次期消費者基本計画の素案(平成27年2月)等に対する意見

2015年2月17日
消費者委員会

次期消費者基本計画の素案(平成27年2月)等に対する意見

消費者基本法においては、消費者基本計画の検証・評価・監視について、それらの結果の取りまとめを行おうとする場合には、消費者委員会の意見を聴かなければならないとされている。このため当委員会としては、計画の実施状況や計画に盛り込むべき新たな課題等に係る検討を調査審議の重要な柱の一つと位置付けてきた。

次期消費者基本計画(以下、「次期計画」という。)については、昨年5月公表の「消費者基本計画の改定素案(平成26年5月)等に対する意見」により、高齢化や情報化、国際化等がさらに加速する中で必要となる消費者政策の具体策について検討するとともに、現政権が進める経済成長戦略や規制改革と消費者利益の擁護・増進を車の両輪として進めていくための計画の在り方について、十分議論することが必要であること等を提言するとともに、消費者庁から、随時、その検討状況についてヒアリングを重ねてきた。また、本年1月27日及び2月3日の委員会本会議において、「地方消費者行政の体制整備の推進等」、「高齢者向け住まい」、「エステ・美容医療サービスに関する消費者問題」の3つのテーマについて、実施状況や今後の取組等について関係省庁からヒアリングを行うとともに、次期計画の素案について、2月10日に消費者団体ほか関係団体等との意見交換会を行ったところである。

当委員会としては、関係省庁等ヒアリングや関係団体との意見交換の結果や、当委員会が行った意見表明の内容等を踏まえ、次期計画の策定において特に留意すべき事項や具体的に検討すべき課題について、下記のとおり意見を述べる。関係省庁等におかれては、下記の各項目について十分に検討の上、可能な限り次期計画の原案等に反映されたい。

当委員会としては、本意見及びパブリックコメントの次期計画への反映状況やその後の実施状況等について引き続き監視を行い、消費者被害の状況が深刻なものや取組が不十分と考えられるもの等については、必要に応じて建議等を行っていくこととする。

1.計画全般に関する事項

○ 消費者行政の総合調整事務については、「内閣官房及び内閣府の業務の見直しについて」(平成27年1月27日閣議決定)において、第189回通常国会に関連法案が提出されることとしており、国会での審議により関連法案が成立すれば、内閣府から消費者庁に移管されることとなる。

このため、関連法案が成立した後、次期計画の実施状況に関する検証・評価や、計画の見直しについて、消費者庁は、消費者行政の司令塔役・エンジン役を強力に発揮するための、総合調整機能を有することを明記すべきである。

○ 第1章の「1 消費者政策の更なる充実に向けて」での消費者庁がこれまでに取り組んできた各種法律の制定・改正等の記載について、消費者庁及び消費者委員会の設置以降、消費者行政は消費者庁、消費者委員会、国民生活センターが連携して取り組んできたことを示すように、本文を工夫されたい。

○ 第3章の「1 消費者政策の推進により目指すべき姿」での「勧誘を受けるかどうか(P)」の記載について、詐欺的投資勧誘や不招請勧誘に伴う消費者被害が発生していることから、「勧誘を受けるかどうか」を選択できることは極めて重要であり、本文に明記されたい。

○ 第2章で記載されている課題と第4章で記載されている施策との対応関係が不明確であり、例えば、高齢者の消費者被害の防止と救済について、第4章の各項目において、関連する施策が記載されているが、消費者政策全体としてどのような取組を行うのか分かりにくい。第2章で記載されている課題と第4章で記載されている施策との関係性や、現行計画の施策と次期計画の施策との関係性が把握できるよう、末尾に対照表を付加する等、説明の仕方を工夫されたい。

○ 次期計画の素案において示されている工程表のなかには、既存の取組を延長しているだけで、今後5年間で取り組むべき大きな課題に挑戦するという意欲が感じられないものが見受けられ、KPI(重要業績評価指標)についても、消費者被害の防止等、個々の施策に関連する取組全体の効果を把握するには不十分なものが多い。原案を策定するに当たっては、以下の事項について再度検討を行い、必要なものについては修正・追加等を行われたい。

(1)工程表

年限を区切らずに5年間で取り組むことが示されているものについて、特に、法令改正等の新たな制度を検討するものなどについて、可能な限り改正のスケジュールを明確化できるように、取組の進め方等について見直しをされたい。

(2)KPI(重要業績評価指標)

