身元保証等高齢者サポート事業に関する消費者問題についての建議

2017年1月31日
消費者委員会

身元保証等高齢者サポート事業に関する消費者問題についての建議

我が国は、少子高齢化の進展により人口減少社会に突入しており、同時に、単身世帯の増加、親族の減少、あるいは近隣関係の希薄化といった状況がみられる。

こうしたことを背景に、一人暮らしの高齢者等を対象とした、身元保証や日常生活支援、死後事務等に関するサービスを提供する新しい事業形態(本建議における「身元保証等高齢者サポート事業」)が生まれている。

身元保証等高齢者サポート事業については、指導監督に当たる行政機関が必ずしも明確ではなく、利用者からの苦情相談についてもほとんど把握されていないのが実情である。

当委員会はこうした状況を踏まえ、身元保証等高齢者サポート事業に係る消費者被害の防止のために、消費者庁及び消費者委員会設置法(平成21年法律第48号)に基づき、内閣府特命担当大臣(消費者及び食品安全)、厚生労働大臣及び国土交通大臣に対し、次のとおり建議する。また、この建議への対応について、各大臣に対して、平成29年7月までにその実施状況の報告を求める。

1.身元保証等高齢者サポート事業における消費者保護の取組

(建議事項1)

消費者庁及び厚生労働省は、消費者保護の観点から、以下の取組を行うこと。

  • (1)消費者庁は、身元保証や死後事務等を行う身元保証等高齢者サポート事業による消費者被害を防止するため、厚生労働省その他関係行政機関と必要な調整を行うこと
  • (2)厚生労働省は、関係行政機関と連携して、身元保証等高齢者サポート事業において消費者問題が発生していることを踏まえ、事業者に対しヒアリングを行うなど、その実態把握を行うこと。
  • (3)消費者庁及び厚生労働省は、関係行政機関と連携して、前記(2)を踏まえ、消費者が安心して身元保証等高齢者サポートサービスを利用できるよう、必要な措置を講ずること。

(理由)

1 我が国は、少子高齢化の進展により人口減少社会に突入しており、同時に、単身世帯の増加、親族の減少、あるいは近隣関係の希薄化といった状況がみられる。

2 こうしたことを背景に、一人暮らしの高齢者等を対象として、身元保証や日常生活支援、死後事務等に関するサービスを提供する新しい事業形態が生まれている。提供されるサービスの内容は事業者によって異なるが、主要なものとしては以下のサービスが挙げられ、これらのうち複数のサービスを一括して提供する事業形態もみられる(本建議では、これらのサービスを総称して「身元保証等高齢者サポートサービス」といい、高齢者等に対し、以下のうち少なくとも身元保証サービス又は死後事務サービスとして掲げたものを提供する事業を「身元保証等高齢者サポート事業」という。以下同じ。)。

  • 身元保証サービス
    • 病院・福祉施設等(注1)への入院・入所時の身元(連帯)保証
    • 賃貸住宅(注2)入居時の身元(連帯)保証
  • 日常生活支援サービス
    • 在宅時の日常生活サポート
      (買物支援、福祉サービスの利用や行政手続等の援助、日常的金銭管理等)
    • 安否確認・緊急時の親族への連絡 等
  • 死後事務サービス
    • 病院・福祉施設等の費用の精算代行
    • 遺体の確認・引取り指示
    • 居室の原状回復、残存家財・遺品の処分
    • ライフラインの停止手続
    • 葬儀支援 等

3 こうしたサービスの需要は、少子高齢化の進展により、今後一層高まっていくことが予想されるが、既存の公的制度だけでは対応しきれない面もあり、公益法人、NPO法人、社会福祉協議会、弁護士・司法書士・行政書士、葬祭業者等、様々な主体による民間事業として行われている。

4 身元保証等高齢者サポートサービスは、前記2で挙げたとおり多岐にわたっており、一人暮らしの高齢者等が、各サービスについて個別に適正な選択を行うことは困難である。身元保証等高齢者サポート事業においては、前記2で挙げた多くのサービスを提供する場合があるため、高齢者の利便性に資するが、契約内容が複雑になりがちである。また、個々の費目がいずれのサービスの対価を示すのか、費用体系が明確でないものもみられる。

5 身元保証等高齢者サポートサービスのうち、特に死後事務に要する費用については、生前に事業者に預託する仕組みとなる場合が多いが、預託金の保全措置を講じていない事業者が存在しており、実際に、身元保証等高齢者サポート事業に係る事業者の経営破綻により、サービスの提供も受けられず、預託金も返還されないという事態が生じている。

