適格機関投資家等特例業務についての提言

2014年4月22日
消費者委員会

1 はじめに

適格機関投資家等特例業務を悪用した詐欺的投資勧誘とこれによる深刻な被害が、後を絶たない。当委員会は、平成25年8月に「詐欺的投資勧誘に関する消費者問題についての調査報告」をまとめているところであるが、そこでも適格機関投資家等特例業務を利用した詐欺的投資勧誘被害の存在を報告し、とりわけ高齢消費者被害への対策の必要を指摘していた。

その後、国民生活センターは、平成25年12月19日付で「投資経験の乏しい者に『プロ向けファンド』を販売する業者にご注意!-高齢者を中心にトラブルが増加、劇場型勧誘も見られる-」(別添資料。以下「報告書」という。)を公表し、プロ向けファンドの制度趣旨に則った仕組みを導入すること等を金融庁及び証券取引等監視委員会に要望し、当委員会とも密接に連携して情報を共有し、当委員会としても調査・検討を継続してきた。

適格機関投資家等特例業務の悪用による被害の多発に対して、金融庁及び証券取引等監視委員会も対応を強化してきた。すなわち、金融商品取引法(昭和23年法律第25号。以下「金商法」という。)の平成23年改正及びこれを受けた内閣府令の改正(平成24年4月1日施行)において、適格機関投資家等特例業務届出業者が当局に提出する届出書の記載事項を拡充し(適格機関投資家の名称等)、届出書に当該業者の本人確認資料を添付することを義務付けた。また、同法令改正を踏まえた監督指針の改正(平成24年2月15日公表)では、当局が届出書の記載事項や必要な添付書類をチェックする際の留意事項の追加、投資者保護上問題のある行為が認められた場合の警告書の発出、問題業者リストの作成・公表等も盛り込まれている。これらの施策は平成24年2月15日付で公表された「適格機関投資家等特例業務に対する対応を強化!違法なファンド業者にご注意ください!」との注意喚起等からも窺い知ることができる。

しかしながら、国民生活センターの報告書によれば、これらの対策が実施されてからも、被害が解消されたと言える状況にないことは明らかである。また、証券取引等監視委員会において、適格機関投資家等特例業務届出者に関し、金商法第192条第1項に基づく裁判所への緊急差止命令に係る申立てや、検査の結果法令違反が認められたとする金融庁長官への情報提供 を行う事例や、財務局においても検査の結果法令違反が認められたとして検査結果の通知を行う事例が多く見受けられる。

このような事態を受け、関係機関において投資家保護をめぐる制度の在り方が真摯に検討されてきているところと承知しており、そこでの検討結果が大いに期待されるところであるが、当委員会としても、これまでの検討を踏まえて本提言を行うことによって、より良い市場の形成への参考に供することとした。なお、つい先頃(平成26年4月18日)、当委員会と問題意識を共有しているとみられる証券取引等監視委員会から、「ファンドに係る投資者保護の一層の徹底を図る観点から、適格機関投資家等特例業務に関する特例について、出資者に係る要件を厳格化する等、一般投資家の被害の発生等を防止するための適切な措置を講ずる必要がある。」旨の建議が表明されたが、当委員会としては、具体的な方策を示す本提言が同建議と一体となって、制度の在り方の検討に資することを期待するものである。

2 適格機関投資家等特例業務の導入の経緯

(1)プロ向けファンドの趣旨

そもそも、適格機関投資家等特例業務は、金融審議会金融分科会第一部会報告「投資サービス法(仮称)に向けて」(平成17年12月22日)(以下「金融審報告」という。)を受けて創設されたものであり、そこでの基本的な趣旨が尊重されるべきことは言うまでもない。

金融審報告は、集団投資スキーム(ファンド)について、「最近も、多数の一般投資家を対象とした匿名組合形式の事業型ファンドに関する被害事例が報じられていることなどを考慮すると、投資サービス法の主要な目的の一つである利用者保護ルールの徹底を図る観点から、ファンドについては、実効性ある包括的・横断的規制の整備が必要と考えられる。」と指摘する一方、「特定投資家(プロ)向けファンドに対する規制のあり方」として、「もっぱら特定投資家のみを対象とするファンドについては、一般投資家を念頭においた規制を相当程度簡素化し、金融イノベーションを阻害するような過剰な規制とならないよう、十分な配慮が必要と考えられる。」としていた。

