関西電力による家庭用電気料金値上げ認可申請に対する消費者委員会の意見について

2015年5月8日
消費者委員会

消費者委員会は、本日、公共料金等専門調査会家庭用電気料金の値上げ認可申請に関する調査会から、本件に関する意見の提出を受けた。

消費者庁においては、本意見を踏まえ、経済産業省との調整を進めることを求める。


関西電力による家庭用電気料金値上げ認可申請に関する調査会意見について

2015年5月1日
消費者委員会公共料金等専門調査会
家庭用電気料金の値上げ認可申請に関する調査会

消費者委員会は、平成27年4月22日付けで消費者庁より「関西電力株式会社による電気供給約款の変更認可申請について」の付議を受けた。家庭用電気料金の値上げ認可申請に関する調査会では、4月27日に大阪で地元消費者団体との意見交換会を実施し、5月1日に経済産業省へのヒアリング等を行った。これらの結果を踏まえ、上記付議に対しての調査会の意見は以下のとおりである。

1.全体的な評価

【査定方針案全般】

  • 今般の査定方針案は、当調査会での調査審議を経て、本年2月24日に消費者庁で取りまとめた「関西電力の家庭用電気料金値上げ認可申請に関するチェックポイント」1で指摘した意見を概ね踏まえたものとなっている。このことは、家庭用電気料金値上げ認可申請の審査の過程において、チェックポイントを公平かつ効率的な料金査定方針案策定のための指針とすることが定着したものと評価できる。

    1 関西電力株式会社からの値上げ認可申請に関する検証にあたり、消費者の観点を踏まえたものとなるよう、2月20日の調査会での議論を経て、消費者庁において2月24日に取りまとめたものである。

  • 今回の査定は、電源構成変分認可制度(一般電気事業供給約款料金算定規則第19条の2、以下「電変」という。)に基づいて提出された申請であり、査定の前提として、需要家に更なる負担を求めるに当たり、今般の料金改定の「前提計画」として位置付けられている経営効率化計画が、前回改定の査定方針及び認可時に求めた経営効率化を反映したものであるかどうか、その進捗状況・内容等を十分に確認するとの方針のもとになされたことは評価できる。また、チェックポイントで示した点を経営効率化の指標として概ね取り入れたことについても評価できる。
  • 査定方針案において、昨年の北海道電力の再値上げに際してチェックポイントで提起した電気料金の値下げの条件についての考え方を踏襲し、値下げについての条件を明らかにしている点、値下げの実施時期や値下げ幅等について、総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会の「電気料金審査専門小委員会」がフォローアップを行うこととしている点については評価できる。今後、フォローアップは適時・適切に行われるべきであり、さらに、値下げ幅等について需要家から公開の場で意見を聴く機会等を設けるべきである。
  • 査定方針案において、3月17 日に美浜発電所1・2号機の廃炉が決定したことに伴う修繕費や諸経費の減少分、また、同日に日本原電敦賀発電所1号機の廃炉が決定したことに伴う購入電力料の減少分について、その全額が電気料金負担の軽減に活用することを求めたことは評価できる。需要家から再値上げによる負担増を懸念する声が多く出ていることから、今回の電気料金に反映させることを、関西電力に求める。

【審査プロセス】

  • 経済産業省における審査プロセスにおいて、公聴会や国民の声など、需要家の意見を広く聴取するとともに、事業者に詳細な情報提供を求め、精力的な審査を行った点は評価できる。ただし、査定方針案についても需要家が十分理解できるように、十分周知する等、配慮すべきである。
  • 関西電力が、経営効率化を更に進めることを表明したこと、さらに、需要家に対する説明会を実施し、情報提供に努めたことは評価できる。消費者からの厳しい声に鑑み、電力供給事業者として、自社の経営が管内の経済及び消費生活に多大な影響を与えることを十分自覚し、消費者の共感を得るための積極的な取組や丁寧な情報提供・説明を行うべきである。

【個別項目及び今後の課題】

  • 2.で掲げる「経営効率化」、「燃料費、購入電力料等」、「今後の料金値下げ等」などの個別項目について、経済産業省と関西電力には、更なる対応を頂き、結果について説明を求めたい。
  • 3.で掲げる、中長期的なエネルギー政策の在り方等の今後の課題については、経済産業省において検討し、しかるべき時期に消費者委員会としてヒアリングを行いたい。

個別項目

【経営効率化】

  • 大阪での2月10日開催の意見交換会及び4月27日開催の意見交換会において、役員及び顧問の人数並びに報酬の削減や関西電力グループ全体の経営効率化が不十分との意見が多く出ていた。他方、関西電力は、4月10日開催の「電気料金審査専門小委員会(第24回)」において、さらなる効率化努力等の論点について、料金審査の合理的な査定の検討を求める発言を行っており、「能率的な経営」の考え方について、消費者と関西電力の間には隔たりがみられた。
      需要家に、再値上げによる負担について理解を求めるためにも、更なる役員報酬の減額が必要であり、顧問関連経費については徹底的な見直しが求められるべきである。また、チェックポイントで指摘した健康保険料の事業主負担割合の引下げ、普及開発関係費等の削減、寄付金・団体費等の諸経費等の削減、資産の売却、グループ会社の利益剰余金の取り崩し等によるグループ全体の経営効率化にも徹底して取り組むよう、関西電力に促し、査定に反映させるべきである。