6 身元保証等高齢者サポート事業の利用者には、一人暮らしの高齢者が多いとみられる。高齢者は、一般的に次第に心身共に能力が低下していくものであり、契約締結時には判断能力が認められる場合であっても、サービスの提供を受ける必要性が高まった状況においては、サービスが契約どおりに履行されているか、本人のみでは十分な確認ができるとはいえない。さらに、死後事務の履行について本人には確認するすべがない。終末期及び死後の事務処理に関する問題は、収入・資産の多寡を問わず、一人暮らしの高齢者全般にとって深刻な課題である。

7 厚生労働省は、社会福祉に関する事業の発達、改善及び調整に関する事務並びに老人の福祉の増進に関する事務を所掌するとともに、所掌に係る一般消費者の利益の保護に関する事務を所掌しているところ(厚生労働省設置法(平成11年法律第97号)第4条第1項第81号、第90号及び第107号)、身元保証等高齢者サポート事業全般については、指導監督に当たる行政機関が必ずしも明確ではなく、利用者からの苦情相談についてもほとんど把握されていないのが実情である。

8 消費者庁は、消費者の利益の擁護及び増進に関する事務を行うことを任務とし(消費者庁及び消費者委員会設置法第3条第1項)、これに関する基本的な政策の企画及び立案並びに推進に関する事務並びに関係行政機関の事務の調整に関する事務を所掌している(同法第4条第1項第1号及び第2号)。

9 厚生労働省は、一人暮らしの高齢者等が安心して生活を送ることができるようにするなど、高齢者の福祉の観点から、関係行政機関と連携して、身元保証等高齢者サポート事業に関する実態把握を行うべきである。そして、実態把握を踏まえ、消費者庁及び厚生労働省は、関係行政機関と連携して、消費者が安心して身元保証等高齢者サポートサービスを利用できるよう、必要な措置を講ずるべきである。その措置は、必ずしも法令による制度整備である必要はないが、消費者庁及び厚生労働省は、講じた措置の効果を適宜注視していくべきである。

10 前記9において必要な措置を検討するに当たっては、例えば以下の内容が考慮されるべきである。

  • (1)契約内容(解約時のルール等)の適正化、費用体系の明確化(モデル契約書の策定等)
  • (2)預託金の保全措置
  • (3)第三者等が契約の履行を確認する仕組みの構築
  • (4)利用者からの苦情相談の収集、対応策、活用の仕組みの構築

以上を踏まえ、消費者庁及び厚生労働省は、前記建議事項1に基づく措置を講ずべきである。

2.病院・福祉施設等への入院・入所における身元保証人等の適切な取扱い

(建議事項2)

厚生労働省は、高齢者が安心して病院・福祉施設等に入院・入所することができるよう、以下の取組を行うこと。

  • (1)病院・介護保険施設の入院・入所に際し、身元保証人等がいないことが入院・入所を拒否する正当な理由には該当しないことを、病院・介護保険施設及びそれらに対する監督・指導権限を有する都道府県等に周知し、病院・介護保険施設が身元保証人等のいないことのみを理由に、入院・入所等を拒む等の取扱いを行うことのないよう措置を講ずること。
  • (2)病院・福祉施設等が身元保証人等に求める役割等の実態を把握すること。その上で、求められる役割の必要性、その役割に対応することが可能な既存の制度及びサービスについて、必要に応じ、病院・福祉施設等及び都道府県等に示すこと。求められる役割に対応する既存の制度やサービスがない場合には、必要な対応策を検討すること。

(理由)

1 医師法(昭和23年法律第201号)は、正当な事由なく診察治療の求めを拒んではならないことを定めている(同法第19条第1項)。また、各介護保険施設の基準省令においても、正当な理由なくサービスの提供を拒んではならないことが定められており(指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第39号)第4条の2、介護老人保健施設の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準(平成11年厚生省令第40号)第5条の2及び指定介護療養型医療施設の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第41号)第6条の2)、入院・入所希望者に身元保証人等がいないことは、上記の「正当な事由・理由」に該当しないと考えられる 。(注3)

2 「病院・施設等における身元保証等に関する実態調査」(注4)によれば、以下のとおりである。

  • (1)契約書や利用約款等で身元保証人等を求めている病院は95.9%、施設等は91.3%に達している。
  • (2)身元保証人等がない場合に入院、入所を認めないとしたものは、病院で22.6%、施設等で30.7%に上る。
  • (3)入院・入所中に身元保証人等が不在となった時に、8割以上の病院・施設等が新たな身元保証人等を求めるとしており、身元保証人等を求める姿勢が強いことも示されている。
  • (4)一方、66.7%の病院及び23.6%の施設等が、身元保証人等がいた場合でも、支払や関わりを拒否するといった理由で問題が解決しなかったことがあると回答している。
  • (5)病院、施設等が身元保証人等に求めるものとしては、主として以下のものが掲げられている。
    • 入院費・施設等利用料の支払い
    • 債務(入院費・施設等利用料、損害賠償等)の保証
    • 本人生存中の退院・退所の際の居室等の明渡しや原状回復義務の履行
    • 緊急の連絡先
    • 本人の身柄の引取り
    • 入院計画書やケアプラン等の同意
    • 医療行為(手術・予防接種等)の同意
    • 遺体・遺品の引取り・葬儀 等