本文及び工程表に記載されている全ての施策のKPIについて、以下の4つの基準を念頭に見直しをされたい。

  1. 法令及びガイドライン等の見直しや改訂の実施状況
  2. 消費者や事業者等への、法令及びガイドライン等の周知状況
  3. 消費者関連法令の執行等、行政処分の実施状況
  4. 関連する取組全体の効果としての消費者被害の発生状況

なお、(ii)については、広報資料の作成部数や説明会の回数で測るのではなく、周知率(例えば、周知すべき対象者に対して、知っている者の割合や実際に説明を受けた者の割合)で測ることを検討すべきである。

また、(iv)については、消費者被害の抑止の効果を直接的に計測する指標として、PIO‐NET(全国消費生活情報ネットワーク・システム)の活用等により消費者被害金額を把握することも検討されるべきである。

2.関係省庁等ヒアリングの結果を踏まえ、留意が必要な事項

(1)地方消費者行政の体制整備の推進等

○ 平成27年度から地方消費者行政活性化基金が単年度の交付金に変更されたが、地方における消費者行政の計画的・安定的な取組が可能となるような財政支援の実施に向けて引き続き最大限の努力をされたい。(消費者庁)

○ 地方公共団体の消費者行政担当部署が司令塔的役割を十分果たすことができるよう、庁内連携の推進、相談業務の広域連携、消費生活相談等の事務の委託、消費者安全確保地域協議会等につき、各地における取組状況や好事例を広く共有する旨を明記されたい。(消費者庁)

(2)高齢者向け住まい

○ 高齢者の生活の場が多様化するなかで、契約面や安全面など、高齢者が安心して生活できるようにするための消費者保護の制度を整備すること等が必要である。こうした観点から、以下の事項を含めた高齢者向け住まいに関する取組について、次期計画に明記されたい。(厚生労働省、国土交通省)

  • 未届施設も含む高齢者向け住まいの施設・サービスの利用に係る契約上の問題に関する実態把握と、退去時に高額な退去費用の支払いが求められる等のトラブルを防止するための、事業者に対する処分、指導等
  • 未届施設も含む高齢者向け住まいの施設・サービスの利用に係る事故情報の収集及び、事故の防止のためのガイドラインの策定や事業者に対する指導・監督等
  • サービス付高齢者向け住宅に関する実態把握のための調査と、消費者被害への対応等

(3)エステ・美容医療サービスに関する消費者問題

○ 次期計画の素案において、「美容医療サービス等の消費者被害防止」及び「医療機関のホームページによる情報提供」に記載されている取組について、ガイドラインや指針の遵守状況等、これまでの表示及び事前説明に関する取組とその効果について十分に検証・評価を行い、十分でない点があれば、法規制を含めたさらに必要な措置を講じる必要があることは従前から指摘しているところである。しかし、今般の関係省庁ヒアリングの結果、現時点において、検証・評価が適切に行われていないことが明らかとなった。

エステ・美容医療サービスについては、全国の消費生活センターに寄せられる危害相談件数が増加傾向にあり、「フェイスリフト術」等の美容医療に係る集団訴訟等、問題は深刻化している。これまでの取組について、十分な効果が見られない場合には、医療法に限らず特定商取引法の改正も含めて法的措置の検討を行うことが必要である。こうした観点から、以下の事項を含めた取組について、いつまでにどのような取組を行うのか明記されたい。(厚生労働省、消費者庁)

  • 「医療機関ホームページガイドライン」及び「医療広告ガイドライン」の効果について、早急に適切な方法により検証・評価を行い、その結果を明らかにしたうえで、十分な効果が見られない場合には法規制を含めた必要な措置を講じるべきであり、適切な方法及び規模により検証・評価を行う時期及び、法規制を含めた措置を講じる時期を明記されたい。(厚生労働省)
  • 「自由診療におけるインフォームド・コンセントの取扱い等についての指針」策定後の効果について、早急に適切な方法により検証・評価を行い、その結果を明らかにしたうえで、十分な効果が見られない場合には法規制を含めた必要な措置を講じるべきであり、適切な方法及び規模により検証・評価を行う時期及び、法規制を含めた措置を講じる時期を明記されたい。(厚生労働省)
  • 美容医療サービスを特定商取引法上の特定継続的役務として取り扱うべきかについて引き続き検討を加えることを明記されたい。(消費者庁)

3.個別施策に関する事項(第4章及び第5章関連部分)

