東京電力による電気料金値上げ後のフォローアップに関する消費者委員会意見について

2016年4月26日
消費者委員会

消費者委員会は、本日、公共料金等専門調査会から、本件に関する意見の報告を受けた。本意見を踏まえ、消費者庁においては、意見表明を検討することを求める。


東京電力による電気料金値上げ後のフォローアップに関する専門調査会意見

2016年4月26日
消費者委員会公共料金等専門調査会

消費者委員会は、平成28年4月5日付けで消費者庁より「東京電力株式会社に対する原価算定期間終了後の事後評価について」の付議を受けた。公共料金等専門調査会では、4月14日に東京電力ホールディングス株式会社及び東京電力エナジーパートナー株式会社、電力・ガス取引監視等委員会事務局へのヒアリングを行った。その結果を踏まえ、上記付議に対しての専門調査会の意見は以下のとおりである。

1.全体的な評価

【電力・ガス取引監視等委員会による原価算定期間終了後の事後評価】

  • 今般の電力・ガス取引監視等委員会による事後評価については、物価問題に関する関係閣僚会議への付議に向けた協議等が予定されていないなかで、消費者基本計画工程表(平成27年3月24日消費者政策会議決定)での記載内容を踏まえて実施され、消費者庁による「東京電力株式会社の家庭用電気料金値上げ認可申請に関する意見」(平成24年7月17日公表)のうちフォローアップ審査に関する記載内容1に基づき、実績が料金原価を上回っている4つの費目について、合理的な理由なく上回る実績となっていないか、「電力・ガス取引監視等委員会 電気料金審査専門会合」において検証された。このことは、原価算定期間終了後の事後評価においても、消費者の観点から料金の適正性を確保する姿勢が示されたものとして、一定程度、評価できる。また、規制部門と自由化部門の利益率に乖離が生じた要因や、経営効率化の取組状況について、東京電力に対して説明を求めたことも評価できる。
  • 「電気料金制度・運用の見直しに係る有識者会議」報告書(平成24年3月)では、原価算定期間終了後、事業者が料金改定を行わない場合には、事業者が自ら部門別収支ベースで、原価と実績値の比較、これまでの利益の使途、収支見通し等について、具体的に説明することにより、原価算定期間終了後も引き続き当該料金を採用する妥当性を評価することが適当とされている。しかしながら、今般、東京電力により提示された「電気料金の評価」において、収支見通し等に関して具体的な説明は行われていない。したがって、東京電力自ら、規制料金メニューの改定を行わないことの妥当性に関して十分に説明していない。電力・ガス取引監視等委員会は、東京電力に対し、収支見通し等に関する消費者への丁寧な説明や情報提供を促すべきである。

【規制料金メニューの値下げ】

  • 今般の東京電力による「電気料金の評価」2において、今後の電気料金の改定については、柏崎刈羽原子力発電所が、稼働をしても、直ちには規制料金メニューの値下げを行うということではなく、費用全般の動向等について総合的に判断するとされている。しかしながら、平成24年に、原子力発電所の停止に伴う火力発電の燃料費などの増加のため、家庭用の低圧分野の料金を値上げした経緯3等を鑑みれば、仮に柏崎刈羽原子力発電所が再稼働された場合、料金原価に大幅な変更が生じることから、規制料金メニューの値下げを行うべきである。

2.個別項目

【人件費】

  • 今般の事後評価における、料金原価と実績費用の比較において、人件費は136億円4の増加が示されており、その要因については、新・総合特別事業計画(平成26年1月15日)に基づく、コスト削減計画の超過達成分の一部を原資とする「処遇制度の改編」を実施したためとされている。しかしながら、経営効率化によるコスト削減は、本来、規制料金メニューの値下げに反映されるべきであり、従業員の処遇改善に充当するのであれば、東京電力は、消費者の理解を得るために、どのような処遇改善を行ってきたのか、その実績等について情報提供及び説明を行うべきである。

【修繕費等】

  • 今般の事後評価における、経営効率化の取組において、修繕費については1,007億円5の深掘が行われたことが示されているが、4月14日開催の公共料金等専門調査会では、東京電力から、柏崎刈羽原子力発電所の再稼働の遅れに対応した緊急避難的な繰延べが多く行われているとの説明があった。一時的な収支改善のための緊急避難的な繰延べは、恒常的なコスト削減とは異なるものであり、今後の料金原価への影響が示されなければ、真にコスト削減の深掘が行われたのか評価できない。東京電力は、コスト削減の取組について、正当な評価を得るためにも、修繕費も含めた費用の見通しについて、消費者に分かりやすい情報提供及び説明を行うべきである。

<2014年度の新・総合特別事業計画におけるコスト削減目標額と実績額>
2014年度の新・総合特別事業計画におけるコスト削減目標額と実績額

(注1) 東京電力によると、2014年度における緊急避難的な繰延べ額については未確定であるものの、実績額のうち約2割程度に相当する見込みとのこと。

(注2) 当該コスト削減達成額(2,812億円)を原資として、新・総合特別事業計画に基づいて、年度平均で約136億円程度の「処遇制度の改編」等が実施された。なお、コスト削減超過達成額から(注1)の緊急避難的な繰延べ額(約1,700から約1,800億円)を差し引くと、原資となる繰延べ額以外の超過達成分は、約1,000から約1,100億円と試算される。

(注3) 「生産性倍増委員会合理化レポート」(2014年12月17日)によると、2013年度における緊急避難的な繰延べ額は、コスト削減の実績額が8,188億円に対し、1,821億円としている。

3.今後の課題

本年4月より、電力小売全面自由化が始まり、消費者による新料金プランへの切り替えが始まっているものの、当面、多くの消費者が規制料金メニューの利用を継続することが見込まれる。

こうしたなか、経営効率化や柏崎刈羽原子力発電所の再稼働等が東京電力の規制料金メニューに適切に反映されるよう、電力・ガス取引監視等委員会において毎年度、実施される審査において、適切な監視が行われることが必要である。

消費者基本計画では、今年度及び来年度についても、電気料金値上げ後のフォローアップを行うことが定められており、今後、電力・ガス取引監視等委員会において、各電力会社に対して、原価算定期間後の事後評価が実施される際には、本意見の趣旨を踏まえて、より厳正な審査が行われることが必要である。

また、東京電力においては、本年4月に分社化が行われたが、規制料金メニューに関わる分社化後の料金原価構成について、消費者に対する分かりやすい情報提供及び説明を行っていくことを要望する。

以上

  1. 「東京電力株式会社の家庭用電気料金値上げ認可申請に関する意見」(平成24年7月17日公表)では、フォローアップ審査において、「人件費等原価の個別項目について、料金算定の際に用いられた総額を上回る支出が行われないよう、経済産業省は継続的に監視すべきである」としている。
  2. 4月14日開催の第18回公共料金等専門調査会の資料2の22ページを参照。
  3. 東京電力は、平成24年7月に規制部門で平均8.46%の電気料金の値上げを認可され、同年9月1日より実施した。
  4. 数値は原価算定期間(平成24年度から平成26年度)の3事業年度の平均の額。
  5. 数値は原価算定期間(平成24年度から平成26年度)の3事業年度の平均の額。