つまり、金融審報告は、特定投資家(プロ)と一般投資家(アマ)の区分を導入し、プロについては規制緩和を推進する一方で、アマについては適正な投資家保護を確保するという考え方を採用することによって、新たな洗練されたプロ向け市場を整備することを目指していた。そして、集団投資スキーム(ファンド)についても、もっぱら特定投資家(プロ)向けのファンドについて、規制を簡素化するとしていたのである。

(2)プロとアマの区分

金融審報告は、特定投資家(プロ)と一般投資家(アマ)の区分については、次の4類型が考えられるとしており、その際、マル1の類型については「適格機関投資家」の概念を基礎とすることが適当としていた。

  • マル1 一般投資家に移行できない特定投資家
  • マル2 一般投資家に移行できる特定投資家
  • マル3 特定投資家に移行できる一般投資家
  • マル4 特定投資家に移行できない一般投資家

金融審報告に基づき、金商法が立案され制定されたが、同法においては、特定投資家に移行可能な一般投資家の要件は、「個人」と「法人」に分けて定められている。まず、「法人」については、特に要件を限定することなく、特定投資家に移行できることとされている(同法第34条の3第1項)。

他方、「個人」については、「富裕層個人」の類型と「ファンド関係者」の類型が規定されている。前者の要件は、同法第34条の4第1項第2号、金融商品取引業等に関する内閣府令第62条に定められている。その概要は、次のすべての要件を満たす個人とされている。

  • マル1 純資産額が3億円以上(同条第1号)
  • マル2 投資性のある金融資産の合計額が3億円以上(同条第2号)
  • マル3 当該業者との同種契約締結後1年の経過(同条第3号)

3 金商法における適格機関投資家等特例業務

(1)要件

以上のように、金融審報告では「もっぱら特定投資家のみを対象とするファンド」を対象として規制の簡素化の必要性を指摘していた。
しかし、金商法における適格機関投資家等特例業務は、一部、一般投資家に対する業務も含むものとなっている。

すなわち、同法第63条第1項は、「適格機関投資家等」について「適格機関投資家以外の者で政令で定めるもの(その数が政令で定める数以下の場合に限る。)及び適格機関投資家をいう。」と定義しているところ、「適格機関投資家以外の者で政令で定めるもの」については「適格機関投資家以外の者とする」(同法施行令第17条の12第1項)とし、「政令で定める数」については「49とする」(同条第2項)としている。

このように、49名以下であれば、「適格機関投資家以外の者」というほかに限定が施されていないので、結果として、適格機関投資家等特例業務の対象に高齢者を中心とする投資経験の乏しい一般投資家(アマ)も含まれ得ることとなっている。

また、適格機関投資家には投資事業有限責任組合が含まれるところ(金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令第10条第1項第18号)、この投資事業有限責任組合は形式要件を整えることで容易に登記することができる。

(2)適用される規制

適格機関投資家等特例業務を行う場合には、届出で足りることとなっており、第2種金融商品取引業の登録は不要である(金商法第63条第2項)。

そして、行為規制については、虚偽告知の禁止(同法第38条第1号)、損失補てん等の禁止(同法第39条)などの限定的な規制しか適用されない。

つまり、一般投資家(アマ)向けの投資勧誘において重要な、広告規制(同法第37条)、契約締結前書面交付義務(同法第37条の3)、契約締結時書面交付義務(同法第37条の4)、断定的判断の提供の禁止(同法第38条第2号)、適合性原則(同法第40条第1号)等の行為規制は適用されないのである。

詐欺的投資勧誘を展開している者には、このような適格機関投資家等特例業務を悪用している例が多いことに注意を払う必要がある。

4 提言

(1)適格機関投資家等特例業務における投資者の範囲の見直し

以上に述べてきたところからすれば、適格機関投資家等特例業務は、本来、プロ向けの制度である。そこで、制度の在り方として、プロ向けの仕組みという制度趣旨に則って整備されるべく諸要件等を見直すことが適当である。

その際、適格機関投資家等特例業務に相応しい「プロ」とは何かを検討する場合には、まずもって金融審報告の考え方が参考になろう。しかし、現行の金商法における特定投資家の要件等が、適格機関投資家等特例業務という特殊な業務類型の対象範囲として必ずしもそのまま当て嵌まらないと思われる問題もある。そこで、特定投資家の要件を参考にしつつ、実質的に適合的な要件を検討する必要があるように思われる。