3 厚生労働省は、上記の調査結果を参考に、病院・福祉施設等が身元保証を求める理由や背景等の実態を把握した上で、必要に応じ、病院・福祉施設等が身元保証人等に求めている種々の役割を分析・分類し、それぞれの役割の必要性並びにその役割に対応することが可能な既存の制度及びサービスについて整理して、対応指針として示すなど、適切な措置を講ずるべきである。こうした既存の制度及びサービスとしては、例えば、市町村や都道府県の福祉等関連部門との連携、社会福祉協議会による福祉等に係る支援制度、成年後見制度等の関連する法的制度、身元保証等高齢者サポート事業などの福祉等関連サービス等が考えられる。
対応することが可能な既存の制度やサービスがない場合には、必要な対応策を検討するべきである。

以上を踏まえ、厚生労働省は、前記建議事項2に基づく措置を講ずべきである。

3.消費者への情報提供の充実

(建議事項3)

消費者庁、厚生労働省及び国土交通省は、消費者が安心して身元保証等高齢者サポートサービスを利用できるよう、サービスを選択するに当たり有用と思われる情報提供を積極的に行うこと。

(理由)

1 身元保証等高齢者サポート事業においては、契約内容が複雑になりがちであること、サービスの履行状況の確認が困難であること、事業者に費用を預託する契約形態となることなどから、消費者被害防止のためには、消費者に対し、こうしたサービスを適正に選択するために十分な情報が提供されなければならない。消費者庁及び厚生労働省は、消費者が安心して身元保証等高齢者サポート事業において提供されるサービスを利用できるよう、建議事項1及び2による措置内容を含めて、積極的な情報提供を行うことが必要である。

2 身元保証等高齢者サポートサービスには、賃貸住宅に入居する際の身元(連帯)保証サービスが含まれる。こうしたサービスが利用される背景には、賃貸住宅への入居の際にしばしば求められる身元(連帯)保証人等を確保することが困難な高齢者等のニーズがあると考えられる。国土交通省においては、高齢者の賃貸住宅への入居の円滑化を図る観点から、高齢者が利用できる家賃債務保証機関に係る情報が提供される体制整備を促す取組が行われており、消費者の適正な選択に資する、こうした家賃債務保証の情報提供に関する取組を、引き続き推進していく必要がある。

以上を踏まえ、消費者庁、厚生労働省及び国土交通省は、前記建議事項3に基づく措置を講ずべきである。

(注1)本建議における「福祉施設等」には、介護保険施設(介護老人福祉施設、介護老人保健施設、介護療養型医療施設)、認知症高齢者グループホーム、養護老人ホーム、軽費老人ホーム、有料老人ホーム等が該当する。
(注2)本建議における「賃貸住宅」には、サービス付き高齢者向け住宅が含まれる。
(注3)介護保険施設については、平成28年3月7日に開催された全国介護保険・高齢者保健福祉担当課長会議の厚生労働省配布資料において、「入院・入所希望者に身元保証人等がいないことは、サービス提供を拒否する正当な理由には該当しない」とされている。
(注4)公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート(平成26年10月)(https://www.legal-support.or.jp/akamon_regal_support/static/page/main/newstopics/mimotohoshohoukoku.pdf)。 調査は全国1,521か所の病院・施設等に対し実施され、病院(療養型医療施設(介護・医療)、その他(精神病床・一般病床))97か所、施設等(介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)、介護老人保健施設、認知症対応型共同生活介護(グループホーム)、有料老人ホーム(介護付・住宅型)、サービス付き高齢者向け住宅、その他(養護老人ホーム等))506か所から回答を得ている。

