者庁において意見表明を検討することを求める。


北海道電力、東北電力、関西電力、四国電力及び九州電力による電気料金値上げ後のフォローアップに関する専門調査会意見

平成29年4月18日
消費者委員会公共料金等専門調査会

消費者委員会は、平成29年3月1日付けで消費者庁より「北海道電力株式会社、東北電力株式会社、関西電力株式会社、四国電力株式会社及び九州電力株式会社に対する原価算定期間終了後の事後評価について」の付議を受けた。

これを受け、公共料金等専門調査会では、3月17日に北海道電力及び関西電力、23日に東北電力、四国電力及び九州電力からヒアリングを行うとともに、両日とも電力・ガス取引監視等委員会から各社に対する事後評価の聴取を行った。

その結果を踏まえ、上記付議に対し、専門調査会としての意見は以下のとおりである。

1.全体的な評価

【電力・ガス取引監視等委員会による事後評価】

  • 平成25年度に電気料金改定を行った電力会社5社(北海道電力、東北電力、関西電力、四国電力及び九州電力)1に対する原価算定期間終了後の事後評価については、消費者基本計画工程表2等に基づき、当専門調査会による事後評価に先立ち、電力・ガス取引監視等委員会料金審査専門会合において2月1日から3月1日にかけて行われた。同会合では、各社の料金値上げ認可申請に関する消費者庁意見3等を踏まえ、料金原価と実績費用の差異、規制部門と自由化部門の利益率の差異、経営効率化への取組等について検証された。
       会合において各社の供給エリアの消費者からそれぞれ意見を求め、消費者の視点を取り入れた検証への取組を充実させている点や、電力各社が経営効率化の取組状況につき新たに修繕費等の緊急的な支出抑制や繰延べの額を明示するなど、昨年4月の消費者委員会意見4も踏まえた分かりやすい分析が行われている点等については、積極的に評価をしたい。

【現行料金の妥当性】

  • 今回の事後評価の対象となる電力会社5社の料金原価の原価算定期間(平成25から27年度)における実績値について、以下2.で述べるように、料金改定時の想定原価と比較すると、燃料費及び購入電力料が上回る一方、修繕費が下回ることによって、実績原価が想定原価に近いものとなっている例が多くみられた。燃料費及び購入電力料の増加は、原子力発電所の停止が長引き、火力による発電が増加したためであり、他方、修繕費の圧縮は、こうした燃料費や購入電力料のコスト増を相殺するために行われた修繕工事の繰延べによるところが大きい。原油価格や為替レートの変動による影響も含め、事業者の裁量の範囲を超える部分が大きいものとみられることから、現在のところ、現行の料金原価を変更すべき事情はない。
  • 他方、今後、原子力発電所の再稼働が進展した場合には、燃料費、購入電力料の減少が見込まれる。電力会社5社の料金値上げは、原子力発電所の停止によるコスト増を主な理由とするものであったことから、そのコストが縮減した場合には、原則としてコスト減に対応した値下げが行われなければならない。
      燃料費や購入電力料以外の項目のコスト増を理由に、料金値下げを回避したり、値下げ幅を縮小する場合には、電力会社がその理由を十分に説明すること、また、説明内容を消費者が妥当だと納得出来ることが必要である。

2.個別項目

【燃料費及び購入電力料】

  • 燃料費については、北海道電力を除く4社で実績値が想定原価を上回り、購入電力料については、東北電力を除く4社で実績値が想定原価を上回った。これらは、我が国の原子力発電所の再稼働が料金改定時の想定より遅れ、料金原価の前提としての原子力利用率が料金改定時の想定と比べ低くとどまったことを主な背景とするものとみられる。
  • 購入電力料については、東北電力を除く4社で実績値が想定原価を上回ったが、超過幅は約4%から約70%と各社斑模様の結果となっている。これについては、電力各社において、原価算定時に想定していた原発稼働量の見込みの相違や、原子力以外の自社発電能力(火力、水力、太陽光等)の状況等の影響を受け、他社等からの購入電力料に差異が生じたことによるものである。
  • 昨年4月に全面自由化された小売部門のみならず発電部門でも競争が活発化するとともに、卸取引市場の整備など電源調達の多様な手段の整備も予定されているところ、電力各社は自社電源のみならず多様な電源市場の動向を注視し、収益改善につながる最適な調達手段の選定や、料金交渉の強化等を更に進め安値での調達に引き続き努力すべきである。

【人件費】

  • 北海道電力を除く4社において人件費が想定原価を上回った。電力各社は人材の質の確保やモチベーションの維持に考慮し、適正な人件費の支出を確保しつつも、料金原価の対象から除かれた出向者への給与負担等の項目を中心に、可能な限り人件費の効率化努力を行うべきである。

【修繕費】

  • 修繕費については、5社いずれにおいても実績値が想定原価を大きく下回った。これは、主に燃料費等の高止まりに伴う営業費用の増加分を相殺するため、修繕工事の緊急避難的な繰延べが数多く行われたことによるものと考えられる。修繕工事の繰延べのうちどの程度が恒久的なものとなり、経営効率化につながるのか、現時点では定量的な把握は困難とみられるが、電力各社は安全の確保を最優先にしつつ、今回行われた修繕費の効率化の取組を可能な限り恒久化するよう努めるべきである。
  • その際、電力の安定供給や安全確保の側面から、経営効率化目標の達成等の経営目的により、必要以上の削減圧力がかかることがないよう、繰延べに伴う設備面のリスク判断について、内部監査等を通じ、計画段階のみならず、事後も含めて継続的に社内において独立的な観点からモニタリングを行うことも重要である。
  • なお、電力各社は修繕費におけるコスト削減の見通しについて、消費者に対して更に分かりやすく情報提供及び説明を行うべきである。