11 消費者の安全の確保】


1「3.個別施策に関する事項」では、次期計画素案の本文及び工程表に記されている項目の順番に合わせて、意見を記載している。


○ 生命・身体に関する消費者事故について、事故情報の収集を徹底するとともに積極的に活用することで消費者の安全を確保するとともに、いわゆる「すきま事案」について必要な措置を講じられたい。(消費者庁)

○ 現行計画に記載されている「まつ毛エクステンションの施術に係る安全の確保」については、対策を実施した効果について検証・評価を行い、十分な効果が見られない場合には、さらに踏み込んだ検討を行うことを明記されたい。(厚生労働省)

2)消費者事故等の情報収集及び発生・拡大防止

(1)事故情報の収集、公表及び注意喚起

  • 「教育・保育施設等における事故情報の収集及び活用に関する建議」(平成26年11月)を踏まえ、事故情報を適切に収集及び活用するとともに、事故の原因を検証する仕組みを構築することを明記されたい。(内閣府、厚生労働省、文部科学省、消費者庁)

(6)製造物責任法に関する裁判例等の収集・公表

  • 製造物責任法については、裁判例等の収集・公表だけではなく、それらを分析し、課題を抽出・整理の上、必要な対策を検討することを明記されたい。(消費者庁)

4)食品の安全性の確保

○ 「機能性表示食品」の安全性確保について、「食品表示基準の制定に係る答申」(平成26年12月9日)を踏まえ、制度を運用するにあたり、食品安全委員会の知見を活用することが有効な場合には積極的に連携を図ることや、届出事業者から消費者庁への事故情報の報告が必ず行われる制度を構築することを明記されたい。(消費者庁)

【2 表示の充実と信頼の確保】

1)不当な表示を一般的に制限・禁止する景品表示法の普及啓発、厳正な運用

(2)景品表示法の普及・啓発

  • 事業者団体による自主基準の策定等について、積極的に支援していくことを明記されたい。(消費者庁)

3)食品表示による適正な情報提供及び関係法令の厳正な運用

(1)新たな食品表示制度(食品の機能等を表示する制度を含む)の円滑な施行等

  • 「機能性表示食品」については、「食品表示基準の制定に係る答申」(平成26年12月9日)において、新たな制度の脆弱性を克服するために、法的基盤について実施後すみやかに補強・整備することとされており、その趣旨を担保する内容とされたい。また、事業者からの届出後、機能性に十分な科学的根拠がないことが判明した場合には、早急に適切かつ厳格な行政処分や罰則が科されるよう執行体制を構築することを明記されたい。(消費者庁)

(2)いわゆる健康食品の表示・広告の適正化

  • 「食品表示基準の制定に係る答申」(平成26年12月9日)を踏まえ、特定保健用食品も含め、表示・広告の適正化に取り組むことを明記されたい。(消費者庁)

【3 適正な取引の実現】

2)商品・サービスに応じた取引の適正化

(1)電気通信サービスに係る消費者保護の推進

  • 「消費者が契約内容を十分に理解して電気通信サービスを利用できる環境の実現を図り、消費者トラブルの防止に十分な実効性が確保されるよう、「ICTサービス安心・安全研究会報告書」(平成26年12月)において検討することとされた「取消しルール」の導入につき検討を進めることを明記されたい。また、同報告書において改善状況等を注視・検証していくこととされた項目(試用サービス、SIMロック解除の推進、更新月のプッシュ型通知、苦情・相談を効果的に解決するための具体的な仕組み、モバイルサービスの料金体系等)について、継続的に検証を行い、必要に応じて対応を取る旨を明記されたい。(総務省)

(3)安全・安心なクレジットカード利用環境の整備

  • 「クレジットカード取引に関する消費者問題についての建議」(平成26年8月)を踏まえ、加盟店の管理の徹底に係る制度整備や、翌月一括払い(マンスリークリア)の取引における抗弁の接続等の制度整備に向けた措置を講ずることを明記されたい。(経済産業省)

(4)商品先物取引法の迅速かつ適切な執行

  • 「商品先物取引法における不招請勧誘禁止規制の緩和策に対する意見」(平成26年4月)や第182回消費者委員会本会議(平成27年1月27日開催)での議論を踏まえ、消費者被害を防止するための取組を徹底することを明記されたい。また、商品先物取引法施行規則について懸念を示す意見書や声明等が多数寄せられていることも踏まえ、委託者の保護に欠ける事態が生じた場合には、直ちに制度を見直すことを明記されたい。(消費者庁、農林水産省、経済産業省)