建議の概要

  1. 身元保証等高齢者サポート事業における消費者保護の取組
    (i)消費者庁において、身元保証や死後事務等を行う身元保証等高齢者サポート事業による消費者被害を防止するため、厚生労働省その他関係行政機関と必要な調整を行うこと。
    (ii)厚生労働省において、関係行政機関と連携して、身元保証等高齢者サポート事業において消費者問題が発生していることを踏まえ、事業者に対しヒアリングを行うなど、その実態把握を行うこと。
    (iii)前記(ii)を踏まえ、消費者が安心して身元保証等高齢者サポートサービスを利用できるよう、必要な措置を講ずること。
  2. 病院・福祉施設等への入院・入所における身元保証人等の適切な取扱い
    (1)病院・介護保険施設の入院・入所に際し、身元保証人等がいないことが入院・入所を拒否する正当な理由には該当しないことを、病院・介護保険施設及びそれらに対する監督・指導権限を有する都道府県等に周知し、病院・介護保険施設が身元保証人等のいないことのみを理由に、入院・入所等を拒む等の取扱いを行うことのないよう措置を講ずること。
    (2)病院・福祉施設等が身元保証人等に求める役割等の実態を把握すること。その上で、求められる役割の必要性、その役割に対応することが可能な既存の制度及びサービスについて、必要に応じ、病院・福祉施設等及び都道府県等に示すこと。求められる役割に対応する既存の制度やサービスがない場合には、必要な対応策を検討すること。
  3. 消費者が安心して身元保証等高齢者サポートサービスを利用できるよう、サービスを選択するに当たり有用と思われる情報提供を積極的に行うこと。

主な成果

【消費者庁】
1.(i)(iii)
  • 速やかな実態把握への着手に向け、厚生労働省との間で、情報共有及び意見交換を実施。
  • 国民生活センターや消費者団体等へヒアリングを行い、同様のサービスに関する消費生活相談等についての実態を把握。
  • PIO-NETの消費生活相談事例から、対象となるサービスの解約時の相談等が寄せられていることを把握。
3.
  • 厚生労働省により行われた実態把握の結果について、一般向けに消費者ウェブサイトを開設して、情報提供を実施し、また、都道府県等や関係団体に対して情報提供等を実施。
【厚生労働省】
1.(ii)(iii)
  • 平成29年度老人保健健康増進等事業において「身元保証サービスの実態調査に関する調査研究」を実施し、身元保証等高齢者サポート事業(以下「同事業」という。)を提供する事業者に対する事業内容に関するヒアリング調査や、同事業に関する消費者被害の実態調査等を行い、調査研究報告書を取りまとめた。
  • 当該調査研究の結果を踏まえ、必要な措置について、自治体宛に通知を発出し、各市町村や地域包括支援センターにおける、身元保証等高齢者サポート事業に関する相談を受けた場合等の取扱いを示した。
2.
  • 医療機関について、身元保証人等がいないことのみを理由に医療機関への入院を拒むことは「正当な事由」には該当しない旨を、関係団体と調整の上、都道府県等へ周知。
  • 平成29年度厚生労働科学研究費補助金厚生労働科学特別研究事業において「医療現場における成年後見制度への理解及び病院が身元保証人に求める役割等の実態把握に関する研究」を実施し、病院に対するアンケート調査やインタビュー調査等を行い、調査研究報告書を取りまとめた。
  • 当該調査結果を踏まえ、医療機関を対象に、身元保証人等が得られない場合の患者への対応等の好事例を収集し、年度末までに現場で活用できる事例集を作成し、都道府県に周知する予定。
  • 介護施設等については、平成29年度老人保健健康増進等事業における「介護施設等における身元保証人等に関する調査研究事業」により実態把握を実施し、施設運営者に対するアンケート調査やヒアリング調査等を行い、調査研究報告書を取りまとめた。
  • 当該調査の結果を踏まえ、身元保証人等に求められる役割の必要性やその役割に対応することが可能な既存の制度及びサービスの実態把握に努めるほか、当該調査研究報告書の公表時期に合わせ、身元保証人等がいないことのみを理由に介護保険施設への入所を拒むことが法令上認められる正当な理由には該当しないことについて、平成30年3月の全国介護保険・高齢者保健福祉担当課長会議で周知したほか、当該報告書の内容を踏まえた通知を自治体向けに発出し、管内の施設に向けた適切な指導・監督を求めた。
  • 消費者が安心して身元保証等高齢者サポートサービスを利用できるよう、建議事項1及び建議事項2による措置内容も含めて、情報提供を実施。
【国土交通省】
3.
  • 一般財団法人高齢者住宅財団が実施する「家賃債務保証制度」を支援することにより高齢者等の民間賃貸住宅における入居の円滑化を図っており、当該制度の情報提供については、居住支援協議会等において実施されるよう取り組んでいる。
  • 高齢者等の民間賃貸住宅における入居の円滑化を図るため、適正に家賃債務保証の業務を行うことができる者について国に登録する制度を平成29年10月に創設し、広く情報提供を実施。