  • マル1法人

「法人」については、金商法では特に要件が限定されておらず、いつでも特定投資家に移行できることとされている(金商法第34条の3第1項)。

しかしながら、法人と言っても実態は個人とあまり変わらない形態もあり、その規模において中小零細なものも多く、多種多様である。上記のとおり、適格機関投資家等特例業務においては、契約締結前交付書面の交付義務を初めとする投資家保護規定が限定的にしか適用されないことに鑑みれば、たとえ「法人」であっても自衛能力や耐性のある投資家と認めるに足りる要件を別途設定する必要があるのではないかと思われる。つまり、法人であればそれだけで洗練された「プロ」投資家であるとするのが適当とは考えられない。

この点については、金融庁において、法人による適格機関投資家等特例業務の活用実態を踏まえた適切な要件設定を検討されることを期待したい。

  • マル2個人

金商法において、特定投資家に移行できる「個人」としては、前述のとおり、富裕層個人の類型とファンド関係者の類型が規定されている。一定のファンド関係者の類型をここに含めることには異論はなく、ここで問題になるのはもっぱら前者の類型である。

現行法においてプロに転換できるアマの要件は、前記のとおり、金商法第34条の4第1項第2号、金融商品取引業等に関する内閣府令第62条に定められている。金商法においては、プロに転換できるのは契約の種類ごととされており、金融商品取引業等に関する内閣府令第62条第3号においては、プロに転換できる要件として「当該業者との同種契約締結後1年の経過」が定められている。これは例えば証券会社で証券取引を継続的に行っているような顧客には適当な要件である。ところが、適格機関投資等特例業務のような単発的な取引の場合には、このような要件を満たすことはごく例外的な場合ではないかと考えられる。

したがって、ここでも実質的に自衛能力や耐性のある洗練された投資家と言えるかどうかの観点から要件設定を検討することが適当と考えられるところ、消費者被害の現状からすれば、金融商品取引業等に関する内閣府令第62条の要件を参考に、少なくとも億単位の余剰資金をもって、投資性の金融取引を、年単位で継続的に行っている投資家という要件を満たすべきであろう。本来であれば、危険性を内包する自動車を運転するにあたって運転免許証が必要なように、極めてリスキーな市場に自己の資金を投資する個人には、それに相応しい金融知識とリスクに対する覚悟や耐性が認められる必要があり、そのために客観的指標が策定されるべきだからである。

以上の考え方に基づき、早期に制度が見直されるべきである。

(2)悪質業者の排除

さらに、制度見直しと併せ、悪質業者の積極的な排除を図り、市場の健全化を推し進めるべきである。

これまで金融庁は、問題がある業者に対して警告書を発出した上で「無登録で金融商品取引業を行っているとして警告書の発出を行った適格機関投資家等特例業務届出者」「虚偽の告知等を行っていたとして警告書の発出を行った適格機関投資家等特例業務届出者」「問題があると認められた届出業者リスト」等を公表して消費者に注意喚起を促すとともに、報告徴取命令(金商法第63条第7項)や必要な措置の命令(同条第5項)を実施してきており、証券取引等監視委員会においても、立入検査(同条第8項)や裁判所への緊急差止命令に係る申立て(同法第192条第1項)を実施してきており、この分野における悪質業者の排除に取り組んでいるが、こうした取組みを更に徹底すべきである。

なお、別の機会にも意見 として公表したように、当委員会としては、健全な金融市場の発展を期待するものではあるが、知識や経験・耐性のない個人消費者の生活資金や高齢者の老後資金が、安易に投資資金につぎこまれ、その生活が破壊されることのないように願うものであって、本提言は政府の規制緩和策の前提である顧客保護の理念と矛盾するものではないことを付言する。

以上


  • 1 平成23年4月以降、6件
  • 2 平成24年10月以降、14件
  • 3 平成24年12月以降、14件
  • 4 「商品先物取引における不招請勧誘禁止規制に関する意見」(平成25年11月12日)
      「クラウドファンディングに係る制度整備に関する意見」(平成26年2月25日)
    「商品先物取引法における不招請勧誘禁止規制の緩和策に対する意見」(平成26年4月8日)

提言の概要

  1. 適格機関投資家等特例業務(いわゆる「プロ向けファンド」業務)における投資者の範囲について、少なくとも億単位の余剰資金をもって、投資性の金融取引を、年単位で継続的に行っている投資家という要件を満たすこととするなどの見直し。
  2. 悪質業者の排除のための取組の徹底。

主な成果

【金融庁】
  • 適格機関投資家等特例業務について、投資者の保護を図るため、適格機関投資家等特例業務を行うものについて一定の欠格自由を定め、契約の概要及びリスクを説明するための書面の契約締結前の交付の義務付け等を行うとともに、業務改善命令等の監督上の処分を導入等のため、金融商品取引法を改正(2015年5月27日)。