【燃料費、購入電力料等】

  • 値上げの大宗を占める燃料費について、メリットオーダーの徹底を行い、自社火力の発電電力量の増加分及び燃料消費数量の再算定を行い、料金原価から費用を上回る部分を減額すべきとしたことは評価できる。
  • メリットオーダーにより、揚水発電の増分による費用と、当該電力量を他社から購入した際の費用の差を、料金原価から減額すべきとしたことは評価できる。
  • 石炭火力発電所の定期点検の繰延べについて、今回の申請では平成27年度の計画値が料金算定上、需要家に大きな追加負担を強いるものになっている点に関し、平成25年度から27年度の3か年平均で見れば当初想定を下回る補修日数2となっていることを踏まえ、少なくとも前回認可と同じ水準の石炭火力発電量を織り込むべきとしたことは評価できる。

    2 石炭機の合計補修日数について、関西電力は、前回改定時に平成25年度から平成27年度までの合計で446日を想定していた。これに対し、今回の申請では、平成27年度に166日を想定しているが、平成25年度及び平成26年度の実績との合計は405日となり、前回改定時の想定の合計から41日減少していることになる。(出典:「電気料金審査専門小委員会(第24回)」の資料6のP.16)

  • 水力発電や新エネルギーの発電電力量の減少分を、「社会的経済的事情の変動」によるものと認めず、自社火力の発電電力量の増加分及び燃料消費数量の再算定を行い、そのことによって生じる燃料費の変動額を料金原価から減額すべきとしたことは評価できる。
  • 各種燃料の追加調達価格について、調達価格が最も低価格なものの価格(トップランナー価格)を原価織込価格とすべきとしたことは評価できる。
  • 卸電力取引所取引の約定価格について、昨年度後半以降の原油価格の大幅な下落を料金原価に反映するため、直近の実績に基づき、申請に織り込まれている約定価格からの下落率を算定した上で、料金原価に反映すべきとしたことは評価できる3。なお、下落率の算定に用いる直近の実績の期間は「6ヶ月」とされているが、4月10日開催の「電気料金審査専門小委員会(第24回)」において、今般の原油価格の下落は経済の構造的な変化に起因するものであり、当面、原油価格が大幅に上昇する可能性は低いため、実績の期間は「6ヶ月」より短くすべきとの議論もあったことから、今後、料金原価を査定する際、卸電力取引所取引の約定価格に燃料価格の変動をどのように反映させるのか、取り扱いを明確にすべきである。

    3 卸電力取引所取引について、今回の値上げ申請では平成25年10月から平成26年9月の実績に基づく約定額が想定されていたが、「電気料金審査専門小委員会」において、燃料費調整制度の対象となっていないため、直近の原油価格の下落が自動的に電気料金に反映されていないとの指摘があった。

  • 今般の値上げ申請による料金の値上げ額と、燃料費調整制度に基づく料金の調整額の関係が消費者にとってわかりやすいものとなるよう、原油価格の変化が料金に反映されるまでのタイムラグや、原油価格の下落がどの程度料金を引き下げる効果があるのかといった点について、例えば、関西電力のホームページ4上で、具体例などを挙げて消費者に対し丁寧な説明を行うよう、関西電力に促すべきである。

    4 関西電力のホームページでは、「値上げ申請に関するご説明」で、平成26年8月から10月までの貿易統計実績による燃料費調整を踏まえた料金の試算が掲載されている。
    http://www.kepco.co.jp/home/ryoukin/s-ryoukin/setsumei/sonota/index.html

【販売電力量】

  • 関西電力は、自由化部門における販売電力量の減少の要因である需要家の離脱を解消するための努力を行うべきである。

【料金体系等】

  • 消費者が電気料金を節約できるメニューについて、積極的に広報・普及に取り組むよう、関西電力に促すべきである。
  • 大幅な値上げであることを踏まえ、関西電力は、効率化の深掘りによって生み出される原資を激変緩和措置に活用するための具体策を速やかに検討し、確実に実施すべきである。
  • 三段階料金の段階別料金設定において、関西電力の申請案では、1・2段階格差、2・3段階格差ともに縮小しているが、少額一般家庭利用者にとって、値上げの負担が緩和されるよう、段階別の値上げ幅を速やかに検討し、確実に実施すべきである。

【財務状況】

  • 渇水準備引当金について、関西電力は、「目的外の取り崩しを行うことは考えていない」としているが、1月30日開催の「家庭用電気料金の値上げ認可申請に関する調査会(第19回)」では、関西電力から「このままでは財務基盤の毀損は一層深刻さを増し、資金調達が困難になるなど、電力の安全・安定供給に支障を来すおそれがある」との説明があったところである。他方、北海道電力は、泊発電所の長期停止による火力燃料費の増大により、純資産の毀損が拡大したため、昨年4月に渇水準備引当金の取り崩しの申請を行い、許可を受けたところである。目的外の取り崩しは経営判断で申請することが可能であることから、北海道電力の前例に鑑み、関西電力は、需要家に更なる負担を求めるに当たり、純資産の毀損を回避するために、渇水準備引当金の取り崩しの許可申請を行う余地はないか検討するべきである。