3)情報通信技術の進展に対応した取引の適正化

(4)インターネット上の消費者トラブルへの対応

  • 「インターネット上の取引に伴う消費者問題の発生は、国際的な視野に立って見なければならず、また、突発的な事案に対して早期の対応が求められるため、解決に向け迅速に関係法令の改正等、制度的対応も含めた対策を講ずることを明記されたい。(消費者庁、警察庁、総務省、経済産業省、関係省庁等)

【4 消費者が主役となって選択・行動できる社会の形成】

○ 越境取引・インターネット取引などでの模倣品被害を防止するため関係行政機関による取締りの強化等を行うことを明記されたい。また、消費者が模倣品を選択して被害にあうことのないように啓発を行うことを明記されたい。(消費者庁、警察庁、総務省、法務省、外務省、財務省、文化庁、農林水産省、経済産業省)

2)消費者団体、事業者・事業者団体等による自主的な取組の支援・促進

(1)消費者団体等との連携及び支援等

  • 「消費者団体が行う公益的な活動についての育成・支援の在り方の検討」について、消費者庁及び消費者委員会設置法附則第五項の趣旨を踏まえ、具体的な検討項目や育成・支援策を実施するスケジュール等について明記されたい。(消費者庁)

(3)事業者や事業者団体による自主的な取組の促進(公益通報者保護制度の推進)

  • 「工程表に記載されている「制度の見直しを含む必要な措置の実施」について、早急に実施することを明記されたい。(消費者庁)
  • 公益通報者保護制度を推進するためには、国民生活の安心や安全を脅かす法令違反等の防止のために、企業内部の労働者(私人)が公益的役割を担っていく必要があることから、「消費者教育」の一環として、法の周知・啓発を図っていくことができないか検討されたい。(消費者庁)

4)消費者政策の透明性の確保と消費者の意見の反映

○ 消費者が主役となって選択・行動できる社会を形成していくためには、消費者政策の透明性を確保し、消費者の意見を適切に消費者政策に反映させることが重要であることから、4)ではなく1)とするように構成を見直されたい。(消費者庁)

(1)審議会への消費者を代表する委員の選任

  • 「各省庁に設置されている消費者問題に関連する審議会について、消費者を代表する委員の人数や、全委員に占める割合等、これまでの実績について検証することを明記されたい。(消費者庁、関係省庁等)

5)環境の保全に配慮した消費行動と事業活動の推進

○ ESD(Education for Sustainable Development ; 持続可能な開発のための教育)やエシカル消費等の教育・普及啓発として、循環型社会の形成に向けたエネルギー教育やフェアトレードの普及啓発に努めることを本文に記載されたい。(消費者庁)

【5 消費者の被害救済、利益保護の枠組みの整備】

1)被害救済、苦情処理及び紛争解決の促進

○ 「詐欺的投資勧誘に関する消費者問題についての建議」(平成25年8月)を踏まえ、違法行為による財産の隠匿・散逸を防止するための制度の導入について、これまでの検討の成果について検証・評価し、今後の取組について明らかにされたい。(消費者庁)

2)高度情報通信社会の進展に対応した消費者利益の擁護・増進

(3)パーソナルデータの利活用に関する制度改正

  • 「『パーソナルデータの利活用に関する制度改正大綱』に関する意見」(平成26年7月)及び「いわゆる名簿屋等に関する今後検討すべき課題についての意見」(平成26年9月)を踏まえ、消費者の個人情報等が保護され、安心が確保されるための方策を継続して検討し実行していくこと、特に名簿屋の実態については調査の上、必要な対策を検討することを明記されたい。(内閣官房、消費者庁、総務省、経済産業省、関係省庁等)

4.今後の課題

○ 計画の検証・評価・監視

次期計画では、計画本体が閣議決定の対象とされ、計画の具体化である工程表は1年に1回は見直しを行い、消費者政策会議で決定されることとしている。

社会経済状況が急速に変化する中で中長期的に実効性のある消費者政策を推進していくためには、工程表に限らず計画本体についても、消費者団体等の意見も聴きつつ、不断の見直しを行うことが必要であり、また、工程表が修正される場合には、必要に応じて、計画本体も修正していくべきである。

当委員会としては、次期計画で示された施策の実施状況について、KPI(重要業績評価指標)も含めて検証・評価・監視を随時行い、消費者を取り巻く環境や課題、取り組むべき施策の内容等に大きな変化が生じ、施策の追加・拡充や整理等が必要と考えられる場合には、計画本体の見直しも含めて意見表明を行っていくこととする。

(以上)