【利益使途】

  • 「電気料金制度、運用の見直しに係る有識者会議」報告書(平成24年4月)では、料金改定を行わない場合、これまでの利益の使途につき具体的に事業者より説明がなされることが、当該料金妥当性評価のため適当であると述べられている。必要以上の内部留保の積み増しや株主配当により料金引下げへの取組が後退しているのではないかとの懸念を取り除くためにも、電力各社は利益の使途やその必要性につき、消費者の理解を得るよう具体的な説明を行うべきである。

3.今後の課題

  • 昨年4月以降、電力小売全面自由化がなされ、電力各社の自由料金メニューや新電力からの供給への切り替えが進みつつあるものの、現状では既存の規制料金(経過措置料金)で電力サービスの提供を受けている消費者が相当数に上る状況にある5。このため、電力各社による経営効率化や、原子力発電所の再稼働等に伴う費用の低減が規制料金メニューにも適切に反映されるよう、電力・ガス取引監視等委員会は、継続的な監視を行うとともに、電気事業法に基づく料金変更認可申請命令に係る基準6等に照らし、経営状況等に変化が生じた電力会社がある場合には、公開の場で状況の検証を行うべきである。
  • また、現行の料金変更認可申請命令に係る基準については、規制部門の利益率の水準が一定の基準以内であれば命令が発動されないこととなっているが、利益率についてはコストを膨らませることで低く抑えることが可能との指摘もあることから、その適正性につき必要に応じた検討を行うことが適当である。
  • なお、今回の事後評価では上記の申請命令に係る基準には達していないものの、一部の電力会社の利益率が比較的高い水準となっている7。利益率については、短期的には燃料費調整制度によるタイムラグ等の一時的な収支改善効果が影響していることから、利益率に関する的確な判断をするためには、平成28年度以降の動向も含め今後検証をする必要がある。
  • 消費者基本計画では、来年度についても、電気料金値上げ後のフォローアップを行うことが定められており、その際、電力・ガス取引監視等委員会において、各電力会社に対して、原価算定期間後の事後評価が実施される際には、本意見の趣旨を踏まえて、厳正な審査が行われることが必要である。
  • なお、昨年以降の事後評価の対象となっている電力各社の料金値上げは、主に東日本大震災後の原子力利用率の低下を理由とするものであったため、原発再稼働の進展によりその理由が失われた際に規制料金(経過措置料金)の引下げが適切に行われるかについて、電力・ガス取引監視等委員会による適切な監視が行われることが必要である。また、消費者委員会は消費者庁とともに当該状況を注視し、必要に応じてフォローアップを行うこととしたい。
  • 各電力会社及び電力・ガス取引監視等委員会においては、料金の透明性確保のため、今回も含めた事後評価の結果について、消費者への分かりやすい情報提供を更に推進すべきである。

以上

  1. 北海道電力は平成26年度、関西電力は平成27年度において、同じ平成25から27年度を原価算定期間とする2度目の料金改定を行っている。
  2. 平成27年3月24日消費者政策会議決定
  3. 「関西電力株式会社及び九州電力株式会社の家庭用電気料金値上げ認可申請に関する意見」(平成25年3月22日)、「北海道電力株式会社の家庭用電気料金値上げ認可申請に関する意見」(平成25年7月31日)、「東北電力株式会社及び四国電力株式会社の家庭用電気料金値上げ認可申請に関する意見」(平成25年7月30日)、「北海道電力株式会社の家庭用電気料金値上げ認可申請に関する意見」(平成26年10月8日)及び「関西電力株式会社の家庭用電気料金値上げ認可申請に関する意見」(平成27年5月11日)
  4. 「東京電力による電気料金値上げ後のフォローアップに関する消費者委員会意見」(平成28年4月26日)
  5. 平成28年12月末時点での新電力への契約先の切り替え(スイッチング)実績は約3.6%(約225万件)、旧一般電気事業者の自社内での契約の切り替え件数(規制→自由)は約3.6%(約223万件)。両者を合わせると約7.2%(約448万件)。(出所:平成29年3月23日公共料金等専門調査会における経済産業省提出資料)
  6. 「電気事業法等の一部を改正する法律附則に基づく経済産業大臣の処分に係る審査基準等」(平成28年4月)に基づき、規制部門の電気事業利益率の直近3カ年度平均値が電力会社10社の過去10カ年度平均値を上回り(ステップ1)、かつ前回料金改定以降の超過利潤(≒当期純利益-事業報酬)の累計額が事業報酬の額を超えている、又は自由化部門の収支が直近2年度間連続で赤字である場合(ステップ2)、変更認可申請命令を発動することとなっている。
  7. 東北電力では、平成25から27年度の利益率が規制部門で6.2%、自由化部門で5.1%となっている。また、関西電力では、平成27年度の利益率が規制部門・自由化部門とも7.1%となっている。なお、後者の利益率については、2度目の料金改定(平成27年度)の影響があるとも考えられる。