【今後の料金値下げ等】

  • 高浜原発3・4号機の再稼働時期に応じて原価低減分や値下げ幅が消費者に分かるよう、関西電力は、事例などを用いて具体的に情報開示を行うべきである。
  • 1月21日開催の「電気料金審査専門小委員会(第20回)」及び2月20日開催の「家庭用電気料金の値上げ認可申請に関する調査会(第20回)」において、関西電力から、高浜原発3・4号機の再稼働が27年11月から遅れた場合でも、27年度中は今回申請している料金を維持したいとの発言があったことから、高浜原発3・4号機の再稼働時期が予定より更に遅れる場合であっても、原価算定期間内に3度目の値上げが行われないことを確保するために、経済産業省がどのような措置を講じるのか、明確にすべきである。

3.今後の課題

【料金審査の在り方】

  • これまでの電気料金値上げ認可申請の調査審議の過程で明らかになった諸課題(例:情報公開・開示の在り方、電源構成変分認可制度における「社会的経済的事情の変動」の解釈及び同制度下での電気料金値上げの審査の在り方、事後評価における事業者の値上げ申請認可後のモニタリングの在り方、料金値下げ幅の審査の在り方、卸電力取引所取引の約定価格への燃料価格の変動の反映等)について、引き続き、経済産業省において需要家の利益が損なわれることがないよう、料金の決定過程の透明性及び消費者参画の機会がより実質的に確保される制度の検討を行うべきである。
  • 一時的な収支改善のために修繕費等の緊急避難的な繰延べが多額に行われている中で、当期の原価算定期間終了後に値上げ申請が行われた場合には、既に料金に含めて回収した修繕費等が再度料金原価に算入される可能性があるため、経済産業省は、電力会社が値上げ申請を行う際には、審査の過程で繰り延べられた修繕費等の内容及び発生時期を明示させるとともに、前期の原価算定期間から繰り延べられた修繕費等に関する査定上の取り扱いを明確にすべきである。
  • 値上げによる経営状況の改善により、必要以上の内部留保の積み増しや株主配当が行われないことを確認5するため、値上げ実施後において、経済産業省は、適時・適切に透明性の高いフォローアップを行うべきである。特に、電変に基づいて申請を行った電力会社については、より徹底した説明の必要があると考えられるため、徹底したフォローアップを行うべきである。

    5 「原価算定期間終了後の事後評価と経営効率化のフォローアップのあり方について」(平成26年9月29日 資源エネルギー庁)では、原価算定期間終了後における評価について、「経営状況に照らして必要以上の内部留保の積み増しや株主配当が確認されるような場合には、報告徴収を実施の上、料金認可申請命令の発動の要否について検討」と記載されている。

【中長期的な電源確保の在り方】

  • 大阪での2月10日開催の意見交換会及び4月27日開催の意見交換会において、関西電力に対し、原子力発電への依存を改め、再生可能エネルギーの使用拡大等、エネルギーの多様化を求める声が多く出されていた。経済産業省は、中長期的な電力確保の考え方について、消費者に対し、積極的に丁寧な情報提供・説明を行うよう、関西電力に促すべきである。

【電力システム改革】

  • 消費者基本計画工程表(平成27年3月24日消費者政策会議決定)では、「電気の小売料金自由化に向けて、決定過程の透明性確保及び消費者参画の機会の確保について検討するとともに、消費者が多様なメニューの中から適切な選択を行うことができるよう、小売全面自由化の実施に際して、小売事業者が提供するサービスの内容に関する消費者の理解を増進するための情報提供の推進等の取組を行う」とされており、経済産業省として、消費者利益の確保の在り方を検討するとともに、電力システム改革の進捗状況について、消費者に分かりやすく説明し、適切な選択に資するための情報提供を工夫するべきである。また、小売事業者が提供するサービス等について、複雑なメニューや情報不足による混乱、詐欺的な勧誘の発生等の消費者トラブルの発生が見込まれるため、その苦情処理や紛争処理のための体制強化について検討するべきである。
  • 経済産業省は、電力システム改革における具体的な制度設計や制度の運営を行う際には、消費者の利益が損なわれることがないよう、消費者の意見が政策に反映されるような仕組みを検討するべきである。
      特に、電気の小売の全面自由化の実施に伴う、電力の卸・小売市場における市場の公正性・健全性を害する行為等を監視する「電力・ガス取引監視等委員会」の設立については、消費者の利益確保の観点からも重要であることから、消費者の意見が適切に反映される仕組みを検討するべきである。

以上の今後の課題については、消費者庁においても経済産業省とこれらの政策に係る情報及び認識等を共有し、消費者庁の使命を実現すべく適切に対応することを強く期待